2013年5月28日火曜日

“古びた洋館の隠れた住人・・・” ―全6場― 完結編

     ルルル「どうしてマーサが・・・」

         そこへマーサ、下手より登場。

  マーサ「私が何か・・・?」
  ドン、デン、グン、ポー「わ・・・わあーっ!!またお化けだーっ!
                !」

         ドン、デン、顔を上げる。

  ドン「・・・って・・・もういいぜ。お化けは見慣れた。」
  デン「うん・・・」
  グン「えーっ・・・!?」
  ポー「おじさんたち怖くないのー・・・!?」
  ドン「俺たちは大人だからな。(笑う。)」
  デン「そ・・・そう言うこと・・・。いつまでも怖がっちゃいられないっ
     て・・・(マーサをチラッと見て。)で・・・でも・・・やっぱり・・・
     ちょっと・・・こ・・・怖い・・・」
  マーサ「(恐ろし気な声で。)何なんですか!!この人間たちは
       !!」
  デン、グン、ポー「わあーっ!!(手を取り合って震える。)」
  ルルル「マーサ・・・」
  ドン「・・・あんたがマーサ・・・?」
  マーサ「誰!?あなたたちは!!危険ですわ、お嬢様方!!早
       くこちらへ!!」
  ラララ「マーサ、大丈夫よ。ここにいるのはただの人間・・・。私た
      ちには、子ねずみ程も恐ろしくないわ。ねぇ、ルルル・・・(
      笑う。)」
  ルルル「ええ・・・(笑う。)」
  ドン「・・・悪かったな・・・」
  マーサ「まぁ、お嬢様たちったら・・・。でも、そのただの人間がど
       うしてここに!?」
  ドン「(咳払いをする。)それはだな・・・」
  マーサ「事と次第によっては・・・生きてここから帰れると思わな
      いことね・・・」
  デン、グン、ポー「ヒーッ!!」
  ドン「ま・・・まぁまぁ・・・待ってくれよ、そんな怖い顔しないで・・・」
  マーサ「怖い顔ですって・・・!?」
  ドン「ヒッ・・・(思わず目を伏せる。)あ・・・あの・・・だから少し落
     ち着いて・・・」
  マーサ「フン!私はいつも落ち着いてますわ!さぁ、何故生きた
      人間がこの屋敷の中をウロウロしているのか、教えて頂
      きましょうか・・・?」
  ドン「あ・・・そうそう・・・では先ずお聞かせ願いたいのですが・・・
     あなたがこの2人のお嬢さん方の乳母のマーサ夫人・・・?
     」
  マーサ「・・・ええ・・・それが何か・・・?私が先に質問したんです
       よ?あなたに聞かれる謂れは・・・」
  ドン「まぁまぁ・・・。ところであなたもこの2人が探し回っている、
     水晶玉のことをご存知で・・・?」
  マーサ「水晶玉ですって!?そんなものは知りません!!お嬢
       様方!!またそんなありもしないことを、よりによって、
       こんな人間に話すなんて・・・!」
  ルルル、ラララ其々「ごめんなさい・・・」
  マーサ「そんな水晶玉の話しなど、ただの子どもたちの空想で
       す!」
  ドン「本当に・・・?」
  マーサ「ええ。」
  ドン「何故あなたはそう言い切れるんですか?」
  マーサ「それは・・・」

         音楽流れ、ドン歌う。

         “あなたは何か重大な
         秘密を知っているんじゃないか
         我々誰も知りえない
         大切な心に秘めた何かが・・・
         ここにいる皆を欺き
         ただ一人・・・
         知り得た重大な何かを・・・”

  マーサ「そ・・・そんなもの、ある筈ないでしょう・・・。私はただの
       召使・・・」
  ドン「(デンをつついて。)おい!ほら、さっきのあれ・・・おまえが
     持ってる奴を出せよ。」
  デン「え・・・?ああ・・・(ポケットから水晶玉を取り出す。)これ・・・
     ?」

