カイト「犬コロに名前付けてんじゃないんだぜ・・・。(ブツブツ
と。)」
ローズマリー「空の色よ・・・!!ブルー・・・スカイブルー!」
ブルー「・・・ブルー・・・。」
ブルー、突然座り込む。
カイト「どうしたんだよ、兄ちゃん!!」
ローズマリー「ブルー!?」
ブルー「・・・何だか、力が入らなくて・・・。(お腹を押さえて。)
この辺がポッカリ空洞のようだ・・・。」
カイト、ローズマリー顔を見合わせて笑う。
カイト「ばっかだなぁ!!腹減ってんだろ、兄ちゃん!?ほら!
!(手に持っていたパンを、ブルーに差し出す。)食いな
よ!!ここのパン、美味いんだぜ!!」
ブルー「(パンを見詰める。)・・・これは・・・?」
カイト「だからパンだって!・・・やだなぁ、いくら記憶がないから
って、食いもんまで忘れちまったのかよ!?(笑う。)
見詰めてたって、腹一杯にならないぜ!口に放り込まな
くっちゃ!!こうやって!!(籠からパンを取って、かじる
。)」
ローズマリー「行儀悪いわよ!!」
ブルー「(カイトの様子を見て、パンを千切って一口放り込む。
)」
カイト「な?美味いだろ?」
ブルー「・・・柔らかい・・・。」
ローズマリー「焼きたてだからよ!あなたって変わった人ね!
(笑う。)」
音楽流れ、ローズマリー歌う。
“パンが柔らかいのは当たり前
いい香りに包まれて
パンさえあれば心は幸せ
朝の目覚めは優しいママのキスと
ふっくらパンの香りから
ミルクを添えれば その日は幸せ
パンの不思議が心を和ませる
パンの暖かさは心の暖かさ
だからパンを食べましょう!”
ローズマリー、笑う。
ローズマリー「じゃあ、そろそろ私帰るわね。おやすみ、カイト!
また明日!ブルー・・・おやすみなさい!」
カイト「おやすみ、姉ちゃん!」
ブルー、会釈する。ローズマリー、手を上げて
下手奥へ去る。
ローズマリーが出て行くのを見計らってカイト、
欠伸しながら背を伸ばす。
カイト「さあて・・・俺、もう寝るよ。明日も朝早いから・・・。それか
ら兄ちゃんも、食う為に働かねぇとな!明日、仕事紹介
してやるから、早く寝なよ!」
ブルー「・・・ねる・・・?」
カイト「(ソファーの後ろから毛布を取って、ブルーに渡す。)これ
を頭からひっ被って、目を閉じて数かぞえればいいんだ
よ!数くらいかぞえられっだろ?じゃあ、おやすみ!」
カイト、上手へ去る。
ブルー、暫くその方を見ているが、ゆっくりソファーへ
腰を下ろす。
ブルー「(一つ一つ、思い出すように。)・・・パン・・・働く・・・ブル
-・・・記憶・・・喪失・・・寝る・・・(毛布を見て。)これを
頭から・・・。(毛布を広げて、座ったまま頭からすっぽり
被る。)・・・1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・」
ブルーの数をかぞえる声が遠ざかるのと並行して
フェード・アウト。
――――― 第 2 場 ――――― B
清々しい音楽に合わせて、小鳥の囀りが聞こえて
くる。段々大きく。
フェード・インするのと並行して、ブルーの数をかぞ
える声が聞こえてくる。
ブルー「(前景と同じ格好のまま。)1万8456・・・1万8457・・・
1万8458・・・」
そこへ上手より、元気よくカイト、手に服を持って
登場。
カイト「おはよう、兄ちゃん!!起きてっ・・・か・・・(ブルーの
様子に気付いて不思議そうに、恐々近寄る。)兄ちゃん
・・・兄ちゃん!!」
ブルー、毛布を取ってカイトを見る。
カイト「何やってんだよ、兄ちゃん・・・。ひょっとして、一晩中、
ずっと数かぞえてたのかよ・・・?」
ブルー「・・・君の言った通り・・・これが“ねる”ってことだろう・・・
?」
カイト「ばっかだなぁ!!それじゃあ寝たことにならないだろ?
