ザック「ただいま・・・」
モア「・・・あ!兄ちゃん!」
エレナ「おかえりなさい、ザック。」
アナベラ「おかえり・・・」
ザック「何か面白いことでもあったのかい?楽しそうな笑い声が
扉の外まで聞こえていたよ。」
アナベラ「またお母様のご病気が始まったのよ。(笑う。)」
ザック「病気・・・」
モア「ほら!これ見てみろよ!兄ちゃんの可愛いカッコ!(写真
を見せるように。)」
ザック「あ・・・!!それは!!おまえ!!その写真、どこで・・・
!!返せよ!!」
モア「嫌だよ!!姉ちゃんが見せてくれたんだから!!」
ザック「姉さん!」
アナベラ「あら、折角おしゃれしたあなたの写真、モアちゃんに
見せてあげたって構わないでしょう?(笑う。)」
ザック「・・・おしゃれって・・・」
モア「おばちゃん!この写真、あたいが貰ってもいいか?」
ザック「おまえ・・・何言ってんだよ・・・!!」
エレナ「まぁ、そんな写真どうするの?可愛いザックの写真なら
沢山あるから、1枚くらいあなたにあげたって構わないけ
れど・・・」
ザック「母さん・・・!!」
モア「やったっ!!」
ザック「おい、返せ!!返せったら・・・(写真を取ろうとする。)」
モア「ヤダね!!(写真を持って逃げる。)」
ザック「おい、おまえ・・・おい、待てったら!!(モアを追い掛け
る。)そんな写真、一体どうすんだよ!」
モア「あたい・・・淋しくなったらこの写真を見て笑うんだ・・・」
ザック「・・・え・・・?」
モア「そのうち祖母ちゃんが元気になって、家に帰れるようにな
るだろ?そしたらあたい、また祖母ちゃんと村に戻って、2
人で暮らしていくことになるんだ・・・。あたい・・・今までこん
な風に・・・沢山の家族に囲まれて生活したことなんてない
から・・・今の・・・この賑やかで楽しい生活を・・・一生忘れ
たくないんだ・・・。この写真見たら・・・楽しかった今を、思い
出せるじゃないか・・・。だからこの写真・・・持ってっていい
だろ?なぁ、兄ちゃん!!」
ザック「おまえ・・・」
アナベラ「あら、じゃあお祖母様が退院なさったら、2人揃って家
で暮らせばいいじゃない。ねぇ、お母様。」
エレナ「そうねぇ・・・それはいいアイデアだわ、アナベラ。」
モア「・・・おばちゃん・・・」
エレナ「ねぇモアちゃん、そうしなさいよ。何も村外れの淋しい場
所へ帰ることはないわよ。ずっとここにいればいいのよ。」
ザック「母さん・・・」
エレナ「ねぇザック!あなたも名案だと思うでしょう?」
ザック「それはそうだが・・・。そうですね・・・(モアに向いて。)ど
うだ?ここで一緒に暮らすかい?ずっとここにいていいん
だぞ。」
モア「・・・ありがとう・・・おばちゃん・・・姉ちゃん・・・それに兄ちゃ
ん・・・。あたい・・・こんな温かい家族の温もりを感じたのっ
て・・・初めてだ・・・。」
エレナ「じゃあ直ぐにも引越しの準備を・・・」
モア「(首を振る。)・・・ううん・・・あたい・・・祖母ちゃんが元気に
なったら・・・祖母ちゃんと一緒に、自分家へ帰るよ・・・」
エレナ「どうしてなの?」
モア「そりゃ・・・ここは家ン中にシャワーがあって・・・床はフカフ
カだし・・・ボール遊びが出来る程広い廊下があって・・・お
ばちゃん達や兄ちゃんがいて・・・こんなとこがホントにあた
いン家だったら、どんなにいいだろうって・・・」
エレナ「だったら・・・」
モア「でも・・・あの家は・・・父ちゃんと母ちゃんと一緒に暮らした
家なんだ・・・」
ザック「・・・え・・・」
モア「まだ何も分からない小さい頃に、2人共死んじゃって・・・そ
