2013年6月29日土曜日
“Thank you!B・J” ―全○場― 3
音楽流れ、ミセスアダムス、B・J歌う。
ミセスアダムス”先ずお返事は「はい」よ”
B・J「はいっ!」
ミセスアダムス“ご挨拶は「ごきげんよう」”
B・J「ごきげんよう・・・」
ミセスアダムス“下がる時には「失礼します」”
B・J「失礼します・・・」
ミセスアダムス“感謝の気持ちは・・・”
B・J「おおきに!!」
ミセスアダムス「B・J!!」
B・J「(舌を出す。)」
ミセスアダムス“少しずつ教えましょうあなたに
何から教えればいい?
今まで何を教わってきたの?
きっと何も教わってないのね
いいわそれならそれで
この私があなたに2ヶ月間
みっちり教えましょう”
B・J“俺は今までこんな
礼儀作法なんて聞いたことない
そんなの知らなくても
腹が空かなきゃそれでいい”
ミセスアダムス“違うわあなた間違っている
人として生きていくうえで
大切なのは・・・”
B・J「食べること!」
B・J“食べなきゃ生きていけないぜ”
ミセスアダムス「それはそうだけれど・・・」
B・J“だから食べる為にやることは
何でも正しい生きる知恵”
ミセスアダムス“違うわそれは考えて
食べたい感情だけで生きるなど
人でなくても出来ること
そんなのは間違ってるのよ人として”
B・J「婆ちゃんは・・・こんなでっかいお屋敷に今まで住んできて
・・・腹が減って腹が減って、死にそうになったことがないか
ら、そんな綺麗事が言えるんだ・・・」
ミセスアダムス「B・J・・・」
B・J“昨日も一昨日も食べてない
明日も明後日も空腹だ
だからパンを盗むんだ
だからゴミ箱漁るんだ!”
B・J「父ちゃん母ちゃんが死んじまって・・・院長先生に拾われる
まで・・・俺は生きる為に毎日毎日必死だった・・・。いつ死
ぬんだろ・・・いつ父ちゃんや母ちゃんのとこに行く日が来る
んだろって、そればっか考えてたんだ!!礼儀作法なんか
糞くらえだ!!そんなの何の腹の足しにもなんねぇ!!(
背を向ける。)」
ミセスアダムス、B・Jに近寄りそっと
抱き寄せる。
ミセスアダムス「そうね・・・ごめんなさい。」
B・J「・・・婆ちゃん・・・」
ミセスアダムス「私は恵まれた生活をしてきたのね・・・。今まで
辛い思いをしてきたあなたの苦労を、全部は分
かってあげられないかも知れないわ・・・。でもね
B・J・・・いくら今までがそうでも、これからのあな
たの人生にとって、今から学ぶ礼儀作法やマナ
ーは、きっと役に立ったと思う時がくる筈よ。だか
ら私と一緒に、色々お勉強しましょう。どう?」
B・J「婆ちゃん・・・うん・・・あ・・・はい・・・」
ミセスアダムス、微笑んでB・Jを見る。
暗転。
――――― 第 5 場 ――――― A
前方下手スポットにバート、浮かび上がる。
バート「さて、それからの奥様と言うもの・・・昨日までのベッドで
塞ぎ込んでいた様子とは打って変わって、我々が見てい
ても生き生きとB・Jお坊ちゃんの教育に夢中になってお
いでのご様子でありました。当のB・Jお坊ちゃんと言うと
、最初の頃は色々と問題を起こされたりしておいででした
が、夏休みも半分を過ぎた頃からでしょうか、外見は誰が
見ても良家のお坊ちゃまと言った風情を醸し出し、お屋敷
へ来られた頃に比べると、見違えるような成長ぶりでござ
いました。」
――――― 第 5 場 ――――― B
舞台明るくなる。と、屋敷の食堂。
ミセスアダムスとB・J、向かい合って
座り、食事をしている。
(ルーシー、時々出入りして、給仕を
している。)
ミセスアダムス「(B・Jの食事風景を、微笑ましく見ている。)随
分、ナイフとフォークの使い方が上手くなったこ
と・・・」
B・J「・・・え?(ナイフとフォークを持つ、両手を見る。)」
ミセスアダムス「だって、ここへ来た当初は何でも手掴みで食べ
ていたあなたが、今はそうやってナイフとフォー
クを使って、きちんとお食事をしているわ。音も
立てずにね。」
B・J「(口に運ぼうとしていたフォークから、食べ物が転がり落ち
る。)あ・・・!!(慌てて椅子から下り、床に転がった食べ
物を拾い、思わず口に入れようとする。)」
ミセスアダムス「B・J!」
B・J「(テーブルの下から顔を出し、気まずそうに舌を出す。)」
ミセスアダムス「褒めた側からそれでは困りますよ!」
B・J「・・・ごめんなさい・・・(椅子に座る。)」
ミセスアダムス「まぁ・・・それにしても随分な成長ぶりですよ。グ
レイ先生が次に来られた時には、あなたの様子
を見てきっと驚かれることでしょう。」
B・J「兄ちゃんがお医者様だったなんて・・・」
ミセスアダムス「ええ、グレイ先生はとても腕のいいお医者様で
ね。以前はK大学病院にお勤めになられていた
のだけれど・・・」
B・J「・・・以前は・・・?」
ミセスアダムス「今は辞めておしまいになられたのよ。先生は、
K大学病院の頃から私の主治医の先生で、ずっ
と頼りにして、診て頂いていたのだけれど、突然
お辞めになられると言うので、先生の腕と人柄
に全信頼を寄せる私も、先生の後を追って今で
は公園の簡易治療所の患者の一人と言う訳で
すよよ。(笑う。)」
B・J「え?」
ミセスアダムス「ほら、あの街外れの木が沢山、生い茂ってとて
も美しい公園・・・」
B・J「あの公園だ・・・」
ミセスアダムス「若いのに腕は確かで、あのまま大学病院に残
っていれば、将来は教授の椅子も夢ではないと
言われる程の、優秀な先生だったのだけれど・・・
(クスッと笑う。)変わった先生でね・・・公園のベ
ンチでいつもゴロゴロしているのを聞きつけた、
具合の悪い人達がいつの間にか集まって来る
ようになって・・・気付けば俄診療所が出来上が
ってるんですよ・・・。しかもお金なんか一切貰わ
ずに、無料で診てくれる腕のいいお医者様と評
判が評判を呼んで、今ではいつお休みになられ
てるのかと、こちらが心配になるくらい、毎日毎
日沢山の患者さんを診ていらっしゃるのよ・・・」
B・J「けど・・・僕が出会った時は誰も・・・」
ミセスアダムス「ああ・・・きっと休憩時間だったのね。(笑う。)」
B・J「休憩時間・・・?」
ミセスアダムス「ええ、いつでも自分のお休みなんかは二の次
に、患者さんがいると聞けばどこへでも飛んで行
くような先生でしょ?公園へもひっきりなしに病
人が来るものだから、お休みになる暇がない先
生を、回りの皆が心配してお昼寝の間だけは、
先生にゆっくり休んで頂く為に、あのベンチで横
になられている時は、誰も声をかけたりはしない
のよ。」
B・J「そうなんだ・・・」
ミセスアダムス「勿論、先生はそんなことをお知りにはならない
わ。だってそんなことをお知りになったら、きっと
もっとご自分からウロウロと病人を捜しに行って
しまわれるような先生だから・・・」
その時、上手よりバート登場。
バート「奥様、グレイ先生がお見えになりました。」
B・J「兄ちゃんが!?」
ミセスアダムス「まぁ、久しぶりだこと。バート、こちらへお通しし
て。ルーシー、先生のお席を用意して頂戴。」
バート、頭を下げて一旦上手へ去る。
ルーシー「はい、奥様。」
ルーシー、後方棚の上から食器を取り、
テーブルの上へ並べる。
一時置いて、上手よりジム登場。
B・J「兄ちゃん!!」
ジム「よぉ、元気だったか?」
B・J「何だよ!!ちっとも来てくれないで!!」
ジム「(笑う。)悪い悪い。」
ミセスアダムス「本当ですよ、グレイ先生。B・Jを我が家によこ
しておいたまま、一度も顔を見せないなんて。」
ジム「ミセスアダムス、申し訳ありません。少し大学の方から頼
まれごとがあって・・・。」
ミセスアダムス「まぁ・・・」
ジム「それにしてもミセスアダムス、随分と顔色が以前と違って
見違えるように明るいですね。B・J効果ですか?(笑う。)」
B・J「なっ・・・何だよ、兄ちゃん!B・J効果って!」
ミセスアダムス「そうかしらね。確かに近頃の私は、以前の私と
は打って変わって、寝込む暇がない程、忙しくし
ておりますからね。(笑う。)」
ジム「それは何よりです、ミセスアダムス。(B・Jを見て。)おまえ
も随分と垢抜けたじゃないか。そうやってナイフとフォークを
手に、黙ってテーブルについている姿は、いいところのお坊
ちゃまだと言われれば、何の疑いもなく皆が信じてしまうだ
ろうな。」
B・J「・・・本当に?」
ジム「ああ。(微笑む。)」
B・J「へへ・・・(照れ笑いする。)」
ミセスアダムス「グレイ先生、お席を用意させましたから、一緒
に昼食をお召し上がりになって下さいね。」
ジム「それは有り難いのですが、今日はまた午後から大学でオ
ペがあるので・・・」
ミセスアダムス「まぁ・・・お忙しいのね・・・。先生はまた大学へ
お戻りになられるおつもりですの?」
ジム「いえ、そのつもりは全くありませんよ。僕はこれからも公園
の俄診療所の医師を続けていくつもりです。ただ大学では
とてもお世話になってきて、今の僕がある訳ですから・・・。
僕を必要と言ってくれるのであれば、いくらでも協力は惜し
まないつもりにしているのです。」
ミセスアダムス「そう・・・」
B・J「・・・もう帰っちゃうんだ・・・」
ジム「何しょぼくれてんだよ。(笑う。)」
B・J「しょ・・・しょぼくれてなんか・・・!!」
ジム「おまえがそんなに、俺と会えなくて淋しいと思ってくれてる
なんて知らなかったなぁ。」
B・J「う・・・うるせぇ・・・!!」
ジム「(微笑む。)そんな顔すんなよ。今日はその変わり・・・おま
えに友達を連れて来てやったんだ。」
B・J「・・・友達・・・?」
ジム「(上手方を見て、手を上げる。)おい!」
声「はい!」
その時、上手よりきちんとした身形の
一人の少年(マーク)登場。
ジム「マーク!こっちだ。」
マーク「はい、先生。」
ミセスアダムス「まぁ・・・マークじゃないの。」
マーク「お久しぶりです、お祖母様。ご機嫌は如何ですか?」
ミセスアダムス「ええ、ありがとう。この通り元気ですよ。」
ジム「B・J!こいつはミセスアダムスの遠い親戚に当たる、マー
ク・ジョセフ・アダムス。歳は幾分おまえより上だが・・・同じ
男同士、仲良くなれるんじゃないかと思ってさ。」
マーク「こんにちは!君がB・J?」
B・J「(下を向いたまま頷く。)」
マーク「よろしく、B・J!(手を差し出す。手を出すのを躊躇うB・
Jの手を取り握る。一瞬怪訝な面持ちをするが、直ぐに笑
顔に戻る。)」
ミセスアダムス「それにしてもマーク・・・暫く見ないうちに、随分
立派な男の子になって・・・。」
マーク「いえ、僕なんかまだまだですよ、お祖母様。」
ミセスアダムス「お父様、お母様はお変わりなくお過ごし?」
マーク「はい、父も母もお祖母様に宜しくと申しておりました。」
ミセスアダムス「そう・・・。嘸かしお父様、お母様はあなたのこと
を、頼りになさっているのでしょうね。」
マーク「いえ、そんな・・・」
ジム「今度マークは、K大附属のハイスクールに合格して、あの
小生意気だったハナタレ小僧が、僕の後輩になると言う訳
ですよ。」
ミセスアダムス「まぁ・・・それはおめでとう。」
マーク「ありがとうございます、お祖母様。でも、嫌だなジム先生
、ハナタレだなんて。ジム先生のようになりたくて、頑張っ
てきて、無事後を追うことが出来ると決まって、僕として
は感慨もひとしおだと言うのに。」
ジム「それで大学の近くに下宿することになって、昨日こっちへ
出て来たと言う訳なのです。」
ミセスアダムス「あら、下宿などせずにうちへ来ればいいのに。」
マーク「ありがとうございます。けど一度、父や母やばあやなど
と離れ、自分一人の力で生活してみたかったのです。」
ミセスアダムス「・・・そうなの・・・?」
マーク「はい。お祖母様のお側にいては、きっと甘えてしまって、
僕はこのまま成長できないでしょうから・・・。」
ミセスアダムス「あなたに限って、そんなことはないと思うけれ
ど・・・」
ジム「マークは歳の割に、しっかりとした自分なりの考えを持っ
ていますからね、きっと大丈夫ですよ。」
ミセスアダムス「そうね。でもいつでも遊びに来て頂戴ね。あな
たが来てくれると、私もB・Jもとても嬉しいわ。(
B・Jに向いて。)ね、そうでしょ?」
マーク「はい、お祖母様、ありがとうございます。」
ミセスアダムス「B・J、あなたのお部屋でマークに色々と教わっ
てはどう?きっとあなたの知らないお話しを、沢
山聞かせてくれると思うわ。」
ジム「そうですね。(B・Jに。)こいつは意外と博学多才な奴なん
だぞ。」
マーク「そんな先生、僕は・・・」
B・J「・・・俺・・・忙しいからいい!!(下手へ走り去る。)」
ミセスアダムス「B・J・・・?」
ジム「どうしたんだ、あいつ・・・」
ミセスアダムス「本当・・・」
マーク「・・・あの子・・・」
ジム「ん?」
マーク「いえ・・・別に・・・」
暗転。(紗幕閉まる。)
――――― “Thank you!B・J”4 へつづく ―――――
2013年6月27日木曜日
“Thank you!B・J” ―全○場― 2
――――― 第 3 場 ―――――
舞台、明るくなると1場の公園の様子。
(ベンチにジム、寝っ転がっている。)
B・J、ジムを認め、一瞬、躊躇したように
立ち止まる。が、意を決したように近寄る。
B・J「・・・やっぱりここにいた・・・兄ちゃん・・・」
ジム「・・・う・・・ん・・・」
B・J「兄ちゃん・・・!」
ジム「・・・ん・・・」
B・J「兄ちゃん!!」
ジム「・・・煩いな・・・」
B・J「起きろよ!!」
ジム「もう、何だよ!!(目を覚ます。)・・・何だ・・・昨日の餓鬼
じゃないか・・・。何か用か・・・?俺の一番のリラックスタイ
ムに、邪魔すんなよな・・・。また悪いことやったんじゃない
だろうな・・・」
B・J「やってねぇよ!!・・・」
ジム「本当だろうな・・・?」
B・J「何、疑ってんだよ!!俺は嘘は吐かねぇ!!」
ジム「・・・どうしたんだよ・・・」
B・J「うん・・・え・・・っと・・・」
ジム「何だよ。」
B・J「・・・昨日の話し・・・」
ジム「え・・・?」
B・J「独りぼっちの婆さんとこ・・・行くってやつ・・・」
ジム「ああ・・・。そうか、行く気になったのか?」
B・J「あれ・・・男として・・・だよな・・・」
ジム「ばぁか!男としてってどう言う意味だよ。兎に角、婆さん
家に行けば、おまえのその無作法を正してくれるだろう。ナ
イフとフォークの持ち方を習うのに、男女の別があるのか
?挨拶の仕方が違う訳ないだろ?礼儀作法に男も女も関
係ないんだ。変なこと聞く奴だな。(笑う。)」
B・J「う・・・ん・・・。・・・それで・・・そいつは・・・いくらなんだよ・・・
」
ジム「いくら・・・?タダに決まってるだろ!?パンを買う金もない
奴に、金のいる話しをする訳がない。アルバイト・・・って言
ってるだろ?おまえ、アルバイトの意味分かってるか?」
B・J「わ・・・分かってらぁ、そんなこと・・・!」
ジム「ただ、夏休みが終わって、自分の生活に戻っても、週末に
時々元気な顔を婆さんに見せてやればいいんだよ。」
B・J「・・・分かったよ・・・俺・・・行くよ・・・俺、その婆ちゃんのとこ
、行ってやることにする・・・!」
ジム「よし、決まった!それじゃあ、おまえの前途を祝して乾杯
といくか!」
ジム、横に置いてあった鞄の中から、
紙コップを取り出し、1つをB・Jへ差し
出す。
ジム「ほれ、持ってな。」
B・J「・・・う・・・うん・・・」
ジム、鞄の中からペットボトルを取り出し、
B・Jの紙コップへ半分注ぎ、残りを自分の
持っていた紙コップへ注ぐ。
ジム「さ、乾杯だ!!(紙コップをB・Jの方へ差し出し、中身を
一気に飲み干す。)ほれ、おまえも飲め飲め!」
B・J「あ・・・うん・・・(紙コップを見て。)え・・・?こ・・・この紙コッ
プ・・・」
ジム「ん・・・?何か問題あるか?」
B・J「も・・・問題って・・・このメモリ・・・」
ジム「メモリ?メモリがどうしたんだ?量が分かってちょいと便利
だろ?(笑う。)」
B・J「ばっ・・・!この紙コップ、病院なんかで検査の時にトイレ
で使う・・・あれじゃねぇか!!」
ジム「(笑う。)大丈夫、大丈夫!まだ使用前の新しいのだから、
なんてことないただの紙コップと一緒だ。」
B・J「使用前ってったって・・・!!」
ジム「細かいことは気にするな!」
B・J「だって・・・」
音楽流れ、B・Jの背に手をかけ、
ジム歌う。(紗幕閉まる。)
“さぁ始めよう 新しい人生!
昨日までと同じようで全く違う
朝陽が昇るんだ
さぁ希望溢れる待ちに待った人生!
この手で切り開くんだ未来を
明日が来ない日なんてない
そう信じていれば
この世はバラ色
幸せは自分の手で掴むんだ
ちっぽけなチャンスを物にしろ!”
ジム「さぁ、行くぞ!!」
ジム、上手へ走り去る。
B・J「あ・・・待って・・・待てよ!!おい!!」
B・J、上手方へ行きかけて、立ち止まる。
歌う。
“ホントにこの俺が・・・
あの人の言うように・・・
ちゃんとした身形の
言葉遣いも丁寧な・・・
そんな奴に生まれ変われる・・・?
ホントにたった今まで
着の身着のまま好き放題
自由気儘に生きてきた
俺が生まれ変われるの・・・?”
B・J「あ・・・(上手方を見て。)待ってくれよ、兄ちゃーん!!」
B・J、慌てて紙コップの飲み物を飲み干し、
ジムを追い掛けるように上手へ走り去る。
音楽盛り上がって、暗転。
――――― 第 4 場 ――――― A
後方段上、下手スポットに老婦人
(ミセスアダムス。)、ベッドに横になって
いる。
横に白衣を着た医師、客席に背を向け
座る。
ミセスアダムス「先生・・・私はもう何だか生きる張り合いがなく
て・・・毎日毎日こうしてベッドの中で、早くお迎え
が来ないかと、そればかり考えているんですよ
・・・」
医師「ミセスアダムス、そんな風に落ち込んでばかりいても、仕
方がないですよ。もっとこう前向きに・・・」
ミセスアダムス「でも先生・・・今まで私の回りは、孫達の笑顔が
いつも溢れていて、毎日がとても生き生きとして
いたのですよ・・・。それが今では・・・この広い屋
敷がただ恨めしくて・・・」
医師「何か生きがいを探されたら如何です?」
ミセスアダムス「・・・生きがい・・・?」
医師「ええ。もう一度このお屋敷を、明るく笑いの絶えない場所
にするのです。」
ミセスアダムス「・・・そのような場所になど、出来るのでしょうか
・・・」
医師「そうだ、ミセスアダムス、僕にいい考えがあります。少し時
間を頂けますか?」
ミセスアダムス「・・・先生・・・ええ・・・時間ならいくらでも差し上
げますよ・・・。もし本当にそのような場所が、再
び戻るのであれば・・・」
医師「(立ち上がり振り返ると、ジム。)はい、勿論!」
後方段上、下手スポット、フェード・アウト。
入れ代わり、後方段上、上手スポットに
身奇麗ななりの七三分けしたB・J、幾分
緊張した面持ちで立つ。横にはシスター。
シスター「まぁ、見違えるようですよB・J。本当によかったこと・・・
。たとえ夏のバカンスの間だけでも、あなたを引き取っ
て下さると言う、奇特な方が見つかって・・・。いいです
ね、B・J、ミセスアダムスのお宅では、ホームと同じよ
うに振舞っては駄目ですからね。」
B・J「ホームと同じって・・・何だよ・・・しねぇよ、そんなこと・・・!
」
シスター「しっ!その言葉遣いもね。“しねぇ”ではなく、“しませ
ん”と言うの。」
B・J「・・・し・・・ません・・・先生・・・」
シスター「そう!そうやってきちんとした洋服に身を包んで、丁
寧な言葉遣いで話すあなたは、ネリーや他の子となん
ら変わりなく見えますよ。」
B・J「ネリーや・・・みんなと・・・」
シスター「お行儀良くね・・・。夏休みが終わるまで、ちゃんとお世
話になるのですよ。」
B・J「・・・はい・・・先生・・・」
後方段上、上手スポットフェード・アウト。
――――― 第 4 場 ――――― B
音楽流れ、舞台明るくなる。(紗幕開く。)と、
中央階段のあるミセスアダムス邸。
上手、下手より其々メイド(ルーシー。)、
執事(バート。)が登場。歌う。
なんとなく、舞台イメージが分かって頂ける
でしょうか・・・?(^^;
“ようこそいらっしゃいました
ここは裕福なアダムス邸
ようこそおいで下さいました
誰もが羨むアダムス邸
大きな塀に囲まれた
ここは楽園アダムス邸
煌びやかなシャンデリアに
金の食器
大理石で出来た床はピカピカ
赤い毛氈ひいてお出迎え
ご主人様はミセスアダムス!!”
バート、ルーシー、中央階段上を指し示し、
ポーズを決める。
ルーシー「はぁあ・・・ご主人様は今日もベッドでお休み・・・毎日
毎日寝たきりで、本当、大丈夫なのかしら・・・」
バート「仕方あるまい・・・。ついこの間まで賑やかで、明るかった
お屋敷が今はこの通り・・・ネズミの足音すら聞こえはしな
いのだから・・・」
ルーシー「あら、バートさん、このお屋敷の中に、ネズミなんてい
やしませんわよ。」
バート「まぁ、まぁルーシー、例えだよ例え・・・」
ルーシー「そうですわね・・・今はシーンとして・・・お子様達の笑
い声に包まれてたこの間までが、丸で嘘のよう・・・」
バート「本当だな・・・」
ルーシー「それよりバートさん、お客様がお見えになられますの
?お部屋の用意をしろだなどと・・・」
バート「ああ、そうだよ。何でもグレイ先生の紹介で、夏のバカン
スの間、この屋敷で預かることになった子どもが来るらし
いのだ。」
ルーシー「子ども・・・ですか?」
バート「うむ・・・。具合の良くない奥様がいるこの屋敷で、何の
もてなしも出来ぬからと、お断り申したのだが、先生がど
うしてもと仰ってな・・・。ただ預かって、一緒に生活をさせ
てくれればそれでいいからと・・・」
ルーシー「どういったお子様なのかしら・・・」
バート「さぁ・・・それは私にも分からないが・・・グレイ先生の知り
合いなら、何の問題もないだろう。おまえ、その子の世話
を頼むよ。」
ルーシー「はい、バートさん。」
2人、話しながら下手へ去る。
一時置いて中央階段上、メイド登場。
つづいてB・J、回りを見回しながら
ゆっくり登場。
メイド「さぁ、こっちよ。ご主人様をお呼びしてくるから、あなたは
少しここで待ってて頂戴ね。」
B・J「うん・・・」
メイド、段上下手へ去る。
B・J、回りをキョロキョロ見回しながら、
階段を下りて来る。
B・J「わぁーっ・・・おっきな屋敷だなぁ・・・あのでっかいシャンデ
リア!もの凄く綺麗だ・・・!!へぇーっ・・・!!この花瓶!
!なんて重そうなんだ!!割ったら院長先生に大目玉を
食うぞ!!(笑う。横に置いてあるソファーの側へ。触って
みる。)うわっ・・・なんてフカフカなんだ!!こんなソファー
に生まれてから一度だって座ったことねぇや・・・!!すげ
ぇなぁ・・・」
音楽流れ、B・J、歌う。
“なんて豪華なお屋敷だ
キラキラ輝く装飾品
床はピカピカツルツルだ
ソファーはフカフカ体が沈む
こんな贅沢見たことねぇ!!”
B・J、思わずソファーの上へ上がり、
ジャンプして遊ぶ。
その時、下手より車椅子に乗った、
ミセスアダムス登場。
ミセスアダムス「(B・Jの様子に唖然と。咳払いする。)」
B・J「あ・・・(ミセスアダムスに気付き、気不味い面持ちでソファ
ーから下りる。小声で。)やっべ・・・」
ミセスアダムス「あなたがB・Jね。」
B・J「う・・・うん・・・」
ミセスアダムス「お返事は“はい”ですよ、B・J。」
B・J「はぁい・・・」
ミセスアダムス「“はぁい”と伸ばすのではありません、“はい”で
す!」
B・J「イエス サー!!」
ミセスアダムス「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・あなたは今ま
でどんな教育を受けてきたのかしら・・・」
下手よりルーシー、盆の上にティーカップと
お菓子を乗せて運んで来る。
B・J「わぁーっ!!(ルーシーに駆け寄る。)姉ちゃん!これ食っ
ていいか?」
ルーシー「(驚いて。)ね・・・姉ちゃんではありません!ルーシー
と申します!」
B・J「ルーシー・・・姉ちゃん?」
ルーシー「姉ちゃんはいりません!」
B・J「ふぅん・・・。まぁどっちでもいいや!これ食ってもいいよな
!(ルーシーの持っていた盆の上から、お菓子を2つ両手
の取り食べる。)わぁーっ・・・うめぇ!!こんな美味いクッキ
ー食べたことねぇや!!いいなぁ・・・金持ちって!!」
ミセスアダムス「グレイ先生の勧めで、安易に引き受けてしまっ
たけれど・・・大丈夫なのかしら・・・本当に・・・」
B・J「婆ちゃん!婆ちゃんも食べなよ!(1つのクッキーをミセス
アダムスに差し出す。)」
ミセスアダムス「・・・(B・Jが素手で持つクッキーを見て。)私は
結構ですよ・・・。それと・・・私のことは婆ちゃん
ではなく、ミセスアダムスと・・・」
B・J「婆ちゃん!婆ちゃんはこんな広い屋敷に今まで独りぼっち
・・・じゃあないか、ルーシー達がいるもんな!けど、それに
しても広い屋敷で、一体毎日何して遊んでんだい?」
ミセスアダムス「遊んでなどおりません!あなたは今日から2ヶ
月間、みっちりと礼儀作法を学ばなければなり
ませんよ、B・J!」
B・J「礼儀・・・あ・・・うん・・・」
ミセスアダムス「“うん”ではありません、お返事は・・・」
B・J「はいっ!!」
ミセスアダムス「・・・よろしい・・・」
――――― “Thank you!B・J”3へつづく ―――――
舞台、明るくなると1場の公園の様子。
(ベンチにジム、寝っ転がっている。)
B・J、ジムを認め、一瞬、躊躇したように
立ち止まる。が、意を決したように近寄る。
B・J「・・・やっぱりここにいた・・・兄ちゃん・・・」
ジム「・・・う・・・ん・・・」
B・J「兄ちゃん・・・!」
ジム「・・・ん・・・」
B・J「兄ちゃん!!」
ジム「・・・煩いな・・・」
B・J「起きろよ!!」
ジム「もう、何だよ!!(目を覚ます。)・・・何だ・・・昨日の餓鬼
じゃないか・・・。何か用か・・・?俺の一番のリラックスタイ
ムに、邪魔すんなよな・・・。また悪いことやったんじゃない
だろうな・・・」
B・J「やってねぇよ!!・・・」
ジム「本当だろうな・・・?」
B・J「何、疑ってんだよ!!俺は嘘は吐かねぇ!!」
ジム「・・・どうしたんだよ・・・」
B・J「うん・・・え・・・っと・・・」
ジム「何だよ。」
B・J「・・・昨日の話し・・・」
ジム「え・・・?」
B・J「独りぼっちの婆さんとこ・・・行くってやつ・・・」
ジム「ああ・・・。そうか、行く気になったのか?」
B・J「あれ・・・男として・・・だよな・・・」
ジム「ばぁか!男としてってどう言う意味だよ。兎に角、婆さん
家に行けば、おまえのその無作法を正してくれるだろう。ナ
イフとフォークの持ち方を習うのに、男女の別があるのか
?挨拶の仕方が違う訳ないだろ?礼儀作法に男も女も関
係ないんだ。変なこと聞く奴だな。(笑う。)」
B・J「う・・・ん・・・。・・・それで・・・そいつは・・・いくらなんだよ・・・
」
ジム「いくら・・・?タダに決まってるだろ!?パンを買う金もない
奴に、金のいる話しをする訳がない。アルバイト・・・って言
ってるだろ?おまえ、アルバイトの意味分かってるか?」
B・J「わ・・・分かってらぁ、そんなこと・・・!」
ジム「ただ、夏休みが終わって、自分の生活に戻っても、週末に
時々元気な顔を婆さんに見せてやればいいんだよ。」
B・J「・・・分かったよ・・・俺・・・行くよ・・・俺、その婆ちゃんのとこ
、行ってやることにする・・・!」
ジム「よし、決まった!それじゃあ、おまえの前途を祝して乾杯
といくか!」
ジム、横に置いてあった鞄の中から、
紙コップを取り出し、1つをB・Jへ差し
出す。
ジム「ほれ、持ってな。」
B・J「・・・う・・・うん・・・」
ジム、鞄の中からペットボトルを取り出し、
B・Jの紙コップへ半分注ぎ、残りを自分の
持っていた紙コップへ注ぐ。
ジム「さ、乾杯だ!!(紙コップをB・Jの方へ差し出し、中身を
一気に飲み干す。)ほれ、おまえも飲め飲め!」
B・J「あ・・・うん・・・(紙コップを見て。)え・・・?こ・・・この紙コッ
プ・・・」
ジム「ん・・・?何か問題あるか?」
B・J「も・・・問題って・・・このメモリ・・・」
ジム「メモリ?メモリがどうしたんだ?量が分かってちょいと便利
だろ?(笑う。)」
B・J「ばっ・・・!この紙コップ、病院なんかで検査の時にトイレ
で使う・・・あれじゃねぇか!!」
ジム「(笑う。)大丈夫、大丈夫!まだ使用前の新しいのだから、
なんてことないただの紙コップと一緒だ。」
B・J「使用前ってったって・・・!!」
ジム「細かいことは気にするな!」
B・J「だって・・・」
音楽流れ、B・Jの背に手をかけ、
ジム歌う。(紗幕閉まる。)
“さぁ始めよう 新しい人生!
昨日までと同じようで全く違う
朝陽が昇るんだ
さぁ希望溢れる待ちに待った人生!
この手で切り開くんだ未来を
明日が来ない日なんてない
そう信じていれば
この世はバラ色
幸せは自分の手で掴むんだ
ちっぽけなチャンスを物にしろ!”
ジム「さぁ、行くぞ!!」
ジム、上手へ走り去る。
B・J「あ・・・待って・・・待てよ!!おい!!」
B・J、上手方へ行きかけて、立ち止まる。
歌う。
“ホントにこの俺が・・・
あの人の言うように・・・
ちゃんとした身形の
言葉遣いも丁寧な・・・
そんな奴に生まれ変われる・・・?
ホントにたった今まで
着の身着のまま好き放題
自由気儘に生きてきた
俺が生まれ変われるの・・・?”
B・J「あ・・・(上手方を見て。)待ってくれよ、兄ちゃーん!!」
B・J、慌てて紙コップの飲み物を飲み干し、
ジムを追い掛けるように上手へ走り去る。
音楽盛り上がって、暗転。
――――― 第 4 場 ――――― A
後方段上、下手スポットに老婦人
(ミセスアダムス。)、ベッドに横になって
いる。
横に白衣を着た医師、客席に背を向け
座る。
ミセスアダムス「先生・・・私はもう何だか生きる張り合いがなく
て・・・毎日毎日こうしてベッドの中で、早くお迎え
が来ないかと、そればかり考えているんですよ
・・・」
医師「ミセスアダムス、そんな風に落ち込んでばかりいても、仕
方がないですよ。もっとこう前向きに・・・」
ミセスアダムス「でも先生・・・今まで私の回りは、孫達の笑顔が
いつも溢れていて、毎日がとても生き生きとして
いたのですよ・・・。それが今では・・・この広い屋
敷がただ恨めしくて・・・」
医師「何か生きがいを探されたら如何です?」
ミセスアダムス「・・・生きがい・・・?」
医師「ええ。もう一度このお屋敷を、明るく笑いの絶えない場所
にするのです。」
ミセスアダムス「・・・そのような場所になど、出来るのでしょうか
・・・」
医師「そうだ、ミセスアダムス、僕にいい考えがあります。少し時
間を頂けますか?」
ミセスアダムス「・・・先生・・・ええ・・・時間ならいくらでも差し上
げますよ・・・。もし本当にそのような場所が、再
び戻るのであれば・・・」
医師「(立ち上がり振り返ると、ジム。)はい、勿論!」
後方段上、下手スポット、フェード・アウト。
入れ代わり、後方段上、上手スポットに
身奇麗ななりの七三分けしたB・J、幾分
緊張した面持ちで立つ。横にはシスター。
シスター「まぁ、見違えるようですよB・J。本当によかったこと・・・
。たとえ夏のバカンスの間だけでも、あなたを引き取っ
て下さると言う、奇特な方が見つかって・・・。いいです
ね、B・J、ミセスアダムスのお宅では、ホームと同じよ
うに振舞っては駄目ですからね。」
B・J「ホームと同じって・・・何だよ・・・しねぇよ、そんなこと・・・!
」
シスター「しっ!その言葉遣いもね。“しねぇ”ではなく、“しませ
ん”と言うの。」
B・J「・・・し・・・ません・・・先生・・・」
シスター「そう!そうやってきちんとした洋服に身を包んで、丁
寧な言葉遣いで話すあなたは、ネリーや他の子となん
ら変わりなく見えますよ。」
B・J「ネリーや・・・みんなと・・・」
シスター「お行儀良くね・・・。夏休みが終わるまで、ちゃんとお世
話になるのですよ。」
B・J「・・・はい・・・先生・・・」
後方段上、上手スポットフェード・アウト。
――――― 第 4 場 ――――― B
音楽流れ、舞台明るくなる。(紗幕開く。)と、
中央階段のあるミセスアダムス邸。
上手、下手より其々メイド(ルーシー。)、
執事(バート。)が登場。歌う。
なんとなく、舞台イメージが分かって頂ける
でしょうか・・・?(^^;
“ようこそいらっしゃいました
ここは裕福なアダムス邸
ようこそおいで下さいました
誰もが羨むアダムス邸
大きな塀に囲まれた
ここは楽園アダムス邸
煌びやかなシャンデリアに
金の食器
大理石で出来た床はピカピカ
赤い毛氈ひいてお出迎え
ご主人様はミセスアダムス!!”
