2013年6月14日金曜日
“藤川信次” ―全8場―
〈 主な登場人物 〉
藤川 信次 ・・・ 本編の主人公。子どもの頃からエリート
街道を進んできた。
藤川 秋(旧姓花村) ・・・ 信次の妻。
藤川 悠矢 ・・・ 信次と秋の息子。
嶺山 葵 ・・・ 悠矢の恋人。
天使
その他
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――――― 第 1 場 ―――――
静かな音楽流れ、木霊するように小さな
歌声聞こえる。
“アイ・ラヴ・・・アイ・ラヴ・ゴースト・・・
アイ・ラヴ・ゴースト・・・” ※
舞台中央スポット、ベンチに座り俯き加減に、
物思いに耽るように一人の紳士(藤川信次)、
浮かび上がる。
信次「・・・なんだろう・・・何か大切なことを忘れているような・・・
何かやらなければならない、大事なことがあったような・・・
何だろう・・・」
音楽大きくなる。
信次、立ち上がり歌う。
“大切なこと・・・思い出せない・・・
当たり前のこと・・・何か忘れてる
自分の心が・・・求めてる
誰かの為に・・・出来ること・・・
何だろう・・・一体・・・
どうしたんだろう・・・
分からない・・・”
信次「こう・・・通りを見ていても、どこかへ急いで行かなければ
ならなかったような・・・落ち葉が落ちるよりも早く・・・何か
見つけなければいけない・・・探し物があったような・・・」
“一つだけ心に・・・
ポッカリ空いた忘れ物・・・
何が癒してくれるのか・・・
どこに落としてしまったのか・・・
いつになれば満たされる・・・
振り返っても見つからない
目の前に広がる道もただ
霞んで今はよく見えない・・・”
信次、再び座り、頭を抱える。
その時、上手より一人の女性(嶺山葵)、
怒っているように足早に登場。
続いて葵を追い掛けるように、一人の
青年(藤川悠矢)、バラの花束を手に登場。
悠矢「葵・・・!!葵、待てよ・・・!!」
葵「嫌よ!!」
悠矢「待てってば・・・」
葵「もういい加減にしてよね!!あなたはいつも仕事、仕事・・・
こんなに楽しみにしていた記念日にまで遅刻してくるなんて
!!」
悠矢「だから謝ってるじゃないか・・・!こうして君の好きなバラ
の花束だって・・・(差し出す。)」
葵「そんなもので騙されないわ!!あなたは仕事さえ出来れば
いいのよ!!仕事だけがあなたの生き甲斐!!私のことな
んて、これっぽっちも考えてくれたことがないんだわ!!」
音楽流れ、葵歌う。
“2人のことなんて
どうでもいいの あなたには
2人の約束なんて
あってもないの あなたには
優しさを贈り物で
誤魔化そうだなんて
思い遣りのない身勝手な人!!”
葵「大っ嫌い!!」
葵、下手へ走り去る。
悠矢「あ!!待ってくれ・・・!!葵!!待っ・・・て・・・畜生・・・
僕が何をしたって言うんだ・・・。ちょっと約束の時間に遅れ
ただけじゃないか・・・!それなのに・・・!そりゃ、ここんと
こ忙しくて・・・約束を守れたことは・・・あんまりないけど・・・」
悠矢歌う。
“ただ仕事が長引いただけ
ただいつもより・・・
やるべきことが多かった
ちゃんと連絡もいれた
この通りプレゼントだって・・・
なのに何故・・・
彼女はあんなに怒るんだ
全く訳が分からない
どうすればいいんだ・・・
今日は大切な記念日・・・
2人が出会った思い出の日・・・”
悠矢「そして僕が・・・(背広のポケットをそっと触る。)」
悠矢、花束を見て溜め息を吐き、横に
あったゴミ籠の中に花束を捨て、上手へ
去る。(いつの間か信次、頭を上げ今まで
の2人の様子を、何の気なしに見ている。)
信次「あ・・・おい・・・君・・・!全く・・・最近の若い者は、何でも物
を粗末にし過ぎる・・・。(ゴミ籠の中から、花束を拾う。)・・・
こんな綺麗な花束・・・。それにしてもあの2人・・・どこかで
見たことが・・・(首を傾げる。)それに一体・・・何を言い合
いしてたんだろう・・・。大切な日に遅刻がどうのこうのと・・・
大切な日・・・何だろう・・・何か大切なことがあったような・・・
」
信次、再び歌う。
“どこかで誰かが待っている・・・
急いで行かないと間に合わない・・・
別れ別れになった2人のように
何かを言わなければならなかった・・・
胸に抱えた一つの台詞・・・”
信次、ゆっくり上手へ去る。
と、同時に一人の天使、信次を見て
いたように登場。上手方を見たまま
舞台の縁に腰を下ろす。
天使「やれやれ・・・人間って言うのは、面倒な生き物だ・・・。折
角の大切な時間・・・彼はただああやって、考えて終わらせ
るつもりなのかな・・・?」
天使歌う。
“君は忘れてるね
大切なこと・・・
遣り残した思いを満たす為に
もう一度舞い降りた
地上に立つ意味を・・・
早く思い出さないと
言い残した言葉・・・
でなきゃ永遠に
君はこの世を徘徊する
迷える風になるんだから・・・”
暗転。
――――― 第 2 場 ―――――
中央前方スポットに、一つの長椅子。
(病院の待合室。)
そこに腰掛けている婦人(藤川秋)と、
悠矢浮かび上がる。
秋「・・・あの人は本当に今まで仕事ばかり・・・いつもいつも働き
詰めで・・・挙句の果てに、仕事場で倒れるなんて・・・」
悠矢「・・・母さん・・・」
秋「あの人と私は昔・・・同じ職場で働いていたの・・・。今のあな
たと、嶺山さんのようにね・・・」
悠矢「そうだったんだ・・・」
秋「その頃のお父さんは、とても仕事熱心だったの・・・。今と全
然変わりなく・・・私は・・・それを承知で結婚したんだけれど
・・・正直言って・・・淋しいと思ったことは、一度や二度では
なかったわ・・・。結婚してからも家庭を顧みることなく・・・私
のことも放ったらかし・・・小さいあなたの面倒なんて一度も
・・・。私のこと・・・本当に愛してくれていたのかしら・・・」
悠矢「そんな父さんと一緒になって・・・母さんは幸せだったの
・・・?」
秋「私・・・?私は・・・(考えるように。)」
舞台明るくなる。と、上手後方に一つのベッド。
(病室。)
その上に信次、眠っている。横には小川医師と
看護師立っている。
秋と悠矢、信次の側へ。
秋「小川先生・・・」
小川「藤川さん・・・」
悠矢「先生、どうなんですか?父の容態は・・・」
小川「最善の手は施しましたが・・・」
悠矢「・・・そうですか・・・」
秋・・・あなた・・・」
小川「・・・全く・・・無茶な仕事量をこなして・・・いつか取り返しの
付かないことになるから、程々にして下さいと、常々煩く言
っていたのに・・・」 ※2
秋「あなた・・・」
音楽流れ、秋、言葉を搾り出すように歌う。
(途中、小川医師、看護師上手へ去る。)
“聞こえてる・・・?
