2012年9月18日火曜日

“アンソニー” ―全16場― 完結編

  

         ――――― 第 15 場 ―――――

         紗幕開く。と、舞台はシャンドール邸の中。
         呼び鈴の音が激しく鳴らされる。
         奥より執事ヨハン、慌てて登場。扉の方へ。

  ヨハン「はい!!只今!!」

         ヨハン、扉を開けると、村人達なだれ込むように、
         家の中へ入って来る。

  ジェラール「アンソニー・ヴェルヌはいるか!!出て来い!!ア
         ンソニー!!今こそおまえを殺める時が来た!!」
  リチャード「アンソニー・ヴェルヌ!!」

         皆、口々にアンソニーの名を叫び、1階を
         捜し回る。
         ヨハン、その様子にオロオロと。
         奥よりエリザベート、クリス、その騒ぎに
         怪訝そうに登場。ミシェル、続いて登場。

  エリザベート「何ごとですの!?」
  クリス「一体如何したのです、皆さん揃って・・・」
  フィリップ「エリザベート、クリス!それが・・・!!」
  ジェラール「(エリザベート達の前へ進み出る。)あなた方が、こ
         の家の?」
  エリザベート「・・・ええ・・・」
  ジェラール「アンソニー・ヴェルヌは何処にいる・・・。」
  ミシェル「・・・彼が如何したのです・・・?」
  フランツ「落ち着いて聞けよ・・・。奴は・・・人間ではない!!」
  エリザベート「・・・何ですって・・・?」
  ミシェル「(引き攣った笑いを浮かべるように。)・・・人間じゃない
       って・・・?」

         と、その時、一発の銃声が響き渡る。
         村人達、一瞬顔を強張らせて、一斉に
         2階を見上げる。

  ミハエル「何だ・・・今の銃声は・・・!?」
  クリス「リーザの部屋からだ!!」
  ミシェル「・・・姉さん!?」
  エリザベート「一体何があったの!?」

         ミシェル、階段の方へ駆け寄り、上がろうと
         する。と、2階奥より、エドワードゆっくり登場。

  エドワード「・・・私を捜しているんだろう・・・?ジェラール。」
  ジェラール「・・・エドワード・・・アンソニーは・・・!?」
  エドワード「おまえの狙いは、飽く迄私の筈だ・・・。」
  ミシェル「姉さんは!?」
  エドワード「安心しろ、リーザはアンソニーに、生きる希望を見出
         したんだ・・・。(ミシェルに微笑みかける。)しかしジェ
         ラール・・・とうとう追い付いたな。(笑う。)全く・・・狙っ
         た獲物は逃さない・・・。そのしつこい性格は、私に似
         たのかな・・・?」
  ジェラール「(杭を握り締め、下を向く。)・・・お祖父さん・・・神様
         の定められた運命に逆らって生きることは罪なこと
         です・・・。父が亡くなる時に、初めてあなたのことを
         聞かされた・・・。その時、私は父は亡くなる前の幻覚
         から、そんな奇妙なことを口走っているのだと思った
         ・・・。だが・・・(絞り出すような声で。)父の葬儀の日
         ・・・人込みの間に、あなたの顔を見つけた時・・・体
         中に戦慄が走り・・・父の言ったことは正しかったと・・
         ・!!(顔を上げ、エドワードを見詰める。)あの日か
         ら、あなたの運命を正す為に、私は生きることを誓っ
         たのです!!」
  エドワード「(微笑んで。)その正義感溢れる態度は、私の妻・・・
         おまのお祖母さんにそっくりだ・・・。」

         エドワード。ゆっくり階段を下りて来る。

  エドワード「さぁ・・・もう私は何も思い残すことはない・・・。おまえ
         のその手で、この罪な体を終わらせてくれ・・・。」
  ジェラール「・・・お祖父さん・・・。」
  エドワード「だがジェラール・・・これだけは覚えておいてくれ・・・
         私は自分の運命に感謝していることを・・・。奴に巡り
         会え、同じ時を共有できたことに、心から幸せだった
         と・・・今は言い切れるんだと言うことを・・・!!」

         エドワード、ゆっくりとジェラールの前へ。
         ジェラールが手に持っている杭を、自分の
         胸へ突き立てる。

  エドワード「・・・私の為に・・・ありがとう・・・。」

         ジェラール、躊躇うように下を向いたまま、
         涙を堪え立ち尽くす。

  ジェラール「・・・お祖父さん・・・。」
  エドワード「(力強い声で。)さぁ殺れ、ジェラール!!自分の正
         しいと思った道を進んでここまで来たんだろう!!そ
         れならば、最後までその意志を貫き通せ!!そうし
         てこそ、我がパーカー家の人間だ!!」