バート、ルーシー、中央階段上を指し示し、
ポーズを決める。
ルーシー「はぁあ・・・ご主人様は今日もベッドでお休み・・・毎日
毎日寝たきりで、本当、大丈夫なのかしら・・・」
バート「仕方あるまい・・・。ついこの間まで賑やかで、明るかった
お屋敷が今はこの通り・・・ネズミの足音すら聞こえはしな
いのだから・・・」
ルーシー「あら、バートさん、このお屋敷の中に、ネズミなんてい
やしませんわよ。」
バート「まぁ、まぁルーシー、例えだよ例え・・・」
ルーシー「そうですわね・・・今はシーンとして・・・お子様達の笑
い声に包まれてたこの間までが、丸で嘘のよう・・・」
バート「本当だな・・・」
ルーシー「それよりバートさん、お客様がお見えになられますの
?お部屋の用意をしろだなどと・・・」
バート「ああ、そうだよ。何でもグレイ先生の紹介で、夏のバカン
スの間、この屋敷で預かることになった子どもが来るらし
いのだ。」
ルーシー「子ども・・・ですか?」
バート「うむ・・・。具合の良くない奥様がいるこの屋敷で、何の
もてなしも出来ぬからと、お断り申したのだが、先生がど
うしてもと仰ってな・・・。ただ預かって、一緒に生活をさせ
てくれればそれでいいからと・・・」
ルーシー「どういったお子様なのかしら・・・」
バート「さぁ・・・それは私にも分からないが・・・グレイ先生の知り
合いなら、何の問題もないだろう。おまえ、その子の世話
を頼むよ。」
ルーシー「はい、バートさん。」
2人、話しながら下手へ去る。
一時置いて中央階段上、メイド登場。
つづいてB・J、回りを見回しながら
ゆっくり登場。
メイド「さぁ、こっちよ。ご主人様をお呼びしてくるから、あなたは
少しここで待ってて頂戴ね。」
B・J「うん・・・」
メイド、段上下手へ去る。
B・J、回りをキョロキョロ見回しながら、
階段を下りて来る。
B・J「わぁーっ・・・おっきな屋敷だなぁ・・・あのでっかいシャンデ
リア!もの凄く綺麗だ・・・!!へぇーっ・・・!!この花瓶!
!なんて重そうなんだ!!割ったら院長先生に大目玉を
食うぞ!!(笑う。横に置いてあるソファーの側へ。触って
みる。)うわっ・・・なんてフカフカなんだ!!こんなソファー
に生まれてから一度だって座ったことねぇや・・・!!すげ
ぇなぁ・・・」
音楽流れ、B・J、歌う。
“なんて豪華なお屋敷だ
キラキラ輝く装飾品
床はピカピカツルツルだ
ソファーはフカフカ体が沈む
こんな贅沢見たことねぇ!!”
B・J、思わずソファーの上へ上がり、
ジャンプして遊ぶ。
その時、下手より車椅子に乗った、
ミセスアダムス登場。
ミセスアダムス「(B・Jの様子に唖然と。咳払いする。)」
B・J「あ・・・(ミセスアダムスに気付き、気不味い面持ちでソファ
ーから下りる。小声で。)やっべ・・・」
ミセスアダムス「あなたがB・Jね。」
B・J「う・・・うん・・・」
ミセスアダムス「お返事は“はい”ですよ、B・J。」
B・J「はぁい・・・」
ミセスアダムス「“はぁい”と伸ばすのではありません、“はい”で
す!」
B・J「イエス サー!!」
ミセスアダムス「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・あなたは今ま
でどんな教育を受けてきたのかしら・・・」
下手よりルーシー、盆の上にティーカップと
お菓子を乗せて運んで来る。
B・J「わぁーっ!!(ルーシーに駆け寄る。)姉ちゃん!これ食っ
ていいか?」
ルーシー「(驚いて。)ね・・・姉ちゃんではありません!ルーシー
と申します!」
B・J「ルーシー・・・姉ちゃん?」
ルーシー「姉ちゃんはいりません!」
B・J「ふぅん・・・。まぁどっちでもいいや!これ食ってもいいよな
!(ルーシーの持っていた盆の上から、お菓子を2つ両手
の取り食べる。)わぁーっ・・・うめぇ!!こんな美味いクッキ
ー食べたことねぇや!!いいなぁ・・・金持ちって!!」
ミセスアダムス「グレイ先生の勧めで、安易に引き受けてしまっ
たけれど・・・大丈夫なのかしら・・・本当に・・・」
B・J「婆ちゃん!婆ちゃんも食べなよ!(1つのクッキーをミセス
アダムスに差し出す。)」
ミセスアダムス「・・・(B・Jが素手で持つクッキーを見て。)私は
結構ですよ・・・。それと・・・私のことは婆ちゃん
ではなく、ミセスアダムスと・・・」
B・J「婆ちゃん!婆ちゃんはこんな広い屋敷に今まで独りぼっち
・・・じゃあないか、ルーシー達がいるもんな!けど、それに
しても広い屋敷で、一体毎日何して遊んでんだい?」
ミセスアダムス「遊んでなどおりません!あなたは今日から2ヶ
月間、みっちりと礼儀作法を学ばなければなり
ませんよ、B・J!」
B・J「礼儀・・・あ・・・うん・・・」
ミセスアダムス「“うん”ではありません、お返事は・・・」
B・J「はいっ!!」
ミセスアダムス「・・・よろしい・・・」
――――― “Thank you!B・J”3へつづく ―――――
2013年6月24日月曜日
“Thank you!B・J” ―全○場―
――――― 第 1 場 ―――――
音楽流れ、幕が上がる。
と、舞台中央、一つのベンチが置いてある
公園の風景。
そのベンチに一人の青年(ジム・グレイ)、
ゴロンと横になっている。
(騒いでいる人々の声が聞こえる。)
声「ちょっと捕まえとくれ、その坊主!!」
声「待てー!!逃がすもんか!!」
声「泥棒ーっ!!」
その時、上手より一人の子ども(B・J)、
走りながら登場。
B・J「捕まるもんか!!へへーんだ!!」
B・J、後ろを気にするように、下手へ
走り去る。
一時置いて、上手より息を切らせ、走り
ながら大人達登場。中央、立ち止まる。
大人1「すばしっこい悪餓鬼だよ、全く!!」
大人2「本当だね!!」
大人3「いつもいつも・・・」
大人達歌う。
“うちのパンを盗みやがった”
“うちはクッキーひと袋”
“うちではコップを割りやがった”
“なんて悪戯な悪い奴
いつもあいつには手を焼いて
この街の厄介者だ
うちの子猫のヒゲを切った
うちの鶏の卵を盗んだ
あいつの頭の中には
皆を困らせることしかないんだ”
大人達、溜め息を吐いて上手へ去る。
一時置いて、下手より上手方を伺うように
B・J、ゆっくり登場。
B・J「チョロいもんだな・・・(手に持っていたパンを見詰め、心な
しか淋しそうなな面持ちをする。)」
音楽流れ、B・J歌う。
“ああ・・・俺に翼があったなら・・・
ああ・・・今直ぐに飛んで行くんだ
大空に・・・
俺にもおまえ達のように
羽ばたく羽があったなら・・・
力強く両手を羽ばたかせ
飛び出すんだ自分一人の世界へと
自由に飛び回るんだ
この広く澄み渡る青空の隅から隅まで
ああ・・・俺にも翼があったなら・・・”
B・J、溜め息を吐き、パンにかぶりつく。
ジム「泥棒して食ったパンは美味いか・・・?」
B・J「え・・・?(驚いて回りを見回す。)」
ジム、起き上がる。
ジム「(背伸びをして。)ああ・・・よく寝た・・・。悪いことばっかやっ
てると、ろくな大人になんねぇぞ。」
B・J「よ・・・余計なお世話だ、おっさん!!」
ジム「・・・おっさん!?」
B・J「俺は腹が減ってんだ!!」
ジム「腹が減ってりゃ何してもいいってのか?それじゃあ世の中
泥棒だらけだ。(笑う。)」
B・J「うっせぇんだよ!!」
ジム「大人の言うことは黙って素直に聞くもんだぞ。そんな口ば
っか聞いてると、口がひん曲がるかも知れないな。」
B・J「冗・・・冗談言うんじゃねぇ!!」
ジム「いいか?何もいい人間になれと、強制している訳じゃない
んだ。ただ生きていくうえでだな、こう・・・」
B・J「説教なんか聞きたくねぇ!!」
B・J下手方へ行こうとする。
ジム「まぁ待てよ、小僧・・・」
音楽流れ、ジム歌う。
“よく考えてみろ
世の中悪い奴らばかりなら
まるでこの世の終わりだな
世紀末に相応しい
誰もが悪人 地獄絵図
よく考えてみろ
皆が理性を持たなけりゃ
まるでこの世は崩壊寸前
ノストラダムスも真っ青だ
警察官も弁護士も誰もがお手上げ
だから神様がお与えになった
人には考える頭と感情を持つ心
それを使いこなせずに
思いつくまま欲求を満たそうなんて
それじゃあ人として落第だ
分かるか小僧
世の中いいこと悪いこと
それを見極め生きていく
それが人としてやるべきこと
それが誰もが考える
当たり前のこと・・・”
B・J「神様なんているもんか!!」
ジム「いるさ。」
B・J「絶対にいない!!」
ジム「何故そう思う?」
B・J「・・・ホントにいるなら・・・なんで俺を独りぼっちにするんだ
!!なんで俺の父ちゃん母ちゃん、事故で死んじゃったん
だ!!神様なんて糞食らえだ!!嘘吐くんじゃねぇ!!」
ジム「そうか・・・おまえ・・・」
B・J「(ジムの言葉を遮るように。)可哀想なんかじゃないぜ!!
同情なんかするな!!俺は今の生活で満足してんだ!!」
ジム「可哀想なんて言ってないぜ。」
B・J「煩い!!誰が可哀想・・・え・・・?」
ジム「頑張ってるんだな・・・って褒めてやろうと思ったのに。早と
ちりだな。(笑う。)」
B・J「笑うな!!何が可笑しいんだ!!大人たちは皆一緒じゃ
ないか!!先ず、俺の格好を見て嫌な顔をするんだ。それ
から俺の身の上話しを聞いて、決まって言うんだ・・・俺をジ
ッと見ながら“まぁ可哀想に・・・”まっぴらゴメンだ、そんなの
!!余計なお世話だってんだ!!」
ジム「まぁまぁ、そうカリカリすんなって。大人って言うのは、心の
表現がおまえら子どもと違って、下手糞なんだよ。建前や
愛想抜きに中々話せないものなんだ。」
B・J「そんなの迷惑ってんだよ!!」
ジム「まぁ確かに・・・それは一理ある。だが全ての大人を10個
一盛のように思い込むのはどうかな・・・?人其々、顔が違
うように・・・」
B・J「考え方も違うってんだろ!?」
ジム「おっ・・・」
B・J「分かってら、そんなこと!!」
音楽流れ、B・J歌う。
“だけど大人の考え程
ありきたりでくだらないものはない
だから何でもお見通し
つまらない不必要な考え事さ
余計なお世話 時間の無駄だ
俺のことは放っといてくれ”
ジム、呼応するように歌う。
“それが駄目だな 大人には
くだらないと思われる台詞一つにも
意味がある
それが分からないなんて
おまえはまだまだ子どもだな
だから大人の言うことは
黙って聞いてりゃ間違いない
道をそれたら大変だ
誰か導く大人が必要”
ジム「そこでだ・・・ものは相談だが・・・おまえ、アルバイトする気
はないか?」
B・J「・・・アルバイト・・・?」
ジム「金が手に入れば、パンが堂々と食える。泥棒なんてする
ことないんだ。」
B・J「アルバイトなんてゴメンだね!!働くなんて俺の性に合わ
ねぇ!!」
ジム「性に合う合わないの問題じゃないぜ。人間誰しも働かな
きゃ食っていけないんだ。働いて清々しい汗でも流してみ
な。自ずと自分の進む道が見えてくるぜ。」
B・J「分からねぇよ、そんなこと!」
ジム「・・・ま・・・そうだな、今はまだ分からなくても、その内おま
えにも理解出来る時が来るんだよ。その時になって“しまっ
た”と思うより、今は半信半疑でも騙されたと思って、俺の
言うこと聞いときなって!きっとおまえにとって、よかったと
思える時がくる筈さ!」
B・J「嫌だ!!」
ジム「俺の知り合いに、独り暮らしの金持ちの婆さんがいるんだ
が・・・最近、今まで一緒に暮らしてた子ども一家が、仕事
の都合で遠くに引越しちまったんだ。」
B・J「何、勝手に喋ってんだ!!嫌だってんだろ!!」
B・J、下手へ行きかける。
ジム「(B・Jの襟首を掴む。)」
B・J「な・・・!何すんだよ!!離せ!!離せよ!!」
ジム「それで、その淋しさから、急に塞ぎ込むことが多くなって、
寝たきりで毎日過ごすようになってな・・・。だけどこのまま
じゃ、体によくないだろ?元々は元気ハツラツな婆さんだっ
たんだぜ。そこでだ!その婆さんが夏のバカンスの間、自
分の孫と同じ年頃の男の子を預かって、面倒みようと思い
ついたんだ。そうすれば家の中が賑やかになる。婆さんも
張り合いが出るってもんだ。できれば少々ワンパクでも、元
気な奴がいいと思っていたが・・・おまえなら願ったり叶った
りじゃないか!(笑う。)」
B・J「何勝手に・・・俺は行かないって・・・離せよ!!」
ジム「(B・Jを離す。)婆さん家へ行けば、教育は受けさせてもら
える。礼儀作法もバッチリだ!食事のマナーもお手の物。
バカンスが済んだ頃には、おまえは立派なおぼっちゃまだ
!!」
B・J「おぼっちゃま・・・馬鹿にすんな!!おぼっちゃまなんかに
なってたまるかよ!!」
B・J、下手へ走り去る。
ジム「あっ、ちょっと待てよ・・・!!せっかく上手い話しだと思っ
て言ってやったのに・・・。大人は皆同じ・・・か・・・」
暗転。
――――― 第 2 場 ――――― A
鐘の音が静かに聞こえる。
上手よりシスター登場。続いてトランクを
提げた一人の少女(ネリー。)、嬉しそうに
登場。
シスター「さぁネリー、もう用意は整っていますね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「もう直ぐ、トマスご夫妻がお見えになるわ。そうすれば
いよいよお別れですからね。いい子で新しいご両親の
言う事をよく聞いて、頑張るんですよ。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「忘れ物はないですね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「院長先生の教えを忘れないように・・・」
ネリー「はい、先生!」
シスター「(下手方を見て。)列車が遅れているのかしら・・・。少
し外の様子を見てきますから、あなたはここで待って
いなさい。」
シスター、下手へ去る。
入れ代わるように上手よりB・J登場。
ネリー「はい、せん・・・(B・Jに気付き。)あら、B・J・・・今お帰り
?」
B・J「・・・ネリー・・・」
B・J、上手方へ行きかける。
ネリー「漸くお別れね!私は今日から新しい生活が始まるの!!
やっとこのうらぶれた孤児院ともおさらばよ!この間見学
にいらしたトマスご夫妻が、大勢の子ども達の中から、是
非、金髪の巻き毛が愛らしい品の良さそうな私をうちの子
に・・・と仰って下さったのよ!!あなたは・・・そのなりじゃ
駄目よねぇ・・・。あなたみたいな薄汚れた品のない子は、
きっといくら待っても里親は見つかりっこないわね。それに
礼儀作法だって全然なってない。そんな風だと、ロクな大
人になれないわよ。まぁ、あなたはそれでもいいから、そう
しているのよね。余計なお世話だったわ。ごめんなさい。
いい子は自分の非は素直に認めるものなの。あなたとも
散々喧嘩したけれど・・・あなたの今までの様々な無礼を
私は許してあげるつもりよ。感謝してね。」
シスターの声「ネリー!!トマスご夫妻がお見えになったわよ!
早くいらっしゃい!!」
ネリー「はい、先生!!じゃあね、B・J!!」
ネリー、嬉しそうにスキップをしながら、
下手へ去る。
B・J「じゃあね、B・J!!何が“じゃあね、B・J”だ!!馬鹿野郎
・・・誰が許してくれと言ったんだ!!こっちはおまえのこと
を、許してなんかやるもんか!!」
――――― 第 2 場 ――――― B
音楽流れる。
B・J、上手より舞台下、歌いながら下手方へ。
“品がない
だからどうしたってんだ
そんなもの生きていくのに必要ないだろ
礼儀作法?
なんなんだそれは
そんなの知らなきゃ困るのか
人の道に逸れるのか
俺は俺の好きなように生きるんだ
誰に縛られるのもまっぴら御免
下品で乱暴者でも
別に俺は困らない
自分は自分・・・なんだから・・・”
B・J、下手より舞台上へ。
――――― “Thank you!B・J”2へつづく ―――――
音楽流れ、幕が上がる。
と、舞台中央、一つのベンチが置いてある
公園の風景。
そのベンチに一人の青年(ジム・グレイ)、
ゴロンと横になっている。
(騒いでいる人々の声が聞こえる。)
声「ちょっと捕まえとくれ、その坊主!!」
声「待てー!!逃がすもんか!!」
声「泥棒ーっ!!」
その時、上手より一人の子ども(B・J)、
走りながら登場。
B・J「捕まるもんか!!へへーんだ!!」
B・J、後ろを気にするように、下手へ
走り去る。
一時置いて、上手より息を切らせ、走り
ながら大人達登場。中央、立ち止まる。
大人1「すばしっこい悪餓鬼だよ、全く!!」
大人2「本当だね!!」
大人3「いつもいつも・・・」
大人達歌う。
“うちのパンを盗みやがった”
“うちはクッキーひと袋”
“うちではコップを割りやがった”
“なんて悪戯な悪い奴
いつもあいつには手を焼いて
この街の厄介者だ
うちの子猫のヒゲを切った
うちの鶏の卵を盗んだ
あいつの頭の中には
皆を困らせることしかないんだ”
大人達、溜め息を吐いて上手へ去る。
一時置いて、下手より上手方を伺うように
B・J、ゆっくり登場。
B・J「チョロいもんだな・・・(手に持っていたパンを見詰め、心な
しか淋しそうなな面持ちをする。)」
音楽流れ、B・J歌う。
“ああ・・・俺に翼があったなら・・・
ああ・・・今直ぐに飛んで行くんだ
大空に・・・
俺にもおまえ達のように
羽ばたく羽があったなら・・・
力強く両手を羽ばたかせ
飛び出すんだ自分一人の世界へと
自由に飛び回るんだ
この広く澄み渡る青空の隅から隅まで
ああ・・・俺にも翼があったなら・・・”
B・J、溜め息を吐き、パンにかぶりつく。
ジム「泥棒して食ったパンは美味いか・・・?」
B・J「え・・・?(驚いて回りを見回す。)」
ジム、起き上がる。
ジム「(背伸びをして。)ああ・・・よく寝た・・・。悪いことばっかやっ
てると、ろくな大人になんねぇぞ。」
B・J「よ・・・余計なお世話だ、おっさん!!」
ジム「・・・おっさん!?」
B・J「俺は腹が減ってんだ!!」
ジム「腹が減ってりゃ何してもいいってのか?それじゃあ世の中
泥棒だらけだ。(笑う。)」
B・J「うっせぇんだよ!!」
ジム「大人の言うことは黙って素直に聞くもんだぞ。そんな口ば
っか聞いてると、口がひん曲がるかも知れないな。」
B・J「冗・・・冗談言うんじゃねぇ!!」
ジム「いいか?何もいい人間になれと、強制している訳じゃない
んだ。ただ生きていくうえでだな、こう・・・」
B・J「説教なんか聞きたくねぇ!!」
B・J下手方へ行こうとする。
ジム「まぁ待てよ、小僧・・・」
音楽流れ、ジム歌う。
“よく考えてみろ
世の中悪い奴らばかりなら
まるでこの世の終わりだな
世紀末に相応しい
誰もが悪人 地獄絵図
よく考えてみろ
皆が理性を持たなけりゃ
まるでこの世は崩壊寸前
ノストラダムスも真っ青だ
警察官も弁護士も誰もがお手上げ
だから神様がお与えになった
人には考える頭と感情を持つ心
それを使いこなせずに
思いつくまま欲求を満たそうなんて
それじゃあ人として落第だ
分かるか小僧
世の中いいこと悪いこと
それを見極め生きていく
それが人としてやるべきこと
それが誰もが考える
当たり前のこと・・・”
B・J「神様なんているもんか!!」
ジム「いるさ。」
B・J「絶対にいない!!」
ジム「何故そう思う?」
B・J「・・・ホントにいるなら・・・なんで俺を独りぼっちにするんだ
!!なんで俺の父ちゃん母ちゃん、事故で死んじゃったん
だ!!神様なんて糞食らえだ!!嘘吐くんじゃねぇ!!」
ジム「そうか・・・おまえ・・・」
B・J「(ジムの言葉を遮るように。)可哀想なんかじゃないぜ!!
同情なんかするな!!俺は今の生活で満足してんだ!!」
ジム「可哀想なんて言ってないぜ。」
B・J「煩い!!誰が可哀想・・・え・・・?」
ジム「頑張ってるんだな・・・って褒めてやろうと思ったのに。早と
ちりだな。(笑う。)」
B・J「笑うな!!何が可笑しいんだ!!大人たちは皆一緒じゃ
ないか!!先ず、俺の格好を見て嫌な顔をするんだ。それ
から俺の身の上話しを聞いて、決まって言うんだ・・・俺をジ
ッと見ながら“まぁ可哀想に・・・”まっぴらゴメンだ、そんなの
!!余計なお世話だってんだ!!」
ジム「まぁまぁ、そうカリカリすんなって。大人って言うのは、心の
表現がおまえら子どもと違って、下手糞なんだよ。建前や
愛想抜きに中々話せないものなんだ。」
B・J「そんなの迷惑ってんだよ!!」
ジム「まぁ確かに・・・それは一理ある。だが全ての大人を10個
一盛のように思い込むのはどうかな・・・?人其々、顔が違
うように・・・」
B・J「考え方も違うってんだろ!?」
ジム「おっ・・・」
B・J「分かってら、そんなこと!!」
音楽流れ、B・J歌う。
“だけど大人の考え程
ありきたりでくだらないものはない
だから何でもお見通し
つまらない不必要な考え事さ
余計なお世話 時間の無駄だ
俺のことは放っといてくれ”
ジム、呼応するように歌う。
“それが駄目だな 大人には
くだらないと思われる台詞一つにも
意味がある
それが分からないなんて
おまえはまだまだ子どもだな
だから大人の言うことは
黙って聞いてりゃ間違いない
道をそれたら大変だ
誰か導く大人が必要”
ジム「そこでだ・・・ものは相談だが・・・おまえ、アルバイトする気
はないか?」
B・J「・・・アルバイト・・・?」
ジム「金が手に入れば、パンが堂々と食える。泥棒なんてする
ことないんだ。」
B・J「アルバイトなんてゴメンだね!!働くなんて俺の性に合わ
ねぇ!!」
ジム「性に合う合わないの問題じゃないぜ。人間誰しも働かな
きゃ食っていけないんだ。働いて清々しい汗でも流してみ
な。自ずと自分の進む道が見えてくるぜ。」
B・J「分からねぇよ、そんなこと!」
ジム「・・・ま・・・そうだな、今はまだ分からなくても、その内おま
えにも理解出来る時が来るんだよ。その時になって“しまっ
た”と思うより、今は半信半疑でも騙されたと思って、俺の
言うこと聞いときなって!きっとおまえにとって、よかったと
思える時がくる筈さ!」
B・J「嫌だ!!」
ジム「俺の知り合いに、独り暮らしの金持ちの婆さんがいるんだ
が・・・最近、今まで一緒に暮らしてた子ども一家が、仕事
の都合で遠くに引越しちまったんだ。」
B・J「何、勝手に喋ってんだ!!嫌だってんだろ!!」
B・J、下手へ行きかける。
ジム「(B・Jの襟首を掴む。)」
B・J「な・・・!何すんだよ!!離せ!!離せよ!!」
ジム「それで、その淋しさから、急に塞ぎ込むことが多くなって、
寝たきりで毎日過ごすようになってな・・・。だけどこのまま
じゃ、体によくないだろ?元々は元気ハツラツな婆さんだっ
たんだぜ。そこでだ!その婆さんが夏のバカンスの間、自
分の孫と同じ年頃の男の子を預かって、面倒みようと思い
ついたんだ。そうすれば家の中が賑やかになる。婆さんも
張り合いが出るってもんだ。できれば少々ワンパクでも、元
気な奴がいいと思っていたが・・・おまえなら願ったり叶った
りじゃないか!(笑う。)」
B・J「何勝手に・・・俺は行かないって・・・離せよ!!」
ジム「(B・Jを離す。)婆さん家へ行けば、教育は受けさせてもら
える。礼儀作法もバッチリだ!食事のマナーもお手の物。
バカンスが済んだ頃には、おまえは立派なおぼっちゃまだ
!!」
B・J「おぼっちゃま・・・馬鹿にすんな!!おぼっちゃまなんかに
なってたまるかよ!!」
B・J、下手へ走り去る。
ジム「あっ、ちょっと待てよ・・・!!せっかく上手い話しだと思っ
て言ってやったのに・・・。大人は皆同じ・・・か・・・」
暗転。
――――― 第 2 場 ――――― A
鐘の音が静かに聞こえる。
上手よりシスター登場。続いてトランクを
提げた一人の少女(ネリー。)、嬉しそうに
登場。
シスター「さぁネリー、もう用意は整っていますね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「もう直ぐ、トマスご夫妻がお見えになるわ。そうすれば
いよいよお別れですからね。いい子で新しいご両親の
言う事をよく聞いて、頑張るんですよ。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「忘れ物はないですね。」
ネリー「はい、先生!」
シスター「院長先生の教えを忘れないように・・・」
ネリー「はい、先生!」
シスター「(下手方を見て。)列車が遅れているのかしら・・・。少
し外の様子を見てきますから、あなたはここで待って
いなさい。」
シスター、下手へ去る。
入れ代わるように上手よりB・J登場。
ネリー「はい、せん・・・(B・Jに気付き。)あら、B・J・・・今お帰り
?」
B・J「・・・ネリー・・・」
B・J、上手方へ行きかける。
ネリー「漸くお別れね!私は今日から新しい生活が始まるの!!
やっとこのうらぶれた孤児院ともおさらばよ!この間見学
にいらしたトマスご夫妻が、大勢の子ども達の中から、是
非、金髪の巻き毛が愛らしい品の良さそうな私をうちの子
に・・・と仰って下さったのよ!!あなたは・・・そのなりじゃ
駄目よねぇ・・・。あなたみたいな薄汚れた品のない子は、
きっといくら待っても里親は見つかりっこないわね。それに
礼儀作法だって全然なってない。そんな風だと、ロクな大
人になれないわよ。まぁ、あなたはそれでもいいから、そう
しているのよね。余計なお世話だったわ。ごめんなさい。
いい子は自分の非は素直に認めるものなの。あなたとも
散々喧嘩したけれど・・・あなたの今までの様々な無礼を
私は許してあげるつもりよ。感謝してね。」
シスターの声「ネリー!!トマスご夫妻がお見えになったわよ!
早くいらっしゃい!!」
ネリー「はい、先生!!じゃあね、B・J!!」
ネリー、嬉しそうにスキップをしながら、
下手へ去る。
B・J「じゃあね、B・J!!何が“じゃあね、B・J”だ!!馬鹿野郎
・・・誰が許してくれと言ったんだ!!こっちはおまえのこと
を、許してなんかやるもんか!!」
――――― 第 2 場 ――――― B
音楽流れる。
B・J、上手より舞台下、歌いながら下手方へ。
“品がない
だからどうしたってんだ
そんなもの生きていくのに必要ないだろ
礼儀作法?
なんなんだそれは
そんなの知らなきゃ困るのか
人の道に逸れるのか
俺は俺の好きなように生きるんだ
誰に縛られるのもまっぴら御免
下品で乱暴者でも
別に俺は困らない
自分は自分・・・なんだから・・・”
B・J、下手より舞台上へ。
――――― “Thank you!B・J”2へつづく ―――――
2013年6月22日土曜日
“藤川信次” ―全8場― エンディング
葵「だってそうでしょ・・・。今までただの一度だって、私を一人に
しなかった時はないでしょ・・・。その度、私は待ったわ・・・い
つも、いつもあなたが来るのを・・・」
葵、歌う。
“どうしようもない人・・・
どうしようもない仕事人間・・・
このまま付き合ってて
私は幸せになれるのかしら・・・
私の未来は明るく輝いている?”
悠矢「勿論さ!!結婚しよう、葵!!僕と一緒に・・・」
葵「あなたと結婚すれば、幸せになれるの!?嘘よ・・・そんな
こと・・・。副社長と同じように・・・あなたもその内、家庭を顧
みることがなくなるわ・・・。」
悠矢「あの人は・・・確かに仕事人間だった、それは認める・・・。
家庭や母さん・・・そして僕を犠牲にしたことも、一度や二
度ではない・・・。母さんが入院した時でさえ、あの人はた
だの一度も顔を見せなかったんだ・・・。だけど・・・僕が、あ
の人の後を受け継いで、同じ道を歩もうとしている今・・・
漸く、あの人の気持ちがほんの少しだけ、理解出来るよう
な気がする・・・。一生懸命になれるのは、愛する者がいた
からだ・・・。一生懸命が格好悪いなんて、あの人には無縁
の言葉だった・・・。ただ、あの人の愛情表現はとても不器
用だったから・・・僕たちは思い違いを沢山したけれど・・・
あの人はあの人なりの・・・精一杯で、僕たちを包んでいて
くれた・・・。それを一番よく分かっていたのは母さんだった
よ・・・。」
葵「分かっていても・・・それがお母様の望んだ幸せだったのか
しら・・・。いつもいつも待ちぼうけ・・・そんな理解し難い愛情
で、お母様は満足してた?」
悠矢「母さんは・・・幸せだったよ・・・たとえ父さんがいつも側に
いなくても・・・何故なら・・・」
暗転。
――――― 第 8 場 ――――― B
舞台、薄明るくなる。と、2場の病室。
秋「(信次の手を取り。)・・・あなた・・・聞こえる・・・?もう一度だ
け目を開けて・・・。あなた・・・私よ・・・お願・・・い・・・」
その時、信次ゆっくり目を開く。
信次「・・・秋・・・」
秋「あなた・・・?」
信次「・・・心配かけて・・・」
秋「本当よ・・・どれ程、心配したか・・・」
信次「・・・今日の・・・記念日・・・30回目の・・・結婚記念日・・・」
秋「(驚いたように、そして嬉しそうに微笑む。)・・・知ってた・・・
の・・・?」
信次「・・・折角のパーティ・・・すまない・・・」
秋「・・・いいのよ・・・あなたが覚えていてくれただけで・・・」
信次「・・・君に・・・伝えたい言葉は・・・山のようにある・・・だが
・・・何をどう言えば・・・ずっと・・・愛していたよ・・・君と・・・
悠矢を・・・これからも・・・愛している・・・よ・・・」
秋「・・・私にも言わせて・・・今度、生まれ変わっても・・・また・・・
あなたと一緒になりたいわ・・・愛してる・・・」
フェード・アウト。
――――― 第 8 場 ――――― C
一時置いて、舞台明るくなる。と、前場。
悠矢と葵、佇む。
葵「・・・ごめんなさい・・・私・・・副社長のこと・・・」
悠矢「僕だって・・・母さんに、あの人の最後を聞かされるまで・・・
父さんのことを誤解してた・・・。(箱を差し出す。)」
葵「(箱を受け取り開ける。と、婚約指輪。嬉しそうに。)・・・普通
・・・こう言うものは、男性から女性の指にはめてあげるもの
よ・・・。」
悠矢「ああ・・・そうだね・・・。(指輪を葵の指にはめる。)」
悠矢、歌う。
“これから続く未来への道は・・・
ただの平坦なアスファルトだけとは
限らない・・・
ゴツゴツと石が転がる砂利道かも・・・
山道の急な登り坂が続いたり・・・
それは下りもあるだろう・・・
だけど2人でなら
歩き続けることが出来る筈・・・
立ち止まることなく・・・”
葵、歌う。
“いつか到着するその場所へ
辿り着いたその時に・・・”
葵「・・・私もあなたのお母様のように、今度生まれ変わっても・・・
またあなたと一緒になりたい・・・そう心から言えるかしら・・・
?」
悠矢「・・・ああ・・・僕が必ず君に・・・その台詞をプレゼントする
と約束する・・・。」
葵「悠矢・・・」
悠矢、歌う。
“だから心を預けて・・・
不安があれば共に考えよう・・・
不満があれば思い遣りを持とう・・・
不実はしない神かけて・・・”
悠矢「だから僕を信じて、ついて来て欲しい・・・」
葵、歌う。
“心に沁みるわ
あなたの台詞・・・
もう迷わないわ何も・・・
あなたのこと信じるわ強く・・・
私・・・
幸せになれる・・・”
悠矢、葵、嬉しそうに手を取り合い、
見詰め合う。
そこへ、悠矢、葵の様子を見ていたように
上手より、天使登場。歌う。
“人間なんて分からない・・・
何が望みか分からない・・・
だけどきっと誰もが同じ
幸せを求める・・・
その思いは同じ筈・・・”
舞台後方(紗幕後ろ、シルエット。)に、
悠矢、葵、2人に重なるように、
手を取り合った信次と秋、浮かび上がる。
信次の声「僕について来てくれて、ありがとう・・・」
――――― 幕 ―――――
しなかった時はないでしょ・・・。その度、私は待ったわ・・・い
つも、いつもあなたが来るのを・・・」
葵、歌う。
“どうしようもない人・・・
どうしようもない仕事人間・・・
このまま付き合ってて
私は幸せになれるのかしら・・・
私の未来は明るく輝いている?”
