――――― 第 1 場 ―――――
音楽流れ、幕が上がる。
と、舞台中央、一つのベンチが置いてある
公園の風景。
そのベンチに一人の青年(ジム・グレイ)、
ゴロンと横になっている。
(騒いでいる人々の声が聞こえる。)
声「ちょっと捕まえとくれ、その坊主!!」
声「待てー!!逃がすもんか!!」
声「泥棒ーっ!!」
その時、上手より一人の子ども(B・J)、
走りながら登場。
B・J「捕まるもんか!!へへーんだ!!」
B・J、後ろを気にするように、下手へ
走り去る。
一時置いて、上手より息を切らせ、走り
ながら大人達登場。中央、立ち止まる。
大人1「すばしっこい悪餓鬼だよ、全く!!」
大人2「本当だね!!」
大人3「いつもいつも・・・」
大人達歌う。
“うちのパンを盗みやがった”
“うちはクッキーひと袋”
“うちではコップを割りやがった”
“なんて悪戯な悪い奴
いつもあいつには手を焼いて
この街の厄介者だ
うちの子猫のヒゲを切った
うちの鶏の卵を盗んだ
あいつの頭の中には
皆を困らせることしかないんだ”
大人達、溜め息を吐いて上手へ去る。
一時置いて、下手より上手方を伺うように
B・J、ゆっくり登場。
B・J「チョロいもんだな・・・(手に持っていたパンを見詰め、心な
しか淋しそうなな面持ちをする。)」
音楽流れ、B・J歌う。
“ああ・・・俺に翼があったなら・・・
ああ・・・今直ぐに飛んで行くんだ
大空に・・・
俺にもおまえ達のように
羽ばたく羽があったなら・・・
力強く両手を羽ばたかせ
飛び出すんだ自分一人の世界へと
自由に飛び回るんだ
この広く澄み渡る青空の隅から隅まで
ああ・・・俺にも翼があったなら・・・”
B・J、溜め息を吐き、パンにかぶりつく。
ジム「泥棒して食ったパンは美味いか・・・?」
B・J「え・・・?(驚いて回りを見回す。)」
ジム、起き上がる。
ジム「(背伸びをして。)ああ・・・よく寝た・・・。悪いことばっかやっ
てると、ろくな大人になんねぇぞ。」
B・J「よ・・・余計なお世話だ、おっさん!!」
ジム「・・・おっさん!?」
B・J「俺は腹が減ってんだ!!」
ジム「腹が減ってりゃ何してもいいってのか?それじゃあ世の中
泥棒だらけだ。(笑う。)」
B・J「うっせぇんだよ!!」
ジム「大人の言うことは黙って素直に聞くもんだぞ。そんな口ば
っか聞いてると、口がひん曲がるかも知れないな。」
B・J「冗・・・冗談言うんじゃねぇ!!」
ジム「いいか?何もいい人間になれと、強制している訳じゃない
んだ。ただ生きていくうえでだな、こう・・・」
B・J「説教なんか聞きたくねぇ!!」
B・J下手方へ行こうとする。
ジム「まぁ待てよ、小僧・・・」
音楽流れ、ジム歌う。
“よく考えてみろ
世の中悪い奴らばかりなら
まるでこの世の終わりだな
世紀末に相応しい
誰もが悪人 地獄絵図
よく考えてみろ
皆が理性を持たなけりゃ
まるでこの世は崩壊寸前
ノストラダムスも真っ青だ
警察官も弁護士も誰もがお手上げ
だから神様がお与えになった
人には考える頭と感情を持つ心
それを使いこなせずに
思いつくまま欲求を満たそうなんて
それじゃあ人として落第だ
分かるか小僧
世の中いいこと悪いこと
それを見極め生きていく
それが人としてやるべきこと
それが誰もが考える
当たり前のこと・・・”
B・J「神様なんているもんか!!」
ジム「いるさ。」
B・J「絶対にいない!!」
ジム「何故そう思う?」
B・J「・・・ホントにいるなら・・・なんで俺を独りぼっちにするんだ
!!なんで俺の父ちゃん母ちゃん、事故で死んじゃったん
だ!!神様なんて糞食らえだ!!嘘吐くんじゃねぇ!!」
ジム「そうか・・・おまえ・・・」
B・J「(ジムの言葉を遮るように。)可哀想なんかじゃないぜ!!
