2013年8月26日月曜日

“チュー吉くんの君は友だち・・・” ―全7場― 完結編

  ネリー「さぁ、涙のご対面は終わりだよ。」
  大人ネズミ「誰かいるのか・・・?(ネリーは見えない風に。)」
  ネリー「あんた達を道案内して、この部屋まで連れて来てやった
      。私の仕事は終わりだよ。次はあんた達が、私に礼をす
      る番だからね・・・。」
  大人ネズミ「(ネリーに気付いて。)イタチじゃないか!!チュー
         介!!早く友達と逃げるんだ!!」
  チュー介「父ちゃん・・・?」
  大人ネズミ「イタチはそんな小さい体をしているが、凶暴な肉食
         獣だぞ!!」
  チュー吉「肉食・・・?」
  大人ネズミ「俺達みたいなネズミは、ひとたまりもないんだ!!
         だから早く・・・!!」
  ネリー「あーら・・・そんなカゴの中から、この子達に余計な忠告
      をありがとう。けど、約束だからね!!“それなりのお礼”
      !!私は危険を冒してここまで付いて来てやったんだ!
      !だから、あんた達も私の為に、私のこの空腹を満たして
      頂戴!!」
  チュー吉「え・・・?」
  おとなネズミ「早く逃げろ!!」

         緊迫した音楽流れる。
         ネリー、チュー吉とチュー介を追い掛ける。
         チュー吉、チュー介悲鳴を上げて逃げ回る。

  チュー吉「わあーっ!!」
  チュー介「助けてーっ!!」
  チュー吉「助けてーっ!!」
  大人ネズミ「チュー介!!チュー介ーっ!!」

         大人ネズミ、カゴを両手でガタガタ揺らす。
         と、その時上手よりジ―クとカーク登場。

  カーク「何だか騒がしいなぁ・・・」
  ジーク「えらくカゴの中の奴、暴れてるみたいだけど・・・。」
  カーク「え・・・?」
  ジーク「父さんに見つかったら大変だぞ。」
  カーク「うん。(カゴを見て。)おい!おまえ、何を騒いでんだよ。
      ガタガタ揺らして大きな音出してたら、父さんに見つかっ
      てしまうだろ!?」
  ジーク「おい、カーク・・・(走り回っているネリーと子ネズミに気
      付く。)あ・・・!!イタチとネズミ・・・!!」
  カーク「え・・・?あ・・・こいつ!!僕のネズミを襲いに来たんだ
      な!!」
  ジーク「カーク!!そっちから回れ!!」
  カーク「うん!!」

         ジークとカーク、両方から挟むようにネリー
         を、横にあったカゴで捕まえる。

  ジーク「やった!!」

  ネリー「あっ!!キャーッ!!何すんのよ!!出して・・・出して
      よーっ!!」

  カーク「捕まえたぞっ!!」
          
  チュー吉「ああー・・・助かった・・・」
  チュー介「よかった・・・」
  チュー吉「命拾いしたな・・・。」
  大人ネズミ「チュー介・・・(ホッとしたように座り込む。)」

         その時、上手より、ジークとカークの父親登場。

  父親「おい、ジ―ク、カーク!何を騒いでいるんだ?ルークとル
     ータが起きるだろ?」
  ジ―ク「あ・・・父さん、それが・・・」
  カーク「イタチが部屋に・・・」
  父親「イタチ・・・!?」
  カーク「うん。」
  父親「どうしてイタチが・・・(カゴの中のネズミに気付く。)・・・こ
     のネズミ・・・カーク!!おまえ、この間父さんに、このネズ
     ミは逃げたって言ったんじゃないか!?どうして、それが
     ここにいるんだ!!」
  カーク「それは・・・」
  父親「おまえは父さんに嘘を吐いて、自分の部屋でネズミを飼っ
     てたのか!?だからそのネズミを狙って、イタチが入り込ん
     だんだな!!何て奴だ!!父さんに嘘を吐いた罰は大き
     いぞ!!」
  カーク「ごめんなさい、父さん・・・」
  父親「このネズミは、今直ぐに処分だ!!いいな!!」
  カーク「えーん・・・!!(泣く。)」
  ジ―ク「(チュー吉、チュー介に気付いて。)待って、父さん!!」
  父親「ん?何だ、ジ―ク。」
  ジ―ク「このネズミは、逃がしてあげて!!」
  父親「逃がす・・・!?」
  ジ―ク「お願いだよ、父さん!!」
  父親「何を言ってるんだ!!このネズミは蔵の米を・・・」
  ジ―ク「違うよ!!屹度、蔵の米袋を破いてたのは、このイタチ
       だよ!!」

  ネリー「え・・・!?え・・・!!ち・・・違うわ!!」

  ジ―ク「だから父さん!!このネズミは逃がしてあげて!!屹
       度、このネズミは・・・あそこにいる子ネズミ達の父さん
       なんだよ・・・。」
  父親「何だと?」

         (父親、カーク、下手端で、恐々様子を見ていた
         チュー吉、チュー介を認める。)

  ジ―ク「屹度・・・捕まった父さんネズミを捜しに来たんだよ・・・。
      だから・・・だから逃がしてあげようよ!!」
  父親「しかし・・・」
  ジ―ク「それに、イタチを捕まえたじゃない!!イタチなら、その
      うち毛皮を売って、お金にもなるし!!ネズミを飼ってたっ
      て・・・勿論、殺して皮を剥いだって1円の得にもならない
      じゃないか!!だから・・・な!!カークもネズミは諦めろ
      !!その変わり、父さんにイタチを飼いたいって頼むんだ
      !!ほら!!(カークの頭を押さえる。)お願いします、父
      さん!!」
  カーク「(泣き声で。)お願いします・・・父さん・・・」
  父親「・・・(溜め息を吐いて。)仕方ない・・・。そんなに言うなら、
     あの子ネズミ達に父親は返してやれ・・・。」
  ジ―ク「父さん!!ありがとう!!」
  カーク「ありがとう・・・」

         ジ―ク、カゴの扉の柵を開けてやる。と、
         大人ネズミ、大急ぎでカゴの中から走り出、
         チュー介の側へ。

  チュー介「父ちゃん!!」
  大人ネズミ「チュー介!!」
  チュー吉「よかったね。」
  チュー介「うん!!ありがとう、チュー吉くん!!」
  大人ネズミ「さぁ、帰ろう!!」

         大人ネズミ、チュー介下手へ走り去る。
         チュー吉、続いて行こうとするが、ふと振り返り
         ジ―クを見詰める。
         (一瞬の間、ジ―ク、チュー吉見詰め合う。)
         チュー吉、下手へ走り去る。

  ネリー「ちょ・・・ちょっと、待ってよ!!私はどうなるのよーっ!
      !」

  父親「(カゴの中に捕まっていたネリーを見る。)いい毛皮だな
     ぁ・・・。思わぬ収穫だ。(笑う。)」

  ネリー「助けてーっ!!」

         紗幕閉まる。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         紗幕前。
  
  チュー介の声「父さーん!!行って来まーす!!」

         下手より、チュー介登場。

  チュー吉の声「母さーん!!行って来まーす!!」

         上手より、チュー吉登場。
         チュー吉、チュー介お互いを認め、駆け寄る。

  チュー吉「おはよう!!」
  チュー介「おはよう!!」
  チュー吉「行こう!!(笑う。)」
  チュー介「うん!!(笑う。)」

         2人、楽しそうに上手へ走り去る。
         音楽流れ、鐘の音が響く。(“キーンコーン”
         “カーンコーン”)
         紗幕開く。と、学校の教室。
         沢山の子ネズミ達、元気に歌っている。

         “ここは僕達ネズミの学校
         みんなが仲良く みんなが友達
         誰も悪いことしない
         みんなで楽しく暮らしてる
         ここは僕達ネズミだけの国
         みんな仲間で気心知れてる
         だから安心ここにいれば
         何も危険なことなんてない!!”

         その時、上手よりチュー吉、チュー介
         走り登場。

  チュー吉、チュー介「おはようございまーす!!」
  チュー子先生「これ、チュー吉くん!!チュー介くん!!2人揃っ
           て今日も遅刻ですよ!!いくら仲がいいからって、
           悪いところまで真似することないでしょう。(溜め息
           を吐く。)」
  チュー吉、チュー介「ごめんなさい。(笑う。)」

         “ここは僕達ネズミの大国
         たとえ何があっても仲間なんだ
         力を合わせて立ち向かえば
         乗り越えられない壁はない
         ここは僕達ネズミだけの国
         君と僕との出会いの場所
         みんなが誰かの為を思う
         そんな小さな大切な心
         そんな心の輪を広げよう”

         チュー介、他の子ネズミ達と楽しそうに
         ふざけ合っている。
         それを嬉しそうに見詰めるチュー吉。

  チュー吉「これがチュー介と僕が友達になれた経緯なんだ。今
        では無二の親友のチュー介と僕は、学校でも沢山の
        友達と一緒に、楽しく学校生活を送っている・・・筈だ
        ったんだけれど・・・そんなある時、楽しい筈の学校で、
        大変な事件が起きたんだ・・・!!ま、その話しはまた
        何れ・・・。どんな時も、友達は掛け替えのない宝物だ
        から・・・みんなも友達を大切にしてね!!さよなら!!
        」







           ――――― 幕 ―――――












2013年8月18日日曜日

“チュー吉くんの君は友だち・・・” ―全7場― 3

 カークの声「これから僕がのこ部屋で飼うんだ!」


  ジ―クの声「飼うだって?父さんに見つかったら、大目玉だよ。」

  カークの声「見つからないように、コッソリ飼うよ!」

  ジ―クの声「でも・・・こんな狭いカゴに閉じ込めてちゃ、可哀相

          じゃないか?」

  カークの声「いいんだ!!だから、兄ちゃんも父さんには内緒だ

          からね!!僕達の秘密だよ!!」



         その時、ジ―ク達の父親の声が聞こえる。



  父親の声「おーい、ジ―ク!!カーク!!どこにいるんだ!?

         母さんと買い物に行って来るから、ルークとルータ

         の面倒を見といてくれ。」

  ジ―クの声「はーい!!直ぐ行くよ!!」

  カークの声「ねぇ、兄ちゃん!!絶対に内緒だよ!!」

  ジ―クの声「うん、分かったよ。」



         2人の人間の足音、段々遠ざかる。

         大人ネズミ、再び歌う。



         “こんな風にいつまで怯えて

         生きて行くんだろう俺は・・・”



         カゴに入った大人ネズミ下がる。

         紗幕開く。



    ――――― 第 5 場 ――――― A

 

         人間の家の中。(壁の裏。)

         下手よりチュー吉、チュー介、回りを見回し

         ながら、恐る恐る一歩一歩確かめるように

         登場。



  チュー吉「ジ―クん家は、隅々まで知り尽くしているつもりだった

        けど・・・さすがに壁の裏なんて、あんまり来たことがな

        いよなぁ・・・。」

  チュー介「僕は地下の自分家から、出たことなんて殆どないか

        ら・・・」

  チュー吉「本当に?」

  チュー介「う・・・うん・・・。」



         その時、見知らぬ声が聞こえる。



  声「あーら、お2人さん・・・」



  チュー吉「え・・・?」



  声「こんな壁の裏へ、一体何のご用かしら?」



  チュー吉「誰?」



         そこへ、後方の物陰から、一匹のイタチ(ネリー)

         しなやかな足取りで登場。



  チュー吉「あなたは・・・」

  ネリー「私はこの壁の裏で、ひっそり暮らすイタチのネリー・・・。

      お2人さんは・・・(チュー吉、チュー介を舐めるように見る

      。)子ネズミだね?(ニヤリと微笑む。)」

  チュー吉「うん。僕らもこの家に住んでるんだ。」

  ネリー「へぇ・・・同じ家の中に、こんなに美味しそうな子ネズミ

      が、2匹もいたなんて・・・(小声で。)」

  チュー吉「え・・・?」

  ネリー「(笑う。)何でもないわよ。ところであなた達は、何処へ行

      こうとしているのかしら?」

  チュー吉「僕達はこの壁の向こうに・・・」

  ネリー「壁の向こう!?この壁の向こうは、人間達の住む恐ろし

      い場所だよ!」

  チュー吉「その人間に用があるんだ、僕達。」

  ネリー「人間に用があるって・・・。向こうは私達にあるかも知れ

      ないけど、こっちから人間に用があるだなんて、変な奴ら

      だねぇ・・・。」

  チュー吉「ねぇ、ネリーさん!ネリーさんは、ずっとここに住んで

        るの?」

  ネリー「ああ、そうさ。」

  チュー吉「じゃあ、この家の人間のことは、よく知ってる?」

  ネリー「そりゃあ、人間とは壁一枚挟んだお隣さんだ。人間のこ

      とは、よおく知ってるるよ。」

  チュー吉「そしたら、少し前に僕らと同じネズミが、この家の人間

        に捕まって、連れて来られたと思うんだ。ネリーさんな

        らそのネズミのこと、知ってるんじゃないの?」

  ネリー「ああ・・・あのネズミ捕りに捕まった、ドン臭い奴のことな

      ら知ってるよ。」

  チュー介「本当!?」

  ネリー「(小声で。)何もあんなとこに入って、態々捕まらなくても

      、私の食事になってくれりゃあいいものを・・・。」

  チュー吉「今、そのネズミは何処で如何しているか分かる!?」

  ネリー「さぁ・・・。でも、ネズミ捕りに捕まったんだから、とっくの昔

      に殺されて・・・」

  チュー介「殺され・・・父ちゃん・・・」

  チュー吉「そんなことないよ!!屹度この家の何処かで生きて

        いる筈なんだ!!ねぇ、ネリーさん!!ネリーさんは

        この家の中のことに詳しいんでしょ!?僕らの仲間が

        何処に捕まっているか、捕まっていそうな場所を、一

        緒に考えてよ!!」

  ネリー「(チュー介を見て。)あんたの父さんなのかい?そのドン

      臭いネズミは・・・。」

  チュー介「・・・うん・・・」

  ネリー「ふうん・・・。」

  チュー吉「ねぇ、何か思い出さない?」

  ネリー「そんなこと言われたってねぇ・・・。そうそう、ここん家には

      子どもが4人いるんだけれど・・・」

  チュー吉「4人・・・?」

  ネリー「下の2人は、まだ赤ん坊だから悪戯なんて出来っこない

      けど・・・上のジ―クとカークは・・・」

  チュー吉「・・・ジ―ク?」

  ネリー「ええ。一番上の子どもの名前が、確かジ―ク・・・」

  チュー吉「・・・へぇ・・・ビスケットのジ―クが・・・一番上のお兄さ

        ん・・・」

  ネリー「ジ―クは兎も角、その二番目のカークが曲者だわね。」

  チュー吉「曲者・・・?」 

  ネリー「ええ、まだ学校も行かない小さな餓鬼の癖して、好奇心

      旺盛で怖いもの知らず、私は危うく尻尾をちょん切られそ

      うになったことがあるのよ!!」

  チュー吉「へぇ・・・」

  ネリー「もしまだ、あんた達の捜してるそのお父さんが、生かされ

      てるとしたら、そのカークが咬んでんじゃないかねぇ・・・。」

  チュー介「・・・カーク・・・」

  ネリー「あの悪餓鬼なら、カゴの中に閉じ込めたネズミを、玩具

      にしてたって不思議じゃないからさ。」

  チュー吉「ねぇ、ネリーさん!!僕達をそのカークのいる所へ案

        内してくれない!?」

  ネリー「え!?いやよ!!何で私が、態々そんな危険な所へ、

      何処の誰とも分からないあなた達の為に、行かなきゃな

      らないのよ!!」

  チュー吉「お願いだよ!!僕達だけでウロウロ人間の前へ出て

        行ったって、屹度チュー介の父さんみたいに、捕まって

        しまうのが目に見えてるよ!!」

  ネリー「・・・お礼は・・・?」

  チュー吉「え・・・?」

  ネリー「お礼はちゃんとしてくれるんだろうねぇ・・・」

  チュー吉「お礼・・・?」

  ネリー「ええ。」

  チュー吉「何をすればいいの・・・?」

  ネリー「ううんと・・・そうねぇ・・・。私も危険を承知で道案内する

      んだから、あんた達にもそれなりのことを頼むわ・・・。」

  チュー吉「それなりのこと・・・?」

  ネリー「そう・・・それなりの・・・。さ、そんなことは後で構わないか

      ら、行くならさっさと行きましょう!!」

  チュー吉「う・・・うん!!」

  ネリー「(小声で。)・・・お楽しみは後にとっとかなくっちゃ・・・。

      (舌舐めずりして、コッソリと笑う。)」



         (紗幕閉まる。)



    ――――― 第 5 場 ――――― B



         音楽流れ、3人歌う。



         “行ってみよう

         大切なものを捜しに

         ほんの少しでも

         望みがあるなら

         それを見逃す手はないさ

         だから行こう

         危険があっても3人なら

         屹度抜け出せる

         どんなピンチも

         ただの想像で

         色々よくない思いに溢れて

         下を向く

         そんなの何の意味もないだろ

         顔を上げるんだ!!”



  ネリー「さぁ、こっちよ!!」

  チュー吉、チュー介「うん!!」



         3人上手へ去る。



    ――――― 第 6 場 ―――――



         紗幕開く。と、ジ―クの家の子ども部屋。

         上手より、ジ―ク登場。



  ジ―ク「おおい・・・ビスケットを持って来たよ・・・。僕のビスケット

      をいつも取りに来るのは、カークが飼ってるネズミじゃな

      いんだ。だってあれからも、必ず朝には、夜置いた筈の

      ビスケットの欠片がなくなってるから・・・。一体僕のビス

      ケットを持って行くのは、誰なんだろう・・・。」



         音楽流れ、ジ―ク歌う。



         “見たことはないけど

         屹度君は小さな小さな

         この家の住人・・・

         いつもいつもそっと伺い

         誰もいなくなったその時

         見つからないように

         出て来るんだ・・・

         そうして半分こしたビスケット

         そっと手にして帰るんだ・・・”



  ジ―ク「小さな君・・・またビスケットを置いておくよ・・・。(手に持

       っていたビスケットを部屋の隅に置く。)」



         ジ―ク、上手へ去る。

         (と、カゴ、上手前方へ上がる。)



  大人ネズミ「チュー介・・・みんな・・・」



         一時置いて、下手より抜き足差し足で、

         ネリー登場。続いてチュー吉、チュー介

         登場。



  ネリー「さぁ・・・ここが子ども部屋よ。」

  チュー介「ここが!?」

  ネリー「しっ!!見つかったら、あんた達も私も一巻の終わりよ

      !」

  チュー介「うん・・・」

  ネリー「(回りを見回して。)良かった・・・悪餓鬼どもはいないみ

      たいね。」

  チュー介「父さん・・・いるのかな・・・」

  チュー吉「捜してみようよ。」

  チュー介「うん・・・」

  チュー吉「チュー介くんのお父さーん・・・!!」

  チュー介「父さーん・・・!!」



         チュー吉、チュー介、暫く回りをキョロキョロと

         捜すように。(ネリー、下手方に座り込んで、2人

         の様子を見ている。)



  チュー介「父さんーん・・・」

  大人ネズミ「(チュー介の声に気付いたように、ビクッと顔を上げ

         る。)・・・チュー介・・・?チュー介じゃないか!!」

  チュー介「(大人ネズミに気付いて、カゴに駆け寄る。)父さん!

