アンソニー、歌いながらリーザの側へ。そっと
リーザの手を取る。リーザ、アンソニーに導か
れるように立ち上がり、嬉しそうにアンソニーを
見詰める。アンソニー、リーザの手を引いて、
前方へ。紗幕閉まる。
“空がどんなに青いのか・・・
海がどんなに広いのか・・・
風はどんな風に戦ぐとか・・・
陽はどんな風に降り注ぎ・・・
小鳥達は何を囀り合うのか・・・
ただ当たり前のことを
ただ何時も見聞きしていることを
僕の肌で感じ
僕の心で見・・・
感動し・・・心動かされ・・・
生きていることが素晴らしいと
この思いを君にも・・・
朝陽が昇り・・・朝露が弾け・・・
木漏れ日が暖かく・・・
人々の騒めき・・・喜び・・・
笑い声・・・
月が昇り・・・星が降り注ぎ
辺りが闇に包まれても・・・
僕の肌で感じ・・・
心動かされ・・・
生きていることが素晴らしいと
この思いを君にも・・・”
見詰め合うアンソニーとリーザ。暗転。
――――― 第 8 場 ―――――
音楽で、紗幕開く。と、舞台は村の風景。
村人達、楽し気に歌い踊る。
決めのポーズで其々、散り散りになり、話し
込んでいたり、仕事をしていたり。
下手より、ゆっくりアンソニー、エリザベート
並んで登場。
一寸遅れてルイ、続いて深く帽子を被った
エドワード登場。
アンソニー「外へ出るのは、怪我して以来、今日が初めてだが、
この村は本当に綺麗な所ですね・・・。こうして歩いて
いるだけで、心が洗われるようです・・・。」
エリザベート「傷にも屹度、いいと思いますわ。」
アンソニー「そうですね。もし、世の中に自分はこの直ぐ側にい
るにもかかわらず、この美しい風景を知らずに生き
ていかなければならない人がいるとすれば、それは
本当に不幸なことです・・・。」
エリザベート「え・・・?(一瞬、驚いた面持ちをする。)」
アンソニー「(そのエリザベートの様子に気付きながら、知らん
顔で振り向く。)エドワード、おまえも外に出るのは久
しぶりだろ?気持ちいいと思わないか?」
エドワード「・・・俺は太陽は、どうも苦手だ・・・。」
アンソニー「(笑って。)変わった奴だな。こんな気持ちのいい陽
射しが、苦手だなんて・・・。」
ルイ「(笑って。)どっちが・・・」
エドワード「おまえ達は健康的だからな・・・。」
戯れていた娘達、アンソニー達に気付いて
素早く近寄る。
エリーズ「こんにちは、エリザベート!!」
エリザベート「こんにちは、みなさん。」
みんな、エリザベートと挨拶を交わしながら、
目はアンソニーをチラチラ盗み見している。
ミレーヌ「そちらが、お噂の・・・」
エリザベート「ええ。ご紹介します。こちら我が家の大切なお客
様で、アンソニー・ヴェルヌ伯爵。お隣はお友達の
エドワード様、ルイ様・・・。」
アンソニー「(微笑んで。)初めまして。(手を差し出す。)」
娘達、順番に嬉しそうに手を出して、握手を
しながら、挨拶を交わす。
シャロン「お散歩ですか?」
アンソニー「ええ。こんないい天気の日に、家にばかり籠もって
いるのは余りに勿体なく、エリザベートに村を案内し
てもらっていたのです。(傍らに咲いている花々に目
を遣って。)ほら・・・外へ出れば、こんなに綺麗な花
々が咲き乱れている・・・。」
娘達、その方へチラッと目を遣るが、直ぐに
アンソニーの回りに戯れる。
エリーズ「伯爵様はどちらからお越しになられましたの?」
ミレーヌ「お年は?」
シャロン「どう言ったご旅行で、この村へ?」
リチャード「(娘達の背後から。)いつまでご滞在なさいますの?
