2013年4月30日火曜日

“イルカのキューイ” ―全7場―

  〈 主な登場人物 〉

   キューイ   ・・・   海の国に住むイルカ。アリアの友達。

   アリア   ・・・   海の国のお姫様。

   ルディ   ・・・   人間の島に住む少年。アリアの友達。

   村長   ・・・   人間の島の村長。

   海の国の王様。

   ウオレット   ・・・   アリアの爺や。

   ドーン   ・・・   海の国に住む魔法使いの老婆。

   島の婆さん   ・・・   島に住む老婆。

   ラダン   ・・・   島の住人。


   その他。



 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪


         音楽流れ、幕が開く。

    ――――― 第 1 場 ―――――

         舞台は海の中。
         海の国のお姫様(アリア)髪をとかして
         出掛ける準備をしている。
         アリア、歌う。

         “さぁ 髪をとかしましょ
         さぁ 何着ましょ
         今日も行くわ海の外
         これまで遠慮がちに
         コソッと覗いた世界だけれど
         今は違うわ友達がいる
         お父様の許可もおりた
         温かく迎え入れてくれるわ
         今まで知り得なかった場所”

  アリア「さぁ、仕度が出来た!早くルディのところへ行きましょう
      !今日は年に一度の収穫祭だって言ってたわ。楽しみね
      ぇ・・・人間の人達のお祭りって、どんなのかしら!初めて
      よ、私!」

         そこへ上手よりイルカのキューイ、登場。

  キューイ「アリア!キューイ・・・」
  アリア「キューイ!私どう?」
  キューイ「え・・・?」
  アリア「可愛く見える?」
  キューイ「うん・・・どうして?キューイ・・・」
  アリア「私、今日初めて人間のお祭りに行くの!」
  キューイ「人間の・・・?キューイ・・・」
  アリア「そうよ!ルディが誘ってくれたの!」
  キューイ「・・・ルディが・・・?」
  アリア「ああ、楽しみだわ!そうだキューイ、私に何か用事?」
  キューイ「え・・・?あ・・・ううん・・・別に・・・キューイ・・・」
  アリア「そう?じゃあ私、行くわね!!」

         アリア、上手へ走り去る。

  キューイ「アリア・・・!僕・・・アリアと遊ぼうと・・・キューイ・・・」
  
         キューイ、歌う。

         “僕は海に住むもの・・・
         陸には上がれない・・・キューイ・・・
         青い空 心地良い風
         温かい砂地の感触
         そんなものとは無縁の生き物・・・
         僕はずっとこの場所で
         友達が帰るのをただ待つよ・・・
         僕には海から出る術がない
         だから君の背中を見送り続けるよ・・・
         僕のところへ戻るまで・・・キューイ・・・”

         その時、ウオレットの声が聞こえる。

  ウオレットの声「姫様ー!!姫様ー!!」

         そこへ下手より、ウオレット登場。

  ウオレット「姫様ー!!(キューイを認める。)あ、キューイ!姫
        様を見なかったか?」
  キューイ「ウオレットさん・・・アリアなら、今ルディのところへ行っ
       たよ・・・キューイ・・・」
  ウオレット「何?また姫様は人間の島へ遊びに行かれたのか?
        」
  キューイ「うん・・・キューイ・・・」
  ウオレット「全く・・・最近の姫様ときたら、いくら王様が人間と付
        き合うことを許されたからと言って、毎日毎日、朝から
        晩まで・・・」

         ウオレット、歌う。

         “生まれてから今日まで
         ずっとお側に仕えてきたが・・・”

      魚達(コーラス)“いたずら姫様
                おてんば姫様”

         “だが近頃 目に余る
         その行動の数々・・・”

      魚達(コーラス)“いたずら姫様
                おてんば姫様”

         “はてさて困った
         その内エライことにならぬがいいが・・・”

  ウオレット「はぁ・・・」
  
         ウオレット、下手方へ行きかける。

  キューイ「ウオレットさん!!キューイ・・・」
  ウオレット「どうした、キューイ?」
  キューイ「あの・・・ずっと前・・・海流の先の洞窟に・・・魔法使い
        のお婆さん魚が住んでるって、言ってなかった・・・?
        キューイ・・・」
  ウオレット「魔法使い・・・おお・・・ドーン婆さんのことか・・・?」
  キューイ「・・・ドーン婆さん・・・?」
  ウオレット「今はその洞窟で、占いをして暮らしておるようじゃが
        ・・・」
  キューイ「占い・・・」
  ウオレット「そうじゃ。だが、あの婆さんには近寄らん方がいいぞ
        。」
  キューイ「・・・何故・・・?キューイ・・・」
  ウオレット「あの婆さんは昔、ゴーザと共に悪いことをして、王様
        にこの海の城を追い出された、年寄り魚じゃ・・・。その
        占いにしても、あまりいい評判は聞かんからな・・・。な
        んでも願いを叶えてやるとかなんとか言って、海の魚
        を集めては何やら良からぬことを、企んでおるようじゃ
        ・・・」     
  キューイ「そうなんだ・・・ありがとう、ウオレットさん!!キューイ
        !!」

         キューイ、上手へ去る。

  ウオレット「あ・・・これ、キューイ!!急にどうしたんじゃ・・・ドー
        ンのことを聞いてくるなんて・・・。」

         紗幕、閉まる。

    ――――― 第 2 場 ――――― A

         紗幕前。
         音楽流れ、上手より島に住む人間の
         少年(ルディ)、下手よりアリア登場。

  アリア「ルディー!!」
  ルディ「あ、アリア!!早く!!早く!!祭が始まっちゃうよ!!
      」
  アリア「ええ!!」

         アリア、ルディ歌う。

         “今日は年に一度のお祭りだ
         誰もが楽しみ待ちに待った日だ
         さぁ出かけよう皆で手をつなぎ
         足踏み鳴らして踊り明かそう
         祭の日は長いんだ
         だから存分に楽しむんだ
         今日だけは!!”

  ルディ「さぁ、行こう!!」
  アリア「うん!!」

         ルディ、アリア、手をつないで上手へ
         走り去る。

    ――――― 第 2 場 ――――― B

         紗幕開く。と、島の祭会場。
         村人達、楽し気に歌い踊る。

     村人達“祭だ祭だ楽しもう!!
          誰でもおいで今日だけは!!
          仕事も休みだ楽しもう!!
          年に一度の楽しい日!!”

         そこへ上手よりルディ、アリア、嬉しそうに
         走り登場。

  アリア「わぁーっ!!皆、楽しそう!!」
  ルディ「うん!!」

         2人、手拍子して皆の様子を楽しそうに
         見ている。
         その時、踊りの輪から外れたルディの姉
         (ラナ)、村長、2人の側へ。

  ラナ「ルディ!」
  ルディ「姉さん!」
  アリア「こんにちは!」
  ラナ「アリア!いらっしゃい!」
  村長「おお、アリア。よく来たな。」
  アリア「村長さん!」
  村長「さぁ、今日は年に一度の祭だ。こうやって皆、一日中浮か
     れ、騒いで過ごすんじゃよ。アリアもたっぷり楽しんでおい
     で。」
  アリア「ありがとうございます、村長さん!」
  ラナ「ルディ!今日はちゃんと水筒を持って来たでしょうね?」
  ルディ「姉さん、勿論だよ!」
  ラナ「前のように、アリアの体に蓄えてある水が、なくなると大変
     よ。」
  ルディ「分かってるさ!」
  アリア「ルディ・・・」
  ルディ「さぁ、アリア!!踊ろう!!」
  アリア「ええ!!」

         ルディ、アリアの手を取り、踊りの輪に
         加わる。
         その時、上手より村人(ラダン)、慌てた
         様子で走り登場。

  ラダン「村長ー!!村長ー!!あ・・・村長!!」
  村長「ラダン、どうした?」
  ラダン「大変なんだ・・・!!」
  村長「大変・・・?」
  ラナ「ラダン、どうしたの?そんなに慌てて・・・」
  ラダン「あ・・・ラナ・・・いや・・・何・・・皆には関係ないことなんだ
      。すまない、驚かせて・・・」
  ラナ「そう・・・」
  ラダン「ああ・・・(作り笑いする。村長をチラッと見て。)村長・・・」
  村長「さぁ、ラナも楽しんで来なさい。」
  ラナ「はい、村長さん!」

         ラナ、踊りの輪に入る。
         ラダン、一寸下手端に寄る。村長、ラダンに
         続いて端へ寄る。
         (踊りの音楽小さくなる。人々、変わらず
         楽しそうに踊っている。)

  村長「どうしたんだ・・・ラダン・・・?」
  ラダン「村長・・・それが海が荒れて・・・嵐が来そうなんだ・・・」
  村長「嵐・・・?島の婆さんの話しじゃ、ここ暫くは天気の崩れは
     なく、穏やかな日々が続くと言っていたが・・・?」
  ラダン「そうなんだが・・・実は・・・」
  村長「どうした・・・?」
  ラダン「南の丘の祠の鎖が・・・」
  村長「鎖がどうしたんだ・・・!?」
  ラダン「・・・誰かに切られた・・・」
  村長「何だと!?あの海からの悪者を寄せ付けない為に、島の
     婆さんが島に張った結界の鎖がか・・・!?」
  ラダン「(頷く。)」
  村長「何てことだ・・・。まぁ・・・今は海の国の者と我々人間は、
     また昔のように仲良く共存するようになったのだから・・・海
     からの悪者と言っても、そんな者はおらんとは思うが・・・」
  ラダン「けど・・・ゴーザのこともあったし・・・」
  村長「そうだな・・・まぁ少しの間、用心して海に見張りの者を立
     ててくれ。(舞台の方を見て。)今日のところは年に一度の
     祭で、島民達も浮かれておる・・・。そっとして、存分に楽し
     ませてやることにしよう。」
  ラダン「はい・・・」

         村長、ラダン、下手へ去る。
         入れ代わるように一人の少年(キューイ)、
         楽しそうな人々の様子を見ながら、ゆっくり
         登場。
         アリア残して、いつの間にか踊っていた
         人々、上手下手へ其々去る。
         キューイ、アリアを見詰める。
         アリア、自分を見詰めるキューイに気付き、
         近寄る。

  アリア「こんにちは・・・私はアリア!あなた・・・誰?この島の人
      ・・・?どこかで・・・会った?」
  キューイ「う・・・うん・・・ね・・・ねぇ、アリア・・・!僕・・・キ・・・」
  アリア「・・・何?」

         その時、下手よりルディの声が聞こえる。

  ルディの声「アリアー!!」

  アリア「ルディ・・・?」

         そこへ下手よりルディ、走り登場。
         (ルディの登場と共に、キューイ消える
         ように去る。)

  ルディ「アリアー!どうしたんだい?」
  アリア「あ、ルディ!この子、島の・・・(振り返る。)」
  ルディ「この子・・・?」
  アリア「・・・あら・・・今、ここに男の子が・・・変ね・・・」
  ルディ「男の子って・・・」
  アリア「今までここにいたのよ!この島で見かけたことがない子
      だったわ・・・」
  ルディ「ふうん・・・誰だろう・・・。それよりアリア!向こうで食事が
      始まるよ!」
  アリア「本当?」
  ルディ「うん!」
  アリア「私、人間の食べ物って、どんなのか凄く興味があったの
      !(笑う。)」
  ルディ「早く行こう!」
  アリア「ええ!」

         アリア、ルディ下手へ走り去る。
         入れ代わるように上手よりキューイ、
         下手方を見詰めながら、ゆっくり登場。

  キューイ「アリア・・・」

         音楽流れ、キューイ歌う。(紗幕閉まる。)

         “僕は・・・海に住む者・・・
         陸には上がれない・・・
         だけど・・・どうしても僕は・・・
         君の側へ来たかったんだ・・・
         だから・・・”

  キューイ「アリア・・・キューイ・・・」

         暗転。

    ――――― 第 3 場 ―――――

         紗幕開く。と、海の中。
         (魔法使い“ドーン”の住む洞窟。)
         音楽流れ、ドーン歌う。

         “ああ何故こんな場所にいる
         ああ何故私は動けない
         誰も悪くはない筈さ
         本能のまま行動しただけ
         誰も私を責められはしない
         なのにあいつは偉そうに
         私の自由を奪いやがった
         そんな馬鹿な話しはないさ
         いつか必ず仕返ししてやる
         この手でおまえの
         息の根止めてやる!!”

