2012年9月16日日曜日

“アンソニー” ―全16場― 5


    ――――― 第 10 場 ―――――

         絵紗前。村の洋品店。娘達、手に其々ドレス
         を持ち、嬉しそうに歌う。

         “舞踏会!舞踏会!
         村中挙げての盛大で豪華絢爛
         アンソニーに見初められる為に
         どの娘達よりも一番素敵に輝いて
         女王のようにドレスをまとい
         家中の宝石で飾りたて
         舞踏会!舞踏会!”

         娘達、其々ドレス選びに夢中になる。
         奥より登場した用品店店主ピエール、
         その様子を不思議そうに見詰める。
         横のソファーには腰を下ろして、新聞
         に見入るクリス。時々、娘達の様子に
         呆れたような視線を向ける。

  シャロン「あら、その色も素敵ね!ちょっと見せて!(ミレーヌの
        持っていたドレスを、手に掛ける。)」
  ミレーヌ「駄目よ!これは私が先に見つけたのよ!」
  シャロン「先に見つけたって、私の方が屹度似合うわよ!貸して
        !(無理矢理ドレスを取り上げる。)」
  ミレーヌ「酷い!!(脹れて他のドレスを探す。)」
  ピエール「お嬢さんには、こっちのドレスもお似合いですよ。」
  ミレーヌ「(チラッと目を遣って。)そうねぇ・・・」
  ピエール「全く・・・ここ暫くの店の繁盛の様子ときちゃあ・・・何か
        あるんですかい?」
  エリーズ「あるもないも、エドモン様のお屋敷で、今度の日曜日
        にこの村始まって以来と言われる、盛大な舞踏会が
        開かれるのよ!」
  ピエール「へぇ・・・。あ・・・もしかして、シャンドール家のお客人
        の歓迎パーティですかい?」
  エリーズ「そう言うこと!」
  ピエール「あの世にも稀な美男子とか言う・・・」
  シャロン「彼に見初めてもらう為に、お洒落しなくっちゃ!」
  クレナ「(2枚のドレスを持って、クリスの方へ。)お兄様!こっち
      のドレスとこっちのドレス、どちらが私に似合うとお思いに
      なって?」
  クリス「(チラッと目を遣る。)さぁ・・・どっちでもいいんじゃないの
      かい?」
  クレナ「まぁ、お兄様!!頼りにならないのね!!」
  クリス「そんなことより、まだ決まらないのかい?(溜め息を吐い
      て。)一体、何日前までの新聞を読めばいいんだよ・・・。」
  ステラ「(ドレスを手に2人の側へ。)1ヶ月よ!!」
  クリス「1ヶ月!?」
  ステラ「クレナ!!このドレスに私の持っていた髪飾りで合うか    
      しら?」
  クレナ「そうねぇ・・・」

         クレナ、ステラ話しながら、クリスから離れる。

  クリス「(肩を窄めて。)1ヶ月ね・・・(再び新聞を広げる。)だけ
      ど、ここに1ヶ月前の新聞なんてないぜ・・・」    ※
  
         そこへアンソニー、エドワード、ルイ、戸を
         開けて、回りを見回しながら登場。
         (戸を開けると、呼び鈴の音。)

  ピエール「いらっしゃいませ・・・」
  アンソニー「こんにちは。」
 
         娘達、その声に驚いて一斉に戸の方へ。
         アンソニーを認めて駆け寄る。

  娘達口々に「伯爵様!!」
  アンソニー「やぁ・・・(微笑む。)皆さんお揃いで、お買い物です
         か?」
  ミレーヌ「え・・・?あ・・・(ドレスを背後に隠す。)・・・ええ・・・!」

         娘達、其々ドレスを隠すように。

  エリーズ「伯爵様は何をお求めに来られましたの?」
  アンソニー「洋服をね・・・(ピエールに向かって。)ご主人!少し
         ドレスを見せて頂きたいのですが・・・。」
  ピエール「はいはい、どうぞこちらへ。(ドレスの掛かっているハ
        ンガーを差し示す。)この辺りに・・・。」
  
