2013年5月4日土曜日

“イルカのキューイ” ―全7場― 3

            ――――― 第 6 場 ――――― A

         音楽流れ、舞台明るくなる。と、海の中。
         (ドーンの住む洞窟。)
         ドーン、手に持った大きな団扇で、客席方を
         扇ぐ。(団扇の動きに合わせ、強風の音。)

       コーラス“やれ風起こせ!
             やれ強風だ!
             嵐を起こせ風を呼べ!”

         中央椅子にドーン腰を下ろし、手に持った
         団扇を見ている。  

  ドーン「ええい・・・矢張り後1枚足りないか・・・。この未完成の状
      態の団扇で、風を起こしたところで・・・イマイチ嵐と呼ぶ
      には迫力に欠けるようだ・・・。だが、中々魚客は来ないし
      ・・・折角イルカが人間の島の結界の鎖を、上手いこと切
      り離したようだと言うのに・・・。後1枚・・・早く海の王や人
      間達が、嘆き苦しむ顔が見たいもんだ・・・(笑う。)」

         そこへ召使クラゲ、上手より登場。

  召使クラゲ「ドーン様・・・」
  ドーン「ん?」
  召使クラゲ「お客様です。」
  ドーン「何?客だって?魚か?」
  召使クラゲ「あの・・・それが・・・」

         その時上手よりキューイ(イルカの姿。)、
         登場。

  キューイ「・・・こんにちは・・・」
  ドーン「おまえは・・・何だ、まだ私に何か用か?人間になる薬は
      、おまえに渡した分で終わりだぞ。」
  キューイ「違うんだ・・・僕・・・また、ドーン婆さんにお願いがあっ
       て・・・」
  ドーン「願い・・・?今度はそのヒレを頂くことになるぞ・・・?それ
      でもいいのか?」
  キューイ「(片ヒレを見て。)・・・うん・・・」
  ドーン「ほう・・・(小声で。)それはそれは・・・願ってもないわ・・・。
      何が望みだ。言うてみるがいい・・・。」    
  キューイ「あの・・・僕・・・今度はカニになりたいんだ・・・。だから
       お婆さん、お願いします!!僕のヒレと交換で、小さな
       カニになる薬を作って下さい!!」
  ドーン「カニ・・・?人間の次はカニか・・・エラく珍しいものになり
      たがるイルカだねぇ・・・。まぁ、いい・・・そんなことはお安
      い御用だ。少しだけ待っておれ・・・」

         ドーン、後方に置いてあった釜の方へ行き、
         何やら怪しげな呪文を唱え始める。
         (“あぶらかたぶら・・・”)と、爆発音(“ボンッ”)
         と共に、白煙が上がる。

  ドーン「さぁ出来た・・・。この薬も人間になる薬同様、一気に飲
      んでしまうと・・・イルカには戻れなくなるぞ・・・(笑う。手に
      持った薬瓶を、キューイの方へ差し出す。)」
  キューイ「(薬瓶を受け取り。)・・・うん・・・」
  ドーン「それでは約束通り、おまえのその片ヒレを・・・貰い受け
      るとするかな・・・(笑う。)」
  キューイ「・・・はい・・・どうぞ・・・」
  ドーン「あぶらかたぶら・・・このイルカの持つ胸ヒレを1枚・・・我
      に寄こしたまえ・・・あぶらかたぶら・・・」

         “ボンッ”の爆発音と共に、白煙が上がり
         キューイの片ヒレが消える。

  キューイ「あ・・・」
  ドーン「(笑う。)これでようやく私の団扇が完成するよ!!(笑う
      。)」
  キューイ「・・・僕の・・・」
  ドーン「さぁ、早速このヒレを・・・」

         そこへ上手より、召使クラゲ登場。

  召使クラゲ「ドーン様・・・」
  ドーン「何だ!?今、私は忙しいんだ!ようやく念願の残り1枚
      のヒレが手に入り、団扇を完成させるところだと言うのに
      ・・・!!」
  召使クラゲ「それが・・・」
  ドーン「どうした!?」
  召使クラゲ「海の国の王様が・・・」
  ドーン「何!?海の国の王だと!?何て気色の悪い名前を出す
      んだ!!全く・・・!!まぁ、いい!!で、その・・・王がどう
      したのだ!!」
  召使クラゲ「・・・あの・・・」

         そこへ上手より王、登場。

  王「久しぶりだな、ドーン。」
  ドーン「げっ!!海の国の王!!(手に持っていたヒレと団扇を
      背後へ隠すように。)」な・・・何しにこんなところへやって
      来たのだ!!ここはおまえの来るような場所では・・・」
  キューイ「キューイ・・・」
  王「(キューイを認め。)おお、キューイではないか・・・」
  ドーン「あ・・・」
  王「珍しいところで会うな。どうした?こんなところへ何しにやっ
    て来たのだ。」
  キューイ「あの・・・」
  ドーン「お・・・おい、そこのイルカ!!支払いは済んだのだから
      、黙ってサッサと帰るがいい!!」
  キューイ「え・・・でも・・・」
  ドーン「い・・・いいから早く行け!!」
  キューイ「う・・・うん・・・。じゃあ・・・王様・・・キューイ・・・」
  王「ああ・・・」