  ドーン「ああ、本当に忌々しい・・・!!海の王め・・・ゴーザと一
      緒に私まで海の城を追放するなんて!!おまけにこんな
      洞穴から出るなだなんて!!一体私が何をしたって言う
      んだ!!本当に・・・」

         そこへ一匹の召使クラゲ、上手より
         登場。

  クラゲ「ドーン様・・・」
  ドーン「なんだ?」
  クラゲ「お客様です。」
  ドーン「客?魚か?」
  クラゲ「いえ・・・イルカです。」
  ドーン「イルカ・・・?イルカとはまた珍しい・・・。まぁいい、呼んで
      来い・・・。」
  クラゲ「はい。」

         召使クラゲ、一旦上手へ去る。

  ドーン「(大きな団扇を取り出し。)いよいよ、この魚のヒレをもぎ
      取って作ったヒレ団扇も、今来たイルカの一ヒレを貼り付
      ければ、いよいよ完成だ。(笑う。)このヒレ団扇が出来上
      がれば、大風を起こし海を嵐とし、海の世界を海の城共
      々目茶苦茶に壊してやる!!(笑う。)」











    ――――― “イルカのキューイ”2へつづく ―――――








2013年4月29日月曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 完結編

   ――――― 第 8 場 ――――― A

         (カーテン前。)

  モア「・・・いやだ・・・」
  ザック「モア・・・?」
  モア「いやだ・・・いやだ、あたい・・・兄ちゃんがいなくなるのは
     いやだ!!」
  ザック「モア・・・」
  モア「(泣き声で。)いやだ!!いやだ・・・いやだ・・・(耳を塞い
     で、大きく首を振る。)」
  ザック「俺だって、せっかく増えた家族と離れ離れになるのは淋
      しいさ・・・」
  モア「だったら・・・!!」
  ザック「だけど人は自分の感情は二の次に、やらなければいけ
      ない事柄にぶち当たった時・・・思いと反する行いでも、そ
      れが正しい道だと気付いたなら、それを遂行しなければ
      ならない義務が発生するんだ。」
  モア「・・・よく分からないよ・・・」
  ザック「なぁ、モア・・・俺はおまえに出会って、色んなことを学ん
      だんだ・・・。今まで少しの疑問も持たずに来た・・・と言え
      ば嘘になるかも知れない・・・。けど、そんな感情に知らず
      知らずのうちに蓋をし・・・見て見ぬ振りしてきた自分の過
      ちに、おまえは気付かせてくれたんだよ・・・。」
  モア「じゃあ・・・あたいがいた方がいいってことでしょ!?だった
     らあたいも一緒に行く!!兄ちゃんと一緒に・・・!!そこで
     兄ちゃんの手伝いしながら勉強する・・・だから!!」
  ザック「モア・・・」
  モア「祖母ちゃんは兄ちゃん家の側に置いてもらえるなら、心配
     ないだろ?だから、あたい・・・!!」
  ザック「モア!おまえはここでちゃんとした暮らしをして、皆と同
      じように正しい教育を受けるんだ。」
  モア「なんで・・・なんであたいは兄ちゃんと一緒に行っちゃ駄目
     なんだよ!!あたいだって、誰かの為になることをする!!
     兄ちゃんと一緒に、貧しい人の為に一杯働くよ!!だから
     ・・・!!」
  ザック「モア・・・よく聞くんだ・・・。おまえはまだ子どもだ・・・。自
      分の為の勉強をしなければいけないんだよ・・・。そうして
      得た沢山の知識を、大人になった時に初めて、人々の役
      に立つように使うことができるんだ・・・。今のまだ・・・幼い
      おまえじゃ・・・人々の役に立つ行いだと理解する前に、そ
      れが正しいのかどうか、まず考えなければいけないだろう
      ・・・。」
  モア「・・・それじゃ駄目なの・・・?」
  ザック「そうだよモア・・・。だからおまえは学校へ行って、勉強す
      るんだ。善悪の判断を自分自身でつけることが出来る大
      人になる為に・・・」
  モア「兄ちゃん・・・」
  ザック「そんな顔するな。(微笑む。)次に会う時は・・・うんと素敵
      なレディになってろよ・・・楽しみにしてるから・・・」
  モア「・・・分かった・・・あたい・・・沢山勉強する・・・。次に兄ちゃ
     んに会った時に・・・兄ちゃんが驚いて腰抜かすくらい・・・素
     敵な女の子に・・・(泣く。)」
  ザック「モア・・・おまえに出会うことが出来て本当によかったよ
      ・・・おまえのお陰で・・・俺が本当にやらなければならない
      事柄が何なのか・・・やっと分かったんだ・・・。ありがとう、
      モア・・・俺の前に現れてくれて・・・」
  モア「兄ちゃん・・・」

         音楽流れ、カーテン開く。

    ――――― 第 8 場 ――――― B

         舞台は陽の差し込む丘の上。
         ザック、歌う。

         “陽が昇る・・・
         今この時・・・
         これまで目を逸らして
         見ようとしなかった真実の道・・・
         導いた小さなレディは
         偶然に・・・
         僕の前へと舞い降りた
         丸で神から遣わされた
         天使のように・・・
         明るい微笑み湛えたレディ・・・
         Thank you・・・  Thank you・・・
         リトルレディ・・・
         出会えた喜びに思い溢れる
         ありがとう・・・”

         モア、歌う。

         “陽が昇る・・・
         今この時・・・
         ただ必死に生きてきた・・・
         見付けてくれた温かい思い・・・
         私の手をひき
         受け入れてくれた・・・
         初めて感じたこんな思い・・・
         見付けてくれて
         ありがとう・・・”

  ザック「次に会う時は・・・本物のレディになってるんだぞ・・・。じ
      ゃあな!(モアの頭に手を置き、上手後方へ去る。)」
  モア「・・・兄ちゃん・・・兄ちゃーん!!ありがとーっ!!きっと
     あたい・・・兄ちゃんとの約束、守るからねーっ!!」

         音楽盛り上がる。



              
     
            ――――― 幕 ―――――







2013年4月27日土曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 4

    ザック「・・・そんな・・・」
  祖母「先生・・・私の治療費は・・・少しだけ待って下さいましね
     ・・・。この助けて頂いた命で、これからは私も働きに行くこ
     とにしますから・・・」
  ザック「・・・治療費のことなんて気にしないで下さい。僕は何も
      金目当てで、あなたを助けようとしたのではないのですか
      ら・・・」
  祖母「でも先生・・・」
  ザック「だからお金の心配などせずに、あなたはモアの為に1日
      も早く元気になって下さい。」
  祖母「・・・先生・・・」
  ザック「さぁ、もう休んだ方がいい・・・(祖母に布団を掛ける。)」
  祖母「・・・ありがとうございます・・・ありがとう・・・(涙声で。)」
  ザック「(首を振る。)」

         ザック、前方へ。
         音楽流れ、ザック、スポットに浮かび上がる。
         (カーテン閉まる。)

    ――――― 第 6 場 ――――― B

  ザック「そうか・・・そうだ・・・そうだ!!俺の目指す道はこれだ!
      !」

         ザック、歌う。

         “分かった自分の進む道
         今までずっと迷い進めなかった道
         やっと見つけた本当の
         僕が歩むべき進路・・・
         進む先に何があるのか
         誰も分かりはしないけれど
         自分で信じた道ならば
         きっと後悔しない筈・・・”

         その時、上手スポット、マービン登場。

  マービン「どうした、ザック、こんなとこに呼び出して・・・」
  ザック「(振り返り、マービンを認める。)マービン・・・悪い・・・」
  マービン「なんだよ・・・」
  ザック「おまえとはずっと一緒だったな、学生の頃から・・・」
  マービン「なんだ、思い出話しでもするつもりか?午前中の診察
        が長引いて、昼食まだなんだ。思い出話しなら、また今
        度ゆっくり・・・」
  ザック「マービン・・・俺はここを辞める。」
  マービン「辞める・・・?辞めるってどう言うことだよ・・・」
  ザック「俺の求める医療の在り方が、やっと分かったんだ。」
  マービン「求める医療・・・?なんだそれ・・・」
  ザック「ここにいたんじゃ、いつまでたっても俺はそこへは到達し
      ない・・・それに気付いたんだ・・・。」
  マービン「何、冗談言って・・・」
  ザック「(首を振る。)本気だ。」
  マービン「辞めるっておまえ・・・辞めて何するつもりなんだよ!!
        ここはどうなるんだ!!」
  ザック「おまえにその話しをしたかったんだ・・・」
  マービン「ザック・・・?」
  ザック「この病院は・・・おまえが跡を継いでくれないか・・・」
  マービン「え・・・?」
  ザック「・・・姉さんと結婚して、独立するつもりだったおまえには
      悪いと思うが・・・この病院を任せられるのは、おまえしか
      いないんだ・・・。この俺が・・・生涯のライバルと認めたお
      まえしか・・・」
  マービン「ザック・・・」

         ザック、歌う。

         “今まで気付かずに
         長い時を過ごして来た
         心の迷いと閉じたままの扉が
         それでいいと納得させた・・・
         けど重い扉を開け
         気付いた真実の一歩を
         今踏み出す・・・”

         マービン、歌う。

         “おまえの気持ちが分からない
         一体何が言いたいのか
         今のままでどこがいけないのか
         ここまで2人切磋琢磨して
         歩いて来た・・・
         これからだって高めあって
         進んで行けると信じてた・・・”

  マービン「なのに何故・・・」

         その時、上手よりアナベラ登場。

  アナベラ「好きにさせてあげましょうよ・・・」
  マービン「(振り返り、アナベラを認める。)アナベラ・・・」
  ザック「姉さん・・・」
  アナベラ「この子は昔から、一旦言い出すとそれを曲げることは
        ないのよ。(笑う。)それに私達が変だと感じることでも
        ・・・ザックにはザックなりの考える道があってのことだ
        と思う・・・きっと病院を辞めることも・・・ね?そうでしょ
        ?」
  ザック「・・・姉さん・・・」
  アナベラ「きっとあなたのことだから、モアを見て何か思うことが
        あったのね・・・。だってあの子が来てからのあなた・・・
        とても生き生きして、人が変わったようだったもの。」
  マービン「アナベラ・・・」
  アナベラ「行きなさい・・・あなたが信じた道を・・・。この病院のこ
        とは、マービンと私に任せて・・・」
  ザック「(嬉しそうに。)はい・・・姉さん!」

