2012年12月18日火曜日

“アル・ロー” ―全16場― 2


    ――――― 第 5 場 ――――― A

        カーテン前。
        仕事帰りの村人達、楽しそうに話しながら
        登場。

  村人1「ねぇ、知ってる?」
  村人2「何々?」
  村人1「村外れにテント張ってる芝居一座の中に、もの凄く上手
      い踊り子がいるんだってさ!」
  村人2「へぇ。」
  村人3「もう見に行って来たのか?」
  村人1「違うわよ!写真屋のおじさんと、牧師さんが話してるの
      を・・・」
  村人2「盗み聞きしたの?」
  村人1「い・・・いやね、違うわよ!小耳に挟んだだけよ!」
  村人3「そう言うのを“盗み聞き”って言うんだよ!」
  村人1「違うわよ!」
  村人2「まぁまぁ・・・どっちだっていいじゃない、そんなこと。」
  村人3「そうだな・・・」

        3人、笑う。

  村人2「でも、そんなに上手い踊り子さんなら、一度見に行き
      たいものね!」
  村人3「ああ、是非とも拝見したいもんだ。」
  村人1「当分いるらしいから、今度皆で行ってみましょうよ!」
  村人2「そうね!」
  村人3「ああ。」

        3人、話しながら去る。
        
      
    ――――― 第 5 場 ――――― B

        カーテン開く。
        舞台は村の写真屋の暗室。薄明かりの中、
        アルと写真屋の主人(トマス。)写真の
        現像をしている。 

  アル「(出来上がった写真を持って、テーブルの上へそれを置く
     。)親父、もう灯りを点けていいぞ・・・」
  トマス「へい。(灯りを点ける。)」

        舞台明るくなる。アル、写真を見詰めながら、
        椅子に腰を下ろす。
        トマス、後片付けをしている。

  トマス「旦那!上手く撮れてましたか?(片付けの手を止めず
      に、振り返ってアルを見る。)旦那が作業部屋を貸して
      くれと、駆け込んで来た時には驚きましたけどねぇ。」

        アル、写真に見入っていて、トマスの
        話しは耳に入っていないよう。
        トマス、そんなことはお構いなしに、アル
        の来店に興奮気味に話し続ける。

  トマス「旦那、見てますよ!何てったっけなぁ・・・あの雑誌・・・
      あの毎月出てる奴・・・。まぁ、いいや、あれの旦那の毎
      月の写真!あれが俺は好きでねぇ・・・。旦那の個展な
      んてのは、一度も見に行ったことはないが、あの写真を
      見てると、さぞかしその個展とやらは、素晴らしいんだろ
      うなと、いつも思いを馳せてるんですぜ。いやぁ全く、素
      晴らしい写真を撮りなさる!その大先生に、俺ン家の暗
      室を使ってもらえたとなりゃ、もう・・・。ここには何ですか
      い?写真を撮りに来られたんですかい?(手を止めて、
      アルの方を振り返り、アルの放心した様子に気付き、見
      ている写真を覗き込む。)旦那・・・?こりゃあ・・・(何か
      気付いたように。)旦那はこの娘とお知り合いなんです
      か?」
  アル「(驚いたように。)おまえは知っているのか!?」
  トマス「ええ、まぁ・・・」
  アル「(思わず立ち上がって、トマスに詰め寄る。)どこの娘だ
     !!この村に住んでいるのか!?」
  トマス「いや・・・今、丁度、村外れに芝居一座が来ていまして
      ね・・・その一座の中に・・・確か名前は・・・そうだ・・・!
      リリ!リリってんですぜ、旦那!」
  アル「リリ・・・」
  トマス「でもハッキリとは・・・確かに似てはいますけどね。その
      リリって娘は、この写真に写っているような、生き生き
      とした明るい笑顔なんか、ひとっつも見せやせんぜ・・・
      いつも他の連中の、世話係みたいなのをやってますわ
      ・・・」
  アル「・・・芝居一座の・・・」

