2012年9月9日日曜日

“未来への扉” ―全9場― 4

  トレイシー「(2人に気付いて。)いらっしゃいませ。(ジョーイに
         向かって。)飲んで行く?それとも帰る?」
  ジョーイ「・・・今日は真っ直ぐ帰ることにするよ・・・。なんだか、
        アレックスの顔を、まともに見ることが出来ないような
        気がするからね・・・。」
  トレイシー「そう・・・。じゃあね。(エンゼル達の方へ行こうとする
         。)」
  ジョーイ「トレイシー!!」
  トレイシー「(振り返る。)」
  ジョーイ「あの・・・!!(何か言い掛けて、言葉に詰まるように。
        )」
  トレイシー「もう・・・何も言わなくていいから・・・。(微笑む。)
         さよなら・・・。」
  ジョーイ「・・・ありがとう・・・」
  
         ジョーイ、トレイシーから視線を捥ぎ取るように、
         だがその顔付きは、何か晴々と下手へ去る。

  ヘンリー「(椅子を引いてエンゼルに勧め、自分も座る。近寄っ
        て来たトレイシーに。)僕には水割り・・・それから、
        この人には何か、口当たりのいい軽いカクテルを・・・。
        」
  トレイシー「はい。」

         トレイシー、下手奥へ去る。

  ヘンリー「フランシス、どうです?中々感じのいい店でしょう。僕
        も余り、この裏通り界隈には、足を運んだことはなかっ
        たのですが、この間、偶々部下に誘われましてね。
        余り気乗りはしないなぁ・・・と思いながらも、断る理由
        もなく、付き合ったんですよ。ま、お陰でこんな場所の
        割には、素敵な店を知ることが出来て、よかったので
        しょうけどね。(笑う。)いやぁ、それにしても今日の
        映画は、中々ロマンチックでしたね。あんな映画は、
        あなたのような美しい女性と、2人で見に行ってこそ
        堪能できると言うものです。(下を向いたままのエンゼ
        ルに気付いて。)どうしました?気分でも優れません
        か?」
  エンゼル「(下を向いたまま。)・・・いいえ・・・。」
  ヘンリー「そうですか?」
  エンゼル「・・・あの・・・(ヘンリーを見て。)私、もうそろそろ帰ら
        なければ、父や母が・・・」
  ヘンリー「ああ、それなら大丈夫ですよ。今日はお父様、お母
        様にはちゃんとお許しを頂いてありますから。映画を
        見た後、一流ホテルでディナーを取り、その後は美味
        しいお酒を頂いて・・・さぁて、その後は・・・予約して
        ある夜景の綺麗なホテルで・・・。」
  エンゼル「え・・・?(思わず驚いた表情で、ヘンリーを見詰める
        。)」
  ヘンリー「(笑って。)冗談ですよ。お許しを頂いているのは、
        ここまでです。お酒を1、2杯付き合ってもらった後は、
        ちゃんと家まで送りますから、そんな心配そうな顔は
        なさらなくていいですよ。僕はね、フランシス、父や母
        にとても感謝しているのです。あなたが生まれた時、
        直ぐにあなたが僕の者になるように、お膳立てをして
        おいてくれたことに・・・。あなたは如何ですか?」
  エンゼル「(下を向いて。)・・・私は・・・」
  ヘンリー「(笑って。)恥ずかしがらなくてもいいですよ。」

