2013年5月11日土曜日

“ドンのハッピーサンタクロース” ―全8場― 2

   夫「金でない・・・?とすると・・・一体・・・」
  サンタ「先ずは握手を・・・(手を差し出す。)」
  夫「はあ・・・(サンタの手を握る。)」
  サンタ「これで正式に契約は結ばれた。」

         夫婦、不思議そうにお互い顔を見合わせる。

  サンタ「(机の上のファイルの中から、1枚紙を取り出し、夫婦の
      方へ差し出す。)ほれ・・・」
  夫「(紙を受け取り。)・・・これが・・・何か・・・」
  サンタ「あんたはクリスマスの日の朝、一人の子どもにクリスマ
      スプレゼントを届けるのじゃ。」
  夫「プレゼント・・・?」
  サンタ「プレゼントの希望と、届ける場所はその用紙に書いてあ
      る。」
  夫「(紙を見る。)はあ・・・」
  サンタ「人が喜ぶ顔を見る・・・と言うのは、いいもんじゃよ。」
  夫「それが・・・お代・・・?」
  サンタ「ふむ・・・」
  妻「あの・・・私たちの占いは・・・」
  サンタ「おお、そうじゃった。(笑う。コソッと小声で。)いかん、い
      かん・・・つい自分の仕事を減らすことで、頭が一杯になっ
      ておったわ・・・(咳払いをして。)ゴホン・・・では、そなた
      達に、これをやろう・・・(机の上の大きな瓶の中から、何
      かを取り出し、2人の方へ差し出す。)」
  夫「(サンタの差し出したものを、受け取り見る。)これは・・・」
  サンタ「気分が晴れるキャンディじゃ。」
  夫「キャンディ・・・?」
  サンタ「そうじゃ。まあ、騙されたと思って、一口舐めてみるとい
      い。気分が晴れて、今まで悩んでおったことが、何てちっ
      ぽけで馬鹿馬鹿しいことじゃったか・・・分かると思うぞ。」
  夫「は・・・はあ・・・(思わず手にしていたものを見る。)」
  サンタ「ほれ・・・」
  夫「(頷く。袋を開け、中の一つを妻に手渡す。)」
  妻「(それを受け取り、夫と顔を見合わせる。。)」

         夫婦、ゆっくりキャンディを口に放り込む。

  サンタ「どうじゃ・・・?」
  夫「・・・おや・・・?」
  妻「・・・あら・・・?」
  夫「何だか心がポカポカしてきたぞ・・・」
  妻「本当・・・私も何だか心が温かく感じられるわ・・・」
  夫「おまえ・・・」
  妻「あなた・・・」
  夫婦2人「俺(私)たち、今まで何てくだらないことにクヨクヨして
        きたんだ!」

         明るい音楽流れ、夫婦、立ち上がり歌う。

         “晴れるぞ晴れる
         気分が晴れる
         忽ち明るく陽が差し始めた”

         夫、歌う。

         “何だこれは”

         妻、歌う。

         “何て不思議”

         2人、歌う。

         “今まで掛かった雲全て
         風に流され飛んでった
         やれ気分がいいぞ
         何もかもが上手く行きそう!”

  夫「どうも、ありがとうございました!(サンタの手を握る。)」
  妻「これでもう大丈夫ですわ!(夫の手の上から、サンタの手を
    握る。)」
  夫「お代は必ずクリスマスの朝に!」
  サンタ「ホッホッホ・・・頼んだぞ。」
  夫「では!」

