2013年5月30日木曜日

“アトラス” ―全8場― 2

             その時、上手よりクルーエル登場。

  クルーエル「アトラス!」
  アトラス「クルーエル・・・」
  クルーエル「こんなところで、何してるんだ!」
  アトラス「いや・・・別に・・・。何か用か・・・?」
  クルーエル「昨日までの続きをやろうと思ってな。(腰に差して
         いた剣に手をかけ、ニヤリと笑う。)」
  アトラス「まだやろうって言うのか?おまえのその腕の傷・・・次
       はそんなどころの騒ぎで済まないぜ?」
  クルーエル「百も承知だ!どちらかの命が尽きるまで、この勝負
         は続くんだ。」
  アトラス「・・・それがこの国のルール・・・」
  クルーエル「たとえ相手が誰であろうと、一度剣を交えた者は、
         必ずどちらかが死ぬ!(下手方に咲いていた花に気
         付き。)目障りな花だ!(花の方へ寄って行き、踏み
         付ける。)」
  アトラス「クルーエル!何も態々そんな隅っこで咲いている花を
       、踏み付けに行くことはないだろう?」
  クルーエル「アトラス・・・?おまえのものの考え方は、俺には理
         解し難いね・・・。どうもおまえはこの国の者としては、
         少々冷淡さに欠けるところがある。仮にもデビル様の
         跡取りとして、この世に生を受けた者らしからぬ発言
         だな。おまえの重臣として、忠告してやろう。もう一度
         、1から教育を受け直し、その考え方を改めた方が、
         これからのおまえの為だ。」
  アトラス「・・・余計なお世話だ・・・」
  クルーエル「この国は闇の国・・・暗黒の大地に誇らし気に咲く
         花など、無用の長物。踏み付けるは当たり前!!」
  アトラス「クルーエル・・・」
  クルーエル「心も同じ・・・。哀れみや同情、優しさなど我々には
         持ち合わせない感情の筈・・・。それなのにおまえは
         昔からどうも、ものごとをそう言った傾向に走らせ、考
         えるところがある・・・。丸でこの国の者ではないかの
         ようにな・・・。そんな調子では、たとえ親と子であっ
         ても、デビル様が放っておく筈がないと、俺は思うが
         ね・・・。自分以外の全てのものに浴びせる罵声はあ
         っても、かける情けは微塵もない。それが我々の根
         底にあるものだ。さぁ、剣を抜け!!今日こそは決着
         をつけるんだ!!そして・・・おまえを倒してこの俺が
         この国の王座につく!!」
  アトラス「・・・欲しいなら、いくらでもくれてやる、こんな身分・・・。
       」
  クルーエル「(アトラスを見る。)」
  アトラス「王座につきたいのなら、何も態々生死を賭けて戦うこ
       ともない・・・。おまえが望むなら俺は喜んでおまえにこ
       の地位、譲り渡そう。」
  クルーエル「はい、どうぞと差し出されて、この俺が喜ぶとでも
         思っているのか。俺だけでない、この国の者は誰で
         あっても、力を持って奪った勝利品に喜びを感じる
         のであって、たとえ金銀財宝、巨万の富であっても
         、楽して手にしたものになど、興味を持つ訳がない。
         全く、おまえのように甘い奴は、この国の落第者だ
         な。さぁ、やるのかやらないのか!?俺はこれから
         5人との決闘が待っているんだ!」
  アトラス「今日はやめておく・・・」
  クルーエル「(溜め息を吐く。)なんだ。それなら後、2、3人予約
         しておくんだったな。おっと・・・遅刻しちゃまずい。お
         まえは頭ばっかり使ってないで、もっと行動しろ!!」