        !」

  大人ネズミ「チュー介!!如何してこんなとこに!!」

  チュー介「父さんを助けに来たんだよ!!」

  大人ネズミ「助け・・・って・・・、おまえ、如何してそんな危険なこ

         とを!!」

  チュー介「だって、父さんがいなくなって僕達・・・(涙声で。)」

  大人ネズミ「チュー介・・・すまない・・・。でも、どうやってここまで

         ・・・」

  チュー介「うん・・・。友達のチュー吉くんが・・・」

  チュー吉「こんにちは・・・」

  大人ネズミ「友達・・・?」

  チュー介「僕・・・ばあちゃんに言われて、学校に行き始めたんだ

        ・・・。そこで出来た友達のチュー吉くんが、父さんは屹

        度生きてるから、一緒に捜しに行こうって・・・。僕も一

        緒に捜してあげるから・・・そう言ってくれて・・・。それで

        僕・・・」

  大人ネズミ「そうか・・・学校に・・・。良かったな、チュー介・・・。友

         達まで出来て・・・。チュー吉くん、チュー介と一緒に

         こんな所まで・・・本当にありがとう・・・。」

  チュー吉「そんなこと・・・」

  ネリー「さぁ、涙の御対面は終わりだよ・・・。」

  チュー介「ネリーさん・・・」

  大人ネズミ「ネリーさん・・・?」



         ネリー、ゆっくりカゴの方へ。





















    ――――― “チュー吉くんの君は友だち・・・”

                           4へつづく ―――――









2013年8月16日金曜日

“チュー吉くんの君は友だち・・・” ―全7場― 2

――――― 第 3 場 ―――――




         紗幕開く。と、小高い丘の草むら。

         (辺りは夕暮れ時の様子。)

         チュー介、佇み静かに歌う。



         “僕は何をしているんだろう・・・

         こんなところで一人ぼっちに・・・

         仲間もいない

         味方もいない

         大草原に一人放り出された

         ちっぽけな僕・・・

         誰も僕のことなど知らない・・・”



  チュー介「父さん・・・」



         チュー介、立ち尽くす。

         その時、上手よりチュー吉、重そうに食料の

         入った、買い物カゴを手に登場。



  チュー吉「もう母さんは一体どれだけお使いを頼むんだよ・・・。

        重いったらありゃしない・・・。よっ・・・。あれ・・・(チュー

        介に気付く。)チュー介じゃないか。」



         チュー介、チュー吉に気付くが、知らん顔して

         下手へ行きかける。



  チュー吉「おい!知らん顔して行くなよ!何してたんだよ、こん

        なとこで。ひょっとして夕焼けを見てた?ここから見る

        夕焼けって、綺麗だよなぁ・・・。僕も、この場所が大好

        きなんだ!」

  チュー介「・・・煩いんだよ・・・」

  チュー吉「え?」

  チュー介「煩いってんだよ!!僕は一人になりたいんだ!!」

  チュー吉「何だよ!そんな言い方しなくてもいいだろ!折角、友

        達になろうと思って・・・」

  チュー介「友達なんていらないんだよ!!」

  チュー吉「ああ、そうかい!!ふん!!何だよ!!そんな風に

        突っ張った態度取ってると、その内学校で誰からも相

        手にされなくなるぞ!!ふん!!ホントに・・・全く!!

        」



         チュー吉、下手方へ行きかけるが、何か

         気になったように振り返る。



  チュー吉「・・・おい・・・何でおまえ・・・そんな風に突っ張ってるん

        だよ・・・」

  チュー介「・・・突っ張ってなんか・・・いるもんか・・・」



         音楽流れ、チュー介歌う。



         “僕は突っ張ってる訳じゃない・・・

         意気がってる訳でもない・・・

         僕は僕なんだ

         だから構うな

         放っておいてくれ・・・”



         チュー吉歌う。



         “同じ仲間じゃないか

         そんな風に壁を作って

         他を寄せ付けない

         そんな態度

         放っとけない・・・”



         チュー介歌う。



         “勝手じゃないかそんなこと

         僕がどうでも

         関係ない・・・”



  チュー吉「折角同じ学校に転校して来たんじゃないか。友達に

        なろうよ!」

  チュー介「友達・・・?ふざけるな!!」

  チュー吉「ふざけてなんかないさ!だって折角知り合えたんじゃ

        ないか。友達にならないと、勿体ないよ!」

  チュー介「・・・勿体ない・・・?馬鹿じゃないか。」

  チュー吉「馬鹿・・・?友達に向かって“馬鹿”って言ったら駄目

        なんだぞ!!先生に教わらなかったのかい!?」

  チュー介「・・・先生なんて知るもんか。」

  チュー吉「知らない・・・って、学校の先生だよ!前の学校でも

        いただろう?」

  チュー介「・・・学校なんて行ったことない・・・」

  チュー吉「・・・え?ホントに・・・?友達は・・・?」

  チュー介「そんなのいるもんか!!」

  チュー吉「じゃあ絶対、友達になろうよ!!」

  チュー介「嫌だ!!」

  チュー吉「そんなこと言わないでさ!折角、学校に来ることにな

        ったんだから・・・。でも・・・如何して行き成り学校に・・・

        ?」

  チュー介「・・・ばあちゃんが行けって言うから・・・」

  チュー吉「ばあちゃん・・・?」

  チュー介「・・・ばあちゃんが、僕ん家に来ることになって・・・」

  チュー吉「ふうん・・・そうなんだ。君ん家は何処?」

  チュー介「・・・学校の隣の赤い屋根・・・」

  チュー吉「ジ―クん家!?」

  チュー介「・・・ジ―ク・・・?」

  チュー吉「うん!!僕ん家は、ジ―クん家の屋根裏なんだ!!

        君は?」

  チュー介「地下・・・」

  チュー吉「同じ建物だなんて、近所じゃないか!!今まで全然

        知らなかったなぁ。じゃあジ―クのこと、知ってる?」

  チュー介「ジ―クって・・・」

  チュー吉「とっても優しくって、毎日僕にビスケットを分けてくれ

        るんだよ。」

  チュー介「・・・ビスケット・・・?それ・・・何だよ・・・。」

  チュー吉「ビスケットを知らないの!?」

  チュー介「知らない・・・。」

  チュー吉「ほら・・・これだよ・・・。(ポケットからひとかけのビスケ

        ットを取り出し、チュー介へ差し出す。)」

  チュー介「(ビスケットを受け取る。)」

  チュー吉「食べてごらんよ!!とっても美味しいから!!」

  チュー介「う・・・うん・・・(口へ放り込む。)」

  チュー吉「ね!?美味しいだろ?」

  チュー介「本当だ・・・。こんな美味しい食べ物があるなんて・・・」

  チュー吉「だって、ジ―クは人間・・・」

  チュー介「人間!?これ、人間の食べ物なの!?」

  チュー吉「あ・・・うん。」

  チュー介「こんなのいるもんか!!(手に残っていたビスケットを

        放り投げ、口に残っていたビスケットを吐き出すように

        。)」

  チュー吉「ど・・・どうしたんだよ・・・。」

  チュー介「僕、人間なんて大っ嫌いだ!!」

  チュー吉「大っ嫌いって・・・ジ―クはすごくいい人間なんだよ。」

  チュー介「人間に“いい奴”なんているもんか!!」

  チュー吉「そんなことないよ!!」



         音楽流れ、チュー介歌う。



         “自分勝手に

         好き放題生きる

         恐ろしい生き物

         それが人間”   ※        

        

         チュー吉歌う。



         “そんなことない人間だって

         思い遣りに溢れて

         僕達に優しく接する

         食べ物を分けて

         いつも気にかけてくれる

         恐ろしい訳ない”



         チュー介歌う。



         “人間なんて 人間なんて

         ただ恐ろしいだけ

         人間なんて 人間なんて

         みんながいなくなればいい!!”



  チュー介「そしたら僕の父ちゃんも死なずに済んだんだ!!」

  チュー吉「え・・・?」

  チュー介「父ちゃんが人間に捕まって・・・弟や妹の面倒を見る

        人がいなくなったから・・・だから・・・ばあちゃんが家へ

        来た・・・!!」

  チュー吉「お父さん・・・人間に捕まったの・・・?」

  チュー介「・・・そうさ・・・」

  チュー吉「ジ―クの家で・・・?」

  チュー介「(頷く。)」

  チュー吉「(少し考えるように。)・・・捜しに行こう!!」

  チュー介「え・・・?」

  チュー吉「ジ―クん家に捜しに行こうよ!!僕も一緒に行くから

        さ!!」

  チュー介「そんな・・・もう屹度、父ちゃんは・・・」

  チュー吉「まだ生きてる!!ジ―クは僕達を殺したりしないよ!

        !」

  チュー介「・・・そんなこと・・・分かるもんか・・・」

  チュー吉「分かるよ!!ジ―クはそんなことしない!!」

  チュー介「父ちゃんを捕まえたのが・・・そのジ―クじゃないかも

        知れないじゃないか・・・。」

  チュー吉「でも行ってみようよ!!ちゃんと確かめもしないで、

        疑うのはよくないだろ?」

  チュー介「それは・・・」



         音楽流れ、チュー吉歌う。



         “行ってみよう

         大切な者を捜しに

         ほんの少しでも

         望みがあるなら

         それを見逃す手はないさ

         だから行こう

         危険があっても2人なら

         屹度抜け出せる

         どんなピンチも

         ただの想像で

         色々良くない思いに溢れて

         下を向く

         そんなの何の意味もないだろう

         顔を上げるんだ!”



  チュー介「チュー吉・・・」



         チュー介が自分の名前を呼んだことに

         少し驚いた面持ちで、でも嬉しそうに

         チュー吉頷く。



         “行けば分かるさ

         何が真実か

         今まで見えていなかった

         気付かなかった大切なことも

         屹度何もかもが見えてくる

         だから行かないと

         今この時を逃す手はないから!”



         チュー介歌う。



         “そうだね行こう

         君の言う通り

         もしかすると僕の思い違い・・・

         一人勝手に下を向いて

         前を見ないで勿体ない・・・

         君がいるんだ

         怖くはないさ

         臆病を隠して突っ張ったって

         屹度何も解決しない”



         2人歌う。



         “そうさだから行こう!!

         2人手をつないで

         まだ知らない未知の世界だけれど

         屹度光は見えてくる筈!!”



  チュー吉「行こう!!」

  チュー介「うん!!」



         2人、下手へ走り去る。   ※2

         紗幕閉まる。



    ――――― 第 4 場 ―――――



         紗幕前。

         音楽流れ、大人ネズミが入ったカゴ、

         上がる。

         大人ネズミ、悲し気に歌う。



         “こんな檻に閉じ込められた

         惨めな俺・・・

         自分の行きたいとこにも行けず

         愛しい家族にも会えないなんて・・・

         こんな生き地獄

         いつまで続くんだろう

         それならいっそ・・・”



  大人ネズミ「(カゴの中にあったビスケットを、一口かじる。)食べ

         るものには困らないが・・・こんなカゴの中で、死ぬま

         で暮らすのか・・・」



         その時、2人の人間の足音が近付く。

         (“トントントン・・・”)



  カークの声「ほら・・・ほら見てよ、兄ちゃん!!」

  ジ―クの声「わあーっ!!可愛いネズミじゃないか!!」

  カークの声「でしょ!?兄ちゃんが言ってた通り、ビスケットを食

         べるんだ、このネズミ!」

  ジ―クの声「へぇ・・・。こいつなのかなぁ・・・僕がいつも置いてた

          ビスケットの欠片を食べてたの・・・。おい・・・おまえ

          が、僕の友達かい・・・?」

























   ――――― “チュー吉くんの君は友だち・・・”

                          3へつづく ―――――

 

























   ※ “人間”と言うものを、人間でないものから見た時に、

     どういったように見えるのか・・・私は人間なので・・・^^;

     本当のところはこの表現が正解かどうか分かりません。

     が、春公演作品でも、同じような表現の歌詞がある・・・

     と言うことは、私自身が、こんな風に見えているんであろう

     ・・・と自分の中に、固定観念があるんでしょうね(^_^;)



   ※2、お気付きの通り“人”ではなく“匹”が正解です^^;

     が、今回“も”敢えて人間と同じ数え方“人”で書かせて

     頂きますm(__)m



2013年8月1日木曜日

“チュー吉くんの君は友だち・・・” ―全○場―




     〈主な登場人物〉



   チュー吉  ・・・  本編の主人公。ネズミ学校に通う子ネズミ。



   チュー介  ・・・  ネズミ学校の転校生。



   チュー子先生  ・・・  ネズミ学校の先生。



   子ネズミ達









   その他













 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪



         音楽フェード・インする。(幕は開けておく。)



         「ここはネズミ学校の教室です。

         少し覗いてみましょうか・・・。あら・・・小さな子ネズミ

         達が沢山・・・楽しそうに歌を歌って遊んでいます。」



         (ライトが点き、音楽明るく。)



    ――――― 第 1 場 ―――――



         ネズミ学校の教室。

         沢山の子ネズミ達、元気に歌っている。



         “ここは僕達ネズミの学校

         みんなが仲良く

         みんなが友達

         誰も悪いことしない

         みんなで楽しく暮らしてる

         ここは僕達ネズミだけの国

         みんな仲間で

         気心しれてる

         だから安心ここにいれば

         何も危険なことなんてない!”



         その時、鐘の音が鳴り響く。(“キーンコーン”

         “カーンコーン”)

         そこへ上手より、一匹の子ネズミ(チュー吉)

         慌てて走り登場。



  チュー吉「わあーっ!!遅刻だー!!」

  子ネズミ1「チュー吉!!」

  子ネズミ2「チュー吉、遅いぞ!!」

  チュー吉「寝坊しちゃったんだ!!先生は!?」

  子ネズミ1「まだだよ。」

  チュー吉「(ホッとしたように。)よかった・・・ふう・・・。(席に着く。)

        」

  子ネズミ3「駄目だなぁ、チュー吉は。(笑う。)」

  子ネズミ2「遅刻ばっかしてたんじゃ、その内、先生に大目玉食う

         ぜ。(笑う。)」

  チュー吉「だって、ジ―クのとこにも寄ってたし・・・。」

  子ネズミ1「ジ―ク・・・?」

  子ネズミ2「ジ―クって、例の人間かい?」

  チュー吉「そうだよ!」

  子ネズミ3「チュー吉・・・人間と仲良くするなんて危ないぜ。」

  チュー吉「大丈夫さ!ジ―クはとっても優しくて、僕にいつもビス

        ケットをくれるんだ。」

  子ネズミ1「そんな、食べ物で釣るなんて・・・」

  チュー吉「釣るって何だよ!!ジ―クはそんなことしないよ!!」

  子ネズミ1「ごめん・・・。」

  子ネズミ2「けど、気を付けろよな。」

  チュー吉「うん、分かってる・・・。心配してくれてありがとう。」

  子ネズミ3「俺達みんな友達だろ!!」

  子ネズミ1「当たり前じゃないか!」

  チュー吉「そうだね。」



         子ネズミ達、歌う。



         “ここは僕達ネズミの学校

         みんなが仲良く

         みんなが友達

         だから仲間の為になら

         みんなで力を合わせて

         立ち向かう!!”



  子ネズミ4「あ!先生が来たわ!!」

  子ネズミ2「やばい!!早く、席に着こうぜ!!」



         子ネズミ達、席に着く。

         その時、上手よりネズミ学校の先生

         (チュー子先生。)、一匹の子ネズミ

         (チュー介。)を伴って登場。



  チュー子先生「皆さん、おはようございます。」

  子ネズミ達口々に「おはようございます、チュー子先生!!」



         子ネズミ達、チュー介を認め、口々に

         コソコソと。



         「見て見て!!」

         「わぁ、誰だ!?」

         「転校生?」

         「へぇ・・・」



  チュー子先生「これ、静かに!」



         子ネズミ達黙る。



  チュー子先生「(チュー介に。)さぁ、こっちへいらっしゃい。」



         チュー介、チュー子先生の側へゆっくり

         近寄る。



  チュー子先生「さぁ、チュー介くん、クラスのみんなに自己紹介

           なさいな。」

  チュー介「・・・(黙ったまま横を向いている。)」

  チュー子先生「チュー介くん?(チュー介の様子に、溜め息を吐

           き。)この子はチュー介くん。今日から皆さんと一

           緒に勉強することになりました。仲良くしてあげて

           下さいね。」

  子ネズミ達口々に「はーい!!」

  チュー子先生「さぁ、チュー介くん、そこの窓際のチュー吉くんの

           隣の席へ座りなさい。チュー吉くん!チュー介くん

           に色々と教えてあげてね。」

  チュー吉「はい!」



         チュー介、チュー吉の隣の席の方へ。



  チュー吉「よろしく、チュー介!仲良くしようね!(握手を求める

        ように、手を差し出す。)」

  チュー介「(チラッとチュー吉が差し出した手を見るが、知らん顔

        して席に着く。)」

  チュー吉「あ・・・おい君・・・。何だよ・・・。」

  チュー子先生「さぁ、教科書を開いて下さい・・・」



         紗幕閉まる。



  チュー吉の声「最初は全く話もしない、何だか変わった奴だなぁ

           ・・・と思っていた・・・それが僕とチュー介が初めて

           出会った日のことだったんだ・・・。」



    ――――― 第 2 場 ―――――



         紗幕前。中央に大きなカゴ(ネズミ捕り。)

         が一つ、置いてある。(中にはチーズ。)

         そこへ下手より一匹の大人ネズミ、回りを

         キョロキョロ見回しながら登場。

         ネズミ捕りに興味を引かれるように、抜き足

         差し足近付く。



  大人ネズミ「おおっと・・・、さっきからいい匂いがすると思ったら

          、こんな所にチーズが落っこちてるじゃないか・・・。

          家で腹を空かせて待ってる子ども達に、持って帰っ

          てやるとするか・・・。(回りを見回して。)よぉし、人

          間はいないな・・・。それじゃあ今のうちに・・・」



         大人ネズミ、ゆっくりとネズミ捕りに足を

         踏み入れる。と、大きな音(“ガッシャーン”)を

         たてて、ネズミ捕りの入口の柵が閉まる。



  大人ネズミ「わあーっ!!罠だ!!畜生!!出しやがれ!!

          出せ!!出せよ!!ここから出してくれーっ!!

          (柵をガタガタ揺する。)」



         その時、人間の足音が近付く。(“ドンドンドン・・・”)



  大人ネズミ「あっ!!人間だーっ!!出してくれーっ!!誰か

          ・・・誰かーっ!!」



  人間の声「おっと、ネズミが掛かってるぞ!!この野郎、散々

         家の蔵の米を食い荒らしやがって!!直ぐに処分

         してやる!!」



  大人ネズミ「わあーっ!!助けてくれーっ!!」



         その時、違う人間の足音が、再び近付く。

         (“トントントン・・・”)

  

  子どもの声「父さん!!」

  人間の声「ああ、カーク、見てみろこれ。」

  子どもの声「わあーっ、ネズミだぁ!!」

  人間の声「こいつがいつも、蔵の米の俵を食い破り、中の米を

        食べ散らかしてた張本人だぞ!」

  子どもの声「へぇー・・・こんな可愛い顔してるのに・・・。」

  人間の声「そうだろ?だから直ぐに川に沈めて・・・」

  子どもの声「あ、そうだ!母さんに、町まで弟達のミルクを買い

          に、馬車を出して欲しいから、父さんを呼んで来て

          って言われてたんだ。」

  人間の声「今から?」

  子どもの声「うん、急ぐんだって。」

  人間の声「仕方ないな。こいつの処分は、戻ってからすることに

         しよう。カーク!そのネズミに手を出すんじゃないぞ。

         噛み付かれでもしたら大変だからな。」

  子どもの声「うん。」



         一人の人間の足音、段々遠ざかる。



  子どもの声「・・・へぇ・・・。おまえ、可愛い顔してんなぁ・・・。」



  大人ネズミ「わ・・・わあ・・・出せ!!出せー!!(柵をガタガタ

         揺する。)」



  子どもの声「・・・ビスケット・・・食べる・・・?」



  大人ネズミ「・・・わあーっ!!・・・(鼻をクンクンさせる。)・・・え

         ・・・?」



  子どもの声「ほら・・・」



  大人ネズミ「何だ・・・?(ビスケットを拾い上げ、手に持つ。)」



  子どもの声「お食べ・・・」



  大人ネズミ「(暫く手に持ったビスケットを見詰めているが、恐る

         恐る一口かじる。)・・・美味い・・・」



  子どもの声「美味しいかい?君、ビスケット食べるんだ。ジ―ク

          兄ちゃんが言ってた通りだ・・・。可愛いなぁ・・・。そ

          うだ!!父さんに内緒で、部屋でコッソリ僕が飼お

          う!!父さんには、逃げたって言えばいいや!!

          さぁ、おいで。僕の部屋へ一緒に行こう。」



  大人ネズミ「わっ・・・ど・・・どこに連れて行きやがるんだよ!!

