2013年5月15日水曜日

“アンドレ” ―全10場―


   〈 主な登場人物 〉

  
   アンドレ  ・・・  旅を続けている青年。

   ミリオッタ  ・・・  村に住む娘。

   ジャクリーヌ  ・・・  ミリオッタの姉。

   エリザベス  ・・・  アンドレの妹。

   アーサー  ・・・  ジャクリーヌの婚約者。

   エドワード  ・・・  村の医師。

   グレミン  ・・・  村の牧師。

   ジョセフ  ・・・  新聞記者。

   クリスト  ・・・  ジョセフの後輩記者。




 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪


    ――――― 第 1 場 ―――――
  
         鐘の音が鳴り響く中、幕が上がる。
         豪華な音楽が流れ、ライト・オン。
         すると、舞台上は草花が咲き乱れる
         小高い丘の風景。
         ポーズを取った3組の男女、楽しそう
         に歌い踊る。

         “明るい陽差しのように
         心も何故だか騒ぐ
         新緑の香り辺を包み
         体が何故だか踊る
         爽やかな風が頬を過ぎ
         その心地良さに身を委ねる

         変わりゆく季節に時の
         流れを感じて逸るように・・・
         春の息吹を感じながら
         若芽の間を縫う様に
         軽やかにステップ踏んで
         爽やかな風が頬を過ぎ
         その心地良さに身を委ねる”

         踊っていた男女、掛け声と共にポーズを
         取り、上手下手へ其々去る。
         優しい音楽流れ、上手奥よりどこか冷めた
         目をした、長身の一人の青年登場。
         (青年の名前はアンドレ。)
         アンドレ、歌いながらゆっくり中央前方へ。

         “この広い大地に生かされる限り
         決して我が心に安らぎが
         訪れることはないと
         ただ目覚めれば
         再び蘇る悪夢に
         この身を呪い生かされている限り
         決して幸せに満ちた平穏が
         訪れることはないと
         ただ繰り返す
         永遠の躊躇いに翻弄され
         明日への希望すら地の果てへと
         追いやる運命に抵抗さえ
         思いつかずに
         ただ流される・・・
         陽が昇り続ける限り
         明日と言う日が来る限り
         この命果てるその時まで
         ただ・・・生きるだけ・・・”

         遥か彼方に思いを馳せるように、
         遠くを見遣るアンドレ。
         フェード・アウト。(カーテン閉まる。)

    ――――― 第 2 場 ―――――

         ライト・アウトのまま、人々の暗い歌声が
         どこからともなく木霊するように聞こえて
         来る。段々と大きく。

         “おまえは死神だ!!
         おまえは死神だ!!
         おまえと関わった人間は
         たとえ血を分けた肉親さえ
         死の淵へと追いやる!!”

         人々の歌声、再び木霊するように遠ざかる。
         歌声に重なるように、嵐の為の風雨が
         吹き荒れる音が段々大きくなる。
         上手スポットにアンドレと、アンドレの妹
         エリザベス、風雨を避けるようにコートを
         深く被り、肩を寄せ合って小走りに下手へ
         走り去る。
         風雨の音、幾分小さく。
         フェード・インする。と、舞台はジャクリーヌ、
         ミリオッタ姉妹の屋敷。(居間。)
         中央、置かれたソファーにジャクリーヌ、腰
         を下ろしてレース編みに指を動かしている。
         ジャクリーヌの後方窓辺にミリオッタ、外の
         風雨を心配そうに見つめている。

  ミリオッタ「凄い嵐ね・・・」
  ジャクリーヌ「(編み物の手を休めて。)ええ・・・この時期にして
          は珍しいわね・・・。(ミリオッタの方を見る。)何か私
          には、自然が目に見えないものに感応して、唸り声
          を上げているように感じるわ・・・」
  ミリオッタ「(ジャクリーヌを見て微笑む。)何、変なこと言ってる
        の?結婚前って言うのはナーバスになるのかしら・・・
        (笑う。)それよりどう?来週結婚式をあげる花嫁さん
        の気分は。」
  ジャクリーヌ「(大きく溜め息を吐いて。)何だかまだ実感がなく
          て・・・」
  ミリオッタ「(ジャクリーヌの側へ来て、膝を付きジャクリーヌの手
        を取る。)・・・幸せになってね、お姉さん・・・」

         優しい音楽流れ、話し掛けるように
         ミリオッタ歌う。

         “いつも・・・いつもありがとう
         私の側で見守ってくれて
         とてもとても感謝してる
         私のことを愛してくれて”