         キューイ、王の方を気にしながら、上手へ
         去る。

  ドーン「(小声で。)キーッ!!後、もう少しで団扇を完成させるこ
      とが出来ると言うのに・・・いいところで余計な邪魔者が・・・
      !!」
  王「ところでドーン・・・今の支払い・・・とは何の話しだ?」
  ドーン「へっ・・・?あ・・・い・・・いや・・・何・・・」
  王「真逆、まだおまえは懲りずに悪いことを繰り返しておる訳じ
    ゃあないだろうな?」
  ドーン「ま・・・真逆、滅相もない・・・私ゃ、ちゃあんとあんたの言
      いつけを守って、ここでこうして大人しく・・・」
  王「大人しく・・・?」
  ドーン「ええ!一歩たりとも外へ出たこともなけりゃあ、可愛らし
      い魚達の面倒を見ながら、細々と占いで生計を立てて暮
      らしているんですよ・・・」
  王「ほう・・・。それはそうとドーン・・・」
  ドーン「へ・・・?」
  王「最近、我々海の国で、矢鱈とヒレの傷付いた魚が目に付く
    のだが・・・」
  ドーン「・・・ヒ・・・レ・・・?」
  王「その魚達に訳を訪ねても、一様に口を噤むので、本当の理
    由は分からないのだが・・・。何やら噂では、海流の先へ出掛
    けた魚が戻った時には・・・そのような姿になっておるとかお
    らんとか・・・」
  ドーン「か・・・海流の先・・・とは・・・?」
  王「そう、海流の先・・・即ちこのおまえの洞穴だ、馬鹿者が!!
    」
  
         カミナリの轟音が響き渡る。

  ドーン「(両耳を押さえる。)ひーっ!!わ・・・私ゃ何もしてません
      !!ホ・・・本当です、王様!!」
  王「嘘を申すとただでは済まんぞ!!(カミナリ音。)」
  ドーン「ひーっ!!う・・・嘘なんて・・・そんな・・・私ゃ・・・嘘なん
      てこのかた一度も・・・」
  王「本当か・・・?」
  ドーン「はい!!はい!!勿論でございます、王様!!」
  王「まぁ・・・そんなに申すなら・・・信じてやらんでもないが・・・。
    そうだ、今日はおまえに土産を持って来たのだ。」
  ドーン「・・・み・・・土産・・・?」
  王「おまえも自分で申した通り、こんな洞穴でひっそりと暮らして
    おるのだろう・・・?ほら・・・これだ・・・(袖の下から1本の酒
    瓶を取り出し、テーブルの上へ置く。)」
  ドーン「・・・こ・・・これは・・・?」
  王「我が海の城で、古くから作られておる貝の酒だ。」
  ドーン「貝の・・・酒・・・?」
  王「長いこと酒も口にしておらんのじゃないか?」
  ドーン「は・・・はぁ・・・それはもう・・・」
  王「ではこれで久しぶりに、喉を潤すが良い。」
  ドーン「ははぁ!!ありがたき幸せ!!」
  王「それでは私はこれで帰るとする。おまえはゆっくり、その酒
    を飲んで1人楽しむが良いぞ。」
  ドーン「ははぁ!(頭を下げる。)」

         海の王、上手へ去る。

  ドーン「(王が去るのを見計らって。)糞忌々しい!!私が王が
      持って来たものになど、手を付ける訳がなかろう!!何
      が貝の酒だ!!こんな酒、何が入っておるか分かったも
      んじゃないわ!!この海の端の、こんな場所で暮らして
      いても、酒くらいいくらでもあるんだ!!魚を漬け込んで
      作った魚ワインがな!!(笑う。)おい、クラゲ!!」

         下手より召使クラゲ登場。

  召使クラゲ「はい、ドーン様・・・只今・・・」
  ドーン「私に酒を持って来い!!いつも飲んでおる、あの高級な
      魚酒だ!!」
  召使クラゲ「はい。(下手へ去る。)」
  ドーン「それにしても危なかったわ・・・。あんな簡単に王の奴を
      誤魔化せるとは・・・。ヒレの団扇のことがバレるんではな
      いかとヒヤヒヤしたが、私の演技も捨てたもんではないな
      。(笑う。)」

