下手より、よろめくようにアグネス出る。
上手より村人たち、談笑しながら出る。
アグネス「あの男は必ず災いを起こす・・・あの男の背後に死神が
見える・・・」
ウーゴ「(笑いながら。)婆さん、まだそんなことを言ってるのかい
?」
アグネス「わしには見えるんじゃ。あの男がこの島の人間を、死に
追いやるのが・・・」
ヴィンタ「ただの兵隊さんだぜ!そりゃ仕事柄、多少の血腥さは
漂ってるかも知れないけど・・・。」
アンジェラ「ちゃんと治療代だって置いていってくれたものね。」
ボルソ「ありゃ大金だぜ!」
アンジェラ「あんた中、見たの?」
ボルソ「見なくても袋の大きさ見りゃ分かるさ!!」
アグネス「必ずよくないことが起こるんじゃ・・・」
村人たち口々にアグネスを馬鹿にしながら
笑って出て行く。
ジュリオ一人、村人について行きかけるが
通り過ぎたアグネスを気にして振り返る。
ジュリオ「よぉ、婆さん・・・」
アグネス「(振り返って。)なんじゃ・・・」
ジュリオ「あんた・・・惚けてないよな?」
アグネス「馬鹿言うな!わしは惚けてなんぞおらんわ!!」
ジュリオ「・・・この島の人間を死に追いやるって・・・一体誰のこと
なんだ・・・?」
アグネス「そこまでは、わしには分からん・・・。ただ、あの男の背
中には、黒い羽根が見えるんじゃ・・・。あいつは死神の
使いに違いねぇ・・・。きっと誰かを連れて行ってしまうん
じゃ・・・。気をつけた方がええ・・・」
ジュリオ「死神・・・」
アグネス「(独り言のように。)恐ろしいことになりゃせんといいがな
・・・。皆わしの忠告を聞かん、愚か者じゃて・・・」
アグネス出て行く。ジュリオ、呆然と
その方を見詰める。
下手よりヴィットリオ出る。
ヴィットリオ「おい、ジュリオじゃないか。」
ジュリオ「(振り返って。)ああ、ヴィットリオ・・・」
ヴィットリオ「さっき、アリアナが岩山の方へ行くのを見かけたぜ。
今日は一緒に行ってやらなかったのか?」
ジュリオ「なんだって!?」
ヴィットリオ「あんな危ないところ、女一人じゃ大変だぜ。」
ジュリオ「馬鹿野郎、あいつ・・・。それでいつ行った!?」
ヴィットリオ「ああ、ほんの少し前さ。籠持ってたから、薬草摘みに
違いないぜ。」
ジュリオ「ありがとう!!」
ジュリオ、手を上げて走って行く。
暗転。
――――― 第 8 場 ―――――
カーテン開く。と、絵紗前。アリアナの家。
フランドル、ベッドの上で体を起こして、
本を読んでいる。その時、ノックしてアリアナ
が入って来る。
アリアナ「具合どうですか?」
フランドル「(読んでいた本を膝の上に置いて、嬉しそうにマジマジ
とアリアナを眺める。)どうしたんだい、その服。泥遊び
でもしてきたか?」
アリアナ「(恥ずかしそうに、慌てて服を払う。)ごめんなさい!こん
なみっともない格好で・・・」
フランドル「どこか行って来たのかい?」
アリアナ「ええ・・・ちょっと山まで・・・」
フランドル「山か・・・歩けるようになったら案内してくれるかい?」
アリアナ「(困ったように。)駄目よ・・・切り立った岩ばかりで、とて
も危ないもの・・・。怪我が完全に治っても、慣れた人で
ないと無理です。」
フランドル「(不思議そうに。)そんな危ない岩山に、何をしに行っ
て来たんだい?」
アリアナ「それは・・・」
その時ビアンカ、盆にお椀を乗せ、持って
入って来る。
ビアンカ「アリアナ、薬草湯ができたよ。」
アリアナ「ありがとう、母さん・・・。」
ビアンカ、それをアリアナに渡して
出て行く。
フランドル「全く・・・体は言うことを利かないが、頭は元気なもので
余計なことを色々考えてしまう・・・。(脇のテーブルの上
の花を見て。)この花はおまえが・・・?」
アリアナ「はい・・・庭に咲いていたから・・・」
フランドル「いい香りだ・・・。俺は今まで花を愛でる余裕なんか、こ
れっぽっちもなかったし、そうしようとも思わなかった・・・。
だが、こんな状態になって、初めて本当の花を見た気が
する・・・。ありがとう・・・。」
アリアナ「いいえ・・・少しでも、兵隊さんの気持ちが落ち着けばいい
と思って・・・」
フランドル「(声を上げて笑う。)そうだな。俺は確かに苛々ばかりし
て、怒鳴りまくっていたからな・・・。それから、フランドル
でいい。ここにいる間は、兵隊なんかじゃない。ただの
怪我人だから・・・。おまえの名前は・・・?」
アリアナ「アリアナ・・・」
フランドル「アリアナか・・・アドリア海に因んで付けられたのか?」