れから祖母ちゃんとずっと2人で暮らして来たから・・・父ち
ゃんの顔も・・・母ちゃんの顔も、思い出そうったって思い出
せねぇんだけど・・・あの家には・・・父ちゃんと母ちゃんの香
りが染み付いてんだ・・・」
ザック「・・・モア・・・」
モア「こんな風に写真も残ってないけど・・・父ちゃんと母ちゃん
がそこにいた・・・その温もりがあの家には残ってるんだ・・・
!だから、あたい・・・」
ザック「・・・分かったよ・・・もう・・・。その変わり、またいつでも遊
びに来ていいんだぞ。(モアの頭に手を置く。)」
モア「・・・兄ちゃん・・・うん・・・ありがとう・・・」
アナベラ「ザック・・・」
その時、上手より執事(マーベリック。)
登場。
マーベリック「奥様・・・」
エレナ「どうしたの?マーベリック。」
マーベリック「それが・・・玄関に何やら様子の怪しい者が参って
おりまして、奥様に会わせろと騒いでいるのですが
・・・」
ザック「・・・怪しい者・・・?」
マーベリック「はい・・・」
エレナ「まぁ・・・どなたかしら・・・」
ザック「母さん、僕が会いましょう。マーベリック、中へ通してくれ
・・・」
マーベリック「はい。」
モア「・・・兄ちゃん・・・」
マーベリック、上手へ去る。
ザック残してカーテン閉まる。
――――― 第 5 場 ―――――
一時置いて、上手よりマーベリック、続いて
粗末な身形の1人の女性(シンシア。)登場。
マーベリック「ザック様、お連れしました。」
マーベリック、上手へ去る。
ザック「(振り返って2人を認める。)」
シンシア「(興奮した様子でザックの側へ。)どこにいるんだい!
?愛しい私の子は!!ここにいるんだろ!?早く呼ん
で来とくれよ!!」
ザック「・・・失礼ですが・・・あなたは・・・」
シンシア「何言ってんだい!!あんたん家に誘拐された子の母
親だよ!!」
ザック「誘拐・・・?」
シンシア「ああ、そうさ!!私が働きに出る間、婆さん家に預け
て行った、モ・・・モ・・・モグ・・・モグだよ!!さっさと返
しとくれ!!今までずっと会わずして、寝る間も惜しん
で働いて来て、今日やっと家に戻ってみたら家はもぬ
けの殻だ!途方に暮れていたら、親切な人がここに連
れて行かれたって教えてくれたんだよ!!家の子を
拐って、外国へでも売り飛ばすつもりかい!?それと
もここの使用人にでもするつもりかね!?そんなこと
はさせないよ!!男手は子どもだろうが何だろうが貴
重なんだ!!家の子をタダであんたン家に持ってか
れたんじゃあ、堪ったもんじゃないよ!!さぁモグ!!
出ておいで!!母さんが助けに来てやったよ!!そ
れとも何かい・・・?どうしてもあの子が欲しいって言う
んなら・・・相談に乗らなくもないよ・・・。そりゃあ私だっ
て、自分の腹を痛めて産んだ子を手放すのは忍びな
いさ!!だけど婆さんと2人、働き手がなくなったら、
こっちとしても困るじゃないか・・・。その辺は・・・どうな
んだい?」
ザック「あなたは金で自分の子を売ると・・・?」
シンシア「だから言ってるだろ・・・私だって、可愛い我が子を手
放すのは辛いさ・・・(身に着けていたエプロンで、目頭
を押さえる。)だけど・・・あの子も必要とされた場所で
生活出来るのが幸せに決まってんだ・・・。」
カーテン開く。と、玄関ホール。
その時、後方階段をモア、ゆっくり
下りて来る。
ザック「(モアを認め、手を上げて合図する。)ああ、こっちだ・・・」
モア「・・・兄ちゃん・・・何・・・?」
ザック「この人がおまえに用があるそうだ、モア。」
シンシア「・・・モア・・・?(小声で。)え・・・モグじゃないのかい?