」
娘達、リチャードに気付いて振り返る。
ミレーヌ「リチャード!!(怒ったように。)」
リチャード、肩を窄めてその場から離れる。
エリザベート「(慌てたように。)ちょっと、みなさん!!そんなに
一度に質問して、アンソニーを困らせないで下さい
な!!」
アンソニー「(取って付けたように笑う。)ハハハ・・・困ったな・・・
。」
エリザベート「ほら、ご覧なさい!!」
アンソニー「(微笑んで。)さて・・・何から答えればよかったかな
?」
ルイ「(笑ってアンソニーの耳元で。)年だよ。」
アンソニー「(一瞬、瞳を輝かせて。)そう・・・年は・・・424歳・・・
。」
エドワード「アンソニー!!」
娘達、一瞬呆然とアンソニーを見詰めるが、
直ぐにお互い顔を見合わせて笑う。
シャロン「いやだわ、伯爵様!」
エリーズ「ご冗談ばっかり!」
ミレーヌ「424・・・24歳ね?そうでしょ?」
アンソニー「(笑って。)当たりです。次は・・・」
シャロン「どこからお越しになったの?」
アンソニー「ヨーロッパの外れ・・・トランシルヴァ二アからです。
この旅行は、(エドワードの肩に手を置いて。)こい
つの傷心旅行なんですよ。愛しい人に振られた・・・。
」
エドワード「(驚いて。)アンソニー!!おまえ・・・」
ルイ「(大声で笑う。)」
ミレーヌ「まぁ、そうですの・・・」
エリーズ「お可哀相に・・・。けれどエドワード様も、伯爵様とは
何れ劣らぬ美男子でいらっしゃるから、また直ぐに、
いい人が現れますわ。」
ミレーヌ「そうそう。それに、もう少し愛想よく為さると、もっと宜し
いんじゃないかしら。」
ルイ「(再び声を上げて笑う。)」
エドワード「(少し照れたように。)・・・それは、ご忠告をどうも・・・
。」
アンソニー「(笑って。)良かったな、自分の欠点を知ることがで
きて。」
エドワード「(アンソニーをチラッと睨む。)」
そこへ下手より、エドモン、ヴィクトリア、
従者ハンスを従えて登場。
フィリップ「(エドモン達に気付いて。)エドモン様。」
エドモン「やぁ・・・よい天気だね。」
他の者達も、エドモン達に気付く。
シャロン「エドモン様、奥様、こんにちは!」
ヴィクトリア「みなさん、こんにちは。」
みんな其々エドモン、ヴィクトリアと挨拶の
言葉を交わす。
エリザベート「(エドモンの前へ進み出て。)こんにちは、エドモン
様。ご紹介致しますわ。(振り向いて、アンソニー達
の方を指示して。)こちら、我が家のお客様で、アン
ソニー・ヴェルヌ伯爵とご友人のエドワード様とルイ
様です。(アンソニーの方を向いて。)伯爵様、こち
らは弁護士のエドモン様と、その奥様・・・。」
エドモン「おお。ではこちらがこの間話していた・・・」
アンソニー「初めまして。」
ヴィクトリア「お噂はかねがねお聞きしていましたわ。ぜひ、お目
にかかりたいと、主人とも申しておりましたの。」
アンソニー「(微笑んで。)それは大変光栄です、奥様・・・。(ヴィ
クトリアの手を取って、口付ける。)」
エドモン「それで、この村には何時まで?」
アンソニー「はい。傷の方はシャンドール家の方々の手厚い看
護によって、もう殆ど完治していますので、立てと言
われたなら、今直ぐにでも出発できるまでになって
います。」
エリザベート「(慌てて。)まだ駄目ですわ!!今、無理を為さっ
て、折角治り掛けている傷が、また悪化するとも限
りません!!」
アンソニー「(微笑んで。)ただ、僕はこの村がとても気に入りま
してね。シャンドール家の迷惑でなければ、もう暫く
置いてもらおうかと考えている所なんです。」
エリザベート「ええ!!もう全然・・・迷惑だなんてとんでもない
!!何時までもゆっくりしていらして結構ですのよ
!!」
エドモン「それならば、ぜひ歓迎の舞踏会でも盛大に開かなけ
ればいけないな。」
ヴィクトリア「そうですわね。」
エドモン「では、仕事が一段落する次の日曜日にでも、我が家
で久々の舞踏会を催すとしよう。如何かね?アンソニ
ーくん。」
アンソニー「そう言うことなら、勿論喜んでお伺いしますよ。」
ヴィクトリア「まぁ、良かったこと。日曜日が楽しみですわね。」
娘達、歓喜の声を上げる。
暗転。
――――― 第 9 場 ―――――
フェード・インする。と、絵紗前。リーザの部屋。
窓から遠くを見遣るように立ち、呟くように歌う
リーザ。
“森が呼んでる・・・風を戦がせて・・・
小鳥が囁く・・・早くおいでと・・・
花は何故咲くの・・・?
