2013年4月19日金曜日
“Thank you!リトルレディ” ―全8場―
〈 主な登場人物 〉
ザック・ハミエル ・・・ 本編の主人公。お金持ちの息子。
モア ・・・ お祖母さんと2人暮らしの少女。
エレナ ・・・ ザックの母親。
アナベラ ・・・ ザックの姉。
パン屋の主人
お祖母さん ・・・ モアの祖母。
その他。
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――――― 第 1 場 ―――――
音楽流れ、幕が上がる。と、公園(絵紗前。)
の風景。
中央に一つのベンチ。
下手より、コートに帽子を被ったザック、
ゆっくり登場。
ザック「ふぁあ・・・(伸びをする。)・・・流石に2日続きの夜勤明け
はキツイなぁ・・・だけど、不思議だ・・・」
ザック、歌う。
“この心地良い筈の疲労感・・・
今日も誰かの役に立てただろうか
それともそれは単なる驕りだろうか・・・
自己満足かも知れないなら
そんな無意味なことはない・・・
そんな風にふと感じ
心地良い疲れが
肩に重く伸し掛る・・・”
ザック、ベンチへ腰を下ろし、帽子を顔に
乗せ、眠ったよう。
一時置いて、どこからか声が聞こえる。
声「泥棒ーっ!!誰が、その子どもを捕まえてくれーっ!!」
そこへ上手より、一人の汚れた身形の
子ども(モア。)後ろを気にしながら走り
登場。
モア「へへーんだ!!誰が捕まるもんか!!いーっ!!(舌を
出す。)」
モア、ザックの前を通り過ぎようとした時、
寝ている様子のザック、足を差し出す。
モア、その足に引っ掛かって転ぶ。
モア「わあっ!!何すんだよ、おっさん!!いってぇ・・・!!」
声「どこに行った!?どこだーっ!!」
モア「(上手方を見て。)やっべぇ・・・!!(慌てて立ち上がり、
下手方へ行こうとする。)」
ザック「(モアの腕を掴む。)」
モア「わ・・・!!離せよっ!!何すんだよ!!」
ザック「(ベンチの後ろを指差す。)」
モア「・・・え?」
ザック「(顎でベンチの後ろへ行くように指し示す。)」
声「どこ行った!?こっちか!?」
モア「あ・・・(その声に慌ててザックに指示された通り、ベンチの
後ろへ身を隠す。)」
ザック、再び帽子を顔に乗せ、眠ったように。
そこへ上手より2人の商売人風の男、息を
切らせながら走り登場。
男1「待てーっ!!(回りを見回して。)どこ行ったんだ!!」
男2「全く、逃げ足の早い餓鬼だぜ!!(回りを見回す。)」
男1「(下手方を見て。)あっちの方も捜してみようぜ!!」
男1「ああ!!」
2人の男、下手へ走り去る。
ザック「(帽子を取り、下手を見る。男達が走り去ったのを見計ら
って、ベンチの背をノックする。)おい・・・もう出て来てもい
いぞ・・・」
モア「(ゆっくりベンチの後ろから顔を出す。)ホント・・・?」
ザック「全く・・・人の心地良い眠りを妨げやがって・・・」
モア「(ベンチの後ろから出て来る。)はぁー、助かったぜ。あん
な奴ら、チョロいったらありゃしない。(笑う。)さてと、これで
パンでも買って・・・(上手方へ行きかける。)」
ザック「(モアの服を掴む。)」
モア「何すんだよ!!」
ザック「ばーか!!何がチョロいんだ!!人様の物を盗んどい
て、助かるも何もないだろ!!(モアの頭を小突く。)」
モア「いてっ!!いいだろ!!あたいが何しようが!!」
ザック「・・・あたい・・・?おまえ、今“あたい”って言ったのかよ・・・
?」
モア「あたいって言っちゃあ悪いかよ!!何だよ!!変なおっさ
ん・・・」
ザック「馬鹿野郎!!女の子がそんななりして泥棒なんて、どう
なってんだ世の中は!!」
モア「女だろうが男だろうが関係ないね!!そんなこと!!世
の中、金のある奴らだけが温々と暮らせて、腹一杯美味し
いもんが食えるなんて不公平だ!!だから、あたいは金の
ある奴らから、こうやって分け前をちょっとばかし拝借して、
祖母ちゃんにパンを買ってやるんだ!!それのどこが悪い
んだよ、ばーか!!」
ザック「おまえなぁ・・・その口の聞き方、どうにかならないのか?
