2013年4月18日木曜日
“ジュリー” ―全13場― 5
マイケル、レナードのテーブルに近寄り、
向かうように腰を下ろす。
マイケル「レナード・・・(テーブルに瓶とコップを置く。)」
レナード「(頭を上げる。)よぉ・・・マイケル・・・(瓶とコップを取り
、酒を注いで飲む。)」
マイケル「何かあったのか?」
レナード「別に・・・」
マイケル「・・・ジュリーは・・・?」
レナード「・・・ジュリー・・・(酒を飲む。)」
マイケル「レナード、彼女はどうしたんだ?オードリーのところ
か?」
レナード「(首を振る。)俺は・・・彼女を守ることが出来なかった
・・・」
マイケル「え・・・?」
レナード「彼女は俺を庇って・・・あいつらと共に籠の中へと戻
って行ったんだ・・・。俺は・・・力も何もない・・・!!(
テーブルの上を握り拳で叩く。)」
マイケル「どう言うことだよ?」
レナード「連れ戻されてしまったんだ・・・自由のない生活にま
た・・・連れて行かれた・・・。やっとの思いで逃げ出し
て来たと言うのに・・・」
マイケル「レナード・・・こんなことは言いたくはないが・・・これ
で良かったんじゃないか・・・?彼女とは住む世界が
違うんだ。いずれ彼女は帰ってしまう人間なんだよ
。いくらおまえが本気になったところで・・・所詮・・・
叶わない恋なんだ。(レナードの肩に手を掛ける。)
おまえには言い寄って来る女は、いくらでもいるだ
ろ?」
レナード「(マイケルの手を払い除ける。)おまえに何が分かる
・・・」
マイケル「レナード・・・」
レナード「(立ち上がってマイケルの胸元を掴む。)彼女のこと
を知りもしないで、好き勝手言うな!!」
マイケル「・・・悪かったよ・・・軽はずみだった。ただ俺はおま
えのことが心配で・・・」
レナード「(マイケルの肩に手を掛ける。)・・・ありがとう・・・。
だが俺は自分が許せないんだ・・・自分の力のなさが
・・・こんなにも身に染みて分かるなんて・・・。おまえ
に八つ当たりして悪かったな・・・」
マイケル「いいさ・・・」
その時、入口から誰かを捜すように、
ダンテス入って来て、レナードを認め
近寄る。
マイケル「そう落ち込むなよ。」
レナード「ああ・・・。(椅子に腰を下ろす。)飲もうぜ!今夜は徹
底的に!(近くにいたラリーに向かって。)おい、もう一
つグラスを頼む。」
ダンテス「もう2つにしてもらえるかね?」
レナード「(ダンテスを認めて。)ダンテスさん・・・(ラリーに向か
って。)2つ頼む。」
ラリー、カウンターの方へ。
ダンテス「教室の方へ寄ったら、ここじゃないかと聞いたもので
ね。」
レナード「何か俺に用でも?」
ダンテス「いや何、たいしたことではないのだが・・・(レナード
に向かい、椅子を指差し。)いいかね?」
レナード「ええ・・・」
ダンテス「(腰を下ろす。)今度の“ダンサー”のオーディション
は、勿論受けるんだろうね?」
レナード「・・・そのつもりですが・・・」
ダンテス「それはよかった。私はあの役は君にこそ相応しいと
思っているのだ。」
ラリー「(グラスを2つ持って来て、テーブルに置いて下がる。)
どうぞ。」
レナード「ありがとう、ラリー。(グラスに酒を注ぎ、ダンテスと
マイケルに渡す。)」
ダンテス「どうも。」
レナード「あの役は、俺が長い間待ち望んでいたものです。俺
自身、あの役をできるのは俺しかいないと思っている
・・・。ダンドラさん・・・俺はあの役を他の誰にも渡す気
はありませんよ。」
ダンテス「それを聞いて安心したよ。オーディションでは、君が
あの役をやるにどれ程相応しい人物であるか、思いっ
きり見せてくれたまえ。」
レナード「言われなくてもそのつもりです。」
ダンテス「楽しみにしているよ。じゃあ私はこれで。(グラスの
酒を一気に飲み干し、あまりのキツさに頭を振って目
を見開く。驚いた面持ちでグラスの中を覗き込みテー
ブルへ置く。フラフラと立ち上がり。)ご馳走様・・・邪魔
したね・・・」
マイケル「ダンテスさん、大丈夫ですか?」
ダンテス「ああ・・・」
ダンテス、フラフラしながら出て行く。
マイケル「こんなもの一気に飲み干すなんて、無茶な人だな。」
レナード「(グラスの酒を一気に飲む。)」
マイケル「(驚いて。)おい!!」
レナード「・・・自分のことのように喜んでたあいつの為にも・・・
あの役は必ず・・・この俺が手に入れてみせる!!」
暗転。カーテン閉まる。
――――― 第 10 場 ―――――
カーテン前。
上手よりジュリー登場。つづいてジャック
登場。
ジュリー「(溜め息を吐いて振り返る。)家の中を行き来するの
