王「他の魚達の片ヒレも、元に戻してやらなければならないな。」
キューイ「王様・・・」
王「(団扇を手に取り。)怪しい魔力により囚われたヒレ達よ!今
直ぐ本来の主の元へと帰るが良い!!」
団扇を形作っていたヒレ達、其々に
飛び去る。
キューイ「(片ヒレが元に戻る。)あ・・・ヒレが・・・!王様!キュ
ーイ!」
王「うむ・・・。ではキューイ、そろそろ我々も城へ戻るとするか。
そうだ、キューイ・・・。自分の力でない・・・何かを犠牲にして
手に入れた願いは・・・叶ったと言えるものではないのだぞ・・・
。」
キューイ「王様・・・キューイ・・・」
王「願いを叶える薬なんてものは、一歩使い方を間違えると、と
ても危険なものなのだ・・・。分かるな、キューイ。願いは自分
の手で叶えるもので、誰かの手によって叶えてもらうもので
はない・・・。」
キューイ「はい、王様・・・キューイ・・・」
王「ではその人間になる薬はここへ置いて行きなさい。」
キューイ「・・・え・・・?」
王「そんなものが何の役に立つと言うのだ?おまえはイルカの
姿が不満か?」
キューイ「(首を振る。)」
王「ならば、そんな薬は必要ないであろう?」
キューイ「・・・はい・・・(薬瓶をテーブルの上に置く。)」
王「何故、アリアにしてもおまえにしても、人間に強い興味を抱く
のか、私にはよく分からないぞ・・・。」
キューイ「僕は・・・アリアが・・・」
王「ん?アリアが・・・?」
キューイ「・・・いいえ・・・王様・・・」
王「アリアもそのことは承知しているものだと信じているが・・・最
近は人間達のところへ足繁く通っているのが、心配であるの
だ・・・。おまえもそう思うであろう?」
キューイ「(頷く。)僕は・・・陸の上へは上がれないから・・・キュ
ーイ・・・アリアが水切れをおこしても・・・僕には何も・・・
できないから・・・キューイ・・・」
王「・・・キューイ・・・おまえのような良い友を置いて、アリアは全
く・・・(溜め息を吐く。)」
キューイ「あ・・・あの・・・王様・・・キューイ・・・」
王「ん・・・?」
キューイ「・・・ぼ・・・僕・・・キューイ・・・」
王「どうしたのだ?(暫く、キューイの様子を見て、何かに気付い
たように。)今回のドーンの悪事を無事解決出来たのは、キ
ューイ・・・おまえのお陰であったな・・・。うむ・・・そうだキュー
イ、これを・・・(懐からテープを取り出す。)」
キューイ「え・・・?」
王「誰か島の人間に頼もうと思っていたのだが・・・。おまえがも
う一度、その人間になる薬を使って人間の島へ行き、このテ
ープを祠に結び、再び人間の島へ良からぬ者が足を踏み入
れぬよう、封印をかけて来てはくれまいか?」
キューイ「・・・王様・・・?」
王「誰か人間が行くよりも、切った張本人が行く方が、元の通り
に結界を結び易いのではないか?(笑う。)」
キューイ「・・・僕・・・」
王「さぁ、せっかく手に入れた薬であろう・・・?今一度、人間の姿
となり、アリアに会ってくるがよい・・・。祭はまだ終わってない
ぞ・・・。(微笑む。)」
キューイ「(テープを受け取り見詰める。)・・・うん・・・うん!!あ
りがとう、王様!!キューイ!!」
キューイ残して、カーテン閉まる。
――――― 第 6 場 ――――― B
カーテン前。音楽流れ、キューイ歌う。
“ずっと夢見てたんだ
君と同じように陸に上がる
ことの出来る人魚の姿に・・・
そして砂地を踏み締めてみたい
そう思っていたんだ
この小さなヒレで・・・
今まで憧れ続けた
そんな思いは夢で終わると思ってた
けど今は・・・
僕は君のナイトになる!”
