2013年5月2日木曜日

“イルカのキューイ” ―全7場― 2


         そこへキューイ、幾分不安気に、回りを
         見回しながらゆっくり登場。
         (ドーン、中央テーブルにつく。)

  ドーン「・・・何か用か・・・?」
  キューイ「あの・・・ドーン婆さんですか・・・?」
  ドーン「いかにも・・・私はドーンだが・・・」
  キューイ「僕はイルカのキューイ・・・あの・・・ドーン婆さんは、僕
       達、海の国の者の願いを何でも叶えてくれる、魔法使い
       なんでしょ・・・?キューイ・・・」
  ドーン「確かに・・・それが私の生業ではあるが・・・それが何か
      ・・・?」
  キューイ「僕・・・お婆さんにお願いがあって・・・!!キューイ・・・
        」
  ドーン「願い・・・?タダでは聞かんぞ。それでもよければ、おまえ
      は私の客だ。何でも願いを言うてみるがいい。」
  キューイ「あの・・・僕・・・お金は持ってなくて・・・キューイ・・・」
  ドーン「金などいらんわ。」
  キューイ「え・・・?」
  ドーン「金などいらんと言っておるんじゃ。」
  キューイ「じゃあ何を・・・キューイ・・・」
  ドーン「・・・ヒレじゃ・・・」
  キューイ「・・・ヒレ・・・?」
  ドーン「そうヒレじゃ・・・」
  キューイ「ヒレって・・・キューイ・・・」
  ドーン「おまえのその両胸についておるヒレ・・・そのヒレを、願い
      を叶える為のお代として、私が貰い受ける。」
  キューイ「ヒレを・・・(胸ビレを見る。)このヒレがなくなったら僕
       ・・・キューイ・・・」
  ドーン「なぁに、ヒレと言っても片方だけだ。片方のヒレがなくな
      ったとしても、おまえにはもう片方のヒレが残っておるでは
      ないか・・・。なら、海の国で生活するのに、何の不自由も
      ないのじゃあないか・・・?」
  キューイ「・・・でも・・・キューイ・・・」
  ドーン「先ずは“願い”とやらを、試しに言ってみるがいい・・・」
  キューイ「僕・・・僕・・・人間の島へ行きたいんだ・・・キューイ・・・
        」
  ドーン「人間の島・・・?」
  キューイ「うん・・・僕・・・どうしても人間になりたいんだ・・・キュー
       イ・・・人間になって・・・人間の島へ行きたいんだ・・・!!
       キューイ・・・」
  ドーン「ほう・・・おまえの願いは珍しい願いだな・・・。おまえはそ
      の姿が気に入らんのか?」
  キューイ「違うんだ、キューイ!僕はイルカの姿が嫌なんじゃな
       いんだ・・・僕は・・・僕は陸へ上がりたいだけなんだ・・・!
       キューイ・・・」
  ドーン「(ニヤリと微笑む。)ならば・・・おまえの願い、叶えてやろ
      う・・・」
  キューイ「・・・え・・・?」
  
