2013年6月3日月曜日

“アトラス” ―全8場― 完結編

       ――――― 第 7 場 ――――― A

         カーテン前。
         音楽流れ、下手よりアトラス登場。歌う。
         上手方へ。

         “何故俺は迷い躊躇う・・・
         自分の生まれ歩んできた道・・・
         これからも続くただ無意味に広がる
         ただ暗く後ろ向きな道・・・
         今まで当たり前に心を無にして
         言われる通りの道をきた・・・
         だが・・・
         何故俺は迷い躊躇う・・・
         この胸に湧き上がる
         何か訳も分からない
         ・・・今まで否定し続けてきた
         とてつもなく明るく照らされた
         ただ迷いの道だけ・・・”

         アトラス、上手へ去る。

    ――――― 第 7 場 ――――― B

         カーテン開く。と、魔国。
         中央、設えられた段上、置かれた椅子に
         デビル座っている。
         その前にクルーエル、跪いている。

  デビル「それでおまえは、おめおめと包帯を腕に巻き・・・どの面
      を下げて、今私の前に跪くのだ・・・」
  クルーエル「デビル様・・・」
  デビル「アトラスに情けを受け、おまえは魔国民としての恥をさ
      らし、一体どうやって汚名を晴らそうと言うのだ。」
  クルーエル「・・・私は・・・」
  デビル「覚悟は出来ているのだろうな。」
  クルーエル「・・・(項垂れる。)」
  デビル「(立ち上がり、腰に携えていた剣を抜き、一時考えるよ
       うに。)・・・おまえのような落第者は、私自ら手を汚すま
       でもないな。(剣を仕舞い、横に控えていた家臣に。)後
       はおまえがやれ。(椅子へ戻り、座る。)」
  家臣1「はっ!!(剣を抜く。)」

         もう一人の家臣(2)、クルーエルの腕を取り、
         前方へ。

  クルーエル「落第者・・・(笑う。)この俺が落第者か・・・。アトラス
         の側で・・・あいつの毒気にやられたか・・・」
  家臣2「黙れ!!何をブツブツ言っている!!(クルーエルの腕
      を押さえ、跪かせる。)」
  クルーエル「俺は・・・デビル様!!俺はアトラス王子と共に生き
         、今こうして魔国の者として落第者の烙印を押され、
         命を終えることを幸せだと感じているのです!!」
  デビル「・・・何を言っているのだ。」
  クルーエル「アトラス王子は、あなたにはない真の勇者としての
         資質をお持ちです!!」
  デビル「・・・何・・・!?」
  家臣1「黙れ!!この落第者め!!(剣を振り上げる。)」

         その時、アトラスの声が響き渡る。

  アトラスの声「待って下さい!!」

         一瞬、人々の動きが止まる。

  家臣1「・・・え・・・?」
  クルーエル「アトラス・・・?」

         その時、上手よりアトラス走り登場。

  アトラス「待って下さい、父上!!」
  デビル「アトラス・・・」
  アトラス「クルーエルの処刑はお止め下さい!!」
  デビル「何だと・・・?」
  クルーエル「アトラス・・・」
  デビル「何だ、アトラス。何をしにここへ戻って来た?私の出した
      課題をクリアし終えたのか?ならば褒めてやるぞ。」
  アトラス「・・・いいえ、父上・・・(首を振る。)私は・・・魔国の者と
       して生きることを止めようと思います・・・。今日はそのこ
       とを父上に伝える為に戻りました。そして、そのクルーエ
       ルを私と共に・・・」
  デビル「何だと・・・!?魔国の王にはならんと・・・おまえはそう
      言うのか!?」
  アトラス「・・・はい・・・」
  デビル「その王の紋章を持つおまえが・・・我が魔国を見捨てる
      と!?ならん!!そんなことを絶対に許す訳がないであ
      ろう!!」
  アトラス「だが父上・・・!!私にはどうしても魔国の者として生
       きる意味が・・・見つからないのです・・・!!私にはどう
       しても、この体の中の血が・・・何の混じり気もない純粋
       な魔国民の持つそれとは思えない・・・」
  デビル「何を馬鹿な・・・おまえは正しくこの国の・・・私の血を引
      く跡取り・・・王家の紋章を持つ者・・・」
  アトラス「(腕を見て。)この紋章が・・・何だと言うのでしょう・・・。
       こんなもの・・・こんなものがある為に、自由になれない
       のだとしたら・・・!!(腰に差していた短刀を取り出し、
       腕を刺す。)うっ!!」
  クルーエル「アトラス!!」
  デビル「馬鹿な!!おまえは何と言うことを!!」
  アトラス「(腕を押さえ。)・・・さぁ・・・これで私はもう・・・紋章を持
       たない者・・・父上の言う・・・そんな偉い身分に立つ意味
       を持たない・・・ただの一国民と同じ・・・」
  デビル「許さん!!私がどんな手を使って、おまえをこの国へ連
      れて来たと思っているのだ!!」
  クルーエル「・・・え・・・?」
  アトラス「・・・連れて・・・?」
  デビル「何年もかけ、やっと見つけ出した王家の紋章を持つおま
      えを・・・!!」
  アトラス「・・・どう言うことです・・・父上・・・」
  デビル「私はおまえの父などではないわ!!」
  アトラス「・・・父では・・・ない・・・?」
  デビル「(笑う。)そうさ!!教えてやろう。おまえは光の国のス
      プリーム王とハーティ王妃の子・・・光の国のアトラス王子
      だ!!」
  アトラス「・・・まさか・・・」
  クルーエル「・・・それでアトラスは・・・」
  デビル「今度こそ、王家の紋章を持つおまえを自由に操り、この
      地上を支配してやろうと考えていたのに・・・!!それを、
      おまえは・・・!!許さん!!私の企みを打ち壊し、易々
      と生きてこの国から出ることが出来ると思ったら、大きな
      間違い!!クルーエル共々、今ここで息絶えるがいい!
      !(剣を抜く。)」
  アトラス「今まで・・・今まで何の疑いも・・・躊躇いもなくあなたを
       父だと・・・そう信じて生きてきたのに・・・!!」
  デビル「(笑う。)馬鹿な奴だ!!」
  アトラス「許さない!!私の人生を・・・今まで迷い苦しみ生きて
       来たこの思いを・・・!!私は正しかったのだ!!」
  デビル「何とでも言うがいい!!そして自分の愚かさを笑え!!
      (笑う。)」