ん・・・?モ・・・ア・・・?」
モア「・・・おばちゃん・・・誰・・・?」
シンシア「あ・・・ああ!!(小声で。)この際、名前なんてどうで
もいいわ・・・!!モア!!会いたかったよ!!どんな
に長いこと、この日を夢見て来たと思ってんだい!!
さぁ、早くもっとこっちへ来て、母ちゃんに顔をよく見せ
とくれ!!まぁ・・・何て立派な男の子におなりだい・・・
!!(モアに近寄りながら。)」
モア「・・・母ちゃん・・・?母ちゃん・・・って・・・」
シンシア「そうだよ、モア!母ちゃんだよ!!」
モア「嘘だ・・・」
シンシア「嘘なもんか!!ほらこうやって、今日やっと出稼ぎか
ら戻って、その足で真っ先におまえを迎えに来たんだ
よ!!」
モア「嘘だ・・・嘘吐き!!母ちゃんは死んだんだ!!ずっと・・・
ずっと昔に!!祖母ちゃんがそう言ってた!!」
シンシア「嘘なんかじゃないよ、モア!!ほら、この通り母ちゃ
んは生きて・・・」
ザック「お引き取り下さい。」
シンシア「・・・え?」
ザック「残念だが、あなたはこの子の母親でも何でもないようだ
。」
シンシア「どうしておまえにそんなことが分かるんだい!!実の
母親の私がそう言ってんだよ!!それのどこが嘘だ
って言うんだい!!昔々に生き別れた実の母親を、
嘘つき呼ばわりするなんて、どう言った見解だね!!
・・・まぁ、どうでもいいさ、そんなこと!子どもを返さな
いってんなら、金を払いな!!この子の代金だ!!そ
れとも誘拐罪で訴えようか?大病院の名に傷が付くね
ぇ・・・(笑う。)」
モア「兄ちゃん・・・」
ザック「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・あなたは初めからとん
だ勘違いをなさっているようだが・・・」
シンシア「勘違い・・・?何が勘違いなんだよ・・・!!」
ザック「あなたはこの子を、お腹を痛めて産んだ子だと・・・そう
言われましたね?」
シンシア「あ・・・ああ、そうさ・・・それがどうしたんだい・・・」
ザック「ならば・・・自分の産んだ子の性別も分からないような母
親がどこにいると言うんだ!!」
シンシア「・・・え・・・?」
ザック「モアはこんな格好をしてはいるが、正真正銘、女の子だ
!!」
シンシア「・・・女・・・?あ・・・え・・・?私・・・さっきから・・・可愛い
娘になったね・・・って・・・だから・・・(狼狽えたように。
)」
ザック「こちらが反対に脅迫罪で訴えてもいいんだぞ!!」
シンシア「きょ・・・脅迫だって・・・!?一体私がいつ・・・(観念し
たように。)キーッ!!ええいっ!!何だっておまえは
女のくせに、そんな汚らしい格好をしてるんだい!!
女なら女らしく、もっと身奇麗にしときなってんだ!!
フン!!あのパン屋の糞親父!!男だなんて、いい
加減なことを吹き込みやがって!!全く、頭にくるよ!
