2012年9月17日月曜日

“アンソニー” ―全16場ー 6

  エドモン「やぁ、アンソニー君。よく来られた。」
  アンソニー「今日はお招きありがとうございます。」
  ヴィクトリア「(リーザに微笑んで。)こちらの素敵なお嬢さんは?
          」
  リーザ「(恥ずかしそうに、アンソニーを見る。)」
  アンソニー「(微笑んで、頷く。)」
  リーザ「・・・リーザ・シャンドールです。」
  エドモン「リーザ・・・シャンドール・・・?」
  リーザ「はい・・・。」
  ヴィクトリア「じゃあ亡くなられた奥様の・・・?まぁ、何て美しい娘
          さんに成長したこと!お母様がもし生きてらしたら、
          屹度お喜びですよ!」
  エドモン「だが今まで何処に?」
  リーザ「・・・あの・・・」
  アンソニー「彼女はとても体が弱かったのです。」
  ヴィクトリア「まぁ、そうだったの・・・。シャンドール家の方達は、
         何も仰らないから・・・。それじゃあ、もうすっかりお体
         の方は、よくなられたのね?だって頬も紅潮して、と
         てもお元気そう・・・。」

         アンソニー、リーザ、お互い顔を見合わせて
         微笑む。その時、曲が新しく始まる。
         アンソニー、リーザの手を取って、エドモン、
         ヴィクトリアの手を取って、中央へ進み出、踊りの
         輪に加わる。
         エドワード、ルイ、其々ボーイからシャンパングラス
         を受け取り、壁の方へ。
         娘達、目敏く2人を認め、嬉しそうに駆け寄る。
         ルイ、その中の一人の手を取って、踊りに加わる。
         エドワード、困った面持ちで、娘達に取り囲まれて
         いる。
         音楽、少し静かに。中央にアンソニーとリーザ、
         踊るのを止めて見詰め合う。回りに踊る人々、
         アンソニーとリーザを残して、何時の間にか退場
         する。

  リーザ「(嬉しそうに。)こんな風にあなたと踊れるなんて・・・。」
  アンソニー「(微笑んで。)僕は嘘は言わないんだ・・・。特に大切
         な人にはね・・・。」        ※
  リーザ「アンソニー・・・私・・・あたなに出会えてよかった・・・。あ
      なたに巡り合わせてくれた神様に、感謝しなくちゃ・・・。」
  アンソニー「・・・自分の・・・運命を恨むことなく・・・感謝を・・・?」
  リーザ「・・・何故?こう言う運命のお陰で、あなたと出会えたの
      よ・・・。神様は屹度、最初からお分かりだったのね・・・。
      こうして・・・あなたに・・・巡り会えることを・・・。」
  アンソニー「リーザ・・・(思わずリーザを胸に抱く。)僕の方こそ、
         君に出会えたことを感謝する・・・。」
  リーザ「アンソニー・・・」

         再び音楽大きくなり、アンソニー、リーザの
         手を取って踊り出す。
         アンソニーとリーザのデュエットダンス。(スモーク。)
         嬉しそうに寄り添い合うアンソニーとリーザ。
         紗幕閉まる。

    ――――― 第 13 場 ―――――

         紗幕前。
         上手より村人達、話しながら登場。

  オスカー「けど、全くこの間の舞踏会の時には、驚かされたよな
        。」
  エリーズ「ええ。もう私なんかショックで・・・。」
  ミレーヌ「伯爵様の相手が、シャンドール家からは、私達はずっ
       と寝たきりで体の弱い前妻の娘がいるにはいるけど・・・
       と、聞かされていたその娘だったなんて・・・。」
  シャロン「私はシャンドール家に、もう一人娘がいることなんて、
        全然知らなかったわ。」
  シャルル「僕だって隣に住んでいながら、全く驚きだよ。」
  クラウス「僕は子どもの頃、シャンドール邸の庭を覗いた時に、
        色の白い・・・透き通るような肌を持った娘を見かけた
        ことがある・・・。エリザベート達が来る少し前の話しだ
        ・・・。今思えば、あの時あそこにいた娘が彼女だった
        んだな・・・。」
  フランツ「そういやぁ・・・僕もたった一度、シャンドール邸に忍び
       込んだことがあるんだ。皆で鬼ごっこをしている時に・・・
       。森の方へ回った時・・・シャンドール邸の裏口の方だな
       、その時、2階の端の窓から覗く天使を見た・・・。そう思
       ってたんだ、ずっと・・・。屹度彼女だ・・・。その後、執事
       のヨハンに見つかって、こっぴどく叱られたっけ。(笑う。)
       」
  エリーズ「あなたって、昔から悪戯小僧だったのね。」
  フィリップ「僕は全然知らなかったなぁ・・・。けど、綺麗な人だっ
        たよなぁ・・・。」
  ミレーヌ「・・・そうね・・・。悔しいけどお似合いだったと言うべきか
       しら・・・。」