         アンソニー、その方へ。エドワード、ルイ、
         ソファーに腰を下ろす。
         娘達、アンソニーに付いて行く。

  アンソニー「(ドレスを見る。)・・・もっとこう・・・違うものはありま
         せんか?いや・・・、ここに掛かっているものも素晴ら
         しいのですが・・・」
  ピエール「いえいえ、伯爵様はお目が肥えていらっしゃる。さぁ
        ご覧下さいまし。お気の済むまで!(横のカーテンを
        開く。)」

         カーテンの中に、豪華絢爛なドレスがずらっと
         掛かっている。
         娘達、そのドレスを認め、声を上げる。  

  アンソニー「そう、こう言うドレスを探していたのです。(その中
         の一枚を選び、取り出す。エドワード達の方へ向っ
         て。)おい、エドワード!ルイ!(ドレスを見せて。)ど
         うだ!?」
  ルイ「(笑って。)よく似合うぜ!」
  アンソニー「馬鹿野郎!!エドワード?」
  エドワード「(チラッと目を遣って。)いいんじゃないか・・・」
  アンソニー「何だ、気のない返事だな。(ドレスを見て。)よし、こ
         れを貰うとしよう。(ピエールの方へドレスを差し出す
         。)」
  ピエール「ありがとうございます。」
  アンソニー「他に、これに合うアクセサリーと靴を・・・。飛びっきり
         の品を!」
  ピエール「(嬉しそうに。)はいはい、只今!!」
  シャロン「伯爵様・・・そのドレス、如何なさるお積りですの?」
  アンソニー「(微笑んで。)・・・ある人に・・・」

         “まぁ!!””キャーッ!!”など、口々に
         驚きの声を上げる娘達を残して、紗幕閉まる。

  ステラ「ある人にですって!!」
  シャロン「一体誰に差し上げるのかしら!?」
  クレナ「屹度、パートナーに選ばれた女性に贈られるのよ!!」
  ミレーヌ「もうお心に決めたお方がいらっしゃるのかしら!?」
  エリーズ「お心に決めた!?」
  皆「一体誰!?(お互いの顔を見回す。)」