        暗転。

      ――――― 第 6 場 ――――― A

        激しい音楽流れ、舞台明るくなる。と、
        芝居一座の舞台。
        中央に作られた粗末な舞台の上に、
        マハルがポーズを取る。
        回りには蓙をひいた上に座り込んだ
        客達(村人)。
        曲に合わせ、マハルの踊りが始まると、
        客達、手拍子や掛け声をかけ、場内は
        熱気に満ちる。
        マハルの踊りに続いて、レニエの歌、
        群舞へと続く。
        途中、トマスに連れられてアル、入って
        来る。気付いた案内係、2人を空いている
        蓙へ案内する。
        (トマス、煌びやかな舞台に夢中になって
        いる風。)
        アル、舞台にチラッと目をやるが、直ぐに
        回りを見回し、リリを捜すように。
        その時、客に飲み物を運んで来たリリが
        現れる。アル、リリを認め、急ぎ近寄る。
        (他の者は舞台に見入っている。)

  アル「(リリの腕を掴み。)君・・・!」
  リリ「(驚いて。)離して!!」

        音楽、一層激しく。
        リリ、アルの手を振り解こうとする。
        アル、リリの腕を必死で掴む。
        そんな2人を残してカーテン閉まる。

      ――――― 第 6 場 ――――― B

  リリ「離して!!離してったら!!」
  アル「分かった!!離すから逃げないでくれ!!頼む!!そん
     なに興奮しないでくれ!!」

        アル、そっとリリの腕を離す。リリ、
        走り去ろうとする。

  アル「リリ、待ってくれ!!」

        リリ、その声に立ち止まり、ゆっくり
        振り返る。

  アル「(リリを見詰め、ゆっくり近寄る。)森の中で会ったね・・・。
     どうしてそんなに怯えたような目をしているんだい?俺は
     何もしやしない・・・。あの時の君の瞳は、キラキラと輝き
     溢れていたよ・・・。」

        (リリ、アルが近寄る度、後退りする。)

  アル「もう一度、俺は君のあの時の笑顔が見たい・・・是非、写
     真に撮りたいんだ・・・。」

        その時、リリの背後からロバン出る。

  ロバン「(リリを認め、激しい口調で。)何してるんだ、リリ!!
      客達は帰ったぞ!!早く片付けをしないか!!」

        リリ、その口調に怯えたように走り去ろ
        うとする。アル、その様子に慌てて声を
        上げる。

  アル「待ってくれ!!」

        リリ、その声に立ち止まる。
        ロバン、その時初めてリリの向こうに
        アルのいることに気付き、怪訝そうな
        面持ちをする。

  ロバン「何だ、おまえは?(アルに近寄りながら。)」
  アル「あなたはリリの・・・いや、この一座の親方ですか?」
  ロバン「いかにも・・・(マジマジとアルの顔を見る。)こいつに何
      か用でも・・・?」
  アル「私は写真家です。是非、リリの・・・いや、この一座の写真
     を撮らせて下さい!!お願いします!!」
  ロバン「そりゃ無理な願いだ。俺は写真なんてもんは気に食わ
      ねぇ。どっか他所を当たってくれ。(リリの方を振り返って
      。)さっさと行け、リリ!!」
  
        
        リリ、走り去る。

  アル「リリ・・・!(ロバンに向いて。)お願いです!!親方!!
     お礼はちゃんとお払いします!!」

        舞台を終えたマハル達、聞いていた
        ように出る。

  マハル「いいじゃない、写真くらい!」
  ロバン「マハル・・・」

        マハル、アルに近寄り物珍しそうに
        マジマジ見詰める。

  マハル「だって写真を撮られてると思うと、張り合いが出るじゃ
       ない!それに身形もいいし・・・悪い人には見えないわ
       。」
  ロバン「仕方ねぇな・・・マハルがそう言うんじゃあ・・・。(アルに
      。)おい、あんた!」
  アル「アル・ローです。」
  ロバン「アルさんよ、ちゃんと撮影料は頂くからな。」
  アル「勿論!」
  ロバン「それと、商売の邪魔になるようなことだけはしねぇでく
      れ。」
  アル「では、いいんですね?」
  ロバン「ああ。」
  アル「ありがとうございます!」

