ブラック「彼女・・・僕が見えるなんて、死にたいと思ってるのか
なぁ。」
スティーブ「馬鹿な・・・」
ブラック「けど、分かったでしょ?僕のことが見えない人間もいる
んだってこと・・・。」
スティーブ、中央ベンチへ腰を下ろす。
スティーブ「・・・死神か・・・」
その時、下手より乳母車を押した母親と、その後
を付いて、ボールを持った少女登場。ゆっくり上手
方へ。上手より登場した一人の婦人と母親、立ち
話しを始める。
そこへ、いつの間にか下手客席より登場したエル、
デイ、舞台の縁に腰を下ろし、少女の方を見ている。
スティーブ「平和だな・・・。おまえにはどう映っているんだ・・・。
幸せそうに見えないか・・・?その幸せは永遠に
続くものと信じて疑わないだろう・・・。俺もそうだった
・・・。ついこの間までは・・・。何が幸せか・・・幸せで
ないのか・・・人其々、考えるところは違うかも知れ
ない・・・。たとえ今がその時ではなくとも、必ずやっ
てくる幸せを・・・俺は信じることができるのか・・・。
一緒に・・・行ってやろうか・・・?」
ブラック「・・・え?」
スティーブ「一人の人間も連れて帰れなきゃ、消滅しちまうんだ
ろう・・・?」
ブラック「何言って・・・(エルとデイに気付く。)エル・・・デイ・・・」
ブラック、エルとデイが少女の方を見詰めていること
に、不審そうに3人を交互に見る。
スティーブ「おまえと初めて会った時、“死にたいと思ってる”と
言われて、少し焦ったよ・・・。本当に自分は今、そん
な風に考えてたんじゃないだろうかって・・・。(笑う。
)俺が一緒に行けばおまえは・・・」
ブラック「(何かに気付いたように。)あの子を助けて・・・」
スティーブ「え?」
ブラック「あの子を助けて、スティーブ!!(叫ぶ。)」
その時少女、転がったボールを追い掛けるように
上手へ走り去る。スティーブ、ブラックの叫び声に、
慌てて上手へ少女を追い掛け走り去る。
母親、婦人驚いて悲鳴を上げ、上手方を見る。
車の急ブレーキの音が響き渡る。
一時置いて、上手より少女、走りながら登場し、
母親に抱き縋る。
少女「ママ!!」
上手よりスティーブ登場し、微笑みながら見詰める。
母親、スティーブに深々と頭を下げる。
その様子を見ながら、悲しそうなエル。呆れたような
デイ。音楽で暗転。
――――― 第 6 場 ―――――
音楽流れ、上手スポットに意地悪そうに微笑む
バス浮かび上がる。
バス「駄目だな・・・。折角、エルとデイが兄さんの為に力を貸し
てくれたのに・・・。それをものにするどころか、助けちまう
なんて死神の風上にも置けない。中途半端なお前なんか
・・・グレーで十分だ!!(声を上げて笑う。)」
下手スポットに、ブラック浮かび上がる。
ブラック「・・・僕はブラックになり切れない・・・。消滅するのが、
僕の運命なんだ・・・。」
バス、ブラック其々歌う。
バス“僕らは死の神 天使じゃない
誰が死のうが生きようが
僕らは仕事を遣り遂げる”
ブラック“僕は死の神 天使じゃない
胸が痛んで辛いんだ
黒にもなれず白でもない”
バス“なろうと思ってなるんじゃない
生まれた時から身についた
遣るべきことを知っている
中途半端なおまえはグレー
黒にもなれず白でもない!!”
バス、フェード・アウト。
ブラック“僕はグレー・・・”
ブラック「・・・それならいっそ・・・最後に一度くらい・・・今まで
中途半端なことしかできなかった僕ができること・・・」
暗転。
――――― 第 7 場 ―――――
舞台明るくなる。
上手よりアンナ、一寸置いてサリー登場。
アンナ「(鞄を振り回しながら。)とうとうスティーブ、姿見せなか
ったわね・・・。」
サリー「・・・そうね。」
アンナ「折角、アタックしようと思ってたのになぁ。それにしても
毎年毎年、同じことの繰り返し・・・。独り身には退屈な
パーティよねぇ。その点、サリーはいいわよねぇ。ダニエ
ルのはしゃぎようったら・・・(思わず吹き出す。)ごめん
・・・。(再び吹き出す。)余程、あなたと結婚できることが
嬉しいのね!ダニエルって変わってるけど、悪い人じゃ
ないかも・・・。こんな所の御曹司に、碌なのいやしない
と思ってたけど・・・。あ・・・ごめん。」
サリー「ううん・・・」
アンナ「どうしたの?浮かないなぁ・・・。分かるわよ、あなたの
気持ち。そりゃあ、自由気儘な独身生活とも今日でおさ
らば・・・明日からは自分の人生であって、自分のもので
ない・・・。結婚とは、そう言うものよ・・・。(自分で自分
の言ったことに納得するように。)」
その時、下手よりブラック登場。
ゆっくりサリーの方へ。
サリー「(ブラックを認めて。)あなた・・・」
ブラック「矢っ張り、僕が見えるんだ。」
サリー「・・・見えるって・・・?」
アンナ「やだ、どうしたのサリー?独り言?(下手方を見る。)」
サリー「・・・見えないの?」
アンナ「何言ってるのよ!(溜め息を吐く。)まぁ、最後の夜だ
もの、思いっきり後悔のないようにやって頂戴!(サリ
ーの両肩に手を掛ける。)悪いけど、私は先に帰らせ
