2013年6月4日火曜日

“風になる・・・” ―全8場―

       〈 主な登場人物 〉


    スティーブ・タナー  ・・・  大画家の父を持つ若手画家。
                      本編の主人公。

    アイザック・タナー  ・・・  スティーブの父。

    マーク  ・・・  スティーブの下で働く。

    ドンク  ・・・  老画家。

    ボブ  ・・・  ドンクの付き人。

    ジュディ  ・・・  スティーブの母。

    少年

   
    その他



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            幕が上がる。

    ――――― 第 1 場 ―――――

         一時置いて下手より、一人の青年(マーク)、
         数枚の額に入った絵を重そうに抱えて登場。

  マーク「よっこらしょっと・・・(絵を下に置く。)はぁ・・・重かった・・・
      (下手方を見て。)先生!!先生!!この絵、どこに飾り
      ます!?先生!!」

         そこへ下手より、スティーブ・タナー、一つの
         小ぶりな額を抱えて、ゆっくり登場。

  マーク「早く配置を考えて下さいよ。まだ何十枚もあそこに積み
      上げたまま・・・」
  スティーブ「煩いな・・・全く・・・。」
  マーク「煩いったって、言わなきゃ先生、動いてくれないじゃない
      ですか。さっさと準備しないと、今夜の個展前夜祭記念
      パーティーに主役が遅刻しちゃ、お話にならないでしょ?
      大体、作品の配置は全部自分で遣るなんて拘り・・・先生
      みたいな大物に似合わないですよ!こんなのアシスタン
      トに任せて・・・」
  スティーブ「おまえには分からないさ・・・」
  マーク「え?」
  スティーブ「いくら著名人になったところで、何に対しても、少し
         の拘りも持たない人間は、俺に言わせれば芸術家
         として一人前とは言えないな・・・。」
  マーク「もう・・・先生は理屈っぽいんですよ、ただ単に・・・。世の
      中、拘りのない奴なんて、そこら中にゴロゴロ・・・」
  スティーブ「おまえもその一人ってことだ・・・(手に持っていた絵
         を、上手方にあった額の上に乗せる。)」
  マーク「またこの絵・・・。誰なんですか?この絵の女の人・・・。
      いつも先生の個展には、必ず飾っているけど・・・。先生の
      ・・・恋人?まさかね。(笑う。)それにしても、随分この絵
      のタッチは、今の先生のものと違って、地味ですよねー。
      本当に先生が書いたんですか・・・?」
  スティーブ「煩い!さっさとその手にしてるものを、決まった場所
         に持って行け。」
  マーク「決まった場所って・・・」
  スティーブ「(1枚の紙をマークに渡す。)ほら・・・」
  マーク「(紙を受け取って見る。)あ・・・はぁい、了解・・・。」

         スティーブ、スポットに浮かび上がり歌う。
         (後方でマーク、絵を其々飾っている。)

         “遠い昔の思い出は
         忘れられない心の片隅に
         今も微かに蘇る・・・
         優しい風が心を過ぎり
         温かな思いが満たされる
         自分の生きた証がそこにある
         生まれた意味を確信する
         遠い昔の思い出に
         今解き放たれる為・・・
         答えを探し出す為に
         風になりたい・・・”

         舞台、明るくなる。
         (マーク、飾り付けが終わっている。)

  マーク「どうですか、先生!どこか不味いとこありますか?」
  スティーブ「(チラッと見て。)別に・・・」
  マーク「もう、あっさりしてるなぁ・・・」
  スティーブ「ちょっと出て来る。後はよろしく・・・」

         スティーブ、上手へ去る。

  マーク「よろしく・・・って・・・、先生・・・先生!!ちぇっ・・・なぁに
      が拘りだよ。拘るなら最後まで責任持って欲しいよ。拘る
      人間が“後はよろしく”・・・なんて言うかなぁ・・・。それにし
      ても先生って人はよく分からないよ・・・。先生の下に付い
      てもう一年・・・。なのに益々分からなくなる・・・。どこか翳
      りがあるようで・・・。かの有名な偉大な画家、アイザック・
      タナーを父君に持つサラブレット。若い人達からの人気も
      高い!だけど先生はそれがどうも気に入らないみたいな
      んだ・・・。」

         音楽流れ、マーク歌う。

         “よく分からない彼のこと
         全く不思議な人 以前から
         絵が上手い それは彼の才能
         なのに言われると怒るんだ
         自分を否定しているように
         褒められることが苦手なのか
         僕なら飛び上がって喜ぶけれど
         世間に認められ
         手に入れた地位と名誉
         彼には何故かそれが嬉しくないらしい”

