――――― 第 2 場 ――――― B
モア残してカーテン開く。と、パン屋。
(下手方に扉。)
店の中、カウンター内にパン屋の主人、
客の相手をしているよう。
パン屋の主人「ありがとうございました!」
客、扉から去る。
一時置いて、扉を開けてモア、躊躇うように
ゆっくり入って来る。
パン屋の主人「(用事をしながら。)はい、いらっしゃいませ。」
モア「・・・こんにちは・・・」
パン屋の主人「何にしましょう・・・(モアの顔を見て。)あ・・・おま
えは、あの時の・・・!」
モア「ごめんなさい!!もうしません!!二度としません!!こ
のお金もちゃんと返しに来ました!!だから、あたいのこと
許して下さい!!(土下座する。)お願いします!!」
パン屋の主人「(カウンターの外に出、モアに近寄り肩に手を掛
ける。)なぁに、いいってことよ。その金も返さなく
ていいから・・・。(笑う。)」
モア「(頭を上げて、主人を見る。)・・・え・・・?」
パン屋の主人「それと今日はここにあるパンを、好きなだけいく
らでも持っていいていいぞ。」
モア「・・・持ってって・・・?」
パン屋の主人「ああ!それだけじゃない。明日も明後日も、腹
が空いたらいつだってパンを取りに来ていいんだ
!さぁ、今日はどいつが食べたいかな?どれでも
いいぞ。このクリームの入ったパンはどうだ?美
味いぞ!婆さんにはこの白いフワフワのパンがい
いな。(紙袋の中にパンを入れながら。)」
モア、呆っとパンを袋に入れる主人を
見ている。
パン屋の主人「ほら!(袋をモアへ持たせる。)これだけあれば
、今日は満腹になるだろ。(笑う。)さぁ、帰った帰
った。早く帰って、婆さんにも食わせてやんな!(
モアの背中を押して、扉から出す。)」
扉の外、呆然と袋の中のパンを見るモア。
ゆっくり下手へ去る。
パン屋の奥から、ゆっくりザック登場。
パン屋の主人「(ザックを見て。)ザック坊ちゃん、これでいいん
ですかい?」
ザック「ああ、ありがとう。」
パン屋の主人「しかしまぁ・・・どうしてまた、あの子どもが金を返
しに来るって・・・それに・・・(カウンターの下から、
金貨の入った重そうな袋を取り出す。)ホントにこ
んな大金、貰っていいんですかい?うちはあの子
にやったパン代さえ払って貰えりゃあ十分なんで
すけど・・・いや・・・まぁ・・・頂けるって言うんなら、
有り難く頂戴しますがね・・・へっへっへ・・・」
ザック「金が足りないなら、いつでも言ってくれ。その変わりあの
子が腹を空かせてやって来た時には、存分にパンを与え
てやって欲しい・・・」
パン屋の主人「はいはい、分かりましたよ。」
ザック「頼んだぞ。」
パン屋の主人「へぇ!」
ザック残してカーテン閉まる。
音楽流れ、ザック歌う。
“何て不公平な世の中だ・・・
金なんてあってもなくても
同じ人の筈・・・
金があるから偉い訳でない
金がないから見下げるのか・・・
そんなことは有り得ない・・・
みんな同じ人間だ・・・
生きる為にただひたすらに
自分の足元のその道を・・・
一歩ずつ歩いているだけ・・・”
ザック、上手へ去る。
――――― 第 3 場 ―――――
カーテン開く。と、粗末な小屋の中。
モアの祖母(ドーン)、食事の支度を
しているように。
ドーン「(鍋をかき混ぜながら。)モアは一体どこへ行ったんだろ
う。また仕事を探してあちこち回っているのかねぇ・・・。私
がもう少し若ければ・・・うんと働いて・・・あの子に苦労をか
けずに済んだのに・・・(スープをお椀に入れながら。)今日
も、塩をひとつまみ入れただけの野草のスープだけなんて
・・・育ち盛りだと言うのに・・・」
そこへ下手よりモア、走り登場。
モア「祖母ちゃーん!!祖母ちゃーん!!」
ドーン「(モアを認める。)まぁまぁモア・・・どうしたんだい?そん
なに慌てて・・・」
モア「祖母ちゃん!!見てくれよ、これ!!(腕に抱かえていた
紙袋をドーンの方へ差し出す。)」
ドーン「何だい・・・?(紙袋の中を覗く。驚いて。)まぁ・・・!!こ
んなに沢山のパン・・・!!一体どうしたんだい・・・!?」
モア「あたいもよく分かんないんだけど、パン屋のおっちゃんが
持ってっていいって言ってくれたんだ!!お陰で今日は祖
母ちゃんに、腹一杯食べさせてやれるよ!!」
ドーン「全く、どうしてそんな・・・」
モア「きっと、こんななりしたあたいのこと、可哀想に思ったんじ
ゃねぇか?すっごく気前良くって、明日も明後日も、腹が減
ったらいつでも来ていいって!!」
ドーン「本当かい・・・?」
モア「うん!!きっと神様のお恵みだぜ、祖母ちゃん!!あたい
達、ずっと頑張ってきたから!!」
ドーン「本当だねぇ・・・。ああ、有り難い有り難い・・・何て世の中
には親切なお方がいらっしゃるんだろうねぇ・・・。」
モア「さぁ、祖母ちゃん!!早く座って一杯食べなよ!!こんな
にあるんだ!!祖母ちゃんが食べやすい、白いフカフカの
パンも一杯入れてくれたんだぜ!!」
ドーン「私はもう年だから、少しでいいんだよ・・・その変わり、モ
アが沢山お食べ・・・お腹一杯何かが食べられるなんて、
いつ以来だろ・・・う・・・(胸を押さえて座り込む。)」
モア「うん!!・・・(苦しそうなドーンの様子に気付いて。)・・・
祖母ちゃん・・・?祖母ちゃん・・・(駆け寄る。)祖母ちゃん!
