2012年8月30日木曜日

“フランチェスコ” ―全14場― 7


 フランチェスコ「おまえに言って、如何なると言うんだ・・・。それ
           を聞いて、おまえは如何すると言うんだ!!」
  ジェシカ「(涙声で。)如何にもならないわ・・・。だってもう、あな
        たを愛してしまったんですもの・・・。けれど・・・他人の
        為に、沢山泣いてきた私は・・・私の為に誰かが泣くの
        はいや・・・。」
  フランチェスコ「・・・ジェシカ・・・」
  ジェシカ「まだ・・・私が子どもの頃・・・。その前の年・・・母は暴
        動で亡くなった父の代わりに、今の私のように花売り
        をして、私達姉妹を育ててくれていた・・・。そんな母の
        後を、小さな妹の手を引いて付いて行き、色々な花を
        見るのが私のささやかな楽しみだった・・・。あの日も
        ・・・私は母の後を付いて行き、花を見るのに夢中にな
        って、つい妹の手を離してしまったの・・・。妹は人通り
        の多い道へよちよち出て行ったらしくて、私達が気付
        いたのは、馬車が脱輪して横倒しになった、衝撃の音
        が辺りに響き渡った時・・・。慌てて駆け付けたそこに
        は、泣きじゃくる妹と、その馬車の主らしい剣を持った
        貴族が立っていた・・・。妹は、その馬車の前へ出て行
        って、驚いた御者が誤って溝へ突っ込んだ為に、馬車
        が横転したのね・・・。幸い、乗っていた貴族に怪我は
        なかったんだけど・・・その貴族は、家来の制止も振り
        解かんばかりの剣幕で、まだ年端もいかない妹に、剣
        を突き付けたの・・・。必死に母は謝ったわ・・・。それで
        その貴族は渋々許したかのように見えた・・・。でも・・・
        (涙が溢れる。)でも、家来が貴族の怒りが解けたと、
        手を離した瞬間・・・!!妹を庇い、私の目の前で貴族
        の振り下ろした剣が、母の命を貫いた・・・。あの時の
        あの貴族の笑い声が、耳に付いて離れない!!何時
        か屹度、敵を取ってやろうと子ども心に誓ったわ!!
        何時かこの手であいつを!!けど・・・その敵を見つけ
        る術もなく・・・。今はもうそんな気もなくなった・・・。屹度
        罪を犯した人間は、人が罰しなくても・・・神様がお許し
        にはならない・・・。そんな人間の為に、私の手を汚す
        ことはないのよ・・・。ね!!フランチェスコ!!あなた
        の命を賭けてまで、あの人の言った言葉に翻弄される
        ことはないのよ!!」
  フランチェスコ「・・・今は・・・何を聞かされても・・・私の心を変え
           ることはできない・・・。」

         フランチェスコ、ジェシカを見ることなく下を向き、
         下手へ去る。

  ジェシカ「フランチェスコ!!」

    ――――― 第 12 場 ――――― B

         ジェシカ、スポットに浮かび上がる。
         (紗幕閉まる。)
         ジェシカ、涙を堪えるように歌う。

         “何故・・・分からないの・・・
         剣の持つ本当の意味を・・・
         何故・・・理解しないの・・・
         剣の持つ本当の役割を・・・
         人が人を殺めるものでもなく
         況して人を裁くものでもない
         人が人として尤も人らしく
         生きる為のほんの飾りに過ぎない
         強く見せる為でなく
         虚栄を張る為でもない
         人が人として尤も人らしく
         生きて行くうえで
         なくてはならないものでもない
         ただ・・・
         剣は・・・決して幸せを運んでは
         こないと言うこと・・・”

         悲し気なジェシカ。フェード・アウト。

    ――――― 第 13 場 ――――― A

         紗幕開く。と、フランチェスコの屋敷の庭。
         中央、置かれたベンチに、何か思いに耽る
         ように、頭を抱えたフランチェスコ座っている。
         一時置いて下手より、ビクトール登場、
         フランチェスコを認め近寄る。

  ヴィクトール「・・・フランチェスコ・・・?」
  フランチェスコ「(顔を上げ、ヴィクトールを認める。)ヴィクトール
           か・・・。」
  ヴィクトール「如何した?」
  フランチェスコ「いや・・・。(立ち上がる。)」
  ヴィクトール「おまえらしくない・・・。余程、勘に触ることを言われ
          たのか?」
  フランチェスコ「・・・自分のことならよかったんだ・・・。何と言わ
           れても、何時もみたいに笑い飛ばせる・・・。」
  ヴィクトール「・・・成る程ね・・・。まぁ、剣の腕前は如何見たって
          おまえの方が、ルグラン伯より一枚も二枚も上手だ
          。だから何の心配もしていないが・・・。何だ、もっと
          すっきりした顔しろよ。」
  フランチェスコ「(ベンチに置いてあった剣を手に取り、鞘から抜
           く。)ヴィクトール、少し相手をしろ。(ヴィクトール
           に剣を向ける。)」
  ヴィクトール「畏まりました。(頭を下げ、剣を抜いて構える。)い
          ざ・・・!」
  フランチェスコ「はっ!!(ヴィクトールに掛かっていく。)」

         フランチェスコ、ヴィクトール、剣を交える。
         暫く後、フランチェスコの剣がヴィクトールの
         袖口を掠め、ヴィクトール、剣を落とす。
         その隙を衝いて、フランチェスコ、ヴィクトール
         の咽元に剣を突き付ける。

