ルイ「それにしても腹減ったなぁ・・・」
アンソニー「・・・俺の為に、力を使い過ぎたんだろ?満月だとし
ても、傷の治りの早さから分かるよ。」
ルイ「(笑って。)あれ程、沢山の血を流されたんじゃね。」
エドワード「先に食事に行って来いよ。」
ルイ「ラッキー!(テラスの方へ行こうとする。)」
エドワード「ルイ!!」
ルイ「(振り返り。)何?」
エドワード「この家の人間には、手を出すんじゃないぞ。」
ルイ「了解!」
ルイ、テラスへ出て行く。と、鳥の羽ばたく音
が遠ざかる。
アンソニー「(笑って。)余程、腹を空かしてたんだな。」
エドワード「アンソニー・・・」
アンソニー「ん?」
エドワード「さっきはすまない・・・」
アンソニー「ああ・・・別に、たいしたことじゃないさ。何で奴らが
俺達を執拗に追い続けているのか・・・。ルイが知っ
たところで、何の得にもならないだろ?それなら知ら
なくていいんだよ・・・。」
エドワード「・・・そうだな・・・」
その時、ドアをノックする音。
2人、驚いたように顔を見合わせて、アンソニー
慌ててベットに潜り込む。
それを見届けてからエドワード、ゆっくりドアの
方へ。
エドワード「はい・・・。(ドアを少し開ける。)」
クララの声「あの・・・お嬢様に言われまして・・・。どうぞ。」
エドワード、クララから盆を受け取る。
エドワード「・・・ありがとう・・・。」
クララの声「失礼致します・・・。(ドアを閉める。)」
エドワード、困ったような面持ちで、受け取った
盆を持って、アンソニーの側へ近寄る。
エドワード「アンソニー・・・」
アンソニー「行ったか?」
エドワード「ああ。」
アンソニー「(起き上がる。)誰・・・?(エドワードの持っている盆
に気付いて。)・・・何だい、それは・・・?」
エドワード「(アンソニーの膝の上へ盆を置いて、被せてあった
布巾を取る。)ご親切に、夕食を提供してくれたよう
だ・・・。」
アンソニー「パンにスープに干し肉・・・こう言うものは、何年ぶり
だろう?(笑う。)」
エドワード「・・・悪いけど俺は・・・(横を向く。)」
アンソニー「全く・・・相変わらず偏食だな、おまえは。(笑う。)
ルイの奴に取って置いてやれよ。屹度、涙流して喜
ぶんじゃないか?」
エドワード「(思わず吹き出し、声を上げて笑う。)そうだな。」
アンソニー「(エドワードに釣られて笑う。)」
2人の笑い声残して、紗幕閉まる。
――――― 第 5 場 ―――――
紗幕前。村人達、アンソニーの噂話しを歌う。
“ねぇ ねぇ お聞きになった?
ねぇ ねぇ お聞きになった?
シャンドール家のお客人のこと
世にも稀な美男子が
漆黒の髪を風に靡かせ
透き通るような白い肌で
弁舌爽やか 会話は上手い
一旦彼に見詰められると
誰もが忽ちそのとりこ
ねぇ ねぇ お聞きになった?
シャンドール家に立ち寄った
貴公子のこと!!”