         夫婦、微笑み合い、下手へ去る。
         夫婦と入れ代わるように、上手より
         トナカイ(トナ。)登場。

  トナ「ねぇ、サンタさん!」
  サンタ「しっ!!わしがサンタであることがバレたらどうするんじ
      ゃ。」
  トナ「(回りを見回して嬉しそうに。)もう誰もいないよ・・・。」
  サンタ「・・・ああ・・・そうか。」
  トナ「それよりサンタさん、また楽しようと思ってるでしょ!」
  サンタ「ふん、何を人聞きの悪いことを言っておるんじゃ。わしは
      人の為に何かをすると言うことが、どれだけ気持ちのいい
      ことか教えてやっておるんじゃ。」
  トナ「そんなこと言って、この時期、目が回る程忙しいサンタさん
     の仕事の手伝いを、なんやかんや言って、皆に振り分けて
     るだけじゃない。」
  サンタ「煩い、煩い。おまえの方こそソリの点検は終わったのか
      ?クリスマスの夜に、ソリの不具合が見つかったとなれば
      、大変じゃからな。(笑う。)」
  トナ「失礼だな、サンタさん!大丈夫に決まってるだろ!僕の点
     検は完璧だからね!」
  サンタ「そうか・・・?」
  トナ「ねぇ、サンタさん!さっきの人達にあげた、そのキャンディ
     は一体何なの?(机の上を指差す。)」
  サンタ「これか?これはなぁ・・・世にも不思議な・・・」
  トナ「・・・世にも不思議な・・・?」
  サンタ「ただのジンジャーキャンディじゃよ。」
  トナ「ジンジャーキャンディ!?」
  サンタ「ああ、そうじゃ。」
  トナ「なあんだ、ただの“生姜飴”か。だからあの人達、心がポカ
     ポカしてきただなんて・・・。けど、どうしてそんなもので・・・
     ?」
  サンタ「なあに、人の感情と言うのは、何事も心の持ちようで、
      いいにも悪いにも転がると言うことじゃよ・・・。ホッホッホ
      ・・・」
  トナ「ふうん・・・人間って複雑なんだね。僕らトナカイには分から
     ないや。」
  サンタ「さぁて・・・そろそろプレゼントを配る、準備でも始めるか
      の。夜も更けてきたことじゃし、もう今日はわしの手伝い
      をしてもらえそうな客人も来んじゃろうて・・・」
  トナ「そうだね!僕も手伝うよ。」
  サンタ「ああ・・・」

         サンタとトナ、灯りを消して上手へ去る。
         一時置いて、下手より回りを見回しながら
         ドン、懐中電灯を片手にゆっくり登場。

  ドン「へっへっへ・・・お宝はどこにあるかな・・・っと・・・」

         ドン、壁際のタンスの引き出しを開ける。

  ドン「あった、あった・・・(引き出しから何かを取り出す。)ん・・・?
     何だ、これ?暗くてよく見えないぜ・・・。まぁ、いっか、一先
     ず何だって頂いていくとするか・・・」

         ドン、袋の中へタンスから取り出したものを
         次々放り込む。
         その時、突然灯りがつき、上手よりトナ登場。

  トナ「誰!?」
  ドン「あ・・・しまった・・・!!(トナに背を向けたまま、ゆっくり立ち
     上がる。)・・・ホッホッホ・・・わしはサンタクロースじゃ・・・」
  トナ「サンタクロース・・・?」
  ドン「いい子にしておる子ども達に、プレゼントを届けに来たんじ
     ゃよ。(振り返り、トナを認める。)ト・・・トナカイ!?あれ・・・
     今、子どもがいたと思ったが・・・」
  トナ「何してるの、偽サンタさん!!」
  ドン「ニセ・・・!?ニセだと、この・・・わ・・・わあ・・・ト・・・トナカイ
     が、しゃ・・・しゃ・・・喋ったーっ!!(腰を抜かす。)」
  トナ「あなた、失礼だね!!トナカイが喋っちゃ悪いかよ!!」