  ミリオッタ「父さんや母さんが亡くなってから、ずっと私の為に働
        いてきてくれたんだもの、お姉さんには一番幸せにな
        ってもらいたいの。」
  ジャクリーヌ「ミリオッタ・・・ありがとう・・・。でも私がいなくなった
          ら・・・」
  ミリオッタ「大丈夫よ!!(立ち上がる。)私のことなら心配しな
        くたって!!こう見えても柔軟性があるんだから!!
        一人になったら一人になったで、何とかやっていける
        わ!!」
  ジャクリーヌ「(微笑む。)そうだったわね。(立ち上がる。)あなた
          は昔から、私なんかよりずっと行動力もあって、私
          の方がいつもどれだけあなたに助けられたか・・・」
  ミリオッタ「そうよ!お姉さんの方こそ、私がいなくなって大丈夫
        ?(笑う。)それより、アーサーは今日は来れないわね
        。来週になったら、もう嫌でも毎日顔を付き合わせて
        生活するって言うのに、毎日必ず仕事の帰りに、お姉
        さんの顔を見に寄るものね。」
  ジャクリーヌ「(窓の方を見て。)雨・・・益々酷くなるわね・・・」

         その時、風の音に紛れるように、扉を
         叩く音が聞こえる。

  ミリオッタ「誰か来た・・・」
  ジャクリーヌ「風の音じゃないの?」

         再び、微かに扉を叩く音。

  ミリオッタ「ほら!(扉の方へ駆け寄る。)」

         ミリオッタ、慌てて扉を開けると、雨具を
         頭からすっぽり被った一人の青年、風に
         押されるように入って来る。
         ミリオッタ、青年入ると扉を急いで閉める。

  ミリオッタ「・・・アーサー・・・?」
  アーサー「(雨具のフードを取って。)こんばんは。」
  ジャクリーヌ「アーサー!!(アーサーに駆け寄る。)どうしたの
          !?こんな嵐の日に!!」
  
         ミリオッタ、微笑ましく2人を見ながら、
         横のタンスの引き出しの中からタオル
         を出し、アーサーの方へ。

  アーサー「毎日、君の顔を見ないと安心して眠れないからね。」
  ミリオッタ「はい。(アーサーへタオルを差し出す。)」
  アーサー「(タオルを受け取って。)ありがとう、ミリオッタ。」

         ミリオッタ、2人から離れ、ソファーへ腰を
         下ろし、テーブルの上に置いてあった本を
         取って、読む。

  ジャクリーヌ「だけど・・・」
  アーサー「どうした?それとも君は僕に会いたくなかった?(微
        笑む。)」
  ジャクリーヌ「そんなこと!!勿論、会えて嬉しいわ!!」
  アーサー「だったらよかった。それより今日は、午後から全く酷
        い風雨だったよ。配達の荷物が雨に濡れやしないか
        と心配する前に、飛ばされやしないかとヒヤヒヤもの
        さ。(笑う。)」
  ジャクリーヌ「(心配そうに。)大丈夫だったの?」
  アーサー「勿論!力だけは人一倍あるものでね。さぁて、ジャク
        リーヌの顔も見れたことだし、雨がこれ以上酷くならな
        いうちに帰るとするかな。」
  ジャクリーヌ「ええ。」
  アーサー「そうだ、ミリオッタ!(ミリオッタの方を向いて。)君は
        本当に僕たちと一緒に暮らさないのかい?(雨具のフ
        ードを被りながら。)」
  ミリオッタ「ええ!」
  アーサー「僕たちに気を遣うことはいらないんだよ。」
  ミリオッタ「ご心配なく!私のことなら誰に気を遣ってる訳でもな
        くて、本当に一人で大丈夫なんだから!アーサーの方
        こそ私に気を遣わないで、ジャクリーヌとの新婚生活
        を満喫して頂戴!」
  アーサー「OK。まぁ、目と鼻の先にいるんだ、何かあったらいつ
        でも飛んで来るから!」
  ミリオッタ「ありがとう、お兄さん!」
  アーサー「(微笑んで。)ジャクリーヌの大切な妹は、僕にとって
        も大切な妹だからね。じゃあジャクリーヌ、僕が帰った
        後はちゃんと戸締りするんだよ。おやすみ!(ジャクリ
        ーヌの頬にキスする。)」
  ジャクリーヌ「おやすみなさい。」
  アーサー「さよなら、ミリオッタ!(手を上げる。)」
  ミリオッタ「さよなら!(手を振る。)」