エリーズ「ねぇ、知ってる?」
シャロン「この世の者と、思われないいい男なんでしょ?」
リチャード「どっかの国の貴族らしいぜ。」
オードリー「ねぇ、お母様!!そのお方が助けを求められたの
が、どうしてシャンドール家なの!?うちとは目と鼻
の先の、御隣同士だって言うのに!!」
マルガリーテ「屹度、森を抜けてこられたんでしょう。」
フィリップ「そうか・・・だから一番最初に目に付く明かりの点いた
家・・・即ち、シャンドール家に飛び込んだって言う訳か
・・・。」
オードリー「でなけりゃ、造りからして比べ物にならない立派な、
うちの方へお越しになる筈よね!!」
ミレーヌ「どっちが立派かなんて、見る人によるんじゃないの?」
フランツ「確かに、シャンドール邸も、オードリーの家も、立派な
建物には違いない。」
シャルル「(笑って。)そうそう、お母さんときたら、シャンドール
家と張り合いながら、どんどん家をでかくするものだか
ら・・・。」
マルガリーテ「シャルル!!私は昔から何があっても、シャンド
ール家に負けることだけは我慢がならないのよ
!!」
エリーズ「小母様は、何かシャンドール家に恨みが御有りなの
?」
マルガリーテ「人に言う程のことではないけれど・・・」
オードリー「本当。犬猿の仲のお母様と、幼友達のお隣の小父
様・・・。お母様が想いを寄せているのを知らずに、
隣村から奥様をお貰いになったのよね。(笑う。)」
マルガリーテ「オードリー!!私は何もあんな人に・・・!!何
も想いを寄せていたなんて・・・(しどろもどろに。)
」
オードリー「誤魔化さなくてもいいじゃない。」
ミレーヌ「まぁ・・・小母様にも、青春時代がおありだったのね。」
マルガリーテ「当たり前ですよ!」
みんな笑う。そこへ従者ハンスを従え、
村の有力者で弁護士のエドモンと、その妻
ヴィクトリア、腕を組んで登場。
エドモン「これはこれはみんな、楽しそうだな。」
クラウス「エドモン様。」
ヴィクトリア「御機嫌よう、みなさん。」
娘達口々に「こんにちは、奥様。」
みんな頭を下げる。
エドモン「何かいいことでもあったのかな?」
エリーズ「いいえ。マルガリーテ小母様の若き日のお話しを、伺
ってましたの。」
エドモン「ほう。それは楽しそうだな。」
マルガリーテ「いやですわ。」
ヴィクトリア「ところでみなさんは、シャンドール家のお客人のこ
とを、もうご存じかしら?」
シャロン「ええ、勿論ですわ!!今もマルガリーテ小母様のお
話しを伺う前に、噂してましたの。」
ミレーヌ「とっても美男子で貴公子だそうですね。」
ヴィクトリア「ええ。」
オードリー「一度、彼を見かけた者は、その美しさに目を奪われ
、話しをした者はその教養の高さに引き込まれると
か・・・。」
ヴィクトリア「とても社交的なお方のようですわね。」
エドモン「私達も是非一度、その者に会ってみたいと思っておる
のだが・・・如何せん、ここ暫くは裁判裁判で・・・。」
クラウス「何かあったんですか?」
エドモン「いや何・・・隣村のことなんだが、少し奇妙な事件が起
きておってな。」
フランツ「奇妙な・・・とは?」
エドモン「昨日まではピンピンしておった娘達が、あくる日には
丸で生気を吸われてしまったかのようにぐったりなって
いると言う・・・。初めは変な病気でも流行っているん
じゃないかと、騒ぎになったそうなんだが、その娘達も
数日後にはすっかりよくなり、何事もなかったように暮
らしているんだが、不思議なことにその娘達は、決まっ
て窓から忍び寄る黒い影を見たと証言するのだ。それ
で、警察当局の調べで、一人の薬売りが捕らえられ・・
・私はその男の弁護を引き受けているのだが・・・」
リチャード「その男が、薬を使って娘達に幻覚を見せたと?」
エドモン「ああ・・・。だが、その男の話しを聞く限りでは、幻覚を
見せる薬はあっても、そう一晩のうちに血の気がみん
な引いてしまうようなことになる薬などないと言うのだ
・・・。それに最大の問題点は、その男は足が悪いと
言うことだ。普通に歩くくらいには何の問題もないんだ
が・・・窓からしか入り込めないようなところへ、どうや
って忍び込むことができると言うんだ。全くもって不可
思議なことだよ・・・。と言う訳で、私はまた今から隣村
まで出掛けねばならないと言うことなのだ。」
ヴィクトリア「時間ができれば、是非うちで盛大にお茶会など、
催したいと思ってますの。そのお客人達が、まだ滞
在なさってればの話しですけど・・・。」