悠矢「勿論さ!!結婚しよう、葵!!僕と一緒に・・・」
葵「あなたと結婚すれば、幸せになれるの!?嘘よ・・・そんな
こと・・・。副社長と同じように・・・あなたもその内、家庭を顧
みることがなくなるわ・・・。」
悠矢「あの人は・・・確かに仕事人間だった、それは認める・・・。
家庭や母さん・・・そして僕を犠牲にしたことも、一度や二
度ではない・・・。母さんが入院した時でさえ、あの人はた
だの一度も顔を見せなかったんだ・・・。だけど・・・僕が、あ
の人の後を受け継いで、同じ道を歩もうとしている今・・・
漸く、あの人の気持ちがほんの少しだけ、理解出来るよう
な気がする・・・。一生懸命になれるのは、愛する者がいた
からだ・・・。一生懸命が格好悪いなんて、あの人には無縁
の言葉だった・・・。ただ、あの人の愛情表現はとても不器
用だったから・・・僕たちは思い違いを沢山したけれど・・・
あの人はあの人なりの・・・精一杯で、僕たちを包んでいて
くれた・・・。それを一番よく分かっていたのは母さんだった
よ・・・。」
葵「分かっていても・・・それがお母様の望んだ幸せだったのか
しら・・・。いつもいつも待ちぼうけ・・・そんな理解し難い愛情
で、お母様は満足してた?」
悠矢「母さんは・・・幸せだったよ・・・たとえ父さんがいつも側に
いなくても・・・何故なら・・・」
暗転。
――――― 第 8 場 ――――― B
舞台、薄明るくなる。と、2場の病室。
秋「(信次の手を取り。)・・・あなた・・・聞こえる・・・?もう一度だ
け目を開けて・・・。あなた・・・私よ・・・お願・・・い・・・」
その時、信次ゆっくり目を開く。
信次「・・・秋・・・」
秋「あなた・・・?」
信次「・・・心配かけて・・・」
秋「本当よ・・・どれ程、心配したか・・・」
信次「・・・今日の・・・記念日・・・30回目の・・・結婚記念日・・・」
秋「(驚いたように、そして嬉しそうに微笑む。)・・・知ってた・・・
の・・・?」
信次「・・・折角のパーティ・・・すまない・・・」
秋「・・・いいのよ・・・あなたが覚えていてくれただけで・・・」
信次「・・・君に・・・伝えたい言葉は・・・山のようにある・・・だが
・・・何をどう言えば・・・ずっと・・・愛していたよ・・・君と・・・
悠矢を・・・これからも・・・愛している・・・よ・・・」
秋「・・・私にも言わせて・・・今度、生まれ変わっても・・・また・・・
あなたと一緒になりたいわ・・・愛してる・・・」
フェード・アウト。
――――― 第 8 場 ――――― C
一時置いて、舞台明るくなる。と、前場。
悠矢と葵、佇む。
葵「・・・ごめんなさい・・・私・・・副社長のこと・・・」
悠矢「僕だって・・・母さんに、あの人の最後を聞かされるまで・・・
父さんのことを誤解してた・・・。(箱を差し出す。)」
葵「(箱を受け取り開ける。と、婚約指輪。嬉しそうに。)・・・普通
・・・こう言うものは、男性から女性の指にはめてあげるもの
よ・・・。」
悠矢「ああ・・・そうだね・・・。(指輪を葵の指にはめる。)」
悠矢、歌う。
“これから続く未来への道は・・・
ただの平坦なアスファルトだけとは
限らない・・・
ゴツゴツと石が転がる砂利道かも・・・
山道の急な登り坂が続いたり・・・
それは下りもあるだろう・・・
だけど2人でなら
歩き続けることが出来る筈・・・
立ち止まることなく・・・”
葵、歌う。
“いつか到着するその場所へ
辿り着いたその時に・・・”
葵「・・・私もあなたのお母様のように、今度生まれ変わっても・・・
またあなたと一緒になりたい・・・そう心から言えるかしら・・・
?」
悠矢「・・・ああ・・・僕が必ず君に・・・その台詞をプレゼントする
と約束する・・・。」
葵「悠矢・・・」
悠矢、歌う。
“だから心を預けて・・・
不安があれば共に考えよう・・・
不満があれば思い遣りを持とう・・・
不実はしない神かけて・・・”
悠矢「だから僕を信じて、ついて来て欲しい・・・」
葵、歌う。
“心に沁みるわ
あなたの台詞・・・
もう迷わないわ何も・・・
あなたのこと信じるわ強く・・・
私・・・
幸せになれる・・・”
悠矢、葵、嬉しそうに手を取り合い、
見詰め合う。
そこへ、悠矢、葵の様子を見ていたように
上手より、天使登場。歌う。
“人間なんて分からない・・・
何が望みか分からない・・・
だけどきっと誰もが同じ
幸せを求める・・・
その思いは同じ筈・・・”
舞台後方(紗幕後ろ、シルエット。)に、
悠矢、葵、2人に重なるように、
手を取り合った信次と秋、浮かび上がる。
信次の声「僕について来てくれて、ありがとう・・・」
――――― 幕 ―――――
2013年6月19日水曜日
“藤川信次” ―全8場― 3
信次、歌う。
“大切なものなんて考えるまでもない
何の為に働くんだ
それを考えればいい
誰の為に毎日戦う
それが分かればただの愚問だ・・・”
悠矢、歌う。
“あなたは違う・・・
そんな理屈 あなたには通らない
あなたは自分の為にここにいる
自分の理想を追い続け・・・”
悠矢「・・・ここで死ぬんだ!!」
悠矢、上手へ走り去る。
信次、上手を見詰め歌う。
“・・・何が大切なこと・・・
そんなこと考えるまでもない・・・
わざわざ口にすることでもない・・・
何の為に生きるのか
そんなことは分かりきっている
くだらない質問だ・・・”
そこへ下手より葵、登場。
葵「副社長、まだ帰られないんですか・・・?」
信次「(振り返り、葵を認める。)あ・・・ああ・・・嶺山くんか・・・。
もうそんな時間か・・・?」
葵「ええ。もうとっくに終業時間は過ぎてますわ。」
信次「そうか・・・。私は昔から、この場所が一番落ち着くんだよ
・・・。」
葵「そんなこと言って、お宅で待たれてる奥様が可哀相ですわ
。」
信次「・・・そうだな・・・それにしても、君も随分遅いじゃないか・・
・」
葵「私はまだ一人ですから・・・。今のうちに沢山働いて、色んな
ことを勉強して・・・その内、素敵な人を見つけて、副社長の
奥様のように、幸せな家庭を作り守るのが、私の夢なんです
・・・。」
信次「幸せな家庭・・・か・・・」
葵「でも間違っても副社長のような、仕事人間の方とは結婚し
ませんわ。(笑う。)」
信次「おいおい・・・」
葵「じゃあ、お先に失礼します。」
信次「ああ、お疲れ様・・・」
葵、下手へ去る。
信次「・・・仕事人間・・・か・・・」
信次、ゆっくりと後方に置かれていた
一つの回転椅子に深々と腰を下ろし、
目を瞑る。
そこへ下手より天使、登場。信次を認め、
静かに歌う。上手方へ。
(天使、スポットに残しフェード・アウト。
そのまま次景へと続く。)
“これが望んでいたこと
これが君の人生
これが答えなら
後悔はない筈・・・
だけどその瞳に奥に
微かにかかった雲一つ
自分の生き方に
何か迷いでもあるのかい?”
――――― 第 6 場 ―――――
舞台、明るくなる。と、ロッキングチェアを
揺らしながら休んでいる信次。(前々景。)
天使、椅子に腰を下ろし、信次を見詰める。
天使「どうしたの?」
信次「・・・ん・・・」
天使「・・・暢気に寝てていいの?」
信次「う・・・ん・・・(目が覚め、天使を認める。)・・・誰だ・・・?」
天使「まだ行かないの?」
信次「・・・行く・・・?」
天使「時間がなくなるよ。」
信次「・・・時間って・・・何の話しをしてるんだ・・・?」
天使「あなたが言い出したんでしょ。愛する人に、大切な言葉を
伝えないままじゃ、死んでも死にきれないって・・・」
信次「・・・大切な言葉を伝える・・・?」
天使「その為に、あなたは今ここにいるんじゃない・・・」
信次「・・・え・・・」
天使「忘れたの?じゃあ、僕が教えてあげるよ・・・。あなたは死
んだ・・・」
信次「・・・死んだ・・・?(笑う。)馬鹿な・・・」
天使「でも、心に迷いのあるあなたは、すんなり天国へ送られず
に、僕のところへ来たんじゃない・・・。心の迷いを取り除く、
この世と天国の中継ステーションへ・・・」
信次「・・・まさか・・・」
天使「信じない?」
信次「信じるも何も・・・私はこうして・・・」
音楽流れ、天使歌う。
“このパーティの様子・・・
今夜は30回目の結婚記念日
特別な夜になる筈だった・・・
だがいつものように
あなたは仕事で遅くなり・・・
パーティには間に合わなかった・・・
そこへかかった一本の電話・・・
仕事場で急にあなたが倒れたと!!
家族は慌てて病院へ
ベッドに横たわるあなたとご対面
だがあなたの意識は戻らぬまま
遠く彼方へ旅立った・・・”
信次「・・・そうだ・・・(呆然と舞台前方へ。)」
信次、スポットに浮かび上がり、次景へ。
――――― 第 7 場 ―――――
音楽流れ、呆然と佇む信次、歌う。
“どうしたんだろう・・・
あの彼方に行くべき場所が見える・・・
温かく優しい思いに溢れ返る場所・・・
早く行かなけりゃ・・・
あの彼方に導く光が見えるだろう・・・
なのに何故・・・
足がすくんで一歩も進めない
何かが私の・・・
心を引き止める強く
そして立ち止まる・・・”
舞台明るくなる。と、上手方に後ろ向きに
置かれていた回転椅子に座っていた天使、
正面を向く。
天使「ようこそ・・・あなたの迷いは何?僕がその迷いを取り除
いてあげるよ。さぁ、答えて・・・」
信次「・・・迷い・・・」
信次、歌う。
“人間らしく生きたいと願ってきた
だけど今振り返って・・・
願いとは裏腹の
人生を歩んで来たようだ・・・
愛する者の悲しみが聞こえる・・・
嘆きが胸深く突き刺さる・・・”
信次「私は彼らに何も残してやれなかった・・・。財産とかではな
い・・・。そんな形に見えるものではなく・・・心に残るような
・・・」
天使「名台詞を残したい?(微笑む。)」
信次「私はそんな名台詞を残したい訳じゃない・・・。大体、仕事
一筋に生きて来た私に、そんな気の聞いた台詞など、思い
つく筈など・・・ただ人間として・・・言わなければならなかっ
た、たった一つの優しい言葉・・・それだけを彼らに・・・伝え
たい・・・。誰もがほんの少し、優しい思いを持てば、自然と
口にすることが出来るであろう・・・そんな有り触れた・・・感
謝や・・・思いやりや・・・誰もが普通に言葉にすることの出
来る・・・そんな思いを・・・私はただの一度も彼らに掛けて
やることが出来なかった・・・」
天使「人間らしく生きてこなかったと?」
信次「・・・人間らしさの意味を・・・履き違えていた・・・」
天使「人間らしさ・・・なんて、其々考え方が違って当たり前なん
じゃない?」
信次「その通りだ・・・だから今までの私の行き方が、そうだった
んだと言い切ってしまうことが出来るなら、それはそれでよ
かったのかも知れない・・・。だが・・・いつも何かが引っ掛か
っていた・・・心のどこかで・・・本当に自分の生き方が正し
かったのかと・・・。迷いを・・・取り除きたいんだ・・・」
天使「あなたの・・・?」
信次「私の・・・そして私の迷いの為に、迷わせてしまった・・・愛
する者達の・・・」
天使「OK・・・行っておいで、あなたの言葉を残す為に・・・」
信次「(嬉しそうに微笑む。)・・・ありがとう・・・」
暗転。
――――― 第 8 場 ――――― A
音楽流れ、舞台下手方スポットに葵、
誰かを待っているように周りを見回し、
時間を気にしながら佇み歌う。
“遅いわね・・・
一体何をしているのかしら・・・
まさかね・・・
忘れる筈ないわ・・・
あんなにも約束した
必ず守ると・・・
でも時間は随分過ぎたわ・・・
一体どこにいるのかしら・・・”
葵、鞄から携帯電話を取り出し、かける。
上手スポット、机の前に座り、山積みに
なった書類の山を前に、忙しそうに仕事
している悠矢、浮かび上がる。と、電話の
呼び出し音が鳴る。
悠矢「(驚いたように。)・・・電話?(服のポケットを探すように。
見つけると慌てて出る。)はい・・・!」
葵、語り掛けるように歌う。
“私よ・・・”
悠矢「・・・葵?」
“約束忘れたの・・・?”
悠矢「・・・あ・・・いや、そう言う訳じゃないんだ!ちょっと・・・」
“今どこにいるの・・・?”
悠矢「・・・まだ会社のオフィスに・・・」
葵「オフィスって・・・」
“また仕事・・・?”
悠矢「ごめん!!」
“一体何時間待たせるの・・・?”
悠矢「ごめん!!これだけ済ませて直ぐに行く!!だから・・・」
“・・・もう待てない・・・”
悠矢「待っててくれ!!直ぐ・・・直ぐ行くから!!」
“・・・もう待たない・・・”
悠矢「葵!!」
葵「いつもいつも待ってばかりで、もう疲れたわ・・・(電話を切る
。)」
悠矢「葵!!」
(悠矢、フェード・アウト。)
“もう待てない・・・
もう待たない・・・
今度こそ私は私の為に歩いて行く・・・
あなたに合わせて・・・
振り回されて・・・
きっと私は道に迷って
自分自身を見失う・・・
・・・だけど・・・
・・・どうして・・・
・・・私・・・”
葵、ゆっくり下手へ去る。
(舞台明るくなる。)
一時置いて、上手より悠矢、息を切らせ
走り登場。
悠矢「葵!!(周りを見回す。)あお・・・い・・・畜生・・・」
悠矢、歌う。
“何故いつも擦れ違い・・・
ほんの少しの思い違い・・・
大切なものは分かっている・・・
守るものも分かり切っている・・・
なのにいつも2人は別々・・・
2人の道は擦れ違ったまま・・・
話しをしよう・・・
もっとお互い知り合おう・・・
まだまだ分かり合える・・・
2人で過ごした
たった2回の出会いの記念日・・・”
その時、下手より葵、ゆっくり登場。
悠矢、葵を認める。
悠矢「葵!!(駆け寄る。)待っていてくれたんだ!!ごめん!!
本当に今日は・・・そうだ!!(スーツのポケットを探すよう
に。小さな箱を取り出す。)これ・・・」
葵「この間はバラの花束・・・その前は有名ホテルのチョコレート
・・・今日は一体何で私のご機嫌を取ろうって言うの?」
悠矢「ご機嫌・・・って・・・そんなつもりは・・・」
――――― “藤川信次”エンディングへつづく ―――――
“大切なものなんて考えるまでもない
何の為に働くんだ
それを考えればいい
誰の為に毎日戦う
それが分かればただの愚問だ・・・”
悠矢、歌う。
“あなたは違う・・・
そんな理屈 あなたには通らない
あなたは自分の為にここにいる
自分の理想を追い続け・・・”
悠矢「・・・ここで死ぬんだ!!」
悠矢、上手へ走り去る。
信次、上手を見詰め歌う。
“・・・何が大切なこと・・・
そんなこと考えるまでもない・・・
わざわざ口にすることでもない・・・
何の為に生きるのか
そんなことは分かりきっている
くだらない質問だ・・・”
そこへ下手より葵、登場。
葵「副社長、まだ帰られないんですか・・・?」
信次「(振り返り、葵を認める。)あ・・・ああ・・・嶺山くんか・・・。
もうそんな時間か・・・?」
葵「ええ。もうとっくに終業時間は過ぎてますわ。」
信次「そうか・・・。私は昔から、この場所が一番落ち着くんだよ
・・・。」
葵「そんなこと言って、お宅で待たれてる奥様が可哀相ですわ
。」
信次「・・・そうだな・・・それにしても、君も随分遅いじゃないか・・
・」
葵「私はまだ一人ですから・・・。今のうちに沢山働いて、色んな
ことを勉強して・・・その内、素敵な人を見つけて、副社長の
奥様のように、幸せな家庭を作り守るのが、私の夢なんです
・・・。」
信次「幸せな家庭・・・か・・・」
葵「でも間違っても副社長のような、仕事人間の方とは結婚し
ませんわ。(笑う。)」
信次「おいおい・・・」
葵「じゃあ、お先に失礼します。」
信次「ああ、お疲れ様・・・」
葵、下手へ去る。
信次「・・・仕事人間・・・か・・・」
信次、ゆっくりと後方に置かれていた
一つの回転椅子に深々と腰を下ろし、
目を瞑る。
そこへ下手より天使、登場。信次を認め、
静かに歌う。上手方へ。
(天使、スポットに残しフェード・アウト。
そのまま次景へと続く。)
“これが望んでいたこと
これが君の人生
これが答えなら
後悔はない筈・・・
だけどその瞳に奥に
微かにかかった雲一つ
自分の生き方に
何か迷いでもあるのかい?”
――――― 第 6 場 ―――――
舞台、明るくなる。と、ロッキングチェアを
揺らしながら休んでいる信次。(前々景。)
天使、椅子に腰を下ろし、信次を見詰める。
天使「どうしたの?」
信次「・・・ん・・・」
天使「・・・暢気に寝てていいの?」
信次「う・・・ん・・・(目が覚め、天使を認める。)・・・誰だ・・・?」
天使「まだ行かないの?」
信次「・・・行く・・・?」
天使「時間がなくなるよ。」
信次「・・・時間って・・・何の話しをしてるんだ・・・?」
天使「あなたが言い出したんでしょ。愛する人に、大切な言葉を
伝えないままじゃ、死んでも死にきれないって・・・」
信次「・・・大切な言葉を伝える・・・?」
天使「その為に、あなたは今ここにいるんじゃない・・・」
信次「・・・え・・・」
天使「忘れたの?じゃあ、僕が教えてあげるよ・・・。あなたは死
んだ・・・」
信次「・・・死んだ・・・?(笑う。)馬鹿な・・・」
天使「でも、心に迷いのあるあなたは、すんなり天国へ送られず
に、僕のところへ来たんじゃない・・・。心の迷いを取り除く、
この世と天国の中継ステーションへ・・・」
信次「・・・まさか・・・」
天使「信じない?」
信次「信じるも何も・・・私はこうして・・・」
音楽流れ、天使歌う。
“このパーティの様子・・・
今夜は30回目の結婚記念日
特別な夜になる筈だった・・・
だがいつものように
あなたは仕事で遅くなり・・・
パーティには間に合わなかった・・・
そこへかかった一本の電話・・・
仕事場で急にあなたが倒れたと!!
家族は慌てて病院へ
ベッドに横たわるあなたとご対面
だがあなたの意識は戻らぬまま
遠く彼方へ旅立った・・・”
信次「・・・そうだ・・・(呆然と舞台前方へ。)」
信次、スポットに浮かび上がり、次景へ。
――――― 第 7 場 ―――――
音楽流れ、呆然と佇む信次、歌う。
“どうしたんだろう・・・
あの彼方に行くべき場所が見える・・・
温かく優しい思いに溢れ返る場所・・・
早く行かなけりゃ・・・
あの彼方に導く光が見えるだろう・・・
なのに何故・・・
足がすくんで一歩も進めない
何かが私の・・・
心を引き止める強く
そして立ち止まる・・・”
舞台明るくなる。と、上手方に後ろ向きに
置かれていた回転椅子に座っていた天使、
正面を向く。
天使「ようこそ・・・あなたの迷いは何?僕がその迷いを取り除
いてあげるよ。さぁ、答えて・・・」
信次「・・・迷い・・・」
信次、歌う。
“人間らしく生きたいと願ってきた
だけど今振り返って・・・
願いとは裏腹の
人生を歩んで来たようだ・・・
愛する者の悲しみが聞こえる・・・
嘆きが胸深く突き刺さる・・・”
信次「私は彼らに何も残してやれなかった・・・。財産とかではな
い・・・。そんな形に見えるものではなく・・・心に残るような
・・・」
天使「名台詞を残したい?(微笑む。)」
信次「私はそんな名台詞を残したい訳じゃない・・・。大体、仕事
一筋に生きて来た私に、そんな気の聞いた台詞など、思い
つく筈など・・・ただ人間として・・・言わなければならなかっ
た、たった一つの優しい言葉・・・それだけを彼らに・・・伝え
たい・・・。誰もがほんの少し、優しい思いを持てば、自然と
口にすることが出来るであろう・・・そんな有り触れた・・・感
謝や・・・思いやりや・・・誰もが普通に言葉にすることの出
来る・・・そんな思いを・・・私はただの一度も彼らに掛けて
やることが出来なかった・・・」
天使「人間らしく生きてこなかったと?」
信次「・・・人間らしさの意味を・・・履き違えていた・・・」
天使「人間らしさ・・・なんて、其々考え方が違って当たり前なん
じゃない?」
信次「その通りだ・・・だから今までの私の行き方が、そうだった
んだと言い切ってしまうことが出来るなら、それはそれでよ
かったのかも知れない・・・。だが・・・いつも何かが引っ掛か
っていた・・・心のどこかで・・・本当に自分の生き方が正し
かったのかと・・・。迷いを・・・取り除きたいんだ・・・」
天使「あなたの・・・?」
信次「私の・・・そして私の迷いの為に、迷わせてしまった・・・愛
する者達の・・・」
天使「OK・・・行っておいで、あなたの言葉を残す為に・・・」
信次「(嬉しそうに微笑む。)・・・ありがとう・・・」
暗転。
――――― 第 8 場 ――――― A
音楽流れ、舞台下手方スポットに葵、
誰かを待っているように周りを見回し、
時間を気にしながら佇み歌う。
“遅いわね・・・
一体何をしているのかしら・・・
まさかね・・・
忘れる筈ないわ・・・
あんなにも約束した
必ず守ると・・・
でも時間は随分過ぎたわ・・・
一体どこにいるのかしら・・・”
葵、鞄から携帯電話を取り出し、かける。
上手スポット、机の前に座り、山積みに
なった書類の山を前に、忙しそうに仕事
している悠矢、浮かび上がる。と、電話の
呼び出し音が鳴る。
悠矢「(驚いたように。)・・・電話?(服のポケットを探すように。
見つけると慌てて出る。)はい・・・!」
葵、語り掛けるように歌う。
“私よ・・・”
悠矢「・・・葵?」
“約束忘れたの・・・?”
悠矢「・・・あ・・・いや、そう言う訳じゃないんだ!ちょっと・・・」
“今どこにいるの・・・?”
悠矢「・・・まだ会社のオフィスに・・・」
葵「オフィスって・・・」
“また仕事・・・?”
悠矢「ごめん!!」
“一体何時間待たせるの・・・?”
悠矢「ごめん!!これだけ済ませて直ぐに行く!!だから・・・」
“・・・もう待てない・・・”
悠矢「待っててくれ!!直ぐ・・・直ぐ行くから!!」
“・・・もう待たない・・・”
悠矢「葵!!」
葵「いつもいつも待ってばかりで、もう疲れたわ・・・(電話を切る
。)」
悠矢「葵!!」
(悠矢、フェード・アウト。)
“もう待てない・・・
もう待たない・・・
今度こそ私は私の為に歩いて行く・・・
あなたに合わせて・・・
振り回されて・・・
きっと私は道に迷って
自分自身を見失う・・・
・・・だけど・・・
・・・どうして・・・
・・・私・・・”
葵、ゆっくり下手へ去る。
(舞台明るくなる。)
一時置いて、上手より悠矢、息を切らせ
走り登場。
悠矢「葵!!(周りを見回す。)あお・・・い・・・畜生・・・」
悠矢、歌う。
“何故いつも擦れ違い・・・
ほんの少しの思い違い・・・
大切なものは分かっている・・・
守るものも分かり切っている・・・
なのにいつも2人は別々・・・
2人の道は擦れ違ったまま・・・
話しをしよう・・・
もっとお互い知り合おう・・・
まだまだ分かり合える・・・
2人で過ごした
たった2回の出会いの記念日・・・”
その時、下手より葵、ゆっくり登場。
悠矢、葵を認める。
悠矢「葵!!(駆け寄る。)待っていてくれたんだ!!ごめん!!
本当に今日は・・・そうだ!!(スーツのポケットを探すよう
に。小さな箱を取り出す。)これ・・・」
葵「この間はバラの花束・・・その前は有名ホテルのチョコレート
・・・今日は一体何で私のご機嫌を取ろうって言うの?」
悠矢「ご機嫌・・・って・・・そんなつもりは・・・」
――――― “藤川信次”エンディングへつづく ―――――
2013年6月16日日曜日
“藤川信次” ―全8場― 2
そこへ上手より、スーツ姿の信次、
幾分緊張した面持ちで、椅子を持ち
登場。
下手より、年配の偉そうな態度の
男性、椅子を持ち登場。
(天使、ニヤリと微笑み、下手前方へ。
そんな2人の様子を楽しそうに見ている。)
男性、舞台中央椅子を置き、座る。
信次、その前に椅子を置き、横に立つ。
男性「(手に持っていた書類に目を遣り、チラッと信次を見る。)
どうぞ・・・」
信次「はい、失礼します。(椅子に腰を下ろす。)」
男性歌う。
“藤川信次くん・・・
T大学卒業予定・・・”
男性「ほう・・・有名国立大学か・・・」
男性歌う。
“得意なスポーツ マラソンと・・・
持久力には自信あり・・・”
信次「はい、一つのことを、コツコツと成し遂げるのが得意です
。」
男性歌う。
“我が社を希望した動機は・・・?”
信次「はい、貴社の将来性と・・・」
天使、2人の側へ。2人の様子を見ながら
歌う。
“ここぞとばかり熱弁を揮った
自分の考え 自分の思い
口八丁手八丁
相手を飲み込む熱い視線で
考えの全て”
男性歌う。
“しっかりした考え独創性
社運を賭けた新事業
君になら任せられる”
男性「是非、我が社に!!(立ち上がり、信次の肩に手を掛け
る。)」
信次「ありがとうございます!!(立ち上がり、頭を下げる。)」
2人、其々椅子を持ち、上手下手へ去る。
天使「見事、大手企業に一発ストレート入社、流石だね。」
天使歌う。
“このままどんどん上り詰める
自分の願った人生そのまま
一度の挫折も知らぬまま
人間らしさも知らぬまま
それが当たり前であるかのように
冷たい奴だ誰が見ても
心がないねあいつには
だけどそんな彼にも心から
愛してくれる人はいた
知ってか知らずか
それは彼の不幸中の幸い”
暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
上手スポットに、スーツ姿の一人の
女性(花村秋)浮かび上がり、歌う。
“2つ違い・・・
ただの幼馴染・・・
それも小さい頃の話し
今はほんの顔見知り・・・
会っても挨拶すらしない
でも私は見てた
いつもあなただけ・・・
女の子達が告白するのを羨ましく・・・
冷たくあしらうのを少し淋しく・・・
そしてちょっぴりホッとした・・・
だから頑張ったわ
同じ高校に行きたくて
だから夢中で勉強した
置いていかれないように
大学にストレートで入れたのも
あなたのお陰
だけど・・・
卒業式が来る度
いつも辛かった・・・
2つ違いはどうしても
埋まらないから・・・”
秋「でも、やったわ!!」
“今度こそ
卒業式のない社会人
今日
漸くまたあなたの側に・・・”
舞台明るくなる。(社内の様子。)
中央に課長。周りには社員が立っている。
(その中に、信次の顔も見える。)
課長「えー・・・今日からこの課に配属になった、花村秋さんだ。」
秋「(信次を認め。)・・・信次くん・・・」
周りの社員、「信次くんだって・・・」など、
ヒソヒソ声で囁き、顔を見合わせる。
信次「・・・花村・・・秋・・・?」
課長「なんだ藤川くん、知り合いかね?」
信次「・・・え?ええ・・・まぁ・・・」
課長「それじゃあ君が色々と、花村くんの面倒を見てやってくれ
たまえ。その方が花村くんも心強いだろうからな。」
信次「・・・え・・・?」
課長「頼むよ。」
信次「(独り言のように。)・・・面倒臭い・・・」
秋「(信次の側へ。)よろしくお願いします、藤川さん!!(頭を
深く下げる。)」
信次「・・・あ・・・?ああ・・・」
秋、スポットに浮かび上がり歌う。
“覚えていてくれたわ!
丸で奇跡ね
私のこと知ってくれてたの
信じられる?
2人の思い出は
遠い昔の小さなブランコ
それだけなのに
彼の記憶に私がいたわ
ああ丸で夢みたい
ああ丸で雲の上にいる気分よ!!”
暗転。
――――― 第 5 場 ――――― A
舞台、明るくなると、藤川家リビング。
(中央テーブルの上には、パーティの用意が
されている。)
一時置いて、1場の紳士姿の信次、拾った
花束を手に上手より登場。
信次「ただいま・・・(周りを見回す。)誰もいないのか・・・?なん
だ・・・今日は何か祝い事でもあったのかな・・・?(テーブル
の上を見て。)・・・冷めたスープに・・・冷めた料理・・・一体
皆、どこへ行ったんだ・・・。(倒れていた椅子を立てる。)秋
?悠矢?(花束をテーブルの上へ置く。)」
信次、下手方に置いてあった一つの
ロッキングチェアにゆっくり腰を下ろし、
揺らす。
信次「ああ・・・この椅子はいいな・・・。何故かとても落ち着くん
だ、昔から・・・。それにしても皆どこへ行ったんだろう・・・。
そう言えば昨夜・・・秋が何か言っていたような・・・。明日は
記念日で・・・だから、どうのこうのと・・・」
信次、ゆっくり目を閉じる。
フェード・アウト。
――――― 第 5 場 ――――― B
遠くから音楽流れ、木霊するように段々
大きくなる。
ライト・インする。と、ポーズを取った
オフィスレディ達、歌う。
“我が社に不景気なんて
関係ないわ
業界切っての企業伸び率
新事業プロジェクトも軌道に乗った
その功績は彼の手腕に
ねぇ藤川さん!”
OL1「噂じゃ彼、仕事以外に趣味はないそうよ。」
OL2「本当?」
OL3「でも男前よね!」
OL1「それはそうだけど・・・彼みたいな人と付き合ったら、泣き
を見るのはこっちよ!」
OL2「それでもいいわ!」
OL3「仕事をバリバリこなしてる藤川さん、誰が何て言ったって
格好良いんだもの!!」
オフィスレディ達、歌う。
“すごいわね藤川さん
片手入社でもう課長
毎日毎日残業ばかり
休みも返上
一体いつ眠るのかしら?”
OL1「素敵ねー!」
(途中、沢山の書類を抱えた信次、
下手から登場。急ぎ足で上手へ去る。)
オフィスレディ達、歌う。
“嘘みたい藤川さん・・・
まだ若いのに部長だなんて
我が社始まって以来の快挙ね
日曜日も接待
今度はゴルフらしいわよ”
OL2「格好良いー!」
(途中、ゴルフバックを肩から提げ、手には
書類を持った信次、上手から登場。下手へ
去る。)
曲調変わる。(音楽静かに。)
オフィスレディ達、歌う。
“・・・結婚したわ藤川さん・・・
とてもショックよ・・・
彼女なんて3日も寝込んだらしいわ
でも驚きね
あの仕事人間に
愛する人がいたなんて・・・
違うわ 噂じゃ
体裁保つ為
幼馴染で同じ職場・・・
彼のことをよく知ってる彼女が
選ばれただけ・・・”
舞台、薄暗くなる。
舞台奥、中央スポットに、婚礼姿の後ろ向き
の男女、浮かび上がる。
神父の声「藤川信次・・・汝は花村秋を妻とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
信次の声「・・・誓います。」
神父の声「花村秋・・・汝は藤川信次を夫とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
秋の声「誓います!!」
オフィスレディ達の悲鳴で、スポット男女、
フェード・アウト。
(舞台、明るくなる。)
オフィスレディ達、歌う。
“とうとう副社長になったわ藤川さん
結婚しても変わらない
その仕事ぶりに生活態度
家庭を顧みず
自分の思うままの道
歩き続ける
止まることを知らぬまま
彼と結婚してたら大変なこと!”
オフィスレディ達、其々上手下手へ去る。
そこへ50代半ばになった信次、下手より
登場。
上手より一人の男性、ゆっくり登場。
2人、舞台中央へ。男性、信次へ辞令を
手渡す。
男性「これからは副社長として、社長の片腕となり、我が社を盛
り立てていってくれ。」
信次「はいっ・・・!」
男性「頑張りたまえ・・・。(信次の肩に手を掛ける。)」
男性、下手へ去る。
信次、深呼吸をして上手方へ行きかける。
と、上手より慌てた様子で悠矢、登場。
悠矢「父さん!!」
信次「どうした、悠矢。」
悠矢「大変なんだ!!母さんが・・・!!」
信次「今、忙しいんだ。これから引継ぎ業務が・・・」
悠矢「父さん!!母さんが倒れたんだ!!」
信次「・・・それで?」
悠矢「それでって・・・救急車でK大学病院に・・・」
信次「分かった・・・K大学病院なら、小川先生に連絡しておく。」
悠矢「父さんは・・・?」
信次「だから言ってるだろ。私はこれから色々と忙しいんだ・・・」
悠矢「・・・なんて人だ・・・」
信次「(悠矢の顔を見る。)」
音楽流れ、悠矢歌う。
“母さんが倒れたんだ・・・
なのに駆け付けようともせず・・・
あなたは背を向けた・・・
母さんよりも仕事を選んだ・・・
何よりも・・・あなたのことを
待ち続ける人を待たせたまま
何がそんなに大切なんだ・・・
何があなたを駆り立てる
あなたにとって家族って何なんだ
あなたの口で答えてみろよ・・・”
信次「馬鹿馬鹿しい・・・(上手へ行きかける。)」
悠矢、信次の前へ立ち塞がる。
信次「どきなさい・・・」
悠矢「嫌だ・・・僕と一緒に病院へ行くんだ!!」
信次「そんな時間はない。」
悠矢「時間なんか作ればいい!!」
信次「何も分かっていないな・・・」
悠矢「分かっていない・・・?」
――――― “藤川信次”3へつづく ―――――
幾分緊張した面持ちで、椅子を持ち
登場。
下手より、年配の偉そうな態度の
男性、椅子を持ち登場。
(天使、ニヤリと微笑み、下手前方へ。
そんな2人の様子を楽しそうに見ている。)
男性、舞台中央椅子を置き、座る。
信次、その前に椅子を置き、横に立つ。
男性「(手に持っていた書類に目を遣り、チラッと信次を見る。)
どうぞ・・・」
信次「はい、失礼します。(椅子に腰を下ろす。)」
男性歌う。
“藤川信次くん・・・
T大学卒業予定・・・”
男性「ほう・・・有名国立大学か・・・」
男性歌う。
“得意なスポーツ マラソンと・・・
持久力には自信あり・・・”
信次「はい、一つのことを、コツコツと成し遂げるのが得意です
。」
男性歌う。
“我が社を希望した動機は・・・?”
信次「はい、貴社の将来性と・・・」
天使、2人の側へ。2人の様子を見ながら
歌う。
“ここぞとばかり熱弁を揮った
自分の考え 自分の思い
口八丁手八丁
相手を飲み込む熱い視線で
考えの全て”
男性歌う。
“しっかりした考え独創性
社運を賭けた新事業
君になら任せられる”
男性「是非、我が社に!!(立ち上がり、信次の肩に手を掛け
る。)」
信次「ありがとうございます!!(立ち上がり、頭を下げる。)」
2人、其々椅子を持ち、上手下手へ去る。
天使「見事、大手企業に一発ストレート入社、流石だね。」
天使歌う。
“このままどんどん上り詰める
自分の願った人生そのまま
一度の挫折も知らぬまま
人間らしさも知らぬまま
それが当たり前であるかのように
冷たい奴だ誰が見ても
心がないねあいつには
だけどそんな彼にも心から
愛してくれる人はいた
知ってか知らずか
それは彼の不幸中の幸い”
暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
上手スポットに、スーツ姿の一人の
女性(花村秋)浮かび上がり、歌う。
“2つ違い・・・
ただの幼馴染・・・
それも小さい頃の話し
今はほんの顔見知り・・・
会っても挨拶すらしない
でも私は見てた
いつもあなただけ・・・
女の子達が告白するのを羨ましく・・・
冷たくあしらうのを少し淋しく・・・
そしてちょっぴりホッとした・・・
だから頑張ったわ
同じ高校に行きたくて
だから夢中で勉強した
置いていかれないように
大学にストレートで入れたのも
あなたのお陰
だけど・・・
卒業式が来る度
いつも辛かった・・・
2つ違いはどうしても
埋まらないから・・・”
秋「でも、やったわ!!」
“今度こそ
卒業式のない社会人
今日
漸くまたあなたの側に・・・”
舞台明るくなる。(社内の様子。)
中央に課長。周りには社員が立っている。
(その中に、信次の顔も見える。)
課長「えー・・・今日からこの課に配属になった、花村秋さんだ。」
秋「(信次を認め。)・・・信次くん・・・」
周りの社員、「信次くんだって・・・」など、
ヒソヒソ声で囁き、顔を見合わせる。
信次「・・・花村・・・秋・・・?」
課長「なんだ藤川くん、知り合いかね?」
信次「・・・え?ええ・・・まぁ・・・」
課長「それじゃあ君が色々と、花村くんの面倒を見てやってくれ
たまえ。その方が花村くんも心強いだろうからな。」
信次「・・・え・・・?」
課長「頼むよ。」
信次「(独り言のように。)・・・面倒臭い・・・」
秋「(信次の側へ。)よろしくお願いします、藤川さん!!(頭を
深く下げる。)」
信次「・・・あ・・・?ああ・・・」
秋、スポットに浮かび上がり歌う。
“覚えていてくれたわ!