         その時、アトラスの腕の傷口が光る。

  アトラス「・・・おまえなんか・・・おまえなんか、いなくなればいい
       ・・・」
  デビル「・・・ん・・・?・・・え・・・(体が強張ったように動けなくなる
      。)な・・・なんだ・・・か・・・体が・・・」
  アトラス「おまえなんか・・・人々を苦しめる為だけに生きてきた
       ような奴は・・・」
  デビル「あ・・・あ・・・な・・・なんだ・・・や・・・やめろ・・・やめ・・・
      やめてくれ・・・アトラス・・・やめ・・・この父を・・・」
  アトラス「おまえなんか、この地上から消え去れ―――っ!!
       (傷口に一瞬、閃光が走る。)」
  デビル「わあ―――――っ!!(消える。)」
  クルーエル「アトラス!!」

         一時、驚いたように、その場にいた者たち
         呆然とアトラスを見詰める。

  クルーエル「ア・・・アトラス・・・?」
  家臣1「・・・デ・・・デビル・・・様・・・?」
  家臣2「わ・・・」
  家臣1、2「わあーっ!!」

         家臣たち、下手へ走り去る。

  クルーエル「アトラス・・・!」
  アトラス「(ハッとしたように。)・・・クルーエル・・・今・・・一体・・・」
  クルーエル「(アトラスの腕を取って。)血が・・・出てる・・・」
  アトラス「(腕を見る。)・・・あ・・・」
  クルーエル「(ポケットからハンカチを取り出し、アトラスの腕に
         巻く。)この力が・・・デビルの奴が手に入れるのを望
         んで止まなかった力か・・・」
  アトラス「・・・クルーエル・・・」
  クルーエル「おまえ・・・光の国の王子だったんだな・・・」
  アトラス「・・・嘘みたいだ・・・」
  クルーエル「だから、いくら教育されても・・・この国に馴染まなか
         ったんだ・・・。」
  アトラス「クルーエル・・・」
  クルーエル「・・・よかったじゃないか・・・心の迷いが晴れて・・・
         本当の父さん母さんが待つ国へ・・・やっと戻れるん
         だから・・・」
  アトラス「・・・一緒に行かないか・・・?」
  クルーエル「え・・・?」
  アトラス「私と一緒に光の国へ・・・」
  クルーエル「純粋な魔国民のこの俺が・・・?笑わせるなよ・・・。
         そんなこと・・・できる訳ないだろ・・・」
  アトラス「クルーエル・・・魔国の者だとかそうでないとか・・・そん
       なことは私たち生きる者には関係ないじゃないか・・・。
       同じ生きる者同士・・・たとえ国が違っても、いがみ合っ
       て何になるんだ・・・。それよりももっと大切なこと・・・手を
       取り合い協力し合って、お互いの国を良くしていくことこ
       そ、其々の国に与えられた課題じゃないか・・・。それを
       私たちがやらないで、これから先、お互いの国はどうな
       って行くと言うんだ。だから私と一緒に・・・」
  クルーエル「俺は・・・」
  アトラス「現におまえは・・・(腕を見せる。)このハンカチで・・・私
       の傷の手当をしてくれたじゃないか・・・」
  クルーエル「それは・・・」
  アトラス「クルーエル・・・魔国民も変わる時がきたんだ・・・」
  クルーエル「アトラス・・・」
  アトラス「おまえがその扉を開く、先遣隊長になればいいんだ。」
  クルーエル「・・・アトラス・・・(泣き声に代わる。頬に触れ。)・・・
         これは・・・」
  アトラス「魔国民だろうが、光の国の者だろうが・・・体の中に流
       れる血や涙は・・・皆、同じなんだよ・・・」
  クルーエル「アトラス!!(泣く。)」

