2012年8月4日土曜日

“ジェイ・スペンサー” ―全13場― 3


  ルチア「兄さん・・・この村に写真を撮りに来た雑誌カメラマンよ
      !村を案内してあげるの!」
  ジョテファ「何でおまえが案内しなくちゃいけない・・・(ぶっきら棒
        に。)」
  リンゴー「そ・・・そうだよ・・・何でルチアが・・・」
  ジェイ「僕が彼女に頼んだんだ。」
  ルチア「ジェイ・・・」
  ジョテファ「(チラッとジェイに目を遣り、ルチアに向かって。)お
        まえは仕事があるだろう!そんな暇はない筈だ!!」
  ルチア「もう済ませたわ!!」
  ジョテファ「仕事はいくらでもある筈だ!!」
  ルチア「兄さん!」
  ジェイ「そう言うことなら、僕は一人で構わないよ。ありがとう、
      ルチア。」
  ルチア「ジェイ!!」
  ジョテファ「リンゴー、ルチアを連れて行け!」
  リンゴー「さぁ・・・ルチア・・・行こう。」

         リンゴー、名残惜しそうにジェイを振り返り
         見詰めるルチアを連れて離れる。
         ジェイ、一人で何処かへ行こうとする。

  ジョテファ「おい、そこのカメラマン。」
  ジェイ「(振り返る。)何だい?」
  ジョテファ「ルチアに手出ししたら、ただで済まないぜ!!よく
        覚えときな!!」
  ジェイ「そんなに大事な妹なら、首に縄でも付けとくんだな。」
  ジョテファ「何だと!!」
  ジェイ「冗談だよ!残念だが、俺は恋愛とやらには興味がない
      んでね。じゃあ!(手を上げて出て行く。)」
  ジョテファ「畜生!!ふざけた野郎だ!!」

         カーテン閉まる。暗転。

    ――――― 第 5 場 ―――――

         絵紗前。舞台はジェシーの家の玄関口。
         上手よりロバート、キャロル登場。
         次いでグロリアと、グロリアの肩を抱くように
         ウィリアムス、一寸下がってスティーブ登場。

  ウィリアムス「(涙ぐんでいるグロリアを慰めるように。)グロリア
         ・・・」
  グロリア「私、本当に何だかジェシーが生き返ったようで・・・(
       ハンカチで目頭を押さえる。)」
  キャロル「(グロリアに近寄って、手を取る。)小母様、私でよか
       ったら、また何時でもお邪魔しますわ。(微笑んで。)
       ご迷惑でなければですけど。」
  グロリア「そんな!迷惑だなんてとんでもない。」
  ウィリアムス「そうだよ、キャロル。ロバートに聞いた時は、まさ
         かと言う感じだったが、今日こうして初めて君に会っ
         てみて、全くただ驚くばかりだ。黙って立っている君
         を見ると・・・(言葉に詰まる。)」
  キャロル「小父様・・・」
  ロバート「それに彼女はこの通りとても明るくて、本当なら亡くな
       った自分とそっくりな女性に係わることなど、全くご免だ
       と言われても、仕方のないことなんですよ・・・。それを、
       快く引き受けてくれた・・・。」
  ウィリアムス「(頷く。)」
  キャロル「いいえ、私の方こそ・・・ジェシーのお陰で、私の世界
       が広がったような気がするんです。今の私が生活して
       いるところは、私の全く知らなかった世界なんですもの
       。ジェシーがいなかったら、こんなに色々なことを経験
       して、色々な人達と出会うことはありませんでした。」
  ロバート「(微笑んで。)キャロル・・・ありがとう。」
  キャロル「いやね、ロバート!ありがとうだなんて!」
  グロリア「本当にまたいつでも遊びに来て頂戴ね。」
  キャロル「小母様・・・ええ、勿論ですわ!」
  ロバート「じゃあキャロル、そろそろ失礼しよう。」
  キャロル「ええ。それじゃ、小父様、小母様。」
  ウィリアムス「ああ・・・」
  グロリア「本当に・・・またいつでも・・・(泣く。)」
  キャロル「(グロリアに抱き寄る。)もう来るなって言われても、
       お邪魔します。」
  スティーブ「僕、そこまで送るよ。」

         ロバート、キャロル、スティーブ残して
         カーテン閉まる。
         (ウィリアムス、グロリア、名残惜しそうに
         3人の方を見詰めている。)