         わあーっ!!」



         ネズミ捕りのカゴ、大人ネズミ下がる。





















――――― “チュー吉くんの君は友だち”2へつづく ―――――



   



















2013年7月28日日曜日

“みりとポン吉” ―全9場― 4






     7月28日(日)

     いつも使っているパソコンが、ここ数日全くの
     アウト状態に陥っていました(>_<)

     この今使っているパソコンも、古い以前使用していた
     物を、修正し直して使っているので、またいつどうなるか
     ・・・と思うと、ドキドキです(ーー;)

     またお休みが続いたなら、パソコンがアウトになったか
     ・・・とお考え下さいませm(_ _)m



ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪ ー ♪    
     






            ーーーーー 第 8 場 ーーーーー


         舞台後方、カーテン後ろに大木と、みり、ポン吉

         のシルエットが浮かび上がる。

         2人、上方を見上げながら。



  みり「この木の上ね・・・」

  ポン吉「うん・・・。みり・・・僕は自分の星へ帰っても、この地球

       から君があの月を見てる時、僕も反対側の星から同じ

       月を見てる・・・必ず・・・心はつながっているから・・・」

  みり「・・・ポン吉・・・」

  ポン吉「行って来るよ!!」

  みり「(頷く。)気を付けて、ポン吉!!」



         ポン吉、大木に登って行く。



  ポン吉の声「(一時置いて。)・・・あった・・・あった!!みり!!

          あったよ!!僕の体だ!!」



  みり「やったわね!!」

  

  ポン吉の声「ありが・・・(声が途切れる。)」



  みり「・・・ポン吉・・・?ポン吉!?どうしたの!?」



         その時、木の上からポン吉(ぬいぐるみ)が

         落ちて来る。



  みり「(ポン吉を抱き上げる。)・・・ポン吉・・・?ポン吉!!そん

     な突然に帰っちゃうなんて・・・!!嫌・・・嫌よ、ポン吉ー

     !!(声を上げて泣く。)」



         紗幕閉まる。暗転。



    ――――― 第 9 場 ―――――― A



         紗幕前。下手よりパーティドレスに着飾った

         メアリ、ヒューイ、トンリー登場。



  ヒューイ「ありゃ屹度、クマ鍋なんて言った、崇りだぜ。」

  メアリ「もう嫌なこと思い出させないでよ!!今日は待ちに待っ

      た卒業パーティなのよ!!それよりどう?今日の私!」

  トンリー「凄い綺麗だよ、メアリ。」

  ヒューイ「勿論。」

  メアリ「ありがとう。」

  ヒューイ「ラストダンスは是非、僕と!」

  メアリ「そうねぇ・・・」

  トンリー「あ・・・ずるいぞ!!」



         3人、話しながら上手へ(一旦)去る。



    ―――――第 9 場 ――――― B



         紗幕開く。と、卒業パーティ会場。明るい音楽

         流れ、ドレスアップした生徒達、其々楽しそうに

         踊っている。メアリ、ヒューイ、トンリー上手より

         登場。



  メアリ「ヒューイ!(手を出す。)」

  ヒューイ「喜んで・・・(メアリの手を取り、踊りに加わる。)」

  トンリー「あ!!抜け駆け・・・(溜め息を吐き、違う女の子を誘っ

       て踊る。)」



         その時、上手よりドレス姿のみり、一人で登場。

         みんなの様子を見て、溜め息を吐き、踊りの輪

         から離れた壁に凭れる。曲が終わり、其々バラ

         バラに離れる。

         そこへ下手より、一際目を惹くハンサムな少年

         登場。誰かを捜しているように。みりを認め、

         ゆっくり近付く。



  生徒1「(コソコソと。)・・・誰?」

  ヒューイ「あんな奴、うちの学校にいたか?」

  メアリ「知らないわよ!!」

  生徒1「あんなカッコいい男の子いたら、即アタックするわよね

       。」

  生徒2「見て・・・!!みりの方へ寄って行くわ!!」

  メアリ「嘘・・・」



         少年、ゆっくりみりの前へ。



  少年「みり・・・僕と踊ってくれませんか?(手を出し、微笑む。)」

  みり「・・・王子様・・・」



         少年、みりの手を取り、舞台中央へ。

         音楽流れ、2人スポットに浮かび上がる。



  少年「お礼が中途半端になってごめんね。みり・・・ありがとう・・・

      」

  みり「・・・誰・・・?」

  少年「(微笑む。)」

  みり「・・・ポン吉・・・?」

  少年「うん・・・君のポン吉だよ。」

  みり「嘘・・・(呆然と少年を見詰める。)」

  少年「本当さ。(ポケットから四つ葉のクローバーを取り出す。)

      ほら・・・君に貰った、この四つ葉のクローバーのお陰で、

      僕は体を見つけることが出来たんだ・・・。」

  みり「ポン吉・・・(思わず涙が溢れる。)ポン吉!!(少年に抱

     きつく。)」



         音楽大きくなり、2人、ダンスを踊る。

         (いつしか回りのみんなも踊りに加わる。)

         一頻り踊った後、見詰め合うみりとポン吉

         残し、場面変わる。



  みり「もう、お別れなのね・・・」

  少年「うん・・・。」

  みり「ポン吉・・・(泣く。)」

  少年「泣かないで、みり。(微笑む。)僕の星と、この地球は随分

      離れているけれど・・・言っただろ?僕の星は科学の進歩

      が目覚ましいって・・・。会いたくなったら、君が僕の心に

      話し掛けてくれさえすれば、僕は直ぐに宇宙船に乗って、

      また、みりに会いに飛んで来るよ・・・。」 

  みり「・・・本当に・・・?」

  少年「うん!!」

  みり「(嬉しそうに。)ポン吉!!」

  少年「また、会おう!!」



         みり、ポン吉歌う。



         “2人で力を合わせて

         何かを成し遂げる

         それがたとえどんな些細なことでも

         力を合わせることに意味がある

         1人じゃどうしようもなかったこと

         2人なら大丈夫(願いは叶う)

         あなたと2人

         共に手を取り叶えた思い

         いつも心は側に・・・”



         音楽盛り上がり









        ――――― 幕 ―――――  





























2013年7月18日木曜日

“みりとポン吉” ―全9場― 3


         ママ、溜め息を吐きながら、ベットに座り込み
         歌う。(ベットの上のガラクタや、木の破片、
         ピストルの玩具などを手に取り見る。)

         “丸であの娘は鉄砲玉
         女の子だって言うのに
         こんな物ばかり集めて
         丸で正義のヒーロー気取り
         決死の救出大作戦決行・・・?
         一体あの娘は何を考えてるのかしら・・・
         もう直ぐ卒業パーティだと言うのに
         ラストダンスの相手もいないわ・・・”

         ママ、下手へ去る。暗転。

    ――――― 第 6 場 ―――――

         舞台前方、紗幕前、ヒューイ、トンリー
         インディアン調の調べに乗り、上手より
         歌いながら登場。      ※

         “やっほっほ やっほっほ
         今夜は祭だ
         卒業パーティの前祝いだ
         みんなで一晩中騒ぎまくろう
         飛びっきりのご馳走で
         飛びっきりの前夜祭
         今夜はみんなで盛り上がろう!!”

         紗幕開く。と、舞台中央、木が一本立っている。
         その木に、ポン吉縛られている。

  ヒューイ「今夜は滅多にお目にかかれないクマ鍋パーティだ!
        !」
  トンリー「おいおい・・・クマ鍋って、クマなんか何処にも・・・」
  ヒューイ「馬鹿、そこに縛り付けてあるだろ!」
  トンリー「あのぬいぐるみ?」

         ポン吉、ビクッとする。

  トンリー「(笑って。)あんなの食べれないよ。」
  ヒューイ「いいんだよ!!大鍋に放り込んで、グツグツ煮出して
        スープを・・・。何より、それを見たみりの顔が楽しみだ
        ぜ。」
 
         ヒューイ、トンリー再び歌う。

         “やっほっほ やっほっほ
         今夜は祭だ
         今夜は愉快だ
         みんなで騒ぎまくろうぜ!!”

         ヒューイ、トンリー、歌いながら下手へ去る。

  ポン吉「(2人が去ったのを確認して。)クマ鍋だって・・・。どうし
       よう・・・僕の体、食べられちゃうのかな・・・。」

         ポン吉、静かに歌う。

         “僕が何故・・・
         飛ばされること知ってたのに
         ボタンを押したと思ってるんだい・・・
         見たことのない・・・
         君の面影を求めて
         僕は遥々遠く彼方
         この地球まで来た・・・”

         舞台、薄暗くなり、後方カーテン後ろにポン吉
         のシルエット、浮かび上がる。

  ポン吉「本当は、未来ツアーの途中で、単独行動はしちゃいけ
       ないんだけど・・・僕は未来の僕の部屋に、どうしても
       入ってみたかったんだ・・・。(扉を開ける。)わあ・・・ここ
       が3年後の僕の部屋・・・?今と、あんまり変わらないな
       ぁ・・・。そりゃそうか・・・たった3年じゃ、やっぱ、あんまり
       変わらないか・・・。今度はパパにもっとお願いして、30
       年後未来ツアーにでも行かせてもらおうっと・・・。あれ
       ・・・これは僕の日記・・・へぇ・・・面白そうだ。何々・・・え
       -っ!?明日、僕がパパの宇宙船を悪戯して、何処か
       へ飛ばされちゃうって!?冗談じゃないよ・・・ああ、助
       かった・・・。そのことが分かってりゃ、悪戯なんてするも
       んか!!・・・え・・・?次に書いてるのは・・・一週間後の
       日付になってるぞ・・・。“・・・飛ばされて、不時着した地
       球と言う星で、僕は・・・素敵な女の子と出会った・・・。
       名前は“みり”・・・”みり・・・?」

         シルエット、フェード・アウトし、舞台明るくなる。

  ポン吉「みり・・・」

         その時、上手より、木を隠れ蓑にして、みり
         登場。ゆっくりポン吉の側へ。
       
  みり「ポン吉・・・!!ポン吉・・・!!(小声で。)もう・・・こんな時
     ポン吉みたいに、心に直接話し掛けることが出来たらいい
     のに・・・!!ポン吉・・・!!」

  みりの心の声「ポン吉・・・」

  ポン吉「(項垂れていたが、その声にハッとする。)みり・・・?(み
       りに気付く。)みり!!」
  みり「しっ!!」
  ポン吉「(みりの格好に、思わず吹き出す。)みり・・・なんて格好
       ・・・」
  みり「助けに来たわ!!(ポン吉に駆け寄り、ロープを解こうと
     する。)」
  ポン吉「・・・僕の為に来てくれたんだ・・・(独り言のように。)」
  みり「・・・え?」
  ポン吉「う・・・ううん・・・」
  みり「解けないなぁ・・・。一体どんな結び方してるのよ・・・(ブツ
     ブツと。)」

         その時、下手よりメアリ、ヒューイ、トンリー
         登場。

  ポン吉「みり!!メアリ達だ!!」
  みり「やばい・・・(木の陰に隠れる。)」
  ヒューイ「そろそろ、鍋のお湯が沸騰してきた頃だから、こいつ
        を連れて行って、クマ鍋作ろうぜ。」
  メアリ「私、クマ鍋なんかいらないわ。」
  ヒューイ「そんなこと言うなよ。それを見た、みりがどんなに驚く
        かって、考えただけで面白いだろ?」
  メアリ「まぁね。」
  トンリー「みりの奴、来るかなぁ・・・。」
  ヒューイ「来るさ。あいつ、変に正義感が強いんだ。」

         ヒューイ、トンリー、ポン吉のロープを解いて、
         連れて行こうとする。
         その時、木陰からみり登場。

  みり「待ちなさい!!」
  トンリー「みり!!」
  ヒューイ「来たな!!」
  みり「ポン吉を返してもらうわ!!この泥棒達!!」
  ヒューイ「そう、易々と取り返せると思ってるのか!!」
  みり「思ってなくても・・・ポン吉は渡さない!!(木の棒を構え
     る。)」

         音楽流れ、みり、ポン吉を取り返す為に、
         メアリ、ヒューイ、トンリーに掛かって行く。
         一時、戦いの踊り。
         みり、3人に遣られそうになりながら、奮闘する。

  ポン吉「(思わず。)みり!!」
  メアリ「ヒューイ、トンリー!!早く遣っ付けちゃってよ!!」
  トンリー「分かってるよ!!」
  メアリ「キャッ!!痛い!!ヒューイ、トンリー何遣ってるのよ!
      !」
  トンリー「あ、ごめん!!」
  ヒューイ「くそう!!」

         とうとうメアリ、ヒューイ、トンリー、みりが手に
         したロープで、ポン吉が縛られていた木に、
         縛り付けられる。

  メアリ「ヒューイ!!トンリー!!」
  ヒューイ「この野郎!!」
  トンリー「放せ!!放せよ!!」

         みり、ポン吉の方へ。今までジッとしていた
         ポン吉、自分で立ち上がる。

  ポン吉「(服を払いながら。)あああ、ジッとしてるのって肩が凝
       るなぁ。」

         みり、ポン吉、顔を見合わせ微笑む。
         メアリ、ヒューイ、トンリー呆然とその様子を
         見ている。

  みり、ポン吉「(3人の方を見て。)べーっ!!」

         みり、ポン吉、笑いながら下手へ走り去る。

  トンリー「(呆然と。)・・・あれ・・・」
  メアリ「・・・クマの・・・」
  ヒューイ「・・・ぬいぐるみ・・・だったよなぁ・・・」
  3人「お化けだー!!」

         音楽、大きくなり暗転。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         紗幕前。
         下手より、みり、ポン吉登場。

  みり「(客席方を見て。)さぁ、ポン吉!この小高い丘の上から
     なら、屹度あなたの体を見つけられるわ!!」
  ポン吉「(首を振る。)・・・駄目だ・・・みり・・・。(見上げて指差す
       。)雲が掛かってて、お月様が見えないよ・・・。月の光
       がないと、僕のペンダントは光らないんだ。」
  みり「もう、そろそろお月様が真上に昇る頃よ・・・!!どうしよう
     ・・・!!」
  ポン吉「もう・・・帰れないんだ・・・。」
  みり「ポン吉・・・何、気弱なことを言ってるの!?そんなんじゃ、
     たとえペンダントが光ったって、あなたの体を捜し当てるこ
     となんて出来っこないわ!!」
  ポン吉「みり・・・」
  みり「四つ葉のクローバーだって見つけたのよ!!あなたの体
     だって、屹度見つかるわ!!」
  ポン吉「・・・うん・・・うん、そうだね!!」   ※2
  みり「(空を仰ぐように。)お月様、お願い!!ポン吉の為に、そ
     の姿をほんの一瞬だけ私達の前に現わして!!」
  ポン吉「お月様!!僕に力を貸して!!」

         その時、雲が切れるように、舞台が明るくなる。

  みり「見て!!雲が切れるわ!!」
  ポン吉「本当だ!!」
  みり「さぁ、あなたの体は何処!?」

         2人、客席方を捜すように。
         その時、客席後方、輝く。

  ポン吉「あ・・・あった!!あれだ!!(客席後方を指差す。)あ
       そこに僕の体があるんだ!!」
  みり「あれは・・・家の裏庭に生えてる大木だわ!!」
  ポン吉「本当!?」
  みり「こんな近くにあったのね!!」

         音楽流れ、2人歌う。

     ポン吉“やっと見つけた僕の体”

     みり“やっと見つかった本当のあなた”

     2人“2人で力を合わせて
        何かを成し遂げる
        それがたとえどんな些細なことでも
        力を合わせることに意味がある”

     ポン吉“1人じゃどうしようもなかったこと”
  
     みり“2人なら大丈夫”

     2人“あなたと2人
        共に手を取り叶えた思い”

  ポン吉「やっと帰れるんだ・・・」
  みり「ポン吉・・・(淋しそうに。)」
  ポン吉「みり・・・?」
  みり「体が見つかったら・・・帰っちゃうのね・・・自分の星に・・・。」
  ポン吉「みり・・・」
  みり「何だか・・・淋しいな・・・なんて・・・(無理に微笑む。)」
  ポン吉「・・・みり・・・僕の星からも、あの今見てるのと同じお月
       様が見えるんだ。(指差す。)」
  みり「ポン吉・・・」
  ポン吉「僕の星とこの地球は、あのお月様を挟んでつながって
       いるんだよ・・・。」
  みり「つながっている・・・。そうね・・・私・・・淋しいなんて変ね・・・
     。(涙を隠すように。)さ!!早く体を見つけに行きましょう!
     !」

         みり、上手へ走り去る。

  ポン吉「・・・地球で・・・素敵な女の子と出会った・・・(呟く。)」

         暗転。 








     ――――― “みりとポン吉”4へつづく ―――――











    ※ 彼らは一体、何歳くらいなんでしょうね・・・(^_^;)

    ※2、この台詞、今現在の作品でもよく登場する台詞です。
       屹度、好きなんでしょうね~・・・こんな風に、同じ言葉
       を繰り返すのが・・・^^;余談ですが・・・
       同じように、よく登場するな~・・・と思っているのが、
       皆様お気付きでしょうか・・・(^_^;) 「え・・・」と言う
       台詞です(^.^)しかも主人公がよく使うので、毎作品
       一体私は何回「え・・・」を言っているのでしょうか・・・?
       と、問題が作れそうです~^^;
























2013年7月15日月曜日

“みりとポン吉” ―全9場― 2

 ポン吉「分からないんだ・・・」
  みり「分からないって・・・」
 ポン吉「昨日も言ったけど・・・墜落した時の衝撃で、僕の体は
       この宇宙船から飛び出して、どっか行っちゃったんだよ
       ・・・。」
  みり「どっかって・・・じゃあどうするの!?体がなけりゃ、帰れな
     いんでしょ?」
  ポン吉「うん・・・。一体、僕の体・・・何処にあるんだろう・・・。」
  みり「・・・ポン吉・・・」
  
         明るい音楽流れ、みり、元気よく歌う。

         “大丈夫よポン吉
         捜し物なんて直ぐに見つかるわ
         大丈夫よポン吉
         あなたには心強い味方がいるもの
         独りぼっちじゃないわ
         あなたと私2人なら
         無くした物は直ぐに見つかるわ
         だから大丈夫よ
         2人で捜しに行きましょう!!”

  ポン吉「みり・・・うん!!」

         ポン吉歌う。

         “捜し物は直ぐに見つかるよ
         平気な筈さ
         一人じゃないから
         君と2人なら勇気も湧いてくる
         だから力を貸してね みり!!”