!もうちょっとで金をたんまりふんだくれたって言うの
に!!キーッ!!」
シンシア、一人ブツブツと怒りながら、
上手へ去る。
ザック「何なんだ一体・・・」
モア「あたい・・・」
ザック「ん?」
モア「あたい・・・ずっと夢見てたんだ・・・」
ザック「・・・夢・・・?」
モア「うん・・・小さい頃、祖母ちゃんから父ちゃん母ちゃんは、あ
たいが生まれて直ぐ死んだって聞かされたんだ・・・。けど、
あたいは信じなかった・・・。父ちゃん母ちゃんは働きに行っ
てるだけで、いつか・・・いつか今みたいに・・・あたいを迎え
に来てくれるんだって・・・そう信じてたんだ・・・ずっと・・・」
ザック「モア・・・」
モア「今はそんなの有りっこないって分かってっから、変な期待
なんてしないけど・・・。今みたいに・・・嘘だって分かってた
って・・・あのおばちゃんに、あんな風に言われて・・・あたい
・・・ちょっとだけ嬉しかったんだ!」
音楽流れモア、スポットに浮かび上がり、
歌う。(カーテン閉まる。)
“いつも祖母ちゃんと2人で
肩寄せ合って生きてきた・・・
いつかそれも消え去るようで
心細くて震えてた・・・
だけど気付かなかった
とてつもなく大きな愛が
私の回りに溢れてた・・・
一人じゃないんだそう思えて・・・
心の氷が溶け出すようで
どこからか・・・
春の陽差しが私を照らす・・・”
暗転。
――――― 第 6 場 ――――― A
カーテン開く。と、病室。
中央、置かれたベッドの上に、モアの祖母、
寝ている。横にザック立ち、診察をしている
ように。
祖母「先生・・・ありがとうございました・・・命を助けて頂いて・・・
。」
ザック「いえ・・・僕がたまたま見つけたから良かったようなもの
の・・・もう少し遅ければ、今頃どうなっていたか・・・」
祖母「お医者様のいない村ですから・・・先生に偶然見つけて頂
いたのは、本当に奇跡としか言い様がありません・・・。それ
に・・・私が死んでしまったらモアは・・・あの子は独りぼっち
になってしまうところでした・・・。本当になんとお礼を言えば
いいのやら・・・」
ザック「あの・・・聞いてもいいでしょうか・・・?」
祖母「はい・・・?」
ザック「・・・モアのご両親はどうして・・・」
祖母「ああ・・・流行病ですよ・・・」
ザック「流行病・・・?」
祖母「ええ・・・丁度12年程前・・・今、私達の住む村で、何やら
訳の分からない伝染病が広まったのでございます・・・。あ
の子の両親はその病で・・・」
ザック「そう言えば・・・僕がまだ学生の頃・・・一つの村が、ある
感染性の病によって、隔離される異常事態が発生したと
記憶しています・・・。確か・・・村は壊滅状態だったと・・・」
祖母「そうそう、それですよ・・・。モアの母親・・・つまり私の娘は
産後の肥立ちが悪く・・・暫く生まれたばかりのモアは、以
前は他所の村で暮らしていた私のところで、面倒を見てい
たのです。」
ザック「それでモアだけ・・・」
祖母「はい・・・。その頃、近くの集落のどこにも、お医者様は1人
もおらず・・・隣り街の大きな病院から先生が来て下さった
時には、もう村に入ることすら出来ない状態で・・・外にいる
者は、衰弱して亡くなっていく村人達を、ただ黙って眺めて
いることしか出来なかったのです・・・。」
ザック「そんな・・・」
祖母「今でこそ・・・まだ私達の住む村に、お医者様はいません
が、隣り村には薬草屋が出来たので、それでも随分と助か
っているのですよ、先生・・・」
ザック「・・・病院のない村・・・」
祖母「病院が出来たところで・・・私達の村に住む者は皆、貧し
くて・・・先生に診てもらうことは出来ないのでしょうけど・・・
薬草を買うことだって・・・余程のことがないと、皆少々の具
合の悪さには、耐えて凌ぐのです・・・。モアのような小さな
子が、靴磨きやなんかをして、一家を支えているような村
じゃ・・・高額な治療費なんて、ちょっとやそっとじゃ払えな
いですからね・・・。」
――――― “Thank you!リトルレディ”
4へつづく ―――――
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