         ザック、上手へ走り去る。

  マービン「おい、ザック・・・!」
  アナベラ「いいじゃない、マービン。」
  マービン「けど・・・」
  アナベラ「あの子はこんなところでジッとしているような子じゃな
        いわ・・・。きっとあなたはいい顔しないでしょうけど・・・
        慈善事業・・・なんてことに自分の腕を捧げるつもりな
        のよ・・・。」
  マービン「・・・慈善・・・事業・・・」
  アナベラ「ね?そんなことに興味のあるあの子に、この病院を任
        せたらどうなると思う?利益よりも感情優先で、きっと
        経営は傾いてしまうでしょうね。」
  マービン「おいおい・・・俺が丸で利益ばかりを追い求める、悪徳
        医師みたいな言い方だな。」
  アナベラ「あら、違うわ・・・あなたはとてもいいお医者様よ。腕も
        いいしね。少し打切棒なだけ・・・私は分かっているわ
        ・・・。情に厚いザックと、丁度2人でいいコンビだと思っ
        ていたけれど・・・。まぁ仕方ないわね・・・。」
  マービン「アナベラ・・・」
  アナベラ「さぁ、これからもっと、あなたは忙しくなるわよ。」
  マービン「やれやれ・・・」

         2人、下手へ去る。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         カーテン開く。と、ハミエル邸居間。
         中央ソファーに座り、エレナ、編み物に
         手を動かしている。
         その時、3時を示す時計の音。
         と同時に、下手よりマーベリック、
         ティーセットを乗せた盆を持ち、登場。

  マーベリック「奥様、お茶が入りました。」
  エレナ「まぁ、丁度だこと・・・。モアちゃんの支度は、済んだ頃か
      しら?」
  マーベリック「はい、間もなくだと・・・」
  エレナ「もう帰ってしまうのね・・・。淋しくなるわ。あの元気な笑
      い声が聞けなくなると思うと私・・・(涙を拭うように。)」
  マーベリック「奥様・・・」
  エレナ「また大人だけの味気ない我が家に戻るのね・・・」

         その時、上手よりメイド登場。

  メイド「奥様、モアさんの準備が整いました。」
  エレナ「あら、そう。」

         そこへ上手より美しく着飾ったモア登場。

  エレナ「まぁー・・・モアちゃん!!なんて可愛らしいのかしら!!
      丸でお人形さんみたいだわ!!(モアの側へ。)」
  モア「おばちゃん・・・あたい・・・」
  エレナ「アナベラのドレスを取って置いて、本当良かったわ。矢
      っ張り女の子ね。フリルがよく似合うこと・・・」
  モア「あたい・・・こんなワンピース・・・今まで一度だって着たこと
     ない・・・」  
  エレナ「勿体無い話しだわね、こんなに可愛らしい女の子が、今
      まで・・・生まれてから一度もドレスを着たことがなかった
      なんて・・・(モアのドレスを整えながら。)」

         その時、下手よりザック、幾分慌てた
         様子で登場。       

  ザック「母さん!」
  エレナ「まぁどうしたの、ザック・・・そんなに慌てて・・・」
  ザック「僕はここを・・・!(モアに気付き。)あ・・・すみません、お
      客様でしたか・・・」
  モア「お客なんかじゃないぜ、兄ちゃん。」
  ザック「え・・・?」
  モア「(振り返り。)あたいだよ!」
  ザック「モア・・・?モアじゃないか・・・!?どうしたんだよ、丸で
      いいとこの娘さん・・・あ・・・失礼・・・」
  モア「いいよ。あたいだって自分でビックリしてんだ!こんなに大
     変身・・・」
  エレナ「本当、可愛らしいでしょう。うちの子ならどんなにいいか
      ・・・。それなのにもう、あんな離れた淋しい場所へ、帰っ
      てしまうなんて・・・。私、悲しくなってしまう・・・。お祖母様
      が良くなられたのは、喜ばしいことだけれど・・・」
  モア「おばちゃん・・・」
  ザック「それならば母さん・・・愛着のある家へ戻ると言うモアを
      、彼女の思い出の詰まった家ごと、広く持て余し気味の、
      我が家の庭へ来て頂いたらどうです?」
  モア「・・・え?」
  エレナ「我が家のお庭へ・・・?」
  ザック「ええ。どうせ草木や花を植えるくらいしか、使い道はない
      のでしょう?」
  エレナ「・・・そうね・・・そうだわ、ザック。それはいい考えだわ!
      それなら会いたい時に直ぐに会えるし、庭師の仕事も楽
      になる・・・モアちゃんもお父様、お母様の思い出の沢山
      詰まった家と離れなくていい・・・お祖母様にも病院の直ぐ
      側で、ゆっくり過ごして頂けるものね。ね、モアちゃん!そ
      うなさいよ!それであなたはここから学校へ通えばいい
      わ!今度は見た目だけでなくて、中身も本物のレディに
      なる為にね!まぁ・・・でもなんていいアイデアかしら!!
      なんだかワクワクしてきたわ!(笑う。)」
  モア「おばちゃん・・・けど・・・」
  エレナ「大丈夫!あなたは何も心配しなくて!教育と食事の代
      わりに、我が家を賑わしてくれれば、それでいいのよ。」
  モア「・・・賑わす・・・って・・・」
  ザック「お祖母さんと2人、うちに来て食事を一緒にしてくれたら
      、それでいいんだよ。」
  モア「・・・兄ちゃん・・・本当に・・・?」
  ザック「ああ・・・」
  モア「祖母ちゃんも・・・先生達の側なら安心だね・・・」
  ザック「・・・そうだな・・・」
  モア「うん・・・あたい・・・あたいここで暮らしたい・・・!初めて出
     来た祖母ちゃん以外の家族・・・おばちゃんや姉ちゃん・・・
     それに兄ちゃんとずっと一緒にいられるなら・・・あたい・・・
     嬉しい・・・」
  エレナ「私達も嬉しいわ。さぁ、そうと決まれば早速、庭の整備を
      しなくちゃね。マーベリック!マーベリック!」

         下手よりマーベリック登場。

  マーベリック「はい、奥様・・・」
  エレナ「モアちゃんが家ごと我が家の庭へ越して来ることになっ
      たのよ!!」
  マーベリック「お庭へ・・・ですか・・・?」
  エレナ「ええ!だから直ぐに業者を呼んで、庭の整備をして頂
      戴!急いでね!」
  マーベリック「はい・・・分かりました。」

         マーベリック、下手へ去る。

  エレナ「ああ、本当に楽しみだこと・・・ねぇ、ザック!・・・どうした
      の?なんだか思い詰めたような顔をしているけど・・・」
  ザック「・・・母さん・・・」
  エレナ「・・・ザック・・・?」
  ザック「・・・さっき言おうとしたことが・・・」
  エレナ「・・・ええ・・・」
  ザック「僕は・・・」
  エレナ「・・・なんなの・・・?」
  ザック「・・・この家を出ます・・・」
  エレナ「家を出る・・・?家を出るって・・・」
  モア「兄ちゃん・・・」 
  ザック「僕は病院を辞めて、僕の医療が求められ・・・望まれる
      場所へと・・・行くことに決めました。」
  エレナ「何を言っているの?ここでもあなたは求められ、望まれ
      る立派なお医者様ではないの?」
  ザック「確かに母さん・・・ここでは毎日、沢山の患者が病を治し
      に訪れます。僕はそんな人達の・・・少なからず役に立っ
      ているかも知れない・・・。だが世の中には病院に行きた
      くても、行けない人だっているのです・・・。モアのお祖母さ
      んがそうであったように・・・。本当に医療を必要としてい 
      るのは、そう言った望んでも叶えられない境遇にいる人た
      ちだ・・・。だから僕はそんな人達の為に、僕に出来る・・・
      僕の持つ力を役立てたいのです。」
  エレナ「ザック・・・」
  ザック「僕は今まで父さんの背中を見て・・・父さんのひくレール
      の上を・・・父さんの後をついてただ歩いて来た・・・。けれ
      どこれからは、自分で選んだ道を・・・自分が望んだ場所
      で・・・自分の出来うることをしていきたいと・・・そう思うの
      です。」
  エレナ「・・・それは、ここでは出来ないことなの・・・?」
  ザック「はい・・・すみません、母さん・・・今まで自由にさせてくれ
      たことに、感謝しています。たとえ父さんがひいてくれたレ
      ールだとしても、そのレールに乗せてもらったお陰で、僕
      の目指す・・・これからの道へとつながって行くことが出来
      るのですから・・・」
  エレナ「ザック・・・(涙を拭う。)」
  ザック「母さん・・・何も二度と会えなくなる訳じゃないのですよ・・・
      。」
  エレナ「・・・そうね・・・ごめんなさい・・・あなたの選んだ道だもの
      ね・・・。笑顔で送り出してあげなくてはね・・・」
  ザック「母さん・・・ありがとう・・・。モア・・・俺がいなくなった後は、
      おまえのその笑顔で、母さん達を和ませてくれるかい・・・
      ?」
  モア「・・・(下を向く。)」
  ザック「・・・モア・・・?」

         ザック、モア残してカーテン閉まる。     








     