  みり「勿論よ!!」
  ポン吉「でも・・・どうやって捜せばいいんだろう。こんな広い場所
       から、ちっぽけな僕の体を見つけることなんて、本当に
       出来るのかな・・・。」
  みり「何、気弱なこと言ってるの!?2人で捜せば、何とかなる
     わ!!宇宙船だって、この通り見つかったじゃない!!」
  ポン吉「・・・うん・・・そうだね!!」
  みり「・・・それより、あなたの体、何か目印になるような物は着け
     てないの!?」
  ポン吉「・・・目印?」
  みり「例えば、大きな鞄をぶら下げてるとか・・・光る服を着てる
     とか・・・携帯電話を持ってるとか!!」
  ポン吉「携帯・・・電話・・・?」
  みり「あら、知らないの?(ポケットから、携帯電話を取り出し。)
     ほら、これよ!!これがあれば、とっても便利なのよ!!
     何たって、遠くの人と話しが出来るんだから!!」
  ポン吉「ふうん・・・。僕らの星の、テレパシーみたいなものかな
       ・・・?そんな物、使わなくたって、僕らは話したい相手
       の頭の中に、直接話しかけるんだよ。」
  みり「直接ですって!?(何かに反応するように。)分かってるわ
     よ!!だからこうやって一生懸命捜して・・・(分かったよう
     に溜め息を吐き、ポン吉を見る。)今のがテレパシー・・・?」
  ポン吉「まあね・・・。」
  みり「凄いのね・・・あなたの声が心の中に聞こえたわ。(ハッと
     して。)そんなことより、何か目印よ!!捜す為に、手掛かり
     になるようなもの・・・。」
  ポン吉「(一時考えて。)そうだ!!光る服は着てないけど・・・僕
       が首から提げてたペンダントが、満月の夜、月が真上に
       来た時、その明かりに反応して光るんだ。」
  みり「それよ!!満月って言えば・・・丁度、今夜だわ!!これで
     見つかるわね、あなたの体!!」
  ポン吉「うん!!」

         音楽で暗転。
    ――――― 第 4 場 ――――― A

         舞台明るくなる。と、紗幕前。
         上手より、メアリ登場。続いてヒューイ、
         大きな箱を重そうに抱えたトンリー登場。

  ヒューイ「あああ、退屈だなぁ・・・。今日は学校も冴えなかったし
        ・・・。何で、みりの奴、休んでんだよ。」
  メアリ「知らないわよ、そんなこと!!それよりその箱、落とさな
      いでよ!!」
  トンリー「分かってるよ・・・。」
  ヒューイ「よかったな、メアリ。卒業パーティ用のドレス、買っても
        らえて。」
  メアリ「これで明日の卒業パーティで、皆の視線は私のものよ!
      」              ※
  トンリー「あああ・・・重いなぁ・・・(ボソッと独り言のように。)」
  ヒューイ「何だ?しっかり持てよ!落とすんじゃないぜ。」
  トンリー「はいはい。」
  メアリ「今日はみりが学校休んでて、苛める相手がいないから
      ムシャクシャしてたけど、素敵なドレスを買ってもらった
      お陰で、スッキリしたわ。次はこのドレスに合う、鞄と靴を
      パパにおねだりしなくちゃ。」

         メアリ、歌う。
         ヒューイ、トンリー、メアリの回りを踊る。

         “素敵なドレスに可愛い鞄
         大人びたヒールに光輝く宝石類
         誰が見ても一番目を引く
         飛びっきりのレディ
         誰もが私と踊りたがるわ
         誰もが私にダンスを申し込むの
         ラストダンスの相手に選ばれた者は
         最高の栄誉に酔い痴れるわ”

         3人、下手へ去る。

    ――――― 第 4 場 ――――― B

         上手方スポットに、みりのママ、受話器を
         持って電話しているように。

  ママ「はい・・・はい・・・え?みりが、今日学校をお休みしたんで
     すか!?まぁ、本当にあの子ったら何処ほっつき歩いて・・・
     。朝は元気に“行って来ます”なんて出て行ったんですけど
     ・・・。はい・・・はい、帰ったらきつく言い聞かせますから・・・
     本当にすみません・・・。」

         ママ、フェード・アウト。

    ――――― 第 5 場 ――――― A

         舞台明るくなる。と、舞台中央、みりとポン吉
         座り込んで話している。

  みり「ね!あなたの星ってどんな感じ?この地球に似てるのか
     しら?」
  ポン吉「顔形や姿は、似てるかな・・・」
  みり「あら・・・あなたタヌキじゃないの?」
  ポン吉「酷いな・・・。これは地球での仮の姿だよ。」
  みり「そうなの。」
  ポン吉「でも、科学の進歩はこの地球とは、比べ物にならない
       くらい、格段に進んでるよ。」
  みり「そうね・・・。宇宙船だなんて、聞いたことがないもの。」
  ポン吉「宇宙船だけじゃないさ。僕らの星には、タイムマシン
       だってあるんだよ。」
  みり「タイムマシン・・・?」
  ポン吉「そう!自由に昔に行ったり、未来に行ったり出来るんだ
       。タイムマシンで行く、未来ツアーなんてのもあるんだ
       から。」
  みり「へぇ・・・凄いのね。何でも未来のこと、分かっちゃうのね。
     じゃあ、ひょっとして・・・宇宙船を悪戯して、飛ばされちゃう
     ってことも知ってたりして。(笑う。)」
  ポン吉「(笑う。)・・・うん・・・」
  みり「・・・うん?うんって、知ってたの!?知ってたのに何故?」
  ポン吉「・・・つい・・・(笑って誤魔化す。)」
  みり「もう、仕様がないポン吉ねぇ!!」
  ポン吉「何故・・・僕が宇宙船を悪戯して、飛ばされることを知っ
       てたのに、発射ボタンを押したと思ってる・・・?」
  みり「そんなの、どうせあなたが忘れてたからでしょ?(笑う。)
     ・・・今・・・何か言った?」
  ポン吉「う・・・ううん!」
  みり「(何かを見つけたように。)見て、ポン吉!!四つ葉のクロ
     ーバーよ!!」
  ポン吉「本当だ!!地球でも四つ葉のクローバーって、何か特
       別な意味があるの?」
  みり「地球でも・・・って」
  ポン吉「僕達の住む星では、近代化が進んで、今じゃ土のある
       場所なんて、極僅かなんだ。その中で四つ葉のクロー
       バーを見つけるって、凄いことなんだよ。四つ葉のクロ
       ーバーを手に入れた者は、何でも願いが叶うって言わ
       れてるんだ・・・。」
  みり「へぇ・・・。はい!(四つ葉のクローバーを、ポン吉の方へ
     差し出す。)あなたにあげるわ!」
  ポン吉「え・・・?」
  みり「この地球でも、四つ葉のクローバーは幸せのお守りよ!
     屹度あなたの体、見つかるわ!!」
  ポン吉「みり・・・(クローバーを受け取り、見詰め呟くように歌う
       。)」

         “四つ葉のクローバーは
         幸せを運んで来る・・・
         僕の願いを叶える為に・・・”

         その時、下手よりメアリ、ヒューイ、トンリー
         話しながら登場。みりを認め、顔を見合わせ
         ゆっくり近付く。

  メアリ「あら・・・みりじゃない。」
  みり「メアリ・・・」

         ポン吉、じっとして動かなくなる。

  メアリ「学校サボって何してるの?こんな所で・・・」
  みり「何だっていいじゃない・・・。あなたに関係ないでしょ・・・」
  メアリ「ふうん・・・。私、今日ママに町の洋服屋さんで、とっても
      素敵なパーティドレスを買って貰ったのよ!ね!(ヒュー
      イとトンリーに。)」
  ヒューイ「ああ。」
  トンリー「とってもメアリに似合ってる。」
  メアリ「あなたは何を着て行くの?折角の卒業パーティだもの、
      その格好じゃあねぇ・・・。でも、あなたなんか卒業パー
      ティに相手してくれる男の子もいなかったわね。ドレスな
      んて関係ないわね。一番メインのラストダンスは誰とも
      踊らないで、一人で壁の花なんて可哀相。(笑う。)」
  
  ポン吉(心の声)「みりは誰かさんみたいに、気飾らなくても十分
             綺麗なんだ。」
  
  メアリ「何ですって!?」
  トンリー「どうしたんだい、メアリ?」
  メアリ「ヒューイ!!トンリー!!今、私に変なこと囁いたでしょ
      !?」
  ヒューイ「俺達、何も言わないさ!!なぁ、トンリー!!」
  トンリー「うん・・・」

  ポン吉(心の声)「おまえ達も我が儘お嬢様相手に大変だな。(
             笑う。)」

  ヒューイ「そうなんだよ・・・」
  トンリー「うん・・・」
  メアリ「どう言うこと!?」
  トンリー「え・・・?いや・・・」
  ヒューイ「俺達、何も・・・」
  メアリ「“我が儘お嬢様”ってどう言うことよ!!」
  みり「(小声で。)・・・ポン吉?」
  ポン吉「(みりに囁くように。)だって、みりに言いたい放題言い
       やがって、頭にきたんだ。」
  みり「駄目よ!!バレたらどうするの?でも・・・ありがとう・・・。
     (笑う。)」
  メアリ「何が可笑しいの!?」
  みり「(首を振る。)」
  ヒューイ「(ポン吉に気付いて。)おい、メアリ!!こいつ、変わっ
        た人形持ってるぜ。」
  トンリー「本当だ・・・。なんだ、このぬいぐるみ。(足で突いてみ
       る。)」
  みり「やめてよ!!」
  メアリ「何?みりってば、こんな大きなぬいぐるみ持って、ウロウ
      ロしてるの?」
  みり「いいでしょ!!ほっといてよ!!」

         みり、ポン吉を抱き抱えて行こうとする。

  メアリ「待ちなさいよ。何、そんなに大切そうに抱えてるの?ちょ
      っと見せてよ。ヒューイ!!トンリー!!」

         ヒューイ、トンリー、ポン吉を取ろうとする。

  みり「嫌よ!!止めて!!ポン吉!!」

         ヒューイ、トンリー、ポン吉を取り上げる。

  メアリ「ポン吉?」
  みり「ポン吉を返して!!」
  メアリ「(笑って。)ポン吉だなんて、変な名前。(ポン吉をマジマ
      ジ見て。)ポン吉っぽい顔・・・。汚いぬいぐるみねぇ・・・。」
  みり「そんなこと、どうだっていいでしょ!?早く返してよ!!」
  メアリ「向きになっちゃって可笑しい・・・。(ニヤリと笑う。)ちょっ
      とこのぬいぐるみ借りて行くわ。」
  みり「駄目よ!!」
  メアリ「ヒューイ!!トンリー!!」
  ヒューイ「じゃあ、みり、ちょっと借りてくぜ。」
  みり「ポン吉を返して!!」

         みり、ヒューイ、トンリーに掴みかかるが、
         押し退けられる。

  みり「キャッ!!(倒れる。)」

  ポン吉(心の声)「みり!!」

         ヒューイ、トンリー、ポン吉を抱えて上手へ
         去る。メアリ、笑いながら続いて去る。

  みり「ポン吉!!ポン吉ー!!・・・屹度助け出すわ・・・屹度、
     助けに行くからねー!!」
         
    ――――― 第 5 場 ――――― B

         みり、スポットに浮かび上がり歌う。

         “大切な私の友達
         遥か彼方
         宇宙の何処からか
         突然私の前に現れたあなただけど
         出会ったばかりの私達
         でも私にはとても大切な友達だわ
         姿形はただのぬいぐるみでも
         心はちゃんと通い合う
         生まれて初めて見つけた大切な友達”

  みり「ポン吉、待ってて!!」

         舞台明るくなる。と、みりの部屋。

  みり「(ベットの脇の木箱を探るように。)えっと・・・何処に仕舞っ
     たかしら・・・。あった!!これこれ・・・っと・・・」

         みり、木箱から取り出したヘルメットを被り、
         木の棒を掲げる。ベットの上に立ち上がり。

  みり「待ってなさい、メアリ、ヒューイ、トンリー!!私の大切な
     ポン吉を奪っといて、ただで済むと思ったら大間違いよ!!
     」

         その時、下手よりみりのママ登場。

  ママ「みり!!“ただいま”も言わないで、ドタバタ部屋に駆け込
     んだと思ったら、何て格好・・・(呆れたように。)それにあな
     た、今日学校どうしたの!?朝“行って来ます”って出て行
     ったっきり、こんな時間まで、どこほっつき歩いて・・・」
  みり「ママ!!お説教なら後でいくらでも聞くわ!!私、忙しい
     の!!今から決死の救出大作戦決行よ!!」

         みり、上手へ走り去る。

  ママ「あ・・・みり!!みり、待ちなさい!!みり・・・。決死の救出
     大作戦・・・って・・・」

         







     ――――― “みりとポン吉”3へつづく ―――――










     ※ 何の卒業パーティか・・・は、あまり深く考えないで
       ください^^;


























2013年7月13日土曜日

“みりとポン吉” ―全9場―

  
 

  
      〈主な登場人物〉

     みり  ・・・  明るい女の子。

     ポン吉  ・・・  みりのぬいぐるみ。

     メアリ  ・・・  みりのクラスメイト。

     ヒューイ  ・・・  メアリの友達。

     トンリー  ・・・  メアリの友達。

     みりのママ

     その他


 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪


         客電落ちる。

         轟音は響く。(“ゴオーッ”)

  声「わあーっ!!操縦管が利かない!!」

         コンピューター音が鳴り響く。(“ピーピーピー”)

  コンピューターの声「墜落します。墜落します。直ちに脱出して
               下さい。墜落します。墜落します。地球圏
               突入・・・」

  声「わあーっ!!(段々小さく。)」

    ――――― 第 1 場 ―――――

         明るい音楽流れ、舞台明るくなる。
         と、中央に一つのベットが置かれ、その上に
         パジャマ姿の少女(みり)、楽し気に歌い踊る。

         “素敵な時間
         自由な時間 
         町の灯りは消えて
         静けさが私を取り巻く
         宿題は終わったわ
         ご飯も済んだ
         歯も磨いてお風呂も入った
         パジャマに着替えて
         後は私の大切な時間”

  ママの声「みり!!いつまでも起きてないで、早く寝なさい!!」

  みり「はーい、ママ!!(肩を竦める。)」

         その時、“ビューッ!!”“バァーン!”(遠くで   
         何か墜落した音。)
         みり、慌ててベットから飛び降り、窓の方へ
         駆け寄る。窓の外を見て。

  みり「今の音、何かしら!?林の辺りに何か墜落したような・・・
     (暫く、外の様子を窺う。)ま、いっか。折角の大切な時間、
     余計なことに煩わされずに・・・(窓を閉めて、ベットの方へ
     。)今夜は何をして過ごそうかしら・・・。読み掛けの小説を
     読んで仕舞おうかしら・・・。でも結末は、まだ知りたくない
     わ!!姫には屹度、素敵な王子様が現れる筈だもの。夜
     の暗闇を、白馬に乗った王子様が、剣を翳しながら・・・(
     ポーズを取る。)囚われの姫の許へ駆けつけるの!!“
     姫!!助けに参りましたぞ!!”」

         その時、笑い声が聞こえる。
         みり、驚いたように回りを見回し。

  みり「誰!?」
  
  声「そんな王子様なんて、いる訳ないさ!!一体君は何時の
    時代の話しを読んでいるの?」

  みり「いいでしょ、そんなこと!!出て来なさい!!誰なの!?
     私の部屋へ無断で入り込んで、私の素敵な時間にケチ付
     ける奴は!!」

  声「そんなに怒らないでよ。怖いなぁ。(笑う。)」

         その時、今まで棚の上に並んでいた
         ぬいぐるみの中の一つ、たぬきの“ポン吉”
         が動き出し、ぎこちない動き方で、みりの
         側へ。        ※

  ポン吉「まだ、この体に慣れてなくって・・・動き難いなぁ・・・。(自
       分の手足を動かしてみる。首をコキコキ動かして。)まぁ
       いいや、その内、慣れるだろ。(驚いて呆然と、その様子
       を見ていたみりに向かって。)こんにちは!僕は・・・」
  みり「ポン吉・・・」
  ポン吉「え?」
  みり「な・・・何で、ポン吉が喋るの!?だってポン吉は、ただの
     ぬいぐるみよ!!私が幼稚園の頃に、パパがクリスマス
     プレゼントに買ってくれた、あのショーウインドーに飾られて
     たポン吉が話しをするなんて・・・(ポン吉から目を逸らせ、
     首を振る。)夢よ・・・夢を見てるのよ!!だってポン吉が喋
     る訳ないもの!!まして自分の力で動くなんて!!電池で
     動く訳でもない、ただのぬいぐるみのポン吉がそんな・・・(
     自分の頬を抓る。)痛っ!!・・・ほら・・・痛い!!痛いわ!
     !これは夢の中の出来事よ!!」

         みり歌う。

         “そうでしょ
         ただの人形が動く筈ないもの
         決まってるわ
         ただの目の錯覚だって・・・”

  みり「ね・・・!?(振り返って、ポン吉を見る。)」
  ポン吉「本当だよ。」
  みり「(再び目を逸らせ、頬を抓る。)・・・痛い・・・痛い?・・・痛い
     ってどう言うこと!?」
  ポン吉「だから、これは夢でも何でもなくって・・・」
  みり「嘘よ!!ポン吉はだって・・・ただのぬいぐるみ・・・勝手に
     動くなんて!!」
  ポン吉「ねぇ、君!!ちゃんと僕の説明を聞いてよ!!僕は君
       から見ればポン吉かも知れないけど、中身はポン吉じゃ
       ないんだ!!ポン吉の姿をしてるけれど、ポン吉でなく
       って・・・ポン吉はただのぬいぐるみで・・・えっと・・・だか
       ら僕はポン吉じゃなくって・・・本当に生きて動いてる訳
       で・・・」
  みり「・・・何言ってるの・・・?あなたはどこから見たって、私の
     ポン吉じゃない・・・。」
  ポン吉「だからそれは!!(思わず溜め息を吐く。)どう言えば
       いいのかな・・・。(窓の方へ行き、遠くの星を指差す。)
       僕は、あの辺りから来たんだ。」
  みり「・・・どう言うこと・・・?」
  ポン吉「僕の星は、この地球からじゃ豆粒程も見えない、遥か
       彼方にあるんだ。それが何故、今こんな遠くの星にいる
       かって・・・馬鹿馬鹿しくて話す気にもなれないや・・・(
       独り言のように。)」
  みり「何故ここにいるの?」
  ポン吉「(肩を竦めて。)パパの宇宙船で遊んでいるうちに、つ
       い発射ボタンを・・・」
  みり「押しちゃったの?」
  ポン吉「(頷く。)・・・帰ったら大目玉だよ・・・。おまけに宇宙船を
       ぶっ壊して墜落させちゃったうえに、体まで無くしただな
       んて・・・」
  みり「体を無くした・・・って?」
  ポン吉「うん・・・。この通り、今は心が君のぬいぐるみのポン吉
       に入り込んだから、君にはポン吉に見えているかも知れ
       ないけど、僕の体は、本当はこんなぬいぐるみの玩具
       じゃないんだ。」
  みり「・・・なんとなく分かってきたわ・・・。つまりこうね?あなたは
     遥か彼方に住む宇宙人で、この地球にやって来たのは、
     単なる偶然。今は体は私のポン吉だけど、本当は生きた
     タヌキだってこと!!」
  ポン吉「・・・え?狸・・・って・・・」

         音楽流れ、みり歌う。

      みり“少し分かった あなたのこと”

  ポン吉「あ・・・ありがとう・・・」

      みり“最初は驚いたけれど”

  ポン吉「ごめん・・・」

      ミリ“でも直ぐに理解できたわ
        あなたが異星人だってこと
        姿形はポン吉でも
        中身は生きた誰かだってこと”

  ポン吉「本当に?」
  みり「ええ、本当よ!!」

         ポン吉歌う。

      ポン吉“僕は僕だけど今は僕じゃない
           この体は単なるここでの借り物
           本当の僕を捜さなきゃ・・・”

  ポン吉「それで君!!お願いがあるんだ!!僕の体を一緒に
       捜して欲しいんだ!!」
  みり「え?捜すって、一体どこを・・・」
  ポン吉「墜落した時の衝撃で宇宙船から飛び出したんだ。だか
       ら屹度、この近くにある筈なんだよ。体が見つからない
       と、僕は一生この体のまま、自分の星にも帰れない・・・
       。」
  みり「・・・分かったわ!!明日、学校をサボって林に行ってみ
     ましょう!!私、あの林に何かが落ちるのを見たのよ。」
  ポン吉「本当に?」
  みり「ええ!!」
  ポン吉「ありがとう、君!!」
  みり「私はみり!」
  ポン吉「(思わず。)知ってるよ・・・!」
  みり「え?」
  ポン吉「あ・・・ううん!僕は・・・」
  みり「ポン吉!!」
  ポン吉「え・・・違うよ。僕の本当の名前は・・・」
  みり「だって、あなたの姿形は、どこから見たって私のポン吉だ
     もの。違う名前を言われたって、そんな風に呼べないわ。」 
  ポン吉「・・・ま、いっか・・・」
  みり「さ、そうと決まったら早く寝ましょう、ポン吉!!」
  ポン吉「(溜め息を吐く。)」

         音楽で暗転。

    ――――― 第 2 場 ――――― A

         舞台後方、カーテン後ろ、2人のシルエット
         浮かび上がる。(ポン吉父、母。)

