2013年7月5日金曜日

“Thank you!B・J” ―全8場― 5

             ミセスアダムス、ゆっくり立ち上がる。
         (俄に人々騒つく。)

  ルーシー「奥様!」
  ミセスアダムス「大丈夫よ。」

         ミセスアダムス、ゆっくり階段を下りて来る。

  ミセスアダムス「数ヶ月前の私は、起き上がることもままならな
            かったのが、ご覧の通り・・・今ではこのように、
            しっかりと自分の足で大地を踏み締め、歩くこと
            が出来る程に回復致しましたの。さて・・・今日
            はもう一つ、皆様にご報告をしなければいけな
            いことがあります。B・J、こっちへいらっしゃい。」
  B・J「・・・え?」

         B・J、ゆっくりミセスアダムスの側へ。

  ジム「報告とは・・・?」
  ミセスアダムス「ええ・・・少し前よりずっと考えていたことですけ
            れども・・・さっきから申し上げている通り、数ヶ月
            前までの私は、息子夫婦が仕事の関係で遠くへ
            行ってしまって、それまでの賑やかだった生活が
            一変し、毎日が張り合いなく、とても淋しい思い
            をしておりましたの。それがこのB・Jを我が家で
            預かることになり、そのことによって生活に張り
            を取り戻した私は、それまでとは打って変わって
            生き生きと過ごすことが出来るようになりました。
            それは全て、このB・Jのお陰なのです・・・。あり
            がとう、B・J・・・」
  B・J「・・・そんな・・・」
  ミセスアダムス「そこで私は考えたのです。グレイ先生とのお約
            束では、夏のバカンスの間だけと言うことでした
            けれど・・・このB・Jを正式に私の養子に迎えよ
            うと思いますの。」
  ジム「本当ですか?ミセスアダムス。」
  バート「B・Jお坊ちゃん!」
  ミセスアダムス「ええ、本当ですとも。どう?B・J・・・」
  B・J「婆ちゃん・・・」
  ミセスアダムス「我が家の跡取り息子として・・・来てくれるかし
            ら・・・?」
  B・J「跡取り・・・息子・・・俺・・・俺、無理だ・・・」
  ミセスアダムス「B・J?」
  B・J「俺・・・そんな・・・跡取り息子だなんて・・・無理だ・・・無理
     だ!!」

         B・J、上手へ走り去る。(人々騒めく。)

  ジム「B・J!!」

         ミセスアダムス、ジム、マーク残して
         カーテン閉まる。

  ミセスアダムス「(心配そうに、上手を見る。)どうしたのかしら、
            B・J・・・」
  ジム「僕が見て来ます!(上手方へ行きかける。)」
  マーク「待って下さい、先生!!」
  ジム「(立ち止まり、マークを見る。)どうしたんだい、マーク?」
  マーク「先生はお気付きじゃあないかも知れませんが・・・」
  ジム「・・・気付く・・・?一体何を・・・」
  マーク「・・・B・Jは・・・彼女は自分を偽り続けることに、限界を感
      じたのだと思います・・・。」
  ジム「偽る・・・?偽るって・・・え・・・?今・・・彼女・・・って・・・」
  マーク「・・・はい・・・。B・Jは・・・正真正銘、女の子ですよ。」
  ジム「女・・・の子・・・?」
  ミセスアダムス「・・・まぁ・・・」
  ジム「女の子って・・・」
  マーク「そうです。」
  ジム「でも・・・!?」
  マーク「きっと何か理由があって、本当のことを言い出せずに今
      日まできたのでしょう。」
  ジム「まさか・・・でも・・・どう見ても・・・」
  ミセスアダムス「私、そんなことは知らずに跡取り息子だなんて
            ・・・酷いことを・・・」
  マーク「お祖母様、そのことに関してお祖母様がそこまで気に病
      むことはありませんよ。このグレイ先生ですら見抜けなか
      ったんですからね。男だからと偽って連れて来られたB・J
      を、少年だと信じても・・・」
  ジム「でも、どうしてそれを・・・?」
  マーク「彼女と一度、握手した手ですよ。あれは紛れもない女の
      子の手でしたから。」
  ジム「手・・・」
  マーク「けど可笑しいなぁ・・・先生ともあろうお方が、人の性別を
      見間違えるなんて・・・」
  ジム「俺だって万能じゃないんだ。見間違いくらいするさ・・・。け
     ど・・・あのB・Jが少女だったなんて・・・。俺はてっきり少年
     だと・・・。あの公園で見かけた状況も状況だったが、あんな
     格好で泥だらけの姿を見たら・・・(首を傾げ、フッと笑う。)
     やれやれ・・・これはまんまと引っかかったな・・・」
  ミセスアダムス「先生、私もですよ・・・」
  マーク「当のB・Jには引っかけるつもりなんてなかったでしょう
      けどね。」
  ジム「そうだな・・・俺のせいだな・・・きっと・・・」
  ミセスアダムス「いいえ、気付いてあげられなかった私こそ、い
            けなかったのです・・・。」
  ジム「さて・・・ミセスアダムス・・・、僕の勘違いから起こったこと
     とは言え・・・“跡取り息子”になりえないB・Jのことですが
     ・・・」
  ミセスアダムス「あら・・・そんなことは決まってるじゃあありませ
            んか。跡取り息子でも、跡取り娘でも構いません
            。私はB・J本人が大好きになりましたのよ。性
            別なんて関係ありませんわ、先生。」
  ジム「ミセスアダムス・・・では・・・」
  ミセスアダムス「勿論、B・Jは私の養女として迎え入れましょう
            。」
  マーク「お祖母様・・・」