キューイ「アリア・・・僕はもう一度、君に会いに行くよ!!人の
形となって、君がいる陸の上へ!!」
キューイ、上手へ去る。
――――― 第 7 場 ―――――
カーテン開く。と、島の海岸。
下手よりルディ、走り登場。
ルディ「アリアー!!こっちだよー!!こっちこっち!!」
アリアの声「ルディー!!待ってよー!!」
ルディ「早く行かないと、神輿が行っちゃうよーっ!!」
ルディ、上手へ走り去る。
入れ代わるように下手より、アリア走り登場。
アリア「待ってー!!(息を切らせて。)矢っ張り、ヒレだと走り難
いわ。人間のように2本の足でないと・・・。」
そこへ上手より、人間の姿をしたキューイ、
アリアを見詰めながらゆっくり登場。
アリア「今度、魔法使いのお婆さんに、ヒレが2本の足に変わる
薬を作ってもらおうかしら・・・あ、痛っ・・・(下を見る。)」
キューイ「(アリアに駆け寄る。)どうしたの?」
アリア「(キューイを認める。)・・・あなた・・・この間の・・・」
キューイ「見せて・・・(アリアの足ヒレを見て。)貝殻で切ったん
だね・・・少し血が出てる。」
アリア「血!?」
キューイ「大丈夫!こっちへ来て!」
キューイ、アリアに手を貸し、横の岩へ腰
を下ろすように導く。
肩に掛けていたポーチから水筒を取り出し、
アリアのヒレにかけ、傷の手当をする。
キューイ「さぁ、綺麗になった!後は薬を塗ってあげるね!僕、
すごくよく効く薬を持っているんだ!(ポーチから、貝殻
の形をした入れ物に入った薬を取り出し、アリアの傷へ
塗る。)」
アリア「(薬入れを見て。)・・・その薬・・・」
(アリアの回想。)
主舞台、薄暗くなる。後方段上スポットに、
幼いアリアとウオレット、浮かび上がる。
アリア「えーん・・・えーん・・・痛いよー・・・ウオレット・・・」
ウオレット「ほらほらアリア様、じいの言うことを聞かず、急いで
サンゴの間を摺り抜けたりなさるから・・・ヒレが少し傷
ついてしまったのですぞ。」
アリア「えーん・・・」
ウオレット「さぁ、もう泣かずとも、じいがこの海の国に代々伝わ
る貝の薬を、そのヒレに塗って差し上げますから・・・そ
うすれば忽ち傷は良くなりますぞ。」
アリア「本当・・・?」
ウオレット「じいが嘘を申したことがありますかな?この薬は、海
の国にしかない秘薬で御座いますからな。じいがちゃ
んと管理しておるんですよ。姫様も必要とあらば、いつ
でもこのじいにお申し付け下さいまし。ほら、もう大丈
夫で御座いますよ。」
アリア「ウオレット、ありがとう!!」
ウオレット「ホッホッホ・・・(木霊する。)」
後方スポット、フェード・アウト。
同時に主舞台、明るくなる。
キューイ「ほら!これでもう平気だよ。(微笑む。)」
アリア「・・・ありがとう・・・あなた・・・もしかして・・・」
キューイ「アリア・・・僕・・・今まで訳があって、ある場所から出る
ことが出来なかったんだ・・・」
アリア「ある場所・・・?」
キューイ「うん・・・すごく素敵ないいところなんだけど・・・僕はど
うしてもそこから出たくて・・・それで・・・」
アリア「どうしてそんな素敵な場所から、出たかったの・・・?」
キューイ「本当は出たかったんじゃないんだ・・・。僕は友達が夢
中になって、出掛けて行く場所に・・・一緒に行きたかっ
ただけなんだ・・・いつも・・・楽しそうに出掛ける友達の、
背中を見送ることしか出来なかったから・・・。何故なら
僕は・・・」
音楽流れ、キューイ歌う。
“ずっと夢見てたんだ
君と同じように陸へ上がる
ことのできる日がくることを・・・
いつも楽しそうに笑って出掛ける
君が行くその場所へ
僕も一緒に行きたかったんだ
ただそれだけだった・・・”
