2013年5月29日水曜日

“アトラス” ―全8場―

       〈 主な登場人物 〉

   
    アトラス  ・・・  本編の主人公。

    スプリーム  ・・・  アトラスの父。

    ハーティ  ・・・  アトラスの母。

    デビル  ・・・  魔国の王。

    クルーエル  ・・・  アトラスの仲間。

    
    その他



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         開演アナウンスが流れる。

         微かに嵐のよう。

  声(エコー)「約束を忘れるな・・・将来、おまえに男の子どもが出
         来た時・・・おまえの命を助けた代価として、その子ど
         もは私が頂く・・・。我が魔族の跡継ぎとして、その生
         貰い受けよう・・・。(笑う。)」

         笑い声、段々遠ざかる。
         と、入れ代わるように、豪華な音楽、段々と
         大きくなる。

    ――――― 第 1 場 ―――――

         舞台、明るくなる。(城内の様子。)
         ポーズを取った人々、楽し気に歌い踊る。

         “王子が生まれたぞ!
         待ちに待った期待の時
         王子が生まれたぞ!
         待ち望んだこの国の宝
         青い海に囲まれた
         澄んだ青空広がる我が国
         楽園
         誰もが優しく温かな
         平和な我が国 パラダイス
         そこに生まれた平和の象徴
         王子が生まれたぞ!
         待ちに待った期待の時
         王子が生まれたぞ!
         待ち望んだ至福の瞬間!”

         人々、中央奥、設えられた段上を差し示し
         ポーズを取る。
         下手奥より、一組の男女(スプリーム、ハーティ)
         嬉しそうに、寄り添いあい登場。
         段上、中央へ。

  人々口々に「王様!王妃様!おめでとうございます!!」
          「王子ご誕生、おめでとうございます!!」

  スプリーム「ありがとう。」

         曲調変わり、スプリーム、ハーティ、
         静かに歌いながら、ゆっくり前方へ。
         同時に上手より乳母(バドル夫人)、
         ベビーベッドを押しながら舞台中央へ。

         “王子が生まれたありがとう
         皆に祝福され
         地上に舞い降りた
         平和の誓い”

         全員で歌う。

         “幸せの国に相応しく
         陽の光浴び
         天から使わされた
         未来ある者よ
         我が国を平和へと導く為に
         生まれし天の子”

         人々、ベッドの周りを取り囲み、覗くように。
         口々に歓待の声を上げる。

  人1「まぁ・・・なんて可愛らしい。」
  人2「安らかな寝顔だこと・・・」
  人3「左手にはまさに王家の紋章が・・・」
  バドル夫人「王子様はむずがることもせず、目を覚ましている
         時にはニコニコと・・・私の手を煩わせることをなさら
         ず・・・とてもいいお子ですわ。」
  人1「・・・まぁ・・・」
  スプリーム「早く大きくなって、強く立派な・・・この国の王となる
         のだぞ。」
  ハーティ「あなた・・・それはあまりにも気が早いですわ・・・。だっ
        てアトラスはまだ生まれたばかり・・・」
  バドル夫人「王様、お后様、また今日も各国からお祝いの品の
         数々が、山のように届いております。」
  スプリーム「そうか・・・。」
  バドル夫人「もうお部屋が一杯で、それ用に一部屋用意して頂
         かないと・・・」
  スプリーム「そうするとしよう・・・。」

         その時、突然辺りが薄暗くなり、俄かに
         風が強くなる。(嵐の前触れのよう。)
         人々、不安気に周りを見回す。

  ハーティ「あなた・・・どうしたのでしょう、突然・・・」
  スプリーム「・・・ああ・・・。バドル夫人、アトラスを部屋へ・・・」
  バドル夫人「はい。」

         バドル夫人、ベビーベッドを押しながら、
         上手方へ行きかけると、上手、下手より
         各一人、不適な笑いを浮かべた黒尽くめの
         男、登場し、人々の行く先を塞ぐように。

