2013年6月29日土曜日

“Thank you!B・J” ―全○場― 3


         音楽流れ、ミセスアダムス、B・J歌う。

      ミセスアダムス”先ずお返事は「はい」よ”  

  B・J「はいっ!」

      ミセスアダムス“ご挨拶は「ごきげんよう」”

  B・J「ごきげんよう・・・」

      ミセスアダムス“下がる時には「失礼します」”

  B・J「失礼します・・・」

      ミセスアダムス“感謝の気持ちは・・・”

  B・J「おおきに!!」
  ミセスアダムス「B・J!!」
  B・J「(舌を出す。)」

      ミセスアダムス“少しずつ教えましょうあなたに
                何から教えればいい?
                今まで何を教わってきたの?
                きっと何も教わってないのね
                いいわそれならそれで
                この私があなたに2ヶ月間
                みっちり教えましょう”

      B・J“俺は今までこんな
         礼儀作法なんて聞いたことない
         そんなの知らなくても
         腹が空かなきゃそれでいい”

      ミセスアダムス“違うわあなた間違っている
                人として生きていくうえで
                大切なのは・・・”

  B・J「食べること!」

      B・J“食べなきゃ生きていけないぜ”

  ミセスアダムス「それはそうだけれど・・・」

      B・J“だから食べる為にやることは
         何でも正しい生きる知恵”

      ミセスアダムス“違うわそれは考えて
                食べたい感情だけで生きるなど
                人でなくても出来ること
                そんなのは間違ってるのよ人として”

  B・J「婆ちゃんは・・・こんなでっかいお屋敷に今まで住んできて
     ・・・腹が減って腹が減って、死にそうになったことがないか
     ら、そんな綺麗事が言えるんだ・・・」
  ミセスアダムス「B・J・・・」

      B・J“昨日も一昨日も食べてない
         明日も明後日も空腹だ
         だからパンを盗むんだ
         だからゴミ箱漁るんだ!”

  B・J「父ちゃん母ちゃんが死んじまって・・・院長先生に拾われる
     まで・・・俺は生きる為に毎日毎日必死だった・・・。いつ死
     ぬんだろ・・・いつ父ちゃんや母ちゃんのとこに行く日が来る
     んだろって、そればっか考えてたんだ!!礼儀作法なんか
     糞くらえだ!!そんなの何の腹の足しにもなんねぇ!!(
     背を向ける。)」     

         ミセスアダムス、B・Jに近寄りそっと
         抱き寄せる。

  ミセスアダムス「そうね・・・ごめんなさい。」
  B・J「・・・婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「私は恵まれた生活をしてきたのね・・・。今まで
            辛い思いをしてきたあなたの苦労を、全部は分
            かってあげられないかも知れないわ・・・。でもね
            B・J・・・いくら今までがそうでも、これからのあな
            たの人生にとって、今から学ぶ礼儀作法やマナ
            ーは、きっと役に立ったと思う時がくる筈よ。だか
            ら私と一緒に、色々お勉強しましょう。どう?」
  B・J「婆ちゃん・・・うん・・・あ・・・はい・・・」

         ミセスアダムス、微笑んでB・Jを見る。
         暗転。

    ――――― 第 5 場 ――――― A

         前方下手スポットにバート、浮かび上がる。

  バート「さて、それからの奥様と言うもの・・・昨日までのベッドで
      塞ぎ込んでいた様子とは打って変わって、我々が見てい
      ても生き生きとB・Jお坊ちゃんの教育に夢中になってお
      いでのご様子でありました。当のB・Jお坊ちゃんと言うと
      、最初の頃は色々と問題を起こされたりしておいででした
      が、夏休みも半分を過ぎた頃からでしょうか、外見は誰が
      見ても良家のお坊ちゃまと言った風情を醸し出し、お屋敷
      へ来られた頃に比べると、見違えるような成長ぶりでござ
      いました。」 

    ――――― 第 5 場 ――――― B

         舞台明るくなる。と、屋敷の食堂。
         ミセスアダムスとB・J、向かい合って
         座り、食事をしている。
         (ルーシー、時々出入りして、給仕を
         している。)