何時かは散りゆくのに・・・
その見事なまでの輝きを
あなたに見せる為・・・
あなたに微笑んでもらう為に・・・
ほんの一瞬の時を大切に生きたい・・・”
奥より、ガウンを持ってクララ登場。
クララ「(驚いて。)お嬢様!ベットから起き上がられたりしたら、
お体によくありません。さ、早くお戻りになって下さい!」
リーザ「(微笑んで。)大丈夫よ、クララ。心配しなくても・・・。何故
だか分からないけれど、ここ数日はすっかり病気が良くな
ったかのように、調子がいいの。」
クララ「でも・・・もし、また以前のようにお倒れになられたら・・・
(心配そうに。)」
リーザ「ありがとう・・・。そうね・・・、じゃあベットに戻ります。」
リーザ、ベットに横になる。クララ、ベットの
横の台の上から、薬とコップを手に取り、
リーザへ差し出す。
クララ「さ、お薬を飲んで下さい・・・。」
リーザ、クララから薬とコップを受け取り、
それを飲み、コップを再びクララへ手渡す。
クララ「それでは、ちゃんとお休みになってて下さいましね。」
クララ、扉の方へ進む。
リーザ「クララ・・・」
クララ「はい?(振り向く。)」
リーザ「・・・お父様・・・お母様や・・・エリザベート達は、如何して
いらっしゃる?」
クララ「あの・・・(困ったような面持ちで。)ご主人様と奥様は、ま
だ・・・ご旅行中です・・・。エリザベート様達は・・・その・・・
リーザお嬢様のご心配をしていらってしゃいました・・・。あ
の・・・ご心配を・・・(言葉に詰まる。)」
リーザ「クララ・・・、いいのよ。分かってるわ・・・。ごめんなさいね。
あなたを困らせるようなことを聞いてしまって・・・。」
クララ「お嬢様・・・すみません!!(頭を下げて、素早く去る。)」
一時置いて、鳥の羽ばたく音が聞こえる。
リーザ、一瞬テラスの方へ顔を向けるが、
直ぐ横の台の上から一冊の本を取り、膝の
上へ置き目を遣る。
そこへテラスより、アンソニー登場。
アンソニー「(微笑みながら、リーザの方へ近寄る。)こんにちは
。」
リーザ「(アンソニーを認めて、嬉しそうに微笑む。)アンソニー
!!何処から来られたの!?」
アンソニー「空から・・・。」
リーザ「(クスクス笑って。)あなたって変わった所から、いらっ
しゃるのね。」
アンソニー「何せ秘密の訪問だからね。(笑う。)」
リーザ「ごめんなさい・・・」
アンソニー「何も謝ることはない・・・。僕が自分で来たいと思っ
たから来たんだから・・・。あ、プレゼントがあるんだ。
(手に持っていた小さな花束を、リーザの方へ差し出
す。)」
リーザ「(花を受け取って、溜め息を吐く。)・・・まぁ・・・何て綺麗
な花なの・・・?ありがとう、アンソニー・・・。(嬉しそうに、
花を愛でる。)」
アンソニー「(そのリーザの様子を微笑ましく見詰めながら、ベッ
トの傍らへ腰を下ろす。)今は春・・・外にはこんな美
しい花々が、山のように咲いているんだ。」
リーザ「そう・・・。屹度素敵でしょうね・・・。」
アンソニー「ああ、素敵だよ!!(思わずリーザの手を握る。)一
緒に行こう!!」
リーザ「・・・一緒に行ける・・・?」