         音楽で暗転。

    ――――― 第 11 場 ―――――

         下手方スポットに、ジェラール、ミハエル、
         ルドルフ浮かび上がる。

  ミハエル「先生、次の村にはあいつらはいるんでしょうかね?」
  ルドルフ「足取りが分からなくなって、もう3週間・・・。あんなに
        深い傷を負っていた筈なのに、こんな遠くまで本当に
        逃げて来てるのかなぁ・・・」
  ジェラール「羽ばたきの遠ざかった方向から、こちらの方へ逃げ
         て来たのは間違いない筈・・・」
  ミハエル「羽ばたき・・・って、先生、変なこと言うんですね。(笑う
        。)」
  ジェラール「早く見つけなければ・・・。そしてこの手で決着をつけ
         なければ・・・。」
  ルドルフ「決着って・・・?」
  ジェラール「私が生きているうちに・・・」
  ミハエル「先生・・・」
  ジェラール「(2人をゆっくり交互に見ながら。)おまえ達は知って
         いるか・・・?トランシルバニアに伝わる、昔からの奇
         話を・・・」
  ミハエル「奇話って・・・?」
  ジェラール「今から数百年昔・・・その地方に絶世の美女と謳わ
         れた舞姫がいた・・・。その舞姫を巡って、幾多の男
         性達が、何度無意味な争いを繰り返そうとも、誰一
         人として、舞姫の心を射止めることはできなかった
         ・・・。そんなある時・・・一人の世にも稀な美男子と
         囁かれる伯爵が現れ、2人は忽ちそのお互いの美し
         さに惹かれ、恋に落ちた・・・。今までどんなに手を尽
         くしても決して心を開くことのなかった舞姫を、たった
         一目で我が者にしてしまった伯爵は、人々の反感を
         一手に引き受けることになり、数日後、誰とも分から
         ない者の手によって・・・その命を殺められてしまった
         んだ・・・。それを知った舞姫の悲しみは尋常ではなく
         、誰がどんな慰めの言葉を掛けようとも、彼女は決し
         て泣き縋ったその体から離れようとせず、とうとう明
         日は埋葬と言う前の日の晩、遅く・・・その伯爵の体
         の上で、自らの命を短剣で胸深く突き刺し、絶ってし
         まったのだ・・・。あくる朝、その惨状を見た人々の驚
         きようは、言葉では言い表せない程だったそうだ・・・。
         何故なら、その場には、前の日まで静かに眠ってい
         た伯爵の遺体はなく、自害した舞姫の亡骸だけが、
         静かに横たわっていたから・・・。そして、その舞姫の
         様子は、悲しみに暮れてはいても、昨日までの美しく
         輝いていた姿とは打って変って、体中の血液と言う
         血液が流れ出たでもなく、全て吸い尽くされでもした
         ように、丸で・・・干物のようになっていたと言うことだ
         ・・・。」
  ルドルフ「(顔を強張らせて。)・・・それで・・・その伯爵は・・・?」
  ジェラール「未だ嘗て分からない・・・」
  ミハエル「・・・けど・・・今の話しと・・・先生が奴らを追い続けてい
        ることと、何の関係が・・・?」
  ジェラール「何れ、おまえ達にも分かる時が来る・・・。何れ・・・」

         ジェラール、ミハエル、ルドルフ、フェード・アウト。
         入れ代るように、上手、アンソニー、エドワード、
         ルイ、フェード・イン。

  エドワード「(溜め息を吐いて。)アンソニー・・・余計な好奇心は
         出すなと言ってあっただろう・・・。こんなことは言いた
         くはないが、おまえ・・・あの娘に入れ込み過ぎじゃな
         いのか・・・?あんなドレスまで・・・。」
  ルイ「そうそう、あの後の村の娘達の騒ぎようったらなかったぜ
     。“あのドレスをどう為さるおつもりかしら!!”って。(笑う。
     )」
  エドワード「ルイ!!」
  アンソニー「彼女は俺のことを、天使のようだと言ったんだ・・・。」
  ルイ「(笑って。)天使?堕天使の間違いだろ?」

         アンソニー、ルイを一瞬見据える。

  ルイ「(ハッとして。)・・・ごめん・・・」
  エドワード「兎に角だ・・・。もう直ぐこの村へやって来て一月・・・
         奴らが追い付いて来ても、可笑しくない頃だ・・・。」
  アンソニー「分かっている・・・。長の滞在は命取りになることを
         ・・・。だが、俺は彼女を一人にすることが出来ない
         !!」
  ルイ「じゃあ、いっそのこと、仲間にしてしまえば?」
  エドワード「ルイ・・・軽々しくそう言うことを言うな・・・。幾等、仲
         間に入れたくても・・・彼女がそう望んだとしても・・・
         彼女の体が拒絶すれば、彼女はこの世の塵となり、
         消滅するんだ・・・。」
  ルイ「・・・ごめん・・・。確率は五分五分・・・か・・・。じゃあ、俺達
     は運が良かったんだな。(笑う。)」
  エドワード「・・・そう言うことだ・・・。」
  アンソニー「・・・一人がどう言うことか・・・。一人でずっといなけ
         ればならないことが、どんなに苦しいことか・・・俺に
         は・・・よく分かるんだ・・・。」
  エドワード「・・・アンソニー・・・」

         フェード・アウト。

    ――――― 第 12 場 ―――――

         豪華な音楽が流れてくる中、紗幕開く。
         と、舞台はエドモン邸。
         美しく着飾った男女、音楽に乗ってワルツを
         踊る。