         ドーン、後方棚より一つの小瓶を取り出し、
         キューイの前へ差し出す。

  キューイ「これは・・・キューイ・・・」
  ドーン「この中の薬を飲めば、おまえの望む人間に忽ちなれる
      ・・・。」
  キューイ「人間に・・・」
  ドーン「ああ・・・。呉呉も言っといてやる・・・一口だけ飲むんだぞ
      ・・・。いっぺんに全部飲み干すと、二度とイルカの姿には
      戻れなくなる・・・。私の作る薬は、どれもこれも強力だか
      らな・・・。(笑う。)」
  キューイ「・・・そうなんだ・・・」
  ドーン「だが・・・一口だけ飲めば、好きな時にだけ人間の姿にな
      れるのだ・・・。」
  キューイ「・・・けど・・・この薬を貰えば・・・僕のヒレ・・・なくなるん
        だよね・・・キューイ・・・」
  ドーン「本来ならば、どんな願いも片ヒレと交換なんだが・・・特
      別におまえだけ・・・違うものを代金としてやってもいいぞ
      ・・・」
  キューイ「違うもの・・・?」
  ドーン「ああ・・・。」
  キューイ「本当に・・・?」
  ドーン「(頷く。)」
  キューイ「それは何・・・?僕が用意出来るものなの・・・?キュー
        イ・・・」
  ドーン「ものではない・・・」
  キューイ「・・・え・・・」
  ドーン「なぁに、難しいことではない・・・。人間となり、島へ上がっ
      た時に・・・ちょっとしたことをしてくれればいいんだ・・・」
  キューイ「ちょっとしたことって・・・キューイ・・・」
  ドーン「ああ・・・ちょっとしたことだ・・・」
  キューイ「・・・それは・・・どんなこと・・・?」
  ドーン「島の南方の丘の上に・・・小さな祠がある・・・」
  キューイ「祠・・・?」
  ドーン「そうだ・・・。その祠に巻いてある鎖を、この・・・(後方棚
      からハサミを取り、キューイの方へ差し出す。)ハサミを使
      って切ってくるのだ・・・」
  キューイ「・・・(ハサミを受け取る。)このハサミで・・・キューイ・・・
        」        
  ドーン「ああ・・・。そうすれば、おまえはこの薬を使って、いくらで
      も好きな時に人間の姿となり、島へ上がることができるぞ
      。」
  キューイ「・・・分かった・・・分かったよ、キューイ!!僕、お婆さ
       んの言う通りにする・・・!!」
  ドーン「それでは直ぐにこの薬を一口飲み、人間の島へ行け・・・
      。丁度今日は年に一度の島の祭の日だ。島民達は騒ぎ
      浮かれて、容易に祠に近寄ることが出来るであろう・・・。」
  キューイ「うん・・・」
  ドーン「それと・・・よいか?このことは誰にも・・・決して誰にも言
      うではないぞ。特に・・・海の王にはな・・・」
  キューイ「・・・どうして・・・?」
  ドーン「おまえの望みが叶ったのだから、それでいいではないか
      !!誰に言い触らすことがあろう!!」
  キューイ「・・・お婆さん・・・う・・・うん・・・」

         フェード・アウト。

  ドーンの声「(笑う。)結界さえとければ・・・海の国だけでなく、人
         間の島諸共この手で始末してやる!!(笑う。)」

    ――――― 第 4 場 ―――――

         カーテン前。
         下手よりウオレット、上手より王、登場。

  王「ウオレット!アリアは帰って来たか?」
  ウオレット「王様・・・それがまだ・・・」
  王「いくら人間と共存することになったからと言って、アリアはこ
    のところ海の上へ行き過ぎる感があるようだ。飽く迄アリアに
    は海の国の者だと言う自覚を持たせないと駄目だぞ、ウオレ
    ット。」
  ウオレット「はぁ・・・」

         音楽流れ、王、ウオレット歌う。

     ウオレット“少し前までこのじいを
            甘え頼りにして来たのに
            いつの間にやら海の外
            興味が尽きぬお姫様”

         王“甘やかさずにきた筈だ
           夢中になると見境なく
           走り出す呆れた娘
           程々に・・・
           いつも言い続けて来たことだ”

  王「しかし・・・今回は・・・」

         王“我々は海の者
           陸で暮らす術はない
           油断をすれば飲まれるぞ
           水がなければ命はない”

  ウオレット「命が・・・」

         その時、下手より家臣魚、登場。

  家臣魚「王様!」
  王「どうした?」
  家臣魚「何やら海が荒れてきたようです!」
  王「・・・何?」

         頭を下げ、家臣魚下手へ去る。

  ウオレット「王様・・・海が荒れてきたとは・・・嵐でも来るんでしょ
        うか・・・」
  王「・・・うむ・・・今朝は嵐など来る気配もない、穏やかな空模様
    であったが・・・。まぁ、だが用心に越したことはないな・・・。ウ
    オレット、人間の島へアリアを迎えに行ってくれ。海が荒れる
    前に・・・」
  ウオレット「分かりました。」