         その場にいた者、水晶玉を認め、一斉に
         驚きの声を上げる。

  ラララ「あっ!!」
  ルルル「それは私の水晶玉!!」
  ラララ「本当にあったのね・・・」
  ルルル「(恐ろし気な声で。)やっぱりあなたが盗んだのね!!」
  デン「わ・・・わあー!!違う・・・違います!!これは兄貴が!!
     」
  ルルル「兄貴?(ドンに。)あなたが犯人!?」
  ドン「ま・・・待て待て!!落ち着け!!これは俺がさっき、この
     屋敷の中で偶然見つけたんだ!!」
  ルルル「・・・見つけた・・・?嘘!!盗んだのよ!!」
  ドン「ち・・・違うんだ!!本当に見つけたんだって!!」
  ルルル「・・・本当・・・に・・・?」
  ドン「ああ!!神かけて誓う!!(手を上げる。)」
  ルルル「・・・そう・・・(デンから水晶玉を取り上げるように。)ああ
       ・・・でもよかった・・・!!本当に長いこと探していたのよ
       ・・・!!(水晶玉を愛おしそうに手で包む。)」
  ラララ「ねぇ、マーサ!!やっぱりルルルは本当のことを話して
      いたのね。」
  マーサ「・・・外からは分からなかった筈よ・・・」
  ラララ「・・・え・・・?」
  ドン「だから、うっかり壁に穴を・・・」
  デン「兄貴・・・!!」
  ドン「あっ・・・」
  マーサ「・・・どれ程の長い時・・・沈黙を守り・・・ただひたすら知
       らん顔を決め込み・・・今まで一体どれだけ心痛め・・・
       この身朽ち果ててなお、屋敷に心留め置き暮らして来
       たと思っているの・・・!?」
  ルルル「マーサ・・・」
  ドン「矢張りあなたがその水晶玉を隠してたんですね、マーサ夫
     人・・・」
  マーサ「(ハッとして。)あ・・・あの・・・いえ・・・だからそれは・・・」
  ルルル「マーサ・・・どうして・・・」
  マーサ「お嬢様・・・」
  ラララ「ルルル!私にも懐かしいお父様、お母様の様子を見せ
      て頂戴!!」
  マーサ「ま・・・待って!!」
  ラララ「え・・・?」
  ドン「マーサ夫人・・・ひょっとして・・・あなたは何か、この水晶玉
     に映し出されると困るような秘密を持っている・・・違います
     か・・・?」
  マーサ「・・・ち・・・違い・・・ます・・・」
  ドン「本当に・・・?」
  マーサ「・・・ええ・・・」
  ドン「では・・・この水晶玉を、皆で覗いて見ようではありません
     か・・・。懐かしい昔々の全てを・・・」
  マーサ「・・・(項垂れる。)分かりました・・・お話しします・・・何も
       かも・・・」

         皆、マーサに注目する。

  マーサ「私には・・・その昔、たった一人の家族がいました・・・。
       とても可愛くて優しい弟でした・・・。でもその弟は、とて
       も重い病で・・・その治療費は貧乏暮らしの我が家には
       到底払えないような金額だったのです・・・。でも何とし
       ても、弟の病気を治してやりたい・・・どんなことをしても
       ・・・そう・・・私にはどうしても・・・大金が必要だったので
       す・・・。そこで目を付けたのが・・・」
  ドン「目を付けたのが・・・?」
  マーサ「このお屋敷だったのです・・・。丁度その頃、このお屋敷
      で働かせてもらっていた私は・・・悪いことと知りながら・・・
      至る所に転がっていた金目のものを、誰にも気づかれな
      いよう、少しずつ拝借し・・・」
  ドン「弟の治療費に充てていた・・・」
  マーサ「(頷く。)・・・私にはどうしてもお金が必要だったのです。
      病気の弟の治療の為に・・・」
  デン「このお屋敷の財産を、黙って使っていたんだ・・・」
  マーサ「だから・・・そのことがお嬢様にバレでもして、ここを追い
      出されるようなことにでもなれば・・・忽ち弟の治療費が、
      払えなくなって弟は死んでしまう・・・」
  ラララ「追い出すなんて・・・」
  ルルル「そんなこと、ある筈がないじゃない・・・」
  ラララ「ハッキリ言ってくれれば、お金なんていくらだって・・・」
  ルルル「マーサの弟の為になら、私たち・・・屹度このお屋敷だ
       って手放したでしょう・・・」
  マーサ「お嬢様・・・」
  ドン「それを隠す為におまえさんは、その水晶玉を壁の裏に埋
     め込んだ・・・。それが年月と共に壁がもろくなり・・・さっき
     俺が穴を開けた場所から見つかった・・・と・・・」