        ロバン、出て行く。
        芝居一座のメンバー達、アルの側へ。
        マハル、興味深そうにアルを眺める。

  マハル「私はマハル・・・この一座のスターよ!」
  レニエ「俺はレニエ!(アルに手を出す。)」
  アル「よろしく・・・(レニエの手を握る。)」

        ルダリ以外の者達、順番にアルに近寄り
        挨拶を交わす。アル、嬉しそうにそれに
        応える。
        全員が終わったところで、ルダリがまだ
        なことに気付いたガロ、ルダリの背中を
        突いて促す。

  ルダリ「俺は・・・俺は写真なんてものは嫌いだ!それに・・・そ
      いつも気に食わねぇ!!」

        ルダリ、走り去る。
        他の者、呆然と見詰める。

  ガロ「どうしたんだ、あいつ?あ・・・今のはルダリ。いつもは、あ
     んなんじゃないんだけど・・・」
  マハル「ごめんなさい!後でキツく言っとくから!」
  アル「いや、構わないさ。」
  マハル「・・・でも、あんた・・・どうしてそんなに写真が撮りたい
       の?」
  アル「あ・・・俺は写真家なんだが・・・訳あって自分の作品に
     自信が持てなくなってね・・・。それでもっと本物の写真が
     撮りたいと思って、ここにやって来たんだ・・・。そこで君達
     一座に出会ったと言う訳さ・・・。君達の自然な有るがまま
     の姿を撮りたいんだ・・・」
  ルイーゼ「ふうん・・・プロのカメラマンなんだ、あんた。」
  アル「ああ・・・。ところであのリリって娘・・・彼女はどうして舞台
     に出ないんだ?」
  マハル「(笑う。)あの子が踊れる訳ないじゃない!」
  アル「え・・・?」
  サミー「そうさ、あんな何も出来ない奴に、舞台が勤まる訳ない
      ぜ。」
  エヴァ「あの子が踊れるなら、リーだって踊れるわ!(笑う。)」
  リー「煩いな!」
  エレーナ「本当ね!(笑う。)」
  マックス「でもリーは、まだ楽器が出来る分、あいつよりはまし
       だぜ!」
  リー「皆で馬鹿にするなよ!」
  アル「(皆の会話を遮るように、口を挟む。)だが俺は見たんだ
     !彼女が素晴らしい踊りを踊るのを・・・」
  エレーナ「何かの見間違いでしょう?」
  アル「いや、そんな筈はない。」
  レニエ「だけど、あいつが踊れるなんて話し、聞いたことがない
      ぜ。」
  エヴァ「ガロ、聞いたことある?あんた、あの子が来た時、いた
      んでしょ?」
  ガロ「いや・・・ある日、ロバンさんがあいつを連れて来て、今日
     から雑用係にでも使えって言ったんだ。どっから来たとも
     何で来たとも言ってなかったぜ。ただ・・・怯えたような目
     で・・・俺を見てたんだ・・・」
  ルイーゼ「そう言えば私達、あの子のことなんて、何も知らない
        ものね。」
  マハル「(溜め息を吐いて。)どうでもいいじゃない、リリのこと
       なんて!(アルに好奇の眼差しを向けて。)私、あんた
       のことが気に入ったわ!」
  サミー「ルダリの奴が聞いたら怒り狂うぜ!(笑う。)」
  ガロ「何で?」
  エレーナ「ガロだけよ、そんなこと言ってるの!」
  エヴァ「有名よ!ルダリのマハル病は!」
  マハル「失礼ね、人を病原菌みたいに!」
  レニエ「(ガロの肩に手を置いて。)おまえは人は良くて、言う
      ことないんだが・・・そう言う話しに関しちゃ・・・丸っきり
      だな。(笑う。)」

        皆、談笑しながら退場する。
        アル一人、ゆっくりと後に続く。
        音楽で暗転。(カーテン開く。)

     






     ――――― “アル・ロー”3へつづく ―――――







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