にも、ずっとついて来られたら気が滅入ってしまいます
!」
ジャック「私はあなたのボディーガードとして雇われています。
結婚式が無事終了するまで、たとえ家の中であろうと
あなたの側を離れることはありません。」
ジュリー「一人になれるのは眠る時だけ!!バスルームに入
る時にも扉の外にはあなたが立っているなんて!!」
ジャック「お祖父様は、あなたが一度逃げ出したと言う事実に
用心なさっているのです。今度あんなことがおこれば、
ただでは済みませんからね・・・。」
ジュリー「・・・もう逃げたりしませんわ・・・」
ジャック「それはどうでしょう。」
ジュリー「どう言う意味かしら・・・」
ジャック「あれからもうだいぶ経つと言うのに、あなたはまだあ
の男のことを忘れてはいない・・・」
ジュリー「何故言い切れるの・・・!?私のことを知りもしないで
!!」
ジャック「あなたの目を見ていれば分かります。いつも遠くを見
ているような目を・・・。あなたの瞳には、まだあの男が
映っているのです。」
ジュリー「・・・何故いけないの・・・?何故恋をしてはいけないの
・・・?初めてだったのよ・・・こんな気持ち・・・!あなた
には分からないわね!いつも自由気儘に好きなことの
出来るあなたになんて、私の気持ちは分からないわ!
!」
ジュリー、ジャックに近寄り、突き放すように
叩き続ける。
ジュリー「どこかへ行って!!私に付きまとわないで!!一人
にして!!」
ジュリー、暫く興奮して叩き続ける。
(ジャック、黙って立つ。)
ジュリー「あ・・・(ハッとして手を止める。)」
ジャック「・・・落ち着きましたか?」
ジュリー「・・・ごめんなさい・・・私ったら・・・。大丈夫ですか・・・
?」
ジャック「勿論。こんなくらいで倒れるようでは、仕事になりませ
んから・・・」
ジュリー「・・・本当にごめんなさい・・・。あなたに八つ当たりす
るなんて・・・」
ジャック「残念ながら、あなたの気持ちを全て理解することは
出来ません。・・・だが・・・少しなら・・・」
ジュリー「・・・え?」
ジャック「・・・初めて誰かに恋したあなたの気持ちは・・・」
ジュリー「・・・あなたも・・・恋をしたことがあるのね・・・」
ジャック「ずっと昔の話しです・・・。こんな仕事につく前の・・・」
ジュリー「どうして・・・?最近の話しではないの・・・?」
ジャック「今の私には無用の感情です。」
ジュリー「それで淋しくはないの・・・?」
ジャック「そんな感情もありません。」
ジュリー「嘘・・・」
ジャック「本当です。」
ジュリー「ないなんて嘘よ・・・抑え込んでいるだけだわ・・・。誰
だって人を好きになったり、いつもその人といたいと
思ったり・・・もし別れがあった時に、淋しいと思ったり
・・・そう言う感情を持っているものよ・・・」
ジャック「・・・あなたは・・・淋しかった・・・?」
ジュリー「ええ!!決まってるじゃない・・・。戻らなければなら
ないと思った時、もう二度とレナードと会えないと思っ
た時、堪らなく淋しくて・・・悲しくて・・・胸が張り裂けそ
うだった・・・。こんなことなら・・・勇気なんて出すんじゃ
なかったって・・・勇気を出して家を飛び出さなければ
・・・そうすればレナードと会うこともなく・・・こんな辛い
思いをすることもなかったわ・・・。でも・・・でも今は違
う!!私は彼に会えて良かったのよ!!彼に出会っ
て夢を見ること・・・それを叶える為に努力すること・・・
束の間だったけれど、自由に色んなところへ出掛けた
り・・・初めて行った映画館も・・・色々なことを彼に教
えてもらって・・・短い時間だったけれど・・・幸せだった
わ・・・」
ジャック「・・・お嬢さん・・・」
ジュリー「だからあなたも感情を抑え込んで、ないふりなんて
しないで・・・。そうすれば、もっと色々なことが見えて
きて、生きることが今まで以上に、素晴らしいものにな
る筈よ・・・」
ジュリー、下手へ去る。
ジャック、ジュリーの後ろ姿を見つめたまま
立ち尽くす。
ジャック「感情を押さえ込まないで・・・か・・・」
ボビー、上手より登場。
ボビー「ジャックさん。」
ジャック「(振り返る。)おまえか・・・」
ボビー「あれ?お嬢さんは?」
ジャック「さぁ・・・」
ボビー「さぁ・・・って!?どうするんですか、またいなくなったり
したら!!」
ジャック「心配するな・・・彼女はもう逃げ出したりしないさ・・・」
ボビー「・・・ジャックさん・・・?」
フェード・アウト。
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