2012年8月25日土曜日
“ジェイ・スペンサー” ―全13場― 5
――――― 第 10 場 ―――――
カーテン開く。
絵紗前。編集室。
社員達、書類を手に手に、不満を口々に
疲れた様子で歌い踊る。
“ああ忙しい忙しい
このままじゃ締め切りに間に合わない
ああ忙しい忙しい
不眠不休で頑張っても
忙し過ぎて追い付かない
ああ忙しい忙しい
こんなに夢中で働いているのに
ああ忙しい忙しい
忙し過ぎて頭がパニック
給料上げてよ 編集長!!”
其々デスクに着いて、仕事を始めたり
忙しそうに歩き回っている。
ハリー、上手より登場、自分のデスクに
座り、仕事を始める。
マックス、ドアから入って来る。
ダニエル、重そうに本を抱かえてよろめき
ながら、マックスに付いて出る。
ダニエル「半分持ってくれたって・・・(ボソッと呟く。)」
マックス「(振り返って。)何か言ったか?」
ダニエル「(首を振る。)」
マックス「編集長!ジェイの今までの集大成、上がりましたよ!」
ハリー「本当か?」
マックス「(ダニエルの持っている本の一番上から、一冊取って
ハリーに渡す。)はい!」
ダニエル、本を机の上へ置く。
ハリー「(本を受け取り、包装紙を破いて中を見る。)ほう・・・」
マックス「どうですか?」
ハリー「流石、人物を撮らせれば奴の右に出るものはいない・・・
と言われるだけのことはあるな・・・」
マックス「(ハリーの後ろから覗き込んで一緒に見る。)本当だ
・・・(ハリーがページを捲っていくのを見ていて、途中
何かに気付いたように。)この写真は・・・」
ハリー「ああ、ジェシーが亡くなった時に、握り締めていたフィル
ムの写真だ・・・」
マックス「どうして!?(驚いたように。)」
ハリー「奴が自分から、この写真は外せないと言い張ってな・・・。
ジェシーが命を賭けて守り抜いたフィルムだからって・・・」
マックス「そっか・・・」
ハリー、本を閉じて机の上に乗せる。
その時、ドアからロバート入って来る。
サラ、逸早くロバートに気付き、駆け寄る。
サラ「ロバート!!帰って来たの!?」
その声に他の社員気付き、口々にロバートの
名を呼び、近寄る。
チャーリー「どうだった、あっちは!?」
ロバート「中々快適だぜ。思ってたよりはな。」
サラ「もう行かないんでしょ!?」
ロバート、ハリーの方へ歩いて行くのに
皆ついて行く。
ロバート「いいや、また直ぐ戻るよ。」
サラ「えー!!どうして!?」
ロバート「編集長!」
ハリー「(ロバートに気付いて。)ロバート、戻って来たのか?
(立ち上がる。)」
ロバート「ええ。また直ぐ帰りますけどね。取り敢えず、編集長
がヤキモキしてると思って。はい、次号の記事。(手に
持っていた封筒をハリーの机へ置く。)」
ハリー「まあ、おまえのことだから、どうにかして届けて来るとは
思ってたから、あまり心配はしていなかったけど、態々
持って帰って来るとは。」
ロバート「あんな国内情勢じゃ、郵便だってちゃんと着くかどうか
怪しいもんだし、ファックスもないんじゃ、どうしようもな
いでしょう。」
ハリー「どうだ?あいつらの様子は。」
ロバート「何とか上手くやってるみたいですよ。ジェイの奴はまだ
結構頑ななところがあるようなんだけど、キャロルがあ
の天真爛漫さでジェイを上手くコントロールしつつあると
言うか・・・」
ハリー「そうか。」
ロバート「いつかは以前のあいつらしさを取り戻すと思いますよ
・・・。」
ハリー「おまえの目算が当たったと言う訳だ。そうだ、また戻る
んなら、これをジェイの奴に持って行ってやってくれ。あい
つの今まで撮り集めたものの写真集だ。」
ロバート、写真集を受け取って一寸前へ。
中をペラペラ捲って見、途中で顔を強張らせ、
手を止めたページの写真に見入る。
ロバートにスポット。
ロバート「これは・・・」
暗転。
――――― 第 11 場 ―――――
ライト・インする。と、ホテルのバー。
中央に設えられたステージの上で、
シモン、バンドのリズムに軽快に乗り、
歌っている。
そこへジェイとキャロル、入って来る。
2人、空いているテーブルに着く。
キャロル、楽し気にシモンの歌に聞き入る。
ジェイ、近寄って来たボーイに飲み物の
注文をする。
シモン、歌い終わると客達の拍手。
キャロルも嬉しそうに手を叩く。
音楽、静かに。ボーイ、盆の上にグラスを
2つ乗せて運んで来る。グラスを其々の前へ
置く。ボーイ、一礼して下がる。
ジェイ、グラスを取って、口に運ぶ。
キャロル「このホテルの中に、こんな素敵なバーが隠れてたな
んて。外の殺伐とした風景からは、考えられないわね。」