!どうしたんだよ!!祖母ちゃん!!祖母ちゃん!!(ド
ーンを揺する。動かないドーンの様子に呆然と。)祖母ちゃ
ん・・・大変だ・・・誰か・・・誰かーっ!!祖母ちゃん、しっか
りしてくれよ!!」
その時、下手よりゆっくりザック登場。
ザック「ごめんください・・・。ノックをしても返事がないので黙って
入って来てしまいました・・・。こちらに子どもが・・・」
モア「(振り返り、ザックを認める。泣き声で。)あ・・・兄ちゃん!!
」
ザック「(微笑む。)矢っ張りここだったのか・・・。随分捜して・・・
(モアの様子に。)・・・どうした・・・?」
モア「兄ちゃん・・・祖母ちゃんが・・・祖母ちゃんが!!」
ザック「え・・・?(モアの横に倒れているドーンを認める。)お婆
さん!!(ドーンに駆け寄る。)どうしたんだ!?(脈を見
たり、胸の鼓動を確かめたりする。)」
モア「分からないよ・・・急に胸を押さえて倒れたんだ・・・兄ちゃ
ん・・・祖母ちゃん大丈夫だよね・・・!?ね!?ね!?祖母
ちゃん死なないよね!!あたいのたった一人の祖母ちゃん
なんだ・・・!!」
ザック「よし!!まだ大丈夫だ!!(ドーンを抱き上げる。)この
まま病院までそっと運ぶぞ!!」
モア「え・・・?」
ザック「おまえもついて来い!!」
モア「兄ちゃん・・・う・・・うん・・・!!」
ドーンを抱き上げたザック、心配そうなモア、
急いで下手へ去る。
暗転。カーテン閉まる。
――――― 第 4 場 ―――――
カーテン前。
下手スポットにパン屋の主人、
浮かび上がる。電話しているように。
パン屋の主人「ああ、俺だ・・・。ちょっとばかし金になりそうな話
しがあるんだが・・・乗らねぇか?ああ・・・ああ・・・
そうさ・・・なぁんもヤバイことじゃねぇんだ。向こう
から勝手に転がり込んだ上手い話しさ・・・。ああ
・・・ああ・・・分かった。それじゃあ、おまえに頼み
たい役どころがあるんだ・・・。ああ・・・なぁに、簡
単なことさ・・・へっへっへ・・・ああ・・・ああ・・・じゃ
あ、また連絡する・・・。(電話を切る。)」
パン屋の主人、フェード・アウト。
入れ代わるように上手スポット。
(ソファー)ベッドに横になっているドーン。
横に白衣のザック、ドーンの診察をして
いるよう。
ベッドの横に、医者仲間(マービン)立つ。
マービン「おまえ、またこんな金になりそうにない婆さんを運び
込んで、一体どうするつもりなんだ?」
ザック「マービン・・・」
マービン「ちゃんと診察料は取れるんだろうな。」
ザック「おまえは金になるから人の命を助けるのか・・・?金にな
らない者は助けるに値しない・・・とでも言うつもりか・・・。」
ザック、診察を終え、立ち上がる。
ザック、マービン、一寸前へ。
(ドーン、フェード・アウト。)
マービン「・・・違うのか?じゃあおまえは何の為に医者になった
んだ。」
ザック「何の為・・・?」
マービン「そうだなぁ・・・生まれつき大病院の院長先生の跡取り
息子として、この世に生を受け生きてきたおまえには、
屹度、医者になる意味など、どうでも良かったんだろう
な。」
ザック「マービン・・・」
マービン「おまえは、この病院をどうするつもりなんだ。運営のこ
とは二の次に、慈善事業をしていくつもりか?」
ザック「慈善事業・・・?」
マービン「そうだろ?代々続いたこの病院は、いずれおまえが
継ぐんじゃないのか?それを他の仲間や利益も考え
ずに、慈善事業で運営が成り立つと、本当に思ってい
るのか・・・?」
ザック「それは・・・」
マービン「学生時代からのライバルとして・・・そして親友として