  バドル夫人「誰です!そこをどきなさい!」
  スプリーム「何者だ!?(剣に手をかける。)」
  ハーティ「あなた・・・!」

         その時、カミナリの轟き音が響き渡り、
         後方段上中央に、マントを付けた黒尽くめの
         男(デビル)登場。

  デビル「・・・久しぶりだったな・・・」

         皆、一斉に段上注目。

  スプリーム「誰だ!!」
  デビル「・・・忘れた・・・とでも言うのか・・・?私のことを・・・」
  スプリーム「おまえなど、知る訳がないだろう!!」
  デビル「おやおや・・・冷たいな・・・」
  スプリーム「一体何の用があって、王子誕生の祝典の最中、突
         然に・・・!!無礼であろう!!」
  デビル「・・・約束を果たして貰う為に、やって来たのだ・・・」
  スプリーム「約束・・・?」
  デビル「そう、約束だ・・・」
  スプリーム「約束とは一体、何の話しだ!!先に言った通り、私
         はおまえなど知らないし、そんな約束などした覚えも
         ない!!」
  デビル「人間と言う奴は・・・何でもかんでも忘れるのがお得意
       のようだ・・・。忘れたのはおまえの勝手・・・私と一度交
       わした約束は、何があろうと必ず守ってもらう。」
  ハーティ「・・・あなた!」
  スプリーム「・・・おまえと交わした・・・?一体、私とおまえの間に
         どんな約束があったと言うのだ・・・!!」
  デビル「・・・思い出したいか・・・?(ニヤリと微笑む。)」

         舞台、暗転。
         客席下手より一人の執事(レイク)、上手
         より一人のメイド(バドル)、走りながら登場。

  レイク「大変だ!!大変だ!!王子様が行方不明だなんて・・・
      !!」
  バドル「大変だわ・・・大変だわ・・・一体どこへ行かれたのかし
      ら・・・!!」
  レイク「(バドルを認め。)あ・・・!!バドル!!スプリーム王子
      様は見つかったか!?」
  バドル「あっ!!レイクさん!!それがどこにもいらっしゃらない
      んです・・・!!ちょっと目を離した隙に・・・王子様はどこ
      に・・・」
  レイク「王様とお后様のお留守の間に、王子様にもしものことが
      あったら・・・」
  バドル「そんな!!」
  レイク「いいか!!総動員でもう一度よく捜すんだ!!城中、く
      まなく・・・!!」
  バドル「はい!!」

         レイク、下手方へ、バドル上手方へ行きかける。

  バドル「・・・レイクさん!!スプリーム王子様・・・裏の雪山に入
      られたんじゃないでしょうね・・・?」
  レイク「・・・まさか・・・雪山になど・・・一歩でも足を踏み入れたな
      ら、二度と生きて戻っては来れなくなるんだぞ!!いつも
      王様から、絶対に行ってはならないと、きつく止められて
      いるんだ。」
  バドル「・・・でも、最近のスプリーム王子様は好奇心旺盛で・・・」
  レイク「・・・大丈夫に決まっているよ、バドル・・・。兎に角、もう一
      度よく捜そう・・・」
  バドル「はい・・・」

         其々、上手下手へ去る。
         舞台中央スポットに、寒そうに震えながら
         膝を抱え座り込んだ一人の少年(スプリーム)
         浮かび上がる。
         激しい風雪が吹き荒ぶ、雪山のよう。

  スプリーム「・・・すごく・・・寒い筈なのに・・・感覚がないや・・・も
         う・・・駄目だよ・・・一歩も歩けない・・・こんなところで
         僕・・・死んでしまうのかな・・・父様・・・母様・・・ごめ
         んなさい・・・言い付けを守らなくて・・・雪山を冒険し
         ようだなんて思い付いた僕を許してね・・・(倒れ込む
         。)・・・眠いよ・・・」

         一時置いて、デビル、スポット上に登場。
         倒れているスプリームを、見下ろす。

  デビル「・・・おい・・・」
  スプリーム「・・・う・・・ん・・・」
  デビル「・・・死ぬつもりか・・・?」
  スプリーム「(ゆっくりデビルを見上げる。)」
  デビル「尤も、この吹雪の中じゃ死ぬつもりも何も・・・放って置
       いたって、死んでしまうだろうがな。(笑う。)ところで・・・
       死ぬつもりはさて置き・・・」
  スプリーム「・・・死にたいだなんて・・・」
  デビル「そのつもりで今ここに横たわっているんじゃないのか?
       」
  スプリーム「・・・死にたくないよ・・・」
  デビル「ほう・・・。人間ってのは、変わった生き物だ・・・。つまり
      おまえは死にたくないのに、今まさに死の淵にいる・・・そ
      うだろ?・・・生きたいか・・・?」
  スプリーム「・・・勿論・・・」
  デビル「・・・助けてやろうか・・・?」
  スプリーム「・・・え・・・?」
  デビル「おまえの命・・・この私が助けてやってもいい。」
  スプリーム「・・・本当に・・・?」
  デビル「その代わり・・・その代価はちゃんと払ってもらう・・・。」
  スプリーム「・・・代価・・・?」
  デビル「ああ・・・なぁに、たいしたことじゃない・・・。それよりおま
      えは、もっと生きたいのだろう?もっと生きて、まだまだや
      りたいことが山のようにある・・・」
  スプリーム「・・・うん・・・僕はまだ死にたくない・・・分かったよ・・・
         僕を助けてくれるなら・・・僕に出来ることは何だって
         する・・・約束するよ・・・だからお願い・・・僕を助けて
         ・・・」