         その時、下手よりジェラール、ミハエル、
         ルドルフ登場。

  ミハエル「先生!今夜はベットの上で眠れますよね!」
  ルドルフ「昨夜は参ったよなぁ。まさか、森の中で野宿するなん
        て・・・。」
  ミハエル「木の上で枝に寄りかかって眠るのは、流石にしんどか
        ったよな。」
  ルドルフ「俺なんか何回も落ち掛けて、その度に目が覚めちゃっ
        たよ。(笑う。)」
  ジェラール「だが眠っている間に、野獣に襲われるよりはマシだ
         ろ?」
  ルドルフ「そりゃあそうですけど・・・。できればフカフカのベットに
        埋もれて眠りたい・・・。」
  
         ジェラール、話し込んでいる村人達に気付いて
         近寄る。

  ジェラール「こんにちは、皆さん。」
  リチャード「(つられるように挨拶をしながら、ジェラール達を見る
         。)こんにちは・・・。」
  ジェラール「君達は、この村の人間かね?」
  リチャード「そうだけど・・・何か・・・?(ジェラール達をマジマジと
         見る。)」
  ジェラール「私はトランシルヴァ二アから来た医者で、ジェラール
         ・パーカー。(ミハエルとルドルフを見て。)この2人は
         私の連れで、ミハエルとルドルフ・・・。」
  ミハエル「どうも・・・。」
  シャロン「・・・トランシルヴァ二ア・・・?」
  オスカー「へぇ・・・そんな遠くから、先生がまた何でこの村へ?」
  クラウス「・・・観光・・・?(ジェラール達を見て。)にしちゃあ、軽
        装だよなぁ・・・。」
  ジェラール「いや、実は人を捜して・・・。ミハエル。」

         ミハエル、ポケットから写真を取り出す。

  ミレーヌ「トランシルヴァ二ア・・・って言うと、伯爵様達のことは
       ご存じかしら?」
  ジェラール「・・・伯爵・・・?もしかして伯爵と言うのは・・・アンソ
         ニー・ヴェルヌ・・・」
  エリーズ「ええ!お知り合いですの?」
  ミハエル「・・・先生・・・。」
  ジェラール「(ミハエルから写真を受け取り、村人達の方へ差し
         出す。)この写真の男を・・・?」
  フランツ「ああ、この人を捜してたんなら、この村に一カ月程前
       から来られてますよ。」
  シャロン「伯爵様のお友達のエドワード様よね。」
  ジェラール「(絞り出すような声で。)・・・年恰好同じにかね・・・?
         」
  シャロン「ええ。ここに写ってる通りの方ですわ。」
  ルドルフ「ずっと追い続けているけど、一体先生とどんなつなが
        りのある人なんですか?まさか、お孫さんとか・・・?」
  ミハエル「馬鹿!孫ならこんなに憎しみを持って、追い続ける訳
        ないじゃないか。」
  ジェラール「・・・この写真の男は・・・私の祖父・・・エドワードだ
         ・・・。」
  ミハエル「え・・・?また冗談ばっかり!!どう見たって、俺達と
        同じ年頃ですよ!!」
  ジェラール「その写真に写っているのは・・・100年前の私の祖
         父、エドワード・パーカー男爵だ・・・!!」
  ミハエル「・・・100年・・・前・・・?」
  フィリップ「100年・・・ったって、シャンドール家に居るのは、この
        写真通りの人物ですよ・・・。(笑う。)」
  ジェラール「(ポケットから、もう一枚写真を取り出し、村人達の
         方へ差し出す。)こいつは・・・?」
  エリーズ「アンソニー・ヴェルヌ伯爵様・・・その人ですわ・・・。」
  ジェラール「そう・・・奴の名は・・・アンソニー・ヴェルヌ・・・ドラキ
         ュラ伯爵・・・。(ミハエルとルドルフの方を見て。)おま
         え達に、この間話したトランシルヴァ二アに伝わる奇
         話は覚えているだろう・・・。あの時、消えた伯爵こそ
         アンソニー・ヴェルヌ・・・。奴がこの世に生を受けた
         のは、400年以上昔の話しだ・・・!!」
  ルドルフ「えーっ!!」
  ミハエル「まさか・・・」
  ミレーヌ「嘘・・・」
  ジェラール「奴が何故、そんなにも生き長らえて来たか・・・それ
         は奴が、夜な夜な美女の生き血を啜る、化け物だか
         らだ!!」
  ルドルフ「えーっ!?」

