2012年9月4日火曜日

“ダスティン” ―全4場― 4

   フランク「・・・半信半疑のまま、クリストファー様お2人に付いて
        来て・・・いつの間にか、それを信じるには十分の年月
        が立ってしまった・・・。段々と年老いていく自分の姿を
        見る度・・・私は何れこのまま死んでいくのがいいんだ
        と考えておりました・・・。一緒に行ける所まで行ければ
        、後は心置きなく残りの人生を静かに過ごせると・・・。
        だが・・・いつまで経っても、お2人は余りにも若過ぎる
        ・・・。見た目は勿論・・・考え方もあの時のまま・・・。私
        は、お2人と離れることができませんでした・・・。この
        歳になって、まさか永遠にこの世を徘徊することにな
        るなどと・・・考えもしなかったのに・・・。クリストファー
        様が持っていらっしゃった、例の薬の残りを飲まずに
        は、いられなかったのです・・・。お2人をほっては行け
        なかった・・・。今まで、何の頼みも望みも求めたこと
        はありません・・・。だが、今回だけはどうか・・・この者
        に係わるのはやめて頂きたい・・・。このまま新しい場
        所へ参りましょう・・・。この者達が目を覚まさないうち
        に・・・。年寄りの頼みです・・・。この男からは危険な
        香りがするのです・・・。」
  マーガレット「いやよ!!折角、目の前に久しぶりのご馳走が眠
          ってると言うのに・・・!!」
  フランク「マーガレット様、お願いでございます・・・。今回はこの
        まま・・・」
  クリストファー「・・・行こう、マーガレット・・・。(十字架を、テーブ
           ルの上へ放り投げる。)」
  マーガレット「お兄様!!」
  フランク「クリストファー様・・・。」

         クリストファー、今まで十字架を握っていた
         手を見詰める。

  マーガレット「お兄様・・・?火傷・・・?」
  クリストファー「・・・こんなただの人間の、どこが心配なのかよく
           分からないが・・・。フランクがそれ程言うんだ・・・
           。マーガレット・・・行こう・・・また次の場所へ・・・。」
  マーガレット「・・・だって・・・」
  クリストファー「焦らなくても・・・僕達には、時間はたっぷりあるん
           だ・・・。」
  マーガレット「お兄様・・・。・・・ええ・・・分かったわ・・・。」
  フランク「クリストファー様・・・ありがとうございます・・・。そうと決
        まれば、少しも早く・・・。」

         フランク、マーガレット、ゆっくり下手へ去る。
         クリストファー、下手へ行きかけて、立ち止まる。

  クリストファー「(振り返る。)危険な香りのする男・・・か・・・。確か
           に顔はあいつに瓜二つかも知れないが・・・。(フッ
           と笑う。)見れば見る程・・・憎らしい位にそっくりだ
           ・・・。まさか・・・ね・・・。(行きかける。)」
  ダスティン「・・・何故、ただの人間だと思い込む・・・」

         クリストファー、驚いたようにダスティンを見る。

  ダスティン「(起き上がって。)俺の演技は完璧か・・・?(ニヤリ
         と笑う。)」
  クリストファー「・・・おまえ・・・まさか・・・」
  ダスティン「ご名答・・・。久しぶりだったな・・・。少しは正体を忘
         れて生きてきたのかと思えば・・・。おまえはまだまだ
         らしいな。こんな十字架ごときで火傷するようじゃあ
         ・・・。(十字架を手に取り、自分の首へ着ける。)・・・
         俺のせめてもの良心だ・・・。おまえ達のことは秘密
         にして置いてやろう・・・。本当なら、新聞に書き立て
         てもいいんだが・・・。(笑う。)長い年月を経て、俺も
         少し丸くなったのさ。まぁ、俺がおまえ達の正体を
         態々暴かなくても、バレるのは時間の問題のようだ
         しな・・・。(ケビンを見て。)こんなトロイ人間にまで、
         疑われてるんじゃ、これから先も身を隠して生きて
         いくしかないぜ・・・。この文明社会に乗り遅れたまま
         で・・・。(笑う。)」
  クリストファー「・・・文明社会に乗り遅れる・・・?人の目を避け
           てしか生きれなくしたのはあなたじゃないか!!
           」
  ダスティン「やれやれ・・・。俺は言った筈だぜ?生きるも死ぬも
         おまえの考え次第だと・・・。それを俺のせいにされ
         ちゃ、適わないな・・・。」
  クリストファー「あなたが・・・」

         音楽流れ、クリストファー、ダスティン、スポットに
         浮かび上がり、呼応するように歌う。

    クリストファー“遠い過去を捨てて
             永遠に続く未来を見詰めたまま
             戻ることもできず
             進む行く手は閉ざされた・・・
             果てしない虚しさが
             ただ心の中を支配する・・・”