それは“起きてる”ってんだ!兄ちゃん、眠くないのかよ
!?」
ブルー「(首を傾げる。)・・・それより・・・また“ハラがヘッタ”よう
な気がするんだが・・・。パンを食った筈なのに・・・。」
カイト「(溜め息を吐いて。)昨日食ったパンは夕食!今、腹減
ってんのは、朝だからだろ!全く・・・記憶喪失って、こん
なに何もかも忘れちまうもんなのかなぁ・・・。もし俺が
“記憶喪失”になったら、直ぐに飢え死にだな。(笑う。)
まぁ、いいや。朝メシは店で食わしてやるから、もうちょっ
と我慢しなよ。」
ブルー「・・・みせ・・・?」
カイト「俺の仕事先!ハンバーガーショップなんだ!本当なら
俺みたいな餓鬼、靴磨きくらいしか働けないのに、ローズ
姉ちゃんの親父さんの店だから!そこで兄ちゃんも働か
せてもらえるように頼んでやるよ!但し、兄ちゃんは一番
下っ端だから、床掃除か皿洗いだぜ。俺は先週から、
ハンバーグ焼かせてもらってんだ!(嬉しそうに。)兄ちゃ
んも頑張れば、直ぐに野菜洗いくらいにはなれるからさ。
あ、それからその服(ブルーを指差す。)・・・これに着替え
なよ!(手に持っていた服を差し出す。)いくら俺が頼んで
やっても、その格好じゃ、雇ってもらえないからな。(笑う。
衝立の方を顎で指して。)そこで着替えなよ!ほら!」
カイト、ブルーに服を渡して背中を押す。
ブルー、言われるまま衝立の後ろへ。服を着替える。
カイト「俺の服じゃあ、みんなこんなだし・・・。(自分の服を見
る。)その服・・・死んだ父ちゃんのなんだ!その中から、
一番若そうなの、選んでやったからさ!兄ちゃんでも着
れると思うぜ。ただ・・・俺の記憶が正しければ、兄ちゃ
ん背高いけど、父ちゃん・・・兄ちゃんよりずっと背が低
かったような・・・。(手で背丈を確認するように。)まぁ、
たいして問題ないか!(ソファーに腰を下ろして。)パン
代はもらうけど、兄ちゃんが他に金の使い道を忘れた
ってんなら、一週間も働きゃ、服の1枚くらいは買える
からさ!」
そこへ、服を着替えたブルー登場。
カイト「(ブルーのズボンの裾が短いのを見て。)げっ!!
矢っ張り・・・。それじゃ、俺のズボンとたいして違わない
や・・・。ま、でもさっきまで着てたのより、大分よくなった
じゃん!じゃあ、そろそろ行こうぜ!まだ母ちゃん寝てる
から、戸は静かに閉めろよ!」
カイト、ブルー下手奥へ走り去る。
フェード・アウト。
――――― 第 3 場 ―――――
明るい音楽流れ、フェード・インすると、
ハンバーガーショップのユニフォームに身を
包んだ店員達、ポーズを取り歌う。
中央にローズマリー。
(前場からのテーブルの上に、テーブルクロス、
中央に花が飾られている。)
“いらっしゃいませ
ハンバーガーですね?
ご一緒にポテトはいかがですか?
チーズにトマトにウインナー
ピクルス多めにケチャップたっぷり
お客様のご注文
何でもお応え致します!
ありがとうございました!
またのご来店お待ちしております!”
ポーズで、皆、其々上手下手奥へ去る。
ローズマリー、テーブルの上の花を直している。
そこへ上手より、ユニフォーム姿のカイト、ブルー
登場。(ブルーの手にはモップ。)
カイト「姉ちゃん、おはよう!」
ローズマリー「(カイトとブルーを認めて。)おはよう!(ブルーの
服を見て。)似合うじゃない、そのユニフォーム!
