2013年4月23日火曜日

“Thank you!リトルレディ” ―全8場― 3

   ――――― 第 4 場 ―――――

         カーテン開く。と、ハミエル邸居間。
         その時、上手方からモアの声が聞こえる。

  モアの声「わあーっ!!」

         そこへ上手より、ボールが飛び込んでくる。
         (窓際の花瓶に当たり割れる。
         音“ガッシャーン”) 
         一時置いてモア、走り登場。

  モア「やっべぇ・・・!!」

         モア、転がっていたボールを拾い、
         回りを見回し、抜き足差し足で上手方へ。
         そこへ下手より、車椅子に乗ったエレナ、
         ゆっくり登場。

  エレナ「まぁまぁ、元気のいい娘さんだこと・・・(笑う。)」
  モア「(その声に驚いて立ち止まり、ゆっくり振り返る。)は・・・は
     は・・・(作り笑いする。)あたい・・・暇だったから・・・ちょっと
     そこの階段の踊り場で・・・」
  エレナ「ボール遊びかしら?」
  モア「あ・・・いや・・・このボール・・・兄ちゃんの部屋に転がって
     たんだ!だから・・・」
  エレナ「そのボールは、ザックの思い出のボールなのよ。(微笑
      む。)」
  モア「思い出・・・?」
  エレナ「ええ。学生時代にずっとサッカーをやっていた・・・」
  
         そこへ下手よりアナベラ登場。
       
  アナベラ「(エレナの言葉を遮るように。)運動音痴のザックが、
        ゴールを決めた最初で最後のボールよ。(笑う。)」
  モア「兄ちゃんが運動音痴って・・・!(笑う。)」
  エレナ「アナベラ・・・あなたは相変わらずザックには辛口ね。」
  アナベラ「あら、お母様、ザックは運動は苦手だったかも知れな
        いけれど、勉強が出来たんだから、それで良かったの
        よ。下手に運動が少しくらい出来て、そちらの方に興
        味が強ければ、ザックのことだからお父様の跡を継い
        で、お医者様になったかどうか怪しいものよ。(笑う。)
        」
  エレナ「そうだわね。」

         モア、2人が話している間に、ボールを
         持って上手方へ、そっと出て行こうとする。

  エレナ「モアちゃん!」
  モア「(その呼び掛けに驚いて立ち止まる。)はいっ!」
  エレナ「こっちへいらっしゃい。(手招きする。)」

         モア、ゆっくりエレナの側へ近寄る。
         アナベラ、その様子をチラッと見ながら
         ソファーへ腰を下ろし、テーブルの上の
         本を手に取る。

  モア「・・・何だよ・・・おばちゃん・・・」
  エレナ「あなた、可愛いお顔しているのに、その言葉使いは少し
      残念ね。」
  モア「んなこと言われたって・・・」
  エレナ「それにその汚れたお洋服も・・・」
  モア「(自分の服を見る。)・・・何か可笑しい・・・のかよ・・・」
  エレナ「そうねぇ・・・先ずは・・・」

         音楽流れ、エレナ歌う。

         “お風呂に入りましょう
         身奇麗にして
         石鹸の香りに包まれるのよ
         髪を梳かして
         可愛いリボンをつけましょう
         頭の上からつま先まで
         ピカピカにして着飾りましょう
         女の子らしくフワフワの
         ドレスを着ましょうピンク色
         ほら忽ち可愛いレディに大変身!”

         エレナ、モアの髪に、引き出しから
         取り出したリボンをつける。
         テーブルの上の手鏡を、モアへ
         差し出す。

  エレナ「どうかしら?」
  モア「・・・(鏡を見て。)あ・・・女みてぇだ・・・」
  エレナ「女みてぇ・・・じゃないのよ。あなたは紛れもなく、可愛ら
      しい女の子なんだから。」
  アナベラ「また始まったわ・・・お母様のご病気が・・・」
  エレナ「まぁ、失礼ね、アナベラ・・・。私のどこが病気なのかしら
      ・・・」
  アナベラ「あら、お忘れかしら?お母様のデコレーション病。家
        の中の調度品は勿論のこと、私たち姉弟・・・その手が
        離れたら、次はいとこのマーサ・・・そしてお隣の家の
        マリィ・・・それから愛犬のジョン・・・そうそう、愛猫のネ
        リーを忘れちゃ駄目ね。(笑う。)ほら、これが証拠の写
        真・・・(写真を取り出し、テーブルの上へ置く。)」
  モア「わあーっ・・・!(写真を手に取る。)へぇ・・・皆、可愛く着飾
     ってら・・・あれ・・・?これ・・・」
  アナベラ「(写真を覗き込む。)ああ、ザックね。」
  モア「・・・兄ちゃん・・・?」
  アナベラ「そうよ。」
  モア「えーっ!?兄ちゃん、こんなフリフリのブラウス着て、女み
     たいだ!!(大笑いする。)」
  アナベラ「そうでしょ!お母様は男でも女でも、生きてるもので
        も身につけるものでも・・・何だってこんな風に、可愛く
        デコレーションしてしまうのよ。」
  モア「へぇ・・・」
  エレナ「あら・・・いいじゃない。可愛いものに囲まれて、生活して
      いると、幸せな気分になれるんですもの。」
  アナベラ「まあお母様の趣味だから、皆諦めているけれど・・・」
  モア「ふうん・・・」
  アナベラ「だから次は、あなたの番って訳よ。」
  モア「えーっ・・・?あたい、今までスカートだって、履いたことな
     いのに・・・」

         その時、上手よりザック登場。

  ザック「ただいま・・・」
  モア「・・・あ!兄ちゃん!」
  エレナ「おかえりなさい、ザック。」
  アナベラ「おかえり・・・」
  ザック「何か面白いことでもあったのかい?楽しそうな笑い声が
      扉の外まで聞こえていたよ。」








  ――――― “Thank you!リトルレディ”
                       3.5へつづく ―――――










      
  
      

0 件のコメント:

コメントを投稿