         マーク首を傾げ、下手へ去る。
         カーテン閉まる。

    ――――― 第 2 場 ―――――

         カーテン前。
         一時置いて上手より一人の紳士(トング)、
         続いてお付きの青年(ボブ)、話しながら
         登場。

  トング「どうして私が奴の記念パーティに、態々出席してやらな
      きゃいけないんだ!全く馬鹿げてる!!奴はまだデビュ
      ー間もないヒヨッ子なんだぞ!それなのに、ちょっと世間
      に認められただけで、なぁにが前夜祭だ!!」
  ボブ「はぁ・・・」
  トング「そもそもあいつが有名になれたのは父親のお陰なんだ
      !!私が生涯のライバルと認めた、ただ一人の男、アイ
      ザック・タナー・・・。この世の生きた天才と言われた父親
      の笠の下で、ヌクヌクと育ち、何となく手に入れた今の地
      位!!おまえもそう思うだろ、ボブ!!」
  ボブ「まぁ・・・」
  トング「それに大体、ちょっと人気があるからって、彼の遣り方
      は傲慢過ぎるんだ。まだ年端ゆかぬ若造のくせに・・・前
      夜祭なんてハデハデしいパフォーマンス!!まだまだ早
      過ぎる!!世間は一体どんな目をしてるんだ。あんな奴
      の絵が素晴らしいなんて!!私に言わせれば、彼の絵
      はとんだ茶番だね。斬新な色使いに大胆な構図?・・・ふ
      んっ!!あんなのは幼稚園児のお絵描きだ!!熊牧場
      の熊でも描ける。(笑う。)」

         その時上手より、2人の話しを聞いていた
         ように、スティーブ登場。

  ボブ「(スティーブに気付き、小声でトングに。)・・・あ・・・トング
     先生!!トング先生!!・・・スティーブさん!!こんにち
     は!!」
  トング「(ボブの言葉に気付き振り返る。驚いたように。)・・・や
      ・・・やぁ、タナー君・・・明日はいよいよだね!我々も今回
      の君の個展は楽しみにしているんだ。」
  スティーブ「へぇ・・・それはそれは・・・。あなたが僕みたいなヒヨ
         ッ子の個展を楽しみにしてくれているとは、今以て知
         りませんでしたよ・・・。」
  トング「な・・・何を言っているんだね。私は長いこと、この世界に
      いるが、君程の実力を兼ね備えた新人に、今だ嘗てお目
      に掛かったことはないと思っているんだよ、スティーブ・タ
      ナー君!」
  スティーブ「結構ですよ・・・そんなに僕に気を使って貰わなくて
         も・・・。どうせ僕は父の恩恵を受けて、今ここにいる
         ことが出来るんだ。何も態々、あなたに大声で豪語
         して頂かなくても、そんなことは端から分かりきって
         いる・・・。お帰り下さい。(上手方を指し示す。)」
  トング「な・・・なんて奴なんだ!!なんて偉そうな・・・!!誰が
      出てやるもんか!!誰がおまえのような青二才の・・・!
      !一生、父親の陰に隠れたまま、その地位で満足してる
      がいいんだ!!」

         トング、憤慨したように上手へ去る。
         慌ててボブ、トングの後を追うように
         上手へ去る。(音楽流れ、カーテン開く。)

    ――――― 第 3 場 ―――――
  
         舞台は公園の風景に変わっている。
         (中央に一つのベンチ。)
         スティーブ溜め息を吐き、虚しそうに
         歌う。

         “誰だって
         触れられたくない思いがある・・・
         誰だって
         心に重く圧し掛かる
         拭い去りたい影がある・・・
         何もかも投げ出して
         逃避したい世界がある・・・”