  ――――― “Thank you!リトルレディ”
                         5へつづく ―――――

















2013年4月26日金曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 3.5

     ザック「ただいま・・・」
  モア「・・・あ!兄ちゃん!」
  エレナ「おかえりなさい、ザック。」
  アナベラ「おかえり・・・」
  ザック「何か面白いことでもあったのかい?楽しそうな笑い声が
      扉の外まで聞こえていたよ。」
  アナベラ「またお母様のご病気が始まったのよ。(笑う。)」
  ザック「病気・・・」
  モア「ほら!これ見てみろよ!兄ちゃんの可愛いカッコ!(写真
     を見せるように。)」
  ザック「あ・・・!!それは!!おまえ!!その写真、どこで・・・
      !!返せよ!!」
  モア「嫌だよ!!姉ちゃんが見せてくれたんだから!!」
  ザック「姉さん!」
  アナベラ「あら、折角おしゃれしたあなたの写真、モアちゃんに
        見せてあげたって構わないでしょう?(笑う。)」
  ザック「・・・おしゃれって・・・」
  モア「おばちゃん!この写真、あたいが貰ってもいいか?」
  ザック「おまえ・・・何言ってんだよ・・・!!」
  エレナ「まぁ、そんな写真どうするの?可愛いザックの写真なら
      沢山あるから、1枚くらいあなたにあげたって構わないけ
      れど・・・」
  ザック「母さん・・・!!」
  モア「やったっ!!」
  ザック「おい、返せ!!返せったら・・・(写真を取ろうとする。)」
  モア「ヤダね!!(写真を持って逃げる。)」
  ザック「おい、おまえ・・・おい、待てったら!!(モアを追い掛け
      る。)そんな写真、一体どうすんだよ!」
  モア「あたい・・・淋しくなったらこの写真を見て笑うんだ・・・」
  ザック「・・・え・・・?」
  モア「そのうち祖母ちゃんが元気になって、家に帰れるようにな
     るだろ?そしたらあたい、また祖母ちゃんと村に戻って、2
     人で暮らしていくことになるんだ・・・。あたい・・・今までこん
     な風に・・・沢山の家族に囲まれて生活したことなんてない
     から・・・今の・・・この賑やかで楽しい生活を・・・一生忘れ
     たくないんだ・・・。この写真見たら・・・楽しかった今を、思い
     出せるじゃないか・・・。だからこの写真・・・持ってっていい
     だろ?なぁ、兄ちゃん!!」
  ザック「おまえ・・・」
  アナベラ「あら、じゃあお祖母様が退院なさったら、2人揃って家
        で暮らせばいいじゃない。ねぇ、お母様。」
  エレナ「そうねぇ・・・それはいいアイデアだわ、アナベラ。」
  モア「・・・おばちゃん・・・」
  エレナ「ねぇモアちゃん、そうしなさいよ。何も村外れの淋しい場
      所へ帰ることはないわよ。ずっとここにいればいいのよ。」
  ザック「母さん・・・」
  エレナ「ねぇザック!あなたも名案だと思うでしょう?」
  ザック「それはそうだが・・・。そうですね・・・(モアに向いて。)ど
      うだ?ここで一緒に暮らすかい?ずっとここにいていいん
      だぞ。」
  モア「・・・ありがとう・・・おばちゃん・・・姉ちゃん・・・それに兄ちゃ
     ん・・・。あたい・・・こんな温かい家族の温もりを感じたのっ
     て・・・初めてだ・・・。」
  エレナ「じゃあ直ぐにも引越しの準備を・・・」
  モア「(首を振る。)・・・ううん・・・あたい・・・祖母ちゃんが元気に
     なったら・・・祖母ちゃんと一緒に、自分家へ帰るよ・・・」
  エレナ「どうしてなの?」
  モア「そりゃ・・・ここは家ン中にシャワーがあって・・・床はフカフ
     カだし・・・ボール遊びが出来る程広い廊下があって・・・お
     ばちゃん達や兄ちゃんがいて・・・こんなとこがホントにあた
     いン家だったら、どんなにいいだろうって・・・」
  エレナ「だったら・・・」
  モア「でも・・・あの家は・・・父ちゃんと母ちゃんと一緒に暮らした
     家なんだ・・・」
  ザック「・・・え・・・」
  モア「まだ何も分からない小さい頃に、2人共死んじゃって・・・そ
     れから祖母ちゃんとずっと2人で暮らして来たから・・・父ち
     ゃんの顔も・・・母ちゃんの顔も、思い出そうったって思い出
     せねぇんだけど・・・あの家には・・・父ちゃんと母ちゃんの香
     りが染み付いてんだ・・・」
  ザック「・・・モア・・・」
  モア「こんな風に写真も残ってないけど・・・父ちゃんと母ちゃん
     がそこにいた・・・その温もりがあの家には残ってるんだ・・・
     !だから、あたい・・・」
  ザック「・・・分かったよ・・・もう・・・。その変わり、またいつでも遊
      びに来ていいんだぞ。(モアの頭に手を置く。)」
  モア「・・・兄ちゃん・・・うん・・・ありがとう・・・」
  アナベラ「ザック・・・」

         その時、上手より執事(マーベリック。)
         登場。

  マーベリック「奥様・・・」
  エレナ「どうしたの?マーベリック。」
  マーベリック「それが・・・玄関に何やら様子の怪しい者が参って
          おりまして、奥様に会わせろと騒いでいるのですが
          ・・・」
  ザック「・・・怪しい者・・・?」
  マーベリック「はい・・・」
  エレナ「まぁ・・・どなたかしら・・・」
  ザック「母さん、僕が会いましょう。マーベリック、中へ通してくれ
      ・・・」
  マーベリック「はい。」
  モア「・・・兄ちゃん・・・」

         マーベリック、上手へ去る。
         ザック残してカーテン閉まる。

    ――――― 第 5 場 ―――――

         一時置いて、上手よりマーベリック、続いて
         粗末な身形の1人の女性(シンシア。)登場。

  マーベリック「ザック様、お連れしました。」

         マーベリック、上手へ去る。

  ザック「(振り返って2人を認める。)」      
  シンシア「(興奮した様子でザックの側へ。)どこにいるんだい!
        ?愛しい私の子は!!ここにいるんだろ!?早く呼ん
        で来とくれよ!!」
  ザック「・・・失礼ですが・・・あなたは・・・」
  シンシア「何言ってんだい!!あんたん家に誘拐された子の母
        親だよ!!」
  ザック「誘拐・・・?」
  シンシア「ああ、そうさ!!私が働きに出る間、婆さん家に預け
        て行った、モ・・・モ・・・モグ・・・モグだよ!!さっさと返
        しとくれ!!今までずっと会わずして、寝る間も惜しん
        で働いて来て、今日やっと家に戻ってみたら家はもぬ
        けの殻だ!途方に暮れていたら、親切な人がここに連
        れて行かれたって教えてくれたんだよ!!家の子を
        拐って、外国へでも売り飛ばすつもりかい!?それと
        もここの使用人にでもするつもりかね!?そんなこと
        はさせないよ!!男手は子どもだろうが何だろうが貴
        重なんだ!!家の子をタダであんたン家に持ってか
        れたんじゃあ、堪ったもんじゃないよ!!さぁモグ!!
        出ておいで!!母さんが助けに来てやったよ!!そ
        れとも何かい・・・?どうしてもあの子が欲しいって言う
        んなら・・・相談に乗らなくもないよ・・・。そりゃあ私だっ
        て、自分の腹を痛めて産んだ子を手放すのは忍びな
        いさ!!だけど婆さんと2人、働き手がなくなったら、
        こっちとしても困るじゃないか・・・。その辺は・・・どうな
        んだい?」
  ザック「あなたは金で自分の子を売ると・・・?」
  シンシア「だから言ってるだろ・・・私だって、可愛い我が子を手
        放すのは辛いさ・・・(身に着けていたエプロンで、目頭
        を押さえる。)だけど・・・あの子も必要とされた場所で
        生活出来るのが幸せに決まってんだ・・・。」

         カーテン開く。と、玄関ホール。
         その時、後方階段をモア、ゆっくり
         下りて来る。

  ザック「(モアを認め、手を上げて合図する。)ああ、こっちだ・・・」
  モア「・・・兄ちゃん・・・何・・・?」
  ザック「この人がおまえに用があるそうだ、モア。」
  シンシア「・・・モア・・・?(小声で。)え・・・モグじゃないのかい?
        ん・・・?モ・・・ア・・・?」
  モア「・・・おばちゃん・・・誰・・・?」
  シンシア「あ・・・ああ!!(小声で。)この際、名前なんてどうで
        もいいわ・・・!!モア!!会いたかったよ!!どんな
        に長いこと、この日を夢見て来たと思ってんだい!!
        さぁ、早くもっとこっちへ来て、母ちゃんに顔をよく見せ
        とくれ!!まぁ・・・何て立派な男の子におなりだい・・・
        !!(モアに近寄りながら。)」
  モア「・・・母ちゃん・・・?母ちゃん・・・って・・・」
  シンシア「そうだよ、モア!母ちゃんだよ!!」
  モア「嘘だ・・・」
  シンシア「嘘なもんか!!ほらこうやって、今日やっと出稼ぎか
        ら戻って、その足で真っ先におまえを迎えに来たんだ
        よ!!」
  モア「嘘だ・・・嘘吐き!!母ちゃんは死んだんだ!!ずっと・・・
     ずっと昔に!!祖母ちゃんがそう言ってた!!」
  シンシア「嘘なんかじゃないよ、モア!!ほら、この通り母ちゃ
        んは生きて・・・」
  ザック「お引き取り下さい。」
  シンシア「・・・え?」
  ザック「残念だが、あなたはこの子の母親でも何でもないようだ
      。」
  シンシア「どうしておまえにそんなことが分かるんだい!!実の
        母親の私がそう言ってんだよ!!それのどこが嘘だ
        って言うんだい!!昔々に生き別れた実の母親を、
        嘘つき呼ばわりするなんて、どう言った見解だね!!
        ・・・まぁ、どうでもいいさ、そんなこと!子どもを返さな
        いってんなら、金を払いな!!この子の代金だ!!そ
        れとも誘拐罪で訴えようか?大病院の名に傷が付くね
        ぇ・・・(笑う。)」
  モア「兄ちゃん・・・」
  ザック「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・あなたは初めからとん
      だ勘違いをなさっているようだが・・・」
  シンシア「勘違い・・・?何が勘違いなんだよ・・・!!」
  ザック「あなたはこの子を、お腹を痛めて産んだ子だと・・・そう
      言われましたね?」
  シンシア「あ・・・ああ、そうさ・・・それがどうしたんだい・・・」
  ザック「ならば・・・自分の産んだ子の性別も分からないような母
      親がどこにいると言うんだ!!」
  シンシア「・・・え・・・?」
  ザック「モアはこんな格好をしてはいるが、正真正銘、女の子だ
      !!」
  シンシア「・・・女・・・?あ・・・え・・・?私・・・さっきから・・・可愛い
        娘になったね・・・って・・・だから・・・(狼狽えたように。
        )」
  ザック「こちらが反対に脅迫罪で訴えてもいいんだぞ!!」
  シンシア「きょ・・・脅迫だって・・・!?一体私がいつ・・・(観念し
        たように。)キーッ!!ええいっ!!何だっておまえは
        女のくせに、そんな汚らしい格好をしてるんだい!!
        女なら女らしく、もっと身奇麗にしときなってんだ!!
        フン!!あのパン屋の糞親父!!男だなんて、いい
        加減なことを吹き込みやがって!!全く、頭にくるよ!
        !もうちょっとで金をたんまりふんだくれたって言うの
        に!!キーッ!!」

         シンシア、一人ブツブツと怒りながら、
         上手へ去る。

  ザック「何なんだ一体・・・」
  モア「あたい・・・」
  ザック「ん?」
  モア「あたい・・・ずっと夢見てたんだ・・・」
  ザック「・・・夢・・・?」
  モア「うん・・・小さい頃、祖母ちゃんから父ちゃん母ちゃんは、あ
     たいが生まれて直ぐ死んだって聞かされたんだ・・・。けど、
     あたいは信じなかった・・・。父ちゃん母ちゃんは働きに行っ
     てるだけで、いつか・・・いつか今みたいに・・・あたいを迎え
     に来てくれるんだって・・・そう信じてたんだ・・・ずっと・・・」
  ザック「モア・・・」
  モア「今はそんなの有りっこないって分かってっから、変な期待
     なんてしないけど・・・。今みたいに・・・嘘だって分かってた
     って・・・あのおばちゃんに、あんな風に言われて・・・あたい
     ・・・ちょっとだけ嬉しかったんだ!」

         音楽流れモア、スポットに浮かび上がり、
         歌う。(カーテン閉まる。)

         “いつも祖母ちゃんと2人で
         肩寄せ合って生きてきた・・・
         いつかそれも消え去るようで
         心細くて震えてた・・・
         だけど気付かなかった
         とてつもなく大きな愛が
         私の回りに溢れてた・・・
         一人じゃないんだそう思えて・・・
         心の氷が溶け出すようで
         どこからか・・・
         春の陽差しが私を照らす・・・”

         暗転。

    ――――― 第 6 場 ――――― A

         カーテン開く。と、病室。
         中央、置かれたベッドの上に、モアの祖母、
         寝ている。横にザック立ち、診察をしている
         ように。

