2012年8月27日月曜日

“フランチェスコ” ―全14場― 4

         フランチェスコ、リーザを抱き上げ、ベットまで
         連れて行く。
         ジェシカ、駆け寄る。リーザ、苦しそうに。

  ジェシカ「如何して起き上がったりしたの!!大丈夫!?(リー
        ザの手を取り。)確りして・・・!!」
  フランチェスコ「薬は・・・?」
  ジェシカ「・・・ある訳ないでしょ・・・。パンを買うお金もないのに、
        薬なんて・・・!!リーザ・・・!!」
  フランチェスコ「(ヴィクトールに目で合図を送る。)」

         ヴィクトール、頷いてポケットから小さい巾着袋を
         取り出し、中から何か出し、フランチェスコに手渡す。
         フランチェスコ、ベットの傍らへ膝をつき、少しリーザ
         を起こし、その取り出したものを口へ含ませる。

  ジェシカ「(驚いたように。)何!?」
  フランチェスコ「これは我が家に代々伝わる秘薬だ。これさえ飲
           めば、どんな病も忽ち良くなる・・・そう伝えられて
           いる・・・。暫く立てば、発作も治まるだろう。」
  ジェシカ「・・・本当・・・?」
  フランチェスコ「ああ・・・。(微笑んで立ち上がる。)ヴィクトール!
           (ヴィクトールの持っていた袋を見て、合図する。)
           」
  ジェシカ「リーザ・・・(心配そうに。)」
   
         ヴィクトール、その袋をジェシカの方へ差し出す。
         ジェシカ、それに気付いてフランチェスコを見る。

  フランチェスコ「それをあげよう。何時も急な時用に、少しだが持
           ち歩いているものだ。今はそれだけしかないが、
           次に会った時に、もっと用意しておく。」
  ジェシカ「(立ち上がる。)そんな高価なもの・・・。お金ないし・・・
        貰えない・・・。(下を向く。)」
  フランチェスコ「金などいらない!毎日、時間通りに花を届けて
           くれているお礼に・・・。」
  ジェシカ「でも・・・今日は・・・」
  フランチェスコ「今日は、リーザの具合が良くなかったからだろう
           ?それに・・・(テーブルの花籠を見て。)ちゃんと
           花の用意はしてあるじゃないか・・・。今日はマー
           ガレットか・・・。可愛い花だ・・・。丸でおまえのよう
           に・・・。花言葉は・・・真実の・・・愛・・・」
  ジェシカ「・・・フランチェスコ・・・」

         ヴィクトール、一瞬困惑の表情を浮かべる。
         フランチェスコ、ジェシカ残してフェード・アウト。
         紗幕閉まる。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         紗幕前。
         ジェシカ、下を向いて戸惑うように、
         フランチェスコから一寸離れる。
         フランチェスコ、ジェシカを優しく見詰める。

  フランチェスコ「如何した?」
  ジェシカ「・・・薬・・・本当にありがとう・・・。でも・・・何故、家へ来
        たりしたの・・・?」
  フランチェスコ「何時も時間通りに来るおまえが、今日に限って
           来ないのは可笑しいと思ってね・・・。迷惑・・・だっ
           たか?」
  ジェシカ「(下を向いたまま。)私・・・見られたくなかった・・・こん
        な酷い家・・・。あなたのお屋敷とは比べ物にならない
        もの・・・。」
  フランチェスコ「そんなこと!!何を気にしてるんだ・・・。おまえ
           がどんな所へ住もうと・・・おまえがどんな身分の
           女性であろうと・・・。何も関係ないじゃないか・・・
           。」

         ジェシカ、フランチェスコを見詰める。

  フランチェスコ「毎日、自分で手作りした花籠を届けてくれるの
           は、今ここにいる・・・今私の目の前にいる、おまえ
           じゃなかったのか?ここ一週間、私の心を小さな
           花籠で満たしてくれていたのはおまえなんだ・・・。
           他の誰でもない・・・病身の妹を必死になって世話
           している・・・毎日、広場で一生懸命花売りをして
           いる・・・そして毎日、私の所へ花を運んで来てく
           れている、おまえ自信なのだから・・・。出会ってま
           だ、一週間程しかたたないが・・・たった一日、お
           まえの姿が見えなかっただけで、私は居ても立っ
           てもいられなかった・・・。だから馬を飛ばしてまで、
           探しに来たんだ・・・。私は・・・おまえを・・・心から
           愛してしまったようだ・・・。」
  ジェシカ「フランチェスコ・・・(フランチェスコにゆっくり近付く。)」

         フランチェスコ、ジェシカを見詰めながら、
         手を差し出し歌う。ゆっくり側へ。

         “愛している・・・
         花の香りと共に
         安らぎを与える乙女を・・・
         恋焦がれそうだ・・・
         私の回りだけでない・・・
         ほんの少し触れただけ
         ただそれだけのものをも
         優しい気持ちにさせるおまえが・・・
         ただ愛している・・・
         今までこんな思いは味わったことがない・・・
         恋焦がれるかも知れない
         おまえにただ会いたくて・・・
         見えない場所に姿を捜す
         噎せ返るような沢山の花の香りと共に
         やってくるおまえを・・・”

         ジェシカ、呼応するように歌う。

         “愛している・・・
         力強く勇気あるあなたを・・・
         心から愛している・・・
         毎日あなたに会えるのが
         幸せに変わっていく程・・・
         ただ偶然に出会ったあなたの・・・
         仕種に面影・・・
         風に靡くブロンドの髪・・・
         そのどれもが何時の間か
         私の全てと変わる・・・”