ジェイ「ああ・・・。ここは秘密クラブみたいなもんだからな。」
キャロル「そうだ!!私、記事を書いてみたの!!読んでくれる
?」
ジェイ「へぇ・・・」
キャロル「(鞄の中から紙を出して、ジェイに渡す。)」
ジェイ「(キャロルから紙を受け取って目を通し、読み始める。)
“この日初めて訪れた村では・・・盛大に結婚式が執り行
われていて、それはもう見事なくらい素晴らしかった・・・。
それを見て私も早く結婚したいなぁ・・・なんて・・・”なんだ
これ?」
キャロル「何が?」
ジェイ「おまえ、日記じゃないんだぞ。」
キャロル「だってロバートは、思ったこと感じたことを、素直に表
現すればいいって教えてくれたわ。」
ジェイ「それはそうだが・・・一体あいつ、どんな教え方してんだ
よ、全く・・・。」
キャロル「一度、ジェシーの書いた記事を見せてもらったわ。何
か凄いのよね・・・表現力も状況説明も・・・丸でそこに
私が本当にいるみたいで・・・おまけにジェイの写真と
上手くマッチして・・・私にはまだまだね。(ガックリした
ように。)」
ジェイ「(微笑んで。)当たり前だ。あいつはプロだったんだから
・・・。おまえが直ぐにあいつみたいな記事が書けたら可
笑しいよ・・・。(手に持っていた紙をキャロルに差し出し
て。)まだまだ小学生の作文並みだが、言いたいことは
よく分かる。その内、上手くなるさ。」
キャロル「本当・・・?」
ジェイ「ああ・・・」
キャロル「嬉しい!!」
シモン、嬉しそうに2人に近寄る。
シモン「こんばんは!ジェイさんの奥さん?」
ジェイ「馬鹿野郎!俺はまだ一人だ!」
シモン「あれ?シバがジェイの奥さんが来たって言ってたけど。」
キャロル「そうなのよ。この人ったら照れちゃって。(笑う。)」
シモン「あ、やっぱり?」
ジェイ「キャロル!!」
キャロル「(楽しそうに。)冗談よ。(シモンの方へ向いて。)私は
奥さんじゃありません。ジェイのパートナー・・・って言っ
ても、今は専らお荷物って感じだけれど。ね?ミスター
ジェイ!」
そこへいつの間にか入って来ていたロバート、
3人に近寄る。
ロバート「お荷物だなんて・・・キャロルはよく遣ってるよ。仕事
の覚えだって早いし・・・。」
キャロル「(ロバートに気付いて。)ロバート!!(立ち上がる。)
おかえりなさい!!もう戻って来たの!?」
ロバート「ああ、蜻蛉帰りして来た。尤も、ジェイはキャロルが
来て直ぐに、逃げるようにここへ来たから知らないか
もな・・・」
ジェイ「・・・逃げるだと・・・?」
ロバート「そうじゃないか。(妙にぶっきら棒に。)」
ジェイ「(思わず立ち上がって。)俺が・・・こいつから逃げただ
と!?ふざけるな!!」
ロバート「気に入らなかったんなら謝るよ。」
キャロル「もう、こんなところでよしてよ!!折角また3人揃った
んだから、楽しくやりましょうよ!!ね!!歌手さん、
あなたも一緒にいいでしょ?」
シモン「あ・・・うん。」
キャロル「さぁ、座って!!(ジェイを座らせ、ロバートとシモン
にも椅子を勧め、自分も座る。)2人共!!(手を上げ
て、ボーイを呼ぶ。)ボーイさん!!」
キャロル、近寄って来たボーイに注文する。
キャロル「ね、ロバート!あっちはどうだった?」
ロバート「ああ・・・皆心配してたよ、2人のこと。特にジェシーの
ご両親がね。またあの時みたいになるんじゃないかっ
て・・・」
キャロル「じゃあ一度、手紙でも書くわ。」
ロバート「うん、そうだな・・・」
シモン「あの時・・・?」
ロバート「ああ、昔のことさ・・・くだらない物の為に、死ななくては
ならなかった女性がいた・・・。」
ジェイ「・・・おい、ロバート・・・おまえ、さっきから何が言いたい
・・・」
ロバート「編集長からこれを預かって来た・・・(鞄から写真集を
取り出して、ジェイの前へぶっきら棒に置く。)・・・なん
でおまえはあの時の写真を使ったんだ・・・あれの為に
彼女は死んだ・・・あんなくだらないフィルム1本を守っ
て、彼女は死んだんだ!!(思わず立ち上がる。)」
キャロル「(ロバートに吊られるように立ち上がり。)やめて、ロ
バート・・・」
他の客、ジェイ達に気付き、ざわめき遠巻き
に怪訝そうに見詰める。
ジェイ「やっと本音を吐いたな・・・(立ち上がる。)」
ロバート「何!?」
ジェイ「おまえは俺が憎かった・・・」
キャロル「・・・憎い・・・?」
ジェイ「昔からおまえはジェシーを愛していた・・・だから俺が憎
くて憎くて仕方なかったんだ・・・」
ロバート「違う・・・」
ジェイ「いや、そうだ。おまけに俺は彼女を殺してしまった・・・。
おまえが俺を殺したい程、憎んでいたのを知らないとで