         その時、上手よりバート、慌てた様子で登場。

  バート「奥様!B・Jお坊ちゃんがお屋敷の外へ!!荷物をまと
      めて出て行っておしまいに!!」
  ミセスアダムス「まぁ、大変だわ!早く連れ戻しに行きましょう!
            」
  ジム「ミセスアダムス!一つ、B・Jの行きそうな場所に心当たり
     が・・・」
  ミセスアダムス「本当ですの?先生。」
  ジム「はい。」
  ミセスアダムス「それでは案内して下さいな。」
  ジム「分かりました。」
  ミセスアダムス「それとバート、B・Jはお坊ちゃんではありませ
            んよ。」
  バート「・・・は?」
  ミセスアダムス「さぁ、参りましょう!」

         ミセスアダムス、上手へ去る。首を傾げ
         ながらバート、続いて去る。

  ジム「マーク、おまえはいい医者になるよ。俺なんかよりずっと
     ・・・」
  マーク「はい!必ずいつか、先生を追い越すことこそ、僕が目指
      し行き着く場所だと信じていますから・・・」

         ジム、マーク、上手へ去る。

    ――――― 第 8 場 ―――――

         音楽流れ、カーテン開く。と、1場の公園。
         上手より鞄を提げたB・J登場。歌う。

         “僕は誰だろ・・・
         どこの誰だろ・・・
         偽りの仮面で覆われた
         僕も知らない僕だから・・・
         見えかけた足元の道も
         今は霧で霞んで見える
         もう戻れない・・・
         やっと見つけた温かな場所
         今日はいつだろ
         明日は来るのか
         それさえも分からない
         不確かな僕だから・・・
         やっと踏み出した1歩が
         今は不安で揺らぐのが分かる
         もう戻らない・・・
         僕の居場所はここじゃない・・・”