丸で奇跡ね
私のこと知ってくれてたの
信じられる?
2人の思い出は
遠い昔の小さなブランコ
それだけなのに
彼の記憶に私がいたわ
ああ丸で夢みたい
ああ丸で雲の上にいる気分よ!!”
暗転。
――――― 第 5 場 ――――― A
舞台、明るくなると、藤川家リビング。
(中央テーブルの上には、パーティの用意が
されている。)
一時置いて、1場の紳士姿の信次、拾った
花束を手に上手より登場。
信次「ただいま・・・(周りを見回す。)誰もいないのか・・・?なん
だ・・・今日は何か祝い事でもあったのかな・・・?(テーブル
の上を見て。)・・・冷めたスープに・・・冷めた料理・・・一体
皆、どこへ行ったんだ・・・。(倒れていた椅子を立てる。)秋
?悠矢?(花束をテーブルの上へ置く。)」
信次、下手方に置いてあった一つの
ロッキングチェアにゆっくり腰を下ろし、
揺らす。
信次「ああ・・・この椅子はいいな・・・。何故かとても落ち着くん
だ、昔から・・・。それにしても皆どこへ行ったんだろう・・・。
そう言えば昨夜・・・秋が何か言っていたような・・・。明日は
記念日で・・・だから、どうのこうのと・・・」
信次、ゆっくり目を閉じる。
フェード・アウト。
――――― 第 5 場 ――――― B
遠くから音楽流れ、木霊するように段々
大きくなる。
ライト・インする。と、ポーズを取った
オフィスレディ達、歌う。
“我が社に不景気なんて
関係ないわ
業界切っての企業伸び率
新事業プロジェクトも軌道に乗った
その功績は彼の手腕に
ねぇ藤川さん!”
OL1「噂じゃ彼、仕事以外に趣味はないそうよ。」
OL2「本当?」
OL3「でも男前よね!」
OL1「それはそうだけど・・・彼みたいな人と付き合ったら、泣き
を見るのはこっちよ!」
OL2「それでもいいわ!」
OL3「仕事をバリバリこなしてる藤川さん、誰が何て言ったって
格好良いんだもの!!」
オフィスレディ達、歌う。
“すごいわね藤川さん
片手入社でもう課長
毎日毎日残業ばかり
休みも返上
一体いつ眠るのかしら?”
OL1「素敵ねー!」
(途中、沢山の書類を抱えた信次、
下手から登場。急ぎ足で上手へ去る。)
オフィスレディ達、歌う。
“嘘みたい藤川さん・・・
まだ若いのに部長だなんて
我が社始まって以来の快挙ね
日曜日も接待
今度はゴルフらしいわよ”
OL2「格好良いー!」
(途中、ゴルフバックを肩から提げ、手には
書類を持った信次、上手から登場。下手へ
去る。)
曲調変わる。(音楽静かに。)
オフィスレディ達、歌う。
“・・・結婚したわ藤川さん・・・
とてもショックよ・・・
彼女なんて3日も寝込んだらしいわ
でも驚きね
あの仕事人間に
愛する人がいたなんて・・・
違うわ 噂じゃ
体裁保つ為
幼馴染で同じ職場・・・
彼のことをよく知ってる彼女が
選ばれただけ・・・”
舞台、薄暗くなる。
舞台奥、中央スポットに、婚礼姿の後ろ向き
の男女、浮かび上がる。
神父の声「藤川信次・・・汝は花村秋を妻とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
信次の声「・・・誓います。」
神父の声「花村秋・・・汝は藤川信次を夫とし、一生涯愛しぬく
と誓いますか?」
秋の声「誓います!!」
オフィスレディ達の悲鳴で、スポット男女、
フェード・アウト。
(舞台、明るくなる。)
オフィスレディ達、歌う。
“とうとう副社長になったわ藤川さん
結婚しても変わらない
その仕事ぶりに生活態度
家庭を顧みず
自分の思うままの道
歩き続ける
止まることを知らぬまま
彼と結婚してたら大変なこと!”
オフィスレディ達、其々上手下手へ去る。
そこへ50代半ばになった信次、下手より
登場。
上手より一人の男性、ゆっくり登場。
2人、舞台中央へ。男性、信次へ辞令を
手渡す。
男性「これからは副社長として、社長の片腕となり、我が社を盛
り立てていってくれ。」
信次「はいっ・・・!」
男性「頑張りたまえ・・・。(信次の肩に手を掛ける。)」
男性、下手へ去る。
信次、深呼吸をして上手方へ行きかける。
と、上手より慌てた様子で悠矢、登場。
悠矢「父さん!!」
信次「どうした、悠矢。」
悠矢「大変なんだ!!母さんが・・・!!」
信次「今、忙しいんだ。これから引継ぎ業務が・・・」
悠矢「父さん!!母さんが倒れたんだ!!」
信次「・・・それで?」
悠矢「それでって・・・救急車でK大学病院に・・・」
信次「分かった・・・K大学病院なら、小川先生に連絡しておく。」
悠矢「父さんは・・・?」
信次「だから言ってるだろ。私はこれから色々と忙しいんだ・・・」
悠矢「・・・なんて人だ・・・」
信次「(悠矢の顔を見る。)」
音楽流れ、悠矢歌う。
“母さんが倒れたんだ・・・
なのに駆け付けようともせず・・・
あなたは背を向けた・・・
母さんよりも仕事を選んだ・・・
何よりも・・・あなたのことを
待ち続ける人を待たせたまま
何がそんなに大切なんだ・・・
何があなたを駆り立てる
あなたにとって家族って何なんだ
あなたの口で答えてみろよ・・・”
信次「馬鹿馬鹿しい・・・(上手へ行きかける。)」
悠矢、信次の前へ立ち塞がる。
信次「どきなさい・・・」
悠矢「嫌だ・・・僕と一緒に病院へ行くんだ!!」
信次「そんな時間はない。」
悠矢「時間なんか作ればいい!!」
信次「何も分かっていないな・・・」
悠矢「分かっていない・・・?」
――――― “藤川信次”3へつづく ―――――
2013年6月14日金曜日
“藤川信次” ―全8場―
〈 主な登場人物 〉
藤川 信次 ・・・ 本編の主人公。子どもの頃からエリート
街道を進んできた。
藤川 秋(旧姓花村) ・・・ 信次の妻。
藤川 悠矢 ・・・ 信次と秋の息子。
嶺山 葵 ・・・ 悠矢の恋人。
天使
その他
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
――――― 第 1 場 ―――――
静かな音楽流れ、木霊するように小さな
歌声聞こえる。
“アイ・ラヴ・・・アイ・ラヴ・ゴースト・・・
アイ・ラヴ・ゴースト・・・” ※
舞台中央スポット、ベンチに座り俯き加減に、
物思いに耽るように一人の紳士(藤川信次)、
浮かび上がる。
信次「・・・なんだろう・・・何か大切なことを忘れているような・・・
何かやらなければならない、大事なことがあったような・・・
何だろう・・・」
音楽大きくなる。
信次、立ち上がり歌う。
“大切なこと・・・思い出せない・・・
当たり前のこと・・・何か忘れてる
自分の心が・・・求めてる
誰かの為に・・・出来ること・・・
何だろう・・・一体・・・
どうしたんだろう・・・
分からない・・・”
信次「こう・・・通りを見ていても、どこかへ急いで行かなければ
ならなかったような・・・落ち葉が落ちるよりも早く・・・何か
見つけなければいけない・・・探し物があったような・・・」
“一つだけ心に・・・
ポッカリ空いた忘れ物・・・
何が癒してくれるのか・・・
どこに落としてしまったのか・・・
いつになれば満たされる・・・
振り返っても見つからない
目の前に広がる道もただ
霞んで今はよく見えない・・・”
信次、再び座り、頭を抱える。
その時、上手より一人の女性(嶺山葵)、
怒っているように足早に登場。
続いて葵を追い掛けるように、一人の
青年(藤川悠矢)、バラの花束を手に登場。
悠矢「葵・・・!!葵、待てよ・・・!!」
葵「嫌よ!!」
悠矢「待てってば・・・」
葵「もういい加減にしてよね!!あなたはいつも仕事、仕事・・・
こんなに楽しみにしていた記念日にまで遅刻してくるなんて
!!」
悠矢「だから謝ってるじゃないか・・・!こうして君の好きなバラ
の花束だって・・・(差し出す。)」
葵「そんなもので騙されないわ!!あなたは仕事さえ出来れば
いいのよ!!仕事だけがあなたの生き甲斐!!私のことな
んて、これっぽっちも考えてくれたことがないんだわ!!」
音楽流れ、葵歌う。
“2人のことなんて
どうでもいいの あなたには
2人の約束なんて
あってもないの あなたには
優しさを贈り物で
誤魔化そうだなんて
思い遣りのない身勝手な人!!”
葵「大っ嫌い!!」
葵、下手へ走り去る。
悠矢「あ!!待ってくれ・・・!!葵!!待っ・・・て・・・畜生・・・
僕が何をしたって言うんだ・・・。ちょっと約束の時間に遅れ
ただけじゃないか・・・!それなのに・・・!そりゃ、ここんと
こ忙しくて・・・約束を守れたことは・・・あんまりないけど・・・」
悠矢歌う。
“ただ仕事が長引いただけ
ただいつもより・・・
やるべきことが多かった
ちゃんと連絡もいれた
この通りプレゼントだって・・・
なのに何故・・・
彼女はあんなに怒るんだ
全く訳が分からない
どうすればいいんだ・・・
今日は大切な記念日・・・
2人が出会った思い出の日・・・”
悠矢「そして僕が・・・(背広のポケットをそっと触る。)」
悠矢、花束を見て溜め息を吐き、横に
あったゴミ籠の中に花束を捨て、上手へ
去る。(いつの間か信次、頭を上げ今まで
の2人の様子を、何の気なしに見ている。)
信次「あ・・・おい・・・君・・・!全く・・・最近の若い者は、何でも物
を粗末にし過ぎる・・・。(ゴミ籠の中から、花束を拾う。)・・・
こんな綺麗な花束・・・。それにしてもあの2人・・・どこかで
見たことが・・・(首を傾げる。)それに一体・・・何を言い合
いしてたんだろう・・・。大切な日に遅刻がどうのこうのと・・・
大切な日・・・何だろう・・・何か大切なことがあったような・・・
」
信次、再び歌う。
“どこかで誰かが待っている・・・
急いで行かないと間に合わない・・・
別れ別れになった2人のように
何かを言わなければならなかった・・・
胸に抱えた一つの台詞・・・”
信次、ゆっくり上手へ去る。
と、同時に一人の天使、信次を見て
いたように登場。上手方を見たまま
舞台の縁に腰を下ろす。
天使「やれやれ・・・人間って言うのは、面倒な生き物だ・・・。折
角の大切な時間・・・彼はただああやって、考えて終わらせ
るつもりなのかな・・・?」
天使歌う。
“君は忘れてるね
大切なこと・・・
遣り残した思いを満たす為に
もう一度舞い降りた
地上に立つ意味を・・・
早く思い出さないと
言い残した言葉・・・
でなきゃ永遠に
君はこの世を徘徊する
迷える風になるんだから・・・”
暗転。
――――― 第 2 場 ―――――
中央前方スポットに、一つの長椅子。
(病院の待合室。)
そこに腰掛けている婦人(藤川秋)と、
悠矢浮かび上がる。
秋「・・・あの人は本当に今まで仕事ばかり・・・いつもいつも働き
詰めで・・・挙句の果てに、仕事場で倒れるなんて・・・」
悠矢「・・・母さん・・・」
秋「あの人と私は昔・・・同じ職場で働いていたの・・・。今のあな
たと、嶺山さんのようにね・・・」
悠矢「そうだったんだ・・・」
秋「その頃のお父さんは、とても仕事熱心だったの・・・。今と全
然変わりなく・・・私は・・・それを承知で結婚したんだけれど
・・・正直言って・・・淋しいと思ったことは、一度や二度では
なかったわ・・・。結婚してからも家庭を顧みることなく・・・私
のことも放ったらかし・・・小さいあなたの面倒なんて一度も
・・・。私のこと・・・本当に愛してくれていたのかしら・・・」
悠矢「そんな父さんと一緒になって・・・母さんは幸せだったの
・・・?」
秋「私・・・?私は・・・(考えるように。)」
舞台明るくなる。と、上手後方に一つのベッド。
(病室。)
その上に信次、眠っている。横には小川医師と
看護師立っている。
秋と悠矢、信次の側へ。
秋「小川先生・・・」
小川「藤川さん・・・」
悠矢「先生、どうなんですか?父の容態は・・・」
小川「最善の手は施しましたが・・・」
悠矢「・・・そうですか・・・」
秋・・・あなた・・・」
小川「・・・全く・・・無茶な仕事量をこなして・・・いつか取り返しの
付かないことになるから、程々にして下さいと、常々煩く言
っていたのに・・・」 ※2
秋「あなた・・・」
音楽流れ、秋、言葉を搾り出すように歌う。
(途中、小川医師、看護師上手へ去る。)
“聞こえてる・・・?
そこにいるの・・・?
いつも私は待ちぼうけ・・・
なのにまた・・・
私を置いて行くの・・・?
私のことが分かる・・・?
いつもここにいる・・・
あなたの温もりが
虚飾に感じるわ・・・
私はあなたの声が聞きたい・・・”
秋「ねぇ・・・答えて・・・あなたの言葉で聞かせて・・・私の生き
方が正しかったんだと・・・」
悠矢「・・・母さん・・・」
暗転。
天使の声「・・・彼の命は風前の灯・・・さぁて・・・藤川信次・・・そ
の人の昔をちょいとばかし覗いて見るとしようか・・・。」
――――― 第 3 場 ―――――
一転して明るい音楽流れる。
一人の女子学生、手に袋を持ち下手より
スポット登場。歌う。
“子どもの時から優秀で
英才教育 お受験で
有名私立幼稚園
そのままエスカレーター式に
おぼっちゃま街道まっしぐら
学校ではいつも1、2を争う秀才くん
その上 運動神経抜群で
おまけに誰もが振り返るハンサムボーイ
女の子が放っとかないよね藤川くん”
舞台、明るくなる。と、舞台中央に置かれた
一つのベンチ(1場と同じ。)に、学生服姿の
信次、腰を下ろし本を読んでいる。
女子学生、信次を認め恥ずかしそうに躊躇い
ながら、ゆっくり近付く。
女子学生「・・・あの・・・藤川くん・・・」
信次、顔を上げ、女子学生を認め怪訝そう
に見詰める。
女子学生「・・・こ・・・こんなところで読書?さ・・・寒いでしょ?」
信次「・・・君・・・誰・・・?」
女子学生「・・・え?同じクラスの南愛子じゃない。」
信次「・・・南・・・ああ・・・聞いたことがあるような気がする。」
女子学生「・・・気がするって・・・」
信次「それで?何か用・・・?」
女子学生「え・・・ええ!今日、何の日か知ってる?」
信次「何の日・・・?さぁ・・・」
女子学生「2月14日よ!?学校中の女の子達が・・・」
信次「くだらない・・・」
女子学生「え・・・?」
信次「皆が何に騒いでいるのか知らないが、他に考えることが
ないんだな・・・。」
女子学生「・・・本当に知らないの・・・?」
信次「ああ・・・。何の日だろうと、僕には関係ないからね。失敬
・・・」
信次、上手へ去る。
女子学生「藤川くん・・・!!・・・折角・・・チョコレート・・・頑張っ
て作ったのに・・・」
女子学生、悲しそうに歌う。
“知的で冷静沈着で・・・
背も高くてハンサムボーイ・・・
女の子が放っとかないけど藤川くん
あなたはちっとも見向きもしない・・・
いつも手には読みかけの分厚い本
横にいるのは教科の先生・・・”
女子学生「女の子に興味がないのかしら・・・」
女子学生、溜め息を吐きながら、残念
そうに下手へ去る。
下手後方より、その様子を見ていたように
天使、ゆっくり登場。
天使「成績優秀で、何をやらせてもそつ無くこなす・・・見た目に
はとてもよく出来た人間に見えるけれど・・・内面を探って、
人間的な部分に触れると・・・彼にはその一番大切な、“人
間らしさ”・・・と言うところには、全く無頓着で、そう言った
感情は欠如しているらしい・・・(笑う。)さぁて、この後、彼は
どんな風に成長していくんだろうね。(上手方を見て、何か
に気付いたように。)おや・・・?お出ましだ・・・。バリッとス
ーツに身を包んで、今日はどこへお出掛けかな・・・?」
――――― “藤川信次”2へつづく ―――――
※ この作品のタイトルとして“アイ・ラヴ・ゴースト”と付いて
いたのですが、読み直してみて「どうかな・・・」と感じたの
で、今回はタイトルを主人公名で書かせて頂いています
^^;
もう一つ余談ですが・・・この信次さん、初めは外国名
(ジム・グレイ)が付いていました^_^;
※2、こんな会話をする・・・と言うことは、小川先生と信次
さんは、友達か・・・それに近い関係だとお考え下さい^^;
2013年6月12日水曜日
“風になる・・・” ―全8場― 完結編
アイザック「(首を傾げる。)全く不思議な・・・夢とも現実とも分か
らない・・・。きっとおまえにこんな話しをしたところで、
笑い話しにも聞いてはもらえないだろうが・・・。もう随
分、昔に亡くなった・・・ジュディに出会ったんだ・・・。」
スティーブ「え・・・母さんに・・・?」
アイザック「スティーブ・・・亡くなった者を追い求めることを美化
するんじゃないぞ・・・。我々はいつも歩いているんだ
・・・。決して後ろを振り返るなと言っている訳ではな
い・・・。ただ歩き続けることは必要なことなんだ・・・。
たとえ一歩も進めない時期があろうとも、その場でも
いい、足踏みをして歩けるようになる努力をすること
は大切なことなんだよ・・・。足踏みすら忘れてしまっ
たら、もうお仕舞いだ・・・。もっと大きくなれる・・・。お
まえならもっと素晴らしい絵が描ける・・・。誤解させ
たことは悪かった・・・」
スティーブ「・・・父さん・・・」
アイザック「いつもおまえのことを気にかけていた・・・。ただ私が
世間に知られ過ぎていたが故に、おまえは選択の余
地なくこの道に進み・・・そしていつも私と比べられ・・・
辛い思いを強要させてきたかも知れない・・・。私が
おまえのところに頻繁に顔を出していれば、それこそ
世間はおまえを“親の七光り”だと見ただろう・・・。私
は私なりに考えて、敢えておまえを一人にしたのだ
・・・それだけは分かって欲しい・・・」
アイザック、下手方へ行こうとする。
スティーブ「父さん・・・!」
アイザック、振り返る。
スティーブ「・・・僕は・・・絵を描くことが好きですよ・・・とても・・・
。こんな楽しみを仕事に持てたきっかけは父さん・・・
あなたがいたからです・・・。僕はいつも父さんの影に
隠れ・・・いつまでも父さんを追い越すことが出来ず・・
・自分自身、萎縮していたのです・・・。こんな駄作の
絵を見ても、有名画家である父さんの息子の僕が描
いたこの作品達を、訳も分からず絶賛する人々がい
る・・・。それが僕にはどうしても耐えられなかった・・・
でも・・・今ここで父さんと話すことが出来て・・・何か
吹っ切れたような気がします・・・。僕は一人の芸術
家として、いつか必ずあなたを追い越すことを約束し
ますよ。もう迷わない・・・」
アイザック「(嬉しそうに微笑む。)ああ・・・楽しみにしている・・・」
アイザック、行きかける。
スティーブ「・・・父さん!母さんは・・・優しい人でしたね・・・。亡
くなった今も、僕達をずっと見守ってくれている・・・」
アイザック「ああ・・・」
スティーブ「父さん・・・僕も不思議な森で、風になった母さんと
出会いましたよ・・・」
アイザック「・・・スティーブ・・・」
スティーブ「今度、ゆっくり食事にでも行きましょう・・・」
アイザック「ああ・・・そうだな・・・」
アイザック下手へ去る。
いつの間にか一人の娘が絵を見ている。
アイザックと入れ代わり、上手よりマーク
登場。娘に近寄る。
マーク「あの、もう閉館時間過ぎてるんで、申し訳ないですけど
・・・」
娘「(マークに気付き。)あ、ごめんなさい。」
スティーブ「ああ・・・マーク、構わないさ、少しくらいなら・・・」
マーク「珍しいですね、先生。豪く優しいじゃないですか。(笑う。
)」
スティーブ「馬鹿野郎・・・。まえも、もう帰っていいぞ。」
マーク「えー、本当ですか!?」
スティーブ「ああ・・・」
マーク「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・!お先です!」
マーク、頭を下げ下手へ去る。
スティーブ「(マークに手を上げる。)」
娘「私、あなたの絵がとても好きなんです・・・。嫌なことがあって
も、あなたの明るいタッチの絵を見ていると、元気になれるわ
・・・。」
スティーブ「ありがとう・・・」
娘「サインして頂けますか?」
スティーブ「どうぞ・・・」
娘「(ペンをスティーブに差し出す。)」
スティーブ「(ペンを受け取り、驚いた面持ちをする。)・・・この・・・
ペン・・・」
娘「素敵なペンでしょ?私の宝物なんです。でも、いつから私の
元にあるものなのか分からないの・・・。気が付けば、いつも
私の側にあったもので・・・」
スティーブ「・・・この傷・・・まさか・・・」
娘「ここにお願いします。(手帳を渡す。)」
スティーブ、サインする。
娘「ありがとうございます!」
スティーブ「・・・あの・・・!」
娘「はい・・・」
スティーブ「・・・名前は・・・」
娘「アリス・ジョー・・・」
スティーブ「アリス・・・(嬉しそうに微笑んで。)それでは、レディ・
アリス・・・ご一緒にお茶でもいかがですか?」
娘「本当に?・・・ええ、喜んで・・・!」
スティーブ「直ぐに支度するので、入り口で待ってて下さい。」
娘「ええ。」
娘、下手へ去る。
スティーブ、椅子の上から上着を取り、羽織る。
音楽流れ、スティーブ歌う。
“忘れていた時は・・・
誰もが心に持つ
優しい思い出・・・
風が運んでくる
温かな香りと共に
満たされる思い出・・・”
スティーブ、母親の絵を外し、三脚に
ポケットから取り出した絵(ミニ・レディ・アリスの絵)
を貼り付ける。
外した絵を提げて下手方へ。
電気のスイッチを切ると、舞台暗くなる。
音楽大きくなり。
――――― 幕 ―――――
らない・・・。きっとおまえにこんな話しをしたところで、
笑い話しにも聞いてはもらえないだろうが・・・。もう随
分、昔に亡くなった・・・ジュディに出会ったんだ・・・。」
スティーブ「え・・・母さんに・・・?」
アイザック「スティーブ・・・亡くなった者を追い求めることを美化
するんじゃないぞ・・・。我々はいつも歩いているんだ
・・・。決して後ろを振り返るなと言っている訳ではな
い・・・。ただ歩き続けることは必要なことなんだ・・・。
たとえ一歩も進めない時期があろうとも、その場でも
いい、足踏みをして歩けるようになる努力をすること
は大切なことなんだよ・・・。足踏みすら忘れてしまっ
たら、もうお仕舞いだ・・・。もっと大きくなれる・・・。お
まえならもっと素晴らしい絵が描ける・・・。誤解させ
たことは悪かった・・・」
スティーブ「・・・父さん・・・」
アイザック「いつもおまえのことを気にかけていた・・・。ただ私が
世間に知られ過ぎていたが故に、おまえは選択の余
地なくこの道に進み・・・そしていつも私と比べられ・・・
辛い思いを強要させてきたかも知れない・・・。私が
おまえのところに頻繁に顔を出していれば、それこそ
世間はおまえを“親の七光り”だと見ただろう・・・。私
は私なりに考えて、敢えておまえを一人にしたのだ
・・・それだけは分かって欲しい・・・」
アイザック、下手方へ行こうとする。
スティーブ「父さん・・・!」
アイザック、振り返る。
スティーブ「・・・僕は・・・絵を描くことが好きですよ・・・とても・・・
。こんな楽しみを仕事に持てたきっかけは父さん・・・
あなたがいたからです・・・。僕はいつも父さんの影に
隠れ・・・いつまでも父さんを追い越すことが出来ず・・
・自分自身、萎縮していたのです・・・。こんな駄作の
絵を見ても、有名画家である父さんの息子の僕が描
いたこの作品達を、訳も分からず絶賛する人々がい
る・・・。それが僕にはどうしても耐えられなかった・・・
でも・・・今ここで父さんと話すことが出来て・・・何か
吹っ切れたような気がします・・・。僕は一人の芸術
家として、いつか必ずあなたを追い越すことを約束し
ますよ。もう迷わない・・・」
アイザック「(嬉しそうに微笑む。)ああ・・・楽しみにしている・・・」
アイザック、行きかける。
スティーブ「・・・父さん!母さんは・・・優しい人でしたね・・・。亡
くなった今も、僕達をずっと見守ってくれている・・・」
アイザック「ああ・・・」
スティーブ「父さん・・・僕も不思議な森で、風になった母さんと
出会いましたよ・・・」
アイザック「・・・スティーブ・・・」
スティーブ「今度、ゆっくり食事にでも行きましょう・・・」
アイザック「ああ・・・そうだな・・・」
アイザック下手へ去る。
いつの間にか一人の娘が絵を見ている。
アイザックと入れ代わり、上手よりマーク
登場。娘に近寄る。
マーク「あの、もう閉館時間過ぎてるんで、申し訳ないですけど
・・・」
娘「(マークに気付き。)あ、ごめんなさい。」
スティーブ「ああ・・・マーク、構わないさ、少しくらいなら・・・」
マーク「珍しいですね、先生。豪く優しいじゃないですか。(笑う。
)」
スティーブ「馬鹿野郎・・・。まえも、もう帰っていいぞ。」
マーク「えー、本当ですか!?」
スティーブ「ああ・・・」
マーク「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・!お先です!」
マーク、頭を下げ下手へ去る。
スティーブ「(マークに手を上げる。)」
娘「私、あなたの絵がとても好きなんです・・・。嫌なことがあって
も、あなたの明るいタッチの絵を見ていると、元気になれるわ
・・・。」
スティーブ「ありがとう・・・」
娘「サインして頂けますか?」
スティーブ「どうぞ・・・」
娘「(ペンをスティーブに差し出す。)」
スティーブ「(ペンを受け取り、驚いた面持ちをする。)・・・この・・・
ペン・・・」
娘「素敵なペンでしょ?私の宝物なんです。でも、いつから私の
元にあるものなのか分からないの・・・。気が付けば、いつも
私の側にあったもので・・・」
スティーブ「・・・この傷・・・まさか・・・」
娘「ここにお願いします。(手帳を渡す。)」
スティーブ、サインする。
娘「ありがとうございます!」
スティーブ「・・・あの・・・!」
娘「はい・・・」
スティーブ「・・・名前は・・・」
娘「アリス・ジョー・・・」
スティーブ「アリス・・・(嬉しそうに微笑んで。)それでは、レディ・
アリス・・・ご一緒にお茶でもいかがですか?」
娘「本当に?・・・ええ、喜んで・・・!」
スティーブ「直ぐに支度するので、入り口で待ってて下さい。」
娘「ええ。」
娘、下手へ去る。
スティーブ、椅子の上から上着を取り、羽織る。
音楽流れ、スティーブ歌う。
“忘れていた時は・・・
誰もが心に持つ
優しい思い出・・・
風が運んでくる
温かな香りと共に
満たされる思い出・・・”
スティーブ、母親の絵を外し、三脚に
ポケットから取り出した絵(ミニ・レディ・アリスの絵)
を貼り付ける。
外した絵を提げて下手方へ。
電気のスイッチを切ると、舞台暗くなる。
音楽大きくなり。
――――― 幕 ―――――
2013年6月10日月曜日
“風になる・・・” ―全8場― 4
スティーブ「ああ・・・父さんを壁のように感じ・・・追い越そうとす
る前から、追い越せないと思い込んでいた・・・。何も
かも否定していたんだ・・・。一緒に頑張ってみない
か・・・君とは住む世界は違うが、お互い同じところを
目指す者同士として・・・。」
トリーズ「同じところを・・・目指す者同士・・・」
音楽流れ、スティーブ歌う。
“先ず前を向いてみよう・・・
顔を上げて
すると自然と目に入る
本当に目指すもの・・・
先ず可能性に賭けてみよう・・・
ほんの少しでも
チャンスがあるなら
一歩を踏み出してみよう
諦めるなんて馬鹿げてる
後ろを向いても仕方ない
行動すれば
必ず結果は付いて来る・・・
勇気だけを持てばいい!!” ※
トリーズ歌う。
“行動すれば・・・
必ず結果は付いて来る・・・
勇気だけを持てばいい・・・”
スティーブ「ああ・・・そうだ。」
トリーズ「(今までと顔付きが変わり、希望に溢れた瞳でスティ
ーブを見る。)分かりました・・・僕は壁を乗り越えてみま
す・・・自分自身の壁を・・・!!」
スティーブ「よし・・・その意気だ!!頑張れよ、次期王様!!(
トリーズの肩に手を掛ける。)」
トリーズ「・・・はい・・・!!」
スティーブ「・・・じゃあな!」
スティーブ、手を上げて上手へ走り去る。
トリーズ「ありがとう・・・ありがとう!!(手を振る。)」
トリーズ、呟くように歌う。
“勇気だけを持てばいい・・・”
一時置いてツリー、下手より走りながら登場。
ツリー「大変だ!!トリーズ!!」
トリーズ「(振り返ってツリーを認める。)どうしたんだい?」
ツリー「またリーフ達が・・・どうしよう!!今度こそ、あいつら皆、
フォーレストのところへ引っ張って・・・」
トリーズ「(堂々とした口調で。)その必要はない。僕が行こう。」
ツリー「・・・トリーズ・・・?」
トリーズ「態々父さんに森林裁判で裁いてもらうこともないだろう
。僕が行って皆を治める。僕がこの国の次期国王だか
らね・・・!!」
ツリー「トリーズ・・・(嬉しそうに大きく頷く。)」
2人、下手へ去る。
音楽で暗転。
――――― 第 7 場 ―――――
上手よりスティーブ、ゆっくり登場。
(静かな音楽流れ、優しい風が戦ぐ。)
下手より少年登場し、スティーブの様子を
じっと見詰めている。
スティーブ「何だろう・・・とても心が落ち着く感じだ・・・。丸で何
かに守られているような・・・。心が優しい思いで満ち
溢れていく・・・。訳もなく懐かしいようで・・・ここが・・・
やすらぎの国・・・?(視線に気付き振り返る。)・・・
スティーブ・・・君はスティーブだろ?」
少年「漸く、迷いが吹っ切れたようだね。」
スティーブ「え・・・?」
少年「あなたの瞳から陰りが消えたよ。もう大丈夫だね。」
スティーブ「・・・どう言うことなんだ・・・君は一体・・・」
少年「もう分かっている筈だよ。」
スティーブ「分かる・・・って・・・何を・・・」
少年「あなたは僕だってこと・・・(微笑む。)」
スティーブ「君が・・・俺・・・?」
少年「(頷く。)今まで見て来た色々な国は、あなたの心の中の
世界・・・。ギルバート先生に友達のランディ・・・フォーレスト
は父さんの影・・・トリーズはあなたの分身・・・それに僕・・・
」
スティーブ「アリスは・・・?アリスなんて少女、知らないぞ・・・?」
少年「さぁ・・・それは僕にも分からない・・・。でもここへ迷い込ん
だのは、あなたの心が迷っていたから・・・。あなたが自分
自身の存在の意味を見失って、現実の世界から逃避しよう
とした時、迷いの国の扉は開かれる・・・。あなた自身を取り
戻す為に・・・。」
少年、静かに歌う。
“そして自分を見つけた今・・・
再び扉は開かれる・・・
優しい風に見送られ・・・
もう迷うことはない”
スティーブ、呼応するように歌う。
“自分自身を取り戻した今・・・
再び立ち向かう・・・
現実の山々を越え・・・
たとえ躓いても・・・”
2人、歌う。
“自分を見失うことはない・・・”
少年「僕は絵を描くことがとても好きだよ・・・。いつまでも好きな
絵を描き続けられるといいな・・・。」
スティーブ「ああ・・・そうだな・・・描き続けられるさ、きっと・・・」
少年「うん・・・」
その時、下手より一人の女性(ジュディ)登場。
(その姿は、1場の額の絵の女性。)
ジュディ「・・・スティーブ・・・何しているの・・・?早く帰っていらっ
しゃい・・・。」
少年「(振り返って嬉しそうに。)母さん!!」
スティーブ「・・・(呆然と。)・・・母さん・・・」
少年「この間描いた母さんの絵!コンクールで金賞を取ったん
だ!!」
ジュディ「まぁ・・・本当に?」
少年「でも・・・クラスメイトの奴らが言うんだ・・・僕が賞を取れた
のは、父さんのお陰だって・・・。父さんがいなきゃ、金賞な
んて取れなかったって・・・」
ジュディ「そうね・・・でも、それは違うわ・・・。あの絵は紛れもな
くあなた自身が描いたあなたの絵・・・。母さんはあの絵
が一番好きよ・・・。とても温かな感じがするもの・・・。お
父さんの絵とは全然違うわ・・・。あの絵はあなたが、あ
なたの心で描いた初めての絵・・・。だからとても嬉しい
わ・・・。そしてこれからも、もっとあなたが描きたいと思
ったものを、あなたの心で描き続けていって頂戴・・・。も
しまた迷うようなことがあったら・・・私はいつでもあなた
の風になってあげるわ・・・。あなたの心の雲を取り除く
風に・・・(呆然と佇み、2人の様子を見ていたスティーブ
を見て、優しく微笑む。)」
少年「うん!!」
スティーブ「・・・母さん・・・(言葉に詰まる。)」
ジュディ「さぁ、帰りましょう・・・」
少年、ジュディ、寄り添うようにゆっくり
下手へ去る。
スティーブ「・・・母さん・・・母さん!!」
その時、突風が吹き抜ける。
スティーブ「わあっ!!(風を避けるように身を屈める。)」
暗転。
ジュディの声「あなたはあなたよ・・・スティーブ・・・」
舞台明るくなる。と、中央にベンチの
置かれてある公園の風景。
ベンチに倒れていたスティーブ、気付いて
呆然と周りを見回し、ゆっくり立ち上がる。
スティーブ「・・・ここは・・・夢を・・・見ていたのかな・・・(フッと微
笑んで。)・・・いや・・・確かに迷い込んだ不思議な国
は、本当にあったんだ・・・」
音楽流れ、スティーブ歌う。
“そして自分を見つけた今・・・
再び扉は開かれる
優しい風に見送られ
もう迷うことはない・・・
自分自身を取り戻した今・・・
再び立ち向かう
現実の山々を越え・・・
たとえ躓いても