  祖母「先生・・・ありがとうございました・・・命を助けて頂いて・・・
     。」
  ザック「いえ・・・僕がたまたま見つけたから良かったようなもの
      の・・・もう少し遅ければ、今頃どうなっていたか・・・」
  祖母「お医者様のいない村ですから・・・先生に偶然見つけて頂
     いたのは、本当に奇跡としか言い様がありません・・・。それ
     に・・・私が死んでしまったらモアは・・・あの子は独りぼっち
     になってしまうところでした・・・。本当になんとお礼を言えば
     いいのやら・・・」
  ザック「あの・・・聞いてもいいでしょうか・・・?」
  祖母「はい・・・?」
  ザック「・・・モアのご両親はどうして・・・」
  祖母「ああ・・・流行病ですよ・・・」
  ザック「流行病・・・?」
  祖母「ええ・・・丁度12年程前・・・今、私達の住む村で、何やら
     訳の分からない伝染病が広まったのでございます・・・。あ
     の子の両親はその病で・・・」
  ザック「そう言えば・・・僕がまだ学生の頃・・・一つの村が、ある
      感染性の病によって、隔離される異常事態が発生したと
      記憶しています・・・。確か・・・村は壊滅状態だったと・・・」
  祖母「そうそう、それですよ・・・。モアの母親・・・つまり私の娘は
     産後の肥立ちが悪く・・・暫く生まれたばかりのモアは、以
     前は他所の村で暮らしていた私のところで、面倒を見てい
     たのです。」
  ザック「それでモアだけ・・・」
  祖母「はい・・・。その頃、近くの集落のどこにも、お医者様は1人
     もおらず・・・隣り街の大きな病院から先生が来て下さった
     時には、もう村に入ることすら出来ない状態で・・・外にいる
     者は、衰弱して亡くなっていく村人達を、ただ黙って眺めて
     いることしか出来なかったのです・・・。」
  ザック「そんな・・・」
  祖母「今でこそ・・・まだ私達の住む村に、お医者様はいません
     が、隣り村には薬草屋が出来たので、それでも随分と助か
     っているのですよ、先生・・・」
  ザック「・・・病院のない村・・・」
  祖母「病院が出来たところで・・・私達の村に住む者は皆、貧し
     くて・・・先生に診てもらうことは出来ないのでしょうけど・・・
     薬草を買うことだって・・・余程のことがないと、皆少々の具
     合の悪さには、耐えて凌ぐのです・・・。モアのような小さな
     子が、靴磨きやなんかをして、一家を支えているような村
     じゃ・・・高額な治療費なんて、ちょっとやそっとじゃ払えな
     いですからね・・・。」









   ――――― “Thank you!リトルレディ”
                         4へつづく ―――――


2013年4月23日火曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 3

   ――――― 第 4 場 ―――――

         カーテン開く。と、ハミエル邸居間。
         その時、上手方からモアの声が聞こえる。

  モアの声「わあーっ!!」

         そこへ上手より、ボールが飛び込んでくる。
         (窓際の花瓶に当たり割れる。
         音“ガッシャーン”) 
         一時置いてモア、走り登場。

  モア「やっべぇ・・・!!」

         モア、転がっていたボールを拾い、
         回りを見回し、抜き足差し足で上手方へ。
         そこへ下手より、車椅子に乗ったエレナ、
         ゆっくり登場。

  エレナ「まぁまぁ、元気のいい娘さんだこと・・・(笑う。)」
  モア「(その声に驚いて立ち止まり、ゆっくり振り返る。)は・・・は
     は・・・(作り笑いする。)あたい・・・暇だったから・・・ちょっと
     そこの階段の踊り場で・・・」
  エレナ「ボール遊びかしら?」
  モア「あ・・・いや・・・このボール・・・兄ちゃんの部屋に転がって
     たんだ!だから・・・」
  エレナ「そのボールは、ザックの思い出のボールなのよ。(微笑
      む。)」
  モア「思い出・・・?」
  エレナ「ええ。学生時代にずっとサッカーをやっていた・・・」
  
         そこへ下手よりアナベラ登場。
       
  アナベラ「(エレナの言葉を遮るように。)運動音痴のザックが、
        ゴールを決めた最初で最後のボールよ。(笑う。)」
  モア「兄ちゃんが運動音痴って・・・!(笑う。)」
  エレナ「アナベラ・・・あなたは相変わらずザックには辛口ね。」
  アナベラ「あら、お母様、ザックは運動は苦手だったかも知れな
        いけれど、勉強が出来たんだから、それで良かったの
        よ。下手に運動が少しくらい出来て、そちらの方に興
        味が強ければ、ザックのことだからお父様の跡を継い
        で、お医者様になったかどうか怪しいものよ。(笑う。)
        」
  エレナ「そうだわね。」

         モア、2人が話している間に、ボールを
         持って上手方へ、そっと出て行こうとする。

  エレナ「モアちゃん!」
  モア「(その呼び掛けに驚いて立ち止まる。)はいっ!」
  エレナ「こっちへいらっしゃい。(手招きする。)」

         モア、ゆっくりエレナの側へ近寄る。
         アナベラ、その様子をチラッと見ながら
         ソファーへ腰を下ろし、テーブルの上の
         本を手に取る。

  モア「・・・何だよ・・・おばちゃん・・・」
  エレナ「あなた、可愛いお顔しているのに、その言葉使いは少し
      残念ね。」
  モア「んなこと言われたって・・・」
  エレナ「それにその汚れたお洋服も・・・」
  モア「(自分の服を見る。)・・・何か可笑しい・・・のかよ・・・」
  エレナ「そうねぇ・・・先ずは・・・」

         音楽流れ、エレナ歌う。

         “お風呂に入りましょう
         身奇麗にして
         石鹸の香りに包まれるのよ
         髪を梳かして
         可愛いリボンをつけましょう
         頭の上からつま先まで
         ピカピカにして着飾りましょう
         女の子らしくフワフワの
         ドレスを着ましょうピンク色
         ほら忽ち可愛いレディに大変身!”

         エレナ、モアの髪に、引き出しから
         取り出したリボンをつける。
         テーブルの上の手鏡を、モアへ
         差し出す。

  エレナ「どうかしら?」
  モア「・・・(鏡を見て。)あ・・・女みてぇだ・・・」
  エレナ「女みてぇ・・・じゃないのよ。あなたは紛れもなく、可愛ら
      しい女の子なんだから。」
  アナベラ「また始まったわ・・・お母様のご病気が・・・」
  エレナ「まぁ、失礼ね、アナベラ・・・。私のどこが病気なのかしら
      ・・・」
  アナベラ「あら、お忘れかしら?お母様のデコレーション病。家
        の中の調度品は勿論のこと、私たち姉弟・・・その手が
        離れたら、次はいとこのマーサ・・・そしてお隣の家の
        マリィ・・・それから愛犬のジョン・・・そうそう、愛猫のネ
        リーを忘れちゃ駄目ね。(笑う。)ほら、これが証拠の写
        真・・・(写真を取り出し、テーブルの上へ置く。)」
  モア「わあーっ・・・!(写真を手に取る。)へぇ・・・皆、可愛く着飾
     ってら・・・あれ・・・?これ・・・」
  アナベラ「(写真を覗き込む。)ああ、ザックね。」
  モア「・・・兄ちゃん・・・?」
  アナベラ「そうよ。」
  モア「えーっ!?兄ちゃん、こんなフリフリのブラウス着て、女み
     たいだ!!(大笑いする。)」
  アナベラ「そうでしょ!お母様は男でも女でも、生きてるもので
        も身につけるものでも・・・何だってこんな風に、可愛く
        デコレーションしてしまうのよ。」
  モア「へぇ・・・」
  エレナ「あら・・・いいじゃない。可愛いものに囲まれて、生活して
      いると、幸せな気分になれるんですもの。」
  アナベラ「まあお母様の趣味だから、皆諦めているけれど・・・」
  モア「ふうん・・・」
  アナベラ「だから次は、あなたの番って訳よ。」
  モア「えーっ・・・?あたい、今までスカートだって、履いたことな
     いのに・・・」

         その時、上手よりザック登場。

  ザック「ただいま・・・」
  モア「・・・あ!兄ちゃん!」
  エレナ「おかえりなさい、ザック。」
  アナベラ「おかえり・・・」
  ザック「何か面白いことでもあったのかい?楽しそうな笑い声が
      扉の外まで聞こえていたよ。」








  ――――― “Thank you!リトルレディ”
                       3.5へつづく ―――――










      
  
      

2013年4月21日日曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 2

   ――――― 第 2 場 ――――― B

         モア残してカーテン開く。と、パン屋。
         (下手方に扉。)
         店の中、カウンター内にパン屋の主人、
         客の相手をしているよう。

  パン屋の主人「ありがとうございました!」

         客、扉から去る。
         一時置いて、扉を開けてモア、躊躇うように
         ゆっくり入って来る。

  パン屋の主人「(用事をしながら。)はい、いらっしゃいませ。」
  モア「・・・こんにちは・・・」
  パン屋の主人「何にしましょう・・・(モアの顔を見て。)あ・・・おま
           えは、あの時の・・・!」
  モア「ごめんなさい!!もうしません!!二度としません!!こ
     のお金もちゃんと返しに来ました!!だから、あたいのこと
     許して下さい!!(土下座する。)お願いします!!」
  パン屋の主人「(カウンターの外に出、モアに近寄り肩に手を掛
           ける。)なぁに、いいってことよ。その金も返さなく 
           ていいから・・・。(笑う。)」
  モア「(頭を上げて、主人を見る。)・・・え・・・?」
  パン屋の主人「それと今日はここにあるパンを、好きなだけいく
           らでも持っていいていいぞ。」
  モア「・・・持ってって・・・?」
  パン屋の主人「ああ!それだけじゃない。明日も明後日も、腹
           が空いたらいつだってパンを取りに来ていいんだ
           !さぁ、今日はどいつが食べたいかな?どれでも
           いいぞ。このクリームの入ったパンはどうだ?美
           味いぞ!婆さんにはこの白いフワフワのパンがい
           いな。(紙袋の中にパンを入れながら。)」

         モア、呆っとパンを袋に入れる主人を
         見ている。

  パン屋の主人「ほら!(袋をモアへ持たせる。)これだけあれば
           、今日は満腹になるだろ。(笑う。)さぁ、帰った帰
           った。早く帰って、婆さんにも食わせてやんな!(
           モアの背中を押して、扉から出す。)」

         扉の外、呆然と袋の中のパンを見るモア。
         ゆっくり下手へ去る。
         パン屋の奥から、ゆっくりザック登場。

  パン屋の主人「(ザックを見て。)ザック坊ちゃん、これでいいん
           ですかい?」
  ザック「ああ、ありがとう。」
  パン屋の主人「しかしまぁ・・・どうしてまた、あの子どもが金を返
           しに来るって・・・それに・・・(カウンターの下から、
           金貨の入った重そうな袋を取り出す。)ホントにこ
           んな大金、貰っていいんですかい?うちはあの子
           にやったパン代さえ払って貰えりゃあ十分なんで
           すけど・・・いや・・・まぁ・・・頂けるって言うんなら、
           有り難く頂戴しますがね・・・へっへっへ・・・」
  ザック「金が足りないなら、いつでも言ってくれ。その変わりあの
      子が腹を空かせてやって来た時には、存分にパンを与え
      てやって欲しい・・・」
  パン屋の主人「はいはい、分かりましたよ。」
  ザック「頼んだぞ。」
  パン屋の主人「へぇ!」

         ザック残してカーテン閉まる。
         音楽流れ、ザック歌う。

         “何て不公平な世の中だ・・・
         金なんてあってもなくても
         同じ人の筈・・・
         金があるから偉い訳でない
         金がないから見下げるのか・・・
         そんなことは有り得ない・・・
         みんな同じ人間だ・・・
         生きる為にただひたすらに
         自分の足元のその道を・・・
         一歩ずつ歩いているだけ・・・”

