そこへ上手より、スーツ姿の信次、
幾分緊張した面持ちで、椅子を持ち
登場。
下手より、年配の偉そうな態度の
男性、椅子を持ち登場。
(天使、ニヤリと微笑み、下手前方へ。
そんな2人の様子を楽しそうに見ている。)
男性、舞台中央椅子を置き、座る。
信次、その前に椅子を置き、横に立つ。
男性「(手に持っていた書類に目を遣り、チラッと信次を見る。)
どうぞ・・・」
信次「はい、失礼します。(椅子に腰を下ろす。)」
男性歌う。
“藤川信次くん・・・
T大学卒業予定・・・”
男性「ほう・・・有名国立大学か・・・」
男性歌う。
“得意なスポーツ マラソンと・・・
持久力には自信あり・・・”
信次「はい、一つのことを、コツコツと成し遂げるのが得意です
。」
男性歌う。
“我が社を希望した動機は・・・?”
信次「はい、貴社の将来性と・・・」
天使、2人の側へ。2人の様子を見ながら
歌う。
“ここぞとばかり熱弁を揮った
自分の考え 自分の思い
口八丁手八丁
相手を飲み込む熱い視線で
考えの全て”
男性歌う。
“しっかりした考え独創性
社運を賭けた新事業
君になら任せられる”
男性「是非、我が社に!!(立ち上がり、信次の肩に手を掛け
る。)」
信次「ありがとうございます!!(立ち上がり、頭を下げる。)」
2人、其々椅子を持ち、上手下手へ去る。
天使「見事、大手企業に一発ストレート入社、流石だね。」
天使歌う。
“このままどんどん上り詰める
自分の願った人生そのまま
一度の挫折も知らぬまま
人間らしさも知らぬまま
それが当たり前であるかのように
冷たい奴だ誰が見ても
心がないねあいつには
だけどそんな彼にも心から
愛してくれる人はいた
知ってか知らずか
それは彼の不幸中の幸い”
暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
上手スポットに、スーツ姿の一人の
女性(花村秋)浮かび上がり、歌う。
“2つ違い・・・
ただの幼馴染・・・
それも小さい頃の話し
今はほんの顔見知り・・・
会っても挨拶すらしない
でも私は見てた
いつもあなただけ・・・
女の子達が告白するのを羨ましく・・・
冷たくあしらうのを少し淋しく・・・
そしてちょっぴりホッとした・・・
だから頑張ったわ
同じ高校に行きたくて
だから夢中で勉強した
置いていかれないように
大学にストレートで入れたのも
あなたのお陰
だけど・・・
卒業式が来る度
いつも辛かった・・・
2つ違いはどうしても
埋まらないから・・・”
秋「でも、やったわ!!」
“今度こそ
卒業式のない社会人
今日
漸くまたあなたの側に・・・”
舞台明るくなる。(社内の様子。)
中央に課長。周りには社員が立っている。
(その中に、信次の顔も見える。)
課長「えー・・・今日からこの課に配属になった、花村秋さんだ。」
秋「(信次を認め。)・・・信次くん・・・」
周りの社員、「信次くんだって・・・」など、
ヒソヒソ声で囁き、顔を見合わせる。
信次「・・・花村・・・秋・・・?」
課長「なんだ藤川くん、知り合いかね?」
信次「・・・え?ええ・・・まぁ・・・」
課長「それじゃあ君が色々と、花村くんの面倒を見てやってくれ
たまえ。その方が花村くんも心強いだろうからな。」
信次「・・・え・・・?」
課長「頼むよ。」
信次「(独り言のように。)・・・面倒臭い・・・」
秋「(信次の側へ。)よろしくお願いします、藤川さん!!(頭を
深く下げる。)」
信次「・・・あ・・・?ああ・・・」
秋、スポットに浮かび上がり歌う。
“覚えていてくれたわ!
丸で奇跡ね
私のこと知ってくれてたの
信じられる?
2人の思い出は
遠い昔の小さなブランコ
それだけなのに
彼の記憶に私がいたわ
ああ丸で夢みたい
ああ丸で雲の上にいる気分よ!!”
暗転。
――――― 第 5 場 ――――― A
舞台、明るくなると、藤川家リビング。
(中央テーブルの上には、パーティの用意が
されている。)
一時置いて、1場の紳士姿の信次、拾った
花束を手に上手より登場。
信次「ただいま・・・(周りを見回す。)誰もいないのか・・・?なん
だ・・・今日は何か祝い事でもあったのかな・・・?(テーブル
の上を見て。)・・・冷めたスープに・・・冷めた料理・・・一体
皆、どこへ行ったんだ・・・。(倒れていた椅子を立てる。)秋
?悠矢?(花束をテーブルの上へ置く。)」
信次、下手方に置いてあった一つの
ロッキングチェアにゆっくり腰を下ろし、
揺らす。
信次「ああ・・・この椅子はいいな・・・。何故かとても落ち着くん
だ、昔から・・・。それにしても皆どこへ行ったんだろう・・・。
そう言えば昨夜・・・秋が何か言っていたような・・・。明日は
記念日で・・・だから、どうのこうのと・・・」
信次、ゆっくり目を閉じる。
フェード・アウト。
――――― 第 5 場 ――――― B
遠くから音楽流れ、木霊するように段々
大きくなる。
ライト・インする。と、ポーズを取った
オフィスレディ達、歌う。
“我が社に不景気なんて
関係ないわ
業界切っての企業伸び率
新事業プロジェクトも軌道に乗った
その功績は彼の手腕に
ねぇ藤川さん!”
