フランチェスコ「言葉が過ぎるかも知れません・・・だが!!父上
は何時も世の中の心配をしている振りをして、自
分達には直接関係のない国民の、今の生活の改
善を如何して為さろうとはしないのです!!馬術
大会一つにしても、国王陛下の一番お近くで仕え
ている父上が・・・国民の様子も一番よくご存じの
筈の父上が陛下に助言して差し上げなくて、誰が
国王ご一家への不平不満が募る今、陛下をお守
りできるのですか!?こんな時に開催する馬術大
会だからこそ、その馬術大会の掛け金の収益は、
全て国民の為に使うべきなのです!!・・・学生の
身で・・・出過ぎた話しを申し訳ありません・・・。だ
が分かって頂きたい!!人間に本当に大切なも
のは、身分でも家柄でもない・・・心なのだと!!
この心が叫ぶのです・・・彼女の一途な姿に・・・こ
の心が共鳴するのです!!彼女の生きる姿勢に
・・・!!今まで父上、母上の引いて下さった道の
上を、何の躊躇いもなく、何の不安も持たずにた
だ歩いて来た私に・・・生きていく理由を見出させ
てくれたのが彼女なのです・・・。(チラッとカロリー
ネを見る。)カロリーネ嬢の前で・・・こんなことを
言うのは、紳士らしからぬ行いですね・・・。今、私
が話したことに対して、自分の責任は十分に分か
っているつもりです。どんな罰でも受けましょう・・・
。出て行けと言われるのならそうします。だが、私
は自分に正直でありたいのです。偽りの人生を歩
んで行く程、これからの自分の人生に未練はない
・・・。歩んで来た私の人生にも悔いはない・・・。た
だ、私が見詰めて行きたいのは、これから新しく
続いていくであろう道を、どのようにして一番自分
らしく、一番有意義に、一番輝くように生きれるか
・・・それだけなのです・・・。」 ※
カロリーネ、フランチェスコに背を向け、
悲し気に立つ。
フランチェスコ「(カロリーネに近寄り。)カロリーネ・・・許して下さ
い。私の我が儘です。」
カロリーネ首を振り、涙を堪え切れないように、
上手へ走り去る。
フランチェスコ「カロリーネ・・・!!」
クリストフ「おまえは分かっているのか。自分のその愚かな考え
の為に、回りの人間が幾人も、その考えに翻弄され
ることが・・・。」
フランチェスコ「父上は何時も仰っていましたよね・・・。若いうち
には遣りたいことを遣れと・・・。後でと思って、先
延ばしにしていると、いざ遣ろうと思った頃には、
もうできなくなっていると・・・。多分、父上の言わ
れた遣りたいことと言うのが、今私が歩もうとして
いるような道ではなかったかも知れません・・・。
けれど、その言葉の意味は、正にその通りである
と思うのです。後になって、後悔するような人生は
、決して今生きているこの時をも、屹度納得して
歩んではいないと思うのです。だが、もしかして、
これから先に於いて、後悔することがないとは言
い切れない。今の判断を誤ったと思うことがある
かも知れない・・・。けれど、何もかも捨て、1から
出直すことに、今は何の躊躇いもないのです・・・。
」
クリストフ「・・・それで・・・如何するつもりなのだ・・・。このまま学
校へすんなり戻る気もなさそうだな・・・。」
フランチェスコ「彼女の為・・・と言うのではなく・・・、この国の治
安を取り戻す為に・・・兵役に就きたいと思います
・・・。」
テレーズ「兵役!?」
フランチェスコ「衛兵隊へ志願するつもりです・・・。」
クリストフ「(呆然とする。)馬鹿者が・・・!!」
テレーズ「暴動でも起これば、一番に駆り出され、最前線で鎮
圧に従事しなければならないそんな危険なことに何
故・・・!?命の保障は何もないのですよ・・・。(涙を
拭う。)」
フランチェスコ「母上・・・。(テレーズに近寄り、手を取る。)私は
何も死に急いでいる訳ではありません・・・。私が
求めているものは、母上や父上・・・そして愛する
者が、心安らかに生きてゆけること・・・ただ、それ
だけなのですよ・・・。」
クリストフ「分かった、もう何も言わん!!好きにするがいい!!