アリアナ「(頷く。)昔・・・父は地中海を渡り歩く商人だったんです・・・
その時にいつも見ていたアドリア海の美しさに魅せられて、
私もそんな風に美しくなればいいと・・・。可笑しいでしょう。」
フランドル「いや・・・父上の願い通りに、おまえは育ったと言う訳だ
。」
アリアナ「え・・・?」
フランドル「それで父上は・・・?」
アリアナ「・・・アドリア海を航海中に、海賊船に襲われて・・・」
フランドル「・・・そうか・・・」
アリアナ「でも、あんなに好きだったアドリア海で眠ることが出来て、
父は喜んでると思います・・・。さぁ、お薬を飲んで下さい。」
アリアナ、フランドルに椀を差し出す。
フランドル「いやな臭いだ・・・」
アリアナ「飲まないと駄目!前に占いのお婆さんに教えてもらった、
とても怪我によく効く薬草なんです!岩山にしかない・・・
あ・・・(しまったと言う風に。)」
フランドル「この為に・・・行ったのか・・・」
アリアナ「(首を振って。)ついでだったから・・・」
フランドル、アリアナの手を掴んで、
暫く手を見詰める。
アリアナ、驚いて手を引っ込める。
フランドル「おまえが傷だらけになって、取って来てくれた薬草だ。
有り難く頂くとしよう・・・」
フランドル、薬を飲む。
アリアナ「じゃあ大人しく寝てて下さいね・・・(出て行こうとする。)」
フランドル「(思わず。)アリアナ!」
アリアナ「(振り返って。)はい・・・?」
フランドル「もう少しここにいてくれないか・・・」
アリアナ「え・・・?」
フランドル「あ・・・もう少し・・・おまえと話しがしていたい・・・」
アリアナ「でも・・・お体を休めないと・・・」
フランドル「大丈夫・・・さぁ、こっちへ来てくれ・・・」
アリアナ、フランドルの傍らへ来て、
椅子に腰を下ろす。
フランドル「君はずっと、この島にいるのか・・・?」
アリアナ「はい・・・この島で生まれてから一度も出たことはありま
せん・・・」
フランドル「では医学は誰から?」
アリアナ「母に・・・母は外で何年も勉強してきた人ですから。そこ
で患者だった父と知り合って結婚したんです。後、お薬の
ことは、さっきの薬草湯も教えてもらった村の占いのお婆
さんに習いました・・・」
フランドル「そうか・・・外に出たいと思ったことは?」
アリアナ「(首を振る。)母さんが外の世界は、諍いの絶えない殺伐
としたところだって・・・」
フランドル「それは偏見と言うものだ。」
アリアナ「でも・・・じゃあどうしてフランドルはこんな大怪我を・・・?
あ・・・ごめんなさい・・・こんなこと聞くつもりじゃなかったの
に・・・」
フランドル「構わないさ。確かに争いが絶えないのは事実だ。現に
俺も敵の銃弾に倒れたんだから・・・。だがそれは、素晴
らしい世の中を作り上げていく為に仕方のないことなん
だ。」
アリアナ「・・・自分たちにとっての・・・でしょう・・・?相手のことは考
えたりしたことのない人が、沢山いるのね・・・。」
フランドル「アリアナ・・・」
アリアナ「だって平和な毎日は、みんな誰もが願うことではないの?
きっと・・・あなたにも、あなたがこんな大怪我をして、心配
している人が沢山いると思うわ・・・」
フランドル「残念だが、今のところ俺は結婚もしていないし、天涯孤
独の身だ。俺のことを心配している奴がいるとすれば・・・
俺に自分の夢を全て賭けてヨーロッパ制覇を狙っている
、俺の仕えている皇帝くらいのもんさ・・・」
アリアナ「フランドル・・・ごめんなさい・・・」
フランドル「(アリアナの素直な態度に、驚きの入り混じった微笑み
を返す。)おまえの夢はなんだ・・・?」
アリアナ「私・・・夢なんてないです・・・」
フランドル「そんなことはないだろ?たとえば立派な医者になりた
いとか・・・」
アリアナ「いいえ・・・あ・・・私、皆が幸せになることが夢です。(微
笑む。)あなたも含めて・・・世の中の人が全て平和で穏や
かに毎日を過ごすことができるような世界にすること・・・
それが夢・・・女の私には無理ね・・・(嬉しそうに。)でも、
あなたにはできるわ!」
フランドル「(驚いたように。)アリアナ・・・俺は今まで一度もそんな
風に考えたことがなかった・・・。なんだかおまえに、一番
大切なことを教えられたような気がするよ・・・。ありがと
う・・・」
アリアナ「そんな・・・」
――――― “フランドル”4へつづく ―――――
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