         アーサー、扉を開けて素早く出て行く。
         ジャクリーヌ、扉を閉めて、窓から外を
         見る。

  ミリオッタ「(ジャクリーヌの側へ。)いい人ね、私のお兄さんにな
        る人は。」
  ジャクリーヌ「(振り返って。)アーサーもああ言ってるんだし、私
          たちと一緒に暮らしたって構わないのよ、ミリオッタ
          。」
  ミリオッタ「もう、その話しは無し!私は父さんや母さんがたった
        一つ・・・残してくれた、この家を守っていくから・・・。今
        までお姉さんが守ってくれたこの家を、今度は私が・・・
        守っていくから・・・。」
  ジャクリーヌ「・・・ミリオッタ・・・分かった・・・もう言わないわ。」

         ジャクリーヌ、ミリオッタ、ソファーの方へ。
         その時、扉をノックする音が聞こえる。
         2人、扉の方を向く。

  ミリオッタ「アーサーかしら?(扉の方へ行く。)」

         ミリオッタ、扉を開けると、黒いコートに身を
         包み、肩を寄せ合うようにアンドレとエリザベス
         入って来る。

  ミリオッタ「(戸惑ったように。)あの・・・」
  アンドレ「突然、すまない・・・」
  ミリオッタ「(2人の様子を見て。)こんなに濡れてちゃ、風邪をひ
        くわ!もっと中へどうぞ!お姉さん、暖炉に火を入れ
        て!」
  ジャクリーヌ「ええ。(暖炉の方へ行き、薪を焼べる。)」

         ミリオッタ、エリザベスの肩を抱いてソファーの
         方へ。アンドレ、2人に続く。

  ミリオッタ「さぁ、コートを脱いで!(エリザベスのコートを脱がせ、
        ソファーへ腰を下ろさせる。アンドレの方を向いて。)
        あなたも!」

         ミリオッタ、タンスの引き出しよりタオルを
         出して、アンドレに渡す。

  アンドレ「(タオルを受け取り。)ありがとう・・・。エリザベス・・・(
       タオルを一枚、エリザベスへ渡す。)」
  
         ミリオッタ、テーブルの上のポットからカップへ
         飲み物を注ぎ、2人へ其々手渡す。

  ジャクリーヌ「一体どうなさったんです?こんな嵐の中を・・・」
  ミリオッタ「見かけない・・・顔ね・・・旅の方?」
  アンドレ「(頷く。)・・・私はアンドレ・・・こっちは妹のエリザベス
       ・・・。今日中にもう一つ向こうの村まで行って、宿を取
       るつもりだったのですが、この嵐で思うように進むこと
       が出来なくて・・・。雨具も持たず、途方に暮れていたと
       ころ、ここの灯りが見えたので・・・思わず扉を叩いてし
       まいました・・・。ご迷惑でしょうが、妹の為に今夜一晩
       だけ、ここで風雨を凌がせて頂きたい・・・。頼みます・・・
       。(頭を下げる。)」
  ミリオッタ「そう言うことでしたら・・・ね、お姉さん。」
  ジャクリーヌ「ええ・・・。宿屋のないこの村に、こんな嵐の中、旅
          のお方を放り出すようなことは出来ませんわ。どう
          ぞ粗末な家ですけれど、我が家でくつろいで行って
          下さい。」
  アンドレ「ありがとう・・・」
  ミリオッタ「丁度、一部屋空いてるし・・・」
  ジャクリーヌ「ええ。」
  アンドレ「いや・・・もうここで・・・」
  ミリオッタ「あなたはソファーで良くても、妹さんが駄目よ。」
  ジャクリーヌ「そうね。どうせ使ってない部屋ですし・・・どうぞ・・・
          (手で奥を示す。)」
  アンドレ「・・・(少し躊躇ったような面持ちをするが、頷いて。)・・・ 
       じゃあ・・・(エリザベスの方を向いて。)エリザベス・・・」

         ジャクリーヌ、アンドレとエリザベスを引率
         するように、先に奥へ入る。
         アンドレ、エリザベス、ジャクリーヌに続く。

  ミリオッタ「後でお食事をお持ちしますわ!!」

         ミリオッタ、何故だか分からないが、心が
         時めくのを感じたように頬を紅潮させ、
         瞳を輝かせて2人が入るまで、その方を
         見ている。
         入るのを見計らって正面。嬉しそうに、何
         か期待に胸膨らませるように遠くを見遣り、
         音楽でカーテン閉まる。
         








       ――――― “アンドレ”2へつづく ―――――

















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