  ヴィクトール「(両手を上げて。)・・・参った・・・。(袖口を気にして
          見る。)」
  
         フランチェスコ、自分の剣を鞘へ収め、
         ヴィクトールの落とした剣を拾い、見詰める。

  ヴィクトール「全く、流石だね。またシャツが台無しだ。(笑う。剣
          を受け取ろうと、手を差し出して。)サンキュ・・・(フ
          ランチェスコが剣を見詰めていることに気付いて。)
          フランチェスコ・・・?」
  フランチェスコ「(ヴィクトールの声に、我に返ったように。)ああ
           ・・・(剣をヴィクトールへ差し出す。)」
  ヴィクトール「如何したんだ一体。心ここにあらずって感じだぜ。」
  フランチェスコ「世の中が・・・もっと平和になり、こんなものが必
           要なくなれば・・・本当の意味で、幸せが訪れるの
           かも知れないな・・・。」
  ヴィクトール「何、牧師様みたいなこと言ってるんだ、剣の達人
          が・・・。剣は自分の身を守る為に、必要不可欠な
          ものだろ?おまえの言ってるような世の中が、本当
          にくるようになるとは考えられないな・・・。」
  フランチェスコ「その内、みんなが剣だけでなく、大砲や銃など
           を持つようになり、この世の中は血で溢れ返り、
           生きるもの全てが、消え失せるようなことになら
           なけりゃいいがな・・・。」
  ヴィクトール「おいおい・・・、偉く大胆な発想だな。可笑しいぜ、
          フランチェスコ・・・。」
  フランチェスコ「ただ生きて行くうえで・・・何を信じればいいのか
           ・・・少し考えてみただけさ・・・。」

         そこへ下手より、怒りに肩を震わせながら、
         クリストフ公爵登場。
         続いてテレーズ、慌てて登場。

  クリストフ「フランチェスコ!!」
  フランチェスコ「・・・(クリストフを認め。)父上・・・何か・・・」
  クリストフ「(思わずフランチェスコの頬を叩く。)馬鹿者!!」
  テレーズ「あなた!!(フランチェスコに寄り添う。)」
  クリストフ「決闘とは如何言うことだ!!」
  フランチェスコ「・・・ああ・・・」
  クリストフ「何が原因か知らんが、何の為にもならん決闘など
        言語道断!!決闘などで命を粗末に落とすこと程、
        意味のないことはあるまい!!」
  フランチェスコ「・・・お言葉ですが父上・・・」
  クリストフ「申し開きがあるのなら、言ってみるがよい!!」
  フランチェスコ「多分・・・私の言うことに、父上は納得されない
           でしょう・・・。何故なら、私自身、迷いがないと言っ
           たら嘘になるからです・・・。」
  クリストフ「では何故、態々!!」
  フランチェスコ「それは!!自分自身の迷いを取り去る為に・・・
           私の考えが正しいのだと確信する為に、私は剣を
           使うのです。」
  クリストフ「一体そのことに、どれ程の価値があると言うのだ!!
        」
  フランチェスコ「私の命と引き換えにする程・・・」
  クリストフ「おまえの言うことは、全く馬鹿げている!!」
  フランチェスコ「分かっています・・・。」
  テレーズ「(涙声で。)なのに何故・・・?」
  フランチェスコ「母上・・・私は、何度母上を悲しませることでしょ
           うね・・・。屹度、生きていく限り、私は迷い・・・それ
           を正し・・・一歩一歩進む人生を選んで行くでしょ
           う・・・。それによって、父上や母上が、どんな辛い
           思いを為さるか、頭ではよく分かっているつもりで
           す・・・。だが、私は間違いだと明らかに確信する
           道を、進むことはできない・・・。例えそれが遠回り
           であろうと・・・茨道であろうと・・・途中で寸断され
           た道であろうと、私は自分の納得した、正しいと信
           じる道を歩き続けて行きたいのです・・・。それが、
           命を賭けてまで、貫き通す私の道ではないかも
           知れない・・・。けれど母上・・・その道の先に、何
           が待っていようとも、正しいと納得して、進んだ道
           ならば、何の後悔もありません。」
  クリストフ「何があっても、止めないと言うのだな・・・?」
  フランチェスコ「・・・私は、何も意味のないことに、この命を賭け
            るのではありません・・・。私のこれから生きて
            行く道の、正しい道理を確かめる為に・・・明らか
            に、彼の言うことに、私は一つの同意も見出せ
            ないのです。何が正しいのか・・・本当の所は、
            誰にも分からないかも知れない・・・。私のとった
            行いも、単なる軽はずみなものだったのかも知
            れない・・・。けれど、私は彼を許すことが出来な
            い!!その思いで、例えこの命が弾け散ろうと
            も、決着を付けなければ・・・自分自身で、納得
            がいかなければならないのです!!・・・例え
            ・・・(言葉に詰まって、考えるように。)」
        
    ――――― 第 13 場 ――――― B

         フランチェスコ、スポットに浮かび上がり力強く、
         だが、何か遣り切れなさを漂わせ、自分に言い
         聞かせるように歌う。
         (紗幕閉まる。)

         “たとえこの命 明日尽きるとも
         何の後悔もない
         仮に今 手を拱いて
         生き長らえたとしても
         そのことを悔やんで
         歩き続けて行くよりも
         白か黒か 正か負か
         付けることがこれからの
         人生に於いて不可欠なこと
         たとえ相手がどうなろうとも
         間違いを正し
         ・・・おまえの心を傷付けた償いを!!
         ただ・・・
         何故だろう・・・
         何か心に引っかかる・・・
         少しの躊躇いが湧き上がる・・・
         おまえの言葉が突き刺さる・・・
         剣よりも鋭利な刃物で
         ひと突きにされたような・・・
         正しいと信じる自分の心に
         一筋の黒い影・・・
         おまえの涙の跡が光る・・・”

         遠くを見詰めるフランチェスコ。
         フェード・アウト。     










   ――――― “フランチェスコ”完結編へつづく ―――――










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