         そこへ上手よりサンタ登場。

  サンタ「どうしたんじゃ?トナ・・・(腰を抜かしているドンを認め。)
      ん・・・?こんな時間に、お客かな?」
  トナ「違うよ、こいつはサンタさんのフリをした泥棒だよ!!」
  ドン「ち・・・違う・・・俺・・・いや、わしはサンタクロース・・・」
  サンタ「ホッホッホ・・・サンタクロースにしては、ちと若いのぉ・・・
      」
  ドン「あ・・・(付け髭が取れかかっているのに気付き、慌てて付
     け直す。)」
  サンタ「ジンジャーキャンディが好きかの?」
  ドン「・・・え・・・?」
  サンタ「袋にそんなに詰め込んでおるじゃないか。」
  ドン「ジンジャーキャンディ!?(袋の中を覗き込み、1袋取り出
     す。)ただの飴!?」
  サンタ「残念じゃが、この家にはおまえさんが欲しがるような物
      は、なぁんも置いとらんよ。(笑う。)ジンジャーキャンディ
      なら、山程あるがの・・・」
  トナ「あるのは子ども達へのプレゼントだけさ!」
  ドン「なんでぇ・・・しけた家へ入っちまったぜ・・・(ハッとして。)
     って・・・俺は何も泥棒しようだなんて・・・俺はサンタクロー
     ス・・・」
  サンタ「ホッホッホ・・・わしには分かっておるよ。」
  トナ「嘘吐きサンタクロース!」
  ドン「嘘吐きだと!?」
  トナ「だってそうでしょ?本物のサンタクロースは、ここにいるも
     の!」
  ドン「本物のって・・・!え・・・?え・・・?えーっ!?冗談だろ!?
     サンタクロースって北極の・・・」
  トナ「違うよ!そんなところからやって来てたんじゃ、沢山のいい
     子達に、クリスマスの日にプレゼントを配り終わらないでし
     ょ?だからサンタさんは、冬の間子ども達の近くで間借りし
     て、クリスマスを迎えるんだよ!プレゼントの準備をしなが
     らね。」
  サンタ「おまえさんもサンタになりたいようじゃから、わしの仕事
      を手伝わせてやるぞ。」
  トナ「サンタさん!」
  ドン「え・・・お・・・俺は・・・その・・・いや・・・別にサンタになりたく
     て・・・」
  サンタ「ホッホッホ・・・そうか?」
  トナ「ね、サンタさん!この時期になると、サンタさんの名を語っ
     た偽サンタがゴロゴロ街中に現れるね。中にはこいつみた
     いに、悪いことをしようとする奴だっているんだ。」
  ドン「お・・・俺は・・・あ・・・そ・・・そうだ!!俺、ある子どもから、
     サンタにプレゼントの希望を伝えて欲しいと頼まれて・・・!
     それでわざわざサンタの家を探してまでやって来たと言う
     訳さ・・・!!」
  トナ「え・・・?」
  サンタ「プレゼントの希望・・・?」
  トナ「嘘吐き!」
  ドン「う・・・嘘じゃない!!ホントだぜ!!その子は俺を本物の
     サンタと間違えて、ずっとプレゼントが欲しいって付き纏っ
     て・・・」
  トナ「サンタさん!こんな奴もう放っといて、プレゼントの準備の
     続きをしようよ。」
  ドン「ホントなんだ!!」
  サンタ「その子どもが欲しいと願った物は何じゃ・・・?」
  トナ「サンタさん!」
  ドン「あ・・・ああ確か・・・えっと・・・種・・・種だ!!」
  トナ「種?何の?」
  ドン「こ・・・心の種だ!!」
  サンタ「心の・・・」
  ドン「ああ!!そんな“心の種”なんてもんが、あるのかどうか、
    俺は知らね・・・けど・・・」
  サンタ「その子は・・・間もなく死ぬぞ・・・」
  ドン「死・・・?え・・・何言って・・・」
  トナ「サンタさん・・・?」
  サンタ「その子の命の炎は、今にも消えそうな筈じゃ・・・」
  ドン「だ・・・だって・・・あんなに元気そうで・・・俺のことも力強く
     掴んで・・・!!」
