――――― 第 5 場 ―――――
(カーテン前。)
下手よりジョセフ出る。続いてその後輩
クリスト、ジョセフを追うように出る。
クリスト「待って下さいよ、ジョセフさん!!どうしたんですか!?
」
ジョセフ「(立ち止まって振り返る。)何がだ!?」
クリスト「ジョセフさん、崖崩れでこの村から出られなくなってか
ら、やけに機嫌が悪いんだから・・・」
ジョセフ「おまえの思い過ごしだ!」
クリスト「えー・・・そうですか?僕、不思議に思ってたんですよ。
ジョセフさん、仕事に行けなくなって、こんなに荒れる程
仕事好きだったかなって・・・」
ジョセフ「何だって!?」
クリスト「あ・・・すみません・・・。けど・・・やっぱりなんかトゲトゲ
しい・・・」
ジョセフ「それより復旧作業の進み具合はどうだった?」
クリスト「それが思った程、捗った様子はなくて・・・」
ジョセフ「何だと!?」
クリスト「(ジョセフの声に、思わず身を屈める。)ごめんなさい!
!」
ジョセフ「馬鹿、何謝ってるんだ。」
クリスト「だって・・・」
ジョセフ「じゃあ開通の見当もつかないのか?」
クリスト「はぁ・・・」
ジョセフ「(独り言のように。)畜生・・・あの野郎・・・」
クリスト「(不思議そうに。)あのやろう・・・?」
ジョセフ「煩い!!」
その時、上手よりエドワード出る。ジョセフ
たちを認め、近寄る。
エドワード「やぁ、君たち・・・何を揉めているんだい?(楽しそう
に。)」
ジョセフ「(振り返り、エドワードを認める。)先生・・・」
クリスト「こんにちは・・・」
ジョセフ「中々道路が開通する見込みがなさそうなのでちょっと
・・・」
エドワード「ああ・・・私も仕方がないので、当分、町での仕事は
諦めたよ。(笑う。)屹度、働き者の多いこの村の人
間に、神様が暫くの休息を下さったのだろう。」
クリスト「(思わず嬉しそうに。)僕も、思わぬ休暇が取れて、嬉
しいんですけどね!!」
ジョセフ「馬鹿!!」
クリスト「・・・すみません・・・」
エドワード「ところで・・・ミリオッタの家の客人なのだが・・・」
ジョセフ「え・・・?」
エドワード「いや・・・私の思い違いか・・・どこかで見かけたこと
があるような気がしてならんのだよ・・・」
ジョセフ「どこか・・・って・・・?」
エドワード「さぁ・・・それが・・・年のせいかね、中々思い出すこと
が出来なくてね。(胸を押さえて。)ここら辺がモヤモ
ヤと・・・」
ジョセフ「先生!!どこで見かけたか是非思い出して下さいよ!
!もし悪い奴なら・・・!!」
エドワード「(笑って。)余程、君はミリオッタの家に、あの客人が
滞在していることが、面白くないようだな。」
ジョセフ「あ・・・いや・・・(思わず口篭る。)」
クリスト「(不思議そうに。)あれ?どうしてですか?」
ジョセフ「煩い・・・」
エドワード「この村では、誰も知らない者がいない程、有名な話
しだよ、ジョセフのミリオッタ病は。(笑う。)」
ジョセフ「先生!!」
エドワード「ん?言っては不味かったかね?」
クリスト「ミリオッタ病・・・えー!?そうだったんですか!?」
ジョセフ「ミリオッタに言うなよ!!村人が殆ど皆知ってるような
話しでも、あいつは気付いていないんだから・・・」
エドワード「確かに彼女は君のことを兄さんみたいに思っている
ところもあるようだし・・・」
クリスト「了解です!だけど・・・へぇ・・・(嬉しそうに。)そうだった
のか・・・だから機嫌が良くなかったんだ・・・。」
ジョセフ「いつまでも煩い奴だな!」
エドワード「まぁ、道が開通すれば、ジョセフの苛々も収まるだろ
う。(笑う。)」
ジョセフ「先生!!」
エドワード「(何か思い出したように。)ああ・・・思い出したぞ・・・
あれは確か・・・今から丁度2年程前の新聞で・・・」
ジョセフ「え!?」
エドワード「2人の写真が載っていた・・・。記事の内容までは読
まなかったが・・・見出しは・・・“死神・・・来る・・・”」
ジョセフ「死神・・・?」
音楽。3人、困惑した面持ちで其々見合わす。
フェード・アウト。(カーテン開く。)
――――― 第 6 場 ―――――
明るい音楽でライト・オンする。(村の教会前。)
中央にピンクの花飾りの付いたドレスに
身を包み、花カゴを手に持ったミリオッタ、
ポーズしている。
ミリオッタ、幸せそうな面持ちで、歌いながら
花カゴの中から花びらを手に取り撒く。
“夢・・・夢・・・幸せな時
今・・・今・・・満ち足りた時
今日この時より2人は
永遠の愛により2人は
決して離れることのない
強い絆で結ばれた!