」
モア「どこが悪いんだよ!!仕方ねぇだろ!!あたいは生まれ
てから一度だって、学校なんてもんとは無縁の生活をして
来たんだから!!」
ザック「(モアを頭の天辺からつま先まで見て。)それにその格好
・・・何か臭くないか?おまえ・・・ちゃんと風呂入ってんの
か?」
モア「ふろ・・・?何だ?ふろって・・・」
ザック「シャワーだよ、シャワー!!シャワー位、浴びたことある
だろ!?」
モア「浴びる・・・?ああ、川で水浴びしたことなら、いくらだって
あらぁ!!(笑う。)」
ザック「そうじゃなくて・・・(溜め息を吐く。)おまえ・・・うち来るか
・・・?」
モア「・・・え・・・?(怪しむような目でザックを見る。)」
ザック「そんな目で見なくても・・・怪しむようなことは何もないさ
・・・。腹減ってんだろ?」
モア「(お腹が鳴る。“グー”)・・・(お腹を押さえる。)あ・・・」
ザック「パン位ご馳走してやるよ。」
モア「・・・本当・・・?」
ザック「ああ・・・。それにお客が来ると母や姉も喜ぶんだ。」
モア「母ちゃんと・・・姉ちゃんがいるの・・・?」
ザック「ああ・・・嫁さんじゃなくて悪いけど・・・。」
モア「・・・おっちゃんの家に・・・」
ザック「あのなぁ・・・俺はまだ若いんだ!おまえに“おじさん”呼
ばわりされるような年じゃ・・・まぁいいか・・・せめて“兄ち
ゃん”にしてくれ。」
モア「・・・うん、了解兄ちゃん!で・・・?兄ちゃん家って・・・」
ザック「直ぐそこだ。だがその前に、先ず・・・いいか?世の中盗
みなんてもんは絶対にやってはいけないことなんだ。そん
なことをするのは、人間として恥ずかしいことなんだ。」
音楽流れ、ザック歌う。
“人として
やってはいけないことがある
人だから
やらなきゃいけないこともある
間違いが
悪い訳じゃないんだ だけど
間違いに
気付けば直ぐに正すこと
その気持ちがあれば
ただそれだけで
未来はきっと明るく照らされた
正義の道!”
ザック「悪いことをやってしまったら仕方ない。でもそれに気付き
、罪を認め正しい行いでやり直すことが、本当に正しい人
間のすることなんだ。」
モア「・・・うん・・・」
ザック「だからその盗んだ物を返しに行って、ちゃんと謝るんだ
“すみませんでした”って。そしたら腹一杯食べさせてや
るよ。」
モア「・・・タダで・・・?」
ザック「ああ・・・」
モア「あたい・・・何もしなくていいのか・・・?」
ザック「何するんだよ・・・」
モア「煙突掃除とか・・・靴磨きとか・・・郵便配達とか・・・ベビー
シッターとか・・・花売りとか・・・」
ザック「何だよ、それ・・・(笑う。)そんなことしなくたって、パン位
ご馳走してやるよ。こう見えて、俺だってちゃんと働いて
るんだ。子ども一人のパン代分位、給料貰ってるんだよ。」
モア「へぇ・・・」
ザック「何が“へぇ”だ。」
モア「・・・あたいも・・・今まで沢山働いて来たんだ・・・。けど、貰
える金なんて、ほんの僅かで・・・祖母ちゃんと2人、食べて
くには盗みだって・・・あ・・・そうだ、祖母ちゃんの分・・・」
ザック「祖母ちゃんの分も付けてやる。」
モア「本当!?」
ザック「ああ・・・」
モア「やった!!あたい、昨日は仕事なくて、祖母ちゃんに何も
食べさせてやれなかったんだ!!だから、この金・・・(手に
握っていた金を見る。)許してくれるかな・・・パン屋のおっち
ゃん・・・」
ザック「ああ・・・。一緒に行ってやるよ、そのパン屋に・・・」
モア「(嬉しそうにザックを見る。)ありがとう、兄ちゃん!!」
ザック「だからもう盗みなんてするな。仕事がなくて、食べる物が
買えないなら、俺の家へ来い。」
モア「兄ちゃん家・・・?」
ザック「ああ・・・ここが俺の家だ・・・」
絵紗が上がる。と、大きな屋敷の門の前。
モア「(呆然と。)ここが・・・兄ちゃんの・・・?」
ザック「俺の家・・・と言うより、俺の親の家だな。(笑う。)」
モア「・・・何でぇ・・・金持ちじゃねぇか・・・兄ちゃんが稼いで来よ
うが来まいが・・・寝るのも食べるのも・・・苦労しないんじゃ
ねぇか!!あたいは金持ちなんか大っ嫌いなんだ!!」
モア、上手へ走り去る。
ザック「あ・・・おい!!」
ザック、呆然と上手を見詰める。
そこへ下手より、車椅子に乗ったザックの
母(エレナ。)、その車椅子を押しながら
ザックの姉(アナベラ。)ゆっくり登場。
アナベラ「あら?ザックじゃなくて・・・?」
ザック「(振り返り、2人を認める。)母さん・・・」
エレナ「おかえりなさい。(微笑む。)」
ザック「ただいま・・・。お散歩ですか?」
エレナ「ええ・・・。いいお天気だったから、少し外の空気を吸い
に・・・」
ザック「あまり長い時間、冷気に触れては体に良くありませんよ、
母さん・・・。」
エレナ「ザックありがとう、心配してくれて。それよりどうしたの?