  ロバート「どうだいスティーブ、ちゃんと学校行ってるかい?」
  スティーブ「ちぇっ、ロバートさんも兄さんも、丸っきし僕のこと、
        子ども扱いなんだから。嫌になるよ。」
  ロバート「(笑って。)ご免よ。俺達は、君が子どもの頃から知っ
       てるからなぁ。つい昔の癖で、親心出して聞いてしまう
       んだよ。」
  キャロル「でも本当にまだ子どもなんだから、素直に言うこと聞
       いてればいいのよ。」
  スティーブ「おまえ本当に口から生まれてきたみたいな奴だな
        !」
  キャロル「あら、失礼ね!姉さんに向かってその口の聞き方は
       ないんじゃない?」
  スティーブ「誰が姉さんなんだよ!ジェシーはおまえと違って、
        もっと淑やかなレディーだったよ!顔はこんなにそっ
        くりなのに、こうも性格が違うなんてガッカリだな。」
  キャロル「あなた随分生意気なのね。いいわ、そんな風に言う
       なら私、もうお邪魔しないから。」
  スティーブ「・・・あ・・・いや・・・それは困るよ・・・冗談だよ!!」
  キャロル「本当・・・?」
  スティーブ「・・・俺・・・本当は嬉しかったんだ・・・丸でジェシー
        が生き返ったみたいで・・・。あんたが姉さんじゃな
        いことは、分かりきってるのに・・・父さんや母さんの
        喜んでる顔見てると、今こうして目の前にいるのは、
        本当にジェシーなんじゃないかって・・・」
  ロバート「スティーブ・・・」
  キャロル「(優しく。)姉さんと思っていいのよ。」
  スティーブ「・・・(驚いたようにキャロルを見詰めて。)あ・・・(嬉
        しそうに、それでいて少し照れ臭そうに鼻の下を擦り
        ながら。)俺・・・もう帰るよ・・・。ロバートさんが一緒
        なら安心だ。いや・・・ひょっとしてロバートさんが一番
        危ないかも・・・」
  ロバート「ばっ・・・馬鹿野郎!」
  スティーブ「送り狼なんかになったら駄目だよ!!じゃあ!(手
        を上げて、元来た方へ走って行く。途中、振り返って
        。)おやすみ、ロバートさん!!・・・姉さん!!(上手
        へ走り去る。)」
  キャロル「スティーブ・・・」
  ロバート「(微笑んで。)相変わらず、ふざけた野郎だな。さぁ、
       行こうか。(行きかける。)」
  キャロル「ロバート・・・」
  ロバート「(振り返って。)ん?」
  キャロル「私・・・ベンバへ行くわ・・・。」
  ロバート「え・・・、何て・・・?」
  キャロル「ベンバへ行くわ!!」
  ロバート「何だって!?」
  キャロル「ベンバへ行くのよ!!」
  ロバート「キャロル!?冗談・・・」
  キャロル「私、今日、ジェシーのご両親に会って、私の役目は
       ジェイを立ち直らせることだって改めて感じたのよ!!
       私、ジェイの側へ行くわ!!」
  ロバート「無茶だ!!」
  キャロル「彼の側へ行くことは、ジェシーの意思でもある筈よ!
       !」
  ロバート「それはそうかも知れないが・・・あんなところへ行くな
       んて無理だ!!」
  キャロル「無理かどうかなんて、行ってみなけりゃ分からないわ
       !!ロバート!!私、ジェイの側へ行く!!」
  ロバート「キャロル・・・(呆然とキャロルを見詰める。)」
  
         暗転。

    ――――― 第 6 場 ―――――

         カーテン開く。
         舞台上は、ジェイの泊まるホテルのロビー(上手)
         と、外(下手)に分かれている。
         外の軍人が行き交う殺伐とした風景と違い、
         粗末な建物ではあるが、ホテルの中はその辺り
         の中では一流と言われるものらしく整理され、
         身形を整えたボーイなどが立っている。
         下手よりジェイ、ルチア登場。

