2012年9月8日土曜日

“未来への扉” ―全9場― 3

  アレックス「おまえが言っても、聞くような親じゃないとすると、
         赤の他人の俺なんかが言ったところで、聞く耳は
         持たないだろう・・・。けど・・・そんな力でよければ、
         幾等でも貸してやるぜ・・・。」
  エンゼル「アレックス・・・」
  アレックス「一緒に行ってやるよ。それで駄目なら、また考えれ
         ばいい・・・。そうだろ?」
  エンゼル「・・・本当に・・・一緒に・・・もし今・・・そこにいたら・・・
        その時に私のことを知ってたら・・・本当に一緒に行っ
        てくれた・・・?」
  アレックス「ああ・・・。(微笑む。)」
  エンゼル「・・・本当に・・・」
  アレックス「帰ったら、一緒に行こう・・・!」
  エンゼル「・・・ありがとう・・・」
  アレックス「別に礼なんていらないよ・・・。俺自身・・・もう少し早 
         く・・・人の為を考えられる余裕が持てる人間になれ
         てたら・・・あいつに悲しい思いをさせることもなかっ
         たんだ・・・。それこそ俺の単なる我が儘だったんだ
         ・・・。」
  エンゼル「・・・あいつ・・・?」
  アレックス「・・・ああ・・・さっきも考えていた・・・。あいつが何時も
         どんな気持ちで、俺の帰りを待っていたか・・・。何故、
         もう少しあいつの心の内を、察してやれなかったんだ
         ろう・・・って、後悔ばかりだ・・・。まだ未練があるとか
         ・・・そんなことじゃないんだ・・・。俺はあいつを幸せに
         してやることができななったけど、あいつには心から
         幸せになって欲しい・・・。本当に俺とは正反対の・・・
         あいつは人のことを考え過ぎる奴だったよ・・・。次の
         航海が決まったと言った時・・・あいつはもう待てない
         と言ったんだ・・・。目に涙を一杯溜めて、俺の方を
         一度も見ないまま・・・ただ、もう限界だと・・・だから
         行かないでくれと言ったのに俺は・・・あいつより夢を
         取ったんだ・・・。」
  エンゼル「・・・愛していたから・・・突き放したんでしょう・・・?
        彼女の幸せの為に・・・。」
  アレックス「・・・そんな格好良いものじゃないさ・・・・」
  エンゼル「いい人ね・・・。」
  アレックス「(フッと笑って。)冗談だろ?(両手をポケットへ突っ
         込み、ゆっくり後方へ。彼方を見詰める。)」

         エンゼル振り返り、アレックスを暫く見詰める。
         ゆっくり俯き加減で正面へ。瞳を閉じて両手を
         胸で組む。

  エンゼルの声「・・・私には分かる・・・。あなたの声が聞こえる
           ・・・。でも・・・ここへ来た直ぐに比べると・・・何か
           ・・・吹っ切れた・・・?(目を開けて、再び振り返る
           。)」
 
  アレックス「(振り返って。)ここは本当に、南の孤島なんだな・・・
         。船一艘通らない・・・。(再び後方、海を見て。)この
         広く青い海を見ていると・・・人が生き続けている意味
         は、誰の道であろうと・・・何の嘘偽りのない、確かな
         一つの真実の道なのだと、心から感じるよ・・・。たと
         え・・・助けが来なくて、一生このままであっても・・・
         これはまた一つの真実の道なのだと・・・。」
  エンゼル「そうね・・・。私が選んで歩んで来た道も、決して否定
        されるものではなかったかもね・・・。あの日々は・・・
        戻らないのだけれど・・・。」

         フェード・アウト。

  エンゼルの声「過ぎ去ったあの日々は、決して・・・戻らない・・・」
         
     ――――― 第 4 場 ―――――

         紗幕前。
         音楽で、下手スポットにクリスティーン、
         浮かび上がる。
         歌いながら、ゆっくり中央へ。

         “何故かしら 少しの不安が心を過ぎる
         真冬の隙間風のように
         あなたの思いが
         冷たく頬を撫で
         遥か彼方へ通り過ぎていく
         あれは夢だったのかしら
         それとも私の愚かな幻想・・・
         あなたの心は丸で空に浮かぶ
         あの白い雲のように
         決して掴むことが出来ずに
         少しずつ私から遠ざかっていく・・・
         ほんの一瞬の瞬きで
         あなたの心はもう形を変え
         私に背を向け走り出す
         何故かしら そんな不安が胸を掠める・・・”