         ザック、上手へ去る。

    ――――― 第 3 場 ―――――

         カーテン開く。と、粗末な小屋の中。
         モアの祖母(ドーン)、食事の支度を
         しているように。

  ドーン「(鍋をかき混ぜながら。)モアは一体どこへ行ったんだろ
     う。また仕事を探してあちこち回っているのかねぇ・・・。私
     がもう少し若ければ・・・うんと働いて・・・あの子に苦労をか
     けずに済んだのに・・・(スープをお椀に入れながら。)今日
     も、塩をひとつまみ入れただけの野草のスープだけなんて
     ・・・育ち盛りだと言うのに・・・」

         そこへ下手よりモア、走り登場。

  モア「祖母ちゃーん!!祖母ちゃーん!!」
  ドーン「(モアを認める。)まぁまぁモア・・・どうしたんだい?そん
      なに慌てて・・・」
  モア「祖母ちゃん!!見てくれよ、これ!!(腕に抱かえていた
     紙袋をドーンの方へ差し出す。)」
  ドーン「何だい・・・?(紙袋の中を覗く。驚いて。)まぁ・・・!!こ
      んなに沢山のパン・・・!!一体どうしたんだい・・・!?」
  モア「あたいもよく分かんないんだけど、パン屋のおっちゃんが
     持ってっていいって言ってくれたんだ!!お陰で今日は祖
     母ちゃんに、腹一杯食べさせてやれるよ!!」
  ドーン「全く、どうしてそんな・・・」
  モア「きっと、こんななりしたあたいのこと、可哀想に思ったんじ
     ゃねぇか?すっごく気前良くって、明日も明後日も、腹が減
     ったらいつでも来ていいって!!」
  ドーン「本当かい・・・?」
  モア「うん!!きっと神様のお恵みだぜ、祖母ちゃん!!あたい
     達、ずっと頑張ってきたから!!」
  ドーン「本当だねぇ・・・。ああ、有り難い有り難い・・・何て世の中
      には親切なお方がいらっしゃるんだろうねぇ・・・。」
  モア「さぁ、祖母ちゃん!!早く座って一杯食べなよ!!こんな
     にあるんだ!!祖母ちゃんが食べやすい、白いフカフカの
     パンも一杯入れてくれたんだぜ!!」
  ドーン「私はもう年だから、少しでいいんだよ・・・その変わり、モ
      アが沢山お食べ・・・お腹一杯何かが食べられるなんて、
      いつ以来だろ・・・う・・・(胸を押さえて座り込む。)」
  モア「うん!!・・・(苦しそうなドーンの様子に気付いて。)・・・
     祖母ちゃん・・・?祖母ちゃん・・・(駆け寄る。)祖母ちゃん!
     !どうしたんだよ!!祖母ちゃん!!祖母ちゃん!!(ド
     ーンを揺する。動かないドーンの様子に呆然と。)祖母ちゃ
     ん・・・大変だ・・・誰か・・・誰かーっ!!祖母ちゃん、しっか
     りしてくれよ!!」

         その時、下手よりゆっくりザック登場。

  ザック「ごめんください・・・。ノックをしても返事がないので黙って
      入って来てしまいました・・・。こちらに子どもが・・・」
  モア「(振り返り、ザックを認める。泣き声で。)あ・・・兄ちゃん!!
     」
  ザック「(微笑む。)矢っ張りここだったのか・・・。随分捜して・・・
      (モアの様子に。)・・・どうした・・・?」
  モア「兄ちゃん・・・祖母ちゃんが・・・祖母ちゃんが!!」
  ザック「え・・・?(モアの横に倒れているドーンを認める。)お婆
      さん!!(ドーンに駆け寄る。)どうしたんだ!?(脈を見
      たり、胸の鼓動を確かめたりする。)」
  モア「分からないよ・・・急に胸を押さえて倒れたんだ・・・兄ちゃ
     ん・・・祖母ちゃん大丈夫だよね・・・!?ね!?ね!?祖母
     ちゃん死なないよね!!あたいのたった一人の祖母ちゃん
     なんだ・・・!!」
  ザック「よし!!まだ大丈夫だ!!(ドーンを抱き上げる。)この
      まま病院までそっと運ぶぞ!!」
  モア「え・・・?」
  ザック「おまえもついて来い!!」
  モア「兄ちゃん・・・う・・・うん・・・!!」

         ドーンを抱き上げたザック、心配そうなモア、
         急いで下手へ去る。
         暗転。カーテン閉まる。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         カーテン前。
         下手スポットにパン屋の主人、
         浮かび上がる。電話しているように。

  パン屋の主人「ああ、俺だ・・・。ちょっとばかし金になりそうな話
           しがあるんだが・・・乗らねぇか?ああ・・・ああ・・・
           そうさ・・・なぁんもヤバイことじゃねぇんだ。向こう
           から勝手に転がり込んだ上手い話しさ・・・。ああ
           ・・・ああ・・・分かった。それじゃあ、おまえに頼み
           たい役どころがあるんだ・・・。ああ・・・なぁに、簡
           単なことさ・・・へっへっへ・・・ああ・・・ああ・・・じゃ
           あ、また連絡する・・・。(電話を切る。)」

         パン屋の主人、フェード・アウト。
         入れ代わるように上手スポット。
         (ソファー)ベッドに横になっているドーン。
         横に白衣のザック、ドーンの診察をして
         いるよう。
         ベッドの横に、医者仲間(マービン)立つ。

  マービン「おまえ、またこんな金になりそうにない婆さんを運び
        込んで、一体どうするつもりなんだ?」
  ザック「マービン・・・」
  マービン「ちゃんと診察料は取れるんだろうな。」
  ザック「おまえは金になるから人の命を助けるのか・・・?金にな
      らない者は助けるに値しない・・・とでも言うつもりか・・・。」

         ザック、診察を終え、立ち上がる。
         ザック、マービン、一寸前へ。
         (ドーン、フェード・アウト。)

  マービン「・・・違うのか?じゃあおまえは何の為に医者になった
        んだ。」
  ザック「何の為・・・?」
  マービン「そうだなぁ・・・生まれつき大病院の院長先生の跡取り
        息子として、この世に生を受け生きてきたおまえには、
        屹度、医者になる意味など、どうでも良かったんだろう
        な。」
  ザック「マービン・・・」
  マービン「おまえは、この病院をどうするつもりなんだ。運営のこ
        とは二の次に、慈善事業をしていくつもりか?」
  ザック「慈善事業・・・?」
  マービン「そうだろ?代々続いたこの病院は、いずれおまえが
        継ぐんじゃないのか?それを他の仲間や利益も考え
        ずに、慈善事業で運営が成り立つと、本当に思ってい
        るのか・・・?」
  ザック「それは・・・」
  マービン「学生時代からのライバルとして・・・そして親友として
        おまえに忠告しといてやろう。世の中、義理人情だけ
        で生きていけるなら、そんな楽な話しはないってこと
        だ。そんなものに流されて、目の前の大切な事柄を見
        落とせば、後で泣くのは自分自身なんだぞ。」

         ザック残して、マービン、フェード・アウト。
         中央スポットにモア、浮かび上がる。
         ザック、モアの側へ。

  モア「(ザックを認め、慌てて近寄る。)兄ちゃん・・・!!祖母ち
     ゃんは・・・」
  ザック「大丈夫、軽い心臓発作だ。暫く入院して養生すれば、ま
      た直ぐに良くなるさ。」
  モア「本当!?」
  ザック「ああ・・・」
  モア「良かった・・・」
  ザック「今まで、随分無理をしてきたんだろう。栄養失調気味で、
      昔から心臓が悪かったようだし、長年の無理がたたって
      心臓に負担をかけたんだな・・・。」
  モア「祖母ちゃん・・・あたいが中々お金を稼いでこないから・・・
     毎日、食材を探しに、この寒い中・・・裏山へ野草を摘みに
     行ってたんだ・・・。」
  ザック「そうか・・・」
  モア「もっと、あたいらみたいな子どもでも出来る仕事があった
     ら・・・そしたらもっと働いて、美味しいもん沢山食べさせて
     やれるのに・・・。昨日、折角パンを貰って来たのに倒れち
     まって・・・あ・・・そう言やぁ、兄ちゃん・・・パン屋のおっちゃ
     んが、あたいに好きなだけパンを持ってっていいって言っ
     たんだ・・・。変だろ・・・?金もないのにだぜ!おまけに、明
     日も明後日も・・・ずっとくれるって言うんだ・・・。あたい・・・
     ずっと今まで・・・盗みをやっては追いかけられて・・・見つ
     かって・・・捕まって・・・打たれて・・・そんな生活してきたか
     ら、何だか人に親切にしてもらうのって・・・慣れてなくって
     ・・・お礼、言いそびれちまったよ・・・。今度会ったら言わな
     くっちゃ・・・」
  ザック「・・・良かったじゃないか。(微笑む。)」
  モア「(ザックを見て。)・・・うん・・・」
  ザック「それより、どうだ?お婆さんが退院するまで、家で暮らさ
      ないか?」
  モア「・・・え・・・?」
  ザック「自分家に帰ったって、誰もいないんだろ?家からだと、婆
      さんの見舞いにも行きやすいし・・・。食事にも困らないぞ。
      」
  モア「・・・兄ちゃん・・・でも・・・あたい・・・」
  ザック「子どものくせに、遠慮なんかするなよ。(微笑む。)」
  モア「・・・本当に・・・行っていいの・・・?」
  ザック「ああ・・・。それに言わなかったっけ?母は昔、教師をや
      ってたんだ。子どもが好きなんだよ。今はもう、俺も姉も大
      人になってしまって、手を掛ける相手がいなくなったから、
      淋しがってたんだ。丁度いい、母の話し相手になってやっ
      てくれ。それがおまえの仕事だ。それと引き換えに、寝食
      の場を提供する。婆さんにも会い放題!どうだ?悪い話
      しじゃないだろう?」
  モア「兄ちゃん!!(嬉しそうに。)」

         ザック残して、モア、フェード・アウト。
         音楽流れ、ザック歌う。

         “俺は今まで少しの
         疑問だけで何もかも
         見て見ぬ振りをしてきた・・・
         そう言われても仕方ない
         たとえどんな風に世界が
         間違って進んでいても
         それが自分の身に直接
         関わりがないのなら
         知らぬ顔を決め込むだけ・・・
      
         やっと分かった今までの
         疑問の答えが・・・
         心の中の正義が只管に
         間違いを否定する
         そうだ
         それこそ・・・
         俺がずっと探して来た道・・・”

  ザック「親がひいてくれたレールじゃ駄目なんだ・・・。自分で苦
      労してひいたレールでないと・・・。」

         暗転。









      

  ――――― “Thank you!リトルレディ”
                          3へつづく ―――――






2013年4月19日金曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場―


    〈 主な登場人物 〉


    ザック・ハミエル  ・・・  本編の主人公。お金持ちの息子。

    モア  ・・・  お祖母さんと2人暮らしの少女。

    エレナ  ・・・  ザックの母親。

    アナベラ  ・・・  ザックの姉。

    パン屋の主人

    お祖母さん  ・・・  モアの祖母。


    その他。



 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪


    ――――― 第 1 場 ―――――

         音楽流れ、幕が上がる。と、公園(絵紗前。)
         の風景。
         中央に一つのベンチ。
         下手より、コートに帽子を被ったザック、
         ゆっくり登場。