         2人、手を取り合い歌う。

         “愛している・・・愛している・・・
         心からおまえ(あなた)だけを・・・
         この思いは永久に変わることなく
         たとえ死が2人を引き離そうとも・・・”

         フランチェスコ、ジェシカに口づけ、その胸に
         力強く抱き締める。
         フェード・アウト。

    ――――― 第 8 場 ―――――

         紗幕開く。
         と、舞台はクリストフ公爵邸。居間。
         中央ソファーに、クリストフ、テレーズ腰を
         下ろしている。傍らにカロリーネ立つ。
         クラシック音楽が、静かに流れ、辺りを
         優しく包む。クリストフ、テーブルの上の
         コーヒーカップを手に取り、口を付ける。

  クリストフ「今日は朝から町の様子を見て来たが、パン屋の前
        で、店の主人と市民の間で諍いが起きていたよ。」
  テレーズ「まぁ・・・」
  クリストフ「店の主人が、食料難を理由に、実の所はただ自分達
        だけの貯えをする為に、売り惜しみするようになり、そ
        れを知った市民達が、餓えを恐れる恐怖感から店を襲
        い、略奪に走ると言う・・・。町は段々、町らしさを失い、
        世の中は殺伐として行く・・・人を人と思わず、暴力が
        横行する・・・。このままで本当によいのだろうかと私は
        案じるよ・・・。」
  テレーズ「本当ですわね・・・。」
  クリストフ「ところで、フランチェスコは相変わらず馬を走り回して
        いるのか?」
  テレーズ「ええ・・・。あなた・・・私、フランチェスコのことで、良くな
        い噂を耳にしましたの・・・。」
  クリストフ「良くない噂?」
  テレーズ「ええ・・・。(チラッとカロリーネを見る。)」
  カロリーネ「小母様・・・、私もそのお噂は伺っております・・・。(下
         を向く。)どうぞ、お気になさらないで仰って下さい・・・
         。」
  
         クリストフ、カロリーネをチラッと見る。

  テレーズ「あの子・・・近頃、ある娘さんに夢中になっているとか
        ・・・。」
  クリストフ「・・・娘・・・?」
  テレーズ「ええ・・・。それが何でも、広場で花を売りながら、その
        日暮らしをなさってる方だそうで・・・。少し前から、フラ
        ンチェスコの所へ毎日、花を届けに来ていたらしいん
        ですけれど・・・私、全く知らなくて・・・。」
  クリストフ「(笑って。)まさか、あいつがそんな娘に好意を寄せる
        筈がないだろう。その娘の何に、フランチェスコが夢中
        になると言うのだ。馬鹿馬鹿しい・・・。」
  テレーズ「でも・・・」
  クリストフ「噂は噂だ、あてになどならん。」

         そこへ奥の扉よりフランチェスコ登場。
         ヴィクトール続く。

  フランチェスコ「ただ今戻りました。」
  テレーズ「(立ち上がって。)フランチェスコ・・・おかえりなさい。
        (フランチェスコの頬にキスする。)」
  フランチェスコ「シーザーを乗り回して来たので、汗だくですよ。
           (笑う。)着替えてきます。(ヴィクトールを見る。)」

         フランチェスコ、ヴィクトール、3人の前を通って、
         上手へ行こうとする。

  クリストフ「フランチェスコ・・・。(立ち上がる。)」
  フランチェスコ「(立ち止まって。)何か・・・?」
  クリストフ「チラッと噂を小耳に挟んだのだが・・・。まさかおまえ
        に限って、身分の卑しい女性に現を抜かしているよう
        なことは、あるまいな?」
  フランチェスコ「・・・身分の卑しい女性に現を抜かす・・・とは、如
           何言うことですか・・・?」
  クリストフ「その言葉の通りだ・・・。全く、妙な噂だな。(笑う。)」
  フランチェスコ「・・・もし、その言われた女性が、今・・・私が一番
           心に掛けている女性であるとするなら・・・その噂
           とやらは、噂ではなく・・・真実です・・・。(カロリー
           ネを見る。)」

         カロリーネ、落胆した面持ちで、フランチェスコを
         見詰める。

  テレーズ「あなた・・・」
  クリストフ「(呆気にとられたように。)・・・花・・・売り娘だぞ・・・?
        」
  フランチェスコ「そうです。どうやら父上の仰った女性と、私が言
           う女性は、同一人物のようだ・・・。と、すると・・・
           先程言われた“卑しい女性”と言う言葉は、取り消
           して頂きたい。」
  クリストフ「その女性が好きだと・・・愛していると言うのか・・・?
        (呆然と。)」
  フランチェスコ「はい。(力強く。)」
  クリストフ「フランチェスコ・・・人を好きになると言うことは、合わ
        せて尊敬の念や、共感できる部分が、その相手に持て
        ると言うことだ。一体そんな平民の花売り娘の何処が、
        おまえにとって思いを寄せる対象になったと言うのだ!
        !」
  フランチェスコ「父上!!たとえ父上だとしても・・・よく知りもしな
           い彼女のことを、そんな風に言い放つのはよして
           頂きたい!!彼女は父上が考えているような娘
           ではありません!!彼女だけではない。父上は私
           達、貴族以外の人々を、如何してそう見下すよう
           な見方を為さるのです。」
  クリストフ「私が何時、見下したと言うのだ!?」
 









    ――――― “フランチェスコ”5へつづく ―――――




     
    この後、フランチェスコさんのチョー長台詞に入ります^^;
   なので、ページを代えさせて頂きますm(__)m

  





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