も思ったか・・・?」
ロバート「やめろ!!・・・確かに・・・俺は彼女が好きだった・・・
心から惚れていたんだ・・・。だが俺は、おまえと付き合
って嬉しそうに笑う彼女を見ているだけで幸せだった
・・・。それなのに・・・それなのにおまえはこんな物の為
に・・・(写真集をおもむろに取り。)こんな物の為に彼女
を死なせた!!(思わず写真集を投げ捨てようと掲げ
る。)」
キャロル「やめてロバート!!(ロバートに抱き縋って止め、写
真集を取り上げる。)」
ジェイ「こいつを捜して連れて来たのだって、本当は自分の為
だったんだろう。ジェシーに瓜二つのこいつを、今度こそ
おまえは俺から奪い取って、優越感に浸りたかった・・・
違うか?」
ロバート「何だと!?(思わずジェイの胸元を掴む。)」
キャロル「私は・・・物じゃないわ・・・(涙声で。)あなた達の言っ
てるジェシーでもない・・・私は私よ・・・自分の好きな人
くらい自分で見つけるわ!!勝手に2人で私の気持ち
を弄ばないで!!」
ロバート「(驚いて。)あ・・・キャロル!!そんなつもりじゃなかっ
たんだ!!君を傷付けるつもりなんて、これっぽっちも
なかった!!嘘じゃない!!」
キャロル「もう振り回されるのは沢山よ!!(泣きながら、走り
去る。)」
ロバート「キャロル!!」
シモン「あ・・・彼女・・・!(焦って立ち上がる。)いけないよ・・・
2人共・・・どう言う経緯か知らないけど、女の人を泣かせ
るようなことしちゃいけないよ・・・」
ジェイ「物知りだな・・・。おいロバート、おまえも俺も仲良く振られ
たって訳だ。(笑う。)尤も、俺は最初からあいつのことな
んて、なんとも思っていなかったけどな・・・。いくらジェシー
に瓜二つだからと言って、あいつ自身も言ってたように、
あいつはジェシーじゃないんだ・・・」
ロバート「そんなことは分かってるさ!!おい、ジェイ!!素直
になれよ!!おまえも感じてた筈だ!!彼女がジェシー
じゃないことは・・・。何故ならキャロルは、几帳面で淑や
かだったジェシーとは全くと言っていい程違っていた!!
それは一日目でもうハッキリしていたことだろう!?俺
だって、最初はジェシーと瓜二つのキャロルを、ただ外
見からだけで判断して、おまえのところへ連れて来た、
それは認める!!しかしキャロルがジェシーと違うと言
うことを、初めから嫌と言う程見せられて、俺はジェシー
ではなく、キャロル自身を見ていたよ・・・。ジェシーが
黙ってても豪華な薔薇の花だとすると・・・キャロルは丸
で・・・向日葵のようだった・・・」
ジェイ「(笑って。)その向日葵に惚れたってか?」
ロバート「最初はおまえの為に連れて来た・・・立ち直って欲し
かったからだ!!だが今は・・・ああ・・・惚れたよ!!」
ジェイ「こりゃあいい!」
ロバート「おまえだって同じ思いの筈だ!!」
ジェイ「(態と笑ってみせて。)何言ってるんだ・・・俺が何故、あ
んな女に・・・」
ロバート「強がりは好い加減にしろよ!!おまえがいつまでも
そんな態度を取るんなら、本当に俺はキャロルを自分
のものにするからな!!」
ジェイ「・・・好きにしろよ・・・(出て行こうとする。)」
ロバート「いつまでジェシーの面影に縛られてるつもりなんだ
!!ジェイ!!もう3年も経つんだぞ!!」
ジェイ、出て行く。
ロバート「畜生・・・!!」
ロバート、椅子に腰を下ろして、グラスの
飲み物を一気に飲み干す。
シモン、暫く呆然とロバートを見ているが、
落ち着きを取り戻してロバートの横に腰を
下ろし、テーブルの上の写真集をペラペラ
捲って見る。
シモン「・・・俺・・・写真ってよく分からないけど・・・これ、凄いや
・・・(最後まで見て、一番最後のページで手を止める。)
ロバートさん・・・」
ロバート「・・・ん?」
シモン「俺・・・今の話だけ聞いてたくらいじゃ、本当のところは
よく分からないけれど・・・ジェシーさんが命を賭けてまで
守ったフィルムだったからこそ、ジェイさんは敢えてその
辛かった時の写真を使ったんじゃないかな・・・(最後の
頁を開いたまま、ロバートの前に写真を置く。)生意気言
ってすみません・・・(立ち上がって離れる。)」
ロバート「(その写真集に目を遣って、驚いたように手に取り、
立ち上がる。)・・・アイ・・・ラヴ・・・ユー・・・フォーエバー
・・・永遠に君を・・・愛す・・・ジェイ・・・!!」
音楽でフェード・アウト。カーテン閉まる。
――――― “ジェイ・スペンサー”6へつづく ―――――
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