  サンタ「おそらく・・・おまえさんの前に姿を現すその子どもは、そ
      の子自身の影じゃ・・・」
  トナ「影・・・?」
  ドン「まさか・・・」
  サンタ「現に、消えたり現れたりが上手い筈じゃよ。(笑う。)」
  ドン「何、笑ってんだよ、ジジイ!!冗談ばっかり・・・あ・・・そう
    言えば・・・デンの奴も見えていなかったような・・・で・・・でも
    影って・・・そんな・・・それに、あの子が死ぬって・・・死にそう
    ってどう言うことなんだよ!!」
  サンタ「その子は意識のない状態で、今、どこかにおる筈じゃ・・・
      」
  ドン「・・・嘘だ・・・嘘だ、そんな・・・」
  サンタ「その子はどうしておまえさんの前に現れるようになった
      んじゃったかな?」
  ドン「え・・・?あ・・・ああ・・・少年は俺のことを、本物のサンタク
     ロースだと信じて・・・心の種を探してくれと・・・」
  サンタ「そう・・・心の種を探してくれ・・・」
  ドン「種がどうかしたのかよ・・・。そんな“心の種”なんて・・・俺
     は見たことも聞いたことも・・・花の種みたいなもんじゃねぇ
     んだろ・・・!?」
  サンタ「心の種・・・即ちそれはその子自身のことじゃよ。」
  ドン「・・・あの子自身・・・?」
  サンタ「その子は、自分の体に帰ろうとしておるんじゃ・・・」
  ドン「一体どう言うことなのか、ちゃんと説明してくれよ!!」
  サンタ「その子はきっとどこかで・・・助けが来るのを待っている
      筈じゃ・・・自分の力では抜け出せないような、どうしよう
      もない場所で・・・。」
  ドン「そんな・・・」
  サンタ「最後の力を振り絞り、今、生きようと懸命に戦っておる
      んじゃろう。そしてサンタだと信じたおまえさんに、助けを
      、求めておるんじゃ。」
  ドン「お・・・俺に・・・?」
  サンタ「(頷く。)」
  ドン「そ・・・そうだ・・・時間がない・・・ずっとそう言ってたんだ・・・
     あいつ・・・」
  サンタ「時間が・・・?」
  ドン「ああ・・・」
  サンタ「それはいよいよ急がなければ駄目じゃの・・・。」
  ドン「・・・(何かを悟ったように。)・・・わ・・・分かった!!俺、行
     って来る!!先ず、どうすりゃいいんだ!?少年は心の種
     を探してくれって・・・あいつ自身がその種だとすりゃあ一体
     ・・・」
  サンタ「あの子の体を探してやることじゃ。」
  ドン「探す・・・どこを・・・?」
  サンタ「きっとこの町のどこかで行方不明になっておる子がいる
      筈じゃ。」
  ドン「あ・・・ああ!!そ・・・それで?」
  トナ「馬鹿だなぁ!その子の存在が分かれば、後は探すだけだ
     ろ。」
  ドン「トナカイに馬鹿呼ばわりされる覚えは・・・!!」
  サンタ「早く行け!!その子の命が消える前に、その子を見つ
      け出して来るんじゃ!!クリスマスでは間に合わんと言っ
      ておったんじゃろう?」
  ドン「あ・・・お・・・おう!!ガッテンだ!!」

         ドン、下手へ走り去る。

  サンタ「トナ、プレゼントの準備はいいから、あの偽サンタを助け
      てやりなさい・・・。」
  トナ「え?」
  サンタ「あれも立派なサンタの仕事じゃよ。(微笑む。)」
  トナ「サンタさん・・・うん!!分かったよ!!」

         トナ、下手へ走り去る。
         下手方を温かく見詰めるサンタ。
         フェード・アウト。(カーテン閉まる。)
    






   ――――― “ドンのハッピーサンタクロース”
                          3へつづく ―――――















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