  ポン吉母「あの子が宇宙船に乗って、宇宙へ飛び出して行った
        ですって!?」
  ポン吉父「何てことだ、全く・・・。自動操縦で、どこかの星には
        着くようにはなっているが・・・。その星に着陸する時
        に、宇宙船に何かあったら、戻ってくることが出来なく
        なるかも知れないんだぞ。」
  ポン吉母「あなた・・・」
  ポン吉父「まぁ・・・しっかりしたあの子のことだ・・・。無事に帰っ
        て来るとは思うが・・・。待つことにしよう・・・。万が一
        の時には、私が捜しに行くことにするよ。本当に・・・
        あの子の好奇心旺盛と言うか・・・度を越した悪戯に
        は、今までも何度も頭を痛めてきたが・・・。(溜め息
        を吐く。)」

         カーテン後ろ、フェード・アウト。

    ――――― 第 2 場 ――――― B
 
         小鳥達の囀りが聞こえる。
         舞台明るくなる。と、上手前方、エプロン姿の
         みりのママ、フライパンを持って何か料理して
         いるように。

  ママ「みりー!!早く起きなさい!!学校に遅れるわよ!!
     みりー!!」

         その時、上手よりみり、ポン吉のぬいぐるみを
         背負い、鞄を提げ登場。下手方へ。

  みり「私、朝ご飯いらない!!」
  ママ「みり!!スクランブルエッグだけでも食べて行きなさい!
     (みりの背負っているポン吉に気付いて。)みり!!学校へ
     ポン吉なんか連れて行かないの!!これ、みり!!人形
     を置いて行きなさい!!」
  みり「行って来まーす!!」

         みり、足早に下手へ去る。

  ママ「みり!!(溜め息を吐く。)」

         ママ、呆れたように歌う。

         “全くあの子は
         丸で羽根の生えた鳥のように
         ちっともじっとしてやしない
         全くあの子は
         いつも自由奔放で
         自分の思いのままに飛び回る”

         ママ、上手へ去る。
         小鳥の囀り残したまま、暗転。

    ――――― 第 3 場 ―――――

         舞台明るくなると、林の風景。
         一時置いて、下手後方より、回りをキョロキョロ
         見回しながら、みり登場。続いてポン吉登場。
  
  みり「確か、ここら辺に落ちたような・・・」
  ポン吉「本当?何処?何処にあるの!?」
  みり「煩いなぁ・・・。黙ってて!!今、捜してるんだから・・・」
  
         2人、暫くの間、回りを捜しているように。
         その時、みり、木の葉の下に隠れていた
         宇宙船を見つける。

  みり「あった・・・あった!!あったわよ、ポン吉!!」
  ポン吉「本当に、みり!!」
  みり「(木の葉を払い除ける。)これでしょ!?」
  ポン吉「あった・・・これだ!!・・・よかった・・・。(安堵で、腰が
       抜けたように。)」
  みり「動くの!?」
  ポン吉「あ・・・今見てみないと・・・。ちょっと待って・・・」

         ポン吉、宇宙船をゴソゴソ触ってみる。と、
         機械音がして電気が点く。

  みり「わぁ!!・・・動いた・・・本物なんだ、これ・・・」
  ポン吉「やった!!大丈夫みたいだよ、みり!!ありがとう!!
       」
  みり「それで?あなたの体は?この宇宙船の中にあるの?(宇
     宙船の中を覗き込む。)どこかしら・・・(独り言のように。)」
  ポン吉「この中にはないよ・・・」
  みり「じゃあ一体何処にあるの?」








     ――――― “みりとポン吉”2へつづく ―――――











    ※ 以前、ご紹介した作品での“ポン吉”くんは、確か・・・
      クマのぬいぐるみだったかと・・・(^.^)今回は“たぬき”
      くんみたいです^^;

  

























2013年7月9日火曜日

“Thank you!B・J” ―全8場― エンディング

         音楽流れ、ジム歌う。
         “一番大切なことを見落とした
         俺を許して欲しい・・・”

  B・J「兄ちゃん・・・」

         “よく見れば直ぐに分かる
         そんな観察を怠った・・・”

  B・J「(首を振る。)」
  ジム「知らなかったことだとは言え・・・おまえを傷付けて悪かっ
     たな・・・。ごめんよ・・・」
  B・J「ううん・・・兄ちゃん・・・」

         B・J、歌う。

         “いつも泥だらけ
         ホームの厄介者の俺・・・”

  ジム「B・J・・・」

         “誰も相手にしてくれない
         今までずっと一人ぼっちで・・・”

  B・J「俺・・・今までずっとホームの食み出しっ子だったんだ・・・。
     里親になりたいって、ホームにやって来る大人達は皆・・・
     俺を見ると、同情と哀れみの入り混じった目をしてこう言う
     んだ・・・“まぁ・・・苦労したのね・・・可哀想に・・・”。そして必
     ず決まって“でもあなたには、私達よりもっと素敵な引き取
     り手が現れるわ・・・”。そう言って身形の綺麗な可愛い子を
     里子に選んで帰って行くんだ・・・。誰も俺みたいな汚らしい
     格好の、乱暴者を引き取りたいって言う大人はいないって
     ・・・皆にそう言われてた・・・。だから俺は一生一人で生きて
     いく・・・そう心に誓って生きてきたんだ・・・ずっと・・・」
  ジム「B・J・・・」
  B・J「そんな時、兄ちゃんと出会ったんだ・・・」
  ジム「・・・え・・・」
  B・J「最初は公園のベンチで寝っ転がってる兄ちゃんのこと、怪
     しんだけど・・・俺・・・兄ちゃんが言ったこと、すごく・・・本当
     はすごく嬉しかったんだ・・・。だって、そうだろ?夏休みの
     間だけでもホームにいなくていいんだ。誰も引取り手がなく
     て、いっつも皆の食み出しものだった俺を、馬鹿にするホー
     ムの奴らと、夏休みの間だけでも一緒にいなくていいなん
     て・・・俺には夢のような話しだったから・・・。でも・・・それが
     男として・・・だと分かって・・・俺・・・一度は諦めたけど、男
     と間違われたんなら、男のフリをすればいいんだって・・・そ
     う考えたんだ・・・。けど・・・いつも不安だったのも本当さ・・・
     」
  ジム「不安・・・?」
  B・J「うん・・・だってもし女だとバレて・・・この束の間の幸せが
     崩れたらと思うと・・・俺・・・」
  ジム「(フッと笑う。)」
  B・J「何笑ってんだよ!」
  ジム「あ・・・悪い・・・。見事だったよ、俺は全く疑うことなく、おま
     えを少年だと信じてたからさ・・・。」
  B・J「俺・・・楽しかったぜ、兄ちゃん!男のフリすんの!だって
     いっつもホームでは“お行儀良くしなさい!女の子らしくす
     るんですよ、B・J!”ってさ・・・。それが、お行儀良くは言わ
     れても、女の子らしく・・・とは言われないんだ。それって・・・
     俺は俺でいいってことだろ?俺は生まれてから、女の子ら
     しく・・・なんてもんとは縁がなかったんだ、一度も・・・。だか
     ら・・・女の子らしくがどんなだか・・・分からなかった・・・。回
     りの女の子達が興味あるような、お喋りやお洒落だって・・・
     俺にはサッパリ・・・。それにもし俺が・・・女の子らしい身形
     をしてたら、兄ちゃん、俺に声かけたか?」
  ジム「イヤ・・・」
  B・J「だろ?だからあんな格好してたことも、少しは役に立った
     のかなって・・・。あ・・・兄ちゃんに嘘吐いたのは・・・悪かっ
     たけど・・・」
  ジム「・・・じゃあ愛顧だな・・・」
  B・J「愛顧・・・うん!」
  ジム「B・J・・・本当の名前は・・・?」
  B・J「・・・ベティ・・・ジョー・・・」
  ジム「ベティ・・・そうか・・・女の子らしい、いい名前があったんだ
     な・・・」
  B・J「女の子・・・らしい・・・」
  ジム「さてベティ・・・、じゃあここからは女の子としてのおまえに
     話しがある。」
  B・J「え・・・?」
  ジム「(B・Jの持っていた鞄を見て。)そうやって荷物をまとめて
     折角出てきたようなんだが・・・もう一度戻る気はないか?」
  B・J「戻る・・・って・・・」
  ジム「ミセスアダムスのところへさ。」
  B・J「・・・婆ちゃんの・・・?」
  ジム「ああ。」
  B・J「けど・・・だって俺・・・本当は男じゃ・・・」
  ジム「(微笑んで。)おまえを養女として迎え入れたいそうだ。」
  B・J「嘘だ・・・だって婆ちゃんは・・・元気な男の子が・・・」

  ミセスアダムスの声「本当ですよ。」

  B・J「え・・・?(回りを見回す。)」

         ミセスアダムス、下手より登場。
         続いてマーク登場。

  ミセスアダムス「私はあなたがいいの・・・」
  B・J「(ミセスアダムスを認める。)・・・婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「元気な男の子でなくても・・・私はB・J本人を私
            の子として、我が家へ迎え入れたいのよ・・・」
  B・J「・・・婆ちゃん・・・本当に・・・?」
  ミセスアダムス「誰が嘘なんて言うものですか・・・。あなたがい
            なくなってしまったら私・・・また以前のように歩く
            ことも出来なくなって、ベッドの中へ逆戻りの生
            活になってしまうわ、きっと・・・」
  B・J「駄目だよ、そんなの・・・!」
  ミセスアダムス「じゃあ・・・戻って来てくれるわね・・・?」
  B・J「(ジムを見る。)」
  ジム「(頷く。)」
  B・J「婆ちゃん!!(ミセスアダムスの腕の中へ飛び込む。)」
  ミセスアダムス「さぁ、またこれから忙しくなるわね。なんせ、今
            度はB・Jをレディ教育し直さなければならない
            んですもの。」
  B・J「婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「可愛いドレスを作らせましょう。髪飾りもね。あ
            らあら、今まで以上に楽しみが増えたこと。(笑
            う。)」
  ジム「ミセスアダムス、B・Jのことを宜しくお願いします。」
  ミセスアダムス「グレイ先生、勿論ですとも・・・」

         ジム、ミセスアダムス、一寸脇へ寄る。
         (話しているように。)

  マーク「(B・Jの側へ。)おめでとう、B・J。」
  B・J「(マークを認め。)マーク・・・。おまえ・・・いつから気付いて
     たんだよ・・・俺が・・・その・・・」
  マーク「そんなこと、最初からに決まってるじゃないか。(笑う。)」
  B・J「最初から・・・?」
  マーク「ああ。」
  B・J「最初から知ってておまえ・・・マグリットを紹介してやるとか
     なんとか・・・!」
  マーク「いいじゃないか。君がどうして男のフリをしてるのかは知
      らなかったけれど、男のフリをしてるってことは、男として
      扱われたいんだって解釈してたからね。」
  B・J「・・・お・・・男男言うな!」
  マーク「(笑う。)・・・君が女の子で良かったな。」
  B・J「・・・え・・・?」
  マーク「何、紅くなってんだよ。」
  B・J「あ・・・紅くなんてなってないさ!!何、巫山戯てんだ馬鹿
     野郎・・・!!」
  ミセスアダムス「B・J、先ずはその言葉遣いをもう一度直さなけ
            ればいけませんよ。」

         音楽流れる。(歌う。)

      ミセスアダムス“女の子は
                馬鹿野郎なんて言いません”

      マーク“女の子なら女の子らしく”

      ジム“だけど君は君のままでいい”

  B・J「兄ちゃん・・・」

      ミセスアダムス“女の子でも男の子でも”

      マーク“言葉遣いが悪くても”

      ジム“君がいればそれでいい”

  B・J「俺が・・・」

      B・J“やっと見つけたオレ・・・(首を振る。)
         私の道・・・
         今まで自分が誰なのか
         分からないまま歩いて来たけれど
         ほんの小さな切っ掛けが
         私の足元を照らし始めた
         何も特別なことをした訳じゃない
         私は私のままでいただけ
         そこから始まった新しい希望
         そこから知った私の道
         私は私のままでいいのね!!”

         ミセスアダムス、B・Jの側へ。
         (4人、彼方を見遣る。)
         音楽盛り上がり。





         ――――― 幕 ―――――


























2013年7月5日金曜日

“Thank you!B・J” ―全8場― 5

             ミセスアダムス、ゆっくり立ち上がる。
         (俄に人々騒つく。)

  ルーシー「奥様!」
  ミセスアダムス「大丈夫よ。」

         ミセスアダムス、ゆっくり階段を下りて来る。

  ミセスアダムス「数ヶ月前の私は、起き上がることもままならな
            かったのが、ご覧の通り・・・今ではこのように、
            しっかりと自分の足で大地を踏み締め、歩くこと
            が出来る程に回復致しましたの。さて・・・今日
            はもう一つ、皆様にご報告をしなければいけな
            いことがあります。B・J、こっちへいらっしゃい。」
  B・J「・・・え?」

         B・J、ゆっくりミセスアダムスの側へ。

  ジム「報告とは・・・?」
  ミセスアダムス「ええ・・・少し前よりずっと考えていたことですけ
            れども・・・さっきから申し上げている通り、数ヶ月
            前までの私は、息子夫婦が仕事の関係で遠くへ
            行ってしまって、それまでの賑やかだった生活が
            一変し、毎日が張り合いなく、とても淋しい思い
            をしておりましたの。それがこのB・Jを我が家で
            預かることになり、そのことによって生活に張り
            を取り戻した私は、それまでとは打って変わって
            生き生きと過ごすことが出来るようになりました。
            それは全て、このB・Jのお陰なのです・・・。あり
            がとう、B・J・・・」
  B・J「・・・そんな・・・」
  ミセスアダムス「そこで私は考えたのです。グレイ先生とのお約
            束では、夏のバカンスの間だけと言うことでした
            けれど・・・このB・Jを正式に私の養子に迎えよ
            うと思いますの。」
  ジム「本当ですか?ミセスアダムス。」
  バート「B・Jお坊ちゃん!」
  ミセスアダムス「ええ、本当ですとも。どう?B・J・・・」
  B・J「婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「我が家の跡取り息子として・・・来てくれるかし
            ら・・・?」
  B・J「跡取り・・・息子・・・俺・・・俺、無理だ・・・」
  ミセスアダムス「B・J?」
  B・J「俺・・・そんな・・・跡取り息子だなんて・・・無理だ・・・無理
     だ!!」

         B・J、上手へ走り去る。(人々騒めく。)

  ジム「B・J!!」

         ミセスアダムス、ジム、マーク残して
         カーテン閉まる。

  ミセスアダムス「(心配そうに、上手を見る。)どうしたのかしら、
            B・J・・・」
  ジム「僕が見て来ます!(上手方へ行きかける。)」
  マーク「待って下さい、先生!!」
  ジム「(立ち止まり、マークを見る。)どうしたんだい、マーク?」
  マーク「先生はお気付きじゃあないかも知れませんが・・・」
  ジム「・・・気付く・・・?一体何を・・・」
  マーク「・・・B・Jは・・・彼女は自分を偽り続けることに、限界を感
      じたのだと思います・・・。」
  ジム「偽る・・・?偽るって・・・え・・・?今・・・彼女・・・って・・・」
  マーク「・・・はい・・・。B・Jは・・・正真正銘、女の子ですよ。」
  ジム「女・・・の子・・・?」
  ミセスアダムス「・・・まぁ・・・」
  ジム「女の子って・・・」
  マーク「そうです。」
  ジム「でも・・・!?」
  マーク「きっと何か理由があって、本当のことを言い出せずに今
      日まできたのでしょう。」
  ジム「まさか・・・でも・・・どう見ても・・・」
  ミセスアダムス「私、そんなことは知らずに跡取り息子だなんて
            ・・・酷いことを・・・」
  マーク「お祖母様、そのことに関してお祖母様がそこまで気に病
      むことはありませんよ。このグレイ先生ですら見抜けなか
      ったんですからね。男だからと偽って連れて来られたB・J
      を、少年だと信じても・・・」
  ジム「でも、どうしてそれを・・・?」
  マーク「彼女と一度、握手した手ですよ。あれは紛れもない女の
      子の手でしたから。」
  ジム「手・・・」
  マーク「けど可笑しいなぁ・・・先生ともあろうお方が、人の性別を
      見間違えるなんて・・・」
  ジム「俺だって万能じゃないんだ。見間違いくらいするさ・・・。け
     ど・・・あのB・Jが少女だったなんて・・・。俺はてっきり少年
     だと・・・。あの公園で見かけた状況も状況だったが、あんな
     格好で泥だらけの姿を見たら・・・(首を傾げ、フッと笑う。)
     やれやれ・・・これはまんまと引っかかったな・・・」
  ミセスアダムス「先生、私もですよ・・・」
  マーク「当のB・Jには引っかけるつもりなんてなかったでしょう
      けどね。」
  ジム「そうだな・・・俺のせいだな・・・きっと・・・」
  ミセスアダムス「いいえ、気付いてあげられなかった私こそ、い
            けなかったのです・・・。」
  ジム「さて・・・ミセスアダムス・・・、僕の勘違いから起こったこと
     とは言え・・・“跡取り息子”になりえないB・Jのことですが
     ・・・」
  ミセスアダムス「あら・・・そんなことは決まってるじゃあありませ
            んか。跡取り息子でも、跡取り娘でも構いません
            。私はB・J本人が大好きになりましたのよ。性
            別なんて関係ありませんわ、先生。」
  ジム「ミセスアダムス・・・では・・・」
  ミセスアダムス「勿論、B・Jは私の養女として迎え入れましょう
            。」
  マーク「お祖母様・・・」

         その時、上手よりバート、慌てた様子で登場。

  バート「奥様!B・Jお坊ちゃんがお屋敷の外へ!!荷物をまと
      めて出て行っておしまいに!!」
  ミセスアダムス「まぁ、大変だわ!早く連れ戻しに行きましょう!
            」
  ジム「ミセスアダムス!一つ、B・Jの行きそうな場所に心当たり
     が・・・」
  ミセスアダムス「本当ですの?先生。」
  ジム「はい。」
  ミセスアダムス「それでは案内して下さいな。」
  ジム「分かりました。」
  ミセスアダムス「それとバート、B・Jはお坊ちゃんではありませ
            んよ。」
  バート「・・・は?」
  ミセスアダムス「さぁ、参りましょう!」

         ミセスアダムス、上手へ去る。首を傾げ
         ながらバート、続いて去る。

  ジム「マーク、おまえはいい医者になるよ。俺なんかよりずっと
     ・・・」
  マーク「はい!必ずいつか、先生を追い越すことこそ、僕が目指
      し行き着く場所だと信じていますから・・・」

         ジム、マーク、上手へ去る。

    ――――― 第 8 場 ―――――

         音楽流れ、カーテン開く。と、1場の公園。
         上手より鞄を提げたB・J登場。歌う。

         “僕は誰だろ・・・
         どこの誰だろ・・・
         偽りの仮面で覆われた
         僕も知らない僕だから・・・
         見えかけた足元の道も
         今は霧で霞んで見える
         もう戻れない・・・
         やっと見つけた温かな場所
         今日はいつだろ
         明日は来るのか
         それさえも分からない
         不確かな僕だから・・・
         やっと踏み出した1歩が
         今は不安で揺らぐのが分かる
         もう戻らない・・・
         僕の居場所はここじゃない・・・”