自分自身を見失うことはない・・・”
暗転。
――――― 第 8 場 ―――――
舞台明るくなる。と、1場の個展会場風景。
数人の客が熱心に絵に見入っている。
上手よりスティーブ登場。客に声をかけて
いる。
一時置いて、下手よりスティーブの父
(アイザック)登場。スティーブを認め、ゆっくり
近寄る。
アイザック「スティーブ・・・」
スティーブ「(アイザックを認め。)・・・父さん・・・」
アイザック「久しぶりだな・・・。どうだ?初日は盛況だったそうじ
ゃないか・・・。」
スティーブ「・・・ええ・・・」
アイザック「どうしたんだ、そんな気の抜けたような顔をして・・・」
スティーブ「・・・父さんこそ・・・。どうして態々こんなところへ・・・
?今までただの一度だって、僕の個展会場へ足を運
んでくれたことなどなかったのに・・・」
アイザック「・・・近くまで来たついでだ・・・。忙しくしているようじ
ゃないか・・・。」
スティーブ「ええ・・・お陰様で・・・」
アイザック「(絵を見ながら。)・・・何か迷いでもあるのか・・・?」
スティーブ「・・・え?」
アイザック「作品は嘘を吐かないぞ・・・。話してみないか・・・?」
スティーブ「・・・一体何を話すんですか・・・今まで散々放って置
いたくせに・・・今更・・・」
アイザック「何だ、何か拗ねているのか?」
スティーブ「ばっ・・・!!馬鹿言わないで下さい!!」
アイザック「私がおまえを一人にしたのは、おまえの為になるこ
とだと、確信していたからだ・・・。」
スティーブ「・・・僕の為・・・?」
アイザック「もしおまえがいつまでも私の影に隠れ、守られたま
まこの道に進んだとしても、今程の作品を本当にお
まえが描けるようになったと思うか・・・?」
スティーブ「・・・ええ・・・」
アイザック「違うな・・・。仕上がりは同じように描けても、おまえ
はもっと小さな芸術家にしかなれなかっただろう。今
のおまえは、なんと言われようと私がいたから有名
になったのでもなんでもない・・・。この作品達は、迷
いを持ちながらも嘘偽りない、おまえの分身達だ・・・。
その証拠に・・・そこに飾ってある絵・・・」
スティーブ「それは・・・!」
アイザック「母さんだ・・・。おまえがまだ小さい頃に書いた・・・。
何故おまえが今も、その絵を飾り続けているのか分
からないが・・・その絵の中の母さんは、生きている
とは言えないな・・・。自分でもよく分かっているだろ
う・・・?確かに書いた頃は、コンクールで賞をもらっ
た絵だ・・・。悪くはない・・・。だが、今のおまえなら、
そんな風な絵は描かない筈だ・・・。私の元を離れ・・・
おまえは成長したんだよ、確実に・・・。人気があるの
は今のおまえの絵で、その昔の母さんの絵じゃない
・・・。」
スティーブ「父さん・・・」
アイザック「・・・昨夜・・・奇妙な体験をしたんだ・・・」
スティーブ「奇妙な体験・・・?」
――――― “風になる・・・”5へつづく ――――――
すみませ~ん(>_<)
スティーブのお母さんの名前が、コロコロ変わっていた
ことに、今、気付きました~(-_-;)
正解は“ジュディ”さんです^^;
一応、書き直したのですが・・・もしまだ直ってない箇所
があれば、お許し下さい
・・・にしても・・・
シンディさんとは・・・どこから出てきたのでしょう・・・^_^;
※ この“歌詞”・・・今の私自身に贈りたいです・・・(>_<)
訳は・・・ここでは言えないですけど・・・^^;
“ヤフー版”には少し・・・イロイロと書いていますので、
興味がおありでしたら、またそちらもどうぞ・・・(^_^;)
る前から、追い越せないと思い込んでいた・・・。何も
かも否定していたんだ・・・。一緒に頑張ってみない
か・・・君とは住む世界は違うが、お互い同じところを
目指す者同士として・・・。」
トリーズ「同じところを・・・目指す者同士・・・」
音楽流れ、スティーブ歌う。
“先ず前を向いてみよう・・・
顔を上げて
すると自然と目に入る
本当に目指すもの・・・
先ず可能性に賭けてみよう・・・
ほんの少しでも
チャンスがあるなら
一歩を踏み出してみよう
諦めるなんて馬鹿げてる
後ろを向いても仕方ない
行動すれば
必ず結果は付いて来る・・・
勇気だけを持てばいい!!” ※
トリーズ歌う。
“行動すれば・・・
必ず結果は付いて来る・・・
勇気だけを持てばいい・・・”
スティーブ「ああ・・・そうだ。」
トリーズ「(今までと顔付きが変わり、希望に溢れた瞳でスティ
ーブを見る。)分かりました・・・僕は壁を乗り越えてみま
す・・・自分自身の壁を・・・!!」
スティーブ「よし・・・その意気だ!!頑張れよ、次期王様!!(
トリーズの肩に手を掛ける。)」
トリーズ「・・・はい・・・!!」
スティーブ「・・・じゃあな!」
スティーブ、手を上げて上手へ走り去る。
トリーズ「ありがとう・・・ありがとう!!(手を振る。)」
トリーズ、呟くように歌う。
“勇気だけを持てばいい・・・”
一時置いてツリー、下手より走りながら登場。
ツリー「大変だ!!トリーズ!!」
トリーズ「(振り返ってツリーを認める。)どうしたんだい?」
ツリー「またリーフ達が・・・どうしよう!!今度こそ、あいつら皆、
フォーレストのところへ引っ張って・・・」
トリーズ「(堂々とした口調で。)その必要はない。僕が行こう。」
ツリー「・・・トリーズ・・・?」
トリーズ「態々父さんに森林裁判で裁いてもらうこともないだろう
。僕が行って皆を治める。僕がこの国の次期国王だか
らね・・・!!」
ツリー「トリーズ・・・(嬉しそうに大きく頷く。)」
2人、下手へ去る。
音楽で暗転。
――――― 第 7 場 ―――――
上手よりスティーブ、ゆっくり登場。
(静かな音楽流れ、優しい風が戦ぐ。)
下手より少年登場し、スティーブの様子を
じっと見詰めている。
スティーブ「何だろう・・・とても心が落ち着く感じだ・・・。丸で何
かに守られているような・・・。心が優しい思いで満ち
溢れていく・・・。訳もなく懐かしいようで・・・ここが・・・
やすらぎの国・・・?(視線に気付き振り返る。)・・・
スティーブ・・・君はスティーブだろ?」
少年「漸く、迷いが吹っ切れたようだね。」
スティーブ「え・・・?」
少年「あなたの瞳から陰りが消えたよ。もう大丈夫だね。」
スティーブ「・・・どう言うことなんだ・・・君は一体・・・」
少年「もう分かっている筈だよ。」
スティーブ「分かる・・・って・・・何を・・・」
少年「あなたは僕だってこと・・・(微笑む。)」
スティーブ「君が・・・俺・・・?」
少年「(頷く。)今まで見て来た色々な国は、あなたの心の中の
世界・・・。ギルバート先生に友達のランディ・・・フォーレスト
は父さんの影・・・トリーズはあなたの分身・・・それに僕・・・
」
スティーブ「アリスは・・・?アリスなんて少女、知らないぞ・・・?」
少年「さぁ・・・それは僕にも分からない・・・。でもここへ迷い込ん
だのは、あなたの心が迷っていたから・・・。あなたが自分
自身の存在の意味を見失って、現実の世界から逃避しよう
とした時、迷いの国の扉は開かれる・・・。あなた自身を取り
戻す為に・・・。」
少年、静かに歌う。
“そして自分を見つけた今・・・
再び扉は開かれる・・・
優しい風に見送られ・・・
もう迷うことはない”
スティーブ、呼応するように歌う。
“自分自身を取り戻した今・・・
再び立ち向かう・・・
現実の山々を越え・・・
たとえ躓いても・・・”
2人、歌う。
“自分を見失うことはない・・・”
少年「僕は絵を描くことがとても好きだよ・・・。いつまでも好きな
絵を描き続けられるといいな・・・。」
スティーブ「ああ・・・そうだな・・・描き続けられるさ、きっと・・・」
少年「うん・・・」
その時、下手より一人の女性(ジュディ)登場。
(その姿は、1場の額の絵の女性。)
ジュディ「・・・スティーブ・・・何しているの・・・?早く帰っていらっ
しゃい・・・。」
少年「(振り返って嬉しそうに。)母さん!!」
スティーブ「・・・(呆然と。)・・・母さん・・・」
少年「この間描いた母さんの絵!コンクールで金賞を取ったん
だ!!」
ジュディ「まぁ・・・本当に?」
少年「でも・・・クラスメイトの奴らが言うんだ・・・僕が賞を取れた
のは、父さんのお陰だって・・・。父さんがいなきゃ、金賞な
んて取れなかったって・・・」
ジュディ「そうね・・・でも、それは違うわ・・・。あの絵は紛れもな
くあなた自身が描いたあなたの絵・・・。母さんはあの絵
が一番好きよ・・・。とても温かな感じがするもの・・・。お
父さんの絵とは全然違うわ・・・。あの絵はあなたが、あ
なたの心で描いた初めての絵・・・。だからとても嬉しい
わ・・・。そしてこれからも、もっとあなたが描きたいと思
ったものを、あなたの心で描き続けていって頂戴・・・。も
しまた迷うようなことがあったら・・・私はいつでもあなた
の風になってあげるわ・・・。あなたの心の雲を取り除く
風に・・・(呆然と佇み、2人の様子を見ていたスティーブ
を見て、優しく微笑む。)」
少年「うん!!」
スティーブ「・・・母さん・・・(言葉に詰まる。)」
ジュディ「さぁ、帰りましょう・・・」
少年、ジュディ、寄り添うようにゆっくり
下手へ去る。
スティーブ「・・・母さん・・・母さん!!」
その時、突風が吹き抜ける。
スティーブ「わあっ!!(風を避けるように身を屈める。)」
暗転。
ジュディの声「あなたはあなたよ・・・スティーブ・・・」
舞台明るくなる。と、中央にベンチの
置かれてある公園の風景。
ベンチに倒れていたスティーブ、気付いて
呆然と周りを見回し、ゆっくり立ち上がる。
スティーブ「・・・ここは・・・夢を・・・見ていたのかな・・・(フッと微
笑んで。)・・・いや・・・確かに迷い込んだ不思議な国
は、本当にあったんだ・・・」
音楽流れ、スティーブ歌う。
“そして自分を見つけた今・・・
再び扉は開かれる
優しい風に見送られ
もう迷うことはない・・・
自分自身を取り戻した今・・・
再び立ち向かう
現実の山々を越え・・・
たとえ躓いても
自分自身を見失うことはない・・・”
暗転。
――――― 第 8 場 ―――――
舞台明るくなる。と、1場の個展会場風景。
数人の客が熱心に絵に見入っている。
上手よりスティーブ登場。客に声をかけて
いる。
一時置いて、下手よりスティーブの父
(アイザック)登場。スティーブを認め、ゆっくり
近寄る。
アイザック「スティーブ・・・」
スティーブ「(アイザックを認め。)・・・父さん・・・」
アイザック「久しぶりだな・・・。どうだ?初日は盛況だったそうじ
ゃないか・・・。」
スティーブ「・・・ええ・・・」
アイザック「どうしたんだ、そんな気の抜けたような顔をして・・・」
スティーブ「・・・父さんこそ・・・。どうして態々こんなところへ・・・
?今までただの一度だって、僕の個展会場へ足を運
んでくれたことなどなかったのに・・・」
アイザック「・・・近くまで来たついでだ・・・。忙しくしているようじ
ゃないか・・・。」
スティーブ「ええ・・・お陰様で・・・」
アイザック「(絵を見ながら。)・・・何か迷いでもあるのか・・・?」
スティーブ「・・・え?」
アイザック「作品は嘘を吐かないぞ・・・。話してみないか・・・?」
スティーブ「・・・一体何を話すんですか・・・今まで散々放って置
いたくせに・・・今更・・・」
アイザック「何だ、何か拗ねているのか?」
スティーブ「ばっ・・・!!馬鹿言わないで下さい!!」
アイザック「私がおまえを一人にしたのは、おまえの為になるこ
とだと、確信していたからだ・・・。」
スティーブ「・・・僕の為・・・?」
アイザック「もしおまえがいつまでも私の影に隠れ、守られたま
まこの道に進んだとしても、今程の作品を本当にお
まえが描けるようになったと思うか・・・?」
スティーブ「・・・ええ・・・」
アイザック「違うな・・・。仕上がりは同じように描けても、おまえ
はもっと小さな芸術家にしかなれなかっただろう。今
のおまえは、なんと言われようと私がいたから有名
になったのでもなんでもない・・・。この作品達は、迷
いを持ちながらも嘘偽りない、おまえの分身達だ・・・。
その証拠に・・・そこに飾ってある絵・・・」
スティーブ「それは・・・!」
アイザック「母さんだ・・・。おまえがまだ小さい頃に書いた・・・。
何故おまえが今も、その絵を飾り続けているのか分
からないが・・・その絵の中の母さんは、生きている
とは言えないな・・・。自分でもよく分かっているだろ
う・・・?確かに書いた頃は、コンクールで賞をもらっ
た絵だ・・・。悪くはない・・・。だが、今のおまえなら、
そんな風な絵は描かない筈だ・・・。私の元を離れ・・・
おまえは成長したんだよ、確実に・・・。人気があるの
は今のおまえの絵で、その昔の母さんの絵じゃない
・・・。」
スティーブ「父さん・・・」
アイザック「・・・昨夜・・・奇妙な体験をしたんだ・・・」
スティーブ「奇妙な体験・・・?」
――――― “風になる・・・”5へつづく ――――――
すみませ~ん(>_<)
スティーブのお母さんの名前が、コロコロ変わっていた
ことに、今、気付きました~(-_-;)
正解は“ジュディ”さんです^^;
一応、書き直したのですが・・・もしまだ直ってない箇所
があれば、お許し下さい
・・・にしても・・・
シンディさんとは・・・どこから出てきたのでしょう・・・^_^;
※ この“歌詞”・・・今の私自身に贈りたいです・・・(>_<)
訳は・・・ここでは言えないですけど・・・^^;
“ヤフー版”には少し・・・イロイロと書いていますので、
興味がおありでしたら、またそちらもどうぞ・・・(^_^;)
2013年6月7日金曜日
“風になる・・・” ―全8場― 3
アリス「彼女は、期待の国の住人ではあるけれど、彼女のお母
さんは期待外れの国の人なの・・・。それで彼女、時々嘘
を吐くのよ・・・。きっとスティーブのことも、本当は何も知
らなかったんだと思うわ・・・。ごめんなさい・・・。」
スティーブ「何も君が謝らなくてもいいさ。」
アリス「でも私が嬉しそうに、あの棒をバネッサに見せびらかし
たりしなければ・・・」
スティーブ「あんなもの、たいしたことないよ。俺は外では書くも
のに不自由したことがないくらい、いつもペンは山の
ように持ち歩いているからね。(ジャケットを広げて見
せる。と、内ポケットにペンがズラッと並んでいる。)」
アリス「まぁ、本当!!(クスクス笑う。)」
スティーブ「(その内の1本を取り出し、アリスの方へ差し出す。
)はい・・・」
アリス「・・・何・・・?」
スティーブ「・・・さっきの万年筆に比べると、随分安物だけど・・・
すごく書き易くて、いつも自分のカンバスにサインす
る時に使っているものなんだ・・・。これを君にあげる
よ・・・。」
アリス「でも・・・」
スティーブ「ほら!スティーブが“やすらぎの国”の住人だって、
君が教えてくれたんじゃないか。」
アリス「・・・本当にもらっていいの・・・?」
スティーブ「ああ・・・」
アリス「(そっとペンを受け取る。)わぁ・・・」
スティーブ「そこに薄っすら傷が残ってる・・・」
アリス「(ペンを見て。)・・・本当・・・」
スティーブ「思い出の傷だ・・・」
アリス「どんな?」
スティーブ「(微笑んで。)それは秘密だよ。」
アリス「もう!」
舞台、薄暗くなり、下手スポットに一人の
少年とその母親、浮かび上がる。
(スティーブの回想。)
母親「・・・どうしたの?」
少年「もう絵なんて描かない・・・描きたくない!!こんなペン、
いるもんか!!(握っていたペンを、床に叩き付ける。)」
母親「何故?あんなに描くことが大好きだったじゃない・・・」
少年「皆が言うんだ!!僕の絵は父さんのコピーだって!!」
母親「(ペンを拾う。)・・・違うわ、スティーブ・・・あなたの絵はコ
ピーなんかじゃない・・・。あなたの絵はあなた自身が描い
たもの・・・。誰が何と言っても、母さんはあなたの描く絵が
世界中のどんな名画家が描いた絵よりも大好きよ・・・。」
少年「・・・母さん・・・」
母親「書く物を粗末にしないでね・・・。ペンはあなたに命を吹き
込まれて、真っ白なカンバスに色々な絵を描けることを、と
ても喜んでいるのよ・・・。一番のお気に入りでしょ?このペ
ン・・・(ペンを差し出す。)」
少年「(ペンを受け取り見る。)・・・傷が・・・ごめんなさい・・・」
2人フェード・アウト。
舞台明るくなる。
スティーブ「(一瞬、恥ずかしそうにフッと笑う。)・・・思い出の・・・
ペンなんだ・・・」
アリス「そんな大切なペン、私なんかが・・・」
スティーブ「いいんだ・・・。何故か君に持ってて欲しくて・・・」
アリス「ありがとう・・・あなたの代わりに、私が大切にするわ・・・」
音楽流れ、2人歌う。
“何故だか分からないけれど
何かを予感させる不思議な国
それが期待の国・・・
何の確信もない筈なのに
何故か未来が明るく輝くように
胸ときめく期待の国・・・”
アリス「・・・さよなら・・・」
スティーブ「さよなら、ミニ・レディ・アリス・・・」
スティーブ、スポットに浮かび上がり歌う。
“遠い昔の思い出は
忘れられない心の片隅に
今も微かに蘇る
優しい日が心を過ぎり
温かな思いで満たされる
自分の生きた証がそこにある・・・
生まれた意味を確信する
遠い昔の思い出に
今解き放たれる為
答えを探し出す為に
風になりたい・・・”
暗転。
――――― 第 6 場 ―――――
舞台明るくなる。
舞台中央に一本の大木(森の王“フォーレスト”)
眠っているように立っている。
下手前方に三角座りした一人の青年(トリーズ)
静かに歌う。
“この森は権力の森・・・
誰もが自分の権力を誇示する
それが当たり前かのように
自分のことだけ能弁ふるまく
忘れられた大切なこと
気付いていないだけかも知れない
何か大切なこと
誰もが自分中心のこの国で
自分のことだけを正当化する
強いものだけが勝ち残る
この国は誰もが認める
権力の国・・・”
その時、上手より一人の青年(ツリー)
走り登場。
ツリー「トリーズ!!大変だ!!リーフ達が・・・!!」
トリーズ「(立ち上がり。)どうしたんだい、ツリー・・・」
ツリー「リーフ達が、また喧嘩を始めたんだ!!何とかしてくれ
よ!!」
トリーズ「何とかって・・・今、父さんは眠ってるんだ・・・起こせな
いよ・・・。」
ツリー「何もあいつらをここへ引っ張って来て、森林裁判でフォ
ーレストに裁いてもらわなくても、君でいいんだ!!」
トリーズ「僕でいいって・・・」
ツリー「そうさ!君は次期この森の王じゃないか!!ちょっと僕
と一緒に来て、あいつらにパパッと説教してくれれば、そ
れで“はい、おしまい”!全て丸く治まる!」
トリーズ「そんな・・・僕にそんな説教なんて・・・出来ないよ・・・」
ツリー「何言ってるのさ!!フォーレストの息子である君には、
その力がある!!」
トリーズ「僕が行かなくても・・・君が仲裁に入れば・・・」
ツリー「僕じゃ駄目に決まってるだろ!?僕ら一般国民には、
権利の主張は出来ても、自らを裁くなんて出来ないんだ
!!だからトリーズ!!頼むよ!!」
トリーズ「僕はそんな力なんて・・・」
ツリー「気弱だなぁ!!そんな風にグズグズ言ってるうちに、リ
ーフ達の喧嘩が段々飛び火して、この森中、大火事だ!
!」
トリーズ「けど・・・」
フォーレスト「相変わらず、だらしのない奴だな・・・」
トリーズ、ツリー、フォーレストを見る。
トリーズ「・・・父さん・・・」
ツリー「フォーレスト!」
フォーレスト、目覚める。
フォーレスト「ツリー達がおまえに来て欲しいと言ってるんじゃな
いのか?何故そこで後込みするんだ。そんなこと
では、わしの後、この森を守ることなど到底出来な
いぞ。」
トリーズ「僕は・・・僕はこのままでいい・・・僕に森の王なんて無
理だ・・・」
フォーレスト「このままでいい・・・?」
トリーズ歌う。
“僕は・・・
何も望んでいない・・・
僕は・・・
今のまま何も変わらない・・・
この平穏な世界に浸って
静かに暮らしたい・・・
争いは嫌だ・・・
喧嘩なんて真っ平だ・・・”
フォーレスト、呼応するように歌う。
“情けない・・・
何て気弱なことを言う・・・
情けない・・・
そんなことでは落ち着けない・・・
好い加減一人で立派に生きてみろ
いつまで私に気を持たせる
いつまで私に言わせるんだ
しっかりしろと!!”
トリーズ「僕は・・・父さんのように力もないし・・・森林裁判で皆
を裁いたり・・・バラバラになった者達を纏めるなんて・・・
到底出来ないよ・・・」
フォーレスト「おまえがそんなことで、この国の将来はどうなるん
だ。そろそろおまえが根を張って、この大地に足を
つけ、新しいリーフ達を育てなければ、この国の未
来はないんだぞ?」
その時、下手よりスティーブ、走りながら
登場。
ツリー「誰だ!!」
スティーブ「(周りを見回す。)・・・っと・・・ここは・・・(フォーレスト
を認め。)古い大木の支配者・・・権力の国・・・」
フォーレスト「人間か・・・。何か用か・・・?」
スティーブ「いや・・・用って訳じゃないんです・・・(フォーレストの
顔をマジマジと見る。)」
フォーレスト「何だ・・・」
スティーブ「・・・父さん・・・?」
フォーレスト「父さん?」
スティーブ「あ・・・いや・・・すみません、あまりに父に似ていたも
ので・・・」
フォーレスト「それで、何の用もない人間が何故この国にやって
来たのだ。」
スティーブ「あ・・・直ぐ出て行きます。実は、やすらぎの国に住む
少年を捜してて・・・」
ツリー「迷い人か・・・」
スティーブ「・・・まぁ・・・」
フォーレスト「では早く出て行きたまえ・・・。我々は今、忙しいの
だ。」
スティーブ「・・・はい、お邪魔しました。」
スティーブ、ゆっくり上手方へ。
フォーレスト「それでトリーズ・・・」
スティーブ「(振り返り。)あの・・・!!」
ツリー「なんだ!?」
スティーブ「やすらぎの国と言うのは(上手を指して。)こっちで
・・・」
ツリー「ああ!!」
スティーブ「どうも・・・」
スティーブ、再び上手方へ行きかけるが、
立ち止まり3人の話しに耳を傾ける。
フォーレスト「おまえがしっかりと自分の立場を弁え、それに見
合った王にならなければ、この国の将来は真っ暗
闇になるのだ・・・。」
トリーズ「・・・そんなこと・・・言われても・・・」
フォーレスト「初めから分かり切っていることではないか。私の
息子であるおまえが、次期王であることは全国民
周知のこと。」
トリーズ「でも僕には・・・自信が・・・僕には無理です・・・。僕に
は出来ない・・・」
トリーズ、スティーブ、スポットに浮かび上がる。
トリーズ「僕には・・・」
スティーブ「何故、そんなに臆病風に吹かれるんだい・・・?」
トリーズ「(スティーブを認める。)」
スティーブ「何故そんなに気弱なんだ・・・」
トリーズ「だって・・・僕には・・・」
スティーブ「だって・・・何だい?」
トリーズ「だって・・・父さんが・・・偉大過ぎるんです・・・。それに
僕は・・・父さんのように皆を纏める知恵も・・・皆を押さ
え込む力もない・・・僕に次期王なんて・・・到底無理な
んです・・・」
スティーブ「・・・違うな・・・」
トリーズ「・・・え・・・?」
スティーブ「・・・俺にも・・・君と同じような父親がいるんだ・・・」
トリーズ「・・・同じような・・・?」
スティーブ「だから君の気持ちはよく分かる・・・。君と同じように
いつも萎縮した生き方をしてきたからね・・・。世界が
認める偉大な画家である父親を持ち、それ故に画家
の道を余儀なくされ、自分でどんなに駄作だと思って
も、世間はその駄作を褒め称える・・・自分の意思な
どあってもなかったような人生を歩んできたんだ・・・。
」
トリーズ「・・・本当に・・・?」
スティーブ「君がそんな態度を続けたら・・・じゃあこの国はどうな
るんだい・・・?」
トリーズ「それは・・・」
スティーブ「どんな国でも、権力のある者が必ずしも力の強い者
だと限った訳ではない・・・。腕力では到底立ち向かう
ことが出来ないと思うなら、君は心の大きな権力者
になればいいじゃないか・・・。何も権力を笠に着て、
力任せに国民達を纏めなくても、心から信頼される
本当の王になることを考えてみたらどうなんだい・・・
?」
トリーズ「・・・僕には・・・出来ない・・・」
スティーブ「僕には出来ない・・・と後ろを向く前に、僕なら何が出
来るか・・・僕なら何を国民の為に出来るかを考えた
らどうなんだ・・・。折角、与えられた地位じゃないか、
皆が座りたくても・・・簡単に座れる王座じゃないだろ
う?」
トリーズ「・・・じゃあ、あなたはどうなんですか・・・?あなたも世
界に騒がれる自分に、なりたくてなった訳ではないんで
しょう・・・?」
スティーブ「・・・確かに・・・父親の恩恵を受ける身分を、疎ましい
と思ってきた・・・。自分一人の力でのし上がってみた
かった・・・。だけど、その望みがどうしても叶わないの
なら、今与えられたものを幸せと思い、その幸運を最
大限に生かしながら、自分に出来るベストのことを考
えてみることは、大切なことなんじゃないのか・・・?
それがたとえ・・・自分でない誰か他の人の為である
ことでも、自分がそれにかかわっていることで、その他
の誰かが幸せになれるのなら、それでいいじゃないか
・・・。」
トリーズ「僕にはあなたのような、自信がありません・・・」
スティーブ「自信なんてないさ・・・。俺だって・・・いつも目の前に
大きく立ち塞がる父親の壁を、追い越せるかなんて
・・・そんな自信はこれっぽっちもないんだ・・・。だけど
やってみなきゃ、出来るか出来ないかさえ分からな
いじゃないか・・・。・・・そうなんだ・・・出来るチャンス
を与えられたことを、ありがたいと思える心の大きさ
を持てた時こそ、自分自身が漸くスタートラインに立
てた時なんだ・・・。」
トリーズ「逃げ出そうと思ったことは・・・?」
スティーブ「・・・正直に教えてやるよ・・・。いつも思ってた・・・。」
トリーズ「・・・本当に・・・?」
スティーブ「ああ・・・ここへ来る前は、もう今度こそ全てを投げ出
して、山奥にでも逃避してしまおうかと考えてたんだ
・・・。(フッと笑って。)・・・逃げ出すことしか考えられ
なかった・・・。君に偉そうに言える身分じゃないな・・・
。・・・だけど・・・今やっと分かったんだ・・・。俺が追い
越せなかったのは父さんじゃない・・・自分自身の心
壁だったんだと・・・。」
トリーズ「心の・・・壁・・・?」
――――― “風になる・・・”4へつづく ―――――
さんは期待外れの国の人なの・・・。それで彼女、時々嘘
を吐くのよ・・・。きっとスティーブのことも、本当は何も知
らなかったんだと思うわ・・・。ごめんなさい・・・。」
スティーブ「何も君が謝らなくてもいいさ。」
アリス「でも私が嬉しそうに、あの棒をバネッサに見せびらかし
たりしなければ・・・」
スティーブ「あんなもの、たいしたことないよ。俺は外では書くも
のに不自由したことがないくらい、いつもペンは山の
ように持ち歩いているからね。(ジャケットを広げて見
せる。と、内ポケットにペンがズラッと並んでいる。)」
アリス「まぁ、本当!!(クスクス笑う。)」
スティーブ「(その内の1本を取り出し、アリスの方へ差し出す。
)はい・・・」
アリス「・・・何・・・?」
スティーブ「・・・さっきの万年筆に比べると、随分安物だけど・・・
すごく書き易くて、いつも自分のカンバスにサインす
る時に使っているものなんだ・・・。これを君にあげる
よ・・・。」
アリス「でも・・・」
スティーブ「ほら!スティーブが“やすらぎの国”の住人だって、
君が教えてくれたんじゃないか。」
アリス「・・・本当にもらっていいの・・・?」
スティーブ「ああ・・・」
アリス「(そっとペンを受け取る。)わぁ・・・」
スティーブ「そこに薄っすら傷が残ってる・・・」
アリス「(ペンを見て。)・・・本当・・・」
スティーブ「思い出の傷だ・・・」
アリス「どんな?」
スティーブ「(微笑んで。)それは秘密だよ。」
アリス「もう!」
舞台、薄暗くなり、下手スポットに一人の
少年とその母親、浮かび上がる。
(スティーブの回想。)
母親「・・・どうしたの?」
少年「もう絵なんて描かない・・・描きたくない!!こんなペン、
いるもんか!!(握っていたペンを、床に叩き付ける。)」
母親「何故?あんなに描くことが大好きだったじゃない・・・」
少年「皆が言うんだ!!僕の絵は父さんのコピーだって!!」
母親「(ペンを拾う。)・・・違うわ、スティーブ・・・あなたの絵はコ
ピーなんかじゃない・・・。あなたの絵はあなた自身が描い
たもの・・・。誰が何と言っても、母さんはあなたの描く絵が
世界中のどんな名画家が描いた絵よりも大好きよ・・・。」
少年「・・・母さん・・・」
母親「書く物を粗末にしないでね・・・。ペンはあなたに命を吹き
込まれて、真っ白なカンバスに色々な絵を描けることを、と
ても喜んでいるのよ・・・。一番のお気に入りでしょ?このペ
ン・・・(ペンを差し出す。)」
少年「(ペンを受け取り見る。)・・・傷が・・・ごめんなさい・・・」
2人フェード・アウト。
舞台明るくなる。
スティーブ「(一瞬、恥ずかしそうにフッと笑う。)・・・思い出の・・・
ペンなんだ・・・」
アリス「そんな大切なペン、私なんかが・・・」
スティーブ「いいんだ・・・。何故か君に持ってて欲しくて・・・」
アリス「ありがとう・・・あなたの代わりに、私が大切にするわ・・・」
音楽流れ、2人歌う。
“何故だか分からないけれど
何かを予感させる不思議な国
それが期待の国・・・
何の確信もない筈なのに
何故か未来が明るく輝くように
胸ときめく期待の国・・・”
アリス「・・・さよなら・・・」
スティーブ「さよなら、ミニ・レディ・アリス・・・」
スティーブ、スポットに浮かび上がり歌う。
“遠い昔の思い出は
忘れられない心の片隅に
今も微かに蘇る
優しい日が心を過ぎり
温かな思いで満たされる
自分の生きた証がそこにある・・・
生まれた意味を確信する
遠い昔の思い出に
今解き放たれる為
答えを探し出す為に
風になりたい・・・”
暗転。
――――― 第 6 場 ―――――
舞台明るくなる。
舞台中央に一本の大木(森の王“フォーレスト”)
眠っているように立っている。
下手前方に三角座りした一人の青年(トリーズ)
静かに歌う。
“この森は権力の森・・・
誰もが自分の権力を誇示する
それが当たり前かのように
自分のことだけ能弁ふるまく
忘れられた大切なこと
気付いていないだけかも知れない
何か大切なこと
誰もが自分中心のこの国で
自分のことだけを正当化する
強いものだけが勝ち残る
この国は誰もが認める
権力の国・・・”
その時、上手より一人の青年(ツリー)
走り登場。
ツリー「トリーズ!!大変だ!!リーフ達が・・・!!」
トリーズ「(立ち上がり。)どうしたんだい、ツリー・・・」
ツリー「リーフ達が、また喧嘩を始めたんだ!!何とかしてくれ
よ!!」
トリーズ「何とかって・・・今、父さんは眠ってるんだ・・・起こせな
いよ・・・。」
ツリー「何もあいつらをここへ引っ張って来て、森林裁判でフォ
ーレストに裁いてもらわなくても、君でいいんだ!!」
トリーズ「僕でいいって・・・」
ツリー「そうさ!君は次期この森の王じゃないか!!ちょっと僕
と一緒に来て、あいつらにパパッと説教してくれれば、そ
れで“はい、おしまい”!全て丸く治まる!」
トリーズ「そんな・・・僕にそんな説教なんて・・・出来ないよ・・・」
ツリー「何言ってるのさ!!フォーレストの息子である君には、
その力がある!!」
トリーズ「僕が行かなくても・・・君が仲裁に入れば・・・」
ツリー「僕じゃ駄目に決まってるだろ!?僕ら一般国民には、
権利の主張は出来ても、自らを裁くなんて出来ないんだ
!!だからトリーズ!!頼むよ!!」
トリーズ「僕はそんな力なんて・・・」
ツリー「気弱だなぁ!!そんな風にグズグズ言ってるうちに、リ
ーフ達の喧嘩が段々飛び火して、この森中、大火事だ!
!」
トリーズ「けど・・・」
フォーレスト「相変わらず、だらしのない奴だな・・・」
トリーズ、ツリー、フォーレストを見る。
トリーズ「・・・父さん・・・」
ツリー「フォーレスト!」
フォーレスト、目覚める。
フォーレスト「ツリー達がおまえに来て欲しいと言ってるんじゃな
いのか?何故そこで後込みするんだ。そんなこと
では、わしの後、この森を守ることなど到底出来な
いぞ。」
トリーズ「僕は・・・僕はこのままでいい・・・僕に森の王なんて無
理だ・・・」
フォーレスト「このままでいい・・・?」
トリーズ歌う。
“僕は・・・
何も望んでいない・・・
僕は・・・
今のまま何も変わらない・・・
この平穏な世界に浸って
静かに暮らしたい・・・
争いは嫌だ・・・
喧嘩なんて真っ平だ・・・”
フォーレスト、呼応するように歌う。
“情けない・・・
何て気弱なことを言う・・・
情けない・・・
そんなことでは落ち着けない・・・
好い加減一人で立派に生きてみろ
いつまで私に気を持たせる
いつまで私に言わせるんだ
しっかりしろと!!”
