葵「だってそうでしょ・・・。今までただの一度だって、私を一人に
しなかった時はないでしょ・・・。その度、私は待ったわ・・・い
つも、いつもあなたが来るのを・・・」
葵、歌う。
“どうしようもない人・・・
どうしようもない仕事人間・・・
このまま付き合ってて
私は幸せになれるのかしら・・・
私の未来は明るく輝いている?”
悠矢「勿論さ!!結婚しよう、葵!!僕と一緒に・・・」
葵「あなたと結婚すれば、幸せになれるの!?嘘よ・・・そんな
こと・・・。副社長と同じように・・・あなたもその内、家庭を顧
みることがなくなるわ・・・。」
悠矢「あの人は・・・確かに仕事人間だった、それは認める・・・。
家庭や母さん・・・そして僕を犠牲にしたことも、一度や二
度ではない・・・。母さんが入院した時でさえ、あの人はた
だの一度も顔を見せなかったんだ・・・。だけど・・・僕が、あ
の人の後を受け継いで、同じ道を歩もうとしている今・・・
漸く、あの人の気持ちがほんの少しだけ、理解出来るよう
な気がする・・・。一生懸命になれるのは、愛する者がいた
からだ・・・。一生懸命が格好悪いなんて、あの人には無縁
の言葉だった・・・。ただ、あの人の愛情表現はとても不器
用だったから・・・僕たちは思い違いを沢山したけれど・・・
あの人はあの人なりの・・・精一杯で、僕たちを包んでいて
くれた・・・。それを一番よく分かっていたのは母さんだった
よ・・・。」
葵「分かっていても・・・それがお母様の望んだ幸せだったのか
しら・・・。いつもいつも待ちぼうけ・・・そんな理解し難い愛情
で、お母様は満足してた?」
悠矢「母さんは・・・幸せだったよ・・・たとえ父さんがいつも側に
いなくても・・・何故なら・・・」
暗転。
――――― 第 8 場 ――――― B
舞台、薄明るくなる。と、2場の病室。
秋「(信次の手を取り。)・・・あなた・・・聞こえる・・・?もう一度だ
け目を開けて・・・。あなた・・・私よ・・・お願・・・い・・・」
その時、信次ゆっくり目を開く。
信次「・・・秋・・・」
秋「あなた・・・?」
信次「・・・心配かけて・・・」
秋「本当よ・・・どれ程、心配したか・・・」
信次「・・・今日の・・・記念日・・・30回目の・・・結婚記念日・・・」
秋「(驚いたように、そして嬉しそうに微笑む。)・・・知ってた・・・
の・・・?」
信次「・・・折角のパーティ・・・すまない・・・」
秋「・・・いいのよ・・・あなたが覚えていてくれただけで・・・」
信次「・・・君に・・・伝えたい言葉は・・・山のようにある・・・だが
・・・何をどう言えば・・・ずっと・・・愛していたよ・・・君と・・・
悠矢を・・・これからも・・・愛している・・・よ・・・」
秋「・・・私にも言わせて・・・今度、生まれ変わっても・・・また・・・
あなたと一緒になりたいわ・・・愛してる・・・」
フェード・アウト。
――――― 第 8 場 ――――― C
一時置いて、舞台明るくなる。と、前場。
悠矢と葵、佇む。
葵「・・・ごめんなさい・・・私・・・副社長のこと・・・」
悠矢「僕だって・・・母さんに、あの人の最後を聞かされるまで・・・
父さんのことを誤解してた・・・。(箱を差し出す。)」
葵「(箱を受け取り開ける。と、婚約指輪。嬉しそうに。)・・・普通
・・・こう言うものは、男性から女性の指にはめてあげるもの
よ・・・。」
悠矢「ああ・・・そうだね・・・。(指輪を葵の指にはめる。)」
悠矢、歌う。
“これから続く未来への道は・・・
ただの平坦なアスファルトだけとは
限らない・・・
ゴツゴツと石が転がる砂利道かも・・・
山道の急な登り坂が続いたり・・・
それは下りもあるだろう・・・
だけど2人でなら
歩き続けることが出来る筈・・・
立ち止まることなく・・・”
葵、歌う。
“いつか到着するその場所へ
辿り着いたその時に・・・”
葵「・・・私もあなたのお母様のように、今度生まれ変わっても・・・
またあなたと一緒になりたい・・・そう心から言えるかしら・・・
?」
悠矢「・・・ああ・・・僕が必ず君に・・・その台詞をプレゼントする
と約束する・・・。」
葵「悠矢・・・」
悠矢、歌う。
“だから心を預けて・・・
不安があれば共に考えよう・・・
不満があれば思い遣りを持とう・・・
不実はしない神かけて・・・”
悠矢「だから僕を信じて、ついて来て欲しい・・・」
葵、歌う。
“心に沁みるわ
あなたの台詞・・・
もう迷わないわ何も・・・
あなたのこと信じるわ強く・・・
私・・・
幸せになれる・・・”
悠矢、葵、嬉しそうに手を取り合い、
見詰め合う。
そこへ、悠矢、葵の様子を見ていたように
上手より、天使登場。歌う。
“人間なんて分からない・・・
何が望みか分からない・・・
だけどきっと誰もが同じ
幸せを求める・・・
その思いは同じ筈・・・”
舞台後方(紗幕後ろ、シルエット。)に、
悠矢、葵、2人に重なるように、
手を取り合った信次と秋、浮かび上がる。
信次の声「僕について来てくれて、ありがとう・・・」
――――― 幕 ―――――
0 件のコメント:
コメントを投稿