         その時、カミナリ音が轟き渡る。

  デビル「分かった・・・おまえの望みを叶えてやろう・・・」
  スプリーム「・・・ありがとう・・・。・・・あなたは・・・誰・・・?」
  デビル「・・・私は・・・デビル・・・魔国の王だ・・・」
  スプリーム「・・・デビル・・・悪魔・・・?(意識がなくなる。)」

         フェード・アウト。
         舞台薄明るくなる。と、1場の様子。
         (デビル、片手に赤ん坊を抱かえている。)

  スプリーム「・・・おまえはあの時の・・・」
  デビル「・・・思い出したかな?」
  ハーティ「あなた・・・約束って一体・・・」
  スプリーム「・・・あの時の・・・あれは・・・」
  デビル「約束通り、この子は私が頂いていくことにする。」
  ハーティ「アトラス!!あなた!!アトラスが・・・!!」
  スプリーム「まっ・・・待ってくれ・・・!!頼む・・・他に望むものは
         何でも用意させる!!だから、その子だけは・・・!!
         金でも宝石でも・・・何でも・・・」
  デビル「・・・私を、金や宝石を欲しがる低俗な人間と一緒にして
       もらっては困るよ・・・。私が欲しいのは、私の跡継ぎだ。
       王家の血筋を持つ跡取りだ。この印を持つ者・・・(赤ん
       坊の手を見る。)」

         デビル、上手方へ去る。その後を追おう
         とするスプリームの前に、黒尽くめの男たち
         が立ち塞がる。

  スプリーム「・・・待て!!待ってくれ!!どけ!!どかないと・・・
         (剣を抜き、男たちの方へ差し向ける。)おまえたちを
         殺してでも・・・!!」

         男たち、顔を見合わせ不適に微笑むと、
         スプリームの前でマントを翻し、其々
         上手下手へ走り去る。
         スプリーム、その翻したマントに煽られる
         ように、手にしていた剣を思わず落とし、
         膝をつく。

  ハーティ「あなた!!(駆け寄る。)」
  スプリーム「糞う・・・!!アトラス・・・アトラス!!」

         暗転。

    ――――― 第 2 場 ―――――

         音楽流れる。
         下手客席より、穏やかな顔付きの一人の
         少年(アトラス)、歌いながら登場。上手方へ。
         途中、咲いている一輪の花に気付き、そっと
         手に触れ、愛でるように。

         “美しい花を見た時
         美しいと思うことはいけないことなの?
         可愛い生き物に触れる時
         優しい気持ちになるのは悪いこと?
         冷たく冷酷に・・・
         飽くまで冷淡に・・・
         僕には分からないその意味が・・・
         美しい花を見た時
         踏み付けて通り過ぎる無関心・・・
         可愛い生き物に触れた時
         その命の芽を摘む平常心・・・
         それが大切なことだと言うけど
         僕には分からない
         その意味が・・・”

         上手客席より、黒尽くめの男、登場。
         アトラスを認め、近付く。

  男「アトラス様・・・こんなところにお出ででしたか・・・。デビル様
    が、お捜しになっておられます。お城へお戻り下さい。」
  アトラス「・・・うん・・・分かった・・・」

         アトラス、男、上手客席へ去る。
         入れ代わるように、上手舞台より成長し、
         幾分険しい顔付きの青年になったアトラス、
         歌いながら登場。下手方へ。

         “暗いこの世に必要なのは
         暗い心と憎しみ溢れる冷たい眼差し
         暗いこの世に相応しいには
         ただ心もなく見詰める冷静な眼差し
         降り注ぐ陽の光を遮る厚い雲が
         辺りを包む・・・
         暗黒の世界が訪れ
         この世は我々のもの”

         アトラス、足元に咲いていた一輪の花に
         気付き、踏み付けようと足を上げるが、
         躊躇し足を下ろす。












      ――――― “アトラス”2へつづく ―――――



























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