         B・J、中央ベンチへ腰を下ろして、
         手に持ったハンカチで顔を覆い隠すように
         静かに泣く。

  B・J「畜生・・・畜生・・・」

         そこへ下手より一人の老人登場。
         B・Jを認め、慌てた様子で近寄る。
  老婆「いたいた!!やっと戻って来ておくれだね、先生!!あた
     しゃ、先生に持病の腰痛を早く診て欲しくて、この公園診療
     所が開くのを、今か今かとずっと待ってたんだよ!!」
  B・J「・・・え・・・?(顔を上げる。)」
  老婆「・・・あっれ・・・子どもじゃねぇか・・・先生は・・・?先生はど
     うしたんだい?坊主・・・」
  B・J「先生・・・?」
  老婆「ああ。ここは先生の診療所なんだよ。単なる休憩の為の
     ベンチとは訳が違うんだ。さ、どいたどいた!ここは先生の
     ベンチなんだから!(B・Jを無理矢理退かすように。)」
  B・J「いいじゃんか、ケチ!!」
  老婆「いかんいかん!!(椅子の上を、持っていたハンカチで、
     払うように。)この椅子は先生のもんだ。」
  B・J「なんでぇ・・・あ・・・先生って・・・兄ちゃんのことだ・・・」
  老婆「先生は我々貧しいもんの味方の、素晴らしい先生なんじ
     ゃ・・・。せめて先生の座る場所くらい・・・(鞄の中から、毛
     糸の座布団を取り出し、ベンチへ置く。)よし、ピッタリじゃ。
     どうじゃ、坊主!わしの腕もまだまだ捨てたもんじゃなかろ
     う。(笑う。)」
  B・J「(座布団を見て。)へぇ・・・この座布団、婆ちゃんの手作り
     かい?」
  老婆「ああ、そうじゃよ。わしら貧乏人は先生に何もお礼が出来
     んからの・・・せめて先生のお尻くらい温めさせてもらおうと
     思ってな・・・」
  B・J「ふうん・・・」
  老婆「それにしても先生は一体どこへ行ってしまわれたんじゃろ
     うか・・・。ここ数日、ずっとこの診療所は閉まったまんま・・・
     こんな何日もいないなんて、ここが始まって以来じゃ・・・。
     まさかどこか違う場所へ移転などしたんじゃああるまいな
     ・・・」
  B・J「・・・大丈夫だよ、婆ちゃん・・・」
  老婆「え・・・?」
  B・J「兄ちゃん・・・あ・・・ジム先生は直ぐに戻って来るさ・・・」
  老婆「本当か?」
  B・J「(頷く。)今は大学病院の手伝いで忙しくしてるけど、ここの
     医者を辞めるつもりはない・・・そう言ってたぜ。」
  老婆「そりゃあ・・・よかったことじゃ。しかし坊主、どこでそんな
     話しを・・・?」
  B・J「・・・うん・・・ちょっと・・・ね・・・」
  老婆「そうか・・・それじゃあまあ理由は聞かんでおくとしよう・・・
     。ありがとうよ、朗報を聞かせてくれて・・・。先生の帰りを待
     ち侘びておる、他の年寄り達にも知らせてやるとしようかの
     ・・・。」

         老婆、下手へ行きかける。

  老婆「そうじゃ坊主、先生に会ったらよろしく伝えておくれ。皆が
     先生の帰りを、首を長くして待っておるとな・・・。」
  B・J「うん・・・言っとくよ・・・!・・・もし・・・また会えたら・・・きっと
     ・・・」
  
         老婆、下手へ去る。
         B・J、鞄を提げ、上手方へ行きかける。
         と、上手よりジム登場。

  ジム「やっぱりここか・・・」
  B・J「・・・兄ちゃん・・・(慌てて下手方へ向き直り、行こうとする。
     )」
  ジム「どこ行くんだ?」
  B・J「(立ち止まる。)い・・・いいだろ・・・どこだって・・・」
  ジム「また孤児院へ戻るつもりか?」
  B・J「だって・・・だって俺・・・だって・・・!!」
  ジム「(微笑んで、B・Jの頭に手を乗せる。)ごめんよ・・・」
  B・J「・・・え・・・?」
  ジム「柔らかい髪だ・・・」
  B・J「・・・兄ちゃん・・・」
  ジム「もっとよくおまえのことを見ていれば、気付いた筈だな・・・
     本当は女の子だったと言うことに・・・」
  B・J「・・・俺・・・」
  ジム「おまえもおまえだぞ!そんな風に女の子が俺なんて言う
     もんだから・・・てっきり・・・あの時は格好も泥だらけだった
     し・・・。それにしても・・・マークに言われるまで、気付けなか
     った俺は、医者落第だな。(笑う。)」
  B・J「・・・マークが・・・?」
  ジム「ああ。」
  B・J「俺・・・何も兄ちゃんや婆ちゃんのことを、騙そうと思って男
     のフリしてたんじゃないんだ・・・。俺・・・俺・・・どうしても言
     いだせなくて・・・」
  ジム「分かってるよ・・・。俺がいけなかったんだ・・・。」
         











  ――――― “Thank you!B・J”
                  エンディングへつづく ――――― 


























2013年7月2日火曜日

“Thank you!B・J” ―全○場― 4

    ――――― 第 6 場 ――――― A

         前方下手スポットに、バート浮かび上がる。

  バート「さて、その日よりアダムス邸には、毎日のようにマーク
      様がお見えになり、何やらB・Jお坊ちゃんにちょっかいを
      出してはお怒りを買い、それが楽しいご様子でありました
      。奥様もそんなご兄弟のように戯れあうお2人を、微笑ま
      しく見ておいででしたが、ある日、何かを思いついたよう
      にお屋敷で、親しい者達を招いてパーティを開くとお申し
      になられたのです。突然のことに我々使用人は、その準
      備にてんてこ舞いとなったのは言うまでもございません。
      そして無事、準備も整いパーティ当日・・・」

    ――――― 第 6 場 ――――― B

         前方下手スポット、フェード・アウト。
         音楽流れ、舞台明るくなる。(紗幕前。)
         上手よりB・J登場。歌う。

         “博学多才・・・
         言葉遣いも丁寧な
         凛としたたたずまい
         あんな風にこの俺が
         なれると言うの いつの日か・・・
         誰が見てもいいとこの
         お坊ちゃまじゃないか あの野郎・・・
         何故か頭にくるあの余裕
         なのにいつもまとわりつく
         何て野郎だ目障りだ
         だけど少し・・・気にかかる・・・”

  B・J「畜生、マークの野郎・・・!あれから毎日毎日来ては、俺に
     なんやかんや、いちゃもんつけやがる!せっかく今まで婆ち
     ゃんの言うことを聞いて、いい子にしてきたってのに・・・あ
     いつのせいで、なんか調子狂うんだよな・・・」

         その時、下手よりマーク登場。

  マーク「B・J!いたいた、こんなとこに!」
  B・J「何だよ!また来たのかよ。毎日毎日、余程ヒマなんだな、
     おまえ。そんなんで兄ちゃんみたいな立派な医者になれん
     のかよ!」
  マーク「いいじゃないか。この間まで受験勉強一色だったし、新
      学期が始まれば始まったでまた勉強勉強・・・この休みの
      間くらい、人間観察に時間を使ってもさ!」
  B・J「人間観察・・・?なんだ、それ。誰を観察しに来てんだよ!
     あ、そっか!この家はバートさんやルーシー達みたいな人
     が沢山いて、人間観察するには持って来いだもんな。」
  マーク「そう言うことさ!それにしても君・・・その言葉遣い・・・中
      々直らないみたいだね。(笑う。)」
  B・J「いいだろ別に。それにおまえの前だけだよ。婆ちゃんの前
     ではちゃんと喋れるようになったんだ!なのに何でか、おま
     えには敬語が使えねぇんだよなぁ・・・(首を捻る。)」
  マーク「面白いな・・・(笑う。)」
  B・J「面白がってんじゃねぇよ!それより今日は、婆ちゃんの思
     いつきでやることになったパーティだろ?夜始まるパーティ
     に、何でこんな早い時間から・・・」
  マーク「いいんだよ。ところでB・J、今日のパーティに誘うステデ
      ィはいるのかい?」
  B・J「ステ・・・い・・・いねぇよ、そんなの・・・」
  マーク「じゃあ、いとこのマグリットを紹介するよ。丁度、君と同じ
      歳で・・・」
  B・J「(マークの言葉を遮るように。)いいよ!!」
  マーク「何だよ、ダンス踊れないのか?」
  B・J「ダンスなんかしないよ!!」
  マーク「(笑う。)そんなムキになるなよ。ダンスくらい、教えてや
      るからさ。(B・Jに手を差し出す。)ほら・・・」
  B・J「(驚いたように、マークの手を見て。)な・・・なんだよ!!
     何でおまえとダンス踊んなきゃなんないんだよ!!」
  マーク「何テレてるんだよ。いいじゃないか、ダンスくらい。」
  B・J「テ・・・テレてなんかいねぇ!!」
  マーク「じゃあいいだろ?男同士だってさ。」
  B・J「・・・男同士・・・あ・・・ああ!そりゃあ別に・・・男同士でも・・・
     何でも・・・」
  マーク「(微笑む。)じゃあほら・・・!(B・Jの手を取る。)」

         紗幕前、フェード・アウト。
         豪華な音楽、段々大きく。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         舞台、明るくなる。と、アダムス邸大広間。
         沢山の美しく着飾った人々、談笑したり
         ワルツを踊ったりしている。
         その時、上手よりジムの押す車椅子に乗った
         ミセスアダムス登場。

  ジム「ミセスアダムス、久しぶりにパーティの誘いがあって、驚い
     ていたのですよ。この間お会いした時に、随分とお加減が
     いいご様子だったので安心していたのですが、また行き成
     りこんな盛大なパーティを開くだなどと言い出されて、まだ
     体調の回復と見合わせ、ご無理ではないかと案じていたの
     です。」
  ミセスアダムス「先生・・・私、先生にお礼申し上げなくてはなり
            ませんわ。」
  ジム「お礼・・・?」
  ミセスアダムス「ええ。本当に先生には心から感謝していますの
            よ。」
  ジム「と言いますと・・・?」
  ミセスアダムス「孫達が遠く離れた土地へ行ってからと言うもの
            、毎日鬱々と過ごしていた私ですけれど、先生
            の勧めに従って、新しい風を取り入れることを承
            知して本当によかったと・・・」
  ジム「・・・B・Jですか?」
  ミセスアダムス「ええ・・・。あの子のお陰で、何れ程私が元気を
            取り戻すことができたか・・・。先生にはお分かり
            でしょう?」
  ジム「それはもう、ミセスアダムスのお顔を拝見しているだけで、
     その変化は一目瞭然だと感じていました。」
  ミセスアダムス「私、最初はそんな得体の知れない子どもを、我
            が家に上げていいものかと、それは心配しまし
            たけれど、何より私が信頼しているグレイ先生が
            治療の一貫と・・・先生が勧める荒療治をダメ元
            で受けることにしましたのよ。」
  ジム「ダメ元・・・?」
  ミセスアダムス「あら、私ったら・・・(フフフと笑う。)ダメ元だなん
            て言葉・・・B・Jの影響かしらね。良くも悪くも・・・
            今の私にとってあの子は・・・もうなくてはならな
            い家族ですの・・・。」
  ジム「ミセスアダムス・・・」

         そこへ下手より、2人の姉妹(マグリット、
         マーサ)、楽しそうにはしゃぎながら登場。
         ミセスアダムスを認め、駆け寄る。

  マグリット「お祖母様!!」
  マーサ「お祖母様!!」
  ミセスアダムス「まぁ、マグリット、マーサ、よく来たわね。」
  マグリット「今日はお招き頂いてありがとうございます、お祖母様
        !」
  マーサ「光栄ですわ、お祖母様!」
  ミセスアダムス「それは良かったこと。グレイ先生にちゃんとご
            挨拶なさい。」
  マグリット「はい!グレイ先生、こんにちは!」
  マーサ「こんにちは!お久しぶりです、先生!」
  ジム「こんにちは。2人共、相変わらず元気そうだね。」

         マグリット、マーサ、嬉しそうに顔を
         見合わせる。

  マグリット「ええ!」
  マーサ「とっても!」
  マグリット「お祖母様のお家でパーティなんて、いつ以来かしら
        ・・・」
  マーサ「いとこのアラン一家が、遠く離れた場所へ引っ越して以
       来でしょ?」
  マグリット「あれからのお祖母様は、とてもお加減が悪そうで、パ
        ーティどころではなかったから、久しぶりの今日のパー
        ティが私、嬉しくて!」
  マーサ「私もよ!お祖母様のお家のパーティは、いつも盛大で、
      毎回とても楽しみにしていたのよ!」
  ミセスアダムス「まぁまぁ2人共、それでは今日はゆっくり楽しん
            で行って頂戴。後で皆に、少し報告することもあ
            るのよ。」
  マグリット「報告?」
  マーサ「わぁー・・・何かしら。」
  マグリット「いいこと?お祖母様!」
  ミセスアダムス「さぁね。それは後のお楽しみよ。」
  マーサ「意地悪ね。」
  マグリット「本当。」

         マグリット、マーサ、笑い合う。

  ミセスアダムス「さぁさぁ、美味しいものでもつまんでいらっしゃい
            。」
  マグリット「はい、お祖母様!」
  マーサ「それじゃあグレイ先生!」
  ジム「また後で。」
  
         マグリット、マーサ、はしゃいだ様子で
         ミセスアダムス達から離れ、一寸後方へ。

  ジム「ミセスアダムス・・・さっき仰った報告って一体・・・」
  ミセスアダムス「それは先生にもまだ内緒ですわ。後のお楽しみ
            に取って置いて下さいな。でも、とても・・・いいこ
            とですのよ。さ、先生、私達も何か少し頂きに参
            りましょう。私、さっきからお腹がペコペコ・・・(笑
            う。)」
  ジム「そうですね。」

         ジム、ミセスアダムスの乗った車椅子を
         押しながら、下手へ去る。
         入れ代わるように上手より、正装した
         マーク登場。続いて正装したB・J、回りを
         キョロキョロ見回しながら登場。

  B・J「わぁーっ・・・今日は一段とお屋敷の中が豪華に見える・・・
     」
  マーク「パーティは?初めてかい?」
  B・J「決まってるだろ!俺・・・今までこんなキラキラした洋服だっ
     て、着たことないや・・・」
  マーク「(笑う。)その割には、よく似合ってるじゃないか。」
  B・J「・・・う・・・うるせぇな・・・」
  マーク「さて・・・と・・・(回りを見回す。)」
  B・J「(呟くように。)・・・嬉しくないや・・・褒められたって・・・」
  マーク「(マグリットを認め、手を上げて呼び掛ける。)マグリット!
      」
  B・J「・・・マグリット・・・?」
  マグリット「(マークを認め。)マーク!」

         マグリット、マークの側へ。マーサ続く。

  マグリット「久しぶりね、マーク!」
  マーク「こんにちは、マグリット、マーサ!」
  マーサ「こんにちは!」
  マーク「今日はまた一段と華やかなパーティだね。お祖母様の
      気合の入り具合が分かるようだ。(笑う。)」
  マグリット「あら、あなたもそう感じて?私達もさっきから、いつも
        以上に盛大なパーティに、圧倒されていたところなの
        よ。」
  マーサ「(B・Jに気付いて。)マーク、そちらの方は?」
  マーク「ああ、僕の友人で、今はこの屋敷でお祖母様と一緒に
      暮らしているB・J。B・J、こちらの2人は僕のいとこのマグ
      リット、マーサ姉妹だよ。」
  マグリット「初めまして、B・J。」
  マーサ「こんにちは。」
  B・J「・・・こんにちは・・・」
  マグリット「あなたもK大附属のハイスクール生なの?」
  B・J「(俯いて首を振る。)・・・僕は・・・」
  マーサ「どうしてお祖母様と一緒に暮らしていらっしゃるの?」
  マグリット「お祖母様とはどう言ったお知り合い?」
  マーサ「それにしてもお祖母様、どうして急に元気になられたの
       かしら?」
  マグリット「そうよね、ついこの間までベッドの中で横になったき
        り、起き上がることもままならないご様子だったのに。」
  マーサ「あなたと一緒に暮らしていることと、何か関係があるの
       かしら・・・」
  マグリット「それにしても今日のパーティは盛大よねぇ。」
  マーサ「こんなに沢山のお客様をお呼びして・・・」
  マグリット「皆さん、とても素敵に着飾っていらっしゃるわ。」
  マーサ「本当!私達もこのドレスを選ぶのに、随分時間がかか
       ったのよ!」
  マグリット「ねぇ!」
  マーサ「どう?マーク、私達!」
  マーク「(微笑んで。)とても綺麗だよ、2人共・・・。」
  マグリット「まぁ・・・」
  マグリット・マーサ「ありがとう。」
  マーサ「(下手方を見て。)あ、お姉様!アンナ達が来たようよ。
       」
  マグリット「(下手を見て。)あら、本当。(B・Jの耳元で。)後で私
        とワルツを踊って下さいね。」
  B・J「え・・・?」
  マグリット「じゃあ、マーク!」
  マーサ「また後で!」
  マーク「じゃあ!」

         マグリット、マーサ、下手へ去る。

  マーク「何だって?マグリット。」
  B・J「べっ・・・別に・・・」
  マーク「ふうん・・・」
  B・J「ど・・・どうして女って、ああお喋りなんだろうな・・・」
  マーク「え?」
  B・J「口を開けば、他人がどうとかドレスがどうとか・・・もっと他
     に考えることはないのかね・・・」
  マーク「(思わず笑う。)B・J・・・」
  B・J「何だよ・・・何が可笑しいんだよ・・・」
  マーク「いや・・・別に・・・。ごめんよ、何だか君の口から意外な
      言葉が飛び出したもんでさ。」
  B・J「意外・・・?」
  マーク「ああ、ちょっとね・・・」
  
         そこへ下手より登場したジム、B・Jとマーク
         を認め、嬉しそうに近寄る。

  ジム「やあ!」
  B・J「(ジムを認め。)兄ちゃん。」
  マーク「グレイ先生、もういらしてたんですか?」
  ジム「ああ。ミセスアダムスの診察も兼ねて、少し早めにね。」
  マーク「そうですか。」
  ジム「そう言うマークも、結構早くから来てたようだけど?」
  マーク「ええ・・・」
  ジム「何だかんだ言ってB・J!マークと仲良くやってるみたいじ
     ゃないか。」
  B・J「ち・・・違うよ、兄ちゃん!こいつ、あれからしょっちゅう家来
     て、俺にまとわりついて鬱陶しいったらありゃしない・・・」
  マーク「それは酷いな。」
  B・J「だってそうだろ!」
  マーク「僕は休みの間の、自由研究をさせてもらいに通ってるん
      ですよ。」
  ジム「へぇ・・・」
  B・J「自由研究・・・?おまえ、人間観察に来てるんだって言って
     なかったか?」
  マーク「その通り!その人間観察が、僕の自由研究・・・って訳
      さ。」
  B・J「何だそれ。」
  ジム「人間観察・・・?」
  マーク「はい!先生は・・・お気付きでは・・・」
  ジム「ん・・・?」
  マーク「・・・いえ・・・別に・・・」
  B・J「この屋敷には、バートさんやルーシーみたいな人が沢山
     いるから、人間観察するのに丁度いいんだってさ。・・・その
     割にはおまえ・・・いっつも俺についてウロウロしてんな。何
     でだ?」
  マーク「B・J、曲りなりにも僕は君より年上なんだぞ。おまえ呼ば
      わりはないだろ・・・?」
  B・J「あ・・・わりぃ・・・つい・・・」

         その時、下手よりバート登場。

  バート「皆様、奥様からご挨拶が御座います。しばしの間、お静
      かに願います。」

         音楽止まり、踊ったり談笑していた人々、
         静かに段上を見る。
         そこへ、後方段上に、ルーシーの押す
         車椅子に乗ったミセスアダムス登場。

  ミセスアダムス「皆様、本日はようこそおいで下さいました。暫く
            の間、私、加減を悪くしておりましたけれど、漸く
            この通り以前同様、元気に過ごすことが出来る
            ように回復致しました。本日はご心配頂いた皆
            様に、感謝の気持ちを込めて、このパーティを主
            催した次第です。」

         (一同拍手。)








      
   ――――― “Thank you!B・J”5へつづく ―――――
























2013年6月29日土曜日

“Thank you!B・J” ―全○場― 3


         音楽流れ、ミセスアダムス、B・J歌う。

      ミセスアダムス”先ずお返事は「はい」よ”  

  B・J「はいっ!」

      ミセスアダムス“ご挨拶は「ごきげんよう」”

  B・J「ごきげんよう・・・」

      ミセスアダムス“下がる時には「失礼します」”

  B・J「失礼します・・・」

      ミセスアダムス“感謝の気持ちは・・・”

  B・J「おおきに!!」
  ミセスアダムス「B・J!!」
  B・J「(舌を出す。)」

      ミセスアダムス“少しずつ教えましょうあなたに
                何から教えればいい?
                今まで何を教わってきたの?
                きっと何も教わってないのね
                いいわそれならそれで
                この私があなたに2ヶ月間
                みっちり教えましょう”

      B・J“俺は今までこんな
         礼儀作法なんて聞いたことない
         そんなの知らなくても
         腹が空かなきゃそれでいい”

      ミセスアダムス“違うわあなた間違っている
                人として生きていくうえで
                大切なのは・・・”

  B・J「食べること!」

      B・J“食べなきゃ生きていけないぜ”

  ミセスアダムス「それはそうだけれど・・・」

      B・J“だから食べる為にやることは
         何でも正しい生きる知恵”

      ミセスアダムス“違うわそれは考えて
                食べたい感情だけで生きるなど
                人でなくても出来ること
                そんなのは間違ってるのよ人として”

  B・J「婆ちゃんは・・・こんなでっかいお屋敷に今まで住んできて
     ・・・腹が減って腹が減って、死にそうになったことがないか
     ら、そんな綺麗事が言えるんだ・・・」
  ミセスアダムス「B・J・・・」

      B・J“昨日も一昨日も食べてない
         明日も明後日も空腹だ
         だからパンを盗むんだ
         だからゴミ箱漁るんだ!”