おまえに忠告しといてやろう。世の中、義理人情だけ
で生きていけるなら、そんな楽な話しはないってこと
だ。そんなものに流されて、目の前の大切な事柄を見
落とせば、後で泣くのは自分自身なんだぞ。」
ザック残して、マービン、フェード・アウト。
中央スポットにモア、浮かび上がる。
ザック、モアの側へ。
モア「(ザックを認め、慌てて近寄る。)兄ちゃん・・・!!祖母ち
ゃんは・・・」
ザック「大丈夫、軽い心臓発作だ。暫く入院して養生すれば、ま
た直ぐに良くなるさ。」
モア「本当!?」
ザック「ああ・・・」
モア「良かった・・・」
ザック「今まで、随分無理をしてきたんだろう。栄養失調気味で、
昔から心臓が悪かったようだし、長年の無理がたたって
心臓に負担をかけたんだな・・・。」
モア「祖母ちゃん・・・あたいが中々お金を稼いでこないから・・・
毎日、食材を探しに、この寒い中・・・裏山へ野草を摘みに
行ってたんだ・・・。」
ザック「そうか・・・」
モア「もっと、あたいらみたいな子どもでも出来る仕事があった
ら・・・そしたらもっと働いて、美味しいもん沢山食べさせて
やれるのに・・・。昨日、折角パンを貰って来たのに倒れち
まって・・・あ・・・そう言やぁ、兄ちゃん・・・パン屋のおっちゃ
んが、あたいに好きなだけパンを持ってっていいって言っ
たんだ・・・。変だろ・・・?金もないのにだぜ!おまけに、明
日も明後日も・・・ずっとくれるって言うんだ・・・。あたい・・・
ずっと今まで・・・盗みをやっては追いかけられて・・・見つ
かって・・・捕まって・・・打たれて・・・そんな生活してきたか
ら、何だか人に親切にしてもらうのって・・・慣れてなくって
・・・お礼、言いそびれちまったよ・・・。今度会ったら言わな
くっちゃ・・・」
ザック「・・・良かったじゃないか。(微笑む。)」
モア「(ザックを見て。)・・・うん・・・」
ザック「それより、どうだ?お婆さんが退院するまで、家で暮らさ
ないか?」
モア「・・・え・・・?」
ザック「自分家に帰ったって、誰もいないんだろ?家からだと、婆
さんの見舞いにも行きやすいし・・・。食事にも困らないぞ。
」
モア「・・・兄ちゃん・・・でも・・・あたい・・・」
ザック「子どものくせに、遠慮なんかするなよ。(微笑む。)」
モア「・・・本当に・・・行っていいの・・・?」
ザック「ああ・・・。それに言わなかったっけ?母は昔、教師をや
ってたんだ。子どもが好きなんだよ。今はもう、俺も姉も大
人になってしまって、手を掛ける相手がいなくなったから、
淋しがってたんだ。丁度いい、母の話し相手になってやっ
てくれ。それがおまえの仕事だ。それと引き換えに、寝食
の場を提供する。婆さんにも会い放題!どうだ?悪い話
しじゃないだろう?」
モア「兄ちゃん!!(嬉しそうに。)」
ザック残して、モア、フェード・アウト。
音楽流れ、ザック歌う。
“俺は今まで少しの
疑問だけで何もかも
見て見ぬ振りをしてきた・・・
そう言われても仕方ない
たとえどんな風に世界が
間違って進んでいても
それが自分の身に直接
関わりがないのなら
知らぬ顔を決め込むだけ・・・
やっと分かった今までの
疑問の答えが・・・
心の中の正義が只管に
間違いを否定する
そうだ
それこそ・・・
俺がずっと探して来た道・・・”
ザック「親がひいてくれたレールじゃ駄目なんだ・・・。自分で苦
労してひいたレールでないと・・・。」
暗転。
――――― “Thank you!リトルレディ”
3へつづく ―――――
0 件のコメント:
コメントを投稿