2013年5月20日月曜日

“アンドレ” ―全10場― 完結編

            ――――― 第 10 場 ――――― A

         フェード・インする。と、ミリオッタの部屋。
         中央ベッドにミリオッタ、起きて座り、
         何か考えるように窓の外に、目をやって
         いる。
         (側に、ジャクリーヌ、アーサー、其々の
         場所に位置する。)

  ミリオッタ「お姉さん・・・私・・・アンドレに会いたいわ・・・。何故、
        来てくれないのかしら・・・」
  ジャクリーヌ「え・・・?(ミリオッタを見る。)」
  ミリオッタ「私、意識のない間、ずっと夢を見ていたの・・・何か優
        しい・・・温かい思いが私を包み込んで、片時も離れず
        側にいてくれた・・・アンドレでしょう?ずっと手を握って
        ・・・不思議だけれど、私には分かるの・・・。アンドレの
        お陰で私は戻って来れたんだもの。」
  ジャクリーヌ「ミリオッタ・・・」
  ミリオッタ「ね、お姉さん、私、アンドレにお礼を言いたいの。会っ
        て“ありがとう”って・・・。“あなたは命の恩人よ”って、
        言いたいの・・・。(微笑む。)アンドレはどこにいるの?
        呼んで来てくれないかしら。そしたら・・・」
  アーサー「ジャクリーヌ、本当のことを言った方がいいよ・・・。」
  ジャクリーヌ「でも・・・」
  ミリオッタ「・・・どうしたの?本当のことって・・・?ね・・・お姉さん
        ・・・?アーサー・・・?」
  アーサー「ミリオッタ・・・アンドレは今日、この村を出て行くんだ
        ・・・」
  ミリオッタ「え・・・」
  アーサー「エリザベスが亡くなって・・・今度こそ一人きりで旅立っ
        て行く・・・」
  ミリオッタ「・・・嘘・・・エリザベスが亡くなったなんて・・・アンドレ
        が出て行くなんて嘘よ!!」
  アーサー「彼は自分の人生が辛いんだろう・・・。大切な者が皆
        いなくなって・・・」
  ミリオッタ「違うわ!!アンドレのせいなんかじゃない!!彼は
        いつも一生懸命だったわ!!そりゃ、辛い人生だった
        かも知れないけど、彼のせいなんかじゃない、決して
        ・・・。アーサー!!お姉さん!!アンドレを独りぼっち
        で行かせないで・・・!!お願い!!私はアンドレがい
        てくれたから助かったの・・・!!」
  アーサー「ミリオッタ・・・」
  ミリオッタ「・・・お願い・・・アンドレのところへ連れて行って・・・」
  ジャクリーヌ「無理よ・・・」
  ミリオッタ「彼を愛しているの・・・」
  ジャクリーヌ「ミリオッタ・・・」

         フェード・アウト。

    ――――― 第 10 場 ――――― B

         上手客席後方より、グレミン牧師、続いて
         アンドレ、話しながら登場。舞台上へ。
         舞台上はいつしか村の風景。

  グレミン「・・・出て行くのかい・・・?」
  アンドレ「はい・・・」
  グレミン「ミリオッタには・・・?」
  アンドレ「・・・(ゆっくり首を振る。)いいえ・・・私は彼女の命が助
       かった・・・ただそれだけで満足です・・・。またここで私が
       彼女に会うことは、今度こそ彼女の身に何が起こるか
       分からない・・・。」
  グレミン「君は本当に自分を、そんな運命の持つ者だと信じてい
       るのかね・・・?」
  アンドレ「信じるも何も・・・」
  グレミン「アンドレ・・・神様は全ての人間を平等にお創りになら
       れたのだよ。何も君だけを、呪われた運命を持つ者とし
       て、この世に遣わされた訳ではないのだ・・・。人間は皆
       、大なり小なり生きて行く上で、試練を与えられるものな
       のだよ・・・。それは君にとっては少し過酷な試練であっ
       ただろう・・・。神は君に、立ち向かう勇気を・・・乗り越え
       られる強さを求めておられるのだ・・・。もうそろそろ逃げ
       ることばかりを考えるのではなく・・・自分自身の幸せを
       考えてみないかね?君が3日3晩、寝ずに側に付いて
       いたミリオッタは、奇跡的に助かったではないか・・・。」
  アンドレ「(悲しそうに微笑む。)彼女が助かって、本当によかっ
       た・・・。もう私は何も思い残すことなく・・・また今までの
       ように旅立って行けます・・・。グレミン牧師・・・ミリオッタ
       に会ったら伝えて下さい・・・どこにいても君の幸せを祈
       っていると・・・」

         その時、ミリオッタの声が聞こえる。

  ミリオッタの声「祈るだけじゃ嫌・・・」

  アンドレ「(振り返り。)・・・ミリオッタ・・・?」

         ミリオッタ、アーサーに支えられるように
         下手より出る。ジャクリーヌ続く。

  アンドレ「(驚いたように。)ミリオッタ!!そんな体で外に出るな
       んて無茶だ!!」
  ミリオッタ「(微笑んで。)私はもう大丈夫・・・あなたに命を貰った
        から・・・。あなたのお陰で私は助かったのよ・・・。あり
        がとうが言いたくて・・・それなのに私に黙って出て行
        こうとするなんて・・・(涙声で。)」
  アンドレ「ミリオッタ・・・すまない・・・」
  ミリオッタ「行かないで・・・(アーサーの手を離し、ゆっくりアンド
        レの方へ。)」
  アンドレ「・・・え?」
  ミリオッタ「この村にいて・・・これからもずっと私の側にいて・・・」
  アンドレ「・・・だが・・・」
  ミリオッタ「私はあなたが、あなたの言うような人間だなんて・・・
        これっぽっちも信じてないわ。けど、もし仮にそうであっ
        たとしても・・・私は命尽きるその時まで、あなたが側
        にいてくれたことの方を神様に感謝し、幸せな人生だ
        ったと言い切れるわ!!あなたを愛しているの!!私
        を愛して欲しいなんて言わない!!ただもう逃げない
        で・・・」
  アンドレ「ミリオッタ・・・」
  
         優しい音楽流れ、アンドレ歌う。
         (グレミン、上手方へ、ジャクリーヌ、アーサー、
         下手方へ、其々嬉しそうに去る。)
      
         “・・・時が過ぎ・・・
         忘れ去りたい過去が思い出に・・・
         変わろうと・・・
         今・・・感じる・・・
         ・・・それは全て・・・
         君が私の側にいてくれたお陰・・・
         今まで目を背け
         ただの一度も心を開かなかった・・・
         忘れ去りたい過去が思い出に・・・
         今変わり行く・・・
         時が至福に満ち
         それは全て・・・
         愛する者が側にいてくれたお陰・・・”

  アンドレ「ミリオッタ・・・愛している・・・」
  ミリオッタ「アンドレ・・・」
  アンドレ「私の側に・・・いてくれるかい・・・?」
  ミリオッタ「(溢れる涙を堪え、大きく頷く。)」
  アンドレ「(微笑んで。)永遠に・・・」
  ミリオッタ「・・・勿論よ・・・!!アンドレ!!」
  
         アンドレの広げた両腕の中に、ミリオッタ
         飛び込む。
         音楽盛り上がり、固く抱き合う2人で。






          ――――― 幕 ―――――  





























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