トリーズ「僕は・・・父さんのように力もないし・・・森林裁判で皆
を裁いたり・・・バラバラになった者達を纏めるなんて・・・
到底出来ないよ・・・」
フォーレスト「おまえがそんなことで、この国の将来はどうなるん
だ。そろそろおまえが根を張って、この大地に足を
つけ、新しいリーフ達を育てなければ、この国の未
来はないんだぞ?」
その時、下手よりスティーブ、走りながら
登場。
ツリー「誰だ!!」
スティーブ「(周りを見回す。)・・・っと・・・ここは・・・(フォーレスト
を認め。)古い大木の支配者・・・権力の国・・・」
フォーレスト「人間か・・・。何か用か・・・?」
スティーブ「いや・・・用って訳じゃないんです・・・(フォーレストの
顔をマジマジと見る。)」
フォーレスト「何だ・・・」
スティーブ「・・・父さん・・・?」
フォーレスト「父さん?」
スティーブ「あ・・・いや・・・すみません、あまりに父に似ていたも
ので・・・」
フォーレスト「それで、何の用もない人間が何故この国にやって
来たのだ。」
スティーブ「あ・・・直ぐ出て行きます。実は、やすらぎの国に住む
少年を捜してて・・・」
ツリー「迷い人か・・・」
スティーブ「・・・まぁ・・・」
フォーレスト「では早く出て行きたまえ・・・。我々は今、忙しいの
だ。」
スティーブ「・・・はい、お邪魔しました。」
スティーブ、ゆっくり上手方へ。
フォーレスト「それでトリーズ・・・」
スティーブ「(振り返り。)あの・・・!!」
ツリー「なんだ!?」
スティーブ「やすらぎの国と言うのは(上手を指して。)こっちで
・・・」
ツリー「ああ!!」
スティーブ「どうも・・・」
スティーブ、再び上手方へ行きかけるが、
立ち止まり3人の話しに耳を傾ける。
フォーレスト「おまえがしっかりと自分の立場を弁え、それに見
合った王にならなければ、この国の将来は真っ暗
闇になるのだ・・・。」
トリーズ「・・・そんなこと・・・言われても・・・」
フォーレスト「初めから分かり切っていることではないか。私の
息子であるおまえが、次期王であることは全国民
周知のこと。」
トリーズ「でも僕には・・・自信が・・・僕には無理です・・・。僕に
は出来ない・・・」
トリーズ、スティーブ、スポットに浮かび上がる。
トリーズ「僕には・・・」
スティーブ「何故、そんなに臆病風に吹かれるんだい・・・?」
トリーズ「(スティーブを認める。)」
スティーブ「何故そんなに気弱なんだ・・・」
トリーズ「だって・・・僕には・・・」
スティーブ「だって・・・何だい?」
トリーズ「だって・・・父さんが・・・偉大過ぎるんです・・・。それに
僕は・・・父さんのように皆を纏める知恵も・・・皆を押さ
え込む力もない・・・僕に次期王なんて・・・到底無理な
んです・・・」
スティーブ「・・・違うな・・・」
トリーズ「・・・え・・・?」
スティーブ「・・・俺にも・・・君と同じような父親がいるんだ・・・」
トリーズ「・・・同じような・・・?」
スティーブ「だから君の気持ちはよく分かる・・・。君と同じように
いつも萎縮した生き方をしてきたからね・・・。世界が
認める偉大な画家である父親を持ち、それ故に画家
の道を余儀なくされ、自分でどんなに駄作だと思って
も、世間はその駄作を褒め称える・・・自分の意思な
どあってもなかったような人生を歩んできたんだ・・・。
」
トリーズ「・・・本当に・・・?」
スティーブ「君がそんな態度を続けたら・・・じゃあこの国はどうな
るんだい・・・?」
トリーズ「それは・・・」
スティーブ「どんな国でも、権力のある者が必ずしも力の強い者
だと限った訳ではない・・・。腕力では到底立ち向かう
ことが出来ないと思うなら、君は心の大きな権力者
になればいいじゃないか・・・。何も権力を笠に着て、
力任せに国民達を纏めなくても、心から信頼される
本当の王になることを考えてみたらどうなんだい・・・
?」
トリーズ「・・・僕には・・・出来ない・・・」
スティーブ「僕には出来ない・・・と後ろを向く前に、僕なら何が出
来るか・・・僕なら何を国民の為に出来るかを考えた
らどうなんだ・・・。折角、与えられた地位じゃないか、
皆が座りたくても・・・簡単に座れる王座じゃないだろ
う?」
トリーズ「・・・じゃあ、あなたはどうなんですか・・・?あなたも世
界に騒がれる自分に、なりたくてなった訳ではないんで
しょう・・・?」
スティーブ「・・・確かに・・・父親の恩恵を受ける身分を、疎ましい
と思ってきた・・・。自分一人の力でのし上がってみた
かった・・・。だけど、その望みがどうしても叶わないの
なら、今与えられたものを幸せと思い、その幸運を最
大限に生かしながら、自分に出来るベストのことを考
えてみることは、大切なことなんじゃないのか・・・?
それがたとえ・・・自分でない誰か他の人の為である
ことでも、自分がそれにかかわっていることで、その他
の誰かが幸せになれるのなら、それでいいじゃないか
・・・。」
トリーズ「僕にはあなたのような、自信がありません・・・」
スティーブ「自信なんてないさ・・・。俺だって・・・いつも目の前に
大きく立ち塞がる父親の壁を、追い越せるかなんて
・・・そんな自信はこれっぽっちもないんだ・・・。だけど
やってみなきゃ、出来るか出来ないかさえ分からな
いじゃないか・・・。・・・そうなんだ・・・出来るチャンス
を与えられたことを、ありがたいと思える心の大きさ
を持てた時こそ、自分自身が漸くスタートラインに立
てた時なんだ・・・。」
トリーズ「逃げ出そうと思ったことは・・・?」
スティーブ「・・・正直に教えてやるよ・・・。いつも思ってた・・・。」
トリーズ「・・・本当に・・・?」
スティーブ「ああ・・・ここへ来る前は、もう今度こそ全てを投げ出
して、山奥にでも逃避してしまおうかと考えてたんだ
・・・。(フッと笑って。)・・・逃げ出すことしか考えられ
なかった・・・。君に偉そうに言える身分じゃないな・・・
。・・・だけど・・・今やっと分かったんだ・・・。俺が追い
越せなかったのは父さんじゃない・・・自分自身の心
壁だったんだと・・・。」
トリーズ「心の・・・壁・・・?」
――――― “風になる・・・”4へつづく ―――――
2013年6月5日水曜日
“風になる・・・” ―全8場― 2
スティーブ「強制して人々を従わせ、平和な世の中だと言ったと
ころで、それは所詮、偽りの平和だ・・・。」
ギルバート「何だって・・・?」
スティーブ「(ギルバートを見詰め、フッと笑う。)・・・でも・・・本当
に俺が学生時代によく怒られた先生に似ているな・・・
。ギルバート先生でしょ?名前まで同じだなんて・・・。
(ランディを見て。)それに君の名前はランディ・・・同
じ名前の友達もいたんだ・・・。」
ギルバート「それより偽りの平和がどうしたのだ!!」
スティーブ「それは・・・あ、そうだ、それより教えて欲しいんです
けど・・・ここは・・・どこですか・・・?」
ギルバート「ここをどこだか知らない?」
スティーブ「ええ・・・こんな場所は見たこともない・・・。それに、
さっきから“強制”“強制”って・・・丸で昔々の軍隊じ
ゃあるまいし・・・」
ギルバート「この国は強制の国だ!強制することが当たり前の
ことではないか!!」
スティーブ「・・・強制の国・・・?そんな国、聞いたこともない。(
笑う。)全く、どうしてこんなとこに自分がいるんだか
・・・俺は確か公園で気になる少年を見かけて追い
掛けるうち・・・(溜め息を吐いて。)分からない・・・」
ギルバート「何をブツブツ言っているのだ!?偽りの平和の話し
はどうなったのだね!?」
スティーブ「あ・・・ああ、このことは後でゆっくり考えるとしよう。
(ギルバートに向いて。)そうでしたね。」
ギルバート「ところでランディ、君はどう思う?私の言うことが正
しいと思うだろ?」
ランディ「僕は・・・」
スティーブ「そんな風に決め付けて言われると、自分で考えるこ
との出来ない人間になりますよ・・・。」
ギルバート「それのどこが駄目なのかね?」
スティーブ「僕もよく学生時代、あなたと同じようにガミガミ怒鳴
る先生に押さえ込まれて、自分の意見をちゃんと言
うことが出来なかった。何が正しいのか正しくないの
か・・・その判断もまだしっかりと出来ないような子ど
もに、自分の間違っているかも知れない意見を強制
するのは、正しいことだとは思わない・・・。」
ギルバート「間違っていると、何故分かるんだ!?」
スティーブ「間違っているとは言っていない・・・。間違っているか
も知れないと言ったんだ。」
ギルバート「同じことじゃないか。」
スティーブ「全然違いますよ。誰だって正しい、間違っているの
判断を誤らずに歩いて行ける人間なんていやしない
・・・。一見好い加減な言い方かも知れないが、間違
っているかも知れないと認めることは、勇気のいる
ことでしょう?最初から間違っていると分かり切って
いることならまだしも・・・誰も自分の言うことは信じた
いものですからね・・・。自分を正当化したい・・・。」
※
音楽流れ、ギルバート歌う。
“其々が別々の意見を口にして
バラバラのことを始めたら
それこそこの国は分裂だ
だから強制と言う支配を持って
一つに纏め上げる!”
スティーブ歌う。
“確かにバラバラのものを
一つに纏め上げるのは
至難の業かも知れない
だが皆意見が違って当たり前
歩み寄るのが大切!”
スティーブ「其々が持つ意見を出し合い、話し合って本当の正し
い道を皆で見つける・・・それこそが民主主義と言う
ものではないでしょうか・・・」
ギルバート「民主主義・・・?なんだね、それは・・・」
スティーブ「人民の人民による人民の為の政治・・・かの有名な
リンカーンの残した言葉をご存知ないのですか?」
ギルバート「そんな言葉は知らんね。」
スティーブ「この国は人民の為を装った、人民を無視した押さえ
込みの国・・・。違いますか?頭ごなしに子ども達を
従わせても、中身まで纏まった国になるとは思わな
い。ランディ・・・自分の考えを口にすると言うことは、
とても大切なことなんだ。やりたいと思うことをやりた
いとも言えず・・・人任せの人生を歩んでいると、そ
の内、心がなくなってロボットのような人間になって
しまうんだぞ。君はそれでもいいのかい?」
ランディ「・・・(小声で)嫌だ・・・」
ギルバート「・・・ん?」
ランディ歌う。
“僕はロボットなんて真っ平だ・・・
押し付けられた学校生活
ちっとも楽しくない・・・
僕は悪戯が好きだ!
先生に叱られたって
立たされたって・・・”
ギルバート「君は学校に一体何しに・・・!?」
ランディ「学校は勉強する為に行くんだ!!分かってるよ・・・そ
んなこと・・・。僕は勉強が嫌いなんじゃないんだ・・・。
ただ勉強もするけど、楽しいこともしたい・・・。それじゃ
駄目なの、先生・・・!?僕、もっと色んなことがしたいよ
・・・。最初からゴールの決まっているゲームは面白くな
いもの・・・!!」
スティーブ、ランディ歌う。
スティーブ“そうだランディ
自分の意見を言うんだ今こそ
自分が正しいと思うなら
主張してみよう!!”
ランディ“歩くんだ今
自分の足で見つけた道を
たとえ間違った道でも
自分で決めたこと!!”
2人“だから少しも
後悔はないんだこの時
真っ直ぐでなくても
自分の選んだ道だから!!”
ギルバート「・・・自我の芽生えた者は、この国ではやっていけな
いだろうな・・・。この国は強制の国・・・君の言うこと
が正しいのかどうかさえ、この国で生まれ育って来
た私には、判断出来かねるのだ。」
スティーブ「そうでしょうね・・・」
ギルバート「ただ、そうやって主張する、君の真っ直ぐな瞳を見
ていると・・・正しいかどうかは別として・・・それも一
つの道であると言うことは、少なくとも分かる・・・。」
スティーブ「ええ・・・。」
ギルバート「ランディ・・・どうする君は、これから・・・。この国にい
る限り、この国の仕来たりに従うのは国民としての
義務だ・・・。」
スティーブ「・・・一緒に・・・探すかい?君の暮らせる国を・・・。こ
の国にはこの国の遣り方がある以上、それを変えよ
うとすることは、並大抵のことではないだろう・・・。」
ランディ「・・・僕・・・僕、この国に残るよ・・・。この国に残って、強
制の国なんて名前、変えてみせる・・・。強制で支配する
んじゃなくって、思い遣りで歩み寄るんだ。そうでしょ?」
スティーブ「ランディ・・・そうだな・・・その通りだ。」
ランディ「何年かかっても、僕はこの国を素晴らしい国に変えて
みせる・・・!!」
スティーブ「・・・君ならできるよ・・・必ず・・・。」
ランディ「うん・・・!!」
スティーブ「頑張れよ。」
スティーブ、上手方へ。そこにいたギルバート
と握手し、話している。と、下手より、少年登場。
ランディの側へ。ランディ、少年、楽しそうに
話している。2人の笑い声でスティーブ振り返り、
少年を認める。
少年「じゃあ!!」
少年、下手へ走り去る。
スティーブ「(慌てて。)あ・・・!!あの少年・・・!!(ランディの
側へ。)ランディ!!今のは!?」
ランディ「僕の友達だよ。」
スティーブ「友達・・・名前は・・・!?」
ランディ「スティーブ。」
スティーブ「・・・スティーブ・・・?・・・まさか・・・あ、おい待って・・・
待ってくれ!!」
スティーブ、驚いた面持ちで、少年を追う
ように下手へ走り去る。
音楽盛り上がって、暗転。
――――― 第 5 場 ―――――
一時置いて、下手スポット、息を切らせ走り
ながらスティーブ登場。
スティーブ「(息も荒く。)一体・・・どこに行ったんだ、あの子ども
・・・(座り込む。)それにしても全く・・・なんて足の速
い餓鬼だ・・・。俺も昔は・・・俊足ランナーと言われた、
陸上界のエース・・・くっそう・・・(ゴロンと寝転がる。)
」
(スティーブ、そのまま寝入るように。)
音楽流れ、一時置いて上手より一人の
少女(アリス)登場。スティーブを認め、
ゆっくり近付きながら歌う。
“・・・あなたは誰?
何故か気になるその面差し
・・・どこかで出会うの
私達・・・
それは今なのかしら
あなたが目覚めて
その瞳に映る私を見た時
それが出会う瞬間
でも・・・
あなたは誰・・・?”
アリス、スティーブに見入る。
スティーブ「う・・・ん・・・(ハッとして起き上がる。)仕舞った!!
こんなところで寝てる場合じゃないだろ・・・。」
アリス「・・・あなた誰・・・?」
スティーブ「え・・・?」
アリス「どこから来たの・・・?」
スティーブ「(アリスを認め。)・・・あ?ああ、なんだ子どもがいた
のか・・・」
アリス「子どもじゃないわ!レディよ!」
スティーブ「ミニレディだな。(笑う。)」
アリス「失礼ね!レディ・アリスと呼んで!」
スティーブ「OK・・・で?ミニ・レディ・アリス、ここは何処か教え
てくれないか・・・。」
アリス「ミニ・・・もう!・・・まぁいいわ。ここは“期待の国”よ。」
スティーブ「期待の国・・・?また変わった名前の国だな・・・。期
待・・・って・・・ここにいれば、何かいいことでもあるの
かい?」
アリス「そうねぇ・・・私にもよく分からないけれど、ここはガミガミ
先生のいる強制の国や、古い大木の支配者が踏ん反り
返る権力の国とは違って、とても平和よ。それにいつも何
かに胸がときめくような感じがするわ。今だって、あなた
がここにいることが、とても不思議で、何か起こりそうな期
待にドキドキするもの。」
スティーブ「残念・・・俺は魔法使いでも何でもないんだ。何も起
こらないよ。」
アリス「そうなの?でもあなたの格好、変わってるわ!見たこと
のない服・・・それに靴・・・その胸にささっている物は何
・・・?(スティーブの胸ポケットを指す。)」
スティーブ「(胸ポケットを見て。)・・・万年筆のことかい?(取り
出し、アリスの方へ差し出す。)」
アリス「(珍しそうに見て。)・・・万年筆・・・?何するもの・・・?」
スティーブ「何って・・・(手帳を取り出し、書いて見せる。)ほら・・・
こうやって・・・」
アリス「まぁ!!模様が書けるのね!?凄いわ!!私にも見せ
て!!」
スティーブ「ああ・・・どうぞ・・・(アリスに万年筆を渡す。)」
アリス「(そっと受け取る。)・・・凄いわね・・・それに、とっても綺
麗だわ・・・!(翳す。)」
アリス、嬉しそうに万年筆を持って、軽やかに
舞うよう。暫くその様子を見ていたスティーブ、
何か思い出したように手帳を広げ、ポケットから
コンテを取り出し、アリスの様子を書き始める。
アリス「(スティーブに気付き、駆け寄り覗き込む。)何を書いて
いるの?・・・私?」
スティーブ「ああ・・・」
アリス「まぁ、素敵!!とても美人・・・!!私、本当にこんなに
綺麗!?」
スティーブ「・・・さあ・・・」
アリス「さあって・・・でもこれ私でしょ?」
スティーブ「これは未来のミニ・レディ・アリス予想図さ。こんな風
に美人になればいいなって・・・」
アリス「意地悪ね!」
2人、笑い合う。
その時、上手より一人の少女(バネッサ)
登場。
バネッサ「アリス!」
アリス「バネッサ・・・」
バネッサ「(スティーブをチラチラ見ながら。)何してるの?」
アリス「見て、これ!(バネッサに駆け寄り、手に持っていた万
年筆を見せる。)今、この人に見せてもらってたの!」
バネッサ「・・・何これ・・・」
アリス「色んな模様が書ける、魔法の棒よ!」
バネッサ「嘘・・・」
アリス「本当よ!」
バネッサ「それ、もらったの?」
アリス「違うわ、見せてもらってるの。」
バネッサ「そう・・・(何か思い立ったように、スティーブに近寄り。
)ねぇあなた、私にアリスの持ってる棒、下さらない?
」
スティーブ「え・・・?」
アリス「何言ってるのよ、バネッサ!!」
バネッサ「その代わり、あなたの知りたいこと、教えてあげるわ
。」
スティーブ「・・・知りたいことを・・・?」
バネッサ「ええ・・・。私知ってるのよ、あなたが何故、今ここにい
るのか・・・」
スティーブ「スティーブって言う少年のこと、知っているのかい?
」
バネッサ「・・・まぁ・・・ね・・・。その棒、私に下さる?」
アリス「駄目よ!バネッサの言うことなんか聞いちゃ駄目!!」
バネッサ「黙ってて、アリスは!!どう?」
スティーブ「いいよ・・・君にあげよう。」
バネッサ「やった!」
バネッサ、アリスから万年筆を奪い取る
ように。
アリス「あ・・・」
バネッサ「わぁ・・・綺麗ね・・・!!」
スティーブ「それで?どこに行けばスティーブに会えるんだい?」
バネッサ「そうね・・・この期待の国にいないことは確かよ。」
アリス「そんなこと、分かり切ってるじゃない!彼は“やすらぎの
国”の住人よ!」
スティーブ「やすらぎの国・・・?」
バネッサ「そう!そこへ行けば会えるんじゃない?」
スティーブ「やすらぎの国って・・・」
バネッサ「そんなこと、私が知る訳ないでしょ!じゃあね!」
バネッサ、嬉しそうに下手へ走り去る。
アリス「バネッサ!!」
――――― “風になる・・・”3へつづく ―――――
※ この場面・・・全体に意味が難しくて、当初の台詞から
何度も手直しして書き変えました^_^;
少しは読み易くなったかな・・・と思うのですが、如何
でしょうか・・・(~_~;)
ころで、それは所詮、偽りの平和だ・・・。」
ギルバート「何だって・・・?」
スティーブ「(ギルバートを見詰め、フッと笑う。)・・・でも・・・本当
に俺が学生時代によく怒られた先生に似ているな・・・
。ギルバート先生でしょ?名前まで同じだなんて・・・。
(ランディを見て。)それに君の名前はランディ・・・同
じ名前の友達もいたんだ・・・。」
ギルバート「それより偽りの平和がどうしたのだ!!」
スティーブ「それは・・・あ、そうだ、それより教えて欲しいんです
けど・・・ここは・・・どこですか・・・?」
ギルバート「ここをどこだか知らない?」
スティーブ「ええ・・・こんな場所は見たこともない・・・。それに、
さっきから“強制”“強制”って・・・丸で昔々の軍隊じ
ゃあるまいし・・・」
ギルバート「この国は強制の国だ!強制することが当たり前の
ことではないか!!」
スティーブ「・・・強制の国・・・?そんな国、聞いたこともない。(
笑う。)全く、どうしてこんなとこに自分がいるんだか
・・・俺は確か公園で気になる少年を見かけて追い
掛けるうち・・・(溜め息を吐いて。)分からない・・・」
ギルバート「何をブツブツ言っているのだ!?偽りの平和の話し
はどうなったのだね!?」
スティーブ「あ・・・ああ、このことは後でゆっくり考えるとしよう。
(ギルバートに向いて。)そうでしたね。」
ギルバート「ところでランディ、君はどう思う?私の言うことが正
しいと思うだろ?」
ランディ「僕は・・・」
スティーブ「そんな風に決め付けて言われると、自分で考えるこ
との出来ない人間になりますよ・・・。」
ギルバート「それのどこが駄目なのかね?」
スティーブ「僕もよく学生時代、あなたと同じようにガミガミ怒鳴
る先生に押さえ込まれて、自分の意見をちゃんと言
うことが出来なかった。何が正しいのか正しくないの
か・・・その判断もまだしっかりと出来ないような子ど
もに、自分の間違っているかも知れない意見を強制
するのは、正しいことだとは思わない・・・。」
ギルバート「間違っていると、何故分かるんだ!?」
スティーブ「間違っているとは言っていない・・・。間違っているか
も知れないと言ったんだ。」
ギルバート「同じことじゃないか。」
スティーブ「全然違いますよ。誰だって正しい、間違っているの
判断を誤らずに歩いて行ける人間なんていやしない
・・・。一見好い加減な言い方かも知れないが、間違
っているかも知れないと認めることは、勇気のいる
ことでしょう?最初から間違っていると分かり切って
いることならまだしも・・・誰も自分の言うことは信じた
いものですからね・・・。自分を正当化したい・・・。」
※
音楽流れ、ギルバート歌う。
“其々が別々の意見を口にして
バラバラのことを始めたら
それこそこの国は分裂だ
だから強制と言う支配を持って
一つに纏め上げる!”
スティーブ歌う。
“確かにバラバラのものを
一つに纏め上げるのは
至難の業かも知れない
だが皆意見が違って当たり前
歩み寄るのが大切!”
スティーブ「其々が持つ意見を出し合い、話し合って本当の正し
い道を皆で見つける・・・それこそが民主主義と言う
ものではないでしょうか・・・」
ギルバート「民主主義・・・?なんだね、それは・・・」
スティーブ「人民の人民による人民の為の政治・・・かの有名な
リンカーンの残した言葉をご存知ないのですか?」
ギルバート「そんな言葉は知らんね。」
スティーブ「この国は人民の為を装った、人民を無視した押さえ
込みの国・・・。違いますか?頭ごなしに子ども達を
従わせても、中身まで纏まった国になるとは思わな
い。ランディ・・・自分の考えを口にすると言うことは、
とても大切なことなんだ。やりたいと思うことをやりた
いとも言えず・・・人任せの人生を歩んでいると、そ
の内、心がなくなってロボットのような人間になって
しまうんだぞ。君はそれでもいいのかい?」
ランディ「・・・(小声で)嫌だ・・・」
ギルバート「・・・ん?」
ランディ歌う。
“僕はロボットなんて真っ平だ・・・
押し付けられた学校生活
ちっとも楽しくない・・・
僕は悪戯が好きだ!
先生に叱られたって
立たされたって・・・”
ギルバート「君は学校に一体何しに・・・!?」
ランディ「学校は勉強する為に行くんだ!!分かってるよ・・・そ
んなこと・・・。僕は勉強が嫌いなんじゃないんだ・・・。
ただ勉強もするけど、楽しいこともしたい・・・。それじゃ
駄目なの、先生・・・!?僕、もっと色んなことがしたいよ
・・・。最初からゴールの決まっているゲームは面白くな
いもの・・・!!」
スティーブ、ランディ歌う。
スティーブ“そうだランディ
自分の意見を言うんだ今こそ
自分が正しいと思うなら
主張してみよう!!”
ランディ“歩くんだ今
自分の足で見つけた道を
たとえ間違った道でも
自分で決めたこと!!”
2人“だから少しも
後悔はないんだこの時
真っ直ぐでなくても
自分の選んだ道だから!!”
ギルバート「・・・自我の芽生えた者は、この国ではやっていけな
いだろうな・・・。この国は強制の国・・・君の言うこと
が正しいのかどうかさえ、この国で生まれ育って来
た私には、判断出来かねるのだ。」
スティーブ「そうでしょうね・・・」
ギルバート「ただ、そうやって主張する、君の真っ直ぐな瞳を見
ていると・・・正しいかどうかは別として・・・それも一
つの道であると言うことは、少なくとも分かる・・・。」
スティーブ「ええ・・・。」
ギルバート「ランディ・・・どうする君は、これから・・・。この国にい
る限り、この国の仕来たりに従うのは国民としての
義務だ・・・。」
スティーブ「・・・一緒に・・・探すかい?君の暮らせる国を・・・。こ
の国にはこの国の遣り方がある以上、それを変えよ
うとすることは、並大抵のことではないだろう・・・。」
ランディ「・・・僕・・・僕、この国に残るよ・・・。この国に残って、強
制の国なんて名前、変えてみせる・・・。強制で支配する
んじゃなくって、思い遣りで歩み寄るんだ。そうでしょ?」
スティーブ「ランディ・・・そうだな・・・その通りだ。」
ランディ「何年かかっても、僕はこの国を素晴らしい国に変えて
みせる・・・!!」
スティーブ「・・・君ならできるよ・・・必ず・・・。」
ランディ「うん・・・!!」
スティーブ「頑張れよ。」
スティーブ、上手方へ。そこにいたギルバート
と握手し、話している。と、下手より、少年登場。
ランディの側へ。ランディ、少年、楽しそうに
話している。2人の笑い声でスティーブ振り返り、
少年を認める。
少年「じゃあ!!」
少年、下手へ走り去る。
スティーブ「(慌てて。)あ・・・!!あの少年・・・!!(ランディの
側へ。)ランディ!!今のは!?」
ランディ「僕の友達だよ。」
スティーブ「友達・・・名前は・・・!?」
ランディ「スティーブ。」
スティーブ「・・・スティーブ・・・?・・・まさか・・・あ、おい待って・・・
待ってくれ!!」
スティーブ、驚いた面持ちで、少年を追う
ように下手へ走り去る。
音楽盛り上がって、暗転。
――――― 第 5 場 ―――――
一時置いて、下手スポット、息を切らせ走り
ながらスティーブ登場。
スティーブ「(息も荒く。)一体・・・どこに行ったんだ、あの子ども
・・・(座り込む。)それにしても全く・・・なんて足の速
い餓鬼だ・・・。俺も昔は・・・俊足ランナーと言われた、
陸上界のエース・・・くっそう・・・(ゴロンと寝転がる。)
」
(スティーブ、そのまま寝入るように。)
音楽流れ、一時置いて上手より一人の
少女(アリス)登場。スティーブを認め、
ゆっくり近付きながら歌う。
“・・・あなたは誰?
何故か気になるその面差し
・・・どこかで出会うの
私達・・・
それは今なのかしら
あなたが目覚めて
その瞳に映る私を見た時
それが出会う瞬間
でも・・・
あなたは誰・・・?”
アリス、スティーブに見入る。
スティーブ「う・・・ん・・・(ハッとして起き上がる。)仕舞った!!
こんなところで寝てる場合じゃないだろ・・・。」
アリス「・・・あなた誰・・・?」
スティーブ「え・・・?」
アリス「どこから来たの・・・?」
スティーブ「(アリスを認め。)・・・あ?ああ、なんだ子どもがいた
のか・・・」
アリス「子どもじゃないわ!レディよ!」
スティーブ「ミニレディだな。(笑う。)」
アリス「失礼ね!レディ・アリスと呼んで!」
スティーブ「OK・・・で?ミニ・レディ・アリス、ここは何処か教え
てくれないか・・・。」
アリス「ミニ・・・もう!・・・まぁいいわ。ここは“期待の国”よ。」
スティーブ「期待の国・・・?また変わった名前の国だな・・・。期
待・・・って・・・ここにいれば、何かいいことでもあるの
かい?」
アリス「そうねぇ・・・私にもよく分からないけれど、ここはガミガミ
先生のいる強制の国や、古い大木の支配者が踏ん反り
返る権力の国とは違って、とても平和よ。それにいつも何
かに胸がときめくような感じがするわ。今だって、あなた
がここにいることが、とても不思議で、何か起こりそうな期
待にドキドキするもの。」
スティーブ「残念・・・俺は魔法使いでも何でもないんだ。何も起
こらないよ。」
アリス「そうなの?でもあなたの格好、変わってるわ!見たこと
のない服・・・それに靴・・・その胸にささっている物は何
・・・?(スティーブの胸ポケットを指す。)」
スティーブ「(胸ポケットを見て。)・・・万年筆のことかい?(取り
出し、アリスの方へ差し出す。)」
アリス「(珍しそうに見て。)・・・万年筆・・・?何するもの・・・?」
スティーブ「何って・・・(手帳を取り出し、書いて見せる。)ほら・・・
こうやって・・・」
アリス「まぁ!!模様が書けるのね!?凄いわ!!私にも見せ
て!!」
スティーブ「ああ・・・どうぞ・・・(アリスに万年筆を渡す。)」
アリス「(そっと受け取る。)・・・凄いわね・・・それに、とっても綺
麗だわ・・・!(翳す。)」
アリス、嬉しそうに万年筆を持って、軽やかに
舞うよう。暫くその様子を見ていたスティーブ、
何か思い出したように手帳を広げ、ポケットから
コンテを取り出し、アリスの様子を書き始める。
アリス「(スティーブに気付き、駆け寄り覗き込む。)何を書いて
いるの?・・・私?」
スティーブ「ああ・・・」
アリス「まぁ、素敵!!とても美人・・・!!私、本当にこんなに
綺麗!?」
スティーブ「・・・さあ・・・」
アリス「さあって・・・でもこれ私でしょ?」
スティーブ「これは未来のミニ・レディ・アリス予想図さ。こんな風
に美人になればいいなって・・・」
アリス「意地悪ね!」
2人、笑い合う。
その時、上手より一人の少女(バネッサ)
登場。
バネッサ「アリス!」
アリス「バネッサ・・・」
バネッサ「(スティーブをチラチラ見ながら。)何してるの?」
アリス「見て、これ!(バネッサに駆け寄り、手に持っていた万
年筆を見せる。)今、この人に見せてもらってたの!」
バネッサ「・・・何これ・・・」
アリス「色んな模様が書ける、魔法の棒よ!」
バネッサ「嘘・・・」
アリス「本当よ!」
バネッサ「それ、もらったの?」
アリス「違うわ、見せてもらってるの。」
バネッサ「そう・・・(何か思い立ったように、スティーブに近寄り。
)ねぇあなた、私にアリスの持ってる棒、下さらない?
」
スティーブ「え・・・?」
アリス「何言ってるのよ、バネッサ!!」
バネッサ「その代わり、あなたの知りたいこと、教えてあげるわ
。」
スティーブ「・・・知りたいことを・・・?」
バネッサ「ええ・・・。私知ってるのよ、あなたが何故、今ここにい
るのか・・・」
スティーブ「スティーブって言う少年のこと、知っているのかい?
」
バネッサ「・・・まぁ・・・ね・・・。その棒、私に下さる?」
アリス「駄目よ!バネッサの言うことなんか聞いちゃ駄目!!」
バネッサ「黙ってて、アリスは!!どう?」
スティーブ「いいよ・・・君にあげよう。」
バネッサ「やった!」
バネッサ、アリスから万年筆を奪い取る
ように。
アリス「あ・・・」
バネッサ「わぁ・・・綺麗ね・・・!!」
スティーブ「それで?どこに行けばスティーブに会えるんだい?」
バネッサ「そうね・・・この期待の国にいないことは確かよ。」
アリス「そんなこと、分かり切ってるじゃない!彼は“やすらぎの
国”の住人よ!」
スティーブ「やすらぎの国・・・?」
バネッサ「そう!そこへ行けば会えるんじゃない?」
スティーブ「やすらぎの国って・・・」
バネッサ「そんなこと、私が知る訳ないでしょ!じゃあね!」
バネッサ、嬉しそうに下手へ走り去る。
アリス「バネッサ!!」
――――― “風になる・・・”3へつづく ―――――
※ この場面・・・全体に意味が難しくて、当初の台詞から
何度も手直しして書き変えました^_^;
少しは読み易くなったかな・・・と思うのですが、如何
でしょうか・・・(~_~;)
2013年6月4日火曜日
“風になる・・・” ―全8場―
〈 主な登場人物 〉
スティーブ・タナー ・・・ 大画家の父を持つ若手画家。
本編の主人公。
アイザック・タナー ・・・ スティーブの父。
マーク ・・・ スティーブの下で働く。
ドンク ・・・ 老画家。
ボブ ・・・ ドンクの付き人。
ジュディ ・・・ スティーブの母。
少年
その他
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
幕が上がる。
――――― 第 1 場 ―――――
一時置いて下手より、一人の青年(マーク)、
数枚の額に入った絵を重そうに抱えて登場。
マーク「よっこらしょっと・・・(絵を下に置く。)はぁ・・・重かった・・・
(下手方を見て。)先生!!先生!!この絵、どこに飾り
ます!?先生!!」
そこへ下手より、スティーブ・タナー、一つの
小ぶりな額を抱えて、ゆっくり登場。
マーク「早く配置を考えて下さいよ。まだ何十枚もあそこに積み
上げたまま・・・」
スティーブ「煩いな・・・全く・・・。」
マーク「煩いったって、言わなきゃ先生、動いてくれないじゃない
ですか。さっさと準備しないと、今夜の個展前夜祭記念
パーティーに主役が遅刻しちゃ、お話にならないでしょ?