         クリスティーン瞳を伏せ、上手へ去る。
         紗幕開く。
         と、開店前のアレックスの働く店。
         下手よりアレックス、ジョーイと話しながら登場。

  ジョーイ「一体、何考えてるんだよ!一体、この間の航海から
        どれだけここに留まってたって言うんだよ!!なのに
        また行くなんて!!3ヵ月だぞ!?たった3ヶ月・・・。
        なのに、もうクリスティーンをほったらかしにするなん
        て・・・!!おまえにとって一体彼女は何なんだよ!!
        おまえにとって、ヨットは彼女よりも大切だって言うの
        かよ!!」
  アレックス「俺は自分一人の手で、全世界の海を渡り歩くのが
         夢なんだ・・・。」
  ジョーイ「それにしたって・・・!!」
  アレックス「そりゃ、彼女を何時も一人にして悪いと思ってる・・・
         。何時も無線だけの会話は、俺だって正直辛いさ・・・
         。だけど、俺は俺の夢を達成するまでは、屹度、誰
         に何と言われたって、海へ出て行く・・・。そこが、今
         の俺が生活するべき場所だからだ・・・。海が俺を受
         け入れてくれる限り・・・。」
  ジョーイ「馬鹿馬鹿しい・・・!じゃあ一生、結婚なんて望めない
        じゃないか!?彼女が何時も、どんな気持ちでおまえ
        を見送っているのか知っているのか!?何時もここに
        取り残されて、再びおまえが戻ってくるその日まで、
        彼女が何を拠り所として生活しているか、おまえは分
        かってやれるのか!?何時も彼女が考え願い信じる
        ことは、今度こそは最後の航海なんだと言うことだ!!
        そんなおまえの戯れ言を、彼女は彼女なりの精一杯
        の気持ちで受け止め、笑って見送っているんだ!!
        なのに・・・!!」
  アレックス「ジョーイ・・・確かに・・・戯れ言だと言われても仕方
         ないだろう・・・。何年も親友をやってきたからって、
         俺の夢に同調してくれとは言わない・・・。多分、おま
         えと俺とは、求めるものが丸で違うものなんだ・・・。
         おまえが暖かな包まれたものの中に、心安らぐ何か
         を探し求めるのに対して、俺はその包まれたものの
         外に、限りなく広がる未知の世界に、自分の可能性
         を探し求めるんだ・・・。」
  ジョーイ「分からないよ!!おまえの言いたいことが!!」 ※
  アレックス「もし、俺の夢の為に、彼女が犠牲になるようなこと
         があるとすれば・・・彼女と俺が、共に歩いていくと
         言うことは、その時点でもう意味を持たなくなってし
         まうんだ・・・。何故なら、俺が彼女の人生を、束縛す
         ることなど、出来る筈もないのだから・・・。」
  ジョーイ「じゃあ、おまえは彼女よりも夢を取るって言うのか・・・
        ?・・・何時も・・・おまえはそうだ・・・。何時も自分の
        ことしか考えられないんだ・・・。おまえのことを思って
        る人間のことなんてどうでもいいんだ・・・。そうなんだ
        ろ!!」
  アレックス「・・・そうかも知れない・・・。もう開店の時間だ・・・。
         奥を手伝わなけりゃ・・・。じゃあ・・・。(下手へ去る。)
         」
  ジョーイ「アレックス!!(呆然と、アレックスの背中を見詰めて
        いる。アレックスが去るのを見計らって。)・・・何でなん
        だよ・・・何で・・・!?俺じゃ駄目なんだ・・・。おまえで
        なけりゃ駄目なんだ・・・なのに・・・。(握り拳を握り、
        下を向く。)」