         (ルルル、手に持っていた水晶玉を、
         テーブルの上へ置く。)
         音楽流れ、ルルル、ラララ、マーサの側へ。
         マーサの手を取り、歌う。

         “大好きなマーサ
         今までずっと側にいて
         私たちを温かな
         愛情で包み守ってくれた
         そんなあなたにどれ程の
         感謝を持ってこれまできたか・・・
         ああ大好きなマーサ・・・
         あなたがいたから私たち
         今まで少しも淋しいなんて
         思ったことはないのよ”

  マーサ「お嬢様・・・」
  ルルル「マーサだって、早く弟のところへ行きたかったでしょう
       ・・・?」
  ラララ「それなのに今まで、私たちとずっと一緒にいてくれたわ
      ・・・」
  ルルル、ラララ「ありがとう、マーサ・・・」
  マーサ「お嬢様・・・!!申し訳ありません・・・!!(泣く。)」
  デン「(テーブルの上の水晶玉を見ていて、何かに気付いたよう
     に。)ねぇ、兄貴・・・この水晶玉って・・・ビデオカメラみたい
     なものなんだな・・・」
  ドン「・・・ん・・・?」
  デン「だって、この水晶玉に映るのは、オイラたちがさっき見た
     ことばっかで、見たことのないものは一つだって見せてくれ
     ないぜ。」
  マーサ「・・・え・・・?」
  ラララ「・・・なんですって?」
  ルルル「見たことだけ・・・」
  ドン「そうか・・・あんたがどんな悪事を働いてきたとしても・・・そ
     んなものは水晶玉には知ったこっちゃねぇ・・・その水晶玉
     には、彼女たちのあんたに対する思い出だけが映し出され
     るってことか・・・。」
  ルルル「(水晶玉を手に取り見る。)・・・マーサ・・・笑ってるわ・・・
       私たちも・・・幸せそう・・・」
  ドン「彼女たちは、笑顔のあんたしか知らなかったってことだな
     ・・・」
  デン「じゃあ何故、魔法使いのお婆さんは、誰にも見せるだなん
     て・・・?」
  ドン「人間の欲が働くと、勘違いと言う・・・自分に都合のいいも
     悪いも分からない・・・間違った心を見せるからじゃないか
     ・・・?あんたみたいに・・・。彼女たちの心を信じていれば、
     もっと早く、彼女たちもあんたも心安らかになることが出来
     たのに・・・」
  ルルル「でも私は、あなたたちに出会えて、楽しかったわ!」
  ラララ「私も!こんな長い時をここに留まっていなければ・・・」
  ルルル、ラララ「あなたたちと出会うことはなかった・・・」
  ドン「え・・・?あ・・・ありがとう・・・(照れたように笑う。)」
  ルルル「マーサ!さぁ、向こうの世界へ行きましょう。」
  ラララ「お父様やお母様・・・そしてあなたの弟も、きっと首を長く
      して待っている筈よ・・・」
  マーサ「お嬢様方・・・お嬢様、ありがとうございます・・・(涙声で
       。)」
  ルルル「さ・・・参りましょう・・・」