大体、作品の配置は全部自分で遣るなんて拘り・・・先生
みたいな大物に似合わないですよ!こんなのアシスタン
トに任せて・・・」
スティーブ「おまえには分からないさ・・・」
マーク「え?」
スティーブ「いくら著名人になったところで、何に対しても、少し
の拘りも持たない人間は、俺に言わせれば芸術家
として一人前とは言えないな・・・。」
マーク「もう・・・先生は理屈っぽいんですよ、ただ単に・・・。世の
中、拘りのない奴なんて、そこら中にゴロゴロ・・・」
スティーブ「おまえもその一人ってことだ・・・(手に持っていた絵
を、上手方にあった額の上に乗せる。)」
マーク「またこの絵・・・。誰なんですか?この絵の女の人・・・。
いつも先生の個展には、必ず飾っているけど・・・。先生の
・・・恋人?まさかね。(笑う。)それにしても、随分この絵
のタッチは、今の先生のものと違って、地味ですよねー。
本当に先生が書いたんですか・・・?」
スティーブ「煩い!さっさとその手にしてるものを、決まった場所
に持って行け。」
マーク「決まった場所って・・・」
スティーブ「(1枚の紙をマークに渡す。)ほら・・・」
マーク「(紙を受け取って見る。)あ・・・はぁい、了解・・・。」
スティーブ、スポットに浮かび上がり歌う。
(後方でマーク、絵を其々飾っている。)
“遠い昔の思い出は
忘れられない心の片隅に
今も微かに蘇る・・・
優しい風が心を過ぎり
温かな思いが満たされる
自分の生きた証がそこにある
生まれた意味を確信する
遠い昔の思い出に
今解き放たれる為・・・
答えを探し出す為に
風になりたい・・・”
舞台、明るくなる。
(マーク、飾り付けが終わっている。)
マーク「どうですか、先生!どこか不味いとこありますか?」
スティーブ「(チラッと見て。)別に・・・」
マーク「もう、あっさりしてるなぁ・・・」
スティーブ「ちょっと出て来る。後はよろしく・・・」
スティーブ、上手へ去る。
マーク「よろしく・・・って・・・、先生・・・先生!!ちぇっ・・・なぁに
が拘りだよ。拘るなら最後まで責任持って欲しいよ。拘る
人間が“後はよろしく”・・・なんて言うかなぁ・・・。それにし
ても先生って人はよく分からないよ・・・。先生の下に付い
てもう一年・・・。なのに益々分からなくなる・・・。どこか翳
りがあるようで・・・。かの有名な偉大な画家、アイザック・
タナーを父君に持つサラブレット。若い人達からの人気も
高い!だけど先生はそれがどうも気に入らないみたいな
んだ・・・。」
音楽流れ、マーク歌う。
“よく分からない彼のこと
全く不思議な人 以前から
絵が上手い それは彼の才能
なのに言われると怒るんだ
自分を否定しているように
褒められることが苦手なのか
僕なら飛び上がって喜ぶけれど
世間に認められ
手に入れた地位と名誉
彼には何故かそれが嬉しくないらしい”
マーク首を傾げ、下手へ去る。
カーテン閉まる。
――――― 第 2 場 ―――――
カーテン前。
一時置いて上手より一人の紳士(トング)、
続いてお付きの青年(ボブ)、話しながら
登場。
トング「どうして私が奴の記念パーティに、態々出席してやらな
きゃいけないんだ!全く馬鹿げてる!!奴はまだデビュ
ー間もないヒヨッ子なんだぞ!それなのに、ちょっと世間
に認められただけで、なぁにが前夜祭だ!!」
ボブ「はぁ・・・」
トング「そもそもあいつが有名になれたのは父親のお陰なんだ
!!私が生涯のライバルと認めた、ただ一人の男、アイ
ザック・タナー・・・。この世の生きた天才と言われた父親
の笠の下で、ヌクヌクと育ち、何となく手に入れた今の地
位!!おまえもそう思うだろ、ボブ!!」
ボブ「まぁ・・・」
トング「それに大体、ちょっと人気があるからって、彼の遣り方
は傲慢過ぎるんだ。まだ年端ゆかぬ若造のくせに・・・前
夜祭なんてハデハデしいパフォーマンス!!まだまだ早
過ぎる!!世間は一体どんな目をしてるんだ。あんな奴
の絵が素晴らしいなんて!!私に言わせれば、彼の絵
はとんだ茶番だね。斬新な色使いに大胆な構図?・・・ふ
んっ!!あんなのは幼稚園児のお絵描きだ!!熊牧場
の熊でも描ける。(笑う。)」
その時上手より、2人の話しを聞いていた
ように、スティーブ登場。
ボブ「(スティーブに気付き、小声でトングに。)・・・あ・・・トング
先生!!トング先生!!・・・スティーブさん!!こんにち
は!!」
トング「(ボブの言葉に気付き振り返る。驚いたように。)・・・や
・・・やぁ、タナー君・・・明日はいよいよだね!我々も今回
の君の個展は楽しみにしているんだ。」
スティーブ「へぇ・・・それはそれは・・・。あなたが僕みたいなヒヨ
ッ子の個展を楽しみにしてくれているとは、今以て知
りませんでしたよ・・・。」
トング「な・・・何を言っているんだね。私は長いこと、この世界に
いるが、君程の実力を兼ね備えた新人に、今だ嘗てお目
に掛かったことはないと思っているんだよ、スティーブ・タ
ナー君!」
スティーブ「結構ですよ・・・そんなに僕に気を使って貰わなくて
も・・・。どうせ僕は父の恩恵を受けて、今ここにいる
ことが出来るんだ。何も態々、あなたに大声で豪語
して頂かなくても、そんなことは端から分かりきって
いる・・・。お帰り下さい。(上手方を指し示す。)」
トング「な・・・なんて奴なんだ!!なんて偉そうな・・・!!誰が
出てやるもんか!!誰がおまえのような青二才の・・・!
!一生、父親の陰に隠れたまま、その地位で満足してる
がいいんだ!!」
トング、憤慨したように上手へ去る。
慌ててボブ、トングの後を追うように
上手へ去る。(音楽流れ、カーテン開く。)
――――― 第 3 場 ―――――
舞台は公園の風景に変わっている。
(中央に一つのベンチ。)
スティーブ溜め息を吐き、虚しそうに
歌う。
“誰だって
触れられたくない思いがある・・・
誰だって
心に重く圧し掛かる
拭い去りたい影がある・・・
何もかも投げ出して
逃避したい世界がある・・・”
スティーブ、ベンチに腰を下ろす。
一時置いて、下手より一人の少年登場し、
スティーブを見詰めている。
スティーブ「(少年に気付く。暫く知らん顔するが、少年が何時ま
でも自分の方を見ていることが気になるように。)な
んだ・・・俺に何か用か・・・?さっきから何故、俺の方
ばかり見ている・・・?」
少年「あなた・・・今、絵を描くことが楽しくないね・・・?」
スティーブ「え・・・?」
少年「もう絵なんて描きたくないと思ってる。」
スティーブ「何故そんなことが分かるんだ・・・。第一、どうして俺
が絵描きだって・・・」
少年「僕は楽しいよ。絵を描くことが好きさ。」
スティーブ「絵を描くことが好き・・・?」
少年「うん。将来は絵描きになることが僕の夢なんだ!」
スティーブ「そんなものになったって、食って行くのが大変なだけ
だぞ。」
少年「でもあなたはまだ若いのに、売れっ子画家じゃない。それ
でちゃんと生活してる。」
スティーブ「それは父親が・・・(ハッとして。)なんでおまえにそん
なこと言わなきゃならないんだ。」
少年「父さんが有名でも、父さんと僕とは違う・・・。」
スティーブ「俺だってそう思ってたさ!だけど・・・追い抜けない
・・・いつまでもあの人の背中を見て、俺は歩いて行
かなきゃならない・・・。これは現実だ・・・。絵が好き
・・・おまえのように真っ直ぐ前を向いて、希望に胸、
ときめかせてた頃もあったさ・・・。(少年を見て怪訝
そうに。)父さんと僕は違う・・・って・・・おまえの親父
さんは画家なのか・・・?」
少年「今日、図工の時間に森へ絵を描きに行ったよ。スケッチブ
ックと絵の具を持って!僕は絵を描いている時が一番、楽
しいんだ!!それに母さんは、僕の絵をいつも褒めてくれ
るんだ!」
スティーブ「・・・え・・・?」
母の声「スティーブ・・・あなたが描いてくれた母さんの絵・・・私
は一番好きよ・・・。とても温かな感じがするもの・・・」
スティーブ「・・・母さん・・・(思わず立ち上がる。何か不思議な面
持ちをして、少年を見る。)・・・おまえは一体・・・」
少年「(微笑んでスティーブを見る。)」
スティーブ、呆然と少年を見詰める。
その時、強い風が吹き抜ける。
スティーブ「わっ・・・!!(風を避けるように、身を屈める。)」
少年、嬉しそうに笑いながら下手へ
走り去る。
スティーブ「あ・・・!!待ってくれ!!待って・・・!!」
スティーブ風を避けながら、少年の後を
追うように下手へ走り去る。
暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
舞台明るくなる。(強制の国。)
一時置いて下手より、一人の男性
(ギルバート先生)登場。続いて、俯き
加減の一人の少年(ランディ)ゆっくり
登場。
ギルバート「全く・・・ランディ、君は学校は何をする為に来るとこ
ろだと考えているんだね!?答えてみたまえ!!」
ランディ「・・・それは・・・勉強を・・・」
ギルバート「一体どう言ったつもりで、毎日毎日私の血圧が上が
るようなことをするんだ!!よくもこう、次から次へと
私の頭を悩ませる問題を起こせるものだな!!真面
目に私の言うことを聞き、勉強して努力するのは誰
の為だ!!私の為に君は学校へ来ているのか!!」
音楽流れギルバート先生、熱弁を振るう
ように歌う。
(途中、スティーブ下手より登場し、その
様子を見ている。)
“勉強するのは自分の為
勉強こそが君の未来を左右する
今こそ熱心になる時だ
でなきゃこのまま落ち零れ
君の思いに任せてりゃ
君は堕落の一途を辿る
だから強制 強制
この国に相応しく
君の未来に栄光あれ!!”
ギルバート「分かったかね?ランディ君!」
ランディ「・・・はい・・・なんとなく・・・ギルバート先生・・・」
ギルバート「なんとなく・・・?なんとなくだと?そんな生温いこと
で君はこれからのこの世の中、渡り歩いて行けると
思っているのかね!?これは君の為に諭して言って
いるのではない。分かるかね!?強制しているのだ
!!この国は全てが強制!!教師が言うこと、決め
たことは、必ず守らなければならない!!そして実
行する!!今までの私の遣り方は甘かった!!危う
く私もこの国の規則に、違反してしまうところだった。
強制こそが最大の支配!!強制こそが国民を正し
い道に導く道標!!」
スティーブ「・・・そうかな・・・」
ギルバート「(スティーブを認め。)誰だね?君は・・・」
――――― “風になる・・・”2へつづく ―――――
スティーブ・タナー ・・・ 大画家の父を持つ若手画家。
本編の主人公。
アイザック・タナー ・・・ スティーブの父。
マーク ・・・ スティーブの下で働く。
ドンク ・・・ 老画家。
ボブ ・・・ ドンクの付き人。
ジュディ ・・・ スティーブの母。
少年
その他
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
幕が上がる。
――――― 第 1 場 ―――――
一時置いて下手より、一人の青年(マーク)、
数枚の額に入った絵を重そうに抱えて登場。
マーク「よっこらしょっと・・・(絵を下に置く。)はぁ・・・重かった・・・
(下手方を見て。)先生!!先生!!この絵、どこに飾り
ます!?先生!!」
そこへ下手より、スティーブ・タナー、一つの
小ぶりな額を抱えて、ゆっくり登場。
マーク「早く配置を考えて下さいよ。まだ何十枚もあそこに積み
上げたまま・・・」
スティーブ「煩いな・・・全く・・・。」
マーク「煩いったって、言わなきゃ先生、動いてくれないじゃない
ですか。さっさと準備しないと、今夜の個展前夜祭記念
パーティーに主役が遅刻しちゃ、お話にならないでしょ?
大体、作品の配置は全部自分で遣るなんて拘り・・・先生
みたいな大物に似合わないですよ!こんなのアシスタン
トに任せて・・・」
スティーブ「おまえには分からないさ・・・」
マーク「え?」
スティーブ「いくら著名人になったところで、何に対しても、少し
の拘りも持たない人間は、俺に言わせれば芸術家
として一人前とは言えないな・・・。」
マーク「もう・・・先生は理屈っぽいんですよ、ただ単に・・・。世の
中、拘りのない奴なんて、そこら中にゴロゴロ・・・」
スティーブ「おまえもその一人ってことだ・・・(手に持っていた絵
を、上手方にあった額の上に乗せる。)」
マーク「またこの絵・・・。誰なんですか?この絵の女の人・・・。
いつも先生の個展には、必ず飾っているけど・・・。先生の
・・・恋人?まさかね。(笑う。)それにしても、随分この絵
のタッチは、今の先生のものと違って、地味ですよねー。
本当に先生が書いたんですか・・・?」
スティーブ「煩い!さっさとその手にしてるものを、決まった場所
に持って行け。」
マーク「決まった場所って・・・」
スティーブ「(1枚の紙をマークに渡す。)ほら・・・」
マーク「(紙を受け取って見る。)あ・・・はぁい、了解・・・。」
スティーブ、スポットに浮かび上がり歌う。
(後方でマーク、絵を其々飾っている。)
“遠い昔の思い出は
忘れられない心の片隅に
今も微かに蘇る・・・
優しい風が心を過ぎり
温かな思いが満たされる
自分の生きた証がそこにある
生まれた意味を確信する
遠い昔の思い出に
今解き放たれる為・・・
答えを探し出す為に
風になりたい・・・”
舞台、明るくなる。
(マーク、飾り付けが終わっている。)
マーク「どうですか、先生!どこか不味いとこありますか?」
スティーブ「(チラッと見て。)別に・・・」
マーク「もう、あっさりしてるなぁ・・・」
スティーブ「ちょっと出て来る。後はよろしく・・・」
スティーブ、上手へ去る。
マーク「よろしく・・・って・・・、先生・・・先生!!ちぇっ・・・なぁに
が拘りだよ。拘るなら最後まで責任持って欲しいよ。拘る
人間が“後はよろしく”・・・なんて言うかなぁ・・・。それにし
ても先生って人はよく分からないよ・・・。先生の下に付い
てもう一年・・・。なのに益々分からなくなる・・・。どこか翳
りがあるようで・・・。かの有名な偉大な画家、アイザック・
タナーを父君に持つサラブレット。若い人達からの人気も
高い!だけど先生はそれがどうも気に入らないみたいな
んだ・・・。」
音楽流れ、マーク歌う。
“よく分からない彼のこと
全く不思議な人 以前から
絵が上手い それは彼の才能
なのに言われると怒るんだ
自分を否定しているように
褒められることが苦手なのか
僕なら飛び上がって喜ぶけれど
世間に認められ
手に入れた地位と名誉
彼には何故かそれが嬉しくないらしい”
マーク首を傾げ、下手へ去る。
カーテン閉まる。
――――― 第 2 場 ―――――
カーテン前。
一時置いて上手より一人の紳士(トング)、
続いてお付きの青年(ボブ)、話しながら
登場。
トング「どうして私が奴の記念パーティに、態々出席してやらな
きゃいけないんだ!全く馬鹿げてる!!奴はまだデビュ
ー間もないヒヨッ子なんだぞ!それなのに、ちょっと世間
に認められただけで、なぁにが前夜祭だ!!」
ボブ「はぁ・・・」
トング「そもそもあいつが有名になれたのは父親のお陰なんだ
!!私が生涯のライバルと認めた、ただ一人の男、アイ
ザック・タナー・・・。この世の生きた天才と言われた父親
の笠の下で、ヌクヌクと育ち、何となく手に入れた今の地
位!!おまえもそう思うだろ、ボブ!!」
ボブ「まぁ・・・」
トング「それに大体、ちょっと人気があるからって、彼の遣り方
は傲慢過ぎるんだ。まだ年端ゆかぬ若造のくせに・・・前
夜祭なんてハデハデしいパフォーマンス!!まだまだ早
過ぎる!!世間は一体どんな目をしてるんだ。あんな奴
の絵が素晴らしいなんて!!私に言わせれば、彼の絵
はとんだ茶番だね。斬新な色使いに大胆な構図?・・・ふ
んっ!!あんなのは幼稚園児のお絵描きだ!!熊牧場
の熊でも描ける。(笑う。)」
その時上手より、2人の話しを聞いていた
ように、スティーブ登場。
ボブ「(スティーブに気付き、小声でトングに。)・・・あ・・・トング
先生!!トング先生!!・・・スティーブさん!!こんにち
は!!」
トング「(ボブの言葉に気付き振り返る。驚いたように。)・・・や
・・・やぁ、タナー君・・・明日はいよいよだね!我々も今回
の君の個展は楽しみにしているんだ。」
スティーブ「へぇ・・・それはそれは・・・。あなたが僕みたいなヒヨ
ッ子の個展を楽しみにしてくれているとは、今以て知
りませんでしたよ・・・。」
トング「な・・・何を言っているんだね。私は長いこと、この世界に
いるが、君程の実力を兼ね備えた新人に、今だ嘗てお目
に掛かったことはないと思っているんだよ、スティーブ・タ
ナー君!」
スティーブ「結構ですよ・・・そんなに僕に気を使って貰わなくて
も・・・。どうせ僕は父の恩恵を受けて、今ここにいる
ことが出来るんだ。何も態々、あなたに大声で豪語
して頂かなくても、そんなことは端から分かりきって
いる・・・。お帰り下さい。(上手方を指し示す。)」
トング「な・・・なんて奴なんだ!!なんて偉そうな・・・!!誰が
出てやるもんか!!誰がおまえのような青二才の・・・!
!一生、父親の陰に隠れたまま、その地位で満足してる
がいいんだ!!」
トング、憤慨したように上手へ去る。
慌ててボブ、トングの後を追うように
上手へ去る。(音楽流れ、カーテン開く。)
――――― 第 3 場 ―――――
舞台は公園の風景に変わっている。
(中央に一つのベンチ。)
スティーブ溜め息を吐き、虚しそうに
歌う。
“誰だって
触れられたくない思いがある・・・
誰だって
心に重く圧し掛かる
拭い去りたい影がある・・・
何もかも投げ出して
逃避したい世界がある・・・”
スティーブ、ベンチに腰を下ろす。
一時置いて、下手より一人の少年登場し、
スティーブを見詰めている。
スティーブ「(少年に気付く。暫く知らん顔するが、少年が何時ま
でも自分の方を見ていることが気になるように。)な
んだ・・・俺に何か用か・・・?さっきから何故、俺の方
ばかり見ている・・・?」
少年「あなた・・・今、絵を描くことが楽しくないね・・・?」
スティーブ「え・・・?」
少年「もう絵なんて描きたくないと思ってる。」
スティーブ「何故そんなことが分かるんだ・・・。第一、どうして俺
が絵描きだって・・・」
少年「僕は楽しいよ。絵を描くことが好きさ。」
スティーブ「絵を描くことが好き・・・?」
少年「うん。将来は絵描きになることが僕の夢なんだ!」
スティーブ「そんなものになったって、食って行くのが大変なだけ
だぞ。」
少年「でもあなたはまだ若いのに、売れっ子画家じゃない。それ
でちゃんと生活してる。」
スティーブ「それは父親が・・・(ハッとして。)なんでおまえにそん
なこと言わなきゃならないんだ。」
少年「父さんが有名でも、父さんと僕とは違う・・・。」
スティーブ「俺だってそう思ってたさ!だけど・・・追い抜けない
・・・いつまでもあの人の背中を見て、俺は歩いて行
かなきゃならない・・・。これは現実だ・・・。絵が好き
・・・おまえのように真っ直ぐ前を向いて、希望に胸、
ときめかせてた頃もあったさ・・・。(少年を見て怪訝
そうに。)父さんと僕は違う・・・って・・・おまえの親父
さんは画家なのか・・・?」
少年「今日、図工の時間に森へ絵を描きに行ったよ。スケッチブ
ックと絵の具を持って!僕は絵を描いている時が一番、楽
しいんだ!!それに母さんは、僕の絵をいつも褒めてくれ
るんだ!」
スティーブ「・・・え・・・?」
母の声「スティーブ・・・あなたが描いてくれた母さんの絵・・・私
は一番好きよ・・・。とても温かな感じがするもの・・・」
スティーブ「・・・母さん・・・(思わず立ち上がる。何か不思議な面
持ちをして、少年を見る。)・・・おまえは一体・・・」
少年「(微笑んでスティーブを見る。)」
スティーブ、呆然と少年を見詰める。
その時、強い風が吹き抜ける。
スティーブ「わっ・・・!!(風を避けるように、身を屈める。)」
少年、嬉しそうに笑いながら下手へ
走り去る。
スティーブ「あ・・・!!待ってくれ!!待って・・・!!」
スティーブ風を避けながら、少年の後を
追うように下手へ走り去る。
暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
舞台明るくなる。(強制の国。)
一時置いて下手より、一人の男性
(ギルバート先生)登場。続いて、俯き
加減の一人の少年(ランディ)ゆっくり
登場。
ギルバート「全く・・・ランディ、君は学校は何をする為に来るとこ
ろだと考えているんだね!?答えてみたまえ!!」
ランディ「・・・それは・・・勉強を・・・」
ギルバート「一体どう言ったつもりで、毎日毎日私の血圧が上が
るようなことをするんだ!!よくもこう、次から次へと
私の頭を悩ませる問題を起こせるものだな!!真面
目に私の言うことを聞き、勉強して努力するのは誰
の為だ!!私の為に君は学校へ来ているのか!!」
音楽流れギルバート先生、熱弁を振るう
ように歌う。
(途中、スティーブ下手より登場し、その
様子を見ている。)
“勉強するのは自分の為
勉強こそが君の未来を左右する
今こそ熱心になる時だ
でなきゃこのまま落ち零れ
君の思いに任せてりゃ
君は堕落の一途を辿る
だから強制 強制
この国に相応しく
君の未来に栄光あれ!!”
ギルバート「分かったかね?ランディ君!」
ランディ「・・・はい・・・なんとなく・・・ギルバート先生・・・」
ギルバート「なんとなく・・・?なんとなくだと?そんな生温いこと
で君はこれからのこの世の中、渡り歩いて行けると
思っているのかね!?これは君の為に諭して言って
いるのではない。分かるかね!?強制しているのだ
!!この国は全てが強制!!教師が言うこと、決め
たことは、必ず守らなければならない!!そして実
行する!!今までの私の遣り方は甘かった!!危う
く私もこの国の規則に、違反してしまうところだった。
強制こそが最大の支配!!強制こそが国民を正し
い道に導く道標!!」
スティーブ「・・・そうかな・・・」
ギルバート「(スティーブを認め。)誰だね?君は・・・」
――――― “風になる・・・”2へつづく ―――――
2013年6月3日月曜日
“アトラス” ―全8場― 完結編
――――― 第 7 場 ――――― A
カーテン前。
音楽流れ、下手よりアトラス登場。歌う。
上手方へ。
“何故俺は迷い躊躇う・・・
自分の生まれ歩んできた道・・・
これからも続くただ無意味に広がる
ただ暗く後ろ向きな道・・・
今まで当たり前に心を無にして
言われる通りの道をきた・・・
だが・・・
何故俺は迷い躊躇う・・・
この胸に湧き上がる
何か訳も分からない
・・・今まで否定し続けてきた
とてつもなく明るく照らされた
ただ迷いの道だけ・・・”
アトラス、上手へ去る。
――――― 第 7 場 ――――― B
カーテン開く。と、魔国。
中央、設えられた段上、置かれた椅子に
デビル座っている。
その前にクルーエル、跪いている。
デビル「それでおまえは、おめおめと包帯を腕に巻き・・・どの面
を下げて、今私の前に跪くのだ・・・」
クルーエル「デビル様・・・」
デビル「アトラスに情けを受け、おまえは魔国民としての恥をさ
らし、一体どうやって汚名を晴らそうと言うのだ。」
クルーエル「・・・私は・・・」
デビル「覚悟は出来ているのだろうな。」
クルーエル「・・・(項垂れる。)」
デビル「(立ち上がり、腰に携えていた剣を抜き、一時考えるよ
うに。)・・・おまえのような落第者は、私自ら手を汚すま
でもないな。(剣を仕舞い、横に控えていた家臣に。)後
はおまえがやれ。(椅子へ戻り、座る。)」
家臣1「はっ!!(剣を抜く。)」
もう一人の家臣(2)、クルーエルの腕を取り、
前方へ。
クルーエル「落第者・・・(笑う。)この俺が落第者か・・・。アトラス
の側で・・・あいつの毒気にやられたか・・・」
家臣2「黙れ!!何をブツブツ言っている!!(クルーエルの腕
を押さえ、跪かせる。)」
クルーエル「俺は・・・デビル様!!俺はアトラス王子と共に生き
、今こうして魔国の者として落第者の烙印を押され、
命を終えることを幸せだと感じているのです!!」
デビル「・・・何を言っているのだ。」
クルーエル「アトラス王子は、あなたにはない真の勇者としての
資質をお持ちです!!」
デビル「・・・何・・・!?」
家臣1「黙れ!!この落第者め!!(剣を振り上げる。)」
その時、アトラスの声が響き渡る。
アトラスの声「待って下さい!!」
一瞬、人々の動きが止まる。
家臣1「・・・え・・・?」
クルーエル「アトラス・・・?」
その時、上手よりアトラス走り登場。
アトラス「待って下さい、父上!!」
デビル「アトラス・・・」
アトラス「クルーエルの処刑はお止め下さい!!」
デビル「何だと・・・?」
クルーエル「アトラス・・・」
デビル「何だ、アトラス。何をしにここへ戻って来た?私の出した
課題をクリアし終えたのか?ならば褒めてやるぞ。」
アトラス「・・・いいえ、父上・・・(首を振る。)私は・・・魔国の者と
して生きることを止めようと思います・・・。今日はそのこ
とを父上に伝える為に戻りました。そして、そのクルーエ
ルを私と共に・・・」
デビル「何だと・・・!?魔国の王にはならんと・・・おまえはそう
言うのか!?」
アトラス「・・・はい・・・」
デビル「その王の紋章を持つおまえが・・・我が魔国を見捨てる
と!?ならん!!そんなことを絶対に許す訳がないであ
ろう!!」
アトラス「だが父上・・・!!私にはどうしても魔国の者として生
きる意味が・・・見つからないのです・・・!!私にはどう
しても、この体の中の血が・・・何の混じり気もない純粋
な魔国民の持つそれとは思えない・・・」
デビル「何を馬鹿な・・・おまえは正しくこの国の・・・私の血を引
く跡取り・・・王家の紋章を持つ者・・・」
アトラス「(腕を見て。)この紋章が・・・何だと言うのでしょう・・・。
こんなもの・・・こんなものがある為に、自由になれない
のだとしたら・・・!!(腰に差していた短刀を取り出し、
腕を刺す。)うっ!!」
クルーエル「アトラス!!」
デビル「馬鹿な!!おまえは何と言うことを!!」
アトラス「(腕を押さえ。)・・・さぁ・・・これで私はもう・・・紋章を持
たない者・・・父上の言う・・・そんな偉い身分に立つ意味
を持たない・・・ただの一国民と同じ・・・」
デビル「許さん!!私がどんな手を使って、おまえをこの国へ連
れて来たと思っているのだ!!」
クルーエル「・・・え・・・?」
アトラス「・・・連れて・・・?」
デビル「何年もかけ、やっと見つけ出した王家の紋章を持つおま
えを・・・!!」
アトラス「・・・どう言うことです・・・父上・・・」
デビル「私はおまえの父などではないわ!!」
アトラス「・・・父では・・・ない・・・?」
デビル「(笑う。)そうさ!!教えてやろう。おまえは光の国のス
プリーム王とハーティ王妃の子・・・光の国のアトラス王子
だ!!」
アトラス「・・・まさか・・・」
クルーエル「・・・それでアトラスは・・・」
デビル「今度こそ、王家の紋章を持つおまえを自由に操り、この
地上を支配してやろうと考えていたのに・・・!!それを、
おまえは・・・!!許さん!!私の企みを打ち壊し、易々
と生きてこの国から出ることが出来ると思ったら、大きな
間違い!!クルーエル共々、今ここで息絶えるがいい!
!(剣を抜く。)」
アトラス「今まで・・・今まで何の疑いも・・・躊躇いもなくあなたを
父だと・・・そう信じて生きてきたのに・・・!!」
デビル「(笑う。)馬鹿な奴だ!!」
アトラス「許さない!!私の人生を・・・今まで迷い苦しみ生きて
来たこの思いを・・・!!私は正しかったのだ!!」
デビル「何とでも言うがいい!!そして自分の愚かさを笑え!!
(笑う。)」
その時、アトラスの腕の傷口が光る。
アトラス「・・・おまえなんか・・・おまえなんか、いなくなればいい
・・・」
デビル「・・・ん・・・?・・・え・・・(体が強張ったように動けなくなる
。)な・・・なんだ・・・か・・・体が・・・」
アトラス「おまえなんか・・・人々を苦しめる為だけに生きてきた
ような奴は・・・」
デビル「あ・・・あ・・・な・・・なんだ・・・や・・・やめろ・・・やめ・・・
やめてくれ・・・アトラス・・・やめ・・・この父を・・・」
アトラス「おまえなんか、この地上から消え去れ―――っ!!
(傷口に一瞬、閃光が走る。)」
デビル「わあ―――――っ!!(消える。)」
クルーエル「アトラス!!」
一時、驚いたように、その場にいた者たち
呆然とアトラスを見詰める。
クルーエル「ア・・・アトラス・・・?」
家臣1「・・・デ・・・デビル・・・様・・・?」
家臣2「わ・・・」
家臣1、2「わあーっ!!」
家臣たち、下手へ走り去る。
クルーエル「アトラス・・・!」
アトラス「(ハッとしたように。)・・・クルーエル・・・今・・・一体・・・」
クルーエル「(アトラスの腕を取って。)血が・・・出てる・・・」
アトラス「(腕を見る。)・・・あ・・・」
クルーエル「(ポケットからハンカチを取り出し、アトラスの腕に
巻く。)この力が・・・デビルの奴が手に入れるのを望
んで止まなかった力か・・・」
アトラス「・・・クルーエル・・・」
クルーエル「おまえ・・・光の国の王子だったんだな・・・」
アトラス「・・・嘘みたいだ・・・」
クルーエル「だから、いくら教育されても・・・この国に馴染まなか
ったんだ・・・。」
アトラス「クルーエル・・・」
クルーエル「・・・よかったじゃないか・・・心の迷いが晴れて・・・
本当の父さん母さんが待つ国へ・・・やっと戻れるん
だから・・・」
アトラス「・・・一緒に行かないか・・・?」
クルーエル「え・・・?」
アトラス「私と一緒に光の国へ・・・」
クルーエル「純粋な魔国民のこの俺が・・・?笑わせるなよ・・・。
そんなこと・・・できる訳ないだろ・・・」
アトラス「クルーエル・・・魔国の者だとかそうでないとか・・・そん
なことは私たち生きる者には関係ないじゃないか・・・。
同じ生きる者同士・・・たとえ国が違っても、いがみ合っ
て何になるんだ・・・。それよりももっと大切なこと・・・手を
取り合い協力し合って、お互いの国を良くしていくことこ
そ、其々の国に与えられた課題じゃないか・・・。それを
私たちがやらないで、これから先、お互いの国はどうな
って行くと言うんだ。だから私と一緒に・・・」
クルーエル「俺は・・・」
アトラス「現におまえは・・・(腕を見せる。)このハンカチで・・・私
の傷の手当をしてくれたじゃないか・・・」
クルーエル「それは・・・」
アトラス「クルーエル・・・魔国民も変わる時がきたんだ・・・」
クルーエル「アトラス・・・」
アトラス「おまえがその扉を開く、先遣隊長になればいいんだ。」
クルーエル「・・・アトラス・・・(泣き声に代わる。頬に触れ。)・・・
これは・・・」
アトラス「魔国民だろうが、光の国の者だろうが・・・体の中に流
れる血や涙は・・・皆、同じなんだよ・・・」
クルーエル「アトラス!!(泣く。)」
暗転。(カーテン閉まる。)
――――― 第 8 場 ――――― A
カーテン前。
音楽流れ、下手より老人とチェリトリー
(花を持つ。)、手を取り合い登場。歌う。
“可愛いお花 素敵な香り
優しい思い 温かな心
温もり溢れるこの国に
咲いた花々美しく
誰にも幸せ分け与えてくれる”
そこへ上手より、アトラス登場。
ゆっくり老人とチェリトリーの側へ。
チェリトリー「あっ・・・!(アトラスを認め、老人の後ろへ隠れるよ
うに。)」
老人「(アトラスを認め。)おや・・・おまえさんはこの間の・・・」
アトラス「はい。」
老人「何だ、迷いが吹っ切れたようじゃな。(笑う。)」
アトラス「僕は・・・魔国の者ではなく、光の国の人間だったので
す・・・。」
老人「ほう・・・やっと気付いたのか。」
アトラス「・・・え?」
老人「わしは分かっておったよ。おまえさんの真っ直ぐな瞳を見
れば、一目瞭然じゃ・・・(笑う。)」
アトラス「おじいさん・・・」
老人「(腕に気付き。)その包帯はどうしたんじゃ?」
アトラス「(腕を見て。)・・・私には必要のないものです・・・。だか
ら切捨てました・・・。」
老人「・・・王家の紋章・・・」
アトラス「・・・え・・・?」
老人「その紋章には、得体の知れん力が備わっておるんじゃ・・・
。力の使い方を間違えば・・・国全体・・・いや、この地上の
全ての国々をも破壊し、我が者に出来る程、強大な力がな
・・・。」
アトラス「あなたも知って・・・」
老人「その昔・・・おまえさんと同じように、その紋章を持つが故
にデビルに狙われ、連れ去られた者がおったが・・・矢張り、
おまえさんと同じように、自分でその紋章を焼き払っておっ
た・・・。」
アトラス「え・・・?」
老人「ちと・・・熱かったがの・・・(笑う。)」
アトラス「おじいさん・・・!」
老人「早く、父、母のところへ帰っておやり・・・。おまえさんがい
なくなって、父、母は泣き暮らしておった筈じゃからな・・・。」
アトラス「はいっ!!」
チェリトリー「(老人の背後から出、アトラスの前へ。手に持って
いた花を一束、差し出す。)あげる・・・」
アトラス「・・・(驚いたように花を見て、微笑む。)・・・綺麗な花だ
・・・。ありがとう・・・(チェリトリーの頭に手を置く。)」
老人、チェリトリー上手へ去る。
途中、チェリトリー振り返り、アトラスに
大きく手を振る。
アトラス、それに応えるように手を振り返す。
アトラス「さよなら!!」
アトラス、花を見て歌う。
“綺麗な花を綺麗だと思う心
それは誰もが持つ
ごく当たり前の心・・・
優しい思いは誰でも感じる
小さい頃から
引き継がれた温もり・・・
ただ思い遣りがあれば
誰もが幸せになれる・・・
たとえ国が違っても・・・
相手を思う気持ちがあれば
自然と築き上げる温かな世界・・・”
――――― 第 8 場 ――――― B
カーテン開く。と、光の国。
中央段上に、スプリームとハーティ。
横に執事レイクとバドル夫人。
ハーティ「(前方アトラスを認め。)アトラス・・・」
スプリーム「アトラス・・・」
アトラス振り返り、スプリーム、ハーティを
認める。
アトラス「・・・父上・・・母上・・・?」
ハーティ「(涙声で。)アトラスね・・・」
スプリーム「よくぞ無事で・・・」
スプリーム、ハーティ、思いを踏み締めるように
ゆっくりアトラスの方へ。アトラスも2人の方へ
ゆっくり歩み寄る。
アトラス「父上!!母上!!」
スプリーム、ハーティ「アトラス!!」
3人、抱き合う。
執事レイク、バドル夫人、手を取り合い
涙を流して喜ぶ。
音楽豪華に盛り上がり、コーラスが響く。
“光の国の王子様
今まで修行の旅に出た
やっと戻って来られたが
それは立派に逞しく
誰もが待ち望んだこの時
幸せの鐘が鳴り響き
やっと訪れた平和の時・・・”
鐘の音が響き渡る。
アトラス「母上・・・(チェリトリーに貰った花束を差し出す。)」
ハーティ「(花束を受け取り。)・・・まぁ・・・綺麗なお花・・・」
幸せそうに寄り添い合う3人。
――――― 幕 ―――――
カーテン前。
音楽流れ、下手よりアトラス登場。歌う。
上手方へ。
“何故俺は迷い躊躇う・・・
自分の生まれ歩んできた道・・・
これからも続くただ無意味に広がる
ただ暗く後ろ向きな道・・・
今まで当たり前に心を無にして
言われる通りの道をきた・・・
だが・・・
何故俺は迷い躊躇う・・・
この胸に湧き上がる
何か訳も分からない
・・・今まで否定し続けてきた
とてつもなく明るく照らされた
ただ迷いの道だけ・・・”
アトラス、上手へ去る。
――――― 第 7 場 ――――― B
カーテン開く。と、魔国。
中央、設えられた段上、置かれた椅子に
デビル座っている。
その前にクルーエル、跪いている。
デビル「それでおまえは、おめおめと包帯を腕に巻き・・・どの面
を下げて、今私の前に跪くのだ・・・」
クルーエル「デビル様・・・」
デビル「アトラスに情けを受け、おまえは魔国民としての恥をさ
らし、一体どうやって汚名を晴らそうと言うのだ。」
クルーエル「・・・私は・・・」
デビル「覚悟は出来ているのだろうな。」
クルーエル「・・・(項垂れる。)」
デビル「(立ち上がり、腰に携えていた剣を抜き、一時考えるよ
うに。)・・・おまえのような落第者は、私自ら手を汚すま
でもないな。(剣を仕舞い、横に控えていた家臣に。)後
はおまえがやれ。(椅子へ戻り、座る。)」
家臣1「はっ!!(剣を抜く。)」
もう一人の家臣(2)、クルーエルの腕を取り、
前方へ。
クルーエル「落第者・・・(笑う。)この俺が落第者か・・・。アトラス
の側で・・・あいつの毒気にやられたか・・・」
家臣2「黙れ!!何をブツブツ言っている!!(クルーエルの腕
を押さえ、跪かせる。)」
クルーエル「俺は・・・デビル様!!俺はアトラス王子と共に生き
、今こうして魔国の者として落第者の烙印を押され、
命を終えることを幸せだと感じているのです!!」
デビル「・・・何を言っているのだ。」
クルーエル「アトラス王子は、あなたにはない真の勇者としての
資質をお持ちです!!」
デビル「・・・何・・・!?」
家臣1「黙れ!!この落第者め!!(剣を振り上げる。)」
その時、アトラスの声が響き渡る。
アトラスの声「待って下さい!!」
一瞬、人々の動きが止まる。
家臣1「・・・え・・・?」
クルーエル「アトラス・・・?」
その時、上手よりアトラス走り登場。
アトラス「待って下さい、父上!!」
デビル「アトラス・・・」
アトラス「クルーエルの処刑はお止め下さい!!」
デビル「何だと・・・?」
クルーエル「アトラス・・・」
デビル「何だ、アトラス。何をしにここへ戻って来た?私の出した
課題をクリアし終えたのか?ならば褒めてやるぞ。」
アトラス「・・・いいえ、父上・・・(首を振る。)私は・・・魔国の者と
して生きることを止めようと思います・・・。今日はそのこ
とを父上に伝える為に戻りました。そして、そのクルーエ
ルを私と共に・・・」
デビル「何だと・・・!?魔国の王にはならんと・・・おまえはそう
言うのか!?」
アトラス「・・・はい・・・」
デビル「その王の紋章を持つおまえが・・・我が魔国を見捨てる
と!?ならん!!そんなことを絶対に許す訳がないであ
ろう!!」
アトラス「だが父上・・・!!私にはどうしても魔国の者として生
きる意味が・・・見つからないのです・・・!!私にはどう
しても、この体の中の血が・・・何の混じり気もない純粋
な魔国民の持つそれとは思えない・・・」
デビル「何を馬鹿な・・・おまえは正しくこの国の・・・私の血を引
く跡取り・・・王家の紋章を持つ者・・・」
アトラス「(腕を見て。)この紋章が・・・何だと言うのでしょう・・・。
こんなもの・・・こんなものがある為に、自由になれない
のだとしたら・・・!!(腰に差していた短刀を取り出し、
腕を刺す。)うっ!!」
クルーエル「アトラス!!」
デビル「馬鹿な!!おまえは何と言うことを!!」
アトラス「(腕を押さえ。)・・・さぁ・・・これで私はもう・・・紋章を持
たない者・・・父上の言う・・・そんな偉い身分に立つ意味
を持たない・・・ただの一国民と同じ・・・」
デビル「許さん!!私がどんな手を使って、おまえをこの国へ連
れて来たと思っているのだ!!」
クルーエル「・・・え・・・?」
アトラス「・・・連れて・・・?」
デビル「何年もかけ、やっと見つけ出した王家の紋章を持つおま
えを・・・!!」
アトラス「・・・どう言うことです・・・父上・・・」
デビル「私はおまえの父などではないわ!!」
アトラス「・・・父では・・・ない・・・?」
デビル「(笑う。)そうさ!!教えてやろう。おまえは光の国のス
プリーム王とハーティ王妃の子・・・光の国のアトラス王子
だ!!」
アトラス「・・・まさか・・・」
クルーエル「・・・それでアトラスは・・・」
デビル「今度こそ、王家の紋章を持つおまえを自由に操り、この
地上を支配してやろうと考えていたのに・・・!!それを、
おまえは・・・!!許さん!!私の企みを打ち壊し、易々
と生きてこの国から出ることが出来ると思ったら、大きな
間違い!!クルーエル共々、今ここで息絶えるがいい!