         そこへ下手より、盆に酒瓶とグラスを乗せ、
         召使クラゲ運んで来る。

  召使クラゲ「・・・お持ちしました、ドーン様・・・(盆をテーブルの上
         へ置く。)」
  ドーン「おお、これだこれだ・・・私の愛飲、魚ワインだ。(瓶の酒
      をグラスに注ぐ。)」
  召使クラゲ「・・・(ドーンの様子をジッと見詰めている。)」
  ドーン「(召使クラゲに気付き。)何を見ている!!サッサと下が
      って、王が通った洞穴の入口に塩でもまいて来い!!」
  召使クラゲ「は・・・はい・・・(ドーンの様子を気にしながら、下手
         へ去る。)」
  ドーン「(グラスを鼻の側へ。)うーん・・・何ていい香りだ・・・ん・・・
      ?気のせいか・・・何だかいつもと香りが違っているような
      ・・・(首をひねって。)風邪でもひいたかな・・・?まぁ、いい
      わ。嫌な訪問客の後の口直しだ。(グラスの酒を一気に
      飲み干す。)う・・・な・・・何だ・・・このワインは・・・いや・・・
      ワインではない・・・ぞ・・・ク・・・クラゲ・・・何を・・・私に・・・
      飲ませ・・・(胸を押さえ、苦しそうに身を屈める。)」

         その時、“ボンッ”の爆発音と共に煙が
         上がり、ドーンの姿が小さなカニに変わる。

  ドーン「えーっ!!な・・・何だ、この姿は!!何で私がこんなカ
      ニの姿に!!」

         そこへ上手より、キューイ、王、登場。

  キューイ「やった!!王様!!キューイ!!」
  王「(笑う。)愚か者めが!!」
  ドーン「おまえ達!!どうして・・・」
  キューイ「そのお酒の中に、僕がお婆さんに作ってもらった、カニ
       になる薬を入れておいたんだ!!キューイ!!」
  ドーン「何だと!?」
  王「おまえの悪事、この王が気付かぬとでも思ったか、馬鹿者!
    !」
  ドーン「畜生・・・!!何て奴らなんだ!!全く!!・・・あ・・・!!
      真逆、カニになる薬をひと瓶全部、私に飲ませたんじゃあ
      ないだろうな!?」
  キューイ「大丈夫!お婆さんの薬は強力なんでしょ?キューイ
       ・・・。一口だけ・・・瓶の中に残しておいたからさ!キュ
       ーイ!」
  ドーン「え・・・えーっ!?では私はその薬を、殆ど飲み干したと
      言うことではないか!!」
  キューイ「けど、全部じゃあないんだから、いつかは元に戻れる
       んでしょ?キューイ・・・」
  ドーン「馬鹿野郎!!強力な薬を殆ど飲んでしまって一体、元
      の姿に戻るのに何れ程の年月がかかると思っておるんだ
      !!キーッ!!畜生!!」
  キューイ「ハハハ・・・!!(笑う。)」

         そこへ一匹の魚、下手より登場。

  魚「ドーン様・・・」
  ドーン「(魚を認め。)だ・・・誰だ、おまえは・・・」
  魚「私、漸くあなたの薬の威力が消え去り、元の姿へと戻ること
    が出来ました。」
  ドーン「・・・ク・・・クラゲ・・・!?」
  魚「はい。騙されクラゲの姿へと変えられ、今まで召使として扱
    き使われ続けて参りましたが、あなたと最初に交わしたお約
    束で、魚の姿へ戻れた暁には、自由にしてやると言われた
    お言葉通り・・・これにてお役御免とさせて頂きます。」  ※
  王「おまえはいたいけな魚に、そんな無慈悲なことをしておった
    のか!!」
  ドーン「い・・・いや・・・私は・・・」
  王「おまえはカニに姿を変えられたくらいでは、反省が足りんよ
    うだな!!」
  ドーン「い・・・いえ、滅相もない!!もう十分に反省しております
      とも、王様!!本当ですよ!!」
  王「言葉だけなら、なんとでも言えるであろう!」
  ドーン「そんな・・・」
  王「ならば、これから先、我が城へと一緒に戻り、その姿が戻る
    まで城の召使として暮らすがよい!!」
  ドーン「えーっ!!そんなことはお許し下さい、王様ー!!」

         ドーン、叫び声を上げながら、慌てて上手へ
         走り去る。

  キューイ「あ、王様・・・ドーンが逃げてしまいますよ、キューイ・・・
        」
  王「(笑う。)構わん。あの姿では悪いことをしようにも、何も出来
    まい。」
  魚「王様、ありがとうございました。(頭を下げる。)」
  王「おまえも、もう自由にしていいんだぞ。大変だったな。」
  魚「いえ・・・。それでは私は・・・」

         魚、上手へ去る。

  キューイ「王様・・・よかったですね、キューイ・・・」
  王「うむ・・・。それよりも傷付いたそのヒレを、治してやろう。」
  キューイ「え・・・?」








    ――――― “イルカのキューイ”4へつづく ―――――










   
  ※ この“クラゲ魚”さんの台詞を書いている時・・・私の頭の
    中は時代劇調に変わっておりました(^^;



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