2013年2月1日金曜日

“アル・ロー” ―全16場― 6



  ダンドラ「まぁ、そう驚くな。どうでもいいじゃないか、そんなこと
       。この一座の中にいるのか?写真はどうした?」
  アル「(溜め息を吐いて。)そこまで知られてちゃ、仕方ないな。
     ガキの頃・・・俺達に写真を教えてくれた人を、覚えている
     か?」
  ダンドラ「ああ・・・あの人がいなけりゃ、今の俺達はいなかった
       ・・・」
  アル「おまえも知ってる通り、カメラを捨てて踊り子と一緒になっ
     た人だ・・・」
  ダンドラ「写真を教えてもらってた時は、あの人が有名なカメラ
       マンだなんて思いもしなかったけどな。あの時の騒ぎ
       は今でも覚えている。(不思議そうに。)それと何の関
       係があるのさ・・・」
  アル「その人の娘だ・・・」
  ダンドラ「え?」
  アル「あの人と一緒になった踊り子との間の・・・」
  ダンドラ「本当に・・・?」
  アル「・・・俺が・・・心奪われたのは・・・」
  ダンドラ「アル・・・」
  アル「初めは林の中で楽しそうに踊っている彼女に偶然出会
     ったんだ。そして・・・ただ訳もなく惹かれた・・・その踊りの
     素晴らしさに心を奪われたんだ。後でヨーロッパ中を騒が
     せた名踊り子の娘だと分かって・・・“成程”と納得したよ
     ・・・。それで父親が誰なのかが分かった・・・。この偶然に
     俺は感動してしまったんだ。もう俺は彼女を手放したくな
     い・・・そう思ったよ・・・」
  ダンドラ「(困惑したように。)おまえ・・・愛しているのか・・・?」
  アル「・・・ああ・・・」
  ダンドラ「写真はどうするんだ!!おまえまで、あの人のように
       カメラを捨てるのか!?」
  アル「捨ててもいい・・・と思ったのは事実だ・・・」
  ダンドラ「(心配そうに。)アル・・・俺は反対だ!!おまえが写真
       を捨てるなんて・・・俺には我慢できない!!」
  アル「落ち着けよ!!思ったと言っただけだ。やめるとは言って
     ないぜ。あの人とは違う・・・。俺は彼女を撮り続けたいん
     だ。」
  ダンドラ「(安心したように溜め息を吐く。)なんだ・・・安心したよ
       ・・・。それで・・・?いつまでここにいるつもりだ?撮り続
       けると言ったところで、おまえの生活の場はここではな
       い筈だ。彼女も一緒に連れて行けるのか?」
  アル「え・・・?」
  ダンドラ「おまえ・・・今日が何月何日か分かっているか?個展
       の開催日まで後、どれだけあると思ってるんだ。」
  アル「あ・・・」
  ダンドラ「おまえが決めた展覧会だろ?」
  アル「俺が決めた訳じゃ・・・あの糞親父が・・・」
  ダンドラ「だけど、それにおまえも乗ったんだろ?なら、ちゃんと
       責任は果たせ。それに市長から園遊会の誘いがある
       んだ。」
  アル「(溜め息を吐いて。)・・・そうか・・・いつだ?」
  ダンドラ「今月の終わりさ。」
  アル「おまえも・・・?」
  ダンドラ「ああ・・・声は掛かっているが・・・俺はそんなものに興
       味はないんだ。だが、おまえはそう言う訳にいかないだ
       ろ?」
  アル「糞う・・・誰の差金か一目瞭然だ。」
  ダンドラ「まぁ、そう言うな。有名人故・・・ってことだ。(アルの肩
       に手を掛ける。)兎に角、オフィスに連絡くらい入れて
       やれよ。おまえから電話の1本もなくて、スポンサー親
       父にはせっつかれるわで、レイモン達にはいい迷惑だ
       ぜ。」
  アル「ああ・・・分かってるよ・・・。それで?おまえはいつまでい
     るんだ?」
  ダンドラ「レイモン達におまえを連れて帰ると約束したんだ。お
       まえが帰るまで、一緒にいるつもりだ。」
  アル「そうか・・・。では一先ずこの村唯一の宿屋に戻るとする
     か。」
  ダンドラ「それは有り難い。こんな何もない村に、宿屋があると
       はね。ずっと歩き続けで、足が棒みたいなんだ。(笑う
       。)」

         2人、足早に出る。暗転。

      ――――― 第 12 場 ―――――

         カーテン前。
         下手よりレイモン、フーケ、ロベール、アナベル
         登場。

  ロベール「よかったですね!先生から連絡が入って!」
  レイモン「ああ、一安心だよ、本当。」
  フーケ「で、先生はいつ戻って来るんだ?」
  レイモン「来週には帰って来るみたいだ。全く今まで何処ほっつ
       き歩いてたんだか・・・。」
  アナベル「あら、いつものことじゃない。」
  レイモン「まぁ・・・。だけどこれでオットーさんにも連絡が出来る
       よ。」
  フーケ「よかったじゃないか。」
  レイモン「(思い出したように。)あ、ロベール!先生が部屋を
       用意しとけってさ。」
  ロベール「へや・・・ですか・・・?」
  レイモン「ああ。」
  フーケ「誰か連れて来るのかな?」
  レイモン「さぁ・・・」
  ロベール「ひょっとしてあれじゃないですか?ダンドラさんが言
        ってた、先生が夢中になってるとかって娘・・・」
  アナベル「成程・・・有り得るわね・・・。」
  レイモン「誰と一緒でも、俺は先生さえ戻って来てくれれば、そ
       れでいいよ。」
  フーケ「そうそう!」

