2012年9月14日金曜日

“アンソニー” ―全16場― 3

         エリザベート、オードリー、マルガリーテ座る。
         ステラ、クレナ側へ立つ。

  エリザベート「こちらは隣家のマルガリーテ小母様と・・・」
  オードリー「娘のオードリーですわ!」
  アンソニー「(微笑んで。)全くこの村のご婦人方は、皆さん素敵
         な方達ばかりだ・・・。あ・・・失礼・・・。僕はアンソニー
         ・ヴェルヌ・・・。この二人は友人のエドワードとルイ。
         ヨーロッパ全土を旅して回る途中で、今は皆さんご存
         じの、この通りですよ。」
  オードリー「(溜め息を吐いて。)本当に、お噂通りのお方ですの
         ね。」
  アンソニー「噂・・・?」
  オードリー「ええ、村中の噂ですのよ。シャンドール家に滞在為
         さってるお客人は、世にも稀な美男子だと・・・。」
  アンソニー「それは参ったなぁ・・・」
  エリザベート「元を辿れば、ステラとクレナが言い触らしたような
          ものですけど。」
  ステラ「あら、嫌だわお姉様。言い触らしただなんて。」
  クレナ「そうよ。ただ黙ってることが出来なかったのよ、嬉しくて。
      こんな素敵なお客様が、我が家にいることが!!」  
  オードリー「(アンソニーに近寄って、マジマジと見詰め。)けど、
         本当にクレナ達の気持ちが分かってよ・・・」
  マルガリーテ「これ、オードリー!はしたないですよ!!」
  オードリー「(ハッとして。)あら・・・ごめんなさい・・・。」
  アンソニー「(微笑んで。)構わないですよ。僕の方こそ、そんな
         風に思ってもらえて光栄です。」
  オードリー「(エドワードとルイを見て。)それにお友達の方も、
         何れ劣らぬ美男子・・・。本当に、家に来て下されば
         良かったのに!!」
  エリザベート「あら、駄目よ!!」
  エドワード「あの時は、一刻も早くアンソニーを休ませたかった
         もので、兎に角一番初めに目に付いた、この屋敷の
         ドアを叩いたのです。」
  アンソニー「本当に感謝していますよ、エリザベート・・・。本来な
         らば、楽しいだけの旅先で、怪我をするなどと、全く
         とんだ失態です。」
  エリザベート「でも回復が早くて、驚きましたわ。あの時は本当
          に今にも死にそうなご様子でしたから・・・」

         エドワード、ルイ、そっと顔を見合す。

  アンソニー「こう見えても僕は昔から、体力には自信がありまし
         たからね。(笑う。)」
  ルイ「(笑って。)そうそう!昔からこいつときたら、クラス中の奴
     らが風邪で休んだとしても、たった一人でピンピンしている
     ような男でしたよ。」
  マルガリーテ「学生時代からのお友達?大変仲がお宜しいのね
           。」
  アンソニー「ええ。腐れ縁と言う奴ですよ。」
  ルイ「酷いな。(笑う。)」
  アンソニー「(微笑んで)まぁ、冗談はさて置き、2人は僕にとって
         は大親友と言った所でしょうか・・・。(エリザベートと
         オードリーの方を向いて。)あなた方も?」
  エリザベート「私達は正しく腐れ縁・・・。即ち犬猿の間柄、あなた
          方のように、大親友だなんてとんでも・・・」
  オードリー「そもそも私達の仲の悪さは、お互いの両親から受け
         継いだみたいなものなんです。」
  マルガリーテ「まぁ、私達のせいにされちゃあ困るわ。」
  エリザベート「今日だって、呼びもしないのに、オードリーがどうし
          てもアンソニーに会いたいと無理矢理・・・」
  オードリー「無理矢理ですって!?見せびらかす為に呼んだの
         は誰よ!!」
  マルガリーテ「オードリー!」
  アンソニー「(微笑んで。)喧嘩をする程、仲が良いと言うでしょう
         。そう言う間柄程、お互い気付かないうちに、お互い
         を認め合っているものなんですよ。それで、知らず知
         らずのうちに、相手を必要としている・・・。良い関係
         だと思いますよ、とっても・・・。」
  エリザベート「今までオードリーのことは、そんな風に思ったこと
          ありませんけど、あなたに言われると、何だか本当
          にそんな気がしてきますわ・・・。」
  オードリー「本当・・・」
  ステラ「まぁ、アンソニーに言われると、意見まで合うのね。」
  アンソニー「(何か思いついたように。)そうだ!みんなで鬼ごっ
         こでもしましょう!」
  エドワード「アンソニー!!」
  アンソニー「(エドワードの声は耳に入っていないように。)じっと
         してばかりいると、体が鈍ってしまいそうですよ。」
  オードリー「でも傷は・・・」
  アンソニー「大丈夫!少しくらい運動した方が傷にもいいんです
         よ。さぁ、僕から鬼です!20数える間に、みんな逃
         げて下さいよ!!」