同情なんかするな!!俺は今の生活で満足してんだ!!」
ジム「可哀想なんて言ってないぜ。」
B・J「煩い!!誰が可哀想・・・え・・・?」
ジム「頑張ってるんだな・・・って褒めてやろうと思ったのに。早と
ちりだな。(笑う。)」
B・J「笑うな!!何が可笑しいんだ!!大人たちは皆一緒じゃ
ないか!!先ず、俺の格好を見て嫌な顔をするんだ。それ
から俺の身の上話しを聞いて、決まって言うんだ・・・俺をジ
ッと見ながら“まぁ可哀想に・・・”まっぴらゴメンだ、そんなの
!!余計なお世話だってんだ!!」
ジム「まぁまぁ、そうカリカリすんなって。大人って言うのは、心の
表現がおまえら子どもと違って、下手糞なんだよ。建前や
愛想抜きに中々話せないものなんだ。」
B・J「そんなの迷惑ってんだよ!!」
ジム「まぁ確かに・・・それは一理ある。だが全ての大人を10個
一盛のように思い込むのはどうかな・・・?人其々、顔が違
うように・・・」
B・J「考え方も違うってんだろ!?」
ジム「おっ・・・」
B・J「分かってら、そんなこと!!」
音楽流れ、B・J歌う。
“だけど大人の考え程
ありきたりでくだらないものはない
だから何でもお見通し
つまらない不必要な考え事さ
余計なお世話 時間の無駄だ
俺のことは放っといてくれ”
ジム、呼応するように歌う。
“それが駄目だな 大人には
くだらないと思われる台詞一つにも
意味がある
それが分からないなんて
おまえはまだまだ子どもだな
だから大人の言うことは
黙って聞いてりゃ間違いない
道をそれたら大変だ
誰か導く大人が必要”
ジム「そこでだ・・・ものは相談だが・・・おまえ、アルバイトする気
はないか?」
B・J「・・・アルバイト・・・?」
ジム「金が手に入れば、パンが堂々と食える。泥棒なんてする
ことないんだ。」
B・J「アルバイトなんてゴメンだね!!働くなんて俺の性に合わ
ねぇ!!」
ジム「性に合う合わないの問題じゃないぜ。人間誰しも働かな
きゃ食っていけないんだ。働いて清々しい汗でも流してみ
な。自ずと自分の進む道が見えてくるぜ。」
B・J「分からねぇよ、そんなこと!」
ジム「・・・ま・・・そうだな、今はまだ分からなくても、その内おま
えにも理解出来る時が来るんだよ。その時になって“しまっ
た”と思うより、今は半信半疑でも騙されたと思って、俺の
言うこと聞いときなって!きっとおまえにとって、よかったと
思える時がくる筈さ!」
B・J「嫌だ!!」
ジム「俺の知り合いに、独り暮らしの金持ちの婆さんがいるんだ
が・・・最近、今まで一緒に暮らしてた子ども一家が、仕事
の都合で遠くに引越しちまったんだ。」
B・J「何、勝手に喋ってんだ!!嫌だってんだろ!!」
B・J、下手へ行きかける。
ジム「(B・Jの襟首を掴む。)」
B・J「な・・・!何すんだよ!!離せ!!離せよ!!」
ジム「それで、その淋しさから、急に塞ぎ込むことが多くなって、
寝たきりで毎日過ごすようになってな・・・。だけどこのまま
じゃ、体によくないだろ?元々は元気ハツラツな婆さんだっ
たんだぜ。そこでだ!その婆さんが夏のバカンスの間、自
分の孫と同じ年頃の男の子を預かって、面倒みようと思い
ついたんだ。そうすれば家の中が賑やかになる。婆さんも
張り合いが出るってもんだ。できれば少々ワンパクでも、元
気な奴がいいと思っていたが・・・おまえなら願ったり叶った
りじゃないか!(笑う。)」
B・J「何勝手に・・・俺は行かないって・・・離せよ!!」
ジム「(B・Jを離す。)婆さん家へ行けば、教育は受けさせてもら