         B・J、中央ベンチへ腰を下ろして、
         手に持ったハンカチで顔を覆い隠すように
         静かに泣く。

  B・J「畜生・・・畜生・・・」

         そこへ下手より一人の老人登場。
         B・Jを認め、慌てた様子で近寄る。
  老婆「いたいた!!やっと戻って来ておくれだね、先生!!あた
     しゃ、先生に持病の腰痛を早く診て欲しくて、この公園診療
     所が開くのを、今か今かとずっと待ってたんだよ!!」
  B・J「・・・え・・・?(顔を上げる。)」
  老婆「・・・あっれ・・・子どもじゃねぇか・・・先生は・・・?先生はど
     うしたんだい?坊主・・・」
  B・J「先生・・・?」
  老婆「ああ。ここは先生の診療所なんだよ。単なる休憩の為の
     ベンチとは訳が違うんだ。さ、どいたどいた!ここは先生の
     ベンチなんだから!(B・Jを無理矢理退かすように。)」
  B・J「いいじゃんか、ケチ!!」
  老婆「いかんいかん!!(椅子の上を、持っていたハンカチで、
     払うように。)この椅子は先生のもんだ。」
  B・J「なんでぇ・・・あ・・・先生って・・・兄ちゃんのことだ・・・」
  老婆「先生は我々貧しいもんの味方の、素晴らしい先生なんじ
     ゃ・・・。せめて先生の座る場所くらい・・・(鞄の中から、毛
     糸の座布団を取り出し、ベンチへ置く。)よし、ピッタリじゃ。
     どうじゃ、坊主!わしの腕もまだまだ捨てたもんじゃなかろ
     う。(笑う。)」
  B・J「(座布団を見て。)へぇ・・・この座布団、婆ちゃんの手作り
     かい?」
  老婆「ああ、そうじゃよ。わしら貧乏人は先生に何もお礼が出来
     んからの・・・せめて先生のお尻くらい温めさせてもらおうと
     思ってな・・・」
  B・J「ふうん・・・」
  老婆「それにしても先生は一体どこへ行ってしまわれたんじゃろ
     うか・・・。ここ数日、ずっとこの診療所は閉まったまんま・・・
     こんな何日もいないなんて、ここが始まって以来じゃ・・・。
     まさかどこか違う場所へ移転などしたんじゃああるまいな
     ・・・」
  B・J「・・・大丈夫だよ、婆ちゃん・・・」
  老婆「え・・・?」
  B・J「兄ちゃん・・・あ・・・ジム先生は直ぐに戻って来るさ・・・」
  老婆「本当か?」
  B・J「(頷く。)今は大学病院の手伝いで忙しくしてるけど、ここの
     医者を辞めるつもりはない・・・そう言ってたぜ。」
  老婆「そりゃあ・・・よかったことじゃ。しかし坊主、どこでそんな
     話しを・・・?」
  B・J「・・・うん・・・ちょっと・・・ね・・・」
  老婆「そうか・・・それじゃあまあ理由は聞かんでおくとしよう・・・
     。ありがとうよ、朗報を聞かせてくれて・・・。先生の帰りを待
     ち侘びておる、他の年寄り達にも知らせてやるとしようかの
     ・・・。」

         老婆、下手へ行きかける。

  老婆「そうじゃ坊主、先生に会ったらよろしく伝えておくれ。皆が
     先生の帰りを、首を長くして待っておるとな・・・。」
  B・J「うん・・・言っとくよ・・・!・・・もし・・・また会えたら・・・きっと
     ・・・」
  
         老婆、下手へ去る。
         B・J、鞄を提げ、上手方へ行きかける。
         と、上手よりジム登場。

  ジム「やっぱりここか・・・」
  B・J「・・・兄ちゃん・・・(慌てて下手方へ向き直り、行こうとする。
     )」
  ジム「どこ行くんだ?」
  B・J「(立ち止まる。)い・・・いいだろ・・・どこだって・・・」
  ジム「また孤児院へ戻るつもりか?」
  B・J「だって・・・だって俺・・・だって・・・!!」
  ジム「(微笑んで、B・Jの頭に手を乗せる。)ごめんよ・・・」
  B・J「・・・え・・・?」
  ジム「柔らかい髪だ・・・」
  B・J「・・・兄ちゃん・・・」
  ジム「もっとよくおまえのことを見ていれば、気付いた筈だな・・・
     本当は女の子だったと言うことに・・・」
  B・J「・・・俺・・・」
  ジム「おまえもおまえだぞ!そんな風に女の子が俺なんて言う
     もんだから・・・てっきり・・・あの時は格好も泥だらけだった
     し・・・。それにしても・・・マークに言われるまで、気付けなか
     った俺は、医者落第だな。(笑う。)」
  B・J「・・・マークが・・・?」
  ジム「ああ。」
  B・J「俺・・・何も兄ちゃんや婆ちゃんのことを、騙そうと思って男
     のフリしてたんじゃないんだ・・・。俺・・・俺・・・どうしても言
     いだせなくて・・・」
  ジム「分かってるよ・・・。俺がいけなかったんだ・・・。」
         











  ――――― “Thank you!B・J”
                  エンディングへつづく ――――― 


























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