アンソニー「ああ、行けるよ!!」
リーザ「本当に・・・?」
アンソニー「ああ、本当だとも!!」
リーザ「(微笑んで。)あなたに言われると、どんなことも叶えら
れるような気がするから不思議ね・・・。」
アンソニー「必ず叶うんだ。不思議じゃないさ!そうだ!その証
拠に、先ずは今度の日曜日にエドモン邸で行われる
舞踏会に、君を連れて行ってあげよう!」
リーザ「(呆然と。)・・・舞踏会・・・?」
アンソニー「そう、我々の歓迎パーティを開いてくれるそうだ。そ
こには村中の連中が集まることだろう。」
リーザ「・・・でも・・・!」
アンソニー「どうした?体のことなら、心配する必要はない。」
リーザ「私・・・今まで一度も舞踏会なんて・・・(俯く。)」
アンソニー「僕が一緒なんだ。大丈夫・・・君をエスコートするか
ら・・・。」
リーザ「(ゆっくり顔を上げて、アンソニーを見詰める。)ずっと・・・
側にいてくれる・・・?」
アンソニー「(微笑んで。)ああ・・・」
リーザ「(嬉しそうに頷く。)」
アンソニー「決まりだ!!」
リーザ「舞踏会なんて本で読んだことしかなくって・・・。今まで私
には御伽の国の話しだった・・・。まさか、その舞踏会に、
私も行けるなんて・・・。(溜め息を吐く。)夢みたいだわ・・・
。」
アンソニー「舞踏会では、男性は紳士然と、その日ばかりは美
しく着飾ったご婦人方をエスコートするんだ・・・。それ
は何時の世も変わりはしない・・・。豪華な音楽と煌び
やかな人々・・・。」
リーザ「美しく・・・着飾ったご婦人方・・・?」
アンソニー「ああ・・・。(笑って。)それはそれは皆、普段とは全く
別人のような変わりようさ。」
リーザ「・・・私・・・(下を向く。)」
アンソニー「何だい?」
リーザ「・・・折角のお気持は嬉しいけれど・・・私・・・やっぱり行
けない・・・。」
アンソニー「(驚いて。)如何して!?」
リーザ「(悲しそうに微笑む。)あなたもご存じでしょう?私は一
度もこの部屋から出たことがない・・・って・・・。
アンソニー「・・・ああ・・・」
リーザ「他のご婦人方のように、美しく着飾れるようなものは、何
も持っていないんです・・・。(自分の身に着けている、ナイ
トウエアを見て。)こんな格好で・・・貴公子のあなたにエス
コートされるなんて出来ないでしょう・・・。」
アンソニー「(ホッとしたように微笑む。)・・・何だ・・・そんなこと・・
・。」
リーザ「そんなことじゃないわ・・・。あなたにとっては些細なこと
でも、私には・・・!」
アンソニー「すまない・・・そんなつもりで言ったんじゃないんだ。
君は何も心配しないで、日曜日を楽しみにしておい
で・・・。」
リーザ「・・・アンソニー・・・」
アンソニー「僕に任せて・・・」
手を取り、見詰め合うアンソニーとリーザ。
音楽で暗転。
――――― “アンソニー”5へつづく ―――――
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
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