         ウオレット、下手へ去る。

  王「しかしこの時期、急に嵐の様相だなどと・・・何か嫌な予感が
    するのは・・・取り越し苦労であってくれれば良いのだが・・・。
    」

         王、考えているように上手へ去る。

    ――――― 第 5 場 ―――――

         カーテン開く。と、人間の島。
         俄かに風の音が強く、辺りは薄暗く嵐の前
         のよう。
         (南の丘に立つ、祠の前。)
         村長とラダン、切れた鎖を手に話している。

  村長「なんてことだ・・・こんなに太く頑丈な鎖が・・・いとも簡単に
     切断されただなどと・・・。一体誰が・・・」
  ラダン「(鎖を見て。)これはちょっとやそっとじゃ切れない鎖なん
      ですよね・・・村長・・・」
  村長「ああ・・・。結界の祈りが入る、神の鎖だからな・・・。普通
     の斧や鎌では、こんなにスッパリとは切れまい・・・」
  ラダン「一体何で切り離したんでしょう・・・」
  村長「この鎖がこんな風に切り口の綺麗な切れ方をすると言う
     のは・・・あまり考えたくはないが・・・何か人間の力以外の
     ・・・良からぬ魔力か何かがかかったものを、使って切った
     としか思えない・・・」
  ラダン「魔力のかかったもの・・・って一体・・・」
  村長「それはわしにも分からないが・・・」

         カミナリの音が聞こえてくる。(段々大きく。)

  村長「(空を見上げて。)何やらこの空の様子も気になるところだ
     からな・・・」

         その時、下手より杖をついた老婆(島の
         婆さん。)ゆっくり登場。

  老婆「村長・・・」
  村長「(老婆を認める。)おお、婆さんじゃあないか・・・」
  老婆「(ラダンが持っている鎖に気付き。)矢張り・・・」
  村長「え・・・?」
  老婆「矢張り・・・鎖が切れておったか・・・」
  ラダン「どうして分かったんだ?」
  老婆「この空と海の様子を見れば一目瞭然じゃ・・・。こんな様子
     はただ事ではないじゃろう・・・」
  ラダン「お婆さん!!この鎖、何とかならないんですか?」
  老婆「(鎖を手に取り。)こんな風に魔力で切られた鎖はもう、元
     には戻らん・・・。新しい結界の鎖とて、そう直ぐには用意は
     出来ん・・・」
  村長「どれくらいで新しい鎖は用意出来るんだ、婆さん・・・」
  老婆「魔力を封じ込める程の力を秘めた、結界の鎖を作るには
     ・・・少なくとも一ヶ月はかかるじゃろう・・・」
  ラダン「一ヶ月・・・」
  老婆「一ヶ月も待てんのじゃないか・・・?」
  村長「確かに・・・だが今は、海の国の者達と我々人間は仲良く
     ・・・」
  老婆「馬鹿者!この鎖を魔力のかかったハサミで切断したのは
     、友好的な海の者ではないに決まっておろう!!第一、こ
     の鎖は悪の心を持つ海の者を、島の中へ入れない為のも
     の・・・。最初から友好的な海の者には、何の効き目もない
     わ・・・。あのゴーザとて、洞穴から島の方へは出て来れん
     かったろう・・・?」
  ラダン「なる程・・・」
  村長「・・・では・・・一体誰が・・・」
  老婆「ゴーザ・・・」
  ラダン「え!?カニの姿に代えられた筈の島の主だったゴーザ
      が、また復活したのかい?」
  老婆「違う!人の話しを最後まで聞かんか!ゴーザではない・・・
     !ゴーザと共に、海の王に海の国を追放された、もう一人
     の海の海獣・・・ドーンじゃ・・・。」
  村長「・・・ドーン・・・?」
  老婆「その昔・・・2人は同じようにいつも一緒に悪いことばかり
     しておった為に、海の王の怒りをかい、2人共、海の国を追
     放されたんじゃ・・・。そうしてその一人・・・ゴーザは人間の
     島へとやって来て、我々を長年苦しめた島の主となり、今
     まで島に君臨しておったのじゃ。そしてもう一人・・・同じよう
     に追放されたドーンは・・・」
  ラダン「ドーンは・・・?」
  村長「どうしたのだ・・・?」
  老婆「海の外れ・・・どんな魚達も恐ろしくて寄り付かないような
     海の外れの・・・洞窟の中でひっそりと・・・暮らしておったよ
     うじゃ・・・。」
  ラダン「海の外れ・・・」
  村長「でもそのドーンが何故・・・?」
  老婆「さぁ・・・わしにもそこまではよく分からんが・・・何やら怪し
     げな魔術を会得し、魚達の願いを叶える魔法使いとして・・・
     暮らしておったようじゃが・・・あのドーンのことじゃ・・・ただ
     で魚達の願いを叶えてやっておったとも考えられん・・・。何
     か良からぬことを企んで・・・そして今こうしてこの島の結界
     の鎖を切るような真似をしでかしたんじゃろう・・・。」
  村長「良からぬこと・・・?」
  老婆「そう・・・良からぬことじゃ・・・。但し今はまだドーン自身が
     自ら動いておる訳じゃあなさそうじゃぞ・・・」
  村長「え・・・?」
  老婆「のぉ・・・そこにおる少年・・・」      ※
  ラダン「少年・・・?」