共に手を取り見つめ合い
労わりあい寄り添ったまま・・・
大勢の祝福の元
愛・・・愛・・・幸せな時・・・
今・・・ここで・・・誓い合う
あなたと・・・!”
歌の途中、後方に設えられた教会の扉が
開き、中より幸せそうに寄り添いあった
ジャクリーヌとアーサー出る。
続いてグレミン牧師、結婚式に参列して
いた者、エドワード、ジョセフ、アンドレ、
エリザベス出る。
グレミン、エドワード、ジョセフ、2人に
祝福の拍手を送る。
アンドレ、中央歌っているミリオッタに、心
が向くように、つい視線を追わせる。
それに気付いたエリザベス、ミリオッタを
見据える。
同じようにアンドレの視線に気付いた
ジョセフ、アンドレを睨む。
(他の者は気付かない様子。)
ミリオッタ、前方一寸脇へ寄り、幸せそうな
祝福される者たちを、微笑ましく見詰める。
結婚式の音楽、段々遠くへ。
フェード・アウトしながらミリオッタ、スポット
に浮かび上がり、変わって豪華な音楽、
鐘の音が遠くから木霊するように段々大きく。
フェード・インする。と、舞台上にはスモーク
流れ、中央にアンドレ。(バック・ポーズ。)
ミリオッタ、アンドレを認め嬉しそうに微笑む。
アンドレ、振り返りミリオッタを認める。
ミリオッタ、アンドレに駆け寄り、2人嬉しそうに
抱き合う。
(ミリオッタの幻想。)
幸せそうに寄り添い合う2人。カーテン閉まる。
――――― 第 7 場 ―――――
カーテン前。
(前場とガラッと変わった音楽。)
ジョセフ、上手より登場、力強く歌う。
下手方へ。
“必ず・・・!!暴いてやる
おまえの・・・!!正体を
きっと・・・!!掴んでやる
隠された・・・!!真実を
何食わぬ顔をした
その面の下には
誰にも見せたことのない
秘密の鬼面
あいつは誤魔化せても
他の誰も見破れなくても
俺だけは騙せない!!
偽りに包まれた
本当の素顔を・・・!!”
ジョセフ、堅い決心に瞳を輝かせ、
下手へ去る。
一時置いて、上手よりクリスト、手に紙を
持ち、慌てた様子で走り登場。
クリスト「(誰かを捜すように。)ジョセフさーん!!(辺りを見回
す。)ジョセフさーん!!一体どこへ行ったんだよ、こん
な大切な時に!!やっと死神の記事を見つけたって言
うのに!!ジョセフさーん!!」
クリスト、ジョセフを捜しながら、下手へ
走り去る。
再び、一時置いて、上手よりエリザベス
登場。続いてミリオッタ登場。
ミリオッタ「あの・・・話しって何?」
エリザベス「(振り返り、ミリオッタを見詰める。)お兄さんのこと、
どう思ってるの・・・?」
ミリオッタ「え・・・?」
エリザベス「好き?」
ミリオッタ「(少し戸惑ったように。)素敵な方だと思うわ・・・」
エリザベス「そんなこと聞いてるんじゃないわ。好きかどうか、聞
いているのよ。(突き放すように。)」
ミリオッタ「ええ、好きよ。」
エリザベス「愛しているの・・・?」
ミリオッタ「・・・ええ・・・」
エリザベス「お兄さんはあなたのことなんて、なんとも思ってな
いわ!それでもあなたは愛してるの?」
ミリオッタ「(微笑む。)・・・ええ。私は何も見返りを求めて、誰か
を好きになるんじゃないわ・・・。そりゃあ私のことを好
きになってもらえたら、素晴らしいけれど・・・思いは人
其々の筈よ。ねぇ、エリザベス・・・恋をしたことがある
・・・?恋をしたことのある女の子なら、誰だって分かる
筈よ・・・。好きな人を見ているだけでときめいたり・・・
キュンとなったり・・・時には切なかったり・・・。でも、そ
う感じたり出来ることが幸せなんだもの・・・。私は愛し
て欲しいと願うことは二の次ね。(クスッと笑う。)色々