  B・J「父ちゃん母ちゃんが死んじまって・・・院長先生に拾われる
     まで・・・俺は生きる為に毎日毎日必死だった・・・。いつ死
     ぬんだろ・・・いつ父ちゃんや母ちゃんのとこに行く日が来る
     んだろって、そればっか考えてたんだ!!礼儀作法なんか
     糞くらえだ!!そんなの何の腹の足しにもなんねぇ!!(
     背を向ける。)」     

         ミセスアダムス、B・Jに近寄りそっと
         抱き寄せる。

  ミセスアダムス「そうね・・・ごめんなさい。」
  B・J「・・・婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「私は恵まれた生活をしてきたのね・・・。今まで
            辛い思いをしてきたあなたの苦労を、全部は分
            かってあげられないかも知れないわ・・・。でもね
            B・J・・・いくら今までがそうでも、これからのあな
            たの人生にとって、今から学ぶ礼儀作法やマナ
            ーは、きっと役に立ったと思う時がくる筈よ。だか
            ら私と一緒に、色々お勉強しましょう。どう?」
  B・J「婆ちゃん・・・うん・・・あ・・・はい・・・」

         ミセスアダムス、微笑んでB・Jを見る。
         暗転。

    ――――― 第 5 場 ――――― A

         前方下手スポットにバート、浮かび上がる。

  バート「さて、それからの奥様と言うもの・・・昨日までのベッドで
      塞ぎ込んでいた様子とは打って変わって、我々が見てい
      ても生き生きとB・Jお坊ちゃんの教育に夢中になってお
      いでのご様子でありました。当のB・Jお坊ちゃんと言うと
      、最初の頃は色々と問題を起こされたりしておいででした
      が、夏休みも半分を過ぎた頃からでしょうか、外見は誰が
      見ても良家のお坊ちゃまと言った風情を醸し出し、お屋敷
      へ来られた頃に比べると、見違えるような成長ぶりでござ
      いました。」 

    ――――― 第 5 場 ――――― B

         舞台明るくなる。と、屋敷の食堂。
         ミセスアダムスとB・J、向かい合って
         座り、食事をしている。
         (ルーシー、時々出入りして、給仕を
         している。)

  ミセスアダムス「(B・Jの食事風景を、微笑ましく見ている。)随
            分、ナイフとフォークの使い方が上手くなったこ
            と・・・」
  B・J「・・・え?(ナイフとフォークを持つ、両手を見る。)」
  ミセスアダムス「だって、ここへ来た当初は何でも手掴みで食べ
            ていたあなたが、今はそうやってナイフとフォー
            クを使って、きちんとお食事をしているわ。音も
            立てずにね。」
  B・J「(口に運ぼうとしていたフォークから、食べ物が転がり落ち
     る。)あ・・・!!(慌てて椅子から下り、床に転がった食べ
     物を拾い、思わず口に入れようとする。)」
  ミセスアダムス「B・J!」
  B・J「(テーブルの下から顔を出し、気まずそうに舌を出す。)」
  ミセスアダムス「褒めた側からそれでは困りますよ!」
  B・J「・・・ごめんなさい・・・(椅子に座る。)」
  ミセスアダムス「まぁ・・・それにしても随分な成長ぶりですよ。グ
            レイ先生が次に来られた時には、あなたの様子
            を見てきっと驚かれることでしょう。」
  B・J「兄ちゃんがお医者様だったなんて・・・」
  ミセスアダムス「ええ、グレイ先生はとても腕のいいお医者様で
            ね。以前はK大学病院にお勤めになられていた
            のだけれど・・・」
  B・J「・・・以前は・・・?」
  ミセスアダムス「今は辞めておしまいになられたのよ。先生は、
            K大学病院の頃から私の主治医の先生で、ずっ
            と頼りにして、診て頂いていたのだけれど、突然
            お辞めになられると言うので、先生の腕と人柄
            に全信頼を寄せる私も、先生の後を追って今で
            は公園の簡易治療所の患者の一人と言う訳で
            すよよ。(笑う。)」
  B・J「え?」
  ミセスアダムス「ほら、あの街外れの木が沢山、生い茂ってとて
            も美しい公園・・・」
  B・J「あの公園だ・・・」
  ミセスアダムス「若いのに腕は確かで、あのまま大学病院に残
            っていれば、将来は教授の椅子も夢ではないと
            言われる程の、優秀な先生だったのだけれど・・・
            (クスッと笑う。)変わった先生でね・・・公園のベ
            ンチでいつもゴロゴロしているのを聞きつけた、
            具合の悪い人達がいつの間にか集まって来る
            ようになって・・・気付けば俄診療所が出来上が
            ってるんですよ・・・。しかもお金なんか一切貰わ
            ずに、無料で診てくれる腕のいいお医者様と評
            判が評判を呼んで、今ではいつお休みになられ
            てるのかと、こちらが心配になるくらい、毎日毎
            日沢山の患者さんを診ていらっしゃるのよ・・・」
  B・J「けど・・・僕が出会った時は誰も・・・」
  ミセスアダムス「ああ・・・きっと休憩時間だったのね。(笑う。)」
  B・J「休憩時間・・・?」
  ミセスアダムス「ええ、いつでも自分のお休みなんかは二の次
            に、患者さんがいると聞けばどこへでも飛んで行
            くような先生でしょ?公園へもひっきりなしに病
            人が来るものだから、お休みになる暇がない先
            生を、回りの皆が心配してお昼寝の間だけは、
            先生にゆっくり休んで頂く為に、あのベンチで横
            になられている時は、誰も声をかけたりはしない
            のよ。」
  B・J「そうなんだ・・・」
  ミセスアダムス「勿論、先生はそんなことをお知りにはならない
            わ。だってそんなことをお知りになったら、きっと
            もっとご自分からウロウロと病人を捜しに行って
            しまわれるような先生だから・・・」

         その時、上手よりバート登場。

  バート「奥様、グレイ先生がお見えになりました。」
  B・J「兄ちゃんが!?」
  ミセスアダムス「まぁ、久しぶりだこと。バート、こちらへお通しし
            て。ルーシー、先生のお席を用意して頂戴。」

         バート、頭を下げて一旦上手へ去る。

  ルーシー「はい、奥様。」

         ルーシー、後方棚の上から食器を取り、
         テーブルの上へ並べる。
         一時置いて、上手よりジム登場。

  B・J「兄ちゃん!!」
  ジム「よぉ、元気だったか?」
  B・J「何だよ!!ちっとも来てくれないで!!」
  ジム「(笑う。)悪い悪い。」
  ミセスアダムス「本当ですよ、グレイ先生。B・Jを我が家によこ
            しておいたまま、一度も顔を見せないなんて。」
  ジム「ミセスアダムス、申し訳ありません。少し大学の方から頼
     まれごとがあって・・・。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・」
  ジム「それにしてもミセスアダムス、随分と顔色が以前と違って
     見違えるように明るいですね。B・J効果ですか?(笑う。)」
  B・J「なっ・・・何だよ、兄ちゃん!B・J効果って!」
  ミセスアダムス「そうかしらね。確かに近頃の私は、以前の私と
            は打って変わって、寝込む暇がない程、忙しくし
            ておりますからね。(笑う。)」
  ジム「それは何よりです、ミセスアダムス。(B・Jを見て。)おまえ
     も随分と垢抜けたじゃないか。そうやってナイフとフォークを
     手に、黙ってテーブルについている姿は、いいところのお坊
     ちゃまだと言われれば、何の疑いもなく皆が信じてしまうだ
     ろうな。」
  B・J「・・・本当に?」
  ジム「ああ。(微笑む。)」
  B・J「へへ・・・(照れ笑いする。)」
  ミセスアダムス「グレイ先生、お席を用意させましたから、一緒
            に昼食をお召し上がりになって下さいね。」
  ジム「それは有り難いのですが、今日はまた午後から大学でオ
     ペがあるので・・・」
  ミセスアダムス「まぁ・・・お忙しいのね・・・。先生はまた大学へ
            お戻りになられるおつもりですの?」
  ジム「いえ、そのつもりは全くありませんよ。僕はこれからも公園
     の俄診療所の医師を続けていくつもりです。ただ大学では
     とてもお世話になってきて、今の僕がある訳ですから・・・。
     僕を必要と言ってくれるのであれば、いくらでも協力は惜し
     まないつもりにしているのです。」
  ミセスアダムス「そう・・・」
  B・J「・・・もう帰っちゃうんだ・・・」
  ジム「何しょぼくれてんだよ。(笑う。)」
  B・J「しょ・・・しょぼくれてなんか・・・!!」
  ジム「おまえがそんなに、俺と会えなくて淋しいと思ってくれてる
     なんて知らなかったなぁ。」
  B・J「う・・・うるせぇ・・・!!」
  ジム「(微笑む。)そんな顔すんなよ。今日はその変わり・・・おま
     えに友達を連れて来てやったんだ。」
  B・J「・・・友達・・・?」
  ジム「(上手方を見て、手を上げる。)おい!」

  声「はい!」

         その時、上手よりきちんとした身形の
         一人の少年(マーク)登場。

  ジム「マーク!こっちだ。」
  マーク「はい、先生。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・マークじゃないの。」
  マーク「お久しぶりです、お祖母様。ご機嫌は如何ですか?」
  ミセスアダムス「ええ、ありがとう。この通り元気ですよ。」
  ジム「B・J!こいつはミセスアダムスの遠い親戚に当たる、マー
     ク・ジョセフ・アダムス。歳は幾分おまえより上だが・・・同じ
     男同士、仲良くなれるんじゃないかと思ってさ。」
  マーク「こんにちは!君がB・J?」
  B・J「(下を向いたまま頷く。)」
  マーク「よろしく、B・J!(手を差し出す。手を出すのを躊躇うB・
      Jの手を取り握る。一瞬怪訝な面持ちをするが、直ぐに笑
      顔に戻る。)」
  ミセスアダムス「それにしてもマーク・・・暫く見ないうちに、随分
            立派な男の子になって・・・。」
  マーク「いえ、僕なんかまだまだですよ、お祖母様。」
  ミセスアダムス「お父様、お母様はお変わりなくお過ごし?」
  マーク「はい、父も母もお祖母様に宜しくと申しておりました。」
  ミセスアダムス「そう・・・。嘸かしお父様、お母様はあなたのこと
            を、頼りになさっているのでしょうね。」
  マーク「いえ、そんな・・・」
  ジム「今度マークは、K大附属のハイスクールに合格して、あの
     小生意気だったハナタレ小僧が、僕の後輩になると言う訳
     ですよ。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・それはおめでとう。」
  マーク「ありがとうございます、お祖母様。でも、嫌だなジム先生
      、ハナタレだなんて。ジム先生のようになりたくて、頑張っ
      てきて、無事後を追うことが出来ると決まって、僕として
      は感慨もひとしおだと言うのに。」
  ジム「それで大学の近くに下宿することになって、昨日こっちへ
     出て来たと言う訳なのです。」
  ミセスアダムス「あら、下宿などせずにうちへ来ればいいのに。」
  マーク「ありがとうございます。けど一度、父や母やばあやなど
      と離れ、自分一人の力で生活してみたかったのです。」
  ミセスアダムス「・・・そうなの・・・?」
  マーク「はい。お祖母様のお側にいては、きっと甘えてしまって、
      僕はこのまま成長できないでしょうから・・・。」
  ミセスアダムス「あなたに限って、そんなことはないと思うけれ
            ど・・・」
  ジム「マークは歳の割に、しっかりとした自分なりの考えを持っ
     ていますからね、きっと大丈夫ですよ。」
  ミセスアダムス「そうね。でもいつでも遊びに来て頂戴ね。あな
            たが来てくれると、私もB・Jもとても嬉しいわ。(
            B・Jに向いて。)ね、そうでしょ?」
  マーク「はい、お祖母様、ありがとうございます。」
  ミセスアダムス「B・J、あなたのお部屋でマークに色々と教わっ
            てはどう?きっとあなたの知らないお話しを、沢
            山聞かせてくれると思うわ。」
  ジム「そうですね。(B・Jに。)こいつは意外と博学多才な奴なん
     だぞ。」
  マーク「そんな先生、僕は・・・」
  B・J「・・・俺・・・忙しいからいい!!(下手へ走り去る。)」
  ミセスアダムス「B・J・・・?」
  ジム「どうしたんだ、あいつ・・・」
  ミセスアダムス「本当・・・」
  マーク「・・・あの子・・・」
  ジム「ん?」
  マーク「いえ・・・別に・・・」

         暗転。(紗幕閉まる。)










  ――――― “Thank you!B・J”4 へつづく ―――――


























2013年6月27日木曜日

“Thank you!B・J” ―全○場― 2

             ――――― 第 3 場 ―――――

         舞台、明るくなると1場の公園の様子。
         (ベンチにジム、寝っ転がっている。)
         B・J、ジムを認め、一瞬、躊躇したように
         立ち止まる。が、意を決したように近寄る。

  B・J「・・・やっぱりここにいた・・・兄ちゃん・・・」
  ジム「・・・う・・・ん・・・」
  B・J「兄ちゃん・・・!」
  ジム「・・・ん・・・」
  B・J「兄ちゃん!!」
  ジム「・・・煩いな・・・」
  B・J「起きろよ!!」
  ジム「もう、何だよ!!(目を覚ます。)・・・何だ・・・昨日の餓鬼
     じゃないか・・・。何か用か・・・?俺の一番のリラックスタイ
     ムに、邪魔すんなよな・・・。また悪いことやったんじゃない
     だろうな・・・」
  B・J「やってねぇよ!!・・・」
  ジム「本当だろうな・・・?」
  B・J「何、疑ってんだよ!!俺は嘘は吐かねぇ!!」
  ジム「・・・どうしたんだよ・・・」
  B・J「うん・・・え・・・っと・・・」
  ジム「何だよ。」
  B・J「・・・昨日の話し・・・」
  ジム「え・・・?」
  B・J「独りぼっちの婆さんとこ・・・行くってやつ・・・」
  ジム「ああ・・・。そうか、行く気になったのか?」
  B・J「あれ・・・男として・・・だよな・・・」
  ジム「ばぁか!男としてってどう言う意味だよ。兎に角、婆さん
     家に行けば、おまえのその無作法を正してくれるだろう。ナ
     イフとフォークの持ち方を習うのに、男女の別があるのか
     ?挨拶の仕方が違う訳ないだろ?礼儀作法に男も女も関
     係ないんだ。変なこと聞く奴だな。(笑う。)」
  B・J「う・・・ん・・・。・・・それで・・・そいつは・・・いくらなんだよ・・・
     」
  ジム「いくら・・・?タダに決まってるだろ!?パンを買う金もない
     奴に、金のいる話しをする訳がない。アルバイト・・・って言
     ってるだろ?おまえ、アルバイトの意味分かってるか?」
  B・J「わ・・・分かってらぁ、そんなこと・・・!」
  ジム「ただ、夏休みが終わって、自分の生活に戻っても、週末に
     時々元気な顔を婆さんに見せてやればいいんだよ。」
  B・J「・・・分かったよ・・・俺・・・行くよ・・・俺、その婆ちゃんのとこ
     、行ってやることにする・・・!」
  ジム「よし、決まった!それじゃあ、おまえの前途を祝して乾杯
     といくか!」

         ジム、横に置いてあった鞄の中から、
         紙コップを取り出し、1つをB・Jへ差し
         出す。

  ジム「ほれ、持ってな。」
  B・J「・・・う・・・うん・・・」

         ジム、鞄の中からペットボトルを取り出し、
         B・Jの紙コップへ半分注ぎ、残りを自分の
         持っていた紙コップへ注ぐ。

  ジム「さ、乾杯だ!!(紙コップをB・Jの方へ差し出し、中身を
     一気に飲み干す。)ほれ、おまえも飲め飲め!」
  B・J「あ・・・うん・・・(紙コップを見て。)え・・・?こ・・・この紙コッ
     プ・・・」
  ジム「ん・・・?何か問題あるか?」
  B・J「も・・・問題って・・・このメモリ・・・」
  ジム「メモリ?メモリがどうしたんだ?量が分かってちょいと便利
     だろ?(笑う。)」
  B・J「ばっ・・・!この紙コップ、病院なんかで検査の時にトイレ
     で使う・・・あれじゃねぇか!!」
  ジム「(笑う。)大丈夫、大丈夫!まだ使用前の新しいのだから、
     なんてことないただの紙コップと一緒だ。」
  B・J「使用前ってったって・・・!!」
  ジム「細かいことは気にするな!」
  B・J「だって・・・」

         音楽流れ、B・Jの背に手をかけ、
         ジム歌う。(紗幕閉まる。)

         “さぁ始めよう 新しい人生!
         昨日までと同じようで全く違う
         朝陽が昇るんだ
         さぁ希望溢れる待ちに待った人生!
         この手で切り開くんだ未来を
         明日が来ない日なんてない
         そう信じていれば
         この世はバラ色
         幸せは自分の手で掴むんだ
         ちっぽけなチャンスを物にしろ!”

  ジム「さぁ、行くぞ!!」

         ジム、上手へ走り去る。

  B・J「あ・・・待って・・・待てよ!!おい!!」

         B・J、上手方へ行きかけて、立ち止まる。
         歌う。

         “ホントにこの俺が・・・
         あの人の言うように・・・
         ちゃんとした身形の
         言葉遣いも丁寧な・・・
         そんな奴に生まれ変われる・・・?
         ホントにたった今まで
         着の身着のまま好き放題
         自由気儘に生きてきた
         俺が生まれ変われるの・・・?”