         マーサを挟むようにルルル、ラララ並び、
         3人上手方へ行きかける。

  ルルル「そうだわ・・・(後方、棚の上から封筒を取り、ドン、デン
       の方へ歩み寄る。)これ・・・(封筒を差し出す。)」
  ドン「・・・なんだい・・・?(封筒を受け取る。)」
  ルルル「私の大切な宝物を見つけてくれたお礼よ・・・」
  ドン「お礼・・・?」
  ルルル「このお屋敷はもう、これからは本当に空き家になるの
       だから、あなたたちに差し上げるわ・・・泥棒さん!」
  ドン「え・・・知って・・・!?」
  ルルル「私たちは、あなたたちよりずーっとお姉さんなんですか
       らね。(笑う。)」
  ラララ「そうそう、そこら辺に転がっている丸いものは、(グン、ポ
      ーを覗き込むように見て。)そこの2人の坊やたちにあげ
      るわ。丸いものを探しに来たんでしょう?(笑う。)」
  グン「あ・・・そうだ!!僕の大切なボール・・・!!」
  デン「ボール・・・?あ・・・(ポケットを探る。)確か・・・」
  ドン「また、おまえか?何でも拾ったものをポケットに仕舞う癖、
     なんとかしろよ・・・。」
  デン「だって・・・(ポケットからボールを取り出し見せる。)・・・こ
     れ・・・」
  グン「あ!!それだ!!僕の探してた大切なボール!!」
  デン「屋敷の中に入る前に、ここの庭で拾ったんだ。はい・・・(グ
     ンに差し出す。)」
  グン「(ボールを受け取り。)ありがとう!!やった!!」
  ポー「よかったね、グン!!」
  グン「うん!!」
  ラララ「本物も見つかったって訳ね・・・」
  ルルル「さぁ、行きましょう。」
  ラララ「ええ・・・さよなら・・・」
  ルルル「さよなら・・・」

         マーサ、ルルル、ラララ、嬉しそうに
         寄り添い合い、上手へ去る。

  ドン「さよなら・・・さよなら・・・!!また会おうぜ!!(手を振る。
     )」

         4人、残したまま場面変わる。

    ――――― 第 6 場 ―――――

  グン「おじさんたち、これからどうするの?」
  ポー「このお屋敷に住むの?」
  ドン「さぁな・・・いっちょ、病院にでも改築するか!」
  デン、グン、ポー「病院!?」
  ドン「壁の中で水晶玉を見つけた時、一緒にこいつを見つけた
     んだ!(ポケットからキラキラ光る、何かを取り出し見せる
     ように。)」
  デン「ダイヤモンド!?」
  ドン「ああ!これだけあれば、病院だろうが何だろうがこの屋敷
     を改築して、新装オープン出来るぜ!!」
  グン、ポー「わーっ!!」
  ドン「病気の人を助ける為にこの屋敷を使えば・・・あの3人も喜
     んでくれるんじゃないか・・・」
  デン「兄貴・・・」
  ドン「大病院のオーナー様・・・ってのも、悪くないだろ?」
  デン「兄貴ー!!」
  グン「じゃあ僕たち帰るよ!パパやママが心配してるといけない
     から。」
  ドン「おう!」
  グン「病院が出来たら、遊びに来るね!!」
  ドン「馬鹿!病院に遊びに来るとは、どう言った見解だ!」
  グン、ポー「あはははは・・・(笑う。)」
  ドン「その前に、丸いもの取りに来いよ!!」
  グン「うん!!」

         グン、ポー、嬉しそうに下手へ走り去る。
         音楽流れ、ドン、デン歌う。

         “恐る恐る近付いた
         巷で有名 幽霊屋敷
         中に入れば本当の
         幽霊だらけのお屋敷さ
         だけど気持ちは暖かで
         楽しい気分に浸れるぜ
         まぁ一度来てみなよ 皆でさ
         怖いなんて思い違いだってこと
         中に住むのは誰も知らない・・・
         ただの愛に溢れた幽霊たちさ!”

         ドン、後方へ向かって歩き出す。

  デン「そう言やぁ、お屋敷の中で謎解きしてる時、兄貴ってば“
     名探偵ドン”って感じだったなぁ。(笑う。)」
  ドン「なぁに馬鹿なこと言ってんだよ。行くぜ!」
  デン「あ・・・待って来れよーっ!!兄貴ーっ!!」

         デン、ドンを追い掛けるように。






         ――――― 幕 ―――――
  

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