         オードリー、エリザベート、マルガリーテ、
         ステラ、クレナお互いの顔を見合わせる。

  エリザベート「それじゃあ・・・」

         5人、其々頷いて嬉しそうに声を上げて、
         散々に部屋から走り去る。

  アンソニー「(大きな声で。)1、2、3・・・さぁ、おまえ達も逃げろ
         よ!」
  エドワード「一体何考えてるんだ、おまえは・・・」
  アンソニー「こんな所に座って、うだうだ話すのは嫌なんだ。あ
         れこれ根掘り葉掘り自分のことを探られてるようで・・
         ・。学生時代からの腐れ縁とは、よく言ったな・・・。(
         笑う。)」
  エドワード「アンソニー・・・」
  アンソニー「19、20!!(エドワードに飛び掛かる。)摑まえた
         !!次はおまえが鬼だぞ!!来い、ルイ!!(部屋
         から走り去る。)」
  ルイ「OK!!(アンソニーに付いて、走り去る。大きな声で。)
     次はエドが鬼だ!!」
  エドワード「(呆然と2人が出て行ったドアを見ている。)・・・全く
         、仕方ないな・・・。けど、何で俺が・・・くそう!!」

         エドワード、ドアから走り去る。
         音楽でフェード・アウト。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         フェード・インする。と、絵紗前。
         リーザの部屋。
         中央に設えたベットの上に、リーザ、腰を
         下ろしている。
         一寸離れてミシェル立つ。

  リーザ「それで、学校の方はどう・・・?」
  ミシェル「どうもこうも、姉さん。相変わらずベア先生ときたら、皆
       に受けないようなジョークばかり飛ばして、酷いもんさ!
       おまけに、笑わない者には、決まって他の奴より宿題が
       多いときたら、皆可笑しくなくても、笑うしかないだろ?
       全く、ベア先生の授業は、拷問にでもかけられてるみた
       いだよ。」
  リーザ「(楽しそうに笑う。)まぁ・・・それであなたは?」
  ミシェル「決まってるさ、皆より一番!!・・・宿題が多い生徒さ
       ・・・残念ながらね。」
  リーザ「あら、でも皆より沢山、勉強が出来るんだもの、先生に
      感謝しなくちゃね。」
  ミシェル「冗談言ってら。それより、体の調子はどう?発作は?」
  リーザ「ありがとう、心配してくれて・・・。最近はとても具合がい
      いの。今日みたいに、ベットから起き上がれたり・・・窓を
      思い切り開けて、外の空気を吸ってみたり・・・」
  ミシェル「(リーザの側へ寄って。)あまり無理しちゃ駄目だよ。ま
       た、いつ発作が起きるとも限らないんだ。僕が来てる時
       ならまだしも、一人の時には・・・」
  リーザ「分かってる。(微笑んで。)ミシェルは優しいのね・・・。」
  ミシェル「昔・・・僕が好奇心からこの部屋のドアを開かなかった
       ら、僕は姉さんの存在に気付くことはなかった・・・。あの
       時から子ども心に、この部屋に囲われていた姉さんの、
       僕はナイトにならなけりゃ・・・って、そう思ったんだ。」
  リーザ「ミシェル・・・私はあなたが時々訪ねて来てくれるのが、
      とても嬉しいわ・・・。あなたの話しを聞いて、あれこれ想
      像出来るのが、とても楽しくて・・・。ありがとう・・・。」
  ミシェル「そんな・・・。けど、最近は学校が忙しかったりして、中
       々会いに来れなくて・・・ごめんよ・・・。」
  リーザ「(首を振る。)あなたにはあなたの生活が一番大切よ・・・
       」
  ミシェル「姉さん・・・」

         外から、娘達の楽し気な笑い声が、遠くに
         聞こえてくる。
         リーザ、ミシェル、扉の方へ顔を遣る。

  ミシェル「まただ・・・」
  リーザ「旅の途中に、お怪我為さって立ち寄られたお客様?」
  ミシェル「(頷く。)全く、あんな大怪我をしておきながら、一週間
       やそこらで鬼ごっこが出来るまでに回復するなんて、
       本当、強靭な体力の持ち主だよ。おまけにご婦人方の
       持て成し方が、凄く上手いんだ。まぁ、それだけで姉さん
       達がキャーキャー騒いでる訳じゃないんだけど・・・。(思
       い出したように腕時計を見て。)あ・・・姉さん、ごめん!
       !今日は午後から授業があったんだ!!もう行かなけ
       りゃ・・・」
  リーザ「いいのよ。(微笑む。)」
  ミシェル「また来るよ!!(急いで、ドアの方へ。)余り無理しちゃ
       駄目だよ!!」