な人がいるんですもの、私なんかと全然違った考えを
持っている人も、沢山いるんでしょうけど・・・。自分が
誰かを愛する時に感じる幸せは、誰でも同じだと思う
わ・・・。」
エリザベス「(一時、ミリオッタを見据える。)・・・もういいわ・・・。
・・・お兄さんから伝言があったの・・・」
ミリオッタ「伝言?」
エリザベス「・・ええ・・・。話があるから、一本杉のところで待って
るって・・・」
ミリオッタ「・・・一本杉・・・?」
エリザベス「ええ・・・森の奥の一本杉よ・・・」
ミリオッタ「でも、あそこへ行くには、切り立った崖っ淵を通らなけ
ればならないから、村の人たちだって、余程のことが
ない限り、行ったりしない危険な場所よ・・・?」
エリザベス「そんなこと知らないわ・・・。私はお兄さんからあな
たに伝えてくれって、頼まれただけだもの。人に聞か
れたくないような話しが、あるんじゃなくて・・・?」
ミリオッタ「・・・そう・・・分かったわ!行ってみる!ありがとう、エ
リザベス!」
ミリオッタ、手を上げて嬉しそうに上手へ
走り去る。
エリザベス、意地悪そうな面持ちで、
ミリオッタが出て行った方を見詰めている。
エリザベスの心の声「今まで私達はずっと2人だった・・・。その
私達の間に割り込むことなんて、絶対にさ
せないわ・・・!!」
そこへ下手より、クリストと話しながらジョセフ
登場。エリザベスを認め、2人顔を見合わせ、
上手方を見据えたままのエリザベスの側へ。
ジョセフ「・・・こんにちは、エリザベス・・・」
エリザベス「(振り返って2人を認める。)さようなら・・・(2人の横
を通って、下手方へ行こうとする。)」
ジョセフ「ちょっと待てよ・・・」
エリザベス「何かしら・・・私、急いでるんだけど・・・」
ジョセフ「何故、逃げるように旅を続けている・・・?」
エリザベス「(振り返って、ジョセフを見据える。)そんなこと、あ
なたに関係なくてよ!」
ジョセフ「死神だからか・・・?」
エリザベス「(ジョセフを睨み付け、背を向け下手方へ行きかけ
る。)」
ジョセフ「違うんなら釈明してみろよ!」
エリザベス、歩を止める。
ジョセフ「おまえ達が立ち寄った町や村では、必ず奇妙な事件
や事故が起こっているじゃないか!!(手に持っていた
紙の束を投げ捨てる。)ここにある新聞や雑誌の記事
には、おまえ達がやって来た時には気をつけろと書か
れている・・・。・・・一体・・・おまえ達兄妹は・・・おまえの
兄貴は何者だ・・・!?」
エリザベス「(振り返ってジョセフを見詰め、意地悪そうに微笑
む。ゆっくり近寄って。)私に詰め寄る暇があったら・・・
ミリオッタの心配でもした方がいいんじゃなくて・・・?」
ジョセフ「ミリオッタの・・・!?(ツカツカとエリザベスに近寄り、
腕を掴む。)」おい!!あいつがどうしたんだ!?何かし
たのか!?」
エリザベス「その汚い手を離して!!(微笑んで。)聞きたい?」
ジョセフ「ふざけてないで、さっさと言えよ!!」
エリザベス「一本杉へ行ったわ!!」
ジョセフ「一本杉・・・」
エリザベス「死んじゃえばいいのよ、あんな女!!(声を上げて
笑う。)」
ジョセフ「ミリオッタ!!」
ジョセフ、慌てて上手へ走り去る。
クリスト「(エリザベスの方を気にしながら。)ジョセフさん!!」
クリスト、ジョセフの後を慌てて追う。
エリザベスの狂ったような笑い声で、
フェード・アウト。
――――― “アンドレ”4へつづく ―――――
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