    ダスティン“遠い過去は捨てた
           永遠に広がる自由と引き替えに
           自分の選択と決定
           すべては己の決めた道・・・
           誰にも変えられない
           ただ歩き続けるだけ・・・”

  クリストファー「あなたは・・・あなたはそれで幸せだと言うのか
           ・・・!?これがあなたの求め手に入れた、本当
           の自由だと・・・!!」

    クリストファー“僕には分からない!!
             今も過去に囚われ夢見・・・
             憧れ生きた日々が・・・”

  クリストファー「こんなのが自由だと言うなら、僕は自由なんて
           いらない!!誰かに束縛された人生の方が、
           余っ程ましだ!!」
  ダスティン「じゃあ何故、あの薬を飲んだ!!おまえが今ある
         この状況を作り出したんだ!!全ては自分が選んだ
         道じゃないか!!」
  クリストファー「・・・僕には・・・守りたいものがあったんだ・・・。あ
           なたのように、一人勝手に好きなことだけを・・・
           自分の楽しみの為だけに、ただ時間を無意味に
           費やして、長い時を生きて・・・いや違う・・・生きて
           なんていない・・・。こんなのは生きてるなんて言
           わないんだ!!あなたは死んだ時間に囚われて
           いるだけなんだ!!僕とは違う!!」
  ダスティン「煩い!!何とでも好きに言えばいいんだ。そうやっ
         て一生・・・永遠に後悔に縛られてろ!!俺はおまえ
         の泣きごとなんかに興味はない!!そして、さっさと
         俺の目の前から消え失せろ!!できれば・・・二度と
         会いたくないね!!」
  クリストファー「そんな風にしか考えられないあなたは・・・本当
           の幸せを知らないまま、これからも永遠に彷徨い
           続けるんですね・・・。さよなら・・・。」

         クリストファー、下手へ去る。

  ダスティン「(クリストファーが去るのを見計らって。)長い時を経
         てもなお・・・人間の心を忘れていないおまえを見て
         いると・・・思い出したくない過去を思い出す・・・。遠い
         昔・・・永遠の自由と引き換えに・・・自分の全てを悪
         魔に売り渡した・・・ただの愚かな人間だった頃のこと
         を・・・。」

         ダスティン歌う。

         “遠い過去を捨てて
         永遠に続く未来を見詰めたまま
         戻ることもできず
         進む行く手は閉ざされた・・・
         果てしない虚しさが
         ただ心の中を支配する・・・”

         暗転。

   ――――― 第 4 場 ―――――

         音楽流れ、舞台明るくなる。
         上手より一人の少女、楽しそうに走り登場。

  少女「(上手方を見て。)おじいちゃま!!おじいちゃま!!
      ケビンおじいちゃま、こっちよ!!こっち!!早く!!」
  
  ケビンの声「待ちなさい・・・待ちなさい・・・。そんなに走ると危な
          いぞ・・・。」

         上手より一人の白髪の老人(ケビン)、杖を
         つきながら、ゆっくり登場。

  ケビン「(ケビンに走り寄り、手を引っ張る。)早く行かないと、
       マジックショーが始まってしまうわ!!」
  ケビン「慌てんでも、マジックショーは逃げたりせんよ・・・。大体
       マジックなんてものは、ただのまやかしじゃ・・・。そんな
       ものに、金を払って態々喜ばんでも、この世の中には
       もっともっと不思議で奇妙なことが、実際色々とあるも
       んじゃ・・・。」
  少女「不思議で奇妙なこと?」
  ケビン「ああ・・・。そう言えば、わしも遠い昔・・・夢か幻か分から
       ない・・・奇妙な体験をしたことがあったの・・・。」
  少女「どんな?」
  ケビン「・・・そうじゃなぁ・・・あれはわしがまだ・・・」
  少女「(下手を見て。)あっ!!みんなが走って行くわ!!もう
      始まるのね!!私、先に行くからケビンおじいちゃまは、
      後からゆっくりいらしてね!!そのお話しは帰ってから
      じっくり聞くわ!!」

         少女、下手へ走り去る。

  ケビン「あ・・・これ!!待ちなさい、これ・・・!!全く・・・子ども
       と言うのは、目の前の楽しみには我慢と言うものを知ら
       ないものじゃの・・・。折角、わしの奇妙な話しを・・・。
       まぁ、今の子には吸血鬼やフランケンシュタインの話し
       より、マジックショーの方がいいじゃろうて・・・。そうそう
       ・・・あの後、先輩と慣れ親しんでおった人は仕事を辞め
       ・・・今はどこでどうしているやら・・・生きているとも分か
       らない・・・。風の便りで聞くところによれば、その後先輩
       は、森のへき地と呼ばれるような、人里離れた場所を好
       んで、選び暮らしていたと言う・・・。あれから60年か・・・
       生きていればもう、100歳近くになる筈じゃ・・・。(首を
       振り。)恐らくはもう・・・。」







    ――――― “ダスティン”エンディングへつづく ―――――








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