         ミシェル、そっと扉を少し開いて、外の
         様子を覗くように。誰もいないのを確認
         して、リーザに手を上げ、さっと出て行く。
         再び、外から笑い声。リーザ立ち上がって
         窓の側へゆっくりと進む。
         その時、突然扉が開き、息を弾ませた
         アンソニー飛び込んで来る。
         アンソニー、リーザ其々お互いを見詰め、
         驚いた面持ちで立ち尽くす。

  アンソニー「あ・・・すまない!!」
  リーザ「(首を振る。)あ・・・(突然苦しそうに胸を押さえて座り込
      む。)」

         アンソニー、リーザのその様子に、ゆっくりと
         近付き、そっと自分の胸に抱き寄せる。
         暫くすると、リーザの発作は治まる。

  リーザ「(自分自身、体のその変化に驚いたように。)私・・・」
  アンソニー「大丈夫かい?」
  リーザ「(頷く。)」
  アンソニー「(リーザの手を取って立たせてやり、ベットの上へ腰
         を下ろさせる。)この部屋の扉は、決して開けてはい
         けない・・・そう言う風に言われていたけど・・・。」
  リーザ「(一瞬、悲しそうな面持ちになる。)・・・そう・・・」
  アンソニー「この家の人達は、こんなに美しい娘を、自分達以外
         の者の目に触れることを拒絶してたのかな・・・?」
  リーザ「・・・そんな・・・。(ゆっくりと。)この家の人達にとって、私
      は邪魔者以外の何者でもありません・・・。」
  アンソニー「如何してそんな風に・・・?よかったら話してみない
         か?あ・・・決して怪しい者じゃないんだ。僕はアンソ
         ニー・ヴェルヌ・・・一週間前・・・」
  リーザ「存じてますわ・・・。怪我を為さって、家で養生されてた
      お客様ですわね?」
  アンソニー「その通り・・・。君は・・・?」
  リーザ「私はこの家の娘で、リーザと申します・・・。」
  アンソニー「この家の娘・・・と言うことは、エリザベート達とは姉
         妹に?」
  リーザ「はい・・・。血はつながってませんけど・・・。」
  アンソニー「血はつながっていない・・・とは?」
  リーザ「私の本当の母は、私が小さい頃に亡くなりました・・・。
      エリザベート達は、今の母の連れ子だったんです・・・。」
  アンソニー「成る程・・・」
  リーザ「末のミシェルだけは、その後に生まれた子ですから、血
      のつながった姉弟と言うことになりますけど・・・。」
  アンソニー「それで、君は・・・みんなに疎まれていると・・・?」
  リーザ「(淋しそうに微笑む。)・・・さっき、あなたもご覧になった
      でしょう・・・私は生れつき体が弱くて、みんなに迷惑ばか
      りかけてきたんです・・・。」
  アンソニー「じゃあ、ずっとここで・・・?」
  リーザ「はい・・・。この部屋の中だけが私の世界・・・。この窓か
      ら見える風景だけが私の外の世界・・・。ミシェルが時々、
      みんなに隠れて、会いに来てくれるんです。それで色々
      自分が経験してきたことなんかを、私に話してくれるわ・・・
      。あの子の話すことが私の全て・・・。私・・・この家の者以
      外の人に会ったのは、あなたが初めて・・・。(嬉しそうに
      微笑む。)さっき、あなたが飛び込んで来た時、余りにも
      あなたが健康的で眩しくて・・・まるで、天使が舞い降りて
      来たようだった・・・。思わず息を飲んで、言葉も出なかっ
      たわ・・・。」
  アンソニー「・・・天使・・・?僕が・・・?」
  リーザ「ええ・・・天の国から舞い降りて来た、黒髪の天使・・・」
  アンソニー「・・・リーザ・・・。これからは、僕も出来る限り君に会
         いに来よう・・・。それで、僕が色々と見聞きしてきた
         ことを、君に教えてあげよう・・・。」
  リーザ「え・・・?」
  アンソニー「君の知らない世界の話しをしてあげよう・・・。屹度
         ミシェルよりもずっと沢山の話しをしてあげられると
         思うよ・・・。」
  リーザ「でも、家の者達に見つかると・・・」
  アンソニー「大丈夫。君も言っただろう?僕は天使だって・・・。
         羽根を持つ者は、何処からだってやってこれる・・・。
         そうだ。(窓から外を見て。)この森の奥に、とても素
         敵な場所がるんだ。辺り一面の花畑!ここへ来る途
         中、見つけた・・・。小鳥達が囀り・・・蝶達が舞う・・・。
         今度、連れて行ってあげよう!」
  リーザ「(悲しそうな顔付になる。)アンソニー・・・あなたのその
      お気持ちはとても嬉しいわ・・・。でも私は・・・外に出るこ
      とは・・・」
  アンソニー「(微笑んで。)大丈夫・・・僕の力を、君に分けてあげ
         るから・・・」
  リーザ「あなたの・・・力・・・?」
  アンソニー「そう、僕の力だ・・・」











       ――――― “アンソニー”4へつづく ―――――









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