OL1「噂じゃ彼、仕事以外に趣味はないそうよ。」
OL2「本当?」
OL3「でも男前よね!」
OL1「それはそうだけど・・・彼みたいな人と付き合ったら、泣き
を見るのはこっちよ!」
OL2「それでもいいわ!」
OL3「仕事をバリバリこなしてる藤川さん、誰が何て言ったって
格好良いんだもの!!」
オフィスレディ達、歌う。
“すごいわね藤川さん
片手入社でもう課長
毎日毎日残業ばかり
休みも返上
一体いつ眠るのかしら?”
OL1「素敵ねー!」
(途中、沢山の書類を抱えた信次、
下手から登場。急ぎ足で上手へ去る。)
オフィスレディ達、歌う。
“嘘みたい藤川さん・・・
まだ若いのに部長だなんて
我が社始まって以来の快挙ね
日曜日も接待
今度はゴルフらしいわよ”
OL2「格好良いー!」
(途中、ゴルフバックを肩から提げ、手には
書類を持った信次、上手から登場。下手へ
去る。)
曲調変わる。(音楽静かに。)
オフィスレディ達、歌う。
“・・・結婚したわ藤川さん・・・
とてもショックよ・・・
彼女なんて3日も寝込んだらしいわ
でも驚きね
あの仕事人間に
愛する人がいたなんて・・・
違うわ 噂じゃ
体裁保つ為
幼馴染で同じ職場・・・
彼のことをよく知ってる彼女が
選ばれただけ・・・”
舞台、薄暗くなる。
舞台奥、中央スポットに、婚礼姿の後ろ向き
の男女、浮かび上がる。
神父の声「藤川信次・・・汝は花村秋を妻とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
信次の声「・・・誓います。」
神父の声「花村秋・・・汝は藤川信次を夫とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
秋の声「誓います!!」
オフィスレディ達の悲鳴で、スポット男女、
フェード・アウト。
(舞台、明るくなる。)
オフィスレディ達、歌う。
“とうとう副社長になったわ藤川さん
結婚しても変わらない
その仕事ぶりに生活態度
家庭を顧みず
自分の思うままの道
歩き続ける
止まることを知らぬまま
彼と結婚してたら大変なこと!”
オフィスレディ達、其々上手下手へ去る。
そこへ50代半ばになった信次、下手より
登場。
上手より一人の男性、ゆっくり登場。
2人、舞台中央へ。男性、信次へ辞令を
手渡す。
男性「これからは副社長として、社長の片腕となり、我が社を盛
り立てていってくれ。」
信次「はいっ・・・!」
男性「頑張りたまえ・・・。(信次の肩に手を掛ける。)」
男性、下手へ去る。
信次、深呼吸をして上手方へ行きかける。
と、上手より慌てた様子で悠矢、登場。
悠矢「父さん!!」
信次「どうした、悠矢。」
悠矢「大変なんだ!!母さんが・・・!!」
信次「今、忙しいんだ。これから引継ぎ業務が・・・」
悠矢「父さん!!母さんが倒れたんだ!!」
信次「・・・それで?」
悠矢「それでって・・・救急車でK大学病院に・・・」
信次「分かった・・・K大学病院なら、小川先生に連絡しておく。」
悠矢「父さんは・・・?」
信次「だから言ってるだろ。私はこれから色々と忙しいんだ・・・」
悠矢「・・・なんて人だ・・・」
信次「(悠矢の顔を見る。)」
音楽流れ、悠矢歌う。
“母さんが倒れたんだ・・・
なのに駆け付けようともせず・・・
あなたは背を向けた・・・
母さんよりも仕事を選んだ・・・
何よりも・・・あなたのことを
待ち続ける人を待たせたまま
何がそんなに大切なんだ・・・
何があなたを駆り立てる
あなたにとって家族って何なんだ
あなたの口で答えてみろよ・・・”
信次「馬鹿馬鹿しい・・・(上手へ行きかける。)」
悠矢、信次の前へ立ち塞がる。
信次「どきなさい・・・」
悠矢「嫌だ・・・僕と一緒に病院へ行くんだ!!」
信次「そんな時間はない。」
悠矢「時間なんか作ればいい!!」
信次「何も分かっていないな・・・」
悠矢「分かっていない・・・?」
――――― “藤川信次”3へつづく ―――――
0 件のコメント:
コメントを投稿