         皆、一斉に驚きの声を上げる。

  ジェラール「奴をこのまま生かしておくことは出来ない・・・!!そ
         の胸を銀の杭で深く突き刺し、この世の塵と化すの
         だ!!我が祖父のような犠牲者を、これ以上増やさ
         ない為にも!!」

         緊迫した音楽が響き渡り、暗転。

    ――――― 第 14 場 ――――― A

         紗幕開く。と、絵紗前。リーザの部屋。
         ベットの上で、枕に凭れているリーザ。その横に
         腰を下ろしたアンソニー、楽し気に語らっている。

  アンソニー「僕の村では、昔々から春になると色とりどりの花で
         覆われ、それはそれは美しく衣替えをするんだ。冬
         の雪の白から、夏の木々の緑の間にその季節がや
         ってくる・・・。全く、自然の芸術と言うのは、何時の世
         でも本当に素晴らしいと感動させられるよ・・・。その
         後に秋の紅葉がくる・・・。僕は子どもの頃から、春の
         淡色がとても好きだったよ。そのことで、からかわれ
         たりしたこともあったけどね・・・。」
  リーザ「(微笑んで。)昔から優しかったのね・・・。」
  アンソニー「リーザ・・・(微笑んで。)君はどんなことでもプラスに
         考えられる人なんだね・・・。僕は君といると、とても
         心が和むようだ・・・。こんな気持ちになったのは、生
         まれて初めてのような気がする・・・。」
  リーザ「私の方こそ、あなたに色々なことを教わったわ・・・。あな
      たは私の知らないことばかり知っている・・・。あなたといる
      と、とても楽しいわ・・・。」

         その時、突然扉が開いて、エドワードとルイ、
         駆け込んで来る。
         アンソニーとリーザ、驚いてその方へ見る。

  アンソニー「・・・どうした・・・?」
  エドワード「ジェラールが・・・追い付いた・・・。」
  アンソニー「・・・そうか・・・」
  エドワード「早くしろ・・・時間がない・・・。」
  アンソニー「(リーザを見詰める。)」
  リーザ「(何かを悟ったように。)・・・もう・・・行ってしまうのね・・・。
      (涙が溢れる。)」
  アンソニー「リーザ・・・(暫く考えるように。リーザを見詰める。)
         一緒に・・・来ないか・・・。」
  リーザ「・・・え・・・?」
  エドワード「アンソニー!?」
  アンソニー「・・・俺達は・・・君も感ずきつつあるように・・・普通の
         人間とは違う・・・。昔から・・・人の世で疎外され続け
         て来た・・・永遠の命を持つ者・・・ヴァンパイアだ・・・。
         ・・・君を我々の仲間に加える準備をするのは簡単だ
         ・・・。ただ・・・君の意思とは別に、君の体が拒否すれ
         ば・・・君はこの世から消えて・・・なくなるんだ・・・。」
  リーザ「(ゆっくりと。)・・・いいわ・・・例え・・・塵となって消える運
      命でも・・・。私は、あなたに付いて行きたい・・・。あなたと
      共に生きられるかも知れない道を選びたい・・・。例え・・・
      あなたが人の世の運命に逆らって、生きてきた者だとして
      も・・・。誰一人あなたのことを、認めようとしなくても・・・初
      めて、あなたが私に力を与えてくれたあの時から・・・もう
      私はあなたを受け入れてた・・・。あなたは私にとって、たっ
      た一人の・・・あなたこそが、私を初めて受け入れてくれた
      人だから・・・。他の誰でもない・・・たった一人の私が・・・
      生まれて初めて・・・愛した人・・・アンソニーだもの・・・。一
      緒に連れて行って・・・!!(アンソニーに抱き縋る。)」
  アンソニー「・・・リーザ・・・!!僕こそ君を愛している・・・!!(
         暫くリーザを抱き締め、立ち上がる。)そうと決まれば
         急ごう!!(エドワードとルイを見る。)」

         アンソニー、リーザの手を取る。リーザ立ち上がる。

  エドワード「・・・あ・・・アンソニー・・・先に行ってくれるか・・・?」
  アンソニー「エドワード・・・?」
  エドワード「・・・いや・・・ここらで、そろそろ奴とは一度、正面きっ
         て話し合った方がいいと思ってたんだ・・・。(チラッと
         ルイを見る。)・・・奴は・・・俺の・・・身内だからな・・・。
         」
  ルイ「エドワード・・・」
  エドワード「大丈夫、直ぐに追い付くさ・・・。」
  アンソニー「・・・だが・・・」
  エドワード「(微笑んで。)そんな顔するな・・・。奴に会ったら、直
         ぐ追い掛けるって言ってるだろ・・・?」
  アンソニー「・・・分かった・・・待ってるぞ・・・。(リーザの方を向い
         て微笑む。)おいで・・・」
  