アリア「あなた・・・キューイ・・・なの・・・?」
キューイ「(頷く。)僕はアリアと違って・・・海から上がることの出
来ないイルカだから・・・キューイ・・・。だからもしアリア
が、この間みたいに陸の上で体の中の水分がなくなっ
て、危ない目にあっても・・・僕は・・・友達を助けに行くこ
とも出来ないんだ・・・キューイ・・・。君がいつも楽しそう
に、人間の島へ行くのが・・・本当は少し、淋しかったん
だ・・・僕・・・キューイ・・・。それに・・・これまでは、いつも
僕と一緒に、海の中で楽しく過ごしていたのに・・・今は
そんなことも忘れたかのように、いつもいつも・・・だから
・・・僕・・・」
アリア「キューイ・・・ごめんね・・・淋しい思いをさせて・・・。それ
で・・・ありがとう・・・私のことを心配してくれて・・・」
キューイ「アリア・・・」
アリア、歌う。
“知らなかったそんなこと
私はただ未知の世界が珍しくて
今まで見たことのないものや
色んな経験が嬉しくて
回りのことが見えていなかったのね・・・”
キューイ「ううん・・・僕が我が儘だったんだ、キューイ・・・。君に
忘れ去られるのが怖いだなんて・・・」
アリア「私の方こそ・・・自分のことしか考えていなかったのね・・・
。」
アリア、歌う。
“友達だからいつだって
忘れる訳ないあなたのこと
私の一番の友達なのよ
どこにいてもあなたは昔から・・・”
2人、歌う。
“2人は友達いつだって
姿形は違っても
2人は仲良しこれからも・・・”
アリア「来て!あなたにもルディや島の人達を紹介するわ!!」
キューイ「(首を振る。)」
アリア「どうしたの?」
キューイ「僕はもう・・・海の国へ帰らなきゃいけないんだ・・・」
アリア「え・・・?」
キューイ「王様との約束で・・・少しの時間だけ、人間の姿になっ
てアリアに会いに、人間の島へ来ることを許してもらっ
たんだ、キューイ・・・」
アリア「・・・お父様と・・・?」
キューイ「うん・・・だからもう帰らなきゃ・・・。海の国で僕・・・アリ
アが帰って来るのを待ってるよ・・・」
アリア「待って・・・!!折角、人間の姿になれたのに・・・」
キューイ「でも・・・約束だから・・・キューイ・・・」
アリア「お父様・・・お父様ー!!今の話し聞いてたんでしょ!?
お父様ー!!どこなのー!?(回りを捜すように。)」
王の声(エコー)「・・・なんだ、アリア・・・」
アリア「お父様!!キューイに自由に人間の島へ来る為の足を
あげて頂戴!!」
キューイ「アリア・・・キューイ・・・」
王の声(エコー)「何だと・・・?キューイに足をやれだと・・・?」
アリア「ええ!!お願い、お父様!!お父様なら出来る筈よ!!
キューイをイルカと人の人魚にすることが!!」
王の声(エコー)「それは出来ない相談だ・・・」
アリア「どうして!?お父様はいつも言ってたじゃない!!姿形
は違っても、生きてる者同士、皆仲良くしなきゃ駄目だっ
て!!」
王の声(エコー)「それがどうした・・・」
アリア「だからキューイにも、海の国でない人達と仲良く出来る
機会を与えてあげて欲しいの!!何も人間にしてと言っ
ているのではないわ。私と一緒にほんの少しの間、体に
水を蓄えて陸に上がることの出来る人魚にしてくれれば
いいの!!」
キューイ「アリア・・・」
その時、下手よりルディ登場。
ルディ「(宙を見回し。)王様!!王様!!僕からもお願いしま
す!!」
アリア「ルディ・・・?」
キューイ「ルディ・・・キューイ・・・」
――――― “イルカのキューイ”完結編へつづく ―――――
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