         クルーエル、上手へ去る。
         アトラス、クルーエルが去った方を見詰める。

  アトラス「クルーエルの言うように・・・この国において・・・俺は甘
       過ぎるのか・・・」

         下手より、デビル登場。

  デビル「いつもながらあいつは、血気盛んな奴だな。」
  アトラス「(振り返り、デビルを認める。)父上・・・」
  デビル「全く、頼もしいばかりだ。それに比べておまえは、この国
      の者らしからぬ心持ち・・・。屹度、教えを説いて来た者た
      ちが、育て方を間違えたのだな。おまえを今まで教育して
      来た教育係りは、全て今日限りで首にし、即刻死刑に処
      す。」
  アトラス「父上!!・・・そんな・・・死刑だなど・・・」
  デビル「死刑が不満なのか?」
  アトラス「私の教育係りたちに、何の落ち度もありません。もし今
       の私が、父上の望むような者に成り切れていなかった
       とすれば、彼らの教えに集中出来なかった私自信の責
       任です!!だから死刑など・・・」
  デビル「死刑だ!!」
  アトラス「父上・・・!?」
  デビル「今のおまえのその言葉は、彼らに死を持って償わせる
      だけの意味が十分にある!!それが分からないようでは
      これからの・・・(ハッとしたように。)おまえに・・・
      王座につくに相応しい者かどうか、1つの課題を与えよう
      。その課題を見事クリア出来た時こそ、おまえは我が魔族
      の王となるに相応しい者であることを認め、この印の剣を
      おまえに授けよう。(腰に差していた剣を、高く差し出す
      。)」
  アトラス「・・・課題・・・?」
  デビル「そう・・・課題だ・・・。たった今から地上へと降り立ち
      、その目前に広がる世界を、その手に治めるのだ。」
  アトラス「治める・・・?」
  デビル「そして国々の者たちを見事に服従させてくるのだ。」
  アトラス「服従させるって・・・」
  デビル「その時、初めておまえにこの魔国を任せることとしよう
      ・・・。だが失敗した時には、もう二度とここへは戻って
      来るな。」
  アトラス「父上・・・」
  デビル「分かったな!?」
  アトラス「・・・(ゆっくり頷く。)」
  デビル「クルーエルを一緒に連れて行くがいい。」

         デビル、上手へ去る。

  アトラス「俺に・・・国を支配しろと・・・?そんなことが、この
       俺に本当に出来るのか・・・。だが、この国の者として
       生を受けた以上、この国の者として生きるべきなのだ
       ・・・。それがたとえ自分に納得のいかない生き方だと
       しても・・・」

         音楽流れ、アトラス歌う。

        “闇の国に必要なのは
         闇の国に相応しい
         闇の心・・・
         下手な優しさ思い遣り
         そんなものは必要ない
         いつも自分のことだけ
         考えていればいい・・・
         いつも自分さえよければ
         それでいい・・・
         その考え方が
         この国の正しい生き方・・・
         それを確かめる為
         俺は旅立つ・・・”

         暗転。  

    ――――― 第 3 場 ―――――

         緊迫した音楽流れる。
         カミナリの轟き音が響き渡り、風の音が
         強くなる。
         (舞台薄暗くなる。)
         下手より、下手方を気にするように走り
         ながら、人々登場。
         脅えるように歌う。

         “魔物よ!!助けて!!殺される!!
         心のない魔物よ!!殺しに来たわ!!
         冷淡な笑みを浮かべ追い詰める
         奴らは殺しを何とも思わない
         ただ自分たちの望みを叶える為に
         いつも誰かに犠牲を強いる
         魔物よ!!助けて!!殺される!!
         魔物よ!!助けて!!殺される!!”

         一時置いて、人々を追い詰めるように
         アトラス登場。
         上手方へ逃げようとした人々の、行く手
         を阻むように上手よりクルーエル、
         楽しそうに登場。

  アトラス「抵抗せずに大人しくこの国を明け渡せば、我々も手荒
       なことはしない。」
  村人1「助けて下さい・・・!私たちは何も抵抗など致しません。」
  村人2「この国が欲しいと言うなら差し上げます・・・!!」
  村人3「だから皆の命だけは・・・(手に持っていた短剣を、下へ
       置き手を上げる。)」
  クルーエル「なんだ、面白くない・・・。もっと抵抗してくれないと
         ・・・なぁ、アトラス!!」
  アトラス「いいだろう・・・」
  クルーエル「(怪訝な面持ちでアトラスを見る。)」
  アトラス「こちらも無血開国は望んでもないこと・・・」
  クルーエル「・・・アトラス・・・?」
  アトラス「無抵抗の者に、剣を向けるようなことはしない。」

         人々、幾分安心したように其々顔を見合す。

  村人1「魔国の方が、そのようなことを仰るとは、思ってもみま
      せんでした・・・。(他の人に。)なぁ・・・」
  村人2「(頷いて。)ああ・・・てっきり有無を言わさず切られるも
      のと・・・。今までの噂と随分違うな・・・。」
  村人3「よかった・・・」

         その時クルーエル、掛け声と共に、
         振り上げた剣を、一人の村人(オーファ)
         の背後から振り下ろす。
         オーファ、倒れる。他の人々、一瞬何が
         起こったか分からず、呆然と佇む。