         その時トレイシー、盆の上にグラスを2つ乗せて
         下手より登場。

  トレイシー「お待たせしました。(其々の前へ、グラスを置く。)」
  ヘンリー「このカクテルは?」
  トレイシー「この店のバーテンダーが考えたもので、先日、賞
         を取ったカクテルなんですよ。お酒が余り強くない
         お嬢さんにでも、飲みやすい甘口になっています。
         名前は“エンゼル”・・・。どうぞ、ごゆっくり・・・。
         (一礼して下手へ去る。)」
  エンゼル「・・・エンゼル・・・(グラスを手に取る。)・・・キラキラ
        光って、綺麗な色・・・。(回りを見回して、下手方を
        一時見詰める。)」
  ヘンリー「何か?」
  エンゼル「・・・え?いいえ・・・。(グラスを目線まで高く掲げて、
        向きを変えてみる。)あ・・・色が変わって見えるのね
        ・・・見る方向によって。ライトの加減があるのかしら
        ・・・?綺麗ね・・・。(嬉しそうに微笑んで、ヘンリーを
        見る。)」
  ヘンリー「やっと笑顔を見せてくれましたね。」
  エンゼル「え・・・?」
  ヘンリー「(片手でグラスを弄ぶように。)今日のあなたは・・・
        いや、今日に限った訳じゃない。僕と2人でいる時の
        あなたは、丸で笑顔を忘れてしまっているようだ・・・。
        あなたの気持ちが分からないでもない・・・。ついこの
        間まで、顔も全く知らなかった赤の他人が、数日後に
        はもう夫と呼ばれるのですからね。だけど、あなたも
        大財閥の御令嬢なら、そろそろ覚悟を決めて下さい。
        何も僕を、今直ぐ愛せと脅している訳ではありません。  
        少しずつ自分の置かれている状況を、受け入れ歩み
        寄る努力をしなければ、何も変わらないと思うのです。
        僕だって最初は、戸惑いも躊躇いもありましたよ。
        だけど、初めてあなたと会った時から、こんな美しい
        人と一緒に暮らせるのは、幸せだと思うことに決めた
        のです。ようは心の・・・気持ちの持ち方次第で、これ
        からのあなたの人生、良くも悪くもなると言うことです。
        我が家もあなたの家とは、何れ劣らぬ名門旧家だ。
        お金には一生苦労することはないでしょう。ただそれ
        だけあれば、他には何もいらないと言うものでもない
        が・・・。さ・・・もう今日は帰るとしましょう。そして、今日
        僕の言ったことを、一度ゆっくり考えてみて下さい。
        これからのあなたの人生にとって、何が一番得策かを
        ・・・。そして何をすべきかを・・・。(グラスの酒を一気に
        飲み干し立ち上がる。)結婚とはビジネスですよ。」
  エンゼル「(ゆっくり立ち上がる。)・・・ビジネス・・・」

         エンゼル、スポットに浮かび上がり
         悲し気に歌う。

         “夢に描いた輝く未来は
         本当にただの夢なのかも・・・
         ただの私の心の空想・・・
         御伽の国の世界では
         誰もが主役であるように
         私の心の世界では
         小さい頃から見た夢が
         そのまま世界になるように
         何時までもこのまま夢の世界のまま・・・
         幸せな気持ちに包まれて
         ただ眠りたい・・・
         たとえ夢が夢で終わっても
         夢で終わるものならば・・・
         それならこのまま夢の世界のまま・・・
         ただ何時までも何時までも
         眠りたい・・・”

         遠くを見遣るエンゼルで、フェード・アウト。
         (音楽残して。)
        
    ――――― 第 5 場 ―――――

         紗幕前。
         アレックス(バックポーズ)から、フェード・イン。
         アレックス、両手をズボンのポケットへ突っ込み、
         俯き加減にゆっくり振り返り、歌う。

         “自分の考えしてきたことが
         他人からみれば
         たとえば馬鹿げたことかも知れない・・・
         だとすれば そこで他人を巻き込むことは
         決してしてはならないこと・・・
         今まで何の躊躇いも・・・
         迷いも持たずにただ真っ直ぐに
         自分の進むべき道と
         信じて歩いて来たけれど
         屹度それは自分だけが
         歩くべき道で・・・
         誰かがここにいて欲しいと願うことは
         決してしてはならないこと・・・
         たとえ今そのことが
         相手を傷付ける結果となっても
         未来で過去を振り返った時に
         一番最良の道だったと
         納得できるものだから・・・”