  ミセスアダムス「(B・Jの食事風景を、微笑ましく見ている。)随
            分、ナイフとフォークの使い方が上手くなったこ
            と・・・」
  B・J「・・・え?(ナイフとフォークを持つ、両手を見る。)」
  ミセスアダムス「だって、ここへ来た当初は何でも手掴みで食べ
            ていたあなたが、今はそうやってナイフとフォー
            クを使って、きちんとお食事をしているわ。音も
            立てずにね。」
  B・J「(口に運ぼうとしていたフォークから、食べ物が転がり落ち
     る。)あ・・・!!(慌てて椅子から下り、床に転がった食べ
     物を拾い、思わず口に入れようとする。)」
  ミセスアダムス「B・J!」
  B・J「(テーブルの下から顔を出し、気まずそうに舌を出す。)」
  ミセスアダムス「褒めた側からそれでは困りますよ!」
  B・J「・・・ごめんなさい・・・(椅子に座る。)」
  ミセスアダムス「まぁ・・・それにしても随分な成長ぶりですよ。グ
            レイ先生が次に来られた時には、あなたの様子
            を見てきっと驚かれることでしょう。」
  B・J「兄ちゃんがお医者様だったなんて・・・」
  ミセスアダムス「ええ、グレイ先生はとても腕のいいお医者様で
            ね。以前はK大学病院にお勤めになられていた
            のだけれど・・・」
  B・J「・・・以前は・・・?」
  ミセスアダムス「今は辞めておしまいになられたのよ。先生は、
            K大学病院の頃から私の主治医の先生で、ずっ
            と頼りにして、診て頂いていたのだけれど、突然
            お辞めになられると言うので、先生の腕と人柄
            に全信頼を寄せる私も、先生の後を追って今で
            は公園の簡易治療所の患者の一人と言う訳で
            すよよ。(笑う。)」
  B・J「え?」
  ミセスアダムス「ほら、あの街外れの木が沢山、生い茂ってとて
            も美しい公園・・・」
  B・J「あの公園だ・・・」
  ミセスアダムス「若いのに腕は確かで、あのまま大学病院に残
            っていれば、将来は教授の椅子も夢ではないと
            言われる程の、優秀な先生だったのだけれど・・・
            (クスッと笑う。)変わった先生でね・・・公園のベ
            ンチでいつもゴロゴロしているのを聞きつけた、
            具合の悪い人達がいつの間にか集まって来る
            ようになって・・・気付けば俄診療所が出来上が
            ってるんですよ・・・。しかもお金なんか一切貰わ
            ずに、無料で診てくれる腕のいいお医者様と評
            判が評判を呼んで、今ではいつお休みになられ
            てるのかと、こちらが心配になるくらい、毎日毎
            日沢山の患者さんを診ていらっしゃるのよ・・・」
  B・J「けど・・・僕が出会った時は誰も・・・」
  ミセスアダムス「ああ・・・きっと休憩時間だったのね。(笑う。)」
  B・J「休憩時間・・・?」
  ミセスアダムス「ええ、いつでも自分のお休みなんかは二の次
            に、患者さんがいると聞けばどこへでも飛んで行
            くような先生でしょ?公園へもひっきりなしに病
            人が来るものだから、お休みになる暇がない先
            生を、回りの皆が心配してお昼寝の間だけは、
            先生にゆっくり休んで頂く為に、あのベンチで横
            になられている時は、誰も声をかけたりはしない
            のよ。」
  B・J「そうなんだ・・・」
  ミセスアダムス「勿論、先生はそんなことをお知りにはならない
            わ。だってそんなことをお知りになったら、きっと
            もっとご自分からウロウロと病人を捜しに行って
            しまわれるような先生だから・・・」

         その時、上手よりバート登場。

  バート「奥様、グレイ先生がお見えになりました。」
  B・J「兄ちゃんが!?」
  ミセスアダムス「まぁ、久しぶりだこと。バート、こちらへお通しし
            て。ルーシー、先生のお席を用意して頂戴。」

         バート、頭を下げて一旦上手へ去る。

  ルーシー「はい、奥様。」

         ルーシー、後方棚の上から食器を取り、
         テーブルの上へ並べる。
         一時置いて、上手よりジム登場。

  B・J「兄ちゃん!!」
  ジム「よぉ、元気だったか?」
  B・J「何だよ!!ちっとも来てくれないで!!」
  ジム「(笑う。)悪い悪い。」
  ミセスアダムス「本当ですよ、グレイ先生。B・Jを我が家によこ
            しておいたまま、一度も顔を見せないなんて。」
  ジム「ミセスアダムス、申し訳ありません。少し大学の方から頼
     まれごとがあって・・・。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・」
  ジム「それにしてもミセスアダムス、随分と顔色が以前と違って
     見違えるように明るいですね。B・J効果ですか?(笑う。)」
  B・J「なっ・・・何だよ、兄ちゃん!B・J効果って!」
  ミセスアダムス「そうかしらね。確かに近頃の私は、以前の私と
            は打って変わって、寝込む暇がない程、忙しくし
            ておりますからね。(笑う。)」
  ジム「それは何よりです、ミセスアダムス。(B・Jを見て。)おまえ
     も随分と垢抜けたじゃないか。そうやってナイフとフォークを
     手に、黙ってテーブルについている姿は、いいところのお坊
     ちゃまだと言われれば、何の疑いもなく皆が信じてしまうだ
     ろうな。」
  B・J「・・・本当に?」
  ジム「ああ。(微笑む。)」
  B・J「へへ・・・(照れ笑いする。)」
  ミセスアダムス「グレイ先生、お席を用意させましたから、一緒
            に昼食をお召し上がりになって下さいね。」
  ジム「それは有り難いのですが、今日はまた午後から大学でオ
     ペがあるので・・・」
  ミセスアダムス「まぁ・・・お忙しいのね・・・。先生はまた大学へ
            お戻りになられるおつもりですの?」
  ジム「いえ、そのつもりは全くありませんよ。僕はこれからも公園
     の俄診療所の医師を続けていくつもりです。ただ大学では
     とてもお世話になってきて、今の僕がある訳ですから・・・。
     僕を必要と言ってくれるのであれば、いくらでも協力は惜し
     まないつもりにしているのです。」
  ミセスアダムス「そう・・・」
  B・J「・・・もう帰っちゃうんだ・・・」
  ジム「何しょぼくれてんだよ。(笑う。)」
  B・J「しょ・・・しょぼくれてなんか・・・!!」
  ジム「おまえがそんなに、俺と会えなくて淋しいと思ってくれてる
     なんて知らなかったなぁ。」
  B・J「う・・・うるせぇ・・・!!」
  ジム「(微笑む。)そんな顔すんなよ。今日はその変わり・・・おま
     えに友達を連れて来てやったんだ。」
  B・J「・・・友達・・・?」
  ジム「(上手方を見て、手を上げる。)おい!」