         ジェラール、顔を上げエドワードを暫く見詰める。
         エドワード優しく微笑み頷く。ジェラール、杭を
         エドワードの胸に立て、もう一方の手に握って
         いた、きねを振り翳す。
         ライト・アウト。
         娘達の悲鳴が響き渡る。
         ミシェル、一人スポットに浮かび上がる。

  ミシェル「・・・あれは・・・決して忘れることの出来ない・・・誰にと
        っても思い出すのも躊躇されるような・・・出来事だった
        ろう・・・。エドワードは跡形もなく消え・・・駆け上がった
        2階のどの部屋にも、アンソニー達の姿はなかった・・・
        。僕にとって、そのことよりも何よりも、姉さんが・・・あ
        の時一緒にいなくなった姉さんが、如何なったのか・・・
        捜す術もなく・・・幸せで行ったことを信じ・・・願わずに
        はいられない・・・。」

         ライト・アウト。

  ミシェルの声「あの時生きた者で、今なお残っているのは私一人
          だけとなった70年たった今も・・・」

    ――――― 第 16 場 ―――――

         舞踏会の音楽が流れてくる。
         ライト・インする。と、舞台はシャンドール邸の広間。
         美しく着飾った男女、左右より手を取り合って登場。
         ワルツを踊る。途中、奥より孫娘マリーに手を引か
         れ、年老いたミシェル、ゆっくり登場。
         壁際の椅子へ腰を下ろし、微笑ましく回りを見回す。

  マリー「ミシェルお祖父様、シャンペンでも如何?」
  ミシェル「ああ・・・いや、今はいいよ。」
  マリー「こんなに盛大な舞踏会は初めてよ。何だかワクワクしち
      ゃうわ。(嬉しそうに。)」
  ミシェル「(マリーの顔を見上げて微笑む。)私のことはいいから
       、おまえも踊っておいで。」
  マリー「でも・・・」
  ミシェル「(横からマリーの方を見ていた青年を、チラッと見て。)
       ほら、おまえに相手を願っている青年が待ってるよ・・・。
       」
  マリー「(その方を見て。)まぁ・・・」
  ミシェル「さぁ、あまり待たせると可哀相だ。」
  マリー「はい、お祖父様!(嬉しそうに、その青年の方へ駆け寄
      り、踊りの輪に加わる。)」

         ミシェル、再び人々の踊りを見ている。
         と、曲に紛れるように微かにミシェルの
         名を呼ぶ懐かしく愛しい声が聞こえる。

  ミシェル「(少し不思議そうに、ゆっくり辺りを見回す。)・・・今・・・
       誰かに呼ばれたような気がしたが・・・。もう私も年だな
       ・・・。(フッと笑う。)だが・・・あの声は何処かで・・・。」

         ミシェル、あまり気にも止めない風に、
         再び踊りを見ている。と、その踊りの輪の
         中から、立ち止まり自分の方を見ている
         2人の男女に気付き、息を飲み思わず
         立ち上がる。

  ミシェル「・・・姉さん・・・!?」

         それは正しく、70年前に消えたその時の姿の
         ままのアンソニーとリーザであり、寄り添うよう
         に立った2人は優しく微笑んで、ミシェルを見詰
         める。音楽少し小さくなり、薄暗くなった舞台上
         スポットにアンソニーとリーザ浮かび上がる。
         回りには何も気にせず踊る人々。
         ミシェル、2人に駆け寄りたい思いに駆られ
         ながらも、足が進まないように一歩だけ踏み
         出し、2人を見詰める。
         その時、今度はハッキリとリーザの声が響き
         渡る。

  リーザの声「・・・サヨナラ・・・」
  ミシェル「姉さん!!」

         再び明るくなり、音楽大きくなる。アンソニーと
         リーザ、踊る人々の波に掻き消える。
         ミシェル、慌てて2人を捜すように中央へ。

  ミシェル「アンソニー!!姉さん!!(何故か安心したような微
       笑みを洩らす。)あれは・・・正しく姉さんだ・・・。それも
       あの頃のまま・・・屹度・・・幸せに暮らしていたに違いな
       い・・・。そしてこれからも・・・永遠に・・・」











            ――――― 幕 ―――――







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