スティーブ「強制して人々を従わせ、平和な世の中だと言ったと
ころで、それは所詮、偽りの平和だ・・・。」
ギルバート「何だって・・・?」
スティーブ「(ギルバートを見詰め、フッと笑う。)・・・でも・・・本当
に俺が学生時代によく怒られた先生に似ているな・・・
。ギルバート先生でしょ?名前まで同じだなんて・・・。
(ランディを見て。)それに君の名前はランディ・・・同
じ名前の友達もいたんだ・・・。」
ギルバート「それより偽りの平和がどうしたのだ!!」
スティーブ「それは・・・あ、そうだ、それより教えて欲しいんです
けど・・・ここは・・・どこですか・・・?」
ギルバート「ここをどこだか知らない?」
スティーブ「ええ・・・こんな場所は見たこともない・・・。それに、
さっきから“強制”“強制”って・・・丸で昔々の軍隊じ
ゃあるまいし・・・」
ギルバート「この国は強制の国だ!強制することが当たり前の
ことではないか!!」
スティーブ「・・・強制の国・・・?そんな国、聞いたこともない。(
笑う。)全く、どうしてこんなとこに自分がいるんだか
・・・俺は確か公園で気になる少年を見かけて追い
掛けるうち・・・(溜め息を吐いて。)分からない・・・」
ギルバート「何をブツブツ言っているのだ!?偽りの平和の話し
はどうなったのだね!?」
スティーブ「あ・・・ああ、このことは後でゆっくり考えるとしよう。
(ギルバートに向いて。)そうでしたね。」
ギルバート「ところでランディ、君はどう思う?私の言うことが正
しいと思うだろ?」
ランディ「僕は・・・」
スティーブ「そんな風に決め付けて言われると、自分で考えるこ
との出来ない人間になりますよ・・・。」
ギルバート「それのどこが駄目なのかね?」
スティーブ「僕もよく学生時代、あなたと同じようにガミガミ怒鳴
る先生に押さえ込まれて、自分の意見をちゃんと言
うことが出来なかった。何が正しいのか正しくないの
か・・・その判断もまだしっかりと出来ないような子ど
もに、自分の間違っているかも知れない意見を強制
するのは、正しいことだとは思わない・・・。」
ギルバート「間違っていると、何故分かるんだ!?」
スティーブ「間違っているとは言っていない・・・。間違っているか
も知れないと言ったんだ。」
ギルバート「同じことじゃないか。」
スティーブ「全然違いますよ。誰だって正しい、間違っているの
判断を誤らずに歩いて行ける人間なんていやしない
・・・。一見好い加減な言い方かも知れないが、間違
っているかも知れないと認めることは、勇気のいる
ことでしょう?最初から間違っていると分かり切って
いることならまだしも・・・誰も自分の言うことは信じた
いものですからね・・・。自分を正当化したい・・・。」
※
音楽流れ、ギルバート歌う。
“其々が別々の意見を口にして
バラバラのことを始めたら
それこそこの国は分裂だ
だから強制と言う支配を持って
一つに纏め上げる!”
スティーブ歌う。
“確かにバラバラのものを
一つに纏め上げるのは
至難の業かも知れない
だが皆意見が違って当たり前
歩み寄るのが大切!”
スティーブ「其々が持つ意見を出し合い、話し合って本当の正し
い道を皆で見つける・・・それこそが民主主義と言う
ものではないでしょうか・・・」
ギルバート「民主主義・・・?なんだね、それは・・・」
スティーブ「人民の人民による人民の為の政治・・・かの有名な
リンカーンの残した言葉をご存知ないのですか?」
ギルバート「そんな言葉は知らんね。」
スティーブ「この国は人民の為を装った、人民を無視した押さえ
込みの国・・・。違いますか?頭ごなしに子ども達を
従わせても、中身まで纏まった国になるとは思わな
い。ランディ・・・自分の考えを口にすると言うことは、
とても大切なことなんだ。やりたいと思うことをやりた
いとも言えず・・・人任せの人生を歩んでいると、そ
の内、心がなくなってロボットのような人間になって
しまうんだぞ。君はそれでもいいのかい?」
ランディ「・・・(小声で)嫌だ・・・」
ギルバート「・・・ん?」
ランディ歌う。
“僕はロボットなんて真っ平だ・・・
押し付けられた学校生活
ちっとも楽しくない・・・
僕は悪戯が好きだ!