  声「はい!」

         その時、上手よりきちんとした身形の
         一人の少年(マーク)登場。

  ジム「マーク!こっちだ。」
  マーク「はい、先生。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・マークじゃないの。」
  マーク「お久しぶりです、お祖母様。ご機嫌は如何ですか?」
  ミセスアダムス「ええ、ありがとう。この通り元気ですよ。」
  ジム「B・J!こいつはミセスアダムスの遠い親戚に当たる、マー
     ク・ジョセフ・アダムス。歳は幾分おまえより上だが・・・同じ
     男同士、仲良くなれるんじゃないかと思ってさ。」
  マーク「こんにちは!君がB・J?」
  B・J「(下を向いたまま頷く。)」
  マーク「よろしく、B・J!(手を差し出す。手を出すのを躊躇うB・
      Jの手を取り握る。一瞬怪訝な面持ちをするが、直ぐに笑
      顔に戻る。)」
  ミセスアダムス「それにしてもマーク・・・暫く見ないうちに、随分
            立派な男の子になって・・・。」
  マーク「いえ、僕なんかまだまだですよ、お祖母様。」
  ミセスアダムス「お父様、お母様はお変わりなくお過ごし?」
  マーク「はい、父も母もお祖母様に宜しくと申しておりました。」
  ミセスアダムス「そう・・・。嘸かしお父様、お母様はあなたのこと
            を、頼りになさっているのでしょうね。」
  マーク「いえ、そんな・・・」
  ジム「今度マークは、K大附属のハイスクールに合格して、あの
     小生意気だったハナタレ小僧が、僕の後輩になると言う訳
     ですよ。」
  ミセスアダムス「まぁ・・・それはおめでとう。」
  マーク「ありがとうございます、お祖母様。でも、嫌だなジム先生
      、ハナタレだなんて。ジム先生のようになりたくて、頑張っ
      てきて、無事後を追うことが出来ると決まって、僕として
      は感慨もひとしおだと言うのに。」
  ジム「それで大学の近くに下宿することになって、昨日こっちへ
     出て来たと言う訳なのです。」
  ミセスアダムス「あら、下宿などせずにうちへ来ればいいのに。」
  マーク「ありがとうございます。けど一度、父や母やばあやなど
      と離れ、自分一人の力で生活してみたかったのです。」
  ミセスアダムス「・・・そうなの・・・?」
  マーク「はい。お祖母様のお側にいては、きっと甘えてしまって、
      僕はこのまま成長できないでしょうから・・・。」
  ミセスアダムス「あなたに限って、そんなことはないと思うけれ
            ど・・・」
  ジム「マークは歳の割に、しっかりとした自分なりの考えを持っ
     ていますからね、きっと大丈夫ですよ。」
  ミセスアダムス「そうね。でもいつでも遊びに来て頂戴ね。あな
            たが来てくれると、私もB・Jもとても嬉しいわ。(
            B・Jに向いて。)ね、そうでしょ?」
  マーク「はい、お祖母様、ありがとうございます。」
  ミセスアダムス「B・J、あなたのお部屋でマークに色々と教わっ
            てはどう?きっとあなたの知らないお話しを、沢
            山聞かせてくれると思うわ。」
  ジム「そうですね。(B・Jに。)こいつは意外と博学多才な奴なん
     だぞ。」
  マーク「そんな先生、僕は・・・」
  B・J「・・・俺・・・忙しいからいい!!(下手へ走り去る。)」
  ミセスアダムス「B・J・・・?」
  ジム「どうしたんだ、あいつ・・・」
  ミセスアダムス「本当・・・」
  マーク「・・・あの子・・・」
  ジム「ん?」
  マーク「いえ・・・別に・・・」

         暗転。(紗幕閉まる。)










  ――――― “Thank you!B・J”4 へつづく ―――――


























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