  B・J「あ・・・(上手方を見て。)待ってくれよ、兄ちゃーん!!」

         B・J、慌てて紙コップの飲み物を飲み干し、
         ジムを追い掛けるように上手へ走り去る。
         音楽盛り上がって、暗転。

    ――――― 第 4 場 ――――― A

         後方段上、下手スポットに老婦人
         (ミセスアダムス。)、ベッドに横になって
         いる。
         横に白衣を着た医師、客席に背を向け
         座る。

  ミセスアダムス「先生・・・私はもう何だか生きる張り合いがなく
            て・・・毎日毎日こうしてベッドの中で、早くお迎え
            が来ないかと、そればかり考えているんですよ
            ・・・」
  医師「ミセスアダムス、そんな風に落ち込んでばかりいても、仕
     方がないですよ。もっとこう前向きに・・・」
  ミセスアダムス「でも先生・・・今まで私の回りは、孫達の笑顔が
            いつも溢れていて、毎日がとても生き生きとして
            いたのですよ・・・。それが今では・・・この広い屋
            敷がただ恨めしくて・・・」
  医師「何か生きがいを探されたら如何です?」
  ミセスアダムス「・・・生きがい・・・?」
  医師「ええ。もう一度このお屋敷を、明るく笑いの絶えない場所
     にするのです。」
  ミセスアダムス「・・・そのような場所になど、出来るのでしょうか
            ・・・」
  医師「そうだ、ミセスアダムス、僕にいい考えがあります。少し時
     間を頂けますか?」
  ミセスアダムス「・・・先生・・・ええ・・・時間ならいくらでも差し上
            げますよ・・・。もし本当にそのような場所が、再
            び戻るのであれば・・・」
  医師「(立ち上がり振り返ると、ジム。)はい、勿論!」

         後方段上、下手スポット、フェード・アウト。
         入れ代わり、後方段上、上手スポットに
         身奇麗ななりの七三分けしたB・J、幾分
         緊張した面持ちで立つ。横にはシスター。

  シスター「まぁ、見違えるようですよB・J。本当によかったこと・・・
        。たとえ夏のバカンスの間だけでも、あなたを引き取っ
        て下さると言う、奇特な方が見つかって・・・。いいです
        ね、B・J、ミセスアダムスのお宅では、ホームと同じよ
        うに振舞っては駄目ですからね。」
  B・J「ホームと同じって・・・何だよ・・・しねぇよ、そんなこと・・・!
     」
  シスター「しっ!その言葉遣いもね。“しねぇ”ではなく、“しませ
        ん”と言うの。」
  B・J「・・・し・・・ません・・・先生・・・」
  シスター「そう!そうやってきちんとした洋服に身を包んで、丁
        寧な言葉遣いで話すあなたは、ネリーや他の子となん
        ら変わりなく見えますよ。」
  B・J「ネリーや・・・みんなと・・・」
  シスター「お行儀良くね・・・。夏休みが終わるまで、ちゃんとお世
        話になるのですよ。」
  B・J「・・・はい・・・先生・・・」

         後方段上、上手スポットフェード・アウト。   

    ――――― 第 4 場 ――――― B

         音楽流れ、舞台明るくなる。(紗幕開く。)と、
         中央階段のあるミセスアダムス邸。
         上手、下手より其々メイド(ルーシー。)、
         執事(バート。)が登場。歌う。



          
       なんとなく、舞台イメージが分かって頂ける
       でしょうか・・・?(^^;



         “ようこそいらっしゃいました
         ここは裕福なアダムス邸
         ようこそおいで下さいました
         誰もが羨むアダムス邸
         大きな塀に囲まれた
         ここは楽園アダムス邸
         煌びやかなシャンデリアに
         金の食器
         大理石で出来た床はピカピカ
         赤い毛氈ひいてお出迎え
         ご主人様はミセスアダムス!!”

         バート、ルーシー、中央階段上を指し示し、
         ポーズを決める。

  ルーシー「はぁあ・・・ご主人様は今日もベッドでお休み・・・毎日
        毎日寝たきりで、本当、大丈夫なのかしら・・・」
  バート「仕方あるまい・・・。ついこの間まで賑やかで、明るかった
      お屋敷が今はこの通り・・・ネズミの足音すら聞こえはしな
      いのだから・・・」
  ルーシー「あら、バートさん、このお屋敷の中に、ネズミなんてい
        やしませんわよ。」
  バート「まぁ、まぁルーシー、例えだよ例え・・・」
  ルーシー「そうですわね・・・今はシーンとして・・・お子様達の笑
        い声に包まれてたこの間までが、丸で嘘のよう・・・」
  バート「本当だな・・・」
  ルーシー「それよりバートさん、お客様がお見えになられますの
        ?お部屋の用意をしろだなどと・・・」
  バート「ああ、そうだよ。何でもグレイ先生の紹介で、夏のバカン
      スの間、この屋敷で預かることになった子どもが来るらし
      いのだ。」
  ルーシー「子ども・・・ですか?」
  バート「うむ・・・。具合の良くない奥様がいるこの屋敷で、何の
      もてなしも出来ぬからと、お断り申したのだが、先生がど
      うしてもと仰ってな・・・。ただ預かって、一緒に生活をさせ
      てくれればそれでいいからと・・・」
  ルーシー「どういったお子様なのかしら・・・」
  バート「さぁ・・・それは私にも分からないが・・・グレイ先生の知り
      合いなら、何の問題もないだろう。おまえ、その子の世話
      を頼むよ。」
  ルーシー「はい、バートさん。」

         2人、話しながら下手へ去る。
         一時置いて中央階段上、メイド登場。
         つづいてB・J、回りを見回しながら
         ゆっくり登場。

  メイド「さぁ、こっちよ。ご主人様をお呼びしてくるから、あなたは
      少しここで待ってて頂戴ね。」
  B・J「うん・・・」

         メイド、段上下手へ去る。
         B・J、回りをキョロキョロ見回しながら、
         階段を下りて来る。

  B・J「わぁーっ・・・おっきな屋敷だなぁ・・・あのでっかいシャンデ
     リア!もの凄く綺麗だ・・・!!へぇーっ・・・!!この花瓶!
     !なんて重そうなんだ!!割ったら院長先生に大目玉を
     食うぞ!!(笑う。横に置いてあるソファーの側へ。触って
     みる。)うわっ・・・なんてフカフカなんだ!!こんなソファー
     に生まれてから一度だって座ったことねぇや・・・!!すげ
     ぇなぁ・・・」

         音楽流れ、B・J、歌う。

         “なんて豪華なお屋敷だ
         キラキラ輝く装飾品
         床はピカピカツルツルだ
         ソファーはフカフカ体が沈む
         こんな贅沢見たことねぇ!!”

         B・J、思わずソファーの上へ上がり、
         ジャンプして遊ぶ。
         その時、下手より車椅子に乗った、
         ミセスアダムス登場。

  ミセスアダムス「(B・Jの様子に唖然と。咳払いする。)」
  B・J「あ・・・(ミセスアダムスに気付き、気不味い面持ちでソファ
     ーから下りる。小声で。)やっべ・・・」
  ミセスアダムス「あなたがB・Jね。」
  B・J「う・・・うん・・・」
  ミセスアダムス「お返事は“はい”ですよ、B・J。」
  B・J「はぁい・・・」
  ミセスアダムス「“はぁい”と伸ばすのではありません、“はい”で
            す!」
  B・J「イエス サー!!」
  ミセスアダムス「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・あなたは今ま
            でどんな教育を受けてきたのかしら・・・」

         下手よりルーシー、盆の上にティーカップと
         お菓子を乗せて運んで来る。

  B・J「わぁーっ!!(ルーシーに駆け寄る。)姉ちゃん!これ食っ
     ていいか?」
  ルーシー「(驚いて。)ね・・・姉ちゃんではありません!ルーシー
        と申します!」
  B・J「ルーシー・・・姉ちゃん?」
  ルーシー「姉ちゃんはいりません!」
  B・J「ふぅん・・・。まぁどっちでもいいや!これ食ってもいいよな
     !(ルーシーの持っていた盆の上から、お菓子を2つ両手
     の取り食べる。)わぁーっ・・・うめぇ!!こんな美味いクッキ
     ー食べたことねぇや!!いいなぁ・・・金持ちって!!」
  ミセスアダムス「グレイ先生の勧めで、安易に引き受けてしまっ
            たけれど・・・大丈夫なのかしら・・・本当に・・・」
  B・J「婆ちゃん!婆ちゃんも食べなよ!(1つのクッキーをミセス
     アダムスに差し出す。)」
  ミセスアダムス「・・・(B・Jが素手で持つクッキーを見て。)私は
            結構ですよ・・・。それと・・・私のことは婆ちゃん
            ではなく、ミセスアダムスと・・・」
  B・J「婆ちゃん!婆ちゃんはこんな広い屋敷に今まで独りぼっち
     ・・・じゃあないか、ルーシー達がいるもんな!けど、それに
     しても広い屋敷で、一体毎日何して遊んでんだい?」
  ミセスアダムス「遊んでなどおりません!あなたは今日から2ヶ
            月間、みっちりと礼儀作法を学ばなければなり
            ませんよ、B・J!」
  B・J「礼儀・・・あ・・・うん・・・」
  ミセスアダムス「“うん”ではありません、お返事は・・・」
  B・J「はいっ!!」
  ミセスアダムス「・・・よろしい・・・」










  ――――― “Thank you!B・J”3へつづく ―――――











     























2013年6月24日月曜日

“Thank you!B・J” ―全○場―

            ――――― 第 1 場 ―――――

         音楽流れ、幕が上がる。
         と、舞台中央、一つのベンチが置いてある
         公園の風景。
         そのベンチに一人の青年(ジム・グレイ)、
         ゴロンと横になっている。
         (騒いでいる人々の声が聞こえる。)

  声「ちょっと捕まえとくれ、その坊主!!」
  声「待てー!!逃がすもんか!!」
  声「泥棒ーっ!!」

         その時、上手より一人の子ども(B・J)、
         走りながら登場。
    
  B・J「捕まるもんか!!へへーんだ!!」

         B・J、後ろを気にするように、下手へ
         走り去る。
         一時置いて、上手より息を切らせ、走り
         ながら大人達登場。中央、立ち止まる。

  大人1「すばしっこい悪餓鬼だよ、全く!!」
  大人2「本当だね!!」
  大人3「いつもいつも・・・」

         大人達歌う。
   
         “うちのパンを盗みやがった”

         “うちはクッキーひと袋”

         “うちではコップを割りやがった”

         “なんて悪戯な悪い奴
         いつもあいつには手を焼いて
         この街の厄介者だ
         うちの子猫のヒゲを切った
         うちの鶏の卵を盗んだ
         あいつの頭の中には
         皆を困らせることしかないんだ”

         大人達、溜め息を吐いて上手へ去る。
         一時置いて、下手より上手方を伺うように
         B・J、ゆっくり登場。

  B・J「チョロいもんだな・・・(手に持っていたパンを見詰め、心な
     しか淋しそうなな面持ちをする。)」

         音楽流れ、B・J歌う。

         “ああ・・・俺に翼があったなら・・・
         ああ・・・今直ぐに飛んで行くんだ
         大空に・・・
         俺にもおまえ達のように
         羽ばたく羽があったなら・・・
         力強く両手を羽ばたかせ
         飛び出すんだ自分一人の世界へと
         自由に飛び回るんだ
         この広く澄み渡る青空の隅から隅まで
         ああ・・・俺にも翼があったなら・・・”

         B・J、溜め息を吐き、パンにかぶりつく。

  ジム「泥棒して食ったパンは美味いか・・・?」
  B・J「え・・・?(驚いて回りを見回す。)」

         ジム、起き上がる。

  ジム「(背伸びをして。)ああ・・・よく寝た・・・。悪いことばっかやっ
     てると、ろくな大人になんねぇぞ。」
  B・J「よ・・・余計なお世話だ、おっさん!!」
  ジム「・・・おっさん!?」
  B・J「俺は腹が減ってんだ!!」
  ジム「腹が減ってりゃ何してもいいってのか?それじゃあ世の中
     泥棒だらけだ。(笑う。)」
  B・J「うっせぇんだよ!!」
  ジム「大人の言うことは黙って素直に聞くもんだぞ。そんな口ば
     っか聞いてると、口がひん曲がるかも知れないな。」
  B・J「冗・・・冗談言うんじゃねぇ!!」
  ジム「いいか?何もいい人間になれと、強制している訳じゃない
     んだ。ただ生きていくうえでだな、こう・・・」
  B・J「説教なんか聞きたくねぇ!!」

         B・J下手方へ行こうとする。

  ジム「まぁ待てよ、小僧・・・」

         音楽流れ、ジム歌う。

         “よく考えてみろ
         世の中悪い奴らばかりなら
         まるでこの世の終わりだな
         世紀末に相応しい
         誰もが悪人 地獄絵図
         よく考えてみろ
         皆が理性を持たなけりゃ
         まるでこの世は崩壊寸前
         ノストラダムスも真っ青だ
         警察官も弁護士も誰もがお手上げ
         だから神様がお与えになった
         人には考える頭と感情を持つ心
         それを使いこなせずに
         思いつくまま欲求を満たそうなんて
         それじゃあ人として落第だ
         分かるか小僧
         世の中いいこと悪いこと
         それを見極め生きていく
         それが人としてやるべきこと
         それが誰もが考える
         当たり前のこと・・・”

  B・J「神様なんているもんか!!」
  ジム「いるさ。」
  B・J「絶対にいない!!」
  ジム「何故そう思う?」
  B・J「・・・ホントにいるなら・・・なんで俺を独りぼっちにするんだ
     !!なんで俺の父ちゃん母ちゃん、事故で死んじゃったん
     だ!!神様なんて糞食らえだ!!嘘吐くんじゃねぇ!!」
  ジム「そうか・・・おまえ・・・」
  B・J「(ジムの言葉を遮るように。)可哀想なんかじゃないぜ!!
     同情なんかするな!!俺は今の生活で満足してんだ!!」
  ジム「可哀想なんて言ってないぜ。」
  B・J「煩い!!誰が可哀想・・・え・・・?」
  ジム「頑張ってるんだな・・・って褒めてやろうと思ったのに。早と
     ちりだな。(笑う。)」      
  B・J「笑うな!!何が可笑しいんだ!!大人たちは皆一緒じゃ
     ないか!!先ず、俺の格好を見て嫌な顔をするんだ。それ
     から俺の身の上話しを聞いて、決まって言うんだ・・・俺をジ
     ッと見ながら“まぁ可哀想に・・・”まっぴらゴメンだ、そんなの
     !!余計なお世話だってんだ!!」
  ジム「まぁまぁ、そうカリカリすんなって。大人って言うのは、心の
     表現がおまえら子どもと違って、下手糞なんだよ。建前や
     愛想抜きに中々話せないものなんだ。」
  B・J「そんなの迷惑ってんだよ!!」
  ジム「まぁ確かに・・・それは一理ある。だが全ての大人を10個
     一盛のように思い込むのはどうかな・・・?人其々、顔が違
     うように・・・」
  B・J「考え方も違うってんだろ!?」
  ジム「おっ・・・」
  B・J「分かってら、そんなこと!!」
  
         音楽流れ、B・J歌う。

         “だけど大人の考え程
         ありきたりでくだらないものはない
         だから何でもお見通し
         つまらない不必要な考え事さ
         余計なお世話 時間の無駄だ
         俺のことは放っといてくれ”

         ジム、呼応するように歌う。

         “それが駄目だな 大人には
         くだらないと思われる台詞一つにも
         意味がある
         それが分からないなんて
         おまえはまだまだ子どもだな
         だから大人の言うことは
         黙って聞いてりゃ間違いない
         道をそれたら大変だ
         誰か導く大人が必要”

  ジム「そこでだ・・・ものは相談だが・・・おまえ、アルバイトする気
     はないか?」
  B・J「・・・アルバイト・・・?」
  ジム「金が手に入れば、パンが堂々と食える。泥棒なんてする
     ことないんだ。」
  B・J「アルバイトなんてゴメンだね!!働くなんて俺の性に合わ   
     ねぇ!!」
  ジム「性に合う合わないの問題じゃないぜ。人間誰しも働かな
     きゃ食っていけないんだ。働いて清々しい汗でも流してみ
     な。自ずと自分の進む道が見えてくるぜ。」
  B・J「分からねぇよ、そんなこと!」
  ジム「・・・ま・・・そうだな、今はまだ分からなくても、その内おま
     えにも理解出来る時が来るんだよ。その時になって“しまっ
     た”と思うより、今は半信半疑でも騙されたと思って、俺の
     言うこと聞いときなって!きっとおまえにとって、よかったと
     思える時がくる筈さ!」
  B・J「嫌だ!!」
  ジム「俺の知り合いに、独り暮らしの金持ちの婆さんがいるんだ
     が・・・最近、今まで一緒に暮らしてた子ども一家が、仕事
     の都合で遠くに引越しちまったんだ。」
  B・J「何、勝手に喋ってんだ!!嫌だってんだろ!!」

         B・J、下手へ行きかける。

  ジム「(B・Jの襟首を掴む。)」
  B・J「な・・・!何すんだよ!!離せ!!離せよ!!」
  ジム「それで、その淋しさから、急に塞ぎ込むことが多くなって、
     寝たきりで毎日過ごすようになってな・・・。だけどこのまま
     じゃ、体によくないだろ?元々は元気ハツラツな婆さんだっ
     たんだぜ。そこでだ!その婆さんが夏のバカンスの間、自
     分の孫と同じ年頃の男の子を預かって、面倒みようと思い
     ついたんだ。そうすれば家の中が賑やかになる。婆さんも
     張り合いが出るってもんだ。できれば少々ワンパクでも、元
     気な奴がいいと思っていたが・・・おまえなら願ったり叶った
     りじゃないか!(笑う。)」
  B・J「何勝手に・・・俺は行かないって・・・離せよ!!」
  ジム「(B・Jを離す。)婆さん家へ行けば、教育は受けさせてもら
     える。礼儀作法もバッチリだ!食事のマナーもお手の物。
     バカンスが済んだ頃には、おまえは立派なおぼっちゃまだ
     !!」
  B・J「おぼっちゃま・・・馬鹿にすんな!!おぼっちゃまなんかに
     なってたまるかよ!!」

         B・J、下手へ走り去る。

  ジム「あっ、ちょっと待てよ・・・!!せっかく上手い話しだと思っ
     て言ってやったのに・・・。大人は皆同じ・・・か・・・」

         暗転。

    ――――― 第 2 場 ――――― A

         鐘の音が静かに聞こえる。
         上手よりシスター登場。続いてトランクを
         提げた一人の少女(ネリー。)、嬉しそうに
         登場。

  シスター「さぁネリー、もう用意は整っていますね。」
  ネリー「はい、先生!」
  シスター「もう直ぐ、トマスご夫妻がお見えになるわ。そうすれば
        いよいよお別れですからね。いい子で新しいご両親の
        言う事をよく聞いて、頑張るんですよ。」
  ネリー「はい、先生!」
  シスター「忘れ物はないですね。」
  ネリー「はい、先生!」
  シスター「院長先生の教えを忘れないように・・・」
  ネリー「はい、先生!」
  シスター「(下手方を見て。)列車が遅れているのかしら・・・。少
        し外の様子を見てきますから、あなたはここで待って
        いなさい。」

         シスター、下手へ去る。
         入れ代わるように上手よりB・J登場。

  ネリー「はい、せん・・・(B・Jに気付き。)あら、B・J・・・今お帰り
      ?」
  B・J「・・・ネリー・・・」

         B・J、上手方へ行きかける。

  ネリー「漸くお別れね!私は今日から新しい生活が始まるの!!
      やっとこのうらぶれた孤児院ともおさらばよ!この間見学
      にいらしたトマスご夫妻が、大勢の子ども達の中から、是
      非、金髪の巻き毛が愛らしい品の良さそうな私をうちの子
      に・・・と仰って下さったのよ!!あなたは・・・そのなりじゃ
      駄目よねぇ・・・。あなたみたいな薄汚れた品のない子は、
      きっといくら待っても里親は見つかりっこないわね。それに
      礼儀作法だって全然なってない。そんな風だと、ロクな大
      人になれないわよ。まぁ、あなたはそれでもいいから、そう
      しているのよね。余計なお世話だったわ。ごめんなさい。
      いい子は自分の非は素直に認めるものなの。あなたとも
      散々喧嘩したけれど・・・あなたの今までの様々な無礼を
      私は許してあげるつもりよ。感謝してね。」

  シスターの声「ネリー!!トマスご夫妻がお見えになったわよ!
           早くいらっしゃい!!」

  ネリー「はい、先生!!じゃあね、B・J!!」

         ネリー、嬉しそうにスキップをしながら、
         下手へ去る。

  B・J「じゃあね、B・J!!何が“じゃあね、B・J”だ!!馬鹿野郎
     ・・・誰が許してくれと言ったんだ!!こっちはおまえのこと
     を、許してなんかやるもんか!!」

    ――――― 第 2 場 ――――― B

         音楽流れる。
         B・J、上手より舞台下、歌いながら下手方へ。

         “品がない
         だからどうしたってんだ
         そんなもの生きていくのに必要ないだろ
         礼儀作法?
         なんなんだそれは
         そんなの知らなきゃ困るのか
         人の道に逸れるのか
         俺は俺の好きなように生きるんだ
         誰に縛られるのもまっぴら御免
         下品で乱暴者でも
         別に俺は困らない
         自分は自分・・・なんだから・・・”

         B・J、下手より舞台上へ。
        



  




  ――――― “Thank you!B・J”2へつづく ―――――