         暗転。(カーテン閉まる。)
  
    ――――― 第 8 場 ――――― A

         カーテン前。
         音楽流れ、下手より老人とチェリトリー
         (花を持つ。)、手を取り合い登場。歌う。

         “可愛いお花 素敵な香り
         優しい思い 温かな心
         温もり溢れるこの国に
         咲いた花々美しく
         誰にも幸せ分け与えてくれる”

         そこへ上手より、アトラス登場。
         ゆっくり老人とチェリトリーの側へ。

  チェリトリー「あっ・・・!(アトラスを認め、老人の後ろへ隠れるよ
         うに。)」
  老人「(アトラスを認め。)おや・・・おまえさんはこの間の・・・」
  アトラス「はい。」
  老人「何だ、迷いが吹っ切れたようじゃな。(笑う。)」
  アトラス「僕は・・・魔国の者ではなく、光の国の人間だったので
       す・・・。」
  老人「ほう・・・やっと気付いたのか。」
  アトラス「・・・え?」
  老人「わしは分かっておったよ。おまえさんの真っ直ぐな瞳を見
     れば、一目瞭然じゃ・・・(笑う。)」
  アトラス「おじいさん・・・」
  老人「(腕に気付き。)その包帯はどうしたんじゃ?」
  アトラス「(腕を見て。)・・・私には必要のないものです・・・。だか
       ら切捨てました・・・。」
  老人「・・・王家の紋章・・・」
  アトラス「・・・え・・・?」
  老人「その紋章には、得体の知れん力が備わっておるんじゃ・・・
     。力の使い方を間違えば・・・国全体・・・いや、この地上の
     全ての国々をも破壊し、我が者に出来る程、強大な力がな
     ・・・。」
  アトラス「あなたも知って・・・」
  老人「その昔・・・おまえさんと同じように、その紋章を持つが故
     にデビルに狙われ、連れ去られた者がおったが・・・矢張り、
     おまえさんと同じように、自分でその紋章を焼き払っておっ
     た・・・。」
  アトラス「え・・・?」
  老人「ちと・・・熱かったがの・・・(笑う。)」
  アトラス「おじいさん・・・!」
  老人「早く、父、母のところへ帰っておやり・・・。おまえさんがい
     なくなって、父、母は泣き暮らしておった筈じゃからな・・・。」
  アトラス「はいっ!!」
  チェリトリー「(老人の背後から出、アトラスの前へ。手に持って
         いた花を一束、差し出す。)あげる・・・」
  アトラス「・・・(驚いたように花を見て、微笑む。)・・・綺麗な花だ
       ・・・。ありがとう・・・(チェリトリーの頭に手を置く。)」

         老人、チェリトリー上手へ去る。
         途中、チェリトリー振り返り、アトラスに
         大きく手を振る。
         アトラス、それに応えるように手を振り返す。

  アトラス「さよなら!!」

         アトラス、花を見て歌う。

         “綺麗な花を綺麗だと思う心
         それは誰もが持つ
         ごく当たり前の心・・・
         優しい思いは誰でも感じる
         小さい頃から
         引き継がれた温もり・・・
         ただ思い遣りがあれば
         誰もが幸せになれる・・・
         たとえ国が違っても・・・
         相手を思う気持ちがあれば
         自然と築き上げる温かな世界・・・”

    ――――― 第 8 場 ――――― B

         カーテン開く。と、光の国。
         中央段上に、スプリームとハーティ。
         横に執事レイクとバドル夫人。

  ハーティ「(前方アトラスを認め。)アトラス・・・」
  スプリーム「アトラス・・・」
  
         アトラス振り返り、スプリーム、ハーティを
         認める。

  アトラス「・・・父上・・・母上・・・?」
  ハーティ「(涙声で。)アトラスね・・・」
  スプリーム「よくぞ無事で・・・」

         スプリーム、ハーティ、思いを踏み締めるように
         ゆっくりアトラスの方へ。アトラスも2人の方へ
         ゆっくり歩み寄る。

  アトラス「父上!!母上!!」
  スプリーム、ハーティ「アトラス!!」

         3人、抱き合う。
         執事レイク、バドル夫人、手を取り合い
         涙を流して喜ぶ。
         音楽豪華に盛り上がり、コーラスが響く。

         “光の国の王子様
         今まで修行の旅に出た
         やっと戻って来られたが
         それは立派に逞しく
         誰もが待ち望んだこの時
         幸せの鐘が鳴り響き
         やっと訪れた平和の時・・・”

         鐘の音が響き渡る。

  アトラス「母上・・・(チェリトリーに貰った花束を差し出す。)」
  ハーティ「(花束を受け取り。)・・・まぁ・・・綺麗なお花・・・」

         幸せそうに寄り添い合う3人。







         ――――― 幕 ―――――






















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