先生に叱られたって
立たされたって・・・”
ギルバート「君は学校に一体何しに・・・!?」
ランディ「学校は勉強する為に行くんだ!!分かってるよ・・・そ
んなこと・・・。僕は勉強が嫌いなんじゃないんだ・・・。
ただ勉強もするけど、楽しいこともしたい・・・。それじゃ
駄目なの、先生・・・!?僕、もっと色んなことがしたいよ
・・・。最初からゴールの決まっているゲームは面白くな
いもの・・・!!」
スティーブ、ランディ歌う。
スティーブ“そうだランディ
自分の意見を言うんだ今こそ
自分が正しいと思うなら
主張してみよう!!”
ランディ“歩くんだ今
自分の足で見つけた道を
たとえ間違った道でも
自分で決めたこと!!”
2人“だから少しも
後悔はないんだこの時
真っ直ぐでなくても
自分の選んだ道だから!!”
ギルバート「・・・自我の芽生えた者は、この国ではやっていけな
いだろうな・・・。この国は強制の国・・・君の言うこと
が正しいのかどうかさえ、この国で生まれ育って来
た私には、判断出来かねるのだ。」
スティーブ「そうでしょうね・・・」
ギルバート「ただ、そうやって主張する、君の真っ直ぐな瞳を見
ていると・・・正しいかどうかは別として・・・それも一
つの道であると言うことは、少なくとも分かる・・・。」
スティーブ「ええ・・・。」
ギルバート「ランディ・・・どうする君は、これから・・・。この国にい
る限り、この国の仕来たりに従うのは国民としての
義務だ・・・。」
スティーブ「・・・一緒に・・・探すかい?君の暮らせる国を・・・。こ
の国にはこの国の遣り方がある以上、それを変えよ
うとすることは、並大抵のことではないだろう・・・。」
ランディ「・・・僕・・・僕、この国に残るよ・・・。この国に残って、強
制の国なんて名前、変えてみせる・・・。強制で支配する
んじゃなくって、思い遣りで歩み寄るんだ。そうでしょ?」
スティーブ「ランディ・・・そうだな・・・その通りだ。」
ランディ「何年かかっても、僕はこの国を素晴らしい国に変えて
みせる・・・!!」
スティーブ「・・・君ならできるよ・・・必ず・・・。」
ランディ「うん・・・!!」
スティーブ「頑張れよ。」
スティーブ、上手方へ。そこにいたギルバート
と握手し、話している。と、下手より、少年登場。
ランディの側へ。ランディ、少年、楽しそうに
話している。2人の笑い声でスティーブ振り返り、
少年を認める。
少年「じゃあ!!」
少年、下手へ走り去る。
スティーブ「(慌てて。)あ・・・!!あの少年・・・!!(ランディの
側へ。)ランディ!!今のは!?」
ランディ「僕の友達だよ。」
スティーブ「友達・・・名前は・・・!?」
ランディ「スティーブ。」
スティーブ「・・・スティーブ・・・?・・・まさか・・・あ、おい待って・・・
待ってくれ!!」
スティーブ、驚いた面持ちで、少年を追う
ように下手へ走り去る。
音楽盛り上がって、暗転。
――――― 第 5 場 ―――――
一時置いて、下手スポット、息を切らせ走り
ながらスティーブ登場。
スティーブ「(息も荒く。)一体・・・どこに行ったんだ、あの子ども
・・・(座り込む。)それにしても全く・・・なんて足の速
い餓鬼だ・・・。俺も昔は・・・俊足ランナーと言われた、
陸上界のエース・・・くっそう・・・(ゴロンと寝転がる。)
」
(スティーブ、そのまま寝入るように。)
音楽流れ、一時置いて上手より一人の
少女(アリス)登場。スティーブを認め、
ゆっくり近付きながら歌う。
“・・・あなたは誰?
何故か気になるその面差し
・・・どこかで出会うの
私達・・・
それは今なのかしら
あなたが目覚めて
その瞳に映る私を見た時
それが出会う瞬間
でも・・・
あなたは誰・・・?”
アリス、スティーブに見入る。
スティーブ「う・・・ん・・・(ハッとして起き上がる。)仕舞った!!