昨日のボロ布まとったような格好より、ずっといい
わ!(笑う。)」
カイト「だろ?(笑う。ブルーの方を向いて。)いいか、兄ちゃん!
お客様には愛想よくだ!いくら嫌な客が来ても、ニコニコ
してりゃいいんだからな。ニコニコして“いらっしゃいませ!
”言ってみな!」
ブルー「(真顔で。)・・・いらっしゃいませ・・・。」
カイト「顔が怖いぜ!そういや・・・兄ちゃんの笑った顔、見たこと
ないな・・・。兄ちゃん、笑ってみなよ!!」
ブルー「・・・わらう・・・?」
カイト「ほら!こうやって・・・!(笑ってみせる。)」
ブルー、カイトを見て、真似て笑おうとするが、
笑えない。
カイト「こうするんだよ!(ブルーの頬を両手で引っ張って、無理
に笑顔を作るように。)いいか?手を離しても、そのまま
にしとくんだ!!(手を離す。)」
ブルー、言われたまま顔を引き攣らせるような笑顔
を作ったまま、カイトを見詰める。
カイト、ローズマリー思わず吹き出して、声を上げて
笑う。
ローズマリー「変な顔!」
ブルー、暫く笑っている2人を見ているが、その
様子に自然と顔が綻ぶように、笑顔を作る。
カイト「(ブルーの笑顔に気付いて。)・・・笑ってる・・・笑える
じゃないか、兄ちゃん!!」
ローズマリー「本当!」
ブルー「・・・え・・・?」
ローズマリー「(ポケットからミラーを出し、ブルーに手渡す。)
ほら、見てみなさいよ!」
ブルー「(ミラーの中の自分を見る。)これが・・・笑う・・・?」
カイト「そうだよ!その顔で“いらっしゃいませ”だ!」
ブルー「(笑顔のまま。)いらっしゃいませ・・・。」
ローズマリー「いいわ!いいわ!」
ブルー「何だか・・・優しい感じがする・・・。」
ローズマリー「笑顔を作れば、誰だって優しい気持ちになれるも
のよ!目を吊り上がらせてプンプンしてたって、
自分も他人も面白くないでしょ?笑顔でいれば、
回りの人も幸せになれるわ!だから、人間は笑う
の!」
ブルー「人間は・・・笑うもの・・・。」
ローズマリー「そう!笑顔の素敵な人は、生き方もきっと素敵な
筈よ!」
カイト「でも姉ちゃん、“記憶喪失”って面倒だな。笑うことも、食
べることも・・・寝ることだって忘れちまうんだぜ。」
ローズマリー「本当?」
カイト「ああ。」
ローズマリー「私には、よく分からないけど・・・。(下手方を見て
。)あ、お客様だわ!いらっやいませ!」
ローズマリー、下手へ走り去る。
ブルー「(微笑んで。)いらっしゃいませ・・・。」
カイト「(微笑んでブルーを見る。)じゃあ頑張れよ、兄ちゃん!
俺、奥行くから!」
カイト、上手へ去る。
ブルー、ニコニコしながら立っている。
一時置いて、下手よりマーク、ジミー、トーマ其々
手にカップを持って登場。
ブルー「(笑顔で。)いらっしゃいませ。」
トーマ「午前中、授業サボろうぜ!」
ジミー「かったるいなぁ・・・。」
3人、テーブルに腰を下ろす。
マーク「この頃カイトの奴、奥に入り込んでるから、ここに来て
も気分晴れねぇしな!」
トーマ「(横でニコニコしながら立っている、ブルーに気付いて。
)なんだよ、気持ち悪い奴だなぁ!向こう行けよ!!」
ブルー「いらっしゃいませ。」
マーク「分かったってんだろ!!(ブルーの顔を見て、何か思い
出したように。)おまえ・・・(立ち上がる。)」
――――― “ブルー”3へつづく ―――――
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