こんなところで呆っと・・・。早く中へ入らないと、あなたの
方こそ風邪をひいてしまうわよ・・・。」
アナベラ「また何か面白いものでも見つけたのかしら?」
ザック「姉さん・・・いえ・・・別に・・・」
エレナ「あなたは昔から、好奇心旺盛だったから・・・。遊びに出
掛けて何か珍しい物を見つけると、暗くなっても帰って来
なくて・・・よく召使達が大騒ぎして捜し回っていたわね。
(笑う。)」
アナベラ「そうそう・・・(笑う。)」
ザック「それは・・・(照れ臭そうに。)」
エレナ「それよりさっき、お父様の病院から連絡があって、今夜
の夜勤の人手が足りないとかで、あなたに来てもらいた
いそうよ。帰ったばかりで申し訳ないけれどって・・・。」
ザック「はい、分かりました。それではこのまま・・・」
エレナ「そんなに急がなくても、シャワーでも浴びて、少し休んで
行くといいわ。軽いお食事でも用意させるから・・・」
ザック「いえ、食事は病院で済ませます。」
アナベラ「シャワーは?服、汚れてるわよ。またどこかで寝て来
たのね?(笑う。)」
ザック「あ・・・(服を払う。)」
エレナ「兎に角、一度中へ入ってから出かけても、遅くはないわ
ね。」
ザック「・・・はい・・・」
エレナ、アナベラ、門を開けて中へ入る。
ザック、上手を気にしながら2人に続く。
カーテン閉まる。
――――― 第 2 場 ――――― A
カーテン前。
音楽流れ、上手よりモア、ゆっくり登場。
歌う。
“何で金持ちばかりが
得する世の中・・・
ずるいよ神様 あたい達
貧乏人も少しくらい
夢を見たっていいじゃないか
煌く夜空に楽しい思い
瞼に浮かぶ幸せな暮らし
優しい家族に囲まれて
笑い声が木霊する
だけど金がないとそんなのただの・・・
ただの・・・幻想だ・・・”
そこへ下手より、仲良さそうに微笑み、
話しながら母親と娘登場。
モア、2人を認め見詰める。
モア「あたいだって・・・祖母ちゃんがいるんだ・・・淋しいもんか
・・・」
母親と娘、自分達を見ているモアに気付き、
怪訝な面持ちでヒソヒソ話す。
モア「(母娘のヒソヒソ話しに気付き。)なんでぇ!!何か文句あ
んのかよ!!」
娘「キャーッ!!」
母「まぁ、何て子かしら・・・!!(娘を庇うように。)早く行きましょ
う!!」
娘「ええ、ママ!!」
母「(モアの横を通り過ぎる間に。)フン!!汚らしい子ね!!」
母娘、上手へ去る。
モア「・・・煩いんだよ!!馬鹿野郎!!汚らしくて悪かったな!
!・・・(自分のなりを見て。)どこが汚いんだ・・・そりゃ・・・
ちょっとばかし汚れてっけど・・・(自分の臭いを嗅ぐ。)・・・
シャワー・・・って何だよ・・・(手を広げ、握っていた金を見る
。)・・・先ず・・・これを返したら・・・風呂に入れてくれんのか
な・・・兄ちゃん・・・」
――――― “Thank you!リトルレディ”
2へつづく ―――――
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