         そこへトレイシー、話しを聞いていたように、
         上手よりゆっくり登場。

  トレイシー「・・・矢っ張りね・・・」
  ジョーイ「(トレイシーを認めて。)トレイシー・・・」
  トレイシー「私があなたに“愛してる”と告白した時・・・あなたは
         “ありがとう”と答えた・・・。その次に私が“付き合っ
         てくれる?”と聞いた時、あなたはOKしてくれたけど、
         暫く付き合っていることは内緒にしてくれるかな?
         と言った・・・。別に深い意味はないんだけれど・・・っ
         て、笑ってたわね・・・。矢っ張りクリスティーンのこと
         ・・・愛してたのね・・・。」
  ジョーイ「トレイシー!!違う・・・」
  トレイシー「(少し辛そうに。)・・・私はいいの・・・。少しの間だけ
         でも、大好きなあなたとデートが出来たり・・・。アレ
         ックスがこのお店で働くことになった時、私は“やった
         !”と思ったのよ・・・。親友のアレックスが、この店に
         いるんだもの、あなただってこれからは、ちょくちょく
         顔を見せてくれるかも・・・って・・・。」
  ジョーイ「トレイシー、違うんだ・・・!」
  トレイシー「・・・もう否定しないで・・・。私が惨めになるだけじゃ
         ない・・・。(無理に微笑む。)」
  ジョーイ「ご免・・・。君に辛い思いをさせるつもりなんて、これっ
        ぽっちもなかったんだ!!信じてくれ!!・・・君を本
        当に・・・愛せると思ったんだ・・・。だから・・・自身を
        持って、皆に君を愛しているから付き合うことにしたと
        言えるようになるまで、時間が欲しかった・・・。その
        ことで、君に余計な心配を掛けることになるなんて・・・
        考えもしなかったんだ・・・。」
  トレイシー「ううん・・・。(首を振る。)もう、いいの・・・。どちらに
         しても・・・あなたの気持ちが、私に向くことはないっ
         て、分かったから・・・。」
  ジョーイ「・・・アレックスに、クリスティーンの気持ちを考えてや
        れなんて・・・偉そうなことを言っておきながら・・・俺が
        一番君の気持ちを分かっていなかったんだな・・・。
        情けないよ・・・。」
  トレイシー「人間って・・・誰だって自分が気に掛けていることに
         、心がいくものよ・・・。それに、目の前に見えるもの
         に、つい一生懸命になるの・・・。だから私は、あなた
         の後ろにいたってこと・・・。けどアレックスは少し違
         うと思うわ・・・。アレックス、あなたにあんな風に言わ
         れて可哀相だった・・・。彼はあなたやクリスティーン
         のことを、とてもよく考えているもの・・・。何故、彼が
         住み込みなんてやって、この店に来たと思う?今ま
         で住んでたアパートは、あなたとクリスティーンの
         勤める会社から遠過ぎるって・・・。本当言ったら、
         もっと割のいい仕事もあったみたいだけど・・・。この
         店に決めたのは何故かしら・・・。」
  ジョーイ「・・・俺と君のことを・・・?」
  トレイシー「多分・・・ね・・・。それにひょっとしたら、アレックスの
         ことだもの・・・あなたの本当の気持ち・・・知ってるか
         もね・・・。」
  ジョーイ「・・・まさか・・・」
  トレイシー「この間の航海で、今また出発出来る程、お金なんて
         あるのかしら・・・。私には“そろそろ海が恋しくなった
         から・・・”なんて言ってたけど・・・。」
  ジョーイ「だけど・・・!」

         その時、上手よりエンゼル(フランシス)、婚約者
         のヘンリーにエスコートされるように登場。
         中央、テーブルの方へ。










      ――――― “未来への扉”4へつづく ―――――










     ※ ジョーイさんに同感・・・^^;

       もう、随分前に書いた作品の為、何か違うことを
       しながら(例えば音楽を聴きながら・・・とか(^^♪)
       、こうやって載せる為に“文字”を追っていると、
       長い文章などは特に、一体何を書いているのか、
       自分でも訳が分からなくなってくるのです~(^_^;)



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