そこにいるの・・・?
いつも私は待ちぼうけ・・・
なのにまた・・・
私を置いて行くの・・・?
私のことが分かる・・・?
いつもここにいる・・・
あなたの温もりが
虚飾に感じるわ・・・
私はあなたの声が聞きたい・・・”
秋「ねぇ・・・答えて・・・あなたの言葉で聞かせて・・・私の生き
方が正しかったんだと・・・」
悠矢「・・・母さん・・・」
暗転。
天使の声「・・・彼の命は風前の灯・・・さぁて・・・藤川信次・・・そ
の人の昔をちょいとばかし覗いて見るとしようか・・・。」
――――― 第 3 場 ―――――
一転して明るい音楽流れる。
一人の女子学生、手に袋を持ち下手より
スポット登場。歌う。
“子どもの時から優秀で
英才教育 お受験で
有名私立幼稚園
そのままエスカレーター式に
おぼっちゃま街道まっしぐら
学校ではいつも1、2を争う秀才くん
その上 運動神経抜群で
おまけに誰もが振り返るハンサムボーイ
女の子が放っとかないよね藤川くん”
舞台、明るくなる。と、舞台中央に置かれた
一つのベンチ(1場と同じ。)に、学生服姿の
信次、腰を下ろし本を読んでいる。
女子学生、信次を認め恥ずかしそうに躊躇い
ながら、ゆっくり近付く。
女子学生「・・・あの・・・藤川くん・・・」
信次、顔を上げ、女子学生を認め怪訝そう
に見詰める。
女子学生「・・・こ・・・こんなところで読書?さ・・・寒いでしょ?」
信次「・・・君・・・誰・・・?」
女子学生「・・・え?同じクラスの南愛子じゃない。」
信次「・・・南・・・ああ・・・聞いたことがあるような気がする。」
女子学生「・・・気がするって・・・」
信次「それで?何か用・・・?」
女子学生「え・・・ええ!今日、何の日か知ってる?」
信次「何の日・・・?さぁ・・・」
女子学生「2月14日よ!?学校中の女の子達が・・・」
信次「くだらない・・・」
女子学生「え・・・?」
信次「皆が何に騒いでいるのか知らないが、他に考えることが
ないんだな・・・。」
女子学生「・・・本当に知らないの・・・?」
信次「ああ・・・。何の日だろうと、僕には関係ないからね。失敬
・・・」
信次、上手へ去る。
女子学生「藤川くん・・・!!・・・折角・・・チョコレート・・・頑張っ
て作ったのに・・・」
女子学生、悲しそうに歌う。
“知的で冷静沈着で・・・
背も高くてハンサムボーイ・・・
女の子が放っとかないけど藤川くん
あなたはちっとも見向きもしない・・・
いつも手には読みかけの分厚い本
横にいるのは教科の先生・・・”
女子学生「女の子に興味がないのかしら・・・」
女子学生、溜め息を吐きながら、残念
そうに下手へ去る。
下手後方より、その様子を見ていたように
天使、ゆっくり登場。
天使「成績優秀で、何をやらせてもそつ無くこなす・・・見た目に
はとてもよく出来た人間に見えるけれど・・・内面を探って、
人間的な部分に触れると・・・彼にはその一番大切な、“人
間らしさ”・・・と言うところには、全く無頓着で、そう言った
感情は欠如しているらしい・・・(笑う。)さぁて、この後、彼は
どんな風に成長していくんだろうね。(上手方を見て、何か
に気付いたように。)おや・・・?お出ましだ・・・。バリッとス
ーツに身を包んで、今日はどこへお出掛けかな・・・?」
――――― “藤川信次”2へつづく ―――――
※ この作品のタイトルとして“アイ・ラヴ・ゴースト”と付いて
いたのですが、読み直してみて「どうかな・・・」と感じたの
で、今回はタイトルを主人公名で書かせて頂いています
^^;
もう一つ余談ですが・・・この信次さん、初めは外国名
(ジム・グレイ)が付いていました^_^;
※2、こんな会話をする・・・と言うことは、小川先生と信次
さんは、友達か・・・それに近い関係だとお考え下さい^^;
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