  ジェイ「本当に今日はありがとう。それより黙って村から出て来
      てよかったのかい?」
  ルチア「ええ。今日は兄さんが朝から出掛けてて、留守にして
      たから平気よ。この間は兄さんのせいで、ちゃんと案内
      役ができなくって、とても残念な思いをしてたの。本当に
      酷いわ。あんな風に頭ごなしに言うなんて・・・」
  ジェイ「兄さんは君のことを心配しているんだよ。余所者の俺が
      大事な妹に何か良からぬ事を仕出かすんじゃないかっ
      てね。」
  ルチア「そんな・・・。ジェイ・・・恋人は・・・?」
  ジェイ「(微笑んで。)いないよ・・・欲しいとも思わない・・・。」
  ルチア「・・・どうして?」
  ジェイ「今は仕事が楽しいんだ。余計なことに煩わされるのは
      ごめんだ・・・。それに・・・二度とあんな思いはしたくない
      ・・・(独り言のように。)」
  ルチア「・・・あんな思い・・・?」
  ジェイ「なんでもないよ。それよりあのリンゴーって青年、余程
      君のことが好きなんだな・・・。今日もすごく心配してた
      じゃないか。」
  ルチア「リンゴーのことは何とも思ってないわ・・・。婚約者って
      言っても、兄さんが勝手に決めたことなんだもの・・・」

         その時、下手よりジョテファ、走り登場。
         続いてリンゴー登場。

  ジョテファ「貴様!!(ジェイの胸元を持って、殴り掛かる。)」
  ジェイ「おっと。(サッと避ける。)」
  ルチア「兄さん!!」
  ジョテファ「貴様!!女には興味がないと言ってた癖に、妹に
        よくもちょっかい出しやがったな!!」
  ルチア「やめて、兄さん!!」
  ジェイ「俺が何をしたって?」
  ジョテファ「だからルチアを無理矢理連れて行っただろ!!」
  ルチア「違うわ!!私が無理に付いて行ったのよ!!(泣く。)」
  ジョテファ「・・・え・・・?(ジェイの胸元を離す。)」
  ジェイ「(服を整えて。)君は余程、早とちりなんだな。」
  ジョテファ「何を!!(振り向いて。)リンゴー!!おまえ、今朝
        ルチアがこいつに無理矢理連れて行かれたって言っ
        たじゃないか!!」
  ルチア「酷いわ!!」
  リンゴー「え・・・あ・・・だって・・・」
  ルチア「私は結婚式の前に、少し思い出が欲しかっただけよ・・・
      。どうせ次の日曜日には、嫌でもリンゴーと結婚させられ
      るもの。そうでしょ、兄さん!!」
  ジョテファ「・・・それは・・・」
  ルチア「私、リンゴーのこと嫌いじゃないわ。だから黙って兄さん
      の言うとおりにしてきたの!!でも今は・・・今はジェイが
      好き!!好きなの!!(ジェイに抱き縋る。)」
  ジョテファ・リンゴー「ルチア!!」
  ジェイ「(ルチアを優しく離して。)ありがとう、ルチア・・・。だけど
      俺は君の気持ちに応えられないんだ。ごめんよ・・・。」
  ルチア「ジェイ・・・分かってるの・・・。ごめんなさい・・・。今日は
      本当に楽しかった・・・。もう・・・思い残すことなく結婚で
      きるわ・・・。ありがとう、ジェイ・・・。」
  ジョテファ「ルチア・・・」
  ルチア「さぁ、帰りましょう、兄さん・・・」  
  ジョテファ「・・・あ・・・ああ・・・」
  ルチア「さよなら、ジェイ・・・(手を出す。)」
  ジェイ「さよなら・・・(ルチアと握手する。)」

         ルチア、下手へ去る。リンゴー慌ててルチアを
         追い掛けるように去る。

  ジョテファ「(行こうとしてジェイの方へ振り返り。)・・・悪かった
        な・・・(下手へ去る。)」

         ジェイ、暫くその方を見ているが、溜め息を
         吐いてホテルの中へ入る。
         ジェイ、黙ってフロントの前を通り過ぎようとする。

  シバ「(ジェイに気付き。)ジェイさん!!」
  ジェイ「なんだい?」
  シバ「先程、奥様がご到着されましたので、お部屋の方へお通
     ししています。」
  ジェイ「・・・奥様・・・?」
  シバ「はい。」
  ジェイ「誰の・・・?」
  シバ「ジェイさんのに決まってるでしょ。嫌だな、冗談ばっかり!
     でも珍しいですね、こんな物騒なところへ、態々仕事を兼
     ねているとはいえ、新婚旅行に来られるなんて・・・」
  ジェイ「ありがとう!!キャロルだな!!(独り言のように。)」

         ジェイ、慌てて上手へ去る。カーテン閉まる。







   ――――― “ジェイ・スペンサー”4へつづく ―――――







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