         そこへ上手より、クリスティーン悲し気に登場。
         アレックスを認め、近寄る。

  クリスティーン「・・・アレックス・・・」
  アレックス「(クリスティーンを認める。)クリスティーン・・・」
  クリスティーン「・・・本当に行ってしまうの・・・?」
  アレックス「・・・ご免・・・」
  クリスティーン「(涙声で。)・・行かないで・・・」
  アレックス「ご免、クリスティーン・・・。」
  クリスティーン「もう待てない・・・。もう限界なの・・・。何時も何時
           も、あなたが海に出て行ってから、戻るまでただ
           不安で・・・心配で・・・この気持ちを如何していい
           か分からないの・・・。」
  アレックス「・・・もう・・・待たなくていいから・・・。」
  クリスティーン「・・・え・・・?」
  アレックス「もう・・・俺の為に、君を縛り付けておくことは出来な
         い・・・。」
  クリスティーン「そんな・・・勝手よ・・・。」
  アレックス「・・・俺の我が儘だ・・・。何と言われたって仕方ない
         ・・・。だけど俺は、ここで夢を捨てて生きて行くことは
         出来ないんだ・・・。今まで・・・何度も危険な目に遭い
         ながら・・・それでも一つずつ達成させて来た・・・。そ
         うやって、過ごして来たもの全てを、今ここで全部捨
         ててしまうことは出来ないんだ・・・。」
  クリスティーン「私が・・・言っても・・・?」
  アレックス「(躊躇うように、ゆっくりと。)・・・君でなくても・・・誰に
         言われたって俺は・・・」
  クリスティーン「もう・・・私のこと愛していないの・・・?」
  アレックス「そうじゃないんだ・・・。」
  クリスティーン「だったら・・・何故・・・?」
  アレックス「たとえ今・・・君の言う通り、止めたとしても、俺は
         屹度再び海へ行く・・・。屹度生きている限り、俺の
         夢に終わりはないんだ・・・。だったら・・・もう・・・」
  クリスティーン「・・・別れるって言うのね・・・(下を向く。)」
  アレックス「・・・すまない・・・」
  クリスティーン「・・・今までの私は・・・一体何だったの・・・?
           今度こそは・・・もうずっと一緒にいれる・・・そう
           信じながら、何時も何時も待ってた私って一体
           ・・・何だったの・・・?」
  アレックス「・・・今までありがとう・・・。」
  クリスティーン「・・・そんな言葉をあなたから聞きたかったんじゃ
           ないわ!!さよなら!!」

         クリスティーン、下手へ走り去る。と、同時に
         上手よりジョーイ登場。

  アレックス「・・・クリスティーン・・・!!待って・・・!」
  ジョーイ「・・・今更呼び止めて、如何しようって言うんだ・・・。今
        更彼女に、何を言うつもりなんだ・・・。」
  アレックス「(振り返ってジョーイを認める。)・・・ジョーイ・・・」
  ジョーイ「(アレックスに近寄り見据える。)・・・今更ながら俺は、
        自分の浅はかな行いを悔いるよ・・・。何でおまえと、
        クリスティーンを引き合わせたりしたのか・・・ってな・・・
        !!(アレックスの頬を、思い切り殴る。)」
  
         アレックス、よろめいて膝を着く。

   アレックス「(フッと笑って立ち上がる。)・・・おまえに殴られて
          スッとしたよ・・・。サンキュ・・・。じゃ・・・元気でな
          ・・・。」

         アレックス、片手を上げて、上手方へ歩いて行く。

   ジョーイ「馬鹿野郎!!」
   アレックス「ああ・・・。(歩きながら。)」
   ジョーイ「死んじまえ!!」
   アレックス「ああ・・・。」
   ジョーイ「畜生!!何時立つんだ!!」
   アレックス「・・・今夜さ・・・」
   ジョーイ「アレックス!!」
   アレックス「(振り返らずに立ち止まる。)」
   ジョーイ「・・・殴って・・・悪かった・・・。」
   アレックス「(背を向けたまま笑って。)何、謝ってるんだよ、
          ばーか・・・。クリスティーンのこと、幸せにしてやっ
          てくれよ・・・。」

         アレックス、上手へ去る。
      
  ジョーイ「・・・アレックス・・・馬鹿野郎・・・馬鹿野郎!!(叫ぶ。
        )」

         音楽でフェード・アウト。(紗幕開く。)







     ――――― “未来への扉”5へつづく・・・―――――







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