  アトラス「クルーエル!!」
  村人1「・・・オーファ・・・」
  村人2「オーファ!!」

         人々、口々にオーファの名を呼び、
         駆け寄る。

  アトラス「クルーエル!!何てことをするんだ!!(クルーエル
       に駆け寄り、襟首を掴む。)」

         アトラス、クルーエル残して、カーテン
         閉まる。

  クルーエル「だったら、おまえは平気なのか!?あんな風に魔
         国の者たるに相応しくないと言われ、人々に安堵の
         笑みを浮かべられても!!俺は嫌だね!!おまえ
         はよくても、俺には許せない!!」
  アトラス「・・・分かった・・・クルーエル・・・」
  クルーエル「何が分かったんだ!!おまえはちっとも分かってな
         い!!おまえは魔国の者としては失格者だ!!デビ
         ル様が、そのおまえに下さった、最後のチャンスもも
         のにしないで、これからの人生を下界の卑しい人間
         共と一緒に生きていくと言うのか!!」

         その時、下手より一人の少年、怒りに
         肩を震わせ、走りながら登場。

  少年「人殺し!!」

         アトラス、クルーエル、少年の方を見る。

  少年「人殺し!!何故父さんを殺したの!!人殺し!!一体
     父さんが何したって言うんだ!!」
  アトラス「・・・おまえは・・・さっきの男の・・・?」
  クルーエル「なんだ小僧!!おまえも殺られたいのか!?」
  少年「・・・(一瞬たじろぐ。)人殺し!!人殺し!!」
  クルーエル「煩い!!(剣を振り上げる。)」
  アトラス「(クルーエルの振り上げた手を掴む。)もういい!!」
  クルーエル「アトラス!!」
  アトラス「・・・我々が憎いか?」
  少年「当たり前だい!!僕の・・・僕の大好きな、たった一人の
     父さんを・・・!!何で殺したんだよ・・・(泣く。)悪魔・・・!!
     悪魔!!」

         アトラス、スポットに浮かび上がる。

  アトラス「・・・悪魔・・・そう・・・我々は魔国に住む者・・・。悪魔と
       罵られようが、それは当たり前のこと・・・いつものことだ
       ・・・。なのに何故・・・ほんの少しだけ、その当たり前が
       疑問に思える・・・。確かに俺は・・・魔国の者・・・確かに
       ・・・。本当に父の子なのだろうか・・・。何故、俺はこんな
       に自分の心に不安を感じる・・・?この旅を終え、魔国へ
       戻った時には、父やクルーエルのように俺も・・・あんな
       風に冷淡な心を持つ・・・魔国の者然となるのだろうか
       ・・・。父の跡を継ぐに相応しい、氷の心を持つ魔国の王
       として・・・生まれ変われるのか・・・。」

         暗転。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         上手客席より、腕組しながら考え事を
         するようにクルーエル登場。

  クルーエル「一体、あいつは本当に我々と同国の者なのか・・・。
         俺には全くあいつの考えていることが分からない・・・
         。俺たちは人の命に構っている時を待つ時間など、
         持ち合わせてはいない・・・。殺した人間に同情し、流
         す涙など一滴もある筈がない・・・。なのにあいつは
         ・・・」

         音楽流れ、クルーエル歌う。
         ゆっくり下手方へ。
      
         “変わってる・・・
         今まで魔国では
         お目にかかったことのない奴アトラス
         全く変だ・・・
         今まで見たことない
         いやに平和な目をした奴アトラス”

  クルーエル「ずっとあいつの側にいて、光と影のようにあいつに
         使えて来た・・・同じように教育も受けた・・・」

         “だが辿り着いた俺は魔国の者
         しかし奴は魔国の者になり切れない・・・
         何故なんだ・・・
         俺には奴の考えが分からない
         どうするつもりなんだ・・・
         いくら俺が手を出したところで
         奴にその気がなけりゃ
         所詮奴は・・・
         半魔国の者・・・”

  クルーエル「アトラス・・・おまえは一体、何がしたいんだ・・・。(
         首を振る。)駄目だ駄目だ・・・!!何故俺まで他の
         者のことを気にかけるんだ・・・。いくらあいつの家臣
         だからと言って、魔国の者に他の奴のことなど考え
         る心は持ち合わせてはいないのに・・・あいつのせい
         で・・・俺まで少し頭が変だ・・・。」

         クルーエル、下手へ去る。



     
                           
                        
                           



         ――――― “アトラス”3へつづく ―――――



























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