         4人、話しながら上手へ出て行く。

      ――――― 第 13 場 ―――――

         カーテン開く。と、芝居一座の小屋。
         上手よりミシェル、座員達と談笑
         しながら出る。
 
 

  レニエ「じゃあ、あんたもカメラマンなんだ。」
  ミシェル「いやぁ、俺はまだカメラマンと言ったって卵さ。専ら今
       は、先生の助手・・・だけど数年後には個展の一つや
       二つ開いて・・・」
  ルイーゼ「じゃあ、あんたもここへは写真を撮りに来たの?」
  ミシェル「違うよ。俺達はアルさんを連れ戻しに来たんだ。」
  ガロ「連れ戻す・・・?」
  ミシェル「ああ。あの人も、うちの先生と一緒で、結構有名な
       カメラマンなんだぜ。それでもう直ぐ、個展やら市長
       主催の会があるから、それに出席する為に帰らなき
       ゃいけないんだ。長いこと帰ってこないから、アルさ
       んの部下から連れ帰ってくれって頼まれたんだ・・・」
  エレーナ「市長・・・?」
  
  エヴァ「部下・・・?」
  ミシェル「ああ、アルさんの会社の・・・」
  エレーナ「アルの会社・・・?」
  マックス「あの人・・・ひょっとして偉い人・・・?」
  ミシェル「まぁ・・・そうだな・・・うちの先生と同じ位かな。本来な
       らこんなところでのんびり写真撮ってる暇なんかない
       人だろうな。」
  ルイーゼ「じゃあ・・・いくらリリが想いを寄せたって無理じゃな
        い・・・」
  ミシェル「リリ?ああ、アルさんが今、夢中になってるって言う
       ダンサー娘かい?」
  エヴァ「アル・・・帰っちゃうんでしょう・・・?」
  ミシェル「アルさんがどう言う考えか知らないけど、アルさんの
       居場所はここじゃないからな。」
  
       

         下手よりリリ、聞いていたように出る。
         
  
  

  ガロ「リリ・・・」

         座員達、ミシェル、リリを認める。

  ミシェル「君がリリ・・・?」
  リリ「今の話し・・・本当ですか・・・?」
  ミシェル「え・・・?ああ・・・」
  ガロ「・・・仕方ないよ・・・アルさんとは住む世界が違い過ぎる
     んだ・・・」
  エレーナ「いつかは別れなきゃいけないのよ・・・」
  エヴァ「そう言えば、ロバンさんがそろそろ次の場所へ向かう
      ・・・って・・・」
  レニエ「本当か?」
  サミー「この村ともおさらばか。」

         座員達、ミシェル下手へ出て行く。
         (ガロ、一寸残って。)

  ガロ「リリ・・・元気だせよ。」

       
         ガロ、リリを気にしながら下手へ出て行く。
         マハル、下手より出、リリの様子を見詰める。

  リリ「あなたに会えて・・・あなたを愛して・・・私の世界が変わっ
     たと・・・アル・・・」

         リリ、上手へ走り去る。
         マハル、ゆっくり舞台中央へ。
         (音楽、静かに流れる。)
         アル、下手より出る。

  アル「マハル!リリを見なかったかい?」
  マハル「(振り返りアルを認める。)・・・部屋じゃない?」
  アル「ありがとう。(思い出したように。)あ・・・もう足は大丈夫
     なのか?」
  マハル「ええ・・・殆ど平気・・・」
  アル「(嬉しそうに。)それはよかった。じゃあ!(手を上げて走
     り出ようとする。)」
  マハル「アル!!」
  アル「(振り返り。)何だい?」
  マハル「・・・リリのこと・・・好き・・・?」
  アル「・・・ああ・・・」
  マハル「(溜め息を吐いて。)そう・・・よかった・・・あの子・・・幸
      せになるわね?」
  アル「マハル・・・幸せにするさ・・・」
  マハル「全く・・・あの子って馬鹿だから・・・(涙声になる。)皆か
      ら食み出し者になってる私のことにも一生懸命で・・・参
      っちゃう・・・。あなたの相手が他の女じゃ許さないけど・・・
      リリなら・・・」
  アル「・・・マハル・・・」
  マハル「早く行ってあげて・・・きっと今頃沈んでると思うわ・・・」
  アル「え・・・?」
  マハル「あなたの友達と一緒に来た人・・・色々あなたのこと言っ
      てたから・・・。」
  アル「ミシェル・・・分かった!直ぐ行ってみるよ!」

         アル、走り出て行く。
         マハル、その方を見詰めている。

  マハル「・・・さよなら・・・」

         音楽でフェード・アウト。

      ――――― 第 14 場 ―――――

         絵紗前。リリの部屋。
         リリ、沈んだ面持ちでソファーに座って
         いると、ティボー、お茶を持って入って
         来る。

  ティボー「(リリの様子に気付いて。)どうされました?お嬢様。
       また何かお辛いことでも・・・?」
  リリ「ティボー・・・どうして私は・・・ただの踊り子なのかしら・・・」
  ティボー「とんでもない!ただの踊り子などではございませんぞ
       。リリお嬢様はマルティーヌ様の血を継いでおいでなの
       ですから。」
  リリ「そうね・・・ありがとう・・・少し一人にして頂戴・・・」
  ティボー「そんな暗いお顔をなさっていると、アル殿にご心配を
       おかけしますぞ。リリお嬢様は、笑顔が一番お似合い
       なのですから・・・。」

         ティボー、出て行く。

  リリ「・・・母さん・・・(胸元のネックレスをそっと握る。)」









      ――――― “アル・ロー”7へつづく ―――――






    



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