える。礼儀作法もバッチリだ!食事のマナーもお手の物。
バカンスが済んだ頃には、おまえは立派なおぼっちゃまだ
!!」
B・J「おぼっちゃま・・・馬鹿にすんな!!おぼっちゃまなんかに
なってたまるかよ!!」
B・J、下手へ走り去る。
ジム「あっ、ちょっと待てよ・・・!!せっかく上手い話しだと思っ
て言ってやったのに・・・。大人は皆同じ・・・か・・・」
暗転。
――――― 第 2 場 ――――― A
鐘の音が静かに聞こえる。
上手よりシスター登場。続いてトランクを
提げた一人の少女(ネリー。)、嬉しそうに
登場。
シスター「さぁネリー、もう用意は整っていますね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「もう直ぐ、トマスご夫妻がお見えになるわ。そうすれば
いよいよお別れですからね。いい子で新しいご両親の
言う事をよく聞いて、頑張るんですよ。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「忘れ物はないですね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「院長先生の教えを忘れないように・・・」
ネリー「はい、先生!」
シスター「(下手方を見て。)列車が遅れているのかしら・・・。少
し外の様子を見てきますから、あなたはここで待って
いなさい。」
シスター、下手へ去る。
入れ代わるように上手よりB・J登場。
ネリー「はい、せん・・・(B・Jに気付き。)あら、B・J・・・今お帰り
?」
B・J「・・・ネリー・・・」
B・J、上手方へ行きかける。
ネリー「漸くお別れね!私は今日から新しい生活が始まるの!!
やっとこのうらぶれた孤児院ともおさらばよ!この間見学
にいらしたトマスご夫妻が、大勢の子ども達の中から、是
非、金髪の巻き毛が愛らしい品の良さそうな私をうちの子
に・・・と仰って下さったのよ!!あなたは・・・そのなりじゃ
駄目よねぇ・・・。あなたみたいな薄汚れた品のない子は、
きっといくら待っても里親は見つかりっこないわね。それに
礼儀作法だって全然なってない。そんな風だと、ロクな大
人になれないわよ。まぁ、あなたはそれでもいいから、そう
しているのよね。余計なお世話だったわ。ごめんなさい。
いい子は自分の非は素直に認めるものなの。あなたとも
散々喧嘩したけれど・・・あなたの今までの様々な無礼を
私は許してあげるつもりよ。感謝してね。」
シスターの声「ネリー!!トマスご夫妻がお見えになったわよ!
早くいらっしゃい!!」
ネリー「はい、先生!!じゃあね、B・J!!」
ネリー、嬉しそうにスキップをしながら、
下手へ去る。
B・J「じゃあね、B・J!!何が“じゃあね、B・J”だ!!馬鹿野郎
・・・誰が許してくれと言ったんだ!!こっちはおまえのこと
を、許してなんかやるもんか!!」
――――― 第 2 場 ――――― B
音楽流れる。
B・J、上手より舞台下、歌いながら下手方へ。
“品がない
だからどうしたってんだ
そんなもの生きていくのに必要ないだろ
礼儀作法?
なんなんだそれは
そんなの知らなきゃ困るのか
人の道に逸れるのか
俺は俺の好きなように生きるんだ
誰に縛られるのもまっぴら御免
下品で乱暴者でも
別に俺は困らない
自分は自分・・・なんだから・・・”
B・J、下手より舞台上へ。
――――― “Thank you!B・J”2へつづく ―――――
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