てもらうわ・・・。2日続きのドンチャン騒ぎは、この歳
になると体が持たないのよねぇ・・・。じゃあね、サリー
!」
アンナ、手を上げて下手へ去る。
サリー「・・・あなた・・・アンナには見えないの!?(怯えたよう
に。)幽霊・・・?」
ブラック「(笑う。)お好きなように!」
サリー「でも変・・・。あなた、ちっとも怖い感じがしないもの・・・。
何故、私の前に現れるの・・・?」
ブラック「お姉さん、スティーブのことが好きなんでしょ?」
サリー「え・・・?」
ブラック「今でもスティーブのことを愛しているくせに、ダニエル
と結婚しようとしてる・・・。」
サリー「ち・・・違うわ・・・。」
ブラック「嘘吐いたって、僕にはお見通しだよ。スティーブも、
お姉さんのことを愛してる・・・。愛し合っているのに、
お互い意地を張りながら、このまま生きていくつもり?」
サリー「・・・だって・・・だって仕方なかったのよ!!最初は、
スティーブへのあてつけのつもりでダニエルと付き合い
だしたのに、回りの皆が、私の気持ちを無視して、乗り
気になって!!まさか、こんなにトントン拍子に・・・!」
ブラック「男心を弄ぶからだよ。」
サリー「弄ぶだなんて!」
ブラック「今、自分の気持ちに素直にならないと、お姉さん一生
後悔するよ。素直になるには勇気がいるかも知れない
・・・。だけど・・・」
ブラック歌う。
“素直になってサリー・・・
自分の気持ちに正直に・・・
これから続く永遠の幸せの為に・・・”
サリー、呼応するように歌う。
サリー、スポットに浮かび上がる。
“素直になって私・・・
たとえ今が辛くとも・・・
あなたがいれば乗り越えられる
何時も側にいた温かな微笑み
優しさだけが私を包み
心の自由が満ち溢れて
屹度幸せになれる
素直になろう私・・・!!”
サリー「私、正直になる!!(振り返ってブラックを見るように。
ブラックがいないのに気付き、回りを捜すように。)
ねぇ・・・何処に行ったの・・・?幽霊さん・・・?ねぇって
ば!!」
暗転。
――――― 第 8 場 ―――――
人々の慌てる声が聞こえる。
人々の声「えっ?花嫁がいない!?」
「何処に行ったんだ!!もう式まで時間がないって言
うのに!!」
「サリー!?」
「サリー!!」
下手方、スポットに燕尾服姿のダニエル、
手に紙を握り締めて浮かび上がる。
ダニエル「サリー!!そんな・・・今になって結婚を止めるだな
んて!!こんな手紙だけ残して!!サリー!!帰って
来ておくれよ!!サリー!!(叫ぶ。)my sweet
honey!!」
ダニエル、フェード・アウト。
同時に、上手方スポットに、跪き両手を合わせた
ブラック、薄ら浮かび上がる。
ブラック「さぁ、父様・・・僕は約束の3日間を守ることができま
せんでした・・・。けど、たとえ何年・・・いや、何十年、
父さんに時間を貰おうとも、意気地なしの僕には、どう
しても人間を不幸になど、できそうにありません・・・。
こんな役立たずの僕を、どうか今直ぐ消滅させて下さい
・・・。」
上手よりバス、デイ、エル登場。と、同時に舞台
明るくなる。(ブラック、衣装が白に変わっている。)
エル「おはよう、ブラック兄・・・(ブラックを認めて、驚きの悲鳴
を上げる。)キャアッ!!ブラック兄様が白い!!」
ブラック「(エルの叫び声に驚いて立ち上がる。)・・・どうしたん
だよ・・・?」
バス、デイ、ブラックを見、驚いたように。
デイ「白だ・・・」
エル、デイ、恐々ブラックに近付く。
エル「・・・お兄様・・・真っ白・・・」
デイ「(ブラックの回りを回り、ブラックの背に付いている、小さな
羽に気付く。)何だい、これ?」
バス「・・・羽?」
エル「変なの!(笑う。)」
バス「・・・天使・・・」
エル、デイ「てんし・・・?」
その時、天の女神の声が、響くように聞こえる。
女神の声「そうです・・・。ブラックは死の神ではなく、天の神の
子・・・即ち、天使なのです。」
ブラック「・・・天使・・・」
女神の声「ある時、天国へ届けられる筈の一人の天使を、配達
人がうっかり落としてしまったのです。ずっと捜して
いたのですが、今日、ブラックの変身を見るまで、誰
も見つけることはできませんでした・・・。人間界に落
ちていたら、もう見つかりはしないと、諦めかけたの
ですが・・・まさか、死の神の下で育っていたとは・・・。
あなたの仕事は、人間の魂を導くことではなく、人間
を幸せにすること・・・。今、一人の人間を幸せに導い
たことによって、あなたは完全なる天の神へと、変身
を遂げたのです。」
エル「それでブラック兄様は、一つも魂を集めることができなかっ
たのね!」
女神の声「さぁ、ブラック・・・死の神に別れを告げてお戻りなさい
・・・。今こそあなたの役割で、人々を幸せへと導くの
です。」
ブラック「(嬉しそうに、遠くを見上げる。)はい・・・!!」
音楽で暗転。
――――― “ブラック” エンディングへつづく ―――――
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