  エリーズ「結局、伯爵様があのドレスをどう為さったか、分から
        ず仕舞いね。」
  ミレーヌ「本当!けれど見たところ、村の娘にプレゼントしたん
       じゃないってことは事実のようね。だって誰も、あの豪華
       な絹のドレスを身に纏っている者はいないんだもの。」
  シャロン「がっかりだわ・・・。」
  エリーズ「でも、この中の誰かがそのドレスを着て、伯爵様とワ
        ルツを踊っているのを見るよりはいいわ!」
  シャロン「そうね!もしそんな光景を見なくちゃならないのなら、
        私、屹度ショックで倒れてしまうわ!!」
  オードリー「(3人の側へ。)皆さん、何のお話し?」
  エリーズ「(オードリーに気付いて。)あら、オードリー。」
  ミレーヌ「いえね・・・伯爵様がお求めになったドレスの行き先は、
       何処なのかって・・・。」
  オードリー「そうねぇ・・・まさか・・・」
  ミレーヌ「え?」
  オードリー「まさかシャンドール家の誰かに・・・!?」
  シャロン「ああ、それなら大丈夫。さっき3人には会ったけれど、
        誰もあの豪華絢爛な衣装を身に着けた者はいなかっ
        たわ。」
  オードリー「(ホッとして。)そう・・・。で、当の伯爵様は?」
  エリーズ「それがまだお見えになってらっしゃらないみたい。」

         そこへ奥よりエリザベート登場。
         オードリー、逸早くエリザベートを認め、
         ドレスをたくしあげ駆け寄る。

  オードリー「エリザベート!!伯爵様は!?」
  エリザベート「あら、オードリー。それがここへ来る前、私が部屋
          へお迎えに上がった時には、もういらっしゃらなくて
          ・・・」
  オードリー「いらっしゃらない?そんな筈ないでしょ!?今日は
         伯爵様の歓迎パーティなのよ!?主役がいなくちゃ
         話しにならないじゃない・・・。」
  マルガリーテ「(オードリーの側に来て。)まぁまぁ・・・もっと落ち
           着きなさい、オードリー。」
  オードリー「(振り返ってマルガリーテを認める。)お母様・・・」
  エリザベート「今日の舞踏会を忘れる筈はないし・・・」

         その時、入口に正装したアンソニー、リーザを
         エスコートして現われる。2人の後ろに、
         エドワードとルイ立つ。リーザはアンソニーが
         洋品店で求めた豪華なドレスに身を包み、
         頬は興奮の為に少し紅潮している。嬉しそうに
         見回すリーザに、優しく微笑みかけるアンソニー。
         中にいた者、踊っていた者は止めて、アンソニー
         達を認め、一様に驚きの声を上げ、釘付けに
         なる。
         その人々の騒めきに気付いたエリザベート、
         オードリー達もその方を見、アンソニー達を
         認めただ驚く。

  オードリー「・・・伯爵様・・・」
  エリザベート「・・・リーザ・・・」
  オードリー「(エリザベートの体を揺する。)な・・・何よ・・・誰・・・?
         あの女・・・。」
  マルガリーテ「・・・確か・・・シャンドール家の亡くなった奥様の
           一人娘だった・・・」
  オードリー「え!?」

         クレナ、ステラ、エリザベートに駆け寄る。

  クレナ、ステラ「お姉様!!」

         エリザベート、凄い形相でその方を見据え、
         足早に立ち去る。
         クレナ、ステラ、慌てて後を追う。

  クレナ、ステラ「お姉様、待って!!」

         オードリー、アンソニー達の方を気にしながら、
         エリザベートを追うように去る。
         エドモン、ヴィクトリア、アンソニー達に近寄る。













       ――――― “アンソニー”6へつづく ―――――












    ※ 今の私なら、「100年前」と書いていたでしょうね^^;
      それで、アンソニー達の過去と、リンクさせる物語にして
      いると思います(^^)





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