  ザック「ふぁあ・・・(伸びをする。)・・・流石に2日続きの夜勤明け
      はキツイなぁ・・・だけど、不思議だ・・・」

         ザック、歌う。

         “この心地良い筈の疲労感・・・
         今日も誰かの役に立てただろうか
         それともそれは単なる驕りだろうか・・・
         自己満足かも知れないなら
         そんな無意味なことはない・・・
         そんな風にふと感じ
         心地良い疲れが
         肩に重く伸し掛る・・・”

         ザック、ベンチへ腰を下ろし、帽子を顔に
         乗せ、眠ったよう。
         一時置いて、どこからか声が聞こえる。

  声「泥棒ーっ!!誰が、その子どもを捕まえてくれーっ!!」

         そこへ上手より、一人の汚れた身形の
         子ども(モア。)後ろを気にしながら走り
         登場。

  モア「へへーんだ!!誰が捕まるもんか!!いーっ!!(舌を
     出す。)」

         モア、ザックの前を通り過ぎようとした時、
         寝ている様子のザック、足を差し出す。
         モア、その足に引っ掛かって転ぶ。

  モア「わあっ!!何すんだよ、おっさん!!いってぇ・・・!!」

  声「どこに行った!?どこだーっ!!」

  モア「(上手方を見て。)やっべぇ・・・!!(慌てて立ち上がり、
     下手方へ行こうとする。)」
  ザック「(モアの腕を掴む。)」
  モア「わ・・・!!離せよっ!!何すんだよ!!」
  ザック「(ベンチの後ろを指差す。)」
  モア「・・・え?」
  ザック「(顎でベンチの後ろへ行くように指し示す。)」

  声「どこ行った!?こっちか!?」

  モア「あ・・・(その声に慌ててザックに指示された通り、ベンチの
     後ろへ身を隠す。)」

         ザック、再び帽子を顔に乗せ、眠ったように。
         そこへ上手より2人の商売人風の男、息を
         切らせながら走り登場。

  男1「待てーっ!!(回りを見回して。)どこ行ったんだ!!」
  男2「全く、逃げ足の早い餓鬼だぜ!!(回りを見回す。)」
  男1「(下手方を見て。)あっちの方も捜してみようぜ!!」
  男1「ああ!!」

         2人の男、下手へ走り去る。

  ザック「(帽子を取り、下手を見る。男達が走り去ったのを見計ら
      って、ベンチの背をノックする。)おい・・・もう出て来てもい
      いぞ・・・」
  モア「(ゆっくりベンチの後ろから顔を出す。)ホント・・・?」
  ザック「全く・・・人の心地良い眠りを妨げやがって・・・」
  モア「(ベンチの後ろから出て来る。)はぁー、助かったぜ。あん
     な奴ら、チョロいったらありゃしない。(笑う。)さてと、これで
     パンでも買って・・・(上手方へ行きかける。)」
  ザック「(モアの服を掴む。)」
  モア「何すんだよ!!」
  ザック「ばーか!!何がチョロいんだ!!人様の物を盗んどい
      て、助かるも何もないだろ!!(モアの頭を小突く。)」
  モア「いてっ!!いいだろ!!あたいが何しようが!!」
  ザック「・・・あたい・・・?おまえ、今“あたい”って言ったのかよ・・・
      ?」
  モア「あたいって言っちゃあ悪いかよ!!何だよ!!変なおっさ
     ん・・・」
  ザック「馬鹿野郎!!女の子がそんななりして泥棒なんて、どう
      なってんだ世の中は!!」
  モア「女だろうが男だろうが関係ないね!!そんなこと!!世
     の中、金のある奴らだけが温々と暮らせて、腹一杯美味し
     いもんが食えるなんて不公平だ!!だから、あたいは金の
     ある奴らから、こうやって分け前をちょっとばかし拝借して、
     祖母ちゃんにパンを買ってやるんだ!!それのどこが悪い
     んだよ、ばーか!!」
  ザック「おまえなぁ・・・その口の聞き方、どうにかならないのか?
      」
  モア「どこが悪いんだよ!!仕方ねぇだろ!!あたいは生まれ
     てから一度だって、学校なんてもんとは無縁の生活をして
     来たんだから!!」
  ザック「(モアを頭の天辺からつま先まで見て。)それにその格好
      ・・・何か臭くないか?おまえ・・・ちゃんと風呂入ってんの
      か?」
  モア「ふろ・・・?何だ?ふろって・・・」
  ザック「シャワーだよ、シャワー!!シャワー位、浴びたことある
      だろ!?」
  モア「浴びる・・・?ああ、川で水浴びしたことなら、いくらだって
     あらぁ!!(笑う。)」
  ザック「そうじゃなくて・・・(溜め息を吐く。)おまえ・・・うち来るか
      ・・・?」
  モア「・・・え・・・?(怪しむような目でザックを見る。)」
  ザック「そんな目で見なくても・・・怪しむようなことは何もないさ
      ・・・。腹減ってんだろ?」
  モア「(お腹が鳴る。“グー”)・・・(お腹を押さえる。)あ・・・」
  ザック「パン位ご馳走してやるよ。」
  モア「・・・本当・・・?」
  ザック「ああ・・・。それにお客が来ると母や姉も喜ぶんだ。」
  モア「母ちゃんと・・・姉ちゃんがいるの・・・?」
  ザック「ああ・・・嫁さんじゃなくて悪いけど・・・。」
  モア「・・・おっちゃんの家に・・・」
  ザック「あのなぁ・・・俺はまだ若いんだ!おまえに“おじさん”呼
      ばわりされるような年じゃ・・・まぁいいか・・・せめて“兄ち
      ゃん”にしてくれ。」
  モア「・・・うん、了解兄ちゃん!で・・・?兄ちゃん家って・・・」
  ザック「直ぐそこだ。だがその前に、先ず・・・いいか?世の中盗
      みなんてもんは絶対にやってはいけないことなんだ。そん
      なことをするのは、人間として恥ずかしいことなんだ。」

         音楽流れ、ザック歌う。

         “人として
         やってはいけないことがある
         人だから
         やらなきゃいけないこともある
         間違いが
         悪い訳じゃないんだ だけど
         間違いに
         気付けば直ぐに正すこと
         その気持ちがあれば
         ただそれだけで
         未来はきっと明るく照らされた
         正義の道!”         

  ザック「悪いことをやってしまったら仕方ない。でもそれに気付き
      、罪を認め正しい行いでやり直すことが、本当に正しい人
      間のすることなんだ。」
  モア「・・・うん・・・」
  ザック「だからその盗んだ物を返しに行って、ちゃんと謝るんだ
      “すみませんでした”って。そしたら腹一杯食べさせてや
      るよ。」
  モア「・・・タダで・・・?」
  ザック「ああ・・・」
  モア「あたい・・・何もしなくていいのか・・・?」
  ザック「何するんだよ・・・」
  モア「煙突掃除とか・・・靴磨きとか・・・郵便配達とか・・・ベビー
     シッターとか・・・花売りとか・・・」
  ザック「何だよ、それ・・・(笑う。)そんなことしなくたって、パン位
      ご馳走してやるよ。こう見えて、俺だってちゃんと働いて
      るんだ。子ども一人のパン代分位、給料貰ってるんだよ。」
  モア「へぇ・・・」
  ザック「何が“へぇ”だ。」
  モア「・・・あたいも・・・今まで沢山働いて来たんだ・・・。けど、貰
     える金なんて、ほんの僅かで・・・祖母ちゃんと2人、食べて
     くには盗みだって・・・あ・・・そうだ、祖母ちゃんの分・・・」
  ザック「祖母ちゃんの分も付けてやる。」
  モア「本当!?」
  ザック「ああ・・・」
  モア「やった!!あたい、昨日は仕事なくて、祖母ちゃんに何も
     食べさせてやれなかったんだ!!だから、この金・・・(手に
     握っていた金を見る。)許してくれるかな・・・パン屋のおっち
     ゃん・・・」
  ザック「ああ・・・。一緒に行ってやるよ、そのパン屋に・・・」
  モア「(嬉しそうにザックを見る。)ありがとう、兄ちゃん!!」
  ザック「だからもう盗みなんてするな。仕事がなくて、食べる物が
      買えないなら、俺の家へ来い。」
  モア「兄ちゃん家・・・?」
  ザック「ああ・・・ここが俺の家だ・・・」

         絵紗が上がる。と、大きな屋敷の門の前。

  モア「(呆然と。)ここが・・・兄ちゃんの・・・?」
  ザック「俺の家・・・と言うより、俺の親の家だな。(笑う。)」
  モア「・・・何でぇ・・・金持ちじゃねぇか・・・兄ちゃんが稼いで来よ
     うが来まいが・・・寝るのも食べるのも・・・苦労しないんじゃ
     ねぇか!!あたいは金持ちなんか大っ嫌いなんだ!!」

         モア、上手へ走り去る。

  ザック「あ・・・おい!!」

         ザック、呆然と上手を見詰める。
         そこへ下手より、車椅子に乗ったザックの
         母(エレナ。)、その車椅子を押しながら
         ザックの姉(アナベラ。)ゆっくり登場。

  アナベラ「あら?ザックじゃなくて・・・?」
  ザック「(振り返り、2人を認める。)母さん・・・」
  エレナ「おかえりなさい。(微笑む。)」
  ザック「ただいま・・・。お散歩ですか?」
  エレナ「ええ・・・。いいお天気だったから、少し外の空気を吸い
      に・・・」
  ザック「あまり長い時間、冷気に触れては体に良くありませんよ、
      母さん・・・。」
  エレナ「ザックありがとう、心配してくれて。それよりどうしたの?
      こんなところで呆っと・・・。早く中へ入らないと、あなたの
      方こそ風邪をひいてしまうわよ・・・。」
  アナベラ「また何か面白いものでも見つけたのかしら?」
  ザック「姉さん・・・いえ・・・別に・・・」
  エレナ「あなたは昔から、好奇心旺盛だったから・・・。遊びに出
      掛けて何か珍しい物を見つけると、暗くなっても帰って来
      なくて・・・よく召使達が大騒ぎして捜し回っていたわね。
      (笑う。)」
  アナベラ「そうそう・・・(笑う。)」
  ザック「それは・・・(照れ臭そうに。)」
  エレナ「それよりさっき、お父様の病院から連絡があって、今夜
      の夜勤の人手が足りないとかで、あなたに来てもらいた
      いそうよ。帰ったばかりで申し訳ないけれどって・・・。」
  ザック「はい、分かりました。それではこのまま・・・」
  エレナ「そんなに急がなくても、シャワーでも浴びて、少し休んで
      行くといいわ。軽いお食事でも用意させるから・・・」
  ザック「いえ、食事は病院で済ませます。」
  アナベラ「シャワーは?服、汚れてるわよ。またどこかで寝て来
        たのね?(笑う。)」
  ザック「あ・・・(服を払う。)」
  エレナ「兎に角、一度中へ入ってから出かけても、遅くはないわ
      ね。」
  ザック「・・・はい・・・」

         エレナ、アナベラ、門を開けて中へ入る。
         ザック、上手を気にしながら2人に続く。
         カーテン閉まる。

    ――――― 第 2 場 ――――― A

         カーテン前。
         音楽流れ、上手よりモア、ゆっくり登場。
         歌う。

         “何で金持ちばかりが
         得する世の中・・・
         ずるいよ神様 あたい達
         貧乏人も少しくらい
         夢を見たっていいじゃないか
         煌く夜空に楽しい思い
         瞼に浮かぶ幸せな暮らし
         優しい家族に囲まれて
         笑い声が木霊する
         だけど金がないとそんなのただの・・・
         ただの・・・幻想だ・・・”