         スティーブ、ベンチに腰を下ろす。
         一時置いて、下手より一人の少年登場し、
         スティーブを見詰めている。

  スティーブ「(少年に気付く。暫く知らん顔するが、少年が何時ま
         でも自分の方を見ていることが気になるように。)な
         んだ・・・俺に何か用か・・・?さっきから何故、俺の方
         ばかり見ている・・・?」
  少年「あなた・・・今、絵を描くことが楽しくないね・・・?」
  スティーブ「え・・・?」
  少年「もう絵なんて描きたくないと思ってる。」
  スティーブ「何故そんなことが分かるんだ・・・。第一、どうして俺
         が絵描きだって・・・」
  少年「僕は楽しいよ。絵を描くことが好きさ。」
  スティーブ「絵を描くことが好き・・・?」
  少年「うん。将来は絵描きになることが僕の夢なんだ!」
  スティーブ「そんなものになったって、食って行くのが大変なだけ
         だぞ。」
  少年「でもあなたはまだ若いのに、売れっ子画家じゃない。それ
     でちゃんと生活してる。」
  スティーブ「それは父親が・・・(ハッとして。)なんでおまえにそん
         なこと言わなきゃならないんだ。」
  少年「父さんが有名でも、父さんと僕とは違う・・・。」
  スティーブ「俺だってそう思ってたさ!だけど・・・追い抜けない
         ・・・いつまでもあの人の背中を見て、俺は歩いて行
         かなきゃならない・・・。これは現実だ・・・。絵が好き
         ・・・おまえのように真っ直ぐ前を向いて、希望に胸、
         ときめかせてた頃もあったさ・・・。(少年を見て怪訝
         そうに。)父さんと僕は違う・・・って・・・おまえの親父
         さんは画家なのか・・・?」
  少年「今日、図工の時間に森へ絵を描きに行ったよ。スケッチブ
     ックと絵の具を持って!僕は絵を描いている時が一番、楽
     しいんだ!!それに母さんは、僕の絵をいつも褒めてくれ
     るんだ!」
  スティーブ「・・・え・・・?」
  
  母の声「スティーブ・・・あなたが描いてくれた母さんの絵・・・私
       は一番好きよ・・・。とても温かな感じがするもの・・・」

  スティーブ「・・・母さん・・・(思わず立ち上がる。何か不思議な面
         持ちをして、少年を見る。)・・・おまえは一体・・・」
  少年「(微笑んでスティーブを見る。)」
  
         スティーブ、呆然と少年を見詰める。
         その時、強い風が吹き抜ける。

  スティーブ「わっ・・・!!(風を避けるように、身を屈める。)」

         少年、嬉しそうに笑いながら下手へ
         走り去る。

  スティーブ「あ・・・!!待ってくれ!!待って・・・!!」

         スティーブ風を避けながら、少年の後を
         追うように下手へ走り去る。
         暗転。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         舞台明るくなる。(強制の国。)
         一時置いて下手より、一人の男性
         (ギルバート先生)登場。続いて、俯き
         加減の一人の少年(ランディ)ゆっくり
         登場。

  ギルバート「全く・・・ランディ、君は学校は何をする為に来るとこ
         ろだと考えているんだね!?答えてみたまえ!!」
  ランディ「・・・それは・・・勉強を・・・」
  ギルバート「一体どう言ったつもりで、毎日毎日私の血圧が上が
         るようなことをするんだ!!よくもこう、次から次へと
         私の頭を悩ませる問題を起こせるものだな!!真面
         目に私の言うことを聞き、勉強して努力するのは誰
         の為だ!!私の為に君は学校へ来ているのか!!」

         音楽流れギルバート先生、熱弁を振るう
         ように歌う。
         (途中、スティーブ下手より登場し、その
         様子を見ている。)

         “勉強するのは自分の為
         勉強こそが君の未来を左右する
         今こそ熱心になる時だ
         でなきゃこのまま落ち零れ
         君の思いに任せてりゃ
         君は堕落の一途を辿る
         だから強制 強制
         この国に相応しく
         君の未来に栄光あれ!!”

  ギルバート「分かったかね?ランディ君!」
  ランディ「・・・はい・・・なんとなく・・・ギルバート先生・・・」
  ギルバート「なんとなく・・・?なんとなくだと?そんな生温いこと
         で君はこれからのこの世の中、渡り歩いて行けると
         思っているのかね!?これは君の為に諭して言って
         いるのではない。分かるかね!?強制しているのだ
         !!この国は全てが強制!!教師が言うこと、決め
         たことは、必ず守らなければならない!!そして実
         行する!!今までの私の遣り方は甘かった!!危う
         く私もこの国の規則に、違反してしまうところだった。
         強制こそが最大の支配!!強制こそが国民を正し
         い道に導く道標!!」
  スティーブ「・・・そうかな・・・」
  ギルバート「(スティーブを認め。)誰だね?君は・・・」
      





     


     ――――― “風になる・・・”2へつづく ―――――



























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