オスカー「大丈夫ですよ。まだ傷の方は、そう直ぐにはよくなら
ないだろうし。」
ヴィクトリア「そんなに大怪我をなさってたんですか?」
マルガリーテ「ええ。だけど驚く程回復が早くて、もう普通に歩く
くらいなら、平気なんだと聞きました。」
エドモン「ほう・・・」
ハンス「旦那様、そろそろ参りませんと・・・」
エドモン「ああ、そうだったな。(ヴィクトリアの方へ向いて。)で
は、行こうかね。」
ヴィクトリア「ええ。それでは皆さん、その節は是非いらして下さ
いね。」
エドモン、ヴィクトリア去る。ハンス、2人に続く。
村人達も其々続いて去る。
暗転。
――――― 第 6 場 ―――――
紗幕開く。と、舞台はシャンドール邸の居間。
ソファーに深々と身を沈め、長足をテーブルの
上へ無造作に投げ出したアンソニー。
隣にはエドワード、ゆったりと座る。
ルイは2人の側へ立っている。
アンソニー「それにしても、こんな無意味な時を過ごさなければ
ならないなんて・・・」
ルイ「(笑って。)俺は無意味だなんて、全然感じてないぜ。」
アンソニー「そりゃ、おまえは自由だからな。俺が好き勝手動け
るのは、日もどっぷりつかった真っ暗闇の中だけな
んて・・・。」
エドワード「仕方ないだろ?この屋敷の中だけでも、歩き回れる
んだ、感謝しろよ。」
アンソニー「(溜め息を吐く。)OK・・・」
ルイ「俺が色々と村の様子を教えてやっただろ?何時もみたい
に勘を働かせて想像しろよ。(笑う。)」
アンソニー「馬鹿!」
ルイ「(エドワードに向いて。)どうして外へ出ないんだ?」
エドワード「俺は人と交わるのは苦手だ・・・。」
ルイ「そんなこと言ってると老けるぜ。(笑う。)」
エドワード「好き勝手言ってろよ。俺はおまえとは違うんだ。」
アンソニー「俺のことなら気にしなくていいんだぜ。」
エドワード「馬鹿、本当に出たくないんだ・・・。行きたくなったら、
おまえに止められたって俺は行くさ。」
アンソニー「そうか。(微笑む。)ところで・・・2階の一番奥の部
屋だけは入るなって・・・」
エドワード「アンソニー、余計な好奇心を出して、この家の人間
の、機嫌を損ねるような真似だけはするなよ。」
ルイ「そうそう。近寄るなと言われている所には近寄らない・・・。
それで2週間を平穏無事に過ごして、この家ともおさらば
ってことさ。」
アンソニー「そうだな・・・」
エドワード「俺達がこれからも、何事もなく旅し続ける為には、少
しでも疑われるような行動は、慎むべきなんだ・・・。」
ルイ「(笑って。)一晩で大怪我が跡形もなく治って、元気になる
とか?」
エドワード「そう言うことだ・・・。ルイ、おまえも気を付けろよ。隣
村で騒ぎになりつつあるだろう・・・?人間が出来そう
にないことはするな。いいか?」
ルイ「了解!」
アンソニー「(笑って。)全くおまえは、何時も理路整然としている
よ。」
エドワード「アンソニー!冗談で言ってるんじゃないぜ。それで
なくても、ジェラールが後から俺達のことを、バラして
回る為に、二度と同じ所へは行けないと言うのに。」
アンソニー「分かってるよ。おまえの言ってることは何時も正しい
。おまえがいてくれて嬉しいよ。」
ルイ「俺もさ!(笑う。)」
エドワード「(呆れたように呟く。)・・・おまえ達は・・・」
アンソニー「(何かに気付いたように、テーブルの上から足を下
ろし、姿勢を正して座り直す。)誰か来る・・・」
ルイ「えー・・・?」
一時置いて、エリザベート、オードリー登場。
続いてマルガリーテ、ステラ、クレナ登場。
エリザベート「お加減は如何かしら?」
アンソニー「エリザベート。(立ち上がる。)もうご心配には及び
ません。ありがとう・・・。(微笑む。)」
女性達、憧れの眼差しでアンソニーを見詰める。
エリザベート「少し、ご一緒して宜しいかしら?」
エドワード「(小声でアンソニーに。)相変わらず宜しい勘で・・・」
アンソニー「(エドワードをチラッと見、直ぐにエリザベート達の方
へ向き直り、椅子を勧めるように。)どうぞ、マドモア
ゼル。僕達も丁度、退屈していた所ですよ。」
エドワード、立ち上がる。
ルイ「(クスクス笑って。)・・・僕?」
エドワード「ルイ!」
ルイ「(笑うのを止めて、きちんと立ち直す。)」
――――― “アンソニー”3へつづく ―――――
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