         その時、祠の後ろからハサミを手に持った
         キューイ、登場。

  キューイ「ごめんなさい!!僕・・・まさかこの鎖がそんな風にこ
        の島を守ってる鎖だなんて知らなくて・・・キューイ!!
        」
  老婆「そなたは・・・」
  キューイ「僕は海の国に住むイルカのキューイ・・・」
  村長「イルカ・・・?」
  ラダン「どう見たってイルカには見えないけど・・・」
  老婆「ドーンの薬で、人間の姿にしてもらったか・・・?」
  キューイ「うん・・・その代金の代わりに・・・この祠の鎖を切って
       こいって・・・だから僕・・・」
  老婆「代金・・・?では他の魚達からは、金を取るのか?」
  キューイ「(首を振る。)ううん・・・他の魚達からは片ヒレを・・・願
       いを叶える代金として、自分が貰い受けるんだって・・・
       そう言ってた・・・。」
  ラダン「片ヒレ・・・?」
  老婆「・・・なる程・・・分かったぞ・・・」
  村長「婆さん・・・?」
  老婆「ドーンは魚達からもぎ取ったヒレを集め、団扇を作ってお
     るんじゃ・・・。」
  キューイ「・・・団扇・・・」
  老婆「そうしてその団扇を使って大風をおこし、結界のなくなっ
     たこの島諸共、海を目茶苦茶にするつもりじゃ。」
  村長「何だって・・・!?」
  老婆「昔から、魚達のヒレには摩訶不思議な力が宿っていると
     言われておったんじゃ・・・。そのヒレの力は強大で、数が集
     まればどんなことでも出来る、計り知れない力を蓄えた・・・
     何かが出来ると・・・」
  キューイ「そうなの・・・?」
  老婆「この空の様子だと・・・その団扇はまだ未完成の筈じゃ・・・
     。先ずはこのキューイに鎖を切らせ、それから・・・。団扇が
     完成すれば手に負えん!!何とかしてその団扇をドーンの
     手から取り上げねばならんぞ!!」
  村長「だがどうやって・・・」
  老婆「一先ず、海の王と話しをせねば!!我々人間が、ドーン
     のいる海の中へ入ることは出来んのじゃから・・・。」
  キューイ「僕が・・・!!僕にもお手伝いさせて下さい!!だって
       ・・・僕がこの鎖を・・・だから!!」
  老婆「キューイ・・・うむ・・・これからしようとすることは海の中で
     のこと。そなたの力が必要不可欠じゃ。頼んだぞ。」
  キューイ「はい!!」

         音楽流れキューイ、スポットに浮かび上がり
         歌う。

         “僕が・・・責任を取らなくちゃ
         いくら・・・知らなかったことだとしても
         僕は・・・僕がしたことを
         少しだけ・・・怖いけど
         勇気を出すんだ
         僕は海の国に住む・・・
         イルカのキューイなんだ・・・”

  キューイ「アリア・・・」

         フェード・アウト。






    




   ――――― “イルカのキューイ”3へつづく ―――――












    ※ この台詞、どこかで聞き覚えがありませんか~・・・?

  
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