こんなところで寝てる場合じゃないだろ・・・。」
アリス「・・・あなた誰・・・?」
スティーブ「え・・・?」
アリス「どこから来たの・・・?」
スティーブ「(アリスを認め。)・・・あ?ああ、なんだ子どもがいた
のか・・・」
アリス「子どもじゃないわ!レディよ!」
スティーブ「ミニレディだな。(笑う。)」
アリス「失礼ね!レディ・アリスと呼んで!」
スティーブ「OK・・・で?ミニ・レディ・アリス、ここは何処か教え
てくれないか・・・。」
アリス「ミニ・・・もう!・・・まぁいいわ。ここは“期待の国”よ。」
スティーブ「期待の国・・・?また変わった名前の国だな・・・。期
待・・・って・・・ここにいれば、何かいいことでもあるの
かい?」
アリス「そうねぇ・・・私にもよく分からないけれど、ここはガミガミ
先生のいる強制の国や、古い大木の支配者が踏ん反り
返る権力の国とは違って、とても平和よ。それにいつも何
かに胸がときめくような感じがするわ。今だって、あなた
がここにいることが、とても不思議で、何か起こりそうな期
待にドキドキするもの。」
スティーブ「残念・・・俺は魔法使いでも何でもないんだ。何も起
こらないよ。」
アリス「そうなの?でもあなたの格好、変わってるわ!見たこと
のない服・・・それに靴・・・その胸にささっている物は何
・・・?(スティーブの胸ポケットを指す。)」
スティーブ「(胸ポケットを見て。)・・・万年筆のことかい?(取り
出し、アリスの方へ差し出す。)」
アリス「(珍しそうに見て。)・・・万年筆・・・?何するもの・・・?」
スティーブ「何って・・・(手帳を取り出し、書いて見せる。)ほら・・・
こうやって・・・」
アリス「まぁ!!模様が書けるのね!?凄いわ!!私にも見せ
て!!」
スティーブ「ああ・・・どうぞ・・・(アリスに万年筆を渡す。)」
アリス「(そっと受け取る。)・・・凄いわね・・・それに、とっても綺
麗だわ・・・!(翳す。)」
アリス、嬉しそうに万年筆を持って、軽やかに
舞うよう。暫くその様子を見ていたスティーブ、
何か思い出したように手帳を広げ、ポケットから
コンテを取り出し、アリスの様子を書き始める。
アリス「(スティーブに気付き、駆け寄り覗き込む。)何を書いて
いるの?・・・私?」
スティーブ「ああ・・・」
アリス「まぁ、素敵!!とても美人・・・!!私、本当にこんなに
綺麗!?」
スティーブ「・・・さあ・・・」
アリス「さあって・・・でもこれ私でしょ?」
スティーブ「これは未来のミニ・レディ・アリス予想図さ。こんな風
に美人になればいいなって・・・」
アリス「意地悪ね!」
2人、笑い合う。
その時、上手より一人の少女(バネッサ)
登場。
バネッサ「アリス!」
アリス「バネッサ・・・」
バネッサ「(スティーブをチラチラ見ながら。)何してるの?」
アリス「見て、これ!(バネッサに駆け寄り、手に持っていた万
年筆を見せる。)今、この人に見せてもらってたの!」
バネッサ「・・・何これ・・・」
アリス「色んな模様が書ける、魔法の棒よ!」
バネッサ「嘘・・・」
アリス「本当よ!」
バネッサ「それ、もらったの?」
アリス「違うわ、見せてもらってるの。」
バネッサ「そう・・・(何か思い立ったように、スティーブに近寄り。
)ねぇあなた、私にアリスの持ってる棒、下さらない?
」
スティーブ「え・・・?」
アリス「何言ってるのよ、バネッサ!!」
バネッサ「その代わり、あなたの知りたいこと、教えてあげるわ
。」
スティーブ「・・・知りたいことを・・・?」
バネッサ「ええ・・・。私知ってるのよ、あなたが何故、今ここにい
るのか・・・」
スティーブ「スティーブって言う少年のこと、知っているのかい?
」
バネッサ「・・・まぁ・・・ね・・・。その棒、私に下さる?」
アリス「駄目よ!バネッサの言うことなんか聞いちゃ駄目!!」
バネッサ「黙ってて、アリスは!!どう?」
スティーブ「いいよ・・・君にあげよう。」
バネッサ「やった!」
バネッサ、アリスから万年筆を奪い取る
ように。
アリス「あ・・・」
バネッサ「わぁ・・・綺麗ね・・・!!」
スティーブ「それで?どこに行けばスティーブに会えるんだい?」
バネッサ「そうね・・・この期待の国にいないことは確かよ。」
アリス「そんなこと、分かり切ってるじゃない!彼は“やすらぎの
国”の住人よ!」
スティーブ「やすらぎの国・・・?」
バネッサ「そう!そこへ行けば会えるんじゃない?」
スティーブ「やすらぎの国って・・・」
バネッサ「そんなこと、私が知る訳ないでしょ!じゃあね!」
バネッサ、嬉しそうに下手へ走り去る。
アリス「バネッサ!!」
――――― “風になる・・・”3へつづく ―――――
※ この場面・・・全体に意味が難しくて、当初の台詞から
何度も手直しして書き変えました^_^;
少しは読み易くなったかな・・・と思うのですが、如何
でしょうか・・・(~_~;)
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