」
クリストフ、上手へ去ろうとして、その方に
立っていたヴィクトールの側で、一寸立ち止る。
クリストフ「(ヴィクトールに囁くように。)あの馬鹿者のことを頼ん
だぞ・・・。」
ヴィクトール「はいっ!!(頭を下げる。)」
テレーズ「フランチェスコ・・・(涙声でフランチェスコに抱き寄る。)
」
音楽で紗幕閉まる。
――――― 第 9 場 ―――――
紗幕前。
中央に燕尾服姿にシルクハットの紳士。
その両側に、美しく着飾った貴婦人、
遠くを見遣るように立つ。
大勢の観客の歓声と、馬の駆ける音が
辺りを包む。
貴婦人1「フランチェスコ様とルグラン伯、さっきからずっと競り
合って!!」
紳士「お互いどちらも譲らないな!!」
貴婦人2「ああ!!あんな風に競い合ったまま、コーナーに掛か
るとフランチェスコ様が・・・!!」
紳士「何て上手い手綱捌きなんだ!!一寸後ろへ下がって、外
側から回り込んだぞ!!」
貴婦人1「本当!!」
紳士「あ!!ルグラン伯、あそこの坂で加速させるのは無謀だ
!!」
貴婦人2「落馬するわ!!」
“わあっ!!”“キャーッ!!”など、其々の
悲鳴。その時、馬の嘶く声。で、ライト・アウト。
騒然とする人々の喚声が渦巻く。
誰のものとも分からない人々の、慌てふためく声。
「ルグラン伯、確りして下さい!!」
「ルグラン伯!!」
「早く医務室へ!!」
「気を失っているだけで大丈夫だ!!」
「そっと運べ!!動かすんじゃないぞ!!」
その時、一際盛大な歓声が響く。
「フランチェスコ様が優勝だ!!」
「やっぱりフランチェスコ様だ!!」
「フランチェスコ、万歳!!」
歓声が、段々と遠退く。
と、同時にフェード・イン。(紗幕開く。)
――――― 第 10 場 ―――――
舞台は競馬場。
(奥方、競技場。その前に柵。)
辺りは夕暮れ時の様相を表し、夕焼けが一日の
祭りごとの済んだ会場の後を、赤く染めている。
そこへ上手よりフランチェスコ、ヴィクトール、
ぶらぶらと話しながら登場。
ヴィクトール「今日のおまえは、何時もにも増して、見事だったな
。」
フランチェスコ「おまえの方こそ・・・。」
ヴィクトール「俺はルグラン伯の落馬のお零れで、2位を貰った
ようなものさ。(笑う。)しかし、おまえ達の後ろに
ずっと付けていて、おまえ達の競り合いを、ああも
間近に見せられたんじゃ、俺は突っ込んで行く勇気
はなかったね。で?如何するんだ、その賞金。(フラ
ンチェスコの手に持っていた袋を見る。)パーッと繰
り出して、祝勝会とでも行きますか。」
フランチェスコ「・・・パンに・・・小麦・・・ミルクに干し肉・・・チーズ
・・・。これだけの金があれば、一体どれ程の食料
が買えるだろう・・・。ヴィクトール!!買い物に行
くぞ!!」
ヴィクトール「ええ!?買い物!?」
フランチェスコ「ああ!!そして、その食料を貧しい者達みんな
に分けてやろう!!」
ヴィクトール「(呆れたように。)慈善事業をやろうって言うのか?
」
フランチェスコ「慈善事業?そんなつもりはないさ。」
ヴィクトール「じゃあ何故・・・。」
フランチェスコ「この金は元々国民のものだ。その金を彼ら自身
の為に使うのに、慈善事業もないだろ。」
ヴィクトール「・・・そうだな・・・。よし!!じゃあ、もうひとっ走り、
町まで繰り出しますか!!」
フランチェスコ「ヴィクトール・・・ああ!!」
2人、声を上げて笑い合い、下手方へ歩いて
行きかける。と、そこへ下手よりカロリーネ登場。
フランチェスコを認め、一瞬躊躇ったような面持
とをするが、直ぐ取り直し、フランチェスコの横を
顔を背けるように、知らん顔で通り過ぎようとする。
フランチェスコ、そんなカロリーネに気付く。
フランチェスコ「・・・カロリーネ?」
カロリーネ「(顔を背けたまま立ち止まる。)優勝おめでとうござ
います・・・。」
フランチェスコ「ずっと話したいと思っていました・・・。だが、あの
日以来あなたは家へ来なくなり・・・お目にかかる
ことができなかった・・・。」
カロリーネ「・・・私に・・・どのような顔をして、あなたの前へ姿を
見せろと仰るのでしょう・・・。もう・・・あなたの側へ仕
える意味の無くなってしまった私に、あなたはどんな
お言葉をかけて下さると仰いますの・・・?」
フランチェスコ「(跪き頭を下げる。)あなたの許しを請う為に・・・
あなたの気が済むまで、どんな罰でも受ける覚悟
です。何なりと・・・!!」
カロリーネ「(フランチェスコを見て、驚いたように。)気高い騎士
である筈のあなたが、私などに頭を下げるようなこと
は、為さらないで下さい・・・。屹度・・・私の心の中は、
あなたを革の鞭で何十回叩こうと、穏やかになろう
筈がないと・・・思って止みませんでした・・・。けれど
・・・本当の心の奥を探ると、もう・・・あなたが私の前
で、熱心に愛しい方のお話しを為さっていた、その時
から・・・あなたの愛し方を見せられて、その対象が、
私でない他の方のものだと分かっていても、私はあ
なたを憎いと・・・そんな風に感じたことは、唯の一度
もないのです・・・。」
黙って頭を下げて聞いていたフランチェスコ、
頭を上げ、カロリーネを見詰める。
カロリーネ「・・・生まれた時より決められていた、私の夫となる
人を・・・例え、思いから始まったのではないとしても
・・・私はあなたを心から愛していました・・・。その愛
しいお方に、一体私がどんな罰を与えられると、お思
いなのでしょう・・・。さようなら・・・。」
カロリーネ、フランチェスコから視線を捥ぎ取り、
足早に上手へ去る。
――――― “フランチェスコ”6へつづく ―――――
※ 気を抜くと、どこを書いているのか分からなくなりそう
でした~^^;
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