         そこへ下手より、仲良さそうに微笑み、
         話しながら母親と娘登場。
         モア、2人を認め見詰める。

  モア「あたいだって・・・祖母ちゃんがいるんだ・・・淋しいもんか
     ・・・」

         母親と娘、自分達を見ているモアに気付き、
         怪訝な面持ちでヒソヒソ話す。

  モア「(母娘のヒソヒソ話しに気付き。)なんでぇ!!何か文句あ
     んのかよ!!」
  娘「キャーッ!!」
  母「まぁ、何て子かしら・・・!!(娘を庇うように。)早く行きましょ
    う!!」
  娘「ええ、ママ!!」
  母「(モアの横を通り過ぎる間に。)フン!!汚らしい子ね!!」
  
         母娘、上手へ去る。

  モア「・・・煩いんだよ!!馬鹿野郎!!汚らしくて悪かったな!
     !・・・(自分のなりを見て。)どこが汚いんだ・・・そりゃ・・・
     ちょっとばかし汚れてっけど・・・(自分の臭いを嗅ぐ。)・・・
     シャワー・・・って何だよ・・・(手を広げ、握っていた金を見る
     。)・・・先ず・・・これを返したら・・・風呂に入れてくれんのか
     な・・・兄ちゃん・・・」         









   ――――― “Thank you!リトルレディ”
                        2へつづく ―――――











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2013年4月18日木曜日

“ジュリー” ―全13場― 5




         マイケル、レナードのテーブルに近寄り、
         向かうように腰を下ろす。

  マイケル「レナード・・・(テーブルに瓶とコップを置く。)」
  レナード「(頭を上げる。)よぉ・・・マイケル・・・(瓶とコップを取り
       、酒を注いで飲む。)」
  マイケル「何かあったのか?」
  レナード「別に・・・」
  マイケル「・・・ジュリーは・・・?」
  レナード「・・・ジュリー・・・(酒を飲む。)」
  マイケル「レナード、彼女はどうしたんだ?オードリーのところ
        か?」
  レナード「(首を振る。)俺は・・・彼女を守ることが出来なかった
       ・・・」
  マイケル「え・・・?」
  レナード「彼女は俺を庇って・・・あいつらと共に籠の中へと戻
       って行ったんだ・・・。俺は・・・力も何もない・・・!!(
       テーブルの上を握り拳で叩く。)」
  マイケル「どう言うことだよ?」
  レナード「連れ戻されてしまったんだ・・・自由のない生活にま
       た・・・連れて行かれた・・・。やっとの思いで逃げ出し
       て来たと言うのに・・・」
  マイケル「レナード・・・こんなことは言いたくはないが・・・これ
        で良かったんじゃないか・・・?彼女とは住む世界が
        違うんだ。いずれ彼女は帰ってしまう人間なんだよ
        。いくらおまえが本気になったところで・・・所詮・・・
        叶わない恋なんだ。(レナードの肩に手を掛ける。)
        おまえには言い寄って来る女は、いくらでもいるだ
        ろ?」
  レナード「(マイケルの手を払い除ける。)おまえに何が分かる
       ・・・」
  マイケル「レナード・・・」
  レナード「(立ち上がってマイケルの胸元を掴む。)彼女のこと
       を知りもしないで、好き勝手言うな!!」
  マイケル「・・・悪かったよ・・・軽はずみだった。ただ俺はおま
        えのことが心配で・・・」
  レナード「(マイケルの肩に手を掛ける。)・・・ありがとう・・・。
       だが俺は自分が許せないんだ・・・自分の力のなさが
       ・・・こんなにも身に染みて分かるなんて・・・。おまえ
       に八つ当たりして悪かったな・・・」
  マイケル「いいさ・・・」

         その時、入口から誰かを捜すように、
         ダンテス入って来て、レナードを認め
         近寄る。

  マイケル「そう落ち込むなよ。」
  レナード「ああ・・・。(椅子に腰を下ろす。)飲もうぜ!今夜は徹
       底的に!(近くにいたラリーに向かって。)おい、もう一
       つグラスを頼む。」
  ダンテス「もう2つにしてもらえるかね?」
  レナード「(ダンテスを認めて。)ダンテスさん・・・(ラリーに向か
       って。)2つ頼む。」

         ラリー、カウンターの方へ。

  ダンテス「教室の方へ寄ったら、ここじゃないかと聞いたもので
       ね。」
  レナード「何か俺に用でも?」
  ダンテス「いや何、たいしたことではないのだが・・・(レナード
        に向かい、椅子を指差し。)いいかね?」
  レナード「ええ・・・」
  ダンテス「(腰を下ろす。)今度の“ダンサー”のオーディション
       は、勿論受けるんだろうね?」
  レナード「・・・そのつもりですが・・・」
  ダンテス「それはよかった。私はあの役は君にこそ相応しいと
       思っているのだ。」
  ラリー「(グラスを2つ持って来て、テーブルに置いて下がる。)
      どうぞ。」
  レナード「ありがとう、ラリー。(グラスに酒を注ぎ、ダンテスと
       マイケルに渡す。)」
  ダンテス「どうも。」
  レナード「あの役は、俺が長い間待ち望んでいたものです。俺
       自身、あの役をできるのは俺しかいないと思っている
       ・・・。ダンドラさん・・・俺はあの役を他の誰にも渡す気
       はありませんよ。」
  ダンテス「それを聞いて安心したよ。オーディションでは、君が
       あの役をやるにどれ程相応しい人物であるか、思いっ
       きり見せてくれたまえ。」
  レナード「言われなくてもそのつもりです。」
  ダンテス「楽しみにしているよ。じゃあ私はこれで。(グラスの
       酒を一気に飲み干し、あまりのキツさに頭を振って目
       を見開く。驚いた面持ちでグラスの中を覗き込みテー
       ブルへ置く。フラフラと立ち上がり。)ご馳走様・・・邪魔
       したね・・・」
  マイケル「ダンテスさん、大丈夫ですか?」
  ダンテス「ああ・・・」

         ダンテス、フラフラしながら出て行く。

  マイケル「こんなもの一気に飲み干すなんて、無茶な人だな。」
  レナード「(グラスの酒を一気に飲む。)」
  マイケル「(驚いて。)おい!!」
  レナード「・・・自分のことのように喜んでたあいつの為にも・・・
       あの役は必ず・・・この俺が手に入れてみせる!!」

         暗転。カーテン閉まる。

      ――――― 第 10 場 ―――――

         カーテン前。
         上手よりジュリー登場。つづいてジャック
         登場。

  ジュリー「(溜め息を吐いて振り返る。)家の中を行き来するの
       にも、ずっとついて来られたら気が滅入ってしまいます
       !」
  ジャック「私はあなたのボディーガードとして雇われています。
       結婚式が無事終了するまで、たとえ家の中であろうと
       あなたの側を離れることはありません。」
  ジュリー「一人になれるのは眠る時だけ!!バスルームに入
       る時にも扉の外にはあなたが立っているなんて!!」
  ジャック「お祖父様は、あなたが一度逃げ出したと言う事実に
       用心なさっているのです。今度あんなことがおこれば、
       ただでは済みませんからね・・・。」
  ジュリー「・・・もう逃げたりしませんわ・・・」
  ジャック「それはどうでしょう。」
  ジュリー「どう言う意味かしら・・・」
  ジャック「あれからもうだいぶ経つと言うのに、あなたはまだあ
       の男のことを忘れてはいない・・・」
  ジュリー「何故言い切れるの・・・!?私のことを知りもしないで
       !!」
  ジャック「あなたの目を見ていれば分かります。いつも遠くを見
       ているような目を・・・。あなたの瞳には、まだあの男が
       映っているのです。」
  ジュリー「・・・何故いけないの・・・?何故恋をしてはいけないの
       ・・・?初めてだったのよ・・・こんな気持ち・・・!あなた
       には分からないわね!いつも自由気儘に好きなことの
       出来るあなたになんて、私の気持ちは分からないわ!
       !」

         ジュリー、ジャックに近寄り、突き放すように
         叩き続ける。

  ジュリー「どこかへ行って!!私に付きまとわないで!!一人
       にして!!」

         ジュリー、暫く興奮して叩き続ける。
         (ジャック、黙って立つ。)

  ジュリー「あ・・・(ハッとして手を止める。)」
  ジャック「・・・落ち着きましたか?」
  ジュリー「・・・ごめんなさい・・・私ったら・・・。大丈夫ですか・・・
       ?」
  ジャック「勿論。こんなくらいで倒れるようでは、仕事になりませ
       んから・・・」
  ジュリー「・・・本当にごめんなさい・・・。あなたに八つ当たりす
       るなんて・・・」
  ジャック「残念ながら、あなたの気持ちを全て理解することは
       出来ません。・・・だが・・・少しなら・・・」
  ジュリー「・・・え?」
  ジャック「・・・初めて誰かに恋したあなたの気持ちは・・・」
  ジュリー「・・・あなたも・・・恋をしたことがあるのね・・・」
  ジャック「ずっと昔の話しです・・・。こんな仕事につく前の・・・」
  ジュリー「どうして・・・?最近の話しではないの・・・?」
  ジャック「今の私には無用の感情です。」
  ジュリー「それで淋しくはないの・・・?」
  ジャック「そんな感情もありません。」
  ジュリー「嘘・・・」
  ジャック「本当です。」
  ジュリー「ないなんて嘘よ・・・抑え込んでいるだけだわ・・・。誰
       だって人を好きになったり、いつもその人といたいと
       思ったり・・・もし別れがあった時に、淋しいと思ったり
       ・・・そう言う感情を持っているものよ・・・」
  ジャック「・・・あなたは・・・淋しかった・・・?」
  ジュリー「ええ!!決まってるじゃない・・・。戻らなければなら
       ないと思った時、もう二度とレナードと会えないと思っ
       た時、堪らなく淋しくて・・・悲しくて・・・胸が張り裂けそ
       うだった・・・。こんなことなら・・・勇気なんて出すんじゃ
       なかったって・・・勇気を出して家を飛び出さなければ
       ・・・そうすればレナードと会うこともなく・・・こんな辛い
       思いをすることもなかったわ・・・。でも・・・でも今は違
       う!!私は彼に会えて良かったのよ!!彼に出会っ
       て夢を見ること・・・それを叶える為に努力すること・・・
       束の間だったけれど、自由に色んなところへ出掛けた
       り・・・初めて行った映画館も・・・色々なことを彼に教
       えてもらって・・・短い時間だったけれど・・・幸せだった
       わ・・・」
  ジャック「・・・お嬢さん・・・」
  ジュリー「だからあなたも感情を抑え込んで、ないふりなんて
       しないで・・・。そうすれば、もっと色々なことが見えて
       きて、生きることが今まで以上に、素晴らしいものにな
       る筈よ・・・」

         ジュリー、下手へ去る。
         ジャック、ジュリーの後ろ姿を見つめたまま
         立ち尽くす。

  ジャック「感情を押さえ込まないで・・・か・・・」

         ボビー、上手より登場。

  ボビー「ジャックさん。」
  ジャック「(振り返る。)おまえか・・・」
  ボビー「あれ?お嬢さんは?」
  ジャック「さぁ・・・」
  ボビー「さぁ・・・って!?どうするんですか、またいなくなったり
      したら!!」
  ジャック「心配するな・・・彼女はもう逃げ出したりしないさ・・・」
  ボビー「・・・ジャックさん・・・?」

         フェード・アウト。