         アンソニー、側へ来たリーザを軽々と抱き上げ、
         テラスの方へ行きかける。

  エドワード「(思わず。)アンソニー!!」
  アンソニー「(振り返る。)」
  エドワード「・・・今度は女連れなんだ・・・気を付けて行けよ・・・。」
  アンソニー「・・・分かってるさ・・・。」
  ルイ「(笑って。)・・・変な言い方するんだな。」
 
         暫くアンソニー、エドワード、お互いの心の内を
         悟ったように見詰め合う。
         その時、屋敷の中に村人達がなだれ込んで来た
         音や、アンソニー達の名を呼ぶ叫び声が、聞こえ
         てくる。

  ルイ「来た!!」
  エドワード「早く行け・・・。」
  アンソニー「(エドワードを見詰めたまま、ゆっくり頷く。)」
  ルイ「アンソニー!俺も後からエドワードと行くよ!」
  エドワード「ルイ!!駄目だ!!」
  ルイ「(エドワードの声は耳に入っていないように。)野暮なこと
     はしないよ。さ、早く行けよ、アンソニー!!エドワードのこ
     とは俺に任せな!!」
  アンソニー「ルイ・・・」

         アンソニー、頷いて2人から視線を捥ぎ取り、
         リーザを抱いたまま、風のようにテラスへ出て
         行く。

  エドワード「ルイ!!俺は・・・!!」
  ルイ「(笑って。)分かってるって・・・。これからは、アンソニーに
     はリーザがいるだろ?もう俺の役目も終わる時が来たって
     ことだよ。」
  エドワード「ルイ・・・」
  ルイ「俺はあいつが永遠の命を持っていながら、何ものにも満た
     されない思いを抱いていることに感ずいて、あいつの生き
     方に共に行こうと決めたんだ・・・。そのあいつが・・・今、彼
     女と出会って、やっと生きがいを見出した・・・。見ただろ?
     あいつの嬉しそうな顔・・・。」
  エドワード「(フッと笑って。)ルイ・・・おまえ・・・」
  ルイ「俺にしちゃあ、よく分かっただろ?引き時ってやつをさ。(
     笑う。)」
  エドワード「(笑って。)偉いよ。」
  ルイ「(服の内ポケットから、銀の銃を取り出して、エドワードの
     方へ差し出す。)・・・最後の我が儘だ・・・おまえの手で・・・」
  エドワード「ルイ・・・!!」
  ルイ「(笑って。)さぁ、早いとこ殺っちまってくれよ。(エドワードの
     手を取って、銃を握らせる。)」
  エドワード「(顔を伏せて。)ルイ・・・」
  ルイ「俺は幸せなんだぜ。おまえの手で終われることが・・・。も
     し・・・こんな俺達でも・・・もし・・・生まれ変わることが出来た
     なら・・・来世でも・・・おまえとアンソニー・・・3人でまた・・・
     同じ時を過ごせたらいいな・・・。(微笑む。)」
  エドワード「ルイ!!(銃をルイに向ける。)」

         ライト・アウト。一発の銃声が響き渡る。

  エドワードの声「ルイ・・・俺達に・・・来世はないんだ・・・」

    ――――― 第 14 場 ――――― B

         紗幕前。アンソニーとリーザ、フェード・イン。
         寄り添うように。

  アンソニー「(銃声で2人の死を悟り。)エド!!ルイ!!・・・」
  リーザ「・・・アンソニー・・・」
  アンソニー「・・・俺は何時も一人だった・・・。何時の時代を生き
         た時にも・・・幾度、春が巡ってこようと・・・たった一人
         で生きて来た・・・。それが当たり前かのように・・・。
         そんな時、エドワードやルイに出会ったんだ・・・。彼ら
         は何も言わず、俺を認めてくれた・・・。初めて受け入
         れてくれる奴らに出会ったんだ・・・。今まで、疎外され
         続けて生きて来た俺を・・・初めて理解し・・・共に生き
         ようと・・・!!(言葉に詰まる。)」
  リーザ「(アンソニーの肩を抱くように。)これからは・・・私がいる
      わ・・・。何時も・・・あなたの側に・・・」

         音楽で暗転。


 

       ――――― “アンソニー”完結編につづく ―――――








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