!(剣を抜く。)」
アトラス「今まで・・・今まで何の疑いも・・・躊躇いもなくあなたを
父だと・・・そう信じて生きてきたのに・・・!!」
デビル「(笑う。)馬鹿な奴だ!!」
アトラス「許さない!!私の人生を・・・今まで迷い苦しみ生きて
来たこの思いを・・・!!私は正しかったのだ!!」
デビル「何とでも言うがいい!!そして自分の愚かさを笑え!!
(笑う。)」
その時、アトラスの腕の傷口が光る。
アトラス「・・・おまえなんか・・・おまえなんか、いなくなればいい
・・・」
デビル「・・・ん・・・?・・・え・・・(体が強張ったように動けなくなる
。)な・・・なんだ・・・か・・・体が・・・」
アトラス「おまえなんか・・・人々を苦しめる為だけに生きてきた
ような奴は・・・」
デビル「あ・・・あ・・・な・・・なんだ・・・や・・・やめろ・・・やめ・・・
やめてくれ・・・アトラス・・・やめ・・・この父を・・・」
アトラス「おまえなんか、この地上から消え去れ―――っ!!
(傷口に一瞬、閃光が走る。)」
デビル「わあ―――――っ!!(消える。)」
クルーエル「アトラス!!」
一時、驚いたように、その場にいた者たち
呆然とアトラスを見詰める。
クルーエル「ア・・・アトラス・・・?」
家臣1「・・・デ・・・デビル・・・様・・・?」
家臣2「わ・・・」
家臣1、2「わあーっ!!」
家臣たち、下手へ走り去る。
クルーエル「アトラス・・・!」
アトラス「(ハッとしたように。)・・・クルーエル・・・今・・・一体・・・」
クルーエル「(アトラスの腕を取って。)血が・・・出てる・・・」
アトラス「(腕を見る。)・・・あ・・・」
クルーエル「(ポケットからハンカチを取り出し、アトラスの腕に
巻く。)この力が・・・デビルの奴が手に入れるのを望
んで止まなかった力か・・・」
アトラス「・・・クルーエル・・・」
クルーエル「おまえ・・・光の国の王子だったんだな・・・」
アトラス「・・・嘘みたいだ・・・」
クルーエル「だから、いくら教育されても・・・この国に馴染まなか
ったんだ・・・。」
アトラス「クルーエル・・・」
クルーエル「・・・よかったじゃないか・・・心の迷いが晴れて・・・
本当の父さん母さんが待つ国へ・・・やっと戻れるん
だから・・・」
アトラス「・・・一緒に行かないか・・・?」
クルーエル「え・・・?」
アトラス「私と一緒に光の国へ・・・」
クルーエル「純粋な魔国民のこの俺が・・・?笑わせるなよ・・・。
そんなこと・・・できる訳ないだろ・・・」
アトラス「クルーエル・・・魔国の者だとかそうでないとか・・・そん
なことは私たち生きる者には関係ないじゃないか・・・。
同じ生きる者同士・・・たとえ国が違っても、いがみ合っ
て何になるんだ・・・。それよりももっと大切なこと・・・手を
取り合い協力し合って、お互いの国を良くしていくことこ
そ、其々の国に与えられた課題じゃないか・・・。それを
私たちがやらないで、これから先、お互いの国はどうな
って行くと言うんだ。だから私と一緒に・・・」
クルーエル「俺は・・・」
アトラス「現におまえは・・・(腕を見せる。)このハンカチで・・・私
の傷の手当をしてくれたじゃないか・・・」
クルーエル「それは・・・」
アトラス「クルーエル・・・魔国民も変わる時がきたんだ・・・」
クルーエル「アトラス・・・」
アトラス「おまえがその扉を開く、先遣隊長になればいいんだ。」
クルーエル「・・・アトラス・・・(泣き声に代わる。頬に触れ。)・・・
これは・・・」
アトラス「魔国民だろうが、光の国の者だろうが・・・体の中に流
れる血や涙は・・・皆、同じなんだよ・・・」
クルーエル「アトラス!!(泣く。)」
暗転。(カーテン閉まる。)
――――― 第 8 場 ――――― A
カーテン前。
音楽流れ、下手より老人とチェリトリー
(花を持つ。)、手を取り合い登場。歌う。
“可愛いお花 素敵な香り
優しい思い 温かな心
温もり溢れるこの国に
咲いた花々美しく
誰にも幸せ分け与えてくれる”
そこへ上手より、アトラス登場。
ゆっくり老人とチェリトリーの側へ。
チェリトリー「あっ・・・!(アトラスを認め、老人の後ろへ隠れるよ
うに。)」
老人「(アトラスを認め。)おや・・・おまえさんはこの間の・・・」
アトラス「はい。」
老人「何だ、迷いが吹っ切れたようじゃな。(笑う。)」
アトラス「僕は・・・魔国の者ではなく、光の国の人間だったので
す・・・。」
老人「ほう・・・やっと気付いたのか。」
アトラス「・・・え?」
老人「わしは分かっておったよ。おまえさんの真っ直ぐな瞳を見
れば、一目瞭然じゃ・・・(笑う。)」
アトラス「おじいさん・・・」
老人「(腕に気付き。)その包帯はどうしたんじゃ?」
アトラス「(腕を見て。)・・・私には必要のないものです・・・。だか
ら切捨てました・・・。」
老人「・・・王家の紋章・・・」
アトラス「・・・え・・・?」
老人「その紋章には、得体の知れん力が備わっておるんじゃ・・・
。力の使い方を間違えば・・・国全体・・・いや、この地上の
全ての国々をも破壊し、我が者に出来る程、強大な力がな
・・・。」
アトラス「あなたも知って・・・」
老人「その昔・・・おまえさんと同じように、その紋章を持つが故
にデビルに狙われ、連れ去られた者がおったが・・・矢張り、
おまえさんと同じように、自分でその紋章を焼き払っておっ
た・・・。」
アトラス「え・・・?」
老人「ちと・・・熱かったがの・・・(笑う。)」
アトラス「おじいさん・・・!」
老人「早く、父、母のところへ帰っておやり・・・。おまえさんがい
なくなって、父、母は泣き暮らしておった筈じゃからな・・・。」
アトラス「はいっ!!」
チェリトリー「(老人の背後から出、アトラスの前へ。手に持って
いた花を一束、差し出す。)あげる・・・」
アトラス「・・・(驚いたように花を見て、微笑む。)・・・綺麗な花だ
・・・。ありがとう・・・(チェリトリーの頭に手を置く。)」
老人、チェリトリー上手へ去る。
途中、チェリトリー振り返り、アトラスに
大きく手を振る。
アトラス、それに応えるように手を振り返す。
アトラス「さよなら!!」
アトラス、花を見て歌う。
“綺麗な花を綺麗だと思う心
それは誰もが持つ
ごく当たり前の心・・・
優しい思いは誰でも感じる
小さい頃から
引き継がれた温もり・・・
ただ思い遣りがあれば
誰もが幸せになれる・・・
たとえ国が違っても・・・
相手を思う気持ちがあれば
自然と築き上げる温かな世界・・・”
――――― 第 8 場 ――――― B
カーテン開く。と、光の国。
中央段上に、スプリームとハーティ。
横に執事レイクとバドル夫人。
ハーティ「(前方アトラスを認め。)アトラス・・・」
スプリーム「アトラス・・・」
アトラス振り返り、スプリーム、ハーティを
認める。
アトラス「・・・父上・・・母上・・・?」
ハーティ「(涙声で。)アトラスね・・・」
スプリーム「よくぞ無事で・・・」
スプリーム、ハーティ、思いを踏み締めるように
ゆっくりアトラスの方へ。アトラスも2人の方へ
ゆっくり歩み寄る。
アトラス「父上!!母上!!」
スプリーム、ハーティ「アトラス!!」
3人、抱き合う。
執事レイク、バドル夫人、手を取り合い
涙を流して喜ぶ。
音楽豪華に盛り上がり、コーラスが響く。
“光の国の王子様
今まで修行の旅に出た
やっと戻って来られたが
それは立派に逞しく
誰もが待ち望んだこの時
幸せの鐘が鳴り響き
やっと訪れた平和の時・・・”
鐘の音が響き渡る。
アトラス「母上・・・(チェリトリーに貰った花束を差し出す。)」
ハーティ「(花束を受け取り。)・・・まぁ・・・綺麗なお花・・・」
幸せそうに寄り添い合う3人。
――――― 幕 ―――――
2013年6月1日土曜日
“アトラス” ―全8場― 3
――――― 第 5 場 ―――――
舞台明るくなると、緑溢れる色取り取りの
花々咲き乱れる、温かな森の風景。(花の国。)
花の国の少女たち、戯れている。
一時後、舞台薄暗くなり、俄かに嵐の前触れの
よう。少女たち、周りを見回す。
少女1「どうしたのかしら・・・?」
チェリトリー「急に嵐でもくるみたい・・・」
少女2「早く帰りましょう!!」
少女1「そうね!!」
少女2「(立ち止まって周りを見ているチェリトリーに気付き。)
チェリトリー!早く、行くわよ!!」
チェリトリー「あ・・・うん!」
2人の少女、上手へ去る。
入れ代わるように下手より、アトラス登場。
続いてクルーエル登場。
上手方へ行こうとして2人に気付いたチェリトリー、
立ち止まる。
クルーエル「目障りなものが沢山ある国だな・・・(花の側へ行き
踏み付ける。)」
チェリトリー「やめて!!(2人の側へ駆け寄る。)」
クルーエル「なんだ、この餓鬼・・・」
チェリトリー「どうして折角美しく咲いている花々を、そんな風に
踏み付けてしまうの!?可哀相でしょ!?」
クルーエル「・・・可哀相・・・?生憎だな、我々にはそう言った感
情は持ち合わせてはいない・・・。」
チェリトリー「・・・あなたたちは誰・・・?」
アトラス「我々は魔の国の者・・・この国を我々の配下へ置く為
にここへ来た・・・。」
チェリトリー「魔の国・・・?どこの国の人でもいいわ!でも、お願
いだから、この国に咲く花々をそんな風に荒らしたり
しないで!!」
クルーエル「そんな風に言われると余計・・・(再び花を足で踏み
付ける。)」
チェリトリー「やめて!!(泣き声で。)」
アトラス「クルーエル!!」
その時、上手より一人の老人、杖をつき
ゆっくり登場。
老人「・・・そんな小さな子を苛めて、楽しいか?」
皆、上手方を見る。
クルーエル「誰だ!?」
チェリトリー「お爺さん!!(老人の側へ駆け寄る。)お花たちが
・・・」
老人「大丈夫・・・後でわしがちゃんと生き返らせてやるから、心
配せんでもいい。さぁ、家で母さんが待っとるじゃろ?早く帰
りなさい。」
チェリトリー「(頷く。)」
チェリトリー、後ろを気にしながら上手へ去る。
老人「ここは見ての通り、美しい花々が咲き乱れる花の国じゃ
・・・。ここに住む者たちは皆、花々を心から愛しておる・・・。
それをそのように、無碍に踏み荒らすような真似をされる
となぁ・・・」
クルーエル「されるとどうなんだ。我々に立ち向かおうって言う
のか!?面白いじゃないか。」
老人「立ち向かう?滅相もない。我々は争いを好む人種ではな
いわ・・・。おまえさんたちが何の為にこの国にやって来た
のか・・・耳にしたとこ自分たちの領土を広げようとしている
からだとか・・・」
クルーエル「その通り!!我々は力を持って、この国を我々の
ものとする!!」
老人「何もそんな風に息巻かんでも、それ程までにこの国を自
分たちのものにしたいと言うなら、好きにするがいい・・・。
我々はいつでも抵抗はしないからの・・・。おまえさんたち
は、心のない国から来たのじゃろ?昔から魔国の人間は
冷静沈着、且つ冷淡な者たちの集まりと決まっておる。」
クルーエル「よく知っているじゃないか。」
老人「・・・じゃが・・・(チラッとアトラスを見る。)最近は系統が少
し変わったかの?」
クルーエル「・・・何!?」
老人「(クルーエルに。)おまえさんは見るからに・・・正しく魔国
の者・・・。じゃが、そっちの青年は・・・どうも魔国の者と言
うより・・・」
クルーエル「アトラスは魔王デビル様のただ一人の跡取りだぞ
!!」
老人「ほう・・・時期魔王にしちゃあ、なんとも弱っちい感じじゃの
う・・・(笑う。)」
クルーエル「この爺!!さっきから黙って言わせておけば!!
(老人の襟首を掴む。)」
アトラス「クルーエル!!(クルーエルを制止する。)」
老人「なあに、止めることはない。殺りたければ殺ればいい・・・。
こんな年寄り、放っといたところで、明日はどうなるやら分
からん命じゃ。(笑う。)」
クルーエル「黙れ!!(手を振り上げる。)」
アトラス「止めろ!!(クルーエルの手を掴む。)」
老人「・・・なんじゃ・・・殴る勇気もないのか?」
クルーエル「アトラス!!何故止める!?こんな奴に侮辱され
て、おまえは構わないって言うのか!!」
老人「弱っちい感じだけでなく、本当に弱いのか?」
クルーエル「なんだと!!」
老人「おまえさんの方は、ちと頭に血が上り過ぎじゃの・・・。そ
んな風だと、わしのように長生きできんぞ。(笑う。)」
クルーエル「いちいち頭にくる爺だ!!(再び老人の服を掴む。
)」
アトラス「クルーエル!!いい加減にしろ!!おまえは暫く向こ
うへ行ってろ。」
クルーエル「アトラス!!」
アトラス「席を外せ!!俺の言うことが聞けないのか!!」
クルーエル、怒ったように上手へ去る。
アトラス「(クルーエルが去るのを見計らって。)・・・何が強いか
弱いかなど・・・ものに対する捕らえ方の違いだ・・・。た
だ力が強い・・・それでいいのなら、この世の中、強い奴
など五万といる・・・。」
老人「・・・ほう・・・ではおまえさんは一体、何で強いと言うのだ
?」
アトラス「・・・強いものなど・・・」
老人「何か迷っているのか・・・?」
アトラス「・・・別に・・・」
老人「なぁに、心配せんでもわしは誰に何を言ったりもせんよ。
何を迷っておるのか、話してみんか?」
アトラス「・・・迷ってなど・・・ただ・・・」
老人「ただ・・・?」
アトラス「あなたも言った通り・・・私は魔国の者としては不完全
なのです・・・」
老人「不完全・・・?」
アトラス「我々の国の者が普通、持たないような心を、私はいく
つも感じる・・・。我々の国の者が考えもしないようなこと
を、平気で口にしたりする・・・。魔国の王には必要ない
思いで心が溢れ返りそうで・・・持ってはいけない感情と
言われると余計に・・・罪悪感に苛まれる・・・」
老人「持ってはいけない感情など、ないんじゃよ・・・。何故なら
たとえそれが悪い考えでも、自分でそのことを知り、それを
認めることが大切なことなんじゃ・・・。持ってはいけない感
情と、自分の心を否定する前に、持ってはいるが、本当に
それは悪いことなのか・・・生きていくうえで、本当は必要の
あるものではないかと・・・善悪の判断をつけ認める心こそ、
一番大切なことなんじゃ・・・と、わしは思うがの・・・」
アトラス「・・・判断をつけ・・・認める心・・・」
老人「おまえさんがどんな心に迷っているのか・・・大体の見当
はつくが、その心は少なくとも、この地上では誰もが持つ、
ごく当たり前の感情じゃ・・・。人を傷付けることを考える前
に、助けることを考える方が当たり前のことなんじゃ・・・。
おまえさんは何も間違ってはおらんよ・・・。おまえさんは正
しい心を持ったんじゃ・・・。」
アトラス「正しい心・・・」
老人「お陰でわしは、まだ当分あの世に行けそうにないがの。
(笑う。)昔は喧嘩で慣らしたわしももうこの年じゃ・・・あの
時は本当に殴られるかと、内心冷や冷やしたぞ・・・。ありが
とうよ・・・」
老人、下手へ去る。
――――― 第 6 場 ―――――
入れ代わるように、上手よりクルーエル登場。
クルーエル「アトラス!!」
アトラス「(振り返り、クルーエルを認める。)クルーエル・・・」
クルーエル「アトラス!!決闘の続きだ!!今日こそ決着をつ
けるぞ!!」
アトラス「・・・今・・・こんなところで・・・?」
クルーエル「ああ!!今、こんなところでだからだ!!」
アトラス「何をそんなにむきになっているんだ・・・。」
クルーエル「俺はいい加減、おまえの重臣として、おまえについ
て行く自信がなくなった。それならばいっそ、どちらか
がいなくなればスッキリする。さぁ、早く剣を抜け!!
今日こそどちらが魔国の王に相応しい者か、分から
せてやる。愚図愚図していると、こっちから行くぞ!!
」
剣を振り上げ、アトラスにかかる。アトラス、
思わず剣を抜き、クルーエルの剣を受ける。
2人、一時、真剣に剣を交える。
アトラス「(剣を交えたまま。)何故・・・おまえはそんなにも魔国
の王に拘る・・・」
クルーエル「では何故・・・おまえは魔国の王にもっと執着しない
・・・!!何故、デビル様のただ一人の血を引く者と
して・・・もっと王たるに相応しい度量を身につけよう
としないのだ・・・!!」
アトラス「・・・クルーエル・・・」
クルーエル「俺はおまえが歯痒い・・・!!そんなおまえを見て
ると・・・とてつもなく・・・自分の生まれが口惜しい!!
(剣を弾いて、アトラスを突き放す。)」
クルーエル、遣り切れない思いを
振り絞るように歌う。
“何故おまえはそんな風なんだ・・・
何故こんなにも長い時を
共に過ごした・・・この俺を・・・
おまえは何故にガッカリさせる・・・
魔国の王になる為に・・・
この世に生を受けておきながら・・・
何故そんなに・・・
いともあっさり否定する・・・” ※
その時、クルーエルの振り下ろした剣を
避けようとして、振り上げたアトラスの剣
が、クルーエルの腕を掠める。
クルーエル、剣を落とす。
クルーエル「うっ・・・!!(腕を押さえる。)」
アトラス「クルーエル!!大丈夫か!!(クルーエルに駆け寄
る。)」
クルーエル「ばっ・・・馬鹿野郎・・・もうこれでは剣は持てない・・・
。俺の・・・負けだ・・・。さぁ、殺せ・・・!!こんな不名
誉な傷をつけられたまま・・・おめおめと生き長らえる
など、魔国の者として・・・生き恥をさらしているも同じ
こと!!」
アトラス「腕を貸せ・・・(クルーエルの腕を掴む。)」
クルーエル「何をする!!」
アトラス「(クルーエルの腕の傷を見、ハンカチを取り出し、その
腕に巻く。)・・・これで大丈夫だ。」
クルーエル「アトラス・・・何故俺を殺さない!!俺がおまえに命
を助けられて、喜ぶとでも思っているのか!!剣を
交えた相手に、情けをかける・・・これでハッキリ分か
った。おまえは魔国の王として落第者だ!!デビル
様が認めても、この俺はおまえを王とは認めない!
!」
アトラス「・・・分かっている・・・」
アトラス、黙って下手へ去る。
クルーエル「何故、おまえは俺を助けるんだ・・・!!何故、そん
な心を持つんだ・・・!!何故・・・俺はあいつに命を
助けられなきゃならないんだ・・・!!何故俺は・・・負
けてまで生き長らえる・・・!!何故・・・!!」
暗転。
――――― “アトラス”4へつづく ―――――
※ この6場辺りから以降・・・昨日探してみたのですが、
実は続きのつながりがよく分からないのです・・・^^;
なので、書き綴っている部分の台本から、繋がるように
台詞を増やしてみました^_^;
この先も追加しなければいけないようなので、時々
立ち止まるかもしれませんが、お許し下さい
どの辺りが追加した部分か・・・お分かりですか?^^;
多分、昔作品と今作品の違いをご理解頂いていれば、
なんとな~く・・・追加した部分の言い回しなどに・・・
とって付けた感が見え隠れしているのではないかと・・・
(>_<)
読み難くなっていたら、すみませ~ん
舞台明るくなると、緑溢れる色取り取りの
花々咲き乱れる、温かな森の風景。(花の国。)
花の国の少女たち、戯れている。
一時後、舞台薄暗くなり、俄かに嵐の前触れの
よう。少女たち、周りを見回す。
少女1「どうしたのかしら・・・?」
チェリトリー「急に嵐でもくるみたい・・・」
少女2「早く帰りましょう!!」
少女1「そうね!!」
少女2「(立ち止まって周りを見ているチェリトリーに気付き。)
チェリトリー!早く、行くわよ!!」
チェリトリー「あ・・・うん!」
2人の少女、上手へ去る。
入れ代わるように下手より、アトラス登場。
続いてクルーエル登場。
上手方へ行こうとして2人に気付いたチェリトリー、
立ち止まる。
クルーエル「目障りなものが沢山ある国だな・・・(花の側へ行き
踏み付ける。)」
チェリトリー「やめて!!(2人の側へ駆け寄る。)」
クルーエル「なんだ、この餓鬼・・・」
チェリトリー「どうして折角美しく咲いている花々を、そんな風に
踏み付けてしまうの!?可哀相でしょ!?」
クルーエル「・・・可哀相・・・?生憎だな、我々にはそう言った感
情は持ち合わせてはいない・・・。」
チェリトリー「・・・あなたたちは誰・・・?」
アトラス「我々は魔の国の者・・・この国を我々の配下へ置く為
にここへ来た・・・。」
チェリトリー「魔の国・・・?どこの国の人でもいいわ!でも、お願
いだから、この国に咲く花々をそんな風に荒らしたり
しないで!!」
クルーエル「そんな風に言われると余計・・・(再び花を足で踏み
付ける。)」
チェリトリー「やめて!!(泣き声で。)」
アトラス「クルーエル!!」
その時、上手より一人の老人、杖をつき
ゆっくり登場。
老人「・・・そんな小さな子を苛めて、楽しいか?」
皆、上手方を見る。
クルーエル「誰だ!?」
チェリトリー「お爺さん!!(老人の側へ駆け寄る。)お花たちが
・・・」
老人「大丈夫・・・後でわしがちゃんと生き返らせてやるから、心
配せんでもいい。さぁ、家で母さんが待っとるじゃろ?早く帰
りなさい。」
チェリトリー「(頷く。)」
チェリトリー、後ろを気にしながら上手へ去る。
老人「ここは見ての通り、美しい花々が咲き乱れる花の国じゃ
・・・。ここに住む者たちは皆、花々を心から愛しておる・・・。
それをそのように、無碍に踏み荒らすような真似をされる
となぁ・・・」
クルーエル「されるとどうなんだ。我々に立ち向かおうって言う
のか!?面白いじゃないか。」
老人「立ち向かう?滅相もない。我々は争いを好む人種ではな
いわ・・・。おまえさんたちが何の為にこの国にやって来た
のか・・・耳にしたとこ自分たちの領土を広げようとしている
からだとか・・・」
クルーエル「その通り!!我々は力を持って、この国を我々の
ものとする!!」
老人「何もそんな風に息巻かんでも、それ程までにこの国を自
分たちのものにしたいと言うなら、好きにするがいい・・・。
我々はいつでも抵抗はしないからの・・・。おまえさんたち
は、心のない国から来たのじゃろ?昔から魔国の人間は
冷静沈着、且つ冷淡な者たちの集まりと決まっておる。」
クルーエル「よく知っているじゃないか。」
老人「・・・じゃが・・・(チラッとアトラスを見る。)最近は系統が少
し変わったかの?」
クルーエル「・・・何!?」
老人「(クルーエルに。)おまえさんは見るからに・・・正しく魔国
の者・・・。じゃが、そっちの青年は・・・どうも魔国の者と言
うより・・・」
クルーエル「アトラスは魔王デビル様のただ一人の跡取りだぞ
!!」
老人「ほう・・・時期魔王にしちゃあ、なんとも弱っちい感じじゃの
う・・・(笑う。)」
クルーエル「この爺!!さっきから黙って言わせておけば!!
(老人の襟首を掴む。)」
アトラス「クルーエル!!(クルーエルを制止する。)」
老人「なあに、止めることはない。殺りたければ殺ればいい・・・。
こんな年寄り、放っといたところで、明日はどうなるやら分
からん命じゃ。(笑う。)」
クルーエル「黙れ!!(手を振り上げる。)」
アトラス「止めろ!!(クルーエルの手を掴む。)」
老人「・・・なんじゃ・・・殴る勇気もないのか?」
クルーエル「アトラス!!何故止める!?こんな奴に侮辱され
て、おまえは構わないって言うのか!!」
老人「弱っちい感じだけでなく、本当に弱いのか?」
クルーエル「なんだと!!」
老人「おまえさんの方は、ちと頭に血が上り過ぎじゃの・・・。そ
んな風だと、わしのように長生きできんぞ。(笑う。)」
クルーエル「いちいち頭にくる爺だ!!(再び老人の服を掴む。
)」
アトラス「クルーエル!!いい加減にしろ!!おまえは暫く向こ
うへ行ってろ。」
クルーエル「アトラス!!」
アトラス「席を外せ!!俺の言うことが聞けないのか!!」
クルーエル、怒ったように上手へ去る。
アトラス「(クルーエルが去るのを見計らって。)・・・何が強いか
弱いかなど・・・ものに対する捕らえ方の違いだ・・・。た
だ力が強い・・・それでいいのなら、この世の中、強い奴
など五万といる・・・。」
老人「・・・ほう・・・ではおまえさんは一体、何で強いと言うのだ
?」
アトラス「・・・強いものなど・・・」
老人「何か迷っているのか・・・?」
アトラス「・・・別に・・・」
老人「なぁに、心配せんでもわしは誰に何を言ったりもせんよ。
何を迷っておるのか、話してみんか?」
アトラス「・・・迷ってなど・・・ただ・・・」
老人「ただ・・・?」
アトラス「あなたも言った通り・・・私は魔国の者としては不完全
なのです・・・」
老人「不完全・・・?」
アトラス「我々の国の者が普通、持たないような心を、私はいく
つも感じる・・・。我々の国の者が考えもしないようなこと
を、平気で口にしたりする・・・。魔国の王には必要ない
思いで心が溢れ返りそうで・・・持ってはいけない感情と
言われると余計に・・・罪悪感に苛まれる・・・」
老人「持ってはいけない感情など、ないんじゃよ・・・。何故なら
たとえそれが悪い考えでも、自分でそのことを知り、それを
認めることが大切なことなんじゃ・・・。持ってはいけない感
情と、自分の心を否定する前に、持ってはいるが、本当に
それは悪いことなのか・・・生きていくうえで、本当は必要の
あるものではないかと・・・善悪の判断をつけ認める心こそ、
一番大切なことなんじゃ・・・と、わしは思うがの・・・」
アトラス「・・・判断をつけ・・・認める心・・・」
老人「おまえさんがどんな心に迷っているのか・・・大体の見当
はつくが、その心は少なくとも、この地上では誰もが持つ、
ごく当たり前の感情じゃ・・・。人を傷付けることを考える前
に、助けることを考える方が当たり前のことなんじゃ・・・。
おまえさんは何も間違ってはおらんよ・・・。おまえさんは正
しい心を持ったんじゃ・・・。」
アトラス「正しい心・・・」
老人「お陰でわしは、まだ当分あの世に行けそうにないがの。
(笑う。)昔は喧嘩で慣らしたわしももうこの年じゃ・・・あの
時は本当に殴られるかと、内心冷や冷やしたぞ・・・。ありが
とうよ・・・」
老人、下手へ去る。
――――― 第 6 場 ―――――
入れ代わるように、上手よりクルーエル登場。
クルーエル「アトラス!!」
アトラス「(振り返り、クルーエルを認める。)クルーエル・・・」
クルーエル「アトラス!!決闘の続きだ!!今日こそ決着をつ
けるぞ!!」
アトラス「・・・今・・・こんなところで・・・?」
クルーエル「ああ!!今、こんなところでだからだ!!」
アトラス「何をそんなにむきになっているんだ・・・。」
クルーエル「俺はいい加減、おまえの重臣として、おまえについ
て行く自信がなくなった。それならばいっそ、どちらか
がいなくなればスッキリする。さぁ、早く剣を抜け!!
今日こそどちらが魔国の王に相応しい者か、分から
せてやる。愚図愚図していると、こっちから行くぞ!!
」
剣を振り上げ、アトラスにかかる。アトラス、
思わず剣を抜き、クルーエルの剣を受ける。
2人、一時、真剣に剣を交える。
アトラス「(剣を交えたまま。)何故・・・おまえはそんなにも魔国
の王に拘る・・・」
クルーエル「では何故・・・おまえは魔国の王にもっと執着しない
・・・!!何故、デビル様のただ一人の血を引く者と
して・・・もっと王たるに相応しい度量を身につけよう
としないのだ・・・!!」
アトラス「・・・クルーエル・・・」
クルーエル「俺はおまえが歯痒い・・・!!そんなおまえを見て
ると・・・とてつもなく・・・自分の生まれが口惜しい!!
(剣を弾いて、アトラスを突き放す。)」
クルーエル、遣り切れない思いを
振り絞るように歌う。
“何故おまえはそんな風なんだ・・・
何故こんなにも長い時を
共に過ごした・・・この俺を・・・
おまえは何故にガッカリさせる・・・
魔国の王になる為に・・・
この世に生を受けておきながら・・・
何故そんなに・・・
いともあっさり否定する・・・” ※
その時、クルーエルの振り下ろした剣を
避けようとして、振り上げたアトラスの剣
が、クルーエルの腕を掠める。
クルーエル、剣を落とす。
クルーエル「うっ・・・!!(腕を押さえる。)」
アトラス「クルーエル!!大丈夫か!!(クルーエルに駆け寄
る。)」
クルーエル「ばっ・・・馬鹿野郎・・・もうこれでは剣は持てない・・・
。俺の・・・負けだ・・・。さぁ、殺せ・・・!!こんな不名
誉な傷をつけられたまま・・・おめおめと生き長らえる
など、魔国の者として・・・生き恥をさらしているも同じ
こと!!」
アトラス「腕を貸せ・・・(クルーエルの腕を掴む。)」
クルーエル「何をする!!」
アトラス「(クルーエルの腕の傷を見、ハンカチを取り出し、その
腕に巻く。)・・・これで大丈夫だ。」
クルーエル「アトラス・・・何故俺を殺さない!!俺がおまえに命
を助けられて、喜ぶとでも思っているのか!!剣を
交えた相手に、情けをかける・・・これでハッキリ分か
った。おまえは魔国の王として落第者だ!!デビル
様が認めても、この俺はおまえを王とは認めない!
!」
アトラス「・・・分かっている・・・」
アトラス、黙って下手へ去る。
クルーエル「何故、おまえは俺を助けるんだ・・・!!何故、そん
な心を持つんだ・・・!!何故・・・俺はあいつに命を
助けられなきゃならないんだ・・・!!何故俺は・・・負
けてまで生き長らえる・・・!!何故・・・!!」
暗転。
――――― “アトラス”4へつづく ―――――
※ この6場辺りから以降・・・昨日探してみたのですが、
実は続きのつながりがよく分からないのです・・・^^;
なので、書き綴っている部分の台本から、繋がるように
台詞を増やしてみました^_^;
この先も追加しなければいけないようなので、時々
立ち止まるかもしれませんが、お許し下さい
どの辺りが追加した部分か・・・お分かりですか?^^;
多分、昔作品と今作品の違いをご理解頂いていれば、
なんとな~く・・・追加した部分の言い回しなどに・・・
とって付けた感が